説明

誘電膜およびそれを用いたトランスデューサ

【課題】 印加電圧が比較的小さくても、大きな力を出力することができ、耐久性に優れた誘電膜を提供する。また、発生力が大きく耐久性に優れたトランスデューサを提供する。
【解決手段】 誘電膜は、ゴムポリマーと、室温で固体のイオン導電剤と、を含むゴム組成物を架橋してなる。誘電膜を、少なくとも一対の電極間に介装して、トランスデューサを構成する。この場合、該電気間に電界強度20V/μmの直流電圧を10分間印加し続けた後の誘電膜の体積抵抗率は、1011Ωcm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、センサ等のトランスデューサに好適な誘電膜、およびそれを用いたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等がある。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電膜の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータでは、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなる。このため、電極間に挟まれた誘電膜は厚さ方向から圧縮され、誘電膜の厚さは薄くなる。膜厚が薄くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に伸長する。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなる。このため、誘電膜に対する厚さ方向からの圧縮力が小さくなり、誘電膜の弾性復元力により膜厚は厚くなる。膜厚が厚くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に収縮する。このように、アクチュエータは、誘電膜を伸長、収縮させることによって、駆動対象部材を駆動させる。
【0004】
アクチュエータから取り出される力および変位量を大きくするという観点から、誘電膜は、以下の特性を有することが望ましい。すなわち、電圧印加時に、誘電膜の内部に多くの電荷を蓄えられるように比誘電率が大きいこと、高電界に耐えられるように耐絶縁破壊性に優れること、等である。したがって、誘電膜の材料としては、耐絶縁破壊性に優れるシリコーンゴムや、比誘電率が大きいニトリルゴム、アクリルゴム等が用いられることが多い(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−506858号公報
【特許文献2】特開2009−124839号公報
【特許文献3】特開2009−232678号公報
【特許文献4】特開2007−329334号公報
【特許文献5】特開2008−171823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコーンゴムは、シロキサン結合を骨格とする。このため、体積抵抗率が大きい。よって、シリコーンゴムからなる誘電膜は、大きな電圧を印加しても絶縁破壊しにくい。しかしながら、シリコーンゴムの極性は小さい。つまり、比誘電率が小さい。このため、シリコーンゴムからなる誘電膜を用いてアクチュエータを構成した場合には、印加電圧に対する静電引力が小さい。よって、印加電圧が比較的小さい場合には、充分な力および変位量を得ることができない。
【0007】
一方、ニトリルゴムやアクリルゴムの比誘電率は、シリコーンゴムの比誘電率よりも大きい。このため、誘電膜の材料にニトリルゴム等を用いると、印加電圧に対する静電引力が、シリコーンゴム等を用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、ニトリルゴム等からなる誘電膜を用いてアクチュエータを構成しても、印加電圧が比較的小さい場合に取り出される力および変位量は、まだ満足できるレベルではない。
【0008】
例えば、上記特許文献3には、ベースゴムに、イオン性液体と導電性フィラーとを配合した電極が開示されている。上記特許文献4には、イオン性液体を含む高分子化合物からなるアクチュエータ用フィルムが開示されている。
【0009】
イオン性液体を配合した誘電膜を用いてトランスデューサを構成した場合には、後の実施例で示すように、直流電圧を印加し続けた時に、誘電膜の電気抵抗が小さい。すなわち、電圧印加時に電流が誘電膜中を流れてしまう。この理由は、次のように考えられる。イオン性液体は、室温で液体である。よって、イオン性液体を誘電膜に配合すると、誘電膜中においてイオン成分が移動しやすいため、電流が誘電膜中を流れやすくなる(いわゆる漏れ電流が大きくなる)。
【0010】
誘電膜の内部に蓄えられる電荷が少ないと、静電引力が小さくなる。このため、発生する力は小さくなる。加えて、消費電力が増加してしまう。また、電流が誘電膜中を流れると、ジュール熱が発生する。発生した熱により、誘電膜の物性が変化するおそれがある。さらには、誘電膜が破壊されるおそれがある。つまり、誘電膜の耐絶縁破壊性が低下する。
【0011】
また、上記特許文献5によると、アクチュエータ用の半導電性高分子弾性部材を構成する導電性組成物において、導電性ポリマーおよびバインダーポリマーに、イオン導電剤を配合することが開示されている。特許文献5の導電性組成物は、ベースポリマーとして、導電性ポリマーを含有する。したがって、特許文献5の実施例に記載されているように、当該導電性組成物の電気抵抗は小さい。つまり、特許文献5の導電性組成物は、大きな力を得るためのトランスデューサには不向きである。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、印加電圧が比較的小さくても、大きな力を出力することができ、耐久性に優れた誘電膜を提供することを課題とする。また、発生力が大きく耐久性に優れたトランスデューサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するため、本発明の誘電膜は、トランスデューサにおいて少なくとも一対の電極間に介装される誘電膜であって、ゴムポリマーと、室温で固体のイオン導電剤と、を含むゴム組成物を架橋してなり、該電気間に電界強度20V/μmの直流電圧を10分間印加し続けた後の体積抵抗率が、1011Ωcm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の誘電膜は、室温で固体のイオン導電剤を含有する。本発明の誘電膜に電圧が印加されると、イオン導電剤のカチオンとアニオンとが、各々電極方向に移動して誘電分極する。これにより、誘電膜の内部に、大きな静電引力が発生する。その結果、印加電圧に対して、より大きな力が発生すると考えられる。
【0015】
また、本発明の誘電膜の厚さ方向両面に一対の電極を配置して、電極間に直流電圧を印加し続けると、誘電膜の電気抵抗は増加する。具体的には、電気間に電界強度20V/μmの直流電圧を10分間印加し続けた後の誘電膜の体積抵抗率は、1011Ωcm以上になる。本発明の誘電膜に含まれるイオン導電剤は、室温で固体である。よって、イオン性液体と比較して、誘電膜中においてイオン成分が解離しにくく、初期の電気抵抗は高い。しかし、ポリマーネットワーク中におけるイオン成分の動きやすさという点においては、分子半径の大きいイオン性液体よりも、分子半径の小さいイオン導電剤の方が動きやすい。このため、電圧を印加し続けた場合、イオン導電剤の方が動きやすいことから、一部のイオン導電剤は、電極との界面付近に引き寄せられて、動けなくなる。このような理由により、電圧を印加し続けた場合に、電気抵抗が増加すると考えられる。
【0016】
本発明の誘電膜によると、誘電膜の内部に多くの電荷を蓄えることができる。よって、静電引力が、大きくなる。これにより、印加電圧が比較的小さくても、大きな力を発生させることができる。また、消費電力が低減される。さらに、イオン性液体を配合したものと異なり、電流が誘電膜中を流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電膜の物性が変化したり、誘電膜が破壊されるおそれは小さい。つまり、本発明の誘電膜において、耐絶縁破壊性は低下しにくい。したがって、より大きな電圧を印加することができ、発生力をより増加させることができる。
【0017】
(2)また、本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、を備えることを特徴とする。
【0018】
トランスデューサは、ある種類のエネルギーを他の種類のエネルギーに変換する装置である。トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ等や、音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が含まれる。本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電膜を備える。このため、電圧の印加により、誘電膜の内部に多くの電荷を蓄えることができる。また、本発明の誘電膜は、熱による破壊のおそれが少なく、絶縁破壊しにくい。よって、本発明のトランスデューサによると、大きな発生力を得ることができる。また、本発明のトランスデューサは、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のトランスデューサの一実施形態であるアクチュエータの断面模式図であって、(a)はオフ状態、(b)はオン状態を示す。
【図2】本発明のトランスデューサの一実施形態である静電容量型センサの上面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】本発明のトランスデューサの一実施形態である発電素子の断面模式図であって、(a)は伸長時、(b)は収縮時を示す。
【図5】測定装置に取り付けられたアクチュエータの表側正面図である。
【図6】図5のVI−VI方向断面図である。
【図7】電界強度20V/μmの直流電圧印加時間に対する、誘電膜の体積抵抗率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の誘電膜およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明の誘電膜およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0021】
<誘電膜>
上述したように、本発明の誘電膜は、ゴムポリマーと、室温で固体のイオン導電剤と、を含むゴム組成物を架橋してなり、該電気間に電界強度20V/μmの直流電圧を10分間印加し続けた後の体積抵抗率が、1011Ωcm以上である。
【0022】
(1)ゴムポリマー
トランスデューサに用いられる誘電膜としては、柔軟性、耐絶縁破壊性が高く、比誘電率が大きいものが望ましい。このような観点から、好適なゴムポリマーとしては、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。また、エポキシ化天然ゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入する等により変性したゴムポリマーを用いてもよい。ゴムポリマーとしては、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0023】
(2)イオン導電剤
イオン導電剤は、室温で固体のものであればよい。イオン導電剤のカチオンとしては、例えば、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。より具体的には、第四級アンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、テトラデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。イミダゾリウムイオンとしては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。ピリジニウムイオンとしては、1−エチルピリジニウムイオン、1−ブチルピリジニウムイオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムイオン等が挙げられる。ピロリジニウムイオンとしては、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオン等が挙げられる。第四級ホスホニウムイオンとしては、テトラブチルホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アニオンとしては、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、過塩素酸イオン(ClO)等が挙げられる。イオン導電剤としては、これらのカチオンとアニオンとを任意に組み合わせてなる化合物であって、室温で固体のものを採用すればよい。なかでも、潮解性が低く、取扱いやすいという観点から、第四級アンモニウム塩が好適である。なお、イオン導電剤としては、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
イオン導電剤の配合量は、誘電分極による発生力の増加効果を得られるように、適宜調整すればよい。発生力の増加効果を大きくするという観点から、イオン導電剤の配合量は、ゴムポリマーの100質量部に対して、0.155mmol以上であることが望ましい。一方、イオン導電剤の配合量が多すぎると、電圧印加を続けた時の電気抵抗が増加しにくくなり、誘電膜に電流が流れやすくなる。したがって、イオン導電剤の配合量は、ゴムポリマーの100質量部に対して、3mmol以下であることが望ましい。1.55mmol以下がより好適である。
【0025】
(3)その他
本発明の誘電膜の厚さは、トランスデューサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、アクチュエータを構成する場合には、小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電膜の厚さは薄い方が望ましい。この場合、耐絶縁破壊性等をも考慮して、誘電膜の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。より好適な範囲は、5μm以上200μm以下である。
【0026】
また、本発明の誘電膜は、上記ゴムポリマー、イオン導電剤に加えて、補強剤、可塑剤、老化防止剤、着色剤等を含有してもよい。以下、本発明の誘電膜の製造方法について説明する。
【0027】
<誘電膜の製造方法>
本発明の誘電膜は、ゴムポリマーと、室温で固体のイオン導電剤と、を含むゴム組成物を架橋して製造される。ゴム組成物には、必要に応じて、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等の添加剤を配合してもよい。架橋方法は、ゴムポリマーの種類に応じて、適宜決定すればよい。例えば、硫黄架橋、過酸化物架橋、イソシアネート架橋、電子線(EV)架橋、紫外線(UV)架橋等が挙げられる。また、有機金属化合物のゾルゲル反応を利用してもよい。
【0028】
ゴム組成物は、ゴムポリマー、イオン導電剤、および必要に応じて添加剤を、ロールや混練機により混練りして、調製することができる。この場合は、調製したゴム組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋することにより、誘電膜を製造すればよい。あるいは、ゴムポリマー、イオン導電剤、および必要に応じて添加剤を、所定の溶剤中に溶解して、ゴム組成物を調製することができる。この場合は、まず、調製したゴム組成物を、基材等に塗布する。次に、塗膜を乾燥させて、溶剤を揮発させる。そして、塗膜の乾燥と共に、または別途所定の条件下で、架橋反応を進行させて、誘電膜を製造すればよい。
【0029】
例えば、金属アルコキシド化合物等の有機金属化合物のゾルゲル反応を利用して、ゴム組成物を架橋する場合には、有機金属化合物と水との急激な反応を抑制し、均質な膜を形成するという観点から、有機金属化合物をキレート化して用いることが望ましい。この場合には、例えば、次の方法を採用するとよい。まず、ゴムポリマーが溶解可能であり、かつ、有機金属化合物をキレート化できる溶剤中に、ゴムポリマーとイオン導電剤とが含有されている第一溶液を調製する。次いで、第一溶液に、有機金属化合物を混合して、第二溶液(ゴム組成物)を調製する。その後、第二溶液を基材上に塗布し、乾燥させることにより、第二溶液から溶剤を除去して、架橋反応を進行させる。
【0030】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、を備える。本発明の誘電膜の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。なお、本発明のトランスデューサにおいても、本発明の誘電膜における好適な態様を採用することが望ましい。
【0031】
本発明のトランスデューサにおいて、電極の材質は、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料や金属からなる導電材に、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合した導電性ペーストまたは導電性塗料を塗布した電極、あるいは炭素材料や金属等をメッシュ状に編んだ電極等を使用することができる。電極は、誘電膜の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極が、誘電膜と共に伸縮すると、誘電膜の変形が電極によって妨げられにくい。このため、本発明のトランスデューサを、アクチュエータ等として使用した場合に、所望の力および変位量を得やすくなる。
【0032】
また、イオン導電剤を電極に配合してもよい。例えば、イオン導電剤を配合した上記導電性ペーストを、架橋前の誘電膜に塗布し、電極と誘電膜とを一体的に架橋する。こうすることにより、電極中のイオン導電剤が誘電膜に移行する。その結果、電圧印加時に、誘電膜の内部に多くの電荷が蓄えられる。これにより、発生力を増加させることができる。
【0033】
また、本発明のトランスデューサを、複数の誘電膜と電極とを交互に積層させた積層構造とすると、より大きな力を発生させることができる。したがって、積層構造を採用した場合には、例えば、アクチュエータの出力を大きくすることができる。これにより、駆動対象部材をより大きな力で駆動させることができる。
【0034】
[第一実施形態]
本発明のトランスデューサの第一例として、アクチュエータに具現化した実施形態を説明する。図1に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)はオフ状態、(b)はオン状態を各々示す。
【0035】
図1に示すように、アクチュエータ1は、誘電膜10と、電極11a、11bと、配線12a、12bと、を備えている。誘電膜10は、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ゴムポリマー)と、第四級アンモニウム塩(イオン導電剤)と、を含むゴム組成物の架橋体からなる。誘電膜10は、本発明の誘電膜に含まれる。電極11aは、誘電膜10の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極11bは、誘電膜10の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極11a、11bは、各々、配線12a、12bを介して電源13に接続されている。
【0036】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電膜10の厚さは薄くなり、その分だけ、図1(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ1は、図1中、上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0037】
本実施形態のアクチュエータ1によると、誘電膜10の内部に、多くの電荷を蓄えることができる。したがって、印加電圧が比較的小さくても、発生する力が大きい。また、電圧印加時に、誘電膜10中を電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電膜10の物性が変化したり、誘電膜10が破壊されるおそれは小さい。したがって、アクチュエータ1は、耐久性に優れる。
【0038】
なお、誘電膜10を面延在方向に延伸した状態で配置すると、誘電膜10の絶縁破壊強度が大きくなる。よって、より大きな電圧を印加することができるため、発生力がより増加する。
【0039】
[第二実施形態]
本発明のトランスデューサの第二例として、静電容量型センサに具現化した実施形態を説明する。まず、本実施形態の静電容量型センサの構成について説明する。図2に、静電容量型センサの上面図を示す。図3に、図2のIII−III断面図を示す。
【0040】
図2、図3に示すように、静電容量型センサ2は、誘電膜20と、一対の電極21a、21bと、配線22a、22bと、カバーフィルム23a、23bと、を備えている。
【0041】
誘電膜20は、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電膜20は、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ゴムポリマー)と、第四級アンモニウム塩(イオン導電剤)と、を含むゴム組成物の架橋体からなる。誘電膜20は、本発明の誘電膜に含まれる。
【0042】
電極21aは、長方形状を呈している。電極21aは、誘電膜20の上面に、三つ配置されている。同様に、電極21bは、長方形状を呈している。電極21bは、誘電膜20を挟んで電極21aと対向するように、誘電膜20の下面に三つ配置されている。すなわち、誘電膜20を挟んで、電極21a、21bが三対配置されている。
【0043】
配線22aは、誘電膜20の上面に、配置されている。配線22aは、誘電膜20の上面に形成された電極21aの一つ一つに、それぞれ接続されている。配線22aにより、電極21aとコネクタ24とが結線されている。同様に、配線22bは、誘電膜20の下面に、配置されている。配線22bは、誘電膜20の下面に形成された電極21bの一つ一つに、それぞれ接続されている(図2中、点線で示す)。配線22bにより、電極21bとコネクタ(図略)とが結線されている。
【0044】
カバーフィルム23aは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23aは、誘電膜20、電極21a、配線22aの上面を覆っている。同様に、カバーフィルム23bは、アクリルゴム製であって、左右方向に延びる帯状を呈している。カバーフィルム23bは、誘電膜20、電極21b、配線22bの下面を覆っている。
【0045】
次に、静電容量型センサ2の動きについて説明する。例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電膜20、電極21a、カバーフィルム23aは一体となって、下方に湾曲する。圧縮により、誘電膜20の厚さは小さくなる。その結果、電極21a、21b間の静電容量(キャパシタンス)は大きくなる。この静電容量の変化により、圧縮による変形が検出される。
【0046】
次に、本実施形態の静電容量型センサ2の作用効果について説明する。本実施形態の静電容量型センサ2によると、誘電膜20の内部に、多くの電荷を蓄えることができる。このため、変形に対する静電容量の変化が大きい。つまり、変形に対する応答感度が高い。また、誘電膜20中を電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電膜20の物性が変化したり、誘電膜20が破壊されるおそれは小さい。したがって、静電容量型センサ2において、検出精度が低下するおそれは小さい。また、静電容量型センサ2は、耐久性に優れる。
【0047】
なお、本実施形態の静電容量型センサ2には、誘電膜20を狭んで対向する電極21a、21bが、三対形成されている。しかし、電極の数、大きさ、配置等は、用途に応じて、適宜決定すればよい。
【0048】
[第三実施形態]
本発明のトランスデューサの第三例として、発電素子の実施形態を説明する。図4に、本実施形態における発電素子の断面模式図を示す。(a)は伸長時、(b)は収縮時を各々示す。
【0049】
図4に示すように、発電素子3は、誘電膜30と、電極31a、31bと、配線32a〜32cと、を備えている。誘電膜30は、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ゴムポリマー)と、第四級アンモニウム塩(イオン導電剤)と、を含むゴム組成物の架橋体からなる。誘電膜30は、本発明の誘電膜に含まれる。
【0050】
電極31aは、誘電膜30の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極31bは、誘電膜30の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極31aには、配線32a、32bが接続されている。すなわち、電極31aは、配線32aを介して、外部負荷(図略)に接続されている。また、電極31aは、配線32bを介して、電源(図略)に接続されている。電極31bは、配線32cにより接地されている。
【0051】
図4(a)に示すように、発電素子3を圧縮し、誘電膜30を電極31a、31b面に対して平行方向に伸長すると、誘電膜30の膜厚は薄くなり、電極31a、31b間に電荷が蓄えられる。その後、圧縮力を除去すると、図4(b)に示すように、誘電膜30の弾性復元力により誘電膜30は収縮し、膜厚が厚くなる。その際、蓄えられた電荷が配線32aを通して放出される。
【0052】
本実施形態の発電素子3によると、誘電膜30の内部に、多くの電荷を蓄えることができる。したがって、発電効率が向上する。また、誘電膜30中に電流が流れにくい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。よって、熱により、誘電膜30の物性が変化したり、誘電膜30が破壊されるおそれは小さい。したがって、発電素子3は、耐久性に優れる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0054】
<誘電膜の製造>
[実施例1〜7の誘電膜]
下記の表1に示す原料から、実施例1〜7の誘電膜を製造した。まず、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)と、所定のイオン導電剤(固体)と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを混合して、液状のゴム組成物を調製した。ここで、アセチルアセトンは、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ゴムポリマー)を溶解させる溶媒であると共に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン(金属アルコキシド化合物)のキレート剤である。その後、ゴム組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して誘電膜を得た。誘電膜の膜厚は、いずれも約40μmとした。
【0055】
[比較例1の誘電膜]
イオン導電剤を配合しない点以外は、上記実施例の誘電膜と同様に、誘電膜を製造した。
【0056】
[比較例2、3の誘電膜]
イオン導電剤に替えて、イオン性液体を使用した点以外は、上記実施例の誘電膜と同様に、誘電膜を製造した。すなわち、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(同上)と、所定のイオン性液体と、をロール練り機にて混練りした。次に、混練りした材料を、アセチルアセトンに溶解した。続いて、この溶液に、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを混合して、液状のゴム組成物を調製した。その後、ゴム組成物を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して誘電膜を得た。誘電膜の膜厚は、いずれも約40μmとした。
【0057】
表1に、使用した原料の種類および配合量を示す。表1中、イオン導電剤およびイオン性液体の配合量(質量部)は、1.55mmolに相当する。
【表1】

【0058】
<アクチュエータの評価>
実施例および比較例の各誘電膜を用いてアクチュエータを作製し、アクチュエータの発生力等を測定した。まず、測定装置および測定方法について説明する。
【0059】
実施例および比較例の各誘電膜の表裏両面に、アクリルゴムにカーボンブラックが混合されてなる電極を貼着して、アクチュエータを作製した。図5に、測定装置に取り付けられたアクチュエータの表側正面図を示す。図6に、図5のVI−VI方向断面図を示す。
【0060】
図5、図6に示すように、アクチュエータ5の上端は、測定装置における上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。アクチュエータ5は、予め上下方向に延伸された状態で、上側チャック52と下側チャック53との間に、取り付けられている(延伸率25%)。上側チャック52の上方には、ロードセル(図略)が配置されている。
【0061】
アクチュエータ5は、誘電膜50と一対の電極51a、51bとからなる。誘電膜50は、自然状態で、縦50mm、横25mm、厚さ約40μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、誘電膜50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦40mm、横25mm、厚さ約10μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に10mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、誘電膜50を介して、縦30mm、横25mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。
【0062】
電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電膜50を圧縮する。これにより、誘電膜50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。誘電膜50の伸長により、上下方向の延伸力は減少する。電圧を印加した時に減少した延伸力を、ロードセルにより測定して、発生力とした。発生力の測定は、印加する電圧を段階的に増加させて、誘電膜50が破壊されるまで行った。そして、誘電膜50が破壊される寸前における発生力を、最大発生力とした。また、その時の電圧値を誘電膜50の膜厚で除した値を、絶縁破壊強度とした。
【0063】
また、電圧を印加してから10秒後に、誘電膜50に流れる電流を測定して、漏れ電流とした。また、電界強度20V/μmの直流電圧を印加し続けて、所定の時間ごとに、誘電膜50の体積抵抗率を測定した。
【0064】
次に、測定結果を説明する。上記表1に、実施例および比較例の各誘電膜を用いたアクチュエータにおける測定結果を、まとめて示す。表1中、体積抵抗率は、電界強度20V/μmの直流電圧を、10分間(600秒)印加し続けた後の測定値である。漏れ電流は、電界強度20V/μmの直流電圧を印加してから10秒後の測定値である。発生力は、電界強度20V/μmの直流電圧を印加させた時の測定値である。また、図7に、電界強度20V/μmの直流電圧印加時間に対する、誘電膜の体積抵抗率の変化を示す。図7中、縦軸の「E+07」は「10」を意味する。例えば、縦軸の「1.E+07」は「1.0×10」を示す。
【0065】
図7に示すように、イオン導電剤またはイオン性液体を含有する実施例1〜7、比較例2、3の誘電膜については、それを含有しない比較例1の誘電膜と比較して、電圧印加開始直後の体積抵抗率は小さくなった。しかし、電圧の印加を続けると、イオン導電剤を含有する実施例1〜7の誘電膜については、体積抵抗率が上昇した。そして、10分間後の体積抵抗率は、いずれも1011Ωcm以上になった(表1参照)。これに対して、イオン性液体を含有する比較例2、3の誘電膜については、体積抵抗率があまり上昇しなかった。このため、10分間後の体積抵抗率は、1011Ωcm未満であった。また、表1に示すように、実施例1〜7の誘電膜の漏れ電流は、比較例2、3の誘電膜の漏れ電流と比較して、大幅に小さくなった。以上より、実施例1〜7の誘電膜については、電圧を印加しても電流が流れにくいことがわかる。
【0066】
また、実施例1〜7の誘電膜を用いたアクチュエータの発生力は、比較例1〜3の誘電膜を用いたアクチュエータの発生力と比較して、大きくなった。これは、イオン導電剤の誘電分極による効果であると考えられる。加えて、実施例1〜7の誘電膜については、漏れ電流が小さい。このため、誘電膜の内部に、多くの電荷を蓄えることができたと考えられる。
【0067】
また、実施例1〜7の誘電膜を用いたアクチュエータの絶縁破壊強度は、比較例2、3の誘電膜を用いたアクチュエータの絶縁破壊強度と比較して、大きくなった。実施例1〜7の誘電膜については、漏れ電流が小さい。このため、ジュール熱の発生が抑制される。したがって、誘電膜に対する熱の影響が低減されたと考えられる。また、より大きな電圧を印加することができるため、実施例1〜7の誘電膜を用いたアクチュエータによると、最大発生力も大きくなった。以上より、本発明の誘電膜によると、発生力が大きく耐久性に優れたトランスデューサを構成できることが確認された。
【0068】
また、実施例1の誘電膜と同じ原料を用いて、イオン導電剤の配合量のみを変更して、三種類の誘電膜を作製した。そして、上記同様に、アクチュエータを構成して、発生力等を測定した。測定結果を、表2に示す。表2中、No.3は、上記実施例1に相当する。また、表1と同様、体積抵抗率は、電界強度20V/μmの直流電圧を、10分間(600秒)印加し続けた後の測定値である。漏れ電流は、電界強度20V/μmの直流電圧を印加してから10秒後の測定値である。発生力は、電界強度20V/μmの直流電圧を印加させた時の測定値である。
【表2】

【0069】
表2に示すように、いずれの誘電膜についても、電圧印加開始から10分後の体積抵抗率は、1011Ωcm以上になった。体積抵抗率は、イオン導電剤が少ないほど、大きくなった。これに対応して、アクチュエータの絶縁破壊強度、最大発生力についても、イオン導電剤が少ないほど、大きくなった。また、漏れ電流も、イオン導電剤が少ないものほど、小さかった。一方、アクチュエータの発生力は、No.4において若干低下したものの、イオン導電剤の増加と共に、大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の誘電膜は、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン、ノイズキャンセラ等のトランスデューサに広く用いることができる。なかでも、産業、医療、福祉ロボット用の人工筋肉、電子部品冷却用や医療用等の小型ポンプ、および医療用器具等に用いられる柔軟なアクチュエータに好適である。
【符号の説明】
【0071】
1:アクチュエータ 10:誘電膜 11a、11b:電極 12a、12b:配線
13:電源
2:静電容量型センサ(トランスデューサ) 20:誘電膜 21a、21b:電極
22a、22b:配線 23a、23b:カバーフィルム 24:コネクタ
3:発電素子(トランスデューサ) 30:誘電膜 31a、31b:電極
32a〜32c:配線
5:アクチュエータ 50:誘電膜 51a、51b:電極 52:上側チャック
53:下側チャック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスデューサにおいて少なくとも一対の電極間に介装される誘電膜であって、
ゴムポリマーと、室温で固体のイオン導電剤と、を含むゴム組成物を架橋してなり、
該電気間に電界強度20V/μmの直流電圧を10分間印加し続けた後の体積抵抗率が、1011Ωcm以上であることを特徴とする誘電膜。
【請求項2】
前記イオン導電剤は、第四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、および第四級ホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、および過塩素酸イオンから選ばれるアニオンと、を有する化合物である請求項1に記載の誘電膜。
【請求項3】
前記イオン導電剤の配合量は、前記ゴムポリマーの100質量部に対して、0.155mmol以上3mmol以下である請求項1または請求項2に記載の誘電膜。
【請求項4】
前記ゴムポリマーは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ウレタンゴムから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の誘電膜。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の誘電膜と、
該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、
を備えることを特徴とするトランスデューサ。
【請求項6】
複数の前記電極間に印加された電圧に応じて、前記誘電膜が伸縮するアクチュエータである請求項5に記載のトランスデューサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−201992(P2011−201992A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69536(P2010−69536)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】