説明

調湿性建材の製造方法

【課題】中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が優れた調湿性建材を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】軽量気泡コンクリートの粉粒体と水との混合物を加圧成形し、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生することからなる調湿性建材の製造方法において、石灰質原料とケイ酸質原料とからなり、前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5〜1.0の範囲にある軽量気泡コンクリートを原料に使用する調湿性建材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿性、すなわち建物の室内の湿度を調整する吸放湿機能に優れた調湿性建材の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が優れた調湿性建材を効率的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の室内の湿度を調整する調湿性に建材としては、炭酸カルシウムを主成分とするしっくいが従来から使用されてきたが、このしっくいは実際には吸放湿量が少なく、乾燥収縮によるクラックを防止するために厚くしたり、補強繊維を多量に混入する必要があるばかりか、厚くすると逆に透湿性が低下してしまうという問題があった。
【0003】
このしっくいの調湿性を改良した材料としては、非晶質シリカを含む珪藻土を内添したしっくいやセメント板などが知られているが、この場合には珪藻土がしっくいやセメントに含まれるアルカリ成分によって変質し、経時と共に調湿性が低下してしまうばかりか、重量がある割りに強度が低く、クラックを発生したり寸法安定性にも劣るという問題があった。
【0004】
また、最近では、軽量気泡コンクリートの粉粒体と水との混合物を加圧成形し、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生することにより得られた調湿性建材(例えば、特許文献1参照)が注目され、建物壁材などの各種建材用途に使用されている。
すなわち、この調湿性建材によれば、軽量気泡コンクリート粉体からなる成形体を炭酸化処理することにより、この成形体に含まれるカルシウムイオンが炭酸カルシウムとなって溶出するために、微細な細孔の数が増加して比表面積が増大し、その結果水蒸気吸着量が多くなることにより平行含水率が高くなって、優れた調湿性が確保されるばかりか、炭酸カルシウムがバインダーとなることより成形体の全体強度の向上も図ることができるのである。
【0005】
しかしながら、上記の調湿性建材は、いかに調湿性に優れているとはいうものの、建材の要求性能として近年しきりに求められている中湿域(相対湿度47〜75%)から高湿域、特に高湿域(相対湿度75〜94%)での調湿性について、十分に満たしているとはいえないものであった。
【特許文献1】特開平7−25679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した先行技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が優れた調湿性建材を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明によれば、軽量気泡コンクリートの粉粒体と水との混合物を加圧成形し、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生することからなる調湿性建材の製造方法において、石灰質原料とケイ酸質原料とからなり、前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5〜1.0の範囲にある軽量気泡コンクリートを原料に使用することを特徴とする調湿性建材の製造方法が提供される。
【0009】
なお、本発明の調湿性建材の製造方法においては、前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.7〜0.9の範囲にある軽量気泡コンクリートを原料に使用することがより好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が優れた調湿性建材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
本発明の調湿性建材の製造方法は、軽量気泡コンクリート(以下、ALCと呼ぶ)の粉粒体と水との混合物を加圧成形し、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生することからなる調湿性建材の製造方法において、石灰質原料とケイ酸質原料とからなり、前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5〜1.0の範囲にあるALCを原料に使用することを特徴とする。
【0013】
本発明で使用するALCの粉粒体とは、一般にALCなどと呼ばれる軽量気泡コンクリートを粉砕して得られる粉粒体のことである。ALCは、ケイ酸質原料と石灰質原料とを主原料として、これに金属アルミニウムなどの発泡剤を添加し、さらにこれに水を加えてスラリーとなし、型枠に充填して発泡成形した後、オートクレーブ養生することにより得ることができる。
【0014】
ケイ酸質原料としては、珪石、石英、クリストバライトなどのシリカ鉱物、珪砂、フライアッシュ、スラグ、シリカフュームなどの内の一種類あるいは二種類以上の混合物を使用することができる。石灰質原料としては、生石灰、消石灰、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどの内の一種類あるいは二種類以上の混合物を使用することができる。
【0015】
ALCは、軽量でかつ耐熱性に優れていることから、建築資材として多く用いられている。ALCには、ケイ酸質原料と石灰質原料との反応により生成したケイ酸カルシウム水和物(トバモライト)が含まれている。また、その他にも、石灰質原料と反応しなかったケイ酸質原料を起源とするシリカ、低結晶性のケイ酸カルシウム水和物であるCSHなどが含まれている。
【0016】
ただし、本発明で使用するALCは、上記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5〜1.0の範囲、特に0.7〜0.9の範囲にあることが重要な要件である。
【0017】
一般に、石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5未満になると、ALC製造時の発熱により発泡が過剰になりすぎて、微細な細孔を有する発泡体が得られ難くなる。また、石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が1.0を越える場合には、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が十分に優れた調湿性建材を得ることが困難になる。その理由は次のように考えられる。
すなわち、生石灰の量比が高い場合には、トバモライト結晶も十分な量となり、炭酸化により生成した炭酸カルシウムとして結晶表面からカルシウムイオンが溶出することにより形成される微細孔の量も十分となる。さらに、セメントの量比が小さいために、セメントに含まれる無水石膏が炭酸化時に二水石膏に変化して微細孔の空隙を塞ぐことも少なくなる。
したがって、十分な量の微細孔の数が確保されて、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が十分に向上する。つまり、生石灰の量比が高い石灰質原料を用いて形成したALCを原料に使用することによって、微細な細孔の数が増加して比表面積が増大し、その結果、水蒸気吸着量が多くなり平行含水率が高くなって、一層優れた調湿性が確保されるばかりか、炭酸カルシウムがバインダーになることにより成形体の全体強度の向上も図ることができるのである。
【0018】
一方、セメントの量比が高い石灰質原料を用いて形成したALCを原料に使用した場合には、炭酸化時にセメントに含まれる無水石膏が二水石膏に変化して微細孔の空隙を塞ぐことになり、形成される微細孔の数が激減してしまうため、中湿域から高湿域にかけての調湿性を改善することができない。
【0019】
本発明においては、まず上記ALCを粉砕することにより、粒径が2mm以下の粉粒体となし、次いでこの粉粒体と水との混合物を加圧成形することにより成形体を形成する。
【0020】
この場合にALC粉粒体に混合する水の割合は、ALC粉粒体100重量部に対し水20〜60重量部とすることが望ましい。また、成形時の加圧力は50〜400Kgf/cm2の範囲とすることが望ましい。成形体の大きさは、目的とする調湿性建材の用途に応じて任意に選択できるが、以降の炭酸化反応のし易さからは、10×10×2mm〜500×500×30mm程度の板状体であることが望ましく、なるべく薄く小型のものほど炭酸化処理が容易である。
【0021】
次いで、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生する炭酸化処理に供する。本発明でいう炭酸化処理とは、成形体を例えば養生用の釜内において炭酸ガスと接触させ、炭酸化反応を行う工程である。
【0022】
この炭酸化処理工程で使用する炭酸ガスとしては、純度100%の二酸化炭素でも良く、他の気体と混合された混合ガスであっても良い。具体的には市販のドライアイスを気化したもの、燃焼ガス、排気ガスなどを用いることができる。
混合ガスを用いる場合には、炭酸ガス濃度が高いほど反応が速く進行するため、二酸化炭素濃度が高い混合ガスの使用が好ましい。
具体的には、二酸化炭素濃度が3%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。二酸化炭素濃度が3%以下では反応速度が遅くなり過ぎるため工業的に適切ではない。混合ガスを用いる場合に二酸化炭素と混合される他のガスとしては、窒素などの不活性ガスや酸素などが好ましい。
また、排気ガスを使用する場合には、脱硫、脱硝、集塵などの処理を行ったものを用いるのが適切である。
【0023】
なお、炭酸化処理温度は特に限定しないが、成形体中の水分が炭酸化反応を促進することから、成形体中に水分が存在する状態、すなわち0℃以上100℃以下とすることが好ましい。
特に炭酸化反応が促進される温度は30〜80℃の範囲であるが、炭酸化反応は発熱を伴い、これにより釜内の温度が上昇するため、反応開始時における釜内の温度をおおよそ60℃以下とすることが望ましい。
また、炭酸養生中の圧力も反応速度に大きく影響し、圧力が高いほど反応が促進されるが、工業的には2MPa以下の圧力で行うのが好ましい。
【0024】
さらに、炭酸化反応をより効率的に行うには、釜内への炭酸ガスの流入に先立ち、予め釜内を真空にする真空工程を設けることにより、原料粉体中の空気を抜き、その後釜内へ高濃度の炭酸ガスを流入する方法を適用することが望ましい。
【0025】
この炭酸化反応により、ALC中のカルシウム成分が炭酸カルシウムとなる過程で、成形体内部の隙間を埋めるバインダーとして成長するため、成形体の曲げ強度が高くなる。また、炭酸カルシウムとしては、最も安定なカルサイトだけではなく、微細なバテライトも生成する。
【0026】
そして、結晶表面からカルシウムイオンが溶出することにより形成される微細孔の数が十分に確保されて、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が著しく向上する。
【0027】
したがって、本発明により得られる調湿性建材は、その優れた調湿機能を活かして建物の内装や押入壁の仕上げなどの用途に有効に利用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
【0029】
[実施例1〜3,比較例1〜4]
【0030】
原料ALCとして、次の7種類のALC(A〜G)を調整した。
【0031】
まず、ALC(A)としては、珪石粉末59重量部、生石灰粉末25重量部、セメント16重量部および水67重量部を撹拌混合したスラリーを、アルミニウム粉末0.07重量部の存在下に型枠に打設し、そのまま3時間放置して発泡硬化させた。得られた発泡硬化物をオートクレーブに入れて、180℃、約10気圧の水蒸気雰囲気下で約6時間養生することによりALC(A)を得た。このALC(A)の石灰質原料におけるセメント/生石灰の重量比(C/L)は0.64であった。
【0032】
珪石粉末、生石灰粉末、セメントの配合割合を表1に示したように変更した以外は同様にして、表1に示したC/LおよびCao/SiO2のALC(B〜G)を調整した。
【0033】
次に、上記ALC(A〜G)の各々について、成形、炭酸化反応を実施し、炭酸化反応後の成形体について調湿性を評価した。
【0034】
まず、各ALCを粉砕することにより、粒径が0.8mm以下の粉粒体となし、次いでこの粉粒体100重量部と水35重量部を均一混合した後型枠に入れ、300Kgf/cm2で加圧成形することにより、300×300×8mmの板状の成形体を得た。
そして、この成形体を炭酸ガスの雰囲気化で炭酸化養生し、さらに、乾燥させて調湿建材を得た。
【0035】
次いで、得られた調湿建材の平衡含水率をJIS A 1475 建築材料の平衡含水率測定方法に準じて測定した。そして、低湿域(相対湿度11〜47%)、中湿域(相対湿度47〜75%)および高湿域(相対湿度75〜94%)のそれぞれの範囲内で、相対湿度1%の変化に対する平衡含水率の変化量(%/Rh%)を算出した。その結果を図1および表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図1および表1の結果から明らかなように、石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比C/Lが0.5〜1.0の範囲にあるALC(A〜C)を原料に使用した実施例1〜3では、低湿域での調湿性にはあまり差が認められないものの、中湿域および高湿域においては、調湿性の著しい向上が認められる。
【0038】
一方、石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比C/Lが1.0を越える、つまりセメントリッチのALC(D〜G)を原料に使用した比較例1〜4では、低湿域から高湿域のいずれの領域においても調湿性の向上効果が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、中湿域から高湿域、特に高湿域での調湿性が優れた調湿性建材を効率的に製造することができ、得られる調湿性建材は、その優れた調湿機能を活かして建物の内装や押入壁の仕上げなどの用途に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例における調湿性の評価結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートの粉粒体と水との混合物を加圧成形し、得られた成形体を炭酸ガス雰囲気で養生することからなる調湿性建材の製造方法において、石灰質原料とケイ酸質原料とからなり、前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.5〜1.0の範囲にある軽量気泡コンクリートを原料に使用することを特徴とする調湿性建材の製造方法。
【請求項2】
前記石灰質原料中のセメント/生石灰の重量比が0.7〜0.9の範囲にある軽量気泡コンクリートを原料に使用することを特徴とする請求項1に記載の調湿性建材の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2008−239383(P2008−239383A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80414(P2007−80414)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】