説明

調湿性塗壁材

【課題】 塗工された塗り壁が、充分な強度や耐久性に優れている上で、調湿機能を良好に発揮できるようにする。
【解決手段】 施工環境の湿度を調整する調湿機能を備えた塗壁材であって、無機調湿材を5〜95重量%と、樹脂バインダー(固形分)を1〜25重量%と、透湿性付与剤(固形分)を0.1〜15重量%と含む。樹脂バインダーが塗工作業性や成膜性、塗り壁の強度や耐久性、表面性状を良好にするなどの機能を果たし、透湿性付与剤が、樹脂バインダーによる吸放湿性の低下を改善し、調湿性の高い塗り壁を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿性塗壁材に関し、詳しくは、建築物の室内など施工環境の湿度変化に対応して環境中の湿気を吸放湿し、環境の湿度を調整する調湿機能を有する塗壁材を対象にしている。
【背景技術】
【0002】
住宅などの室内壁面に塗工する塗壁材に、珪藻頁岩などの調湿機能を有する多孔質構造を有する無機調湿材を配合しておくことで、塗り壁に調湿機能を付与する技術が提案されている。
特許文献1には、珪藻頁岩などの無機調湿材の造粒焼成粒に、石膏と、ゼラチン、ふのりなどの有機バインダーおよび水を加えた塗壁材を、建築物の壁面に塗工することで、調湿機能に優れた塗り壁を施工する技術が示されている。
特許文献2には、木粉や珪砂などの骨材の表面に珪藻土などの吸放湿性のある無機多孔質粉体を展着してなる壁面仕上材に、粉末酢酸ビニル系樹脂や水を加え、鏝塗りによって砂壁調に仕上げる技術が示されている。骨材に無機多孔質粉体を展着させる際に、酢酸ビニル系エマルション樹脂、アクリル酸エステル系エマルション樹脂などの合成樹脂バインダーを用いる技術も示されている。
【特許文献1】特開2002−114557号公報
【特許文献2】特開2002−47039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
珪藻頁岩などの無機調湿材に対して、石膏や有機バインダーを結合材に使用した調湿性塗壁材は、塗工後の壁強度の点で充分でなかったり、塗工が難しかったりするという問題がある。
無機調湿材は吸水性があることや表面の多孔質構造によって、塗り壁材の塗工作業における滑りが悪くなることなどによって、塗工が難しくなり、得られた塗り壁の強度が低下するのであると考えられる。
塗り壁の材料に、合成樹脂エマルションや水溶性樹脂などの合成樹脂バインダーを使用すると、施工後の塗り壁の強度が向上し、塗工性も良好になると考えられたが、無機多孔質調湿材を用いている場合には、調湿機能が大きく低下してしまうという問題がある。
【0004】
合成樹脂バインダーが、塗り壁の表面に膜を形成することによって、塗り壁の外部環境と、無機多孔質調湿材の多孔質構造内部との間で、湿気や臭いその他の成分が効率的に出入りできなくなる。成膜性の強い合成樹脂バインダーは、無機多孔質調湿材の細孔を塞いでしまうこともある。
合成樹脂バインダーの中でも、粉末樹脂は粒子径が比較的に大きく、無機多孔質調湿材の調湿機能を損なうことは少ないが、塗り壁の強度が劣る。水性樹脂エマルジョンは、強度は優れているが、調湿機能を大きく損なう。
本件発明の課題は、調湿性塗壁材として、塗工された塗り壁の強度や耐久性に優れていながら、調湿機能を良好に発揮できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる調湿性塗壁材は、施工環境の湿度を調整する調湿機能を備えた塗壁材であって、無機調湿材を5〜95重量%と、樹脂バインダー(固形分)を1〜25重量%と、透湿性付与剤(固形分)を0.1〜15重量%とを含む。
〔無機調湿材〕
通常の建築材料や塗壁材料に調湿機能を付与するために使用されている無機調湿材が使用できる。
無機調湿材の具体例として、珪藻頁岩、アロフェン、イモゴライト、シリカゲル、セピオライトなどが挙げられる。
【0006】
無機調湿材は、粉粒状あるいは造粒物の形態で使用できる。粉粒状の場合、平均粒径1〜1,000μmの範囲に設定できる。
無機調湿材は、塗壁材の全量に対して、5〜95重量%の範囲で配合できる。好ましくは、20〜80重量%である。
<造粒物>
無機調湿材を造粒物の形態で使用するには、無機調湿材の粉粒を適宜のバインダーを用いて造粒一体化させて、所定の粒径を有する造粒物にしたものが使用できる。
造粒物は、焼成造粒物と非焼成造粒物の何れもが使用できる。
【0007】
造粒物の材料には、無機調湿材に加えて、バインダーを配合することができる。
バインダーとしては、通常の無機調湿材造粒物の製造に利用されているバインダー材料が使用できる。粘土、石灰、セメント、石膏、水ガラスなどが挙げられる。樹脂バインダーも使用可能であるが、無機調湿材の調湿機能を阻害しない材料を選択することが望ましい。樹脂バインダーと透湿性付与剤とを組み合わせて配合しておくことも有効である。
造粒物の材料には、顔料などの着色剤、その他の各種添加剤を配合しておくこともできる。
無機調湿材の造粒物を製造したあと、造粒物の表面を着色コーティングすることもできる。着色コーティング剤として、無機調湿材の吸放湿性を妨げることが少ない樹脂バインダーと透湿性付与剤および無機顔料を配合したものが好適に使用できる。また、焼成により着色コーティングする場合には、ガラス粉末や陶磁器用フリットなどが使用できる。
【0008】
造粒物の平均粒径を0.05〜3mm(50〜3,000μm)に設定しておくことができる。
〔樹脂バインダー〕
基本的には、従来の塗壁材に利用されている樹脂バインダーの技術が適用できる。
樹脂バインダーには、塗壁材の成膜性や膜強度、表面質感などを向上させる機能を有する樹脂材料が使用される。具体的には、アクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、SBR(スチレン−ブタジエン−ラテックス)樹脂系が挙げられる。これらの樹脂を主体に変成してなる変成樹脂も使用できる。具体的には、アクリル−スチレン樹脂系、アクリル−シリコン樹脂系、エチレン−酢酸ビニル樹脂系が挙げられる。
【0009】
樹脂バインダーの形態は、合成樹脂の固形の粉末状であっても良いし、合成樹脂の水性エマルジョンであってもよい。樹脂粉末の平均粒径を0.01〜100μmの範囲に設定できる。
樹脂バインダーは、塗壁材の全量に対して、樹脂バインダーの固形分が1〜25重量%になる範囲で配合できる。好ましくは、2〜15重量%である。従来の塗壁材では、吸放湿性を阻害し難いように、樹脂バインダーの配合量を少なくする必要があったが、本発明の場合、樹脂バインダーの配合量を比較的に多くしておいても、透湿性付与剤の機能によって、吸放湿性を良好に維持できる。樹脂バインダー量を多目にすることで、塗壁材の塗工性や塗り壁の強度などを向上することができる。
【0010】
〔透湿性付与剤〕
樹脂バインダーを使用したことによって損なわれる透湿性を塗り壁に付与する機能を果たす。
透湿性付与剤として、樹脂バインダー粒子のまわりに透湿性付与剤が分散され、塗壁材の内部まで連通するミクロの毛細管を形成する作用のある材料が使用できる。このようなミクロの毛細管は、透湿付与剤の硬化時に生じるクラックや、樹脂バインダーとの硬化収縮差、疎水性と親水性との複合による欠陥などによって生成される。
このような機能を達成できる材料であれば、各種の無機あるいは有機の化合物が使用できる。特に、比較的に硬質で、樹脂バインダーとの硬化変形形態が異なる材料が好ましい。また、硬化後の粒径が樹脂バインダーと同等以下になる材料が望ましい。
【0011】
透湿性付与剤の具体例として、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸セシウムからなる群から選ばれるアルカリ金属珪酸塩を含む水ガラスが使用できる。シリコンエマルジョンやシリコン系などの撥水剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウムも使用できる。
透湿性付与剤は、粉末状あるいは水溶液、水分散液の形態で使用することができる。
透湿性付与剤は、塗壁材の全量に対して、透湿性付与剤の固形分が0.1〜15重量%の範囲になる割合で配合できる。好ましくは、0.5〜7.5重量%である。
〔塗壁材〕
前記した無機調湿材、樹脂バインダーおよび透湿性付与剤を含むほかは、通常の塗壁材と同様の配合成分や製造技術、使用方法が適用できる。
【0012】
塗壁材には、無機調湿材、樹脂バインダーおよび透湿性付与剤のほかに、炭酸カルシウムやシリカなどの砂状物を包含する骨材、炭酸カルシウムやシリカなどの粉末を包含するフィラー、化学繊維あるいは天然繊維などの繊維材料、MCなどの糊、潤滑剤、シリコン系消泡剤などの消泡剤、着色剤などが配合できる。着色剤は、塗壁材の吸放湿性を阻害することが少ない無機材料からなるものが好ましい。
塗壁材は、製造および輸送保管から流通の段階では、粉体状あるいは顆粒状であることができる。前記した無機調湿材の造粒物を製造する際に、樹脂バインダーや透湿性付与剤を含む全ての材料を配合しておけば、造粒物自体が塗壁材になる。また、水を加えて混練したスラリー状態での流通も可能である。
【0013】
〔塗壁材の施工〕
塗工方法や塗工手順は、通常の塗壁材による塗り壁の施工と同様に行える。
塗壁材は、塗工による施工時に、必要に応じて水を加えて、塗工可能な練状あるいはスラリー状に調整する。
塗工時に塗壁材に加える水の量は、施工作業性や表面仕上げの要求などによっても異なるが、通常、塗壁材の固形分重量100%に対して、水性樹脂エマルジョンや水性水ガラスに含まれる水分も合わせて、20〜90重量%の水を加える。好ましくは、30〜80重量%である。
【0014】
水に加えて、その他の添加剤を配合しておくこともできる。
練り状あるいはスラリー状の塗壁材は、コテなどを使用する左官作業で住宅の内装壁面仕上げを行うことができる。ローラ、刷毛等による塗り付け作業や、スプレーガンなどによる吹き付け作業にも適用できる。
塗壁材の塗工量は、施工条件や要求性能によっても異なるが、通常、0.1〜10kg/mの範囲に設定できる。得られる塗り壁の厚みは、0.1〜10mmの範囲になる。本発明の塗壁材は、比較的に分厚く塗工しても、塗工は容易であって塗り壁の強度や耐久性も十分に維持できる。
【0015】
塗壁材を塗工して得られた塗り壁の特性として、付着強度が10N/cm以上あれば、実用的に十分である。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる調湿性塗壁材は、塗壁材に調湿機能を与える無機調湿材と、塗壁材の塗工性や強度を高める樹脂バインダーとに加えて、透湿性付与剤を含有していることにより、樹脂バインダーの使用によって生じる調湿性の低下が防止できる。
その結果、調湿性に優れていると同時に、塗工性が良く、塗壁の強度や耐久性にも優れた塗壁を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
調湿性塗壁材を具体的に製造し、その性能を評価した。
〔塗壁材〕
表1に示す各材料を配合して、塗壁材を調製した。但し、表1に示す水については、塗工時に加える。
<使用材料>
無機調湿材:珪藻頁岩の粉砕物を造粒したあと焼成して、平均粒径0.4mmの無機調湿材造粒物を作製した。無機調湿材の単独での吸湿量は0.079g/g、放湿量は0.073g/gである。吸放湿量の測定条件は、後述する吸放湿試験に準じて実施した。
【0018】
炭酸カルシウム:平均粒径0.07mmの市販材料を使用した。
樹脂バインダー:粉末樹脂は、エチレン−酢酸ビニルの粉末樹脂を用いた。水性樹脂は、固形分41%の水性スチレン−アクリル樹脂エマルジョンを用いた。
透湿付与剤:固形分21%の珪酸リチウム水溶液からなる水ガラスを用いた。
メチルセルロース:1%水溶液が4000cps程度の粘度を示す粉末品を用いた。
〔性能評価試験〕
<吸放湿性試験>
水を加えて混練りした塗壁材のスラリーを、ガラス板に2kg/mの割合で塗布して試験体を得た。前処理として、試験体を25℃、50%RHで24時間保持した。その後、吸湿過程として、25℃、90%RHで24時間保持したあと、吸湿量(g/m)を測定した。次いで、放湿過程として、25℃、50%RHで24時間保持したあと、放湿量(g/m)を測定した。
【0019】
塗壁材の塗布量と塗布面積をもとに、塗壁材に含まれる無機調湿材の単位面積当たりの存在量を、調湿材重量(g/m)として算出した。
調湿材重量と、前記した無機調湿材の単独での吸湿量、放湿量とから、算定吸湿量(g/m)と算定放湿量(g/m)を算出した。算定吸放湿量は、無機調湿材の吸放湿性能が100%発揮された理想的な状態における塗壁材の吸放湿性能を示すことになる。
算定吸放湿量と、実際に測定された吸湿量、吸湿量とから、下式(1)で吸湿効率、放湿効率を算出した。
吸(放)湿効率(%)=吸(放)湿量(g/m)/算定吸(放)湿量(g/m
… (1)
吸放湿効率は、樹脂バインダーおよび透湿付与剤の配合した塗壁材の吸放湿性能が、無機調湿材が単独の場合に比べて、変化した割合を示すことになる。吸放湿効率が100%に近いほど、無機調湿材の吸放湿性能が阻害されずに良好に発揮されていることを意味する。
【0020】
<付着強度>
前記同様の塗壁材スラリーを、スレート板に2kg/mの割合で塗布した。
乾燥硬化させたあと、常法により、付着強度(N/cm)を測定した。
試験の結果を、表1に示す。

【0021】
【表1】

【0022】
〔評価〕
(1) 比較例1、2は、樹脂バインダーを使用しているが、透湿性付与剤を使用していないため、吸湿性および放湿性が悪い。
樹脂バインダーと透湿性付与剤を組み合わせた実施例1〜4は、各比較例に比べて、吸湿性能および放湿性能の両方が格段に向上している。
(2) 比較例1の配合に透湿付与剤を加えた実施例1では、比較例1に比べて、吸湿量および放湿量とも大幅に増加している。吸湿効率および放湿効率をみれば、その性能の違いはより顕著である。比較例1では吸放湿効率が約50%前後であるのに対し、実施例1では、吸放湿効率が90%を超えており、無機調湿材の吸放湿性能が有効に発揮されている。
【0023】
実施例3と比較例2とを対比しても、同様に性能の違いが認められる。
(3) 付着強度をみると、比較例1よりも実施例1のほうが小さい。比較例2よりも実施例3のほうが小さい。しかし、実施例1、3も実用的には十分な付着強度を備えている。
(4) 実施例1と実施例2〜4とを対比すると、樹脂バインダーに粉末樹脂を使用した実施例1よりも、樹脂バインダーに水性樹脂を使用した実施例2〜4のほうが、付着強度が高い。
このことは、樹脂バインダーに水性樹脂を使用した場合には、透湿付与材を添加しても付着強度の低下が少ないことを示している。
【0024】
(5) 以上の結果、本発明の調湿性塗壁材は、吸放湿付与剤の配合によって、無機調湿材が本来有している吸放湿性能を効率良く発揮させることができるとともに、実用的に十分な強度や耐久性も有していることが裏付けられた。
(6) バインダーとして、樹脂バインダーに加えて、あるいは、樹脂バインダーの代わりに、石膏、石灰、セメントなどの無機バインダーを使用した場合でも、吸放湿付与剤を配合しておくことで、無機調湿材の有する調湿性能が良好に発揮できることが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の調湿性塗壁材は、例えば、住宅の室内壁面などの内装仕上げ施工に使用したときに、塗工作業が容易で仕上がりが良好で耐久性にも優れた上で、調湿機能を格段に向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工環境の湿度を調整する調湿機能を備えた塗壁材であって、
無機調湿材を5〜95重量%と、
樹脂バインダー(固形分)を1〜25重量%と、
透湿性付与剤(固形分)を0.1〜15重量%と
を含む調湿性塗壁材。
【請求項2】
前記無機調湿材が、珪藻頁岩、アロフェン、イモゴライト、シリカゲル、セピオライトからなる群から選ばれ、
前記樹脂バインダーが、アクリル樹脂系バインダー、酢酸ビニル樹脂系バインダー、SBR樹脂系バインダー、および、これらの変成樹脂バインダーからなる群から選ばれ、
前記透湿性付与剤が、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸セシウムからなる群から選ばれるアルカリ金属珪酸塩を含む水ガラスである
請求項1に記載の調湿性塗壁材。
【請求項3】
樹脂バインダーが、水性エマルジョンである
請求項1または2に記載の調湿性塗壁材。

【公開番号】特開2006−2407(P2006−2407A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178765(P2004−178765)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(593140369)田川産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】