説明

護岸内埋立地盤の圧密減容化方法

【課題】減容化工事を施工する際に、構築されている護岸に応じて、最適な離隔距離とすることができ、少ない海面処分場を有効且つ安全に利用できる護岸内埋立地盤の圧密減容化方法の提供。
【解決手段】水底改良基礎地盤上にケーソン12を並べて設置し、該ケーソン間に水密性目地材13〜15を介在させた遮水構造の護岸内の圧密減容化工事域と護岸間の離隔距離を決定するに際し、ケーソン間の許容目地変位量に基づいて、前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数を算出し、護岸から減容化工事域との離隔距離を任意に複数設定し、その設定された離隔距離毎に、減容化工事を行った際の護岸変位想定量をFEM解析によって算出することにより、任意設定離隔距離毎の護岸変位量を算定し、該任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値と、前記関数とを比較して、最短離隔距離を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の海面処分場の延命化のために、護岸に囲まれた埋立地の地盤を真空圧密工法などの地盤改良工事によって減容化する護岸内埋立地盤の圧密減容化方法であって、減容化工事に際し、減容化工事域と護岸間の距離を好適なものとすることができる工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海面を護岸によって区画されて造成された海面処分場は、その内部を港湾機能維持のために発生した浚渫土の処分場とするとともに産業廃棄物の最終処分場として利用している。このような海面処分場の従来の構築方法は、図7に示すように、護岸1に囲まれた処分場の海底原地盤を掘り下げ、ここから発生する良質の掘削土を漁礁造成等に有効活用し、掘り下げによって広がった処分場内に浚渫土2を投入して埋立地を造成し、その上に建設発生土3を積層して陸地化した後、その上に都市から発生するごみ類等の廃棄物4を積み上げて処分場としている。
【0003】
しかし、近年、このような海面処分場の造成可能域が少なくなり、利用できる処分場をより有効に利用しなければならない状況となっている。このため、図8(a)に示すように浚渫土2によって造成された埋立地盤を、同(b)に示すように、真空圧密などの地盤改良工法によって減容化し、浚渫土等の廃棄物の収容能力を拡大する工法が提案されている。
【0004】
このような浚渫土砂地盤の減容化に際し、減容化域からその周囲の護岸までの距離(以下離隔距離と記す)、即ち離隔距離が小さいと減容化による埋立地盤の変形によって護岸が変位することとなる。一方この護岸内は、建設発生土や生活ごみの最終処分場ともなるものであるから遮水機能を損なわないようにする必要がある。
【0005】
このため従来は、減容化に際しての離隔距離の設定を図6に示すように、減容化域縁部の最下部と護岸に接した埋立地上縁とを結ぶ線の角度を45度とすることによって護岸の遮水機能を損なわないものとされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如き従来の離隔距離の設定方法は、護岸の種類、特にケーソン護岸の基礎地盤の違いには関係なく一律に設定されていたが、本発明者らの実験により、護岸ケーソン下の基礎地盤の性質によって、埋立地盤の減容化工事に際しての護岸の法線直角方向の変位量が変化することが判明し、従来の離隔距離設定方法では、例えばサンドコンパクション工法による改良基礎地盤のように、地盤強度が比較的小さい場合には十分な離隔距離とならず、また深層混合工法による改良基礎地盤のように地盤強度が大きい場合には離隔距離が大きすぎるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、減容化工事を施工する際に、構築されている護岸に応じて、最適な離隔距離とすることができ、少ない海面処分場を有効且つ安全に利用できる護岸内埋立地盤の圧密減容化方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成する請求項1に記載の発明の特徴は、水底改良基礎地盤上にケーソンを並べて設置し、該ケーソン間に水密性目地材を介在させた遮水構造の護岸によって仕切られた埋立域内の地盤を、圧密して減容化する護岸内埋立地盤の圧密減容化方法において、
前記護岸内の圧密減容化工事域と護岸間の離隔距離を決定するに際し、
前記ケーソン間の許容目地変位量に基づいて、前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数を算出し、
前記護岸から減容化工事域との離隔距離を任意に複数設定し、その設定された離隔距離毎に、前記減容化工事を行った際の護岸変位想定量をFEM解析によって算出することにより、任意設定離隔距離毎の護岸変位量を算定し、
該任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値と、前記関数とを比較して、最短離隔距離を決定することにある。
【0009】
請求項2に記載の発明の特徴は、前記請求項1の構成に加え、前記任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値から、離隔距離と護岸変位量との関係を表す近似曲線をグラフに表すとともに、同グラフに前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数の直線を表し、前記近似曲線と一次関数直線との交点の離隔距離を最適離隔距離とすることにある。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明においては、ケーソン間の許容目地変位量に基づいて、前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数を算出するとともに、護岸から減容化工事域との離隔距離を任意に複数設定し、その設定された離隔距離毎に、前記減容化工事を行った際の護岸変位想定量をFEM解析によって算出することにより、任意設定離隔距離毎の護岸変位量を算定し、該任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値と、前記関数とを比較して、最短離隔距離を決定するようにしたことにより、減容化工事施工域に隣接する護岸の基礎地盤の性状及びケーソン護岸の許容目地間隔変化に応じ、護岸の止水性能を維持できる限界の離隔距離を設定することができ、護岸の安全性能を維持しつつ埋立地盤に最大限の減容化工事が行い得る。
【0011】
また、前記任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値から、離隔距離と護岸変位量との関係を表す近似曲線をグラフに表すとともに、同グラフに前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数の直線を表し、前記近似曲線と一次関数直線との交点の離隔距離を最適離隔距離とすることにより、グラフの目視によって、最適な離隔距離を判読することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明における減容化工事の実施の一例を示しており、図中符号10は埋立域を区画する護岸であり、この護岸10は水底改良基礎地盤11の上にケーソン12を並べて設置することによって構築されている。この、ケーソン12,12間には、図2に示すように水密性を維持させる目地材を介在させた遮水構造となっており、円筒状目地材13と吸出し防止目地材14との間にアスファルトマスチック等を使用した半流動性の変形追随性目地材15が充填されて構成されている。
【0013】
護岸10によって囲まれた埋立域内には、浚渫土や原地盤から成る地盤16となっており、この地盤16に対し、護岸であるケーソン12から所定の離隔距離を隔てて減容化域を設定し、その減容化域に真空圧密用のドレーン材17を所定間隔毎に多数打設し、その上端に吸引用ホース18を連結し、該吸引用ホース18を通じてドレーン材17内を減圧することによって圧密させ、減容化させるものである。
【0014】
この減容化工事により、地盤16を沈下させることによって、周囲の地盤に水平力が作用し、この水平力が護岸を構成しているケーソン12にも影響を及ぼすことになる。しかし、その影響が、護岸の止水性能を維持できる範囲であれば、ケーソン12が水平方向に変位しても問題は生じない。
【0015】
このケーソン12の変位が許容範囲内となる限界の離隔距離をとって減容化工事を施すことが、埋立域の有効利用にとって最も合理的となる。
【0016】
そこで本例では、先ず、ケーソン12の水平変位が、護岸の遮水性に影響を及ぼさない範囲の目地変位からの許容水平変位量に関し、離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数を算出するとともに、前記離隔距離を任意に複数設定し、その設定された離隔距離毎に、前記減容化工事を行った際の護岸変位想定量をFEM解析によって算出することにより、任意設定離隔距離毎の護岸変位量を算定し、
該任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値と、前記関数とを比較して、最短離隔距離を決定する
以下に各設定及び最短離隔距離の決定について具体的に説明する。
1.既設護岸の目地変位からの許容水平変位量の設定
まず、護岸ケーソンの目地構造から、許容できる護岸の水平変位量を算出する。
【0017】
本例において対象とした施設は管理型廃棄物処分場の埋立地であり、その処分場護岸の機能から求められている性能については、護岸構造をコンクリートのケーソンであるとして、ケーソン間の目地間隔の変位が目地を設置した時点の開き量を起点に「許容目地変位」以内であることを条件とした。
【0018】
<前提条件>
図3に示すように
1)減容化工事範囲X1と同幅となる護岸部のケーソンは水平に変位(平行移動)し、ケーソン間の目地の開きは生じない。
2)圧密沈下による平面的な影響範囲は45度までとする。
3)平面的に影響範囲外X3のケーソンは水平変位しないものとする。
4)上記1)と3)の範囲X2の間にあるケーソンは両者を擦り付けるような挙動で斜めの変位を示すものとする。
【0019】
<計算方法>
上記、前提条件を踏まえ、許容できる最大の護岸水平変位量を以下の計算式により算定する。
【0020】
許容できる最大の護岸水平変位量B
= 許容目地変位W /ケーソン幅b ×4)に該当するケーソン数の全体長さL
上記計算式のうち許容目地変位、ケーソン幅、ケーソン長さは既知または入力値であるため、「4)に該当する函数a」により、「許容できる最大の護岸水平変位量」が決まることになる。
【0021】
また、影響範囲が45度であることから「4)に該当する函数」と「減容化工事範囲と護岸との離隔距離」は同じであるため、任意に設定する離隔距離に対し、「許容できる最大の護岸水平変位量」が一義的に決まることになり、「許容できる最大の護岸水平変位量」は「減容化工事範囲と護岸との離隔距離」の一次関数となる。
【0022】
例えば目地構造としては、図2に示すように、目地材13〜15はケーソン据付後にある程度安定した状態においてケーソン12,12間の隙間を閉塞させる形状になるように目地材を膨張させて設置・固定した場合、許容目地変位は通常10cm程度であるから、許容目地変位10cm、幅11mである場合の、「許容できる最大の護岸水平変位量B」と「減容化工事範囲と護岸との離隔距離L」との関係は、
B=0.1m/11m×L=0.0091L となる。
【0023】
これをグラフ化すると図4のグラフ中の直線G1となる。

2.既設護岸の基礎地盤条件からの変位量と離隔距離の関係の設定
(1)基礎地盤モデルの設定
対象とする護岸の基礎地盤モデルを設定する。
【0024】
ここで設定する主要な項目は次のとおりである。
【0025】
・現地盤の成層状況
・減容化工事範囲の深度と護岸との距離
・既設護岸の形状(設置水深、地盤改良範囲)
・水位
(2)条件設定
離隔距離とケーソンの水平変位量との関係を設定するにあたり、以下の条件を設定する。
【0026】
・ 減容化工事範囲の負圧作用強度P(kN/m2)と負圧作用期間t(day)
・ 地盤や構造物の物性値
以下にサンドコンパクション工法による改良地盤(SCP改良)であった護岸例と、深層混合工法による改良地盤(CDM改良)であった護岸例についてFEM解析を行った際に入力した具体的物性値(入力条件)は第1表のごとくである。
【0027】
尚、各護岸例の解析断面は図5(a)(b)に示す如くである。また、浚渫土、有楽町層及びSCP改良地盤は、弾塑性材料、CDM改良地盤及びケーソンは弾性材料と設定した。

【0028】
(3)検討ケースの設定
離隔距離を違えて複数の検討ケースを設定する。(本例ではL1〜L4の4ケース)
3.FEM解析
前述した各種設定値を使用し、検討ケース毎にFEM解析によりケーソン水平変位量を算出する。解析にはわが国で地盤の変形解析など多くの実績がある関口太田モデル(弾粘塑性構成モデル)を使用する。
【0029】
解析の対象とするエリア全体を有限の要素に分解し、要素毎に時間断面毎の要素変形状態を解析する。各要素の変形状態結果を用いて解析対象エリア全体の変形状態を計算し、各地点の変位量を求める。
4.FEM解析結果例
護岸基礎地盤が、サンドコンパクション工法による改良地盤(SCP改良)であった護岸例と、深層混合工法による改良地盤(CDM改良)であった護岸例とについて、第1表に示した具体的な設定値を使用しFEM解析を行った。
【0030】
SCP改良例においては離隔距離56m,81m,106m、156mの4検討ケースについて、CDM改良例においては、67.5m,92.5m,117.5m,167.5mの4検討ケースについてそれぞれFEM解析を行った。結果は図4に示すグラフの如くであった。この結果から、離隔距離とケーソン変位量との関係を示す近似曲線J1,J2を同グラフに作成した。
5.最短離隔距離の決定
図4に示すグラフにおける、既設護岸目地変位からの許容水平変位量を表す直線G1とFEM解析による離隔距離とケーソン変位量との関係を示す近似曲線J1,J2の交点が各護岸例における最短離隔距離となる。即ち、この交点より離隔距離が大きい場合には、護岸の水平変位量は目地変位の許容範囲内にあり、逆にこの交点より離隔距離が短い場合には、護岸の水平変位量が水密性を維持できる許容範囲を超えることとなる。
【0031】
本例の護岸例では、SCP改良地盤の場合では65m,CDM改良地盤では20mが目地の水密性維持が可能な最短離隔距離であった。
【0032】
これを角度に換算すると、圧密改良深さが40mであるから、
SCP改良地盤の場合の離隔角度:tan−1(65m/40m)=58度
CDM改良地盤の場合の離隔角度:tan−1(20m/40m)=27度
となる。
【0033】
これを従来使用されていた離隔角度45度と比較すると図6に示す如くであり、本護岸例のSCP改良地盤では、13度も近づき過ぎであること、CDM改良地盤では更に18度近づけることができることが判明した。
【0034】
本発明は、施工する圧密減容化工事毎に、上述した各種設定とFEM解析を行って、その施工現場毎に最適な最短離間距離を設定することが好ましいが、一度上記設定作業を行った後、その施工現場の条件と近似した他の施工現場においては、先に実施した解析結果を使用して最短離間距離を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の圧密減容化方法の一例の概要を示す断面図である。
【図2】同上のケーソン間の目地構造を示す断面図である。
【図3】本発明方法におけるケーソンの目地変位からの許容水平変位量の設定に関する説明図である。
【図4】本発明方法による最短離隔距離を決定に用いるグラフである。
【図5】本発明方法におけるFEM解析を行った護岸例の解析断面であり、(a)はサンドコンパクション工法による改良地盤(SCP改良)護岸例、(b)は深層混合工法による改良地盤(CDM改良)護岸例である。
【図6】本発明方法により決定した離隔距離及び従来行われている離隔距離の比較図である。
【図7】従来の浚渫土及び廃棄物の海面処分場を示す断面図である。
【図8】従来の海面処分場の埋立地盤の減容化工程の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 護岸
11 水底改良基礎地盤
12 ケーソン
13 円筒状目地材
14 吸出し防止目地材
15 変形追随性目地材
16 埋立地盤
17 ドレーン材
18 吸引用ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底改良基礎地盤上にケーソンを並べて設置し、該ケーソン間に水密性目地材を介在させた遮水構造の護岸によって仕切られた埋立域内の地盤を、圧密して減容化する護岸内埋立地盤の圧密減容化方法において、
前記護岸内の圧密減容化工事域と護岸間の離隔距離を決定するに際し、
前記ケーソン間の許容目地変位量に基づいて、前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数を算出し、
前記護岸から減容化工事域との離隔距離を任意に複数設定し、その設定された離隔距離毎に、前記減容化工事を行った際の護岸変位想定量をFEM解析によって算出することにより、任意設定離隔距離毎の護岸変位量を算定し、
該任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値と、前記関数とを比較して、最短離隔距離を決定することを特徴としてなる護岸内埋立地盤の圧密減容化方法。
【請求項2】
前記任意設定離隔距離毎の護岸変位量算定値から、離隔距離と護岸変位量との関係を表す近似曲線をグラフに表すとともに、同グラフに前記離隔距離と該護岸の許容水平変位量との関係を示す一次関数の直線を表し、前記近似曲線と一次関数直線との交点の離隔距離を最適離隔距離とする請求項1に記載の護岸内埋立地盤の圧密減容化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−167707(P2009−167707A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7606(P2008−7606)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(000230973)日本工営株式会社 (39)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】