説明

識別マーク付光ファイバの製造方法

【課題】着色層の材料として紫外線硬化型樹脂を用いた場合に、紫外線硬化型インクが未硬化になることなく、且つマイクロベンドロスの発生を効果的に抑制する。
【解決手段】光ファイバ12のセカンダリ層15の表面に光ファイバ識別用の識別マーク11を形成し、識別マーク11の上から紫外線硬化型インクを塗布し、その紫外線硬化型インクを紫外線照射装置で硬化させて識別マーク付光ファイバ10を作製し、紫外線硬化型インクを硬化させる際に照射する紫外線の紫外線硬化型インクにおけるドーズ量を0.1J/m以上、0.3J/m以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの被覆層に光ファイバ識別用の識別マークが付された識別マーク付光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスファイバの外側に比較的ヤング率の低い軟質の樹脂からなるプライマリ層を設け、さらに、その外側にヤング率の高い硬質の樹脂からなるセカンダリ層を設けた構造を有する光ファイバが従来知られている。また、光ファイバの種別を識別するための識別マークを光ファイバに付すことも一般に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光ファイバ素線上に、インクジェットプリンタによりインクを噴射して光ファイバ心線の識別を可能とする識別層(識別マーク)を形成し、その上に透明、あるいは、半透明の着色層を形成した光ファイバケーブルが開示されている。また、特許文献1には、着色層を形成する材料として紫外線硬化型インク(樹脂)を用いることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−77536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、紫外線硬化型インクの硬化が必要以上に進行した場合に発生するマイクロベンドロスについて何ら考慮されていない。具体的には、紫外線の照射量が多すぎて、紫外線硬化型樹脂からなる着色層の硬化が進行すると、着色層の下部にある識別マークがセカンダリ層に押しつけられるという現象が生じる。そして、このような現象が生じると、セカンダリ層の下部にあるプライマリ層や光ファイバ素線までもが圧迫され、マイクロベンドロスが発生してしまう。
【0006】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、着色層の材料として紫外線硬化型インクを用いた場合にマイクロベンドロスの発生を効果的に抑制することができる識別マーク付光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による識別マーク付光ファイバの製造方法では、光ファイバの被覆層の表面に光ファイバ識別用の識別マークを形成し、識別マークの上から紫外線硬化型インクを塗布し、紫外線硬化型インクを紫外線照射装置で硬化させて、識別マーク付光ファイバを作製する。そして、紫外線硬化型インクを硬化させる際に照射する紫外線の紫外線硬化型インクにおけるドーズ量を0.1J/m以上、0.3J/m以下とする。また、紫外線の照射により到達する紫外線照射装置出口における識別マーク付光ファイバの温度を、例えば、40℃以上、90℃以下とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着色層の材料として紫外線硬化型インクを用いた場合に、紫外線硬化型インクが未硬化になることなく、且つ紫外線硬化型インクの硬化が過度に進行しないので、マイクロベンドロスの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバの外観の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバの長手方向断面の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバの製造装置の一例を示す図である。
【図4】紫外線ドーズ量と光ファイバの伝送損失との間の関係の一例を示す図である。
【図5】紫外線ドーズ量と光ファイバの伝送損失との間の関係の別の一例を示す図である。
【図6】紫外線ドーズ量と光ファイバの伝送損失との間の関係の別の一例を示す図である。
【図7】識別マークのパターンについて説明する図である。
【図8】紫外線ドーズ量とFTIRとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバ10の外観の一例を示す図である。図1に示すように、識別マーク付光ファイバ10には、光ファイバの種別を示す識別マーク11が例えば7個連続して連続識別マーク12が形成され、この連続識別マーク12が少し間隔を空けて再度形成される。これを繰り返すことにより、光ファイバ全長に識別マーク11が形成される。各識別マーク11は、インクジェットプリンタによるインクの吹き付け等により形成される。
【0011】
図2は、本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバ10の長手方向断面の一例を示す図である。この識別マーク付光ファイバ10は、ガラスファイバ13、プライマリ層14、セカンダリ層15、識別マーク11、着色層16からなる。ガラスファイバ13の外側をプライマリ層14で、さらにその外側をセカンダリ層15で被覆したものは、光ファイバ素線17とも呼ばれている。
【0012】
ガラスファイバ13は、コア部およびクラッド部を有する、例えば、標準外径が125μmの光導波路である。プライマリ層14は、外径が190〜200μm程度で、比較的ヤング率が低い軟質の樹脂からなる被覆層であり、例えば、プライマリ層14のヤング率は、0.5〜2MPa程度である。セカンダリ層15は、外径が240〜250μm程度で、比較的ヤング率が高い硬質の樹脂からなる被覆層であり、例えば、セカンダリ層15のヤング率は、200〜1000MPa程度である。着色層16は、厚みが5〜10μm程度で、紫外線硬化型インクからなる透明あるいは半透明の着色された層である。使用される紫外線硬化型インクとしては、例えば、ウレタンアクリレートが挙げられる。
【0013】
ここで、識別マーク11は、上述のように、インクジェットプリンタによるリング状のインクの吹き付け等により形成される。この際、インクには表面張力があるため、インクを吹き付けた部分は平らにはならず、識別マーク11の形状は、図2に示すように、クレーター状(断面で見ると凹面上)となる。識別マーク11の高さは、インクジェットプリンタに用いるインクの粘度にもよるが、例えばインクが盛り上がった周辺部分で1.0〜2.5μm、中央部分で0.5〜1.0μmである。
【0014】
そして、このような形状の識別マーク11上に形成された着色層16の硬化が過度に進行すると、識別マーク11がセカンダリ層15に押し付けられ、セカンダリ層15がプライマリ層14に押し付けられ、さらにプライマリ層14がガラスファイバ13に押し付けられる。その結果、側圧がガラスファイバ13に加わることになるため、ガラスファイバ13にマイクロベンドが発生してしまうことがある。このようなことから、本発明では、着色層16の硬化があまり進行しないように、紫外線硬化型インクからなる着色層16の紫外線ドーズ量を調整し、マイクロベンドの発生を抑制する。
【0015】
図3は、本発明の実施形態に係る識別マーク付光ファイバ10の製造装置20の一例を示す図である。図3に示すように、この製造装置20は、サプライボビン21、ローラ22、インクジェットヘッド23、着色層形成装置24、紫外線照射装置25a、25b、制御装置26、キャプスタン27、巻取りボビン28を備える。
【0016】
サプライボビン21は、識別マーク11が付加される光ファイバ素線17を製造装置20に供給するボビンである。ローラ22を介して、光ファイバ素線17を繰り出し、インクジェットヘッド23で、光ファイバ素線17のセカンダリ層15上にインクを噴射して、識別マーク11を形成する。
【0017】
着色層形成装置24は、識別マーク11の上から着色層16を形成する装置である。この着色層形成装置24は、識別マーク11の上から紫外線硬化型インクを塗布して着色層16を形成する。紫外線照射装置25a、25bは、着色層16に紫外線を照射することにより、着色層16を硬化させる装置である。
【0018】
制御装置26は、紫外線照射装置25a、25bの紫外線照射量を制御する装置である。具体的には、制御装置26は、予め設定された光ファイバ素線16の線速に応じて、着色層15の紫外線ドーズ量が、0.1J/m以上、0.3J/m以下の値となるように紫外線照射装置25a、25bを制御する。この数値の根拠については、後に詳しく説明する。その後、ローラ22を介し、キャプスタン27で識別マーク付光ファイバ10を引き取る。巻取りボビン27は、着色層15が硬化した後、キャプスタン27で引き取られた識別マーク付光ファイバ10を巻き取るボビンである。
【0019】
次に、着色層15に対する照射に好適な紫外線のドーズ量について説明する。図4〜図6は、紫外線ドーズ量と光ファイバの伝送損失との間の関係の一例を示す図である。図4〜図6に示す伝送損失は、1,550nmの波長の光に対する伝送損失である。
【0020】
図4〜図6の各例は、光ファイバに形成される識別マークのパターンが異なっている。図7は、識別マークのパターンについて説明する図である。図7(A)は、所定の間隔をあけて連続識別マーク12を1つずつ形成する場合の例である。この例では、7個の識別マーク11を形成した連続識別マーク12の幅が2〜4mmであり、上記所定の間隔は40〜50mmである。
【0021】
図7(B)は、所定の間隔をあけて連続識別マーク12を2つずつ形成する場合の例である。この例でも、連続識別マーク12の幅は図7(A)と同じく2〜4mmであり、上記2つの連続識別マーク12間の間隔は3〜5mmであり、上記所定の間隔は図7(A)と同じく40〜50mmである。
【0022】
図7(C)は、所定の間隔をあけて連続識別マーク12を3つずつ形成する場合の例である。この例でも、連続識別マーク12の幅は図7(A)、(B)と同じく2〜4mmであり、上記3つの連続識別マーク12のうちの隣り合う連続識別マーク12間の間隔は図7(B)と同じく3〜5mmであり、上記所定の間隔は図7(A)、(B)と同じく40〜50mmである。
【0023】
図4は、図7(A)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果であり、図5は、図7(B)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果であり、図6は、図7(C)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果である。
【0024】
図4〜図6のいずれにおいても、紫外線ドーズ量が0.3J/m以下の値である場合は、伝送損失が0.19dB/km程度で一定であるのに対し、紫外線ドーズ量が0.3J/mを超えると、伝送損失が増加するとともに、伝送損失のばらつきが大きくなる。これは、図2に示した識別マーク付光ファイバ10の着色層15の過度な硬化によるものと考えられる。
【0025】
そのため、本実施形態では、制御装置26が、紫外線ドーズ量を0.3J/m以下とするように紫外線照射装置25a、25bを制御する。これにより、マイクロベンドロスの発生を効果的に抑制することができ、光ファイバの伝送損失を小さくすることができる。
【0026】
図8は、紫外線ドーズ量とFTIR(硬化度(キュア度)の指標)との関係を表すグラフである。図8の黒丸は図7(A)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果を示し、図8の四角は図7(B)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果を示し、図8の三角は図7(C)の識別マーク付光ファイバ10を用いて行った実験結果を示す。なお、図8では、識別マークで区別してFTIRの結果を示すようにしたが、FTIRは着色層の硬化度を表すものなので、識別マークのパターン自体は、FTIRの結果に影響を与えるものではない。
【0027】
グラフに示すように、紫外線ドーズ量が低いほど硬化度は悪化し、紫外線ドーズ量が0.1J/m未満であると、硬化度の下限値(FTIR0.34以下)をクリアできなくなる可能性があることが分かる。このため、制御装置26は、紫外線ドーズ量を0.1J/m以上とするように紫外線照射装置25a、25bを制御する。これにより、着色層15に必要な硬化度を確保することができる。
【0028】
なお、紫外線ドーズ量を0.1J/m以上、0.3J/m以下の値とした場合は、紫外線の照射により到達する紫外線照射装置出口における識別マーク付光ファイバ10の温度は、40℃以上、90℃以下となる。このことから、識別マーク付光ファイバ10の温度をモニタすることにより紫外線ドーズ量を推定し、マイクロベンドロスの発生を抑制することも可能である。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で各種の変形、修正が可能である。例えば、上記実施形態では、光ファイバ素線16の一部にリング状のインクを噴射し、図2に示すような識別マーク11を形成することとしたが、識別マークの形状はリング状に限らず、ドット状など、さまざまな形状のものであってよい。また、光ファイバ素線16の外周にリング状の識別マーク(リングマーク)を形成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…識別マーク付光ファイバ、11…識別マーク、12…連続識別マーク、13…光ファイバ、14…プライマリ層、15…セカンダリ層、16…着色層、17…光ファイバ素線、20…製造装置、21…サプライボビン、22…ローラ、23…インクジェットヘッド、24…着色層形成装置、25a,25b…紫外線照射装置、26…制御装置、27…キャプスタン、28…巻取りボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの被覆層の表面に光ファイバ識別用の識別マークが形成され、該識別マークの上から紫外線硬化型インクを塗布し、該紫外線硬化型インクを紫外線照射装置で硬化させて作製する識別マーク付光ファイバの製造方法であって、
前記紫外線硬化型インクを硬化させる際に照射する紫外線の該紫外線硬化型インクにおけるドーズ量を0.1J/m以上、0.3J/m以下とすることを特徴とする識別マーク付光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記紫外線の照射により到達する前記紫外線照射装置出口における前記識別マーク付光ファイバの温度が40℃以上、90℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の識別マーク付光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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