貝類の育成方法および育成具。
【課題】 立体構造の二重編地が、浮遊幼生が引潮によって沖に流されるのを捕獲し、さらに編地に付着した幼生、さらには住み着いた稚貝、成貝が波で流失するのを抑えることができ、また外敵から貝類を護ることができ、さらにまた、砂地の流失を防ぐことができる、貝類の育成方法を提供すること。
【解決手段】 表部および裏部とも開口しており、かつ開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法、および上記立体構造の編地からなる育成具。
【解決手段】 表部および裏部とも開口しており、かつ開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法、および上記立体構造の編地からなる育成具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体構造を有する編地を用いた貝類の育成方法および同編地からなる貝類の育成具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あさりなどの貝類を育成する方法としては、網を使用する方法(特許文献1)、
さらには波板状トレーを使用する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−270079公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−51883号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような、網を使用する方法では、貝の浮遊幼生が付着しにくいため、幼生は波で沖へ流されてしまう可能性が高いし、また網に住み着いた貝類は発育中に外敵(ヒトデ、かに、蛸など)に攻撃される恐れもあり、また貝類は砂地にもぐり生育するが、その砂地の流失を防ぐことも難しいので、貝類が生息地から散逸あるいは死滅する恐れもある。
また、特許文献2に記載のような、波板状トレーを使用したのでは、貝類が砂地などの砂地にもぐりこむことができないので、貝類の充分な生育が期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、具体的には、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法である。
また、好ましくは、編地として、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地を用いる貝類の育成方法である。また、好ましくは編地として、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地を使用する貝類の育成方法である。
また、本発明は、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地からなる貝類の育成具である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,立体構造の編地が、浮遊幼生が引潮によって沖に流されるのを捕獲し、さらに編地に付着した幼生、さらには住み着いた稚貝、成貝が波で流失するのを抑えることができ、また外敵から貝類を護ることができる。さらにまた、砂地の流失を防ぐことができるため、貝類の生育を促進し、貝類の散逸や死滅を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地としては、図1〜7に示すような、表部及び裏部が六角形のものや、図8〜11に示すような表部及び裏部が菱目形のものなどが代表例として挙げられる。もちろん、これ以外の形状の開口を有するものでもよいが、製造のし易さから、表部および裏部が多角形の場合であり、特に六角形のものや菱目形のものが好適例として挙げられる。
もちろん、表部と裏部が同一の形状である必要はなく、異なる形状であっても、開口部の大きさの異なる場合であってもよい。さらに、表部の開口部と裏部の開口部は、開口部に垂直な方向に同一位置に設けられている必要はなく、すなわち表部と裏部で開口部がずれていても良い。
【0008】
図1は、本発明に使用する立体構造の編地の一例で、その表部の平面図であり、表部に六角形の開口1を有する編地である。
図2は、図1のひとつの六角形の表部の開口と裏部の開口を有する立体構造の編地の斜視図であり、この編地は、表部および裏部の六角形の開口1および2と、表部の編地3と裏部の編地4、さらに表部と裏部を連結する連結糸5からなっている。また、表部の開口1の大きさは裏部の開口2の大きさより大きくなっている。
【0009】
図8は、本発明に使用する立体構造の編地の他の一例の表部の平面図であり、表部には菱目形の開口8を有している。図9は、図8のひし目形の表部の開口と裏部の開口を有する立体構造の編地の斜視図であり、この編地は、表部および裏部の菱目形の開口8および9と、表部の編地10と裏部の編地11、さらに表部と裏部を連結する連結糸12からなっている。また、表部の開口8の大きさは裏部の開口9の大きさと同じである。
【0010】
図3は、図1に使用する立体構造の編地の裏部の平面図であり、裏部に六角形の開口2を有し、さらに開口2の周りに、開口6を有している。
図4は、図3の裏部に開口6を有する編地の斜視図であり、開口6と裏地の編地4とそれを連結している連結糸5からなり、その上部7は閉じている。
【0011】
図5は、図1の表部と図2の裏部を同時に描いた平面図であり、太字線が表部の編地を示し、細字線は裏部の編地を示す。表部の開口1の直下には裏部の開口2があり、開口2の周りには開口6を有し、その上部7は閉じている。
図6は、図5の斜視図であり、表部の開口1と裏部の開口2と開口6とは、連結糸5で連結している。 図7は、図5の編地に連結糸5を描き込んだ平面図である。
【0012】
図1〜7に示す、表部の開口1が、裏部の開口2より大きい編地は、幼生を受け入れやすく、また裏部に開口6を有し、その上部が閉じている構造のものは、砂地とかみ合い、砂地との固定性を増し、砂地の流失を防ぎ、さらには貝類の育成を促進することから好適である。
【0013】
図8〜11に示す、表部の開口8と、裏部の開口9が同じ大きさで連通している編地は、六角形の編地と比べ、表面積当たりの幼生の受け入れが多く、六角形の編地のように部分的に上部が閉じていない為、稚貝・成貝が、自由に上下に移動できる。(誤って上部が閉じている網目に入り込み身動きが束縛されることがない。)
【0014】
本発明の編地としては、上記した図1〜11に示す構造のものが、最良である。また、図1〜7に示す六角形構造の編地の表部と裏部を逆にしたもの、すなわち表部の開口が裏部の開口より小さい構造のものも使用することができる。編地は伸縮自在の構造を有しており、砂地に設置するまではコンパクトな形状であり、設置時は、伸ばされた状態で設置される。なかでも図8〜11に示す、ひし目形構造の編地は、好適である。上部、下部とも開口の大きさが同一であれば、上下表面部の伸縮率が同じであり、収縮率が上下部で変わることは少ない。潮流の方向性、潮流の速さ、潮流の底部の巻き込み強さなどの変化があっても、編地に係る引っ張り強さ等の力は、編地に均一に分散できる。
【0015】
その他、本発明においては、編地の構造として、表部および裏部の開口が連通している立体構造の編地構造であれば、使用できる。たとえば、表部および裏部に同じ大きさの六角形の開口を有する編地、また開口の形状はこれに限定されるものではなく、円形、楕円形、台形、菱目形など種々の形状とすることができる。
【0016】
このような立体構造の編地は、表部および裏部とも多数の開口を有しており、その開口の最小幅は1cm以上であり、厚さが2cm以上であることが好適である。これらの範囲にある場合、貝類、とくにあさりなどの小貝類の育成を十分に行なうことができる。さらに好適には開口の最小幅は1.5cm以上、さらに好適には2cm以上、最適には3cm以上である。また、開口の最大幅は、20cm以下が好ましく、より好ましくは12cm以下、更に好ましくは10cm以下、最も好ましくは6cm以下である。開口の最小幅が1cm以下のものは貝の成長、移動が妨げられ生育には適したものとは言えず、最大幅が20cm以上の場合には、稚貝がヒトデや蛸等に襲われ易い。
【0017】
また、立体構造の編地の厚さについては、上記したように2cm以上が好ましく、より好ましくは2.2cm以上、さらに好ましくは2.5cm以上である。厚さの上限については10cm以下、さらには7cm以下が好適である。ここで、開口の最小幅とは、編地からなる育成具を砂地に敷設したときの、表部および裏部の開口の最小径を言い、また開口の最大幅とは、表部および裏部の開口の最大径を言う編地の厚さが2cm未満の場合には、ヒトデや蛸等により稚貝が襲われ易く、厚さが10cmを超える場合には連結糸が腰折れを生じ易く立体構造を保ち得ない場合がある。
【0018】
本発明において使用する立体構造の編地としては、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地が好適例として挙げられる。
【0019】
地組織の編成糸及び連結糸としては、合成繊維からなるモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸及び紡績糸を用いることができる。なかでもモノフィラメント糸が好ましい。モノフィラメント糸の太さとしては、300〜5000デニール、特に500〜2000デニールが好ましい。連結糸には、編成後に熱セットを行うこともできる。熱セットを行なう場合、形態保持性及び弾力性を有するモノフィラメント糸を用いるのが好ましい。この点でポリエチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントが好ましい。
【0020】
そして、連結糸間の間隔は、0.1〜10mm、さらには0.1〜8mmの範囲が好適である。より好適には、0.1〜6mmの範囲である。繊維素材としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリ乳酸、ポリオレフイン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリビニルアルコール系繊維(ビニロンなど)などが挙げられる。なかでもポリエステル系繊維や、ポリエチレン系繊維が好ましい。
【0021】
もちろん、編成糸および連結糸には、各種の安定剤や着色剤等が添加されていてもよい。特に、日光に照射される場所に長期間、かつ海水に浸漬された状態で用いられることから、安定剤や顔料等が添加されていることは好ましい。もちろん、貝類を忌避あるいは死滅させるような添加剤や人体に害を与えるような物質は使用すべきではない。
【0022】
このような立体構造の編地は、ダブルラッシェル編機を用いて製造することができ、たとえば、特開平2004−270079公報に記載されているような方法により得られる。
【0023】
本発明において、上記した立体構造の編地を砂地に敷設する方法としては、適宜の大きさの立体構造の編地を砂地に敷設し、杭により砂地に固定する方法が好適である。編地の外周部位は、図10〜11に示すように、引っ張り応力に対応できる補強を行い、強度を増すと好適であり、杭による固定は、標準的に編地外周部に打ち込み、補強部位に固定する方法が好適である。
【0024】
また、立体構造の編地は、一部を砂地に埋没させ、一部を砂地表面から露出するように敷設するのが好ましい。露出の程度は、砂地表面から1〜7cm程度、さらには1〜5cm程度であることが、本発明の目的達成のためには好適である。また編地は砂地へ1〜3cm埋没させることが好適である。砂地としては水深3m以内、とくに2m以内、さらには1.5m以内であることが好適である。また水深の下限については、10cm以上、さらには20cm以上、さらには30cm以上が好適である。また、干潮時でも水深は、0cm以上であることが好適である。
【0025】
所定の期間貝類を育成後、たとえばあさりの場合は2~3年後に、成貝を収穫する方法としては、杭を取り除いた後、本発明の育成具を引き上げ、その場合、ほとんどの成貝は砂地に取り残される。その後、砂地をシャベル、さらにはその他のすくい上げ器具または機械を使用することにより成貝が収穫される。
本発明の貝類の生育方法、貝類の生育具が対象とする貝としては、アサリ、ハマグリ、シジミ、その他一般に食料として供される貝類が挙げられる。
【実施例】
【0026】
次に実施例によりさらに、本発明を説明する。
[実施例1]
ダブルラッシェル編機により、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート繊維をポリエステル繊維と略す)繊維からなる1500デニールのモノフィラメント糸を用いて、ポリエステル繊維からなる同モノフィラメント糸を連結糸として用いて得た、図1〜7に示すような六角形の立体構造の編地{最小開口幅(開口部の最小径)4cm、最大開口幅(開口部の最大径)8cm、厚さ4cm、モノフイラメント間の間隔0.2mm、編地の幅80cm、編地の長さ5m}を育成具として使用した。
上記育成具(幅80cm、長さ5m)を2枚幅方向に連結し(全幅80cm、全長さ10m)、これを水深1m(干潮時の水深0m)の砂地に2cm埋め込み、杭を数箇所打ち、育成具を固定した。7ヶ月放置後、アサリの生育状況を調査した。
その結果、育成具を設けた箇所では、5700個/m2の成貝が存在し、育成具を設けていない箇所(海辺から等距離の、水深のほぼ同じ場所)では、20個/m2であり、両者間には著しい差が見られた。
【0027】
[実施例2]
ダブルラッシェル編機により、1500デニールのポリエステル繊維からなるモノフィラメント糸を用いて得た、図8〜11に示すような菱目形の立体構造の編地、マット幅(巻幅)60cm(折畳時)、42目×目合い4cm(菱目目幅)上下開口幅(開口部)4cm、厚さ3cm、編地の幅60cm、編地の長さ15m}を育成具として使用した。
上記育成具(幅60cm、長さ15m)を水深1m(干潮時の水深0m)の砂地に2cm埋め込み、杭を数箇所打ち、育成具を固定した。10ヶ月放置後、アサリの生育状況を調査した。
その結果、育成具を設けた箇所では、5,900個/m2の成貝が存在し、育成具を設けていない箇所(海辺から等距離の、水深のほぼ同じ場所)では、20個/m2であり、両者間に著しい差が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の貝類の育成方法および育成具は、あさり、しじみ、はまぐりなどの貝類の育成に有用であり、とくにあさりの育成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の六角形の開口を有する立体構造の編地の表部の平面図である。
【図2】図1の編地の斜視図である。
【図3】図1の編地の裏部の平面図である。
【図4】図3の編地の平面図である。
【図5】図1の表部と図3の裏部を同時に描いた平面図である
【図6】図5の斜視図である。
【図7】図5に連結糸を描き込んだ平面図である。
【図8】本発明のひし目形の開口を有する立体構造の編地の表部の平面図である。
【図9】図8の編地の斜視図である。
【図10】本発明のひし目形の開口を有する立体構造の編地の表部の編地サイド部の補強部位の平面図である。
【図11】図10の編地の斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 六角形の開口部を有する表部の開口
2 六角形の開口部を有する裏部の開口
3 六角形の開口部を有する表部の編地
4 六角形の開口部を有する裏部の編地
5 六角形の開口部を有する連結糸
6 六角形の開口部を有する裏部の開口
7 六角形の開口部を有する開口6の閉じられた上部
8 ひし目形の開口部を有する表部の開口
9 ひし目形の開口部を有する裏部の開口
ひし目形の開口部を有する表部の編地
11 ひし目形の開口部を有する裏部の編地
ひし目形の開口部を有する連結糸
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体構造を有する編地を用いた貝類の育成方法および同編地からなる貝類の育成具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あさりなどの貝類を育成する方法としては、網を使用する方法(特許文献1)、
さらには波板状トレーを使用する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−270079公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−51883号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような、網を使用する方法では、貝の浮遊幼生が付着しにくいため、幼生は波で沖へ流されてしまう可能性が高いし、また網に住み着いた貝類は発育中に外敵(ヒトデ、かに、蛸など)に攻撃される恐れもあり、また貝類は砂地にもぐり生育するが、その砂地の流失を防ぐことも難しいので、貝類が生息地から散逸あるいは死滅する恐れもある。
また、特許文献2に記載のような、波板状トレーを使用したのでは、貝類が砂地などの砂地にもぐりこむことができないので、貝類の充分な生育が期待できない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、具体的には、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法である。
また、好ましくは、編地として、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地を用いる貝類の育成方法である。また、好ましくは編地として、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地を使用する貝類の育成方法である。
また、本発明は、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地からなる貝類の育成具である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,立体構造の編地が、浮遊幼生が引潮によって沖に流されるのを捕獲し、さらに編地に付着した幼生、さらには住み着いた稚貝、成貝が波で流失するのを抑えることができ、また外敵から貝類を護ることができる。さらにまた、砂地の流失を防ぐことができるため、貝類の生育を促進し、貝類の散逸や死滅を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地としては、図1〜7に示すような、表部及び裏部が六角形のものや、図8〜11に示すような表部及び裏部が菱目形のものなどが代表例として挙げられる。もちろん、これ以外の形状の開口を有するものでもよいが、製造のし易さから、表部および裏部が多角形の場合であり、特に六角形のものや菱目形のものが好適例として挙げられる。
もちろん、表部と裏部が同一の形状である必要はなく、異なる形状であっても、開口部の大きさの異なる場合であってもよい。さらに、表部の開口部と裏部の開口部は、開口部に垂直な方向に同一位置に設けられている必要はなく、すなわち表部と裏部で開口部がずれていても良い。
【0008】
図1は、本発明に使用する立体構造の編地の一例で、その表部の平面図であり、表部に六角形の開口1を有する編地である。
図2は、図1のひとつの六角形の表部の開口と裏部の開口を有する立体構造の編地の斜視図であり、この編地は、表部および裏部の六角形の開口1および2と、表部の編地3と裏部の編地4、さらに表部と裏部を連結する連結糸5からなっている。また、表部の開口1の大きさは裏部の開口2の大きさより大きくなっている。
【0009】
図8は、本発明に使用する立体構造の編地の他の一例の表部の平面図であり、表部には菱目形の開口8を有している。図9は、図8のひし目形の表部の開口と裏部の開口を有する立体構造の編地の斜視図であり、この編地は、表部および裏部の菱目形の開口8および9と、表部の編地10と裏部の編地11、さらに表部と裏部を連結する連結糸12からなっている。また、表部の開口8の大きさは裏部の開口9の大きさと同じである。
【0010】
図3は、図1に使用する立体構造の編地の裏部の平面図であり、裏部に六角形の開口2を有し、さらに開口2の周りに、開口6を有している。
図4は、図3の裏部に開口6を有する編地の斜視図であり、開口6と裏地の編地4とそれを連結している連結糸5からなり、その上部7は閉じている。
【0011】
図5は、図1の表部と図2の裏部を同時に描いた平面図であり、太字線が表部の編地を示し、細字線は裏部の編地を示す。表部の開口1の直下には裏部の開口2があり、開口2の周りには開口6を有し、その上部7は閉じている。
図6は、図5の斜視図であり、表部の開口1と裏部の開口2と開口6とは、連結糸5で連結している。 図7は、図5の編地に連結糸5を描き込んだ平面図である。
【0012】
図1〜7に示す、表部の開口1が、裏部の開口2より大きい編地は、幼生を受け入れやすく、また裏部に開口6を有し、その上部が閉じている構造のものは、砂地とかみ合い、砂地との固定性を増し、砂地の流失を防ぎ、さらには貝類の育成を促進することから好適である。
【0013】
図8〜11に示す、表部の開口8と、裏部の開口9が同じ大きさで連通している編地は、六角形の編地と比べ、表面積当たりの幼生の受け入れが多く、六角形の編地のように部分的に上部が閉じていない為、稚貝・成貝が、自由に上下に移動できる。(誤って上部が閉じている網目に入り込み身動きが束縛されることがない。)
【0014】
本発明の編地としては、上記した図1〜11に示す構造のものが、最良である。また、図1〜7に示す六角形構造の編地の表部と裏部を逆にしたもの、すなわち表部の開口が裏部の開口より小さい構造のものも使用することができる。編地は伸縮自在の構造を有しており、砂地に設置するまではコンパクトな形状であり、設置時は、伸ばされた状態で設置される。なかでも図8〜11に示す、ひし目形構造の編地は、好適である。上部、下部とも開口の大きさが同一であれば、上下表面部の伸縮率が同じであり、収縮率が上下部で変わることは少ない。潮流の方向性、潮流の速さ、潮流の底部の巻き込み強さなどの変化があっても、編地に係る引っ張り強さ等の力は、編地に均一に分散できる。
【0015】
その他、本発明においては、編地の構造として、表部および裏部の開口が連通している立体構造の編地構造であれば、使用できる。たとえば、表部および裏部に同じ大きさの六角形の開口を有する編地、また開口の形状はこれに限定されるものではなく、円形、楕円形、台形、菱目形など種々の形状とすることができる。
【0016】
このような立体構造の編地は、表部および裏部とも多数の開口を有しており、その開口の最小幅は1cm以上であり、厚さが2cm以上であることが好適である。これらの範囲にある場合、貝類、とくにあさりなどの小貝類の育成を十分に行なうことができる。さらに好適には開口の最小幅は1.5cm以上、さらに好適には2cm以上、最適には3cm以上である。また、開口の最大幅は、20cm以下が好ましく、より好ましくは12cm以下、更に好ましくは10cm以下、最も好ましくは6cm以下である。開口の最小幅が1cm以下のものは貝の成長、移動が妨げられ生育には適したものとは言えず、最大幅が20cm以上の場合には、稚貝がヒトデや蛸等に襲われ易い。
【0017】
また、立体構造の編地の厚さについては、上記したように2cm以上が好ましく、より好ましくは2.2cm以上、さらに好ましくは2.5cm以上である。厚さの上限については10cm以下、さらには7cm以下が好適である。ここで、開口の最小幅とは、編地からなる育成具を砂地に敷設したときの、表部および裏部の開口の最小径を言い、また開口の最大幅とは、表部および裏部の開口の最大径を言う編地の厚さが2cm未満の場合には、ヒトデや蛸等により稚貝が襲われ易く、厚さが10cmを超える場合には連結糸が腰折れを生じ易く立体構造を保ち得ない場合がある。
【0018】
本発明において使用する立体構造の編地としては、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地が好適例として挙げられる。
【0019】
地組織の編成糸及び連結糸としては、合成繊維からなるモノフィラメント糸、マルチフィラメント糸及び紡績糸を用いることができる。なかでもモノフィラメント糸が好ましい。モノフィラメント糸の太さとしては、300〜5000デニール、特に500〜2000デニールが好ましい。連結糸には、編成後に熱セットを行うこともできる。熱セットを行なう場合、形態保持性及び弾力性を有するモノフィラメント糸を用いるのが好ましい。この点でポリエチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントが好ましい。
【0020】
そして、連結糸間の間隔は、0.1〜10mm、さらには0.1〜8mmの範囲が好適である。より好適には、0.1〜6mmの範囲である。繊維素材としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリ乳酸、ポリオレフイン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリビニルアルコール系繊維(ビニロンなど)などが挙げられる。なかでもポリエステル系繊維や、ポリエチレン系繊維が好ましい。
【0021】
もちろん、編成糸および連結糸には、各種の安定剤や着色剤等が添加されていてもよい。特に、日光に照射される場所に長期間、かつ海水に浸漬された状態で用いられることから、安定剤や顔料等が添加されていることは好ましい。もちろん、貝類を忌避あるいは死滅させるような添加剤や人体に害を与えるような物質は使用すべきではない。
【0022】
このような立体構造の編地は、ダブルラッシェル編機を用いて製造することができ、たとえば、特開平2004−270079公報に記載されているような方法により得られる。
【0023】
本発明において、上記した立体構造の編地を砂地に敷設する方法としては、適宜の大きさの立体構造の編地を砂地に敷設し、杭により砂地に固定する方法が好適である。編地の外周部位は、図10〜11に示すように、引っ張り応力に対応できる補強を行い、強度を増すと好適であり、杭による固定は、標準的に編地外周部に打ち込み、補強部位に固定する方法が好適である。
【0024】
また、立体構造の編地は、一部を砂地に埋没させ、一部を砂地表面から露出するように敷設するのが好ましい。露出の程度は、砂地表面から1〜7cm程度、さらには1〜5cm程度であることが、本発明の目的達成のためには好適である。また編地は砂地へ1〜3cm埋没させることが好適である。砂地としては水深3m以内、とくに2m以内、さらには1.5m以内であることが好適である。また水深の下限については、10cm以上、さらには20cm以上、さらには30cm以上が好適である。また、干潮時でも水深は、0cm以上であることが好適である。
【0025】
所定の期間貝類を育成後、たとえばあさりの場合は2~3年後に、成貝を収穫する方法としては、杭を取り除いた後、本発明の育成具を引き上げ、その場合、ほとんどの成貝は砂地に取り残される。その後、砂地をシャベル、さらにはその他のすくい上げ器具または機械を使用することにより成貝が収穫される。
本発明の貝類の生育方法、貝類の生育具が対象とする貝としては、アサリ、ハマグリ、シジミ、その他一般に食料として供される貝類が挙げられる。
【実施例】
【0026】
次に実施例によりさらに、本発明を説明する。
[実施例1]
ダブルラッシェル編機により、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート繊維をポリエステル繊維と略す)繊維からなる1500デニールのモノフィラメント糸を用いて、ポリエステル繊維からなる同モノフィラメント糸を連結糸として用いて得た、図1〜7に示すような六角形の立体構造の編地{最小開口幅(開口部の最小径)4cm、最大開口幅(開口部の最大径)8cm、厚さ4cm、モノフイラメント間の間隔0.2mm、編地の幅80cm、編地の長さ5m}を育成具として使用した。
上記育成具(幅80cm、長さ5m)を2枚幅方向に連結し(全幅80cm、全長さ10m)、これを水深1m(干潮時の水深0m)の砂地に2cm埋め込み、杭を数箇所打ち、育成具を固定した。7ヶ月放置後、アサリの生育状況を調査した。
その結果、育成具を設けた箇所では、5700個/m2の成貝が存在し、育成具を設けていない箇所(海辺から等距離の、水深のほぼ同じ場所)では、20個/m2であり、両者間には著しい差が見られた。
【0027】
[実施例2]
ダブルラッシェル編機により、1500デニールのポリエステル繊維からなるモノフィラメント糸を用いて得た、図8〜11に示すような菱目形の立体構造の編地、マット幅(巻幅)60cm(折畳時)、42目×目合い4cm(菱目目幅)上下開口幅(開口部)4cm、厚さ3cm、編地の幅60cm、編地の長さ15m}を育成具として使用した。
上記育成具(幅60cm、長さ15m)を水深1m(干潮時の水深0m)の砂地に2cm埋め込み、杭を数箇所打ち、育成具を固定した。10ヶ月放置後、アサリの生育状況を調査した。
その結果、育成具を設けた箇所では、5,900個/m2の成貝が存在し、育成具を設けていない箇所(海辺から等距離の、水深のほぼ同じ場所)では、20個/m2であり、両者間に著しい差が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の貝類の育成方法および育成具は、あさり、しじみ、はまぐりなどの貝類の育成に有用であり、とくにあさりの育成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の六角形の開口を有する立体構造の編地の表部の平面図である。
【図2】図1の編地の斜視図である。
【図3】図1の編地の裏部の平面図である。
【図4】図3の編地の平面図である。
【図5】図1の表部と図3の裏部を同時に描いた平面図である
【図6】図5の斜視図である。
【図7】図5に連結糸を描き込んだ平面図である。
【図8】本発明のひし目形の開口を有する立体構造の編地の表部の平面図である。
【図9】図8の編地の斜視図である。
【図10】本発明のひし目形の開口を有する立体構造の編地の表部の編地サイド部の補強部位の平面図である。
【図11】図10の編地の斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 六角形の開口部を有する表部の開口
2 六角形の開口部を有する裏部の開口
3 六角形の開口部を有する表部の編地
4 六角形の開口部を有する裏部の編地
5 六角形の開口部を有する連結糸
6 六角形の開口部を有する裏部の開口
7 六角形の開口部を有する開口6の閉じられた上部
8 ひし目形の開口部を有する表部の開口
9 ひし目形の開口部を有する裏部の開口
ひし目形の開口部を有する表部の編地
11 ひし目形の開口部を有する裏部の編地
ひし目形の開口部を有する連結糸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法。
【請求項2】
編地が、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地である請求項1記載の貝類の育成方法。
【請求項3】
編地が、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地である請求項1または2記載の貝類の育成方法。
【請求項4】
表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地からなる貝類の育成具。
【請求項5】
編地が、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地からなる請求項4記載の貝類の育成具。
【請求項6】
編地が、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地である請求項4または5記載の貝類の育成具。
【請求項1】
表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地を砂地に敷設する貝類の育成方法。
【請求項2】
編地が、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地である請求項1記載の貝類の育成方法。
【請求項3】
編地が、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地である請求項1または2記載の貝類の育成方法。
【請求項4】
表部および裏部に連通した開口を有する立体構造の編地からなる貝類の育成具。
【請求項5】
編地が、開口の最小幅が1cm以上、厚さが2cm以上である立体構造の編地からなる請求項4記載の貝類の育成具。
【請求項6】
編地が、編成糸により経編編成された表部及び裏部を連結糸により連結した立体構造の編地である請求項4または5記載の貝類の育成具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−82537(P2007−82537A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223735(P2006−223735)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】
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