説明

調節性IOLを制御するための生理的な信号の電気的な増幅

調節性眼内レンズのための制御システム(100)は、眼の毛様体筋を制御する信号を感知するための感知回路(110)と、感知された信号を増幅するための増幅回路(130)とを含む。増幅回路の出力は、調節性IOLを制御するのに使用される。第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配設された少なくとも一つの電極は、毛様体筋を制御する信号を受信するのに使用される。フィルターが含まれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調節性眼内レンズを制御するためのシステムに関し、より具体的には、毛様体筋の制御又は動作に起因する電気的な信号を感知して増幅するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼は、角膜と呼ばれる透明な外側部分を通して光を透過させて、水晶体によって網膜上に画像を結像することによって視力を提供するように機能する。結像された画像の質は、眼の大きさ及び形状、並びに角膜及び水晶体の透明度を含む多くの要因に依存する。加齢又は病気によって水晶体の透明度が低下すると、網膜に透過されうる光が減少するので、視力が悪化する。眼の水晶体におけるこの欠陥は、医学的には白内障として知られている。この状態について認容された治療法は、外科的に水晶体を取り除いてその水晶体の機能を人工的な眼内レンズ(IOL)に置き換えることである。
【0003】
米国では、白内障水晶体の大部分は、水晶体超音波乳化吸引術と呼ばれる外科技術によって取り除かれる。水晶体超音波乳化吸引術の手術に適切な典型的な外科用ハンドピースは、超音波駆動される水晶体超音波乳化吸引術用ハンドピースと、灌流スリーブによって囲まれた付属の中空の切断用ニードルと、電気制御コンソールとから成る。ハンドピース組立体は電気ケーブル及び可撓チューブによって制御コンソールに取り付けられる。コンソールは、電気ケーブルを通して、ハンドピースによって付属の切断用ニードルに伝送される出力レベルを変化させる。可撓チューブは手術部位に灌流流体を供給し且つハンドピース組立体を通して眼から吸引流体を引き出す。
【0004】
典型的なハンドピースにおける作動部分には、一組の圧電結晶体に直接取り付けられた中空の共鳴棒(resonating bar)又は中空のホーン(horn)が中央に配設される。結晶体は、水晶体超音波乳化吸引術の間、ホーン及び付属の切断用ニードルの両方を駆動するのに必要とされる所要の超音波振動を供給し、且つコンソールによって制御される。結晶体/ホーン組立体は、柔軟な設置(flexible mounting)によって、ハンドピースの中空の本体またはハンドピースの外郭(shell)において遊動状態で支持される。ハンドピースの本体は、本体の末端部の小径部分または円錐状頭部(nosecone)において終端する。典型的には、円錐状頭部には、切断用ニードルの長さのほとんどを囲む中空の灌流スリーブを受け入れるために雄ネジが切られる。同様に、ホーンのボアには切断用先端部の雄ネジを受容すべくホーンの末端部において雌ネジが切られる。灌流スリーブは、円錐状頭部の雄ネジに螺合される雌ネジが切られたボアも有する。切断用ニードルは、その先端部が、灌流スリーブの開放端部を越えて、予め定められた量だけ突出するように調整される。
【0005】
水晶体超音波乳化吸引術の手術の間、切断用ニードルの先端部及び灌流スリーブの端部は、眼の外側の組織における小さな切開創を通して眼の前嚢内に挿入される。外科医は、振動する先端部が水晶体を砕くように、切断用ニードルの先端部を眼の水晶体に接触させる。結果として生じる破片は、手術中に眼に提供された灌流溶液と共に切断用ニードルの内部ボアを通して眼の外側に吸引されて廃棄容器内に吸引される。その後、IOLが生来の水晶体に取って代わるべく眼内に埋め込まれる。
【0006】
未だに市販されるに至っていないが、かなりの研究が調節性IOLに対してなされている。調節性IOLは、生来の水晶体の結像能力をシミュレートする。まさに生来の水晶体のように、調節性IOLは、顔の非常に近くの物体に又はかなり遠くの物体に焦点を合わせるように調整されることができる。この結像機能を行うために、調節性IOLはいくつかの態様において動かされ又は変えられなければならない。
【0007】
人間の眼では、毛様体筋は、生来の水晶体の焦点を合わせることに大いに寄与する。毛様体筋は、水晶体嚢、すなわち、生来の水晶体を包む、伸縮性のある薄膜に取り付けられる。基本的には、毛様体筋は、嚢の張力を制御し、このため生来の水晶体の焦点を合わせる。生来の水晶体の結像能力と同じ働きをすべく、毛様体筋を制御する信号、又は毛様体筋の機械的な動作に起因する電気的な信号を利用して、調節性IOLを制御するのにその信号を使用することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0008】
本発明の原理に整合した一つの実施形態では、本発明は調節性眼内レンズのための制御システムである。制御システムは、眼の毛様体筋を制御する信号を感知するための感知回路(sensing circuit)と、感知された信号を増幅するための増幅回路とを含む。増幅回路の出力は、調節性IOLを制御するのに使用される。第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配設された少なくとも一つの電極が、毛様体筋を制御する信号を受信するのに使用される。
【0009】
本発明の原理に整合した別の実施形態では、本発明は、調節性IOLを制御する方法であり、この方法では、毛様体筋を制御する信号が、感知され且つ増幅されて、調節性IOLを制御するのに使用される。第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配設された少なくとも一つの電極が、毛様体筋を制御する信号を受信するのに使用される。
【0010】
本発明の原理に整合した別の実施形態では、本発明は、調節性IOLを制御する方法であり、この方法では、毛様体筋の機械的な動作に起因する電気的な信号が、感知され且つ増幅されて、調節性IOLを制御するのに使用される。
【0011】
前述の一般的な記述及び以下の詳細な記述の両方が、例示であり且つ単なる説明であり、特許請求の範囲に記載されたような発明の更なる説明を提供することが意図されていることが理解されるべきである。以下の記述及び本発明の実施例が本発明の追加の利点及び目的を説明し且つ提案する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の原理に係る、毛様体筋の信号を感知して増幅するためのシステム、又は調節性IOLを制御するために毛様体筋の動作を感知するためのシステムのブロック図である。
【図2】図2は、本発明の原理に係る、調節性IOLを制御するために毛様体筋の信号を感知してフィルタリングし且つ増幅するためのシステムの回路図である。
【図3】図3は、本発明の原理に係る、調節性IOLを制御するために毛様体筋の信号を感知して増幅する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に取り込まれ且つ本明細書の一部を構成する添付の図面は、記述と共に本発明のいくつかの実施形態を示し、本発明の原理を説明するのに役立つ。
以下、本発明の例示的な実施形態が詳細に参照され、これら実施形態の例が添付の図面に示される。同一の参照番号が、同一の又は同様の部分を参照するのに全図を通して可能な限り使用される。
【0014】
発明者は、毛様体筋の動作を制御する電気的な信号が、調節性IOLを制御するのにも使用されうることを発見してきた。上記されたように、毛様体筋は、生来の水晶体を囲んでいる嚢における張力を制御する。生来の水晶体が弾力性を有するので、嚢の張力は生来の水晶体の形状を変化させ、このため、人が眼の焦点を合わせることが可能となる。第三脳神経(動眼神経)が毛様体筋(毛様体神経節上のシナプス)に副交感神経の信号を伝える。この副交感神経の信号は毛様体筋の動作を制御する。毛様体筋上のM3ムスカリン受容体の副交感神経の活性化があると、毛様体筋は収縮する。毛様体筋が収縮すると、嚢における張力は減少し、このことによって、生来の水晶体は、近くを見るように調節すべく、より球状の形状をとることができる。毛様体筋が弛緩すると、嚢における張力は増加し、このため、生来の水晶体は、遠くを見るために、より平らな形状に圧搾される。
【0015】
毛様体筋又は毛様体筋の動作を制御する信号を感知して増幅する、埋め込み可能な回路が、調節性IOLを制御するのに使用されることができる。この態様では、毛様体筋を制御する副交感神経の信号が、第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近の一つ以上の電極によって感知される。この信号は、一旦感知されると、増幅されて、調節性IOLを制御するのに使用されることができる。この態様では、脳自体の画像処理が、調節性IOLを制御するのに使用される。斯かる制御システムは、現在開発されている、任意の多数の異なる、電気制御されるIOLと共に使用されることができる。
【0016】
図1は、本発明の原理に係る、調節性IOLを制御するための毛様体筋の信号を感知して増幅するためのシステムのブロック図である。図1では、システム100が、感知回路110、光学フィルター120、及び増幅回路130を含む。第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近の少なくとも一つの電極が感知回路110に入力を与える。感知回路110は光学フィルター120に電気的に結合され、光学フィルター120は増幅回路130に電気的に結合される。増幅回路130の出力が、調節性IOLを制御するのに使用される。
【0017】
感知回路110は任意の多数の異なる態様において実装されうる。例えば、感知回路110はオペアンプを具備することができ、(図2において示されるように)オペアンプの入力は一つ以上の電極に接続される。感知回路110は、第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配置された電極を介して副交感神経の信号を検出するように作用する。第三脳神経によって伝えられた副交感神経の信号は、他の神経信号と同様に、非常に低い出力の信号である。したがって、感知回路110は、斯かる低い出力の信号を検出することができる。他の副交感神経の信号、例えば、ペースメーカー、心電図、又は除細動器において使用される副交感神経の信号を感知するのに使用される回路は感知回路110の実装について適切である。
【0018】
本発明の他の実施形態では、電極は埋め込み可能な可変抵抗器に電気的に結合され、埋め込み可能な可変抵抗器は毛様体筋の動作を電気的な信号に変換する。この態様では、可変抵抗器(又は他の同様の装置)からの電気的な信号が制御入力として使用される。同一の感知回路110が、可変抵抗器(又は他の同様の装置)からの信号を読み取るのに用いられうる。
【0019】
感知回路110と同様に、フィルター120は任意の多数の異なる態様において実装されることができる。他の受動フィルタ回路のように、図2において示されるRC回路のような単純なRC回路が用いられうる。能動フィルタ回路も適切である。フィルター120の形態は、直面するノイズレベル及び電極の配置に依存する。フィルター120は、感知回路110と増幅回路130との間に配設されるように図1では示されるが、任意の他の適切な場所に配置されてもよい。さらに、一つよりも多い回路が、フィルター120を実装するのに使用されてもよい。他の実施形態では、フィルター120は存在しない。
【0020】
感知回路110及びフィルター120と同様に、増幅回路130は任意の多数の異なる態様において実装されることができる。例えば、単純な電気増幅回路又はオペアンプが用いられることができる。本発明の他の実施形態では、より複雑な増幅回路が使用されうる。オペアンプを増幅回路として使用すると、非常に小さなICパッケージを選択することができる。
【0021】
感知回路110、フィルター120、及び増幅回路130は、図1において別のブロックとして示されるが、単一の基板上に又は単一のICパッケージにおいて一体化されてもよい。
【0022】
図2は、本発明の原理に係る、調節性IOLを制御するための毛様体筋の信号を感知してフィルタリングし且つ増幅するための例示的なシステムの回路図である。図2では、感知回路には、電極220、抵抗R1、及びオペアンプOA1が実装される。ハイパスフィルターにはコンデンサC1及び抵抗R2が実装される。増幅回路には、オペアンプOA2、抵抗R3、及び抵抗R4が実装される。ローパスフィルターには抵抗R5及びコンデンサC2が実装される。
【0023】
電極220は、眼210内において、第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配置される。代替的に、電極220は、実装された可変抵抗器(又は他の同様の装置)に結合され、可変抵抗器(又は他の同様の装置)は毛様体筋の動作を電気的な信号に変換する。典型的には、電極220は、適切な長さの小さなゲージワイヤー(gauge wire)から作られ、毛様体筋を制御する信号を読み取るように眼内に適切に配置される。このため、電極220の長さは眼内における制御システムの形態及び配置に依存する。電極220の遠位端部は、眼内における配置を容易にすべく鋭くされることができ、且つ取り外されないことを確実なものとすべく返しが付けられうる。
【0024】
オペアンプOA1及び抵抗R1は感知回路として作用する。OA1の入力は電極220に電気的に結合される。OA1の出力は、毛様体筋を制御する、第三脳神経によって伝えられた信号を表す。その後、この信号は、OA2の入力に入る前にハイパスフィルター(C1及びR2)によってフィルタリングされる。OA2、R3、及びR4は、フィルタリングされた信号を増幅するように作用する。増幅器のゲインは、一般的に知られているように、R3及びR4の選択に依存する(ゲイン=1+R4/R3)。このため、OA2の出力は、増幅され且つフィルタリングされた信号であり、この信号は、毛様体筋を制御する、第三脳神経によって伝えられた信号を表す。その後、この増幅された信号は、調節性IOLを制御するのに使用される前にローパスフィルター(R5及びC2)によってフィルタリングされる。
【0025】
図2の回路は非常に多くの異なる態様において修正されることができる。例えば、バンドパスフィルターがハイパスフィルター及びローパスフィルターの代わりに使用されてもよい。バンドパスフィルターは感知回路と増幅回路との間(OA1の出力とOA2の入力との間)に配設され又は増幅回路の出力において(OA2の出力において)配設されうる。他の同様の修正も、図2において示される実装に対してなされることができる。
【0026】
実装システム100に使用される回路の種類に拘わらず、システム100の全体的な大きさ及び形状は眼の上に又は眼内において実装するのに適切である。図2において描写された回路は、一般的に知られているように、非常に小さな基板上に実装されることができる。感知すること、光学的にフィルタリングすること、及び機能を増幅することのために必要とされる出力レベルが非常に低いので、回路部品は互いに非常に近くに配置されることができる。システム100の一つの実装では、これら機能を行うのに必要とされる基板は、1mm2程度の基板であり、すなわち、眼内に埋め込まれ且つ調節性電子IOL(electronic accommodative IOL)に結合されるように十分小さい。
【0027】
図3は、本発明の原理に係る、調節性IOLを制御するための毛様体筋の信号を感知して増幅する方法のフローチャートである。310では、毛様体筋を制御する信号が感知される。320では、感知された信号がフィルタリングされる。330では、フィルタリングされた信号が増幅される。340では、増幅された信号が、調節性IOLを制御すべく提供される。前記されたように、フィルタリングは、任意であり、使用される場合、増幅後に行われることができる。
【0028】
上記から、本発明は、毛様体筋を制御する電気的な信号を感知して増幅するための回路を提供することが理解されうる。したがって、本発明は、調節性IOLを制御するのに使用されうる制御システムを提供する。本発明は本明細書において例によって示されたが、様々な修正が当業者によってなされうる。
【0029】
本明細書と、本明細書において開示された本発明の実施例とを考慮すると、本発明の他の実施形態が当業者にとって明らかであるだろう。本明細書及び例が単なる例示として見なされ且つ本発明の真の範囲及び思想が以下の特許請求の範囲によって示されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節性眼内レンズのための制御システムであって、
眼の毛様体筋を制御する信号を感知するための感知回路と、
前記感知された信号を増幅するための増幅回路であって、当該増幅回路の出力が、調節性眼内レンズを制御するのに使用される、増幅回路と
を具備する、制御システム。
【請求項2】
信号をフィルタリングするためのフィルターを更に具備する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記感知回路に電気的に結合された少なくとも一つの電極を更に具備する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも一つの電極が、第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配置されるように構成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも一つの電極が埋め込み可能な可変抵抗器に電気的に結合され、該可変抵抗器が毛様体筋の動作を電気的な信号に変換する、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
調節性眼内レンズであって、前記増幅回路の出力が当該調節性眼内レンズを制御するように前記増幅回路に電気的に結合された調節性眼内レンズを更に具備する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記感知回路及び増幅回路が前記眼内に埋め込まれるのに適切な単一の基板上に配設される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
調節性眼内レンズを制御する方法において、
人間の眼の毛様体筋を制御する信号を感知することと、
該感知された信号を増幅することと、
調節性眼内レンズを制御すべく前記増幅された信号を使用することと
を含む、方法。
【請求項9】
感知され又は増幅された信号をフィルタリングすることを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第三脳神経、毛様体神経節、又は毛様体筋の付近に配設される少なくとも一つの電極から、前記人間の眼の毛様体筋を制御する前記信号を受信することを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
毛様体筋の動作を電気的な信号に変換する埋め込み可能な可変抵抗器に電気的に結合される少なくとも一つの電極から、前記人間の眼の毛様体筋を制御する前記信号を受信することを更に含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−531272(P2012−531272A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517767(P2012−517767)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/039978
【国際公開番号】WO2010/151757
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】