負圧式倍力装置
【課題】 簡素でコンパクトな構成を有し、かつ緊急ブレーキ用特性が得られる際の閾値が安定した負圧式倍力装置の耐久性を向上させること。
【解決手段】 スライドバルブ60を前方所定位置に保持する保持機構は、パワーピストン30に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材64と、これを径内方に向けて付勢するガータースプリング65を備えている。係止部材64には、パワーピストン30と係合して係止部材64の径外方への移動を規制する突起64fと、スライドバルブ60に設けたバルブ側フック60bと係合離脱可能でガータースプリング65等とにより前記保持機構を構成する係止側フック64aが設けられている。プランジャ41がパワーピストン30に対し所定値より大きく前進すると、プランジャ41の押動斜面41dで係止部材64の受動斜面64cが前方及び径外方に押動されて、係止側フック64aがバルブ側フック60bから離脱する。
【解決手段】 スライドバルブ60を前方所定位置に保持する保持機構は、パワーピストン30に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材64と、これを径内方に向けて付勢するガータースプリング65を備えている。係止部材64には、パワーピストン30と係合して係止部材64の径外方への移動を規制する突起64fと、スライドバルブ60に設けたバルブ側フック60bと係合離脱可能でガータースプリング65等とにより前記保持機構を構成する係止側フック64aが設けられている。プランジャ41がパワーピストン30に対し所定値より大きく前進すると、プランジャ41の押動斜面41dで係止部材64の受動斜面64cが前方及び径外方に押動されて、係止側フック64aがバルブ側フック60bから離脱する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置に関し、特に、緊急ブレーキ時のブレーキペダル踏力の不足を補うことができるようにした負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような負圧式倍力装置の一つとして、ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁に結合されたパワーピストンと、このパワーピストン内にて同パワーピストンに対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記パワーピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記パワーピストンと前記入力部材間にて前記パワーピストンに同軸的かつ前後進可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持機構と、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動機構と、前記パワーピストンと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰機構とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記パワーピストン及び/又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記パワーピストン内に組付けられた制御弁を備えた負圧式倍力装置があり、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4273931号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置において、前記保持機構は、前記パワーピストン(30)に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材(64)と、この係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)を備えていて、前記係止部材(64)には、前記スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)と係合離脱可能で前記付勢部材(65)とにより前記保持機構を構成する係止側フック(64a)が設けられている。なお、後方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキペダル側あるいは車両後方側を意味し、前方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキマスタシリンダ側あるいは車両前方側を意味する。
【0005】
また、上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置では、係止部材(64)に設けた係止側フック(64a)、スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)、係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)等がスライドバルブ(60)を前方所定位置に保持する保持機構として機能する。また、入力部材(40)に設けた押動部(プランジャ41の押動斜面41d)、係止部材(64)に設けた受動部(斜面64c)、スライドバルブ(60)を後方に付勢する付勢部材(スプリング62)等がスライドバルブ(60)を後方位置に所定量移動させる可動機構として機能する。
【0006】
かかる構成では、車両走行時の緊急ブレーキ時に、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進すると、入力部材(40)の押動部(プランジャ41の押動斜面41d)によって係止部材(64)の受動部(斜面64c)が付勢部材(ガータースプリング65)の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)が係止部材(64)の係止側フック(64a)との係合を解かれて離脱し、スライドバルブ(60)が付勢部材(スプリング62)により後方位置に所定量移動させられる。これにより、当該負圧式倍力装置がブレーキアシスト作動状態となる。
【発明の概要】
【0007】
ところで、上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置では、長期間の使用等に際して、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進する作動(かかる作動は、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動(BA作動)、すなわち、車両走行時において運転者がブレーキペダルを所定値より早い速度で設定値より小さな踏力にて踏み込む作動や、車両停車時において運転者がブレーキペダルを所定値より遅い速度で設定値より大きな踏力にて踏み込む作動によって得られる)が過度に繰り返されると、スライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)と係止部材(64)の係止側フック(64a)との係合部(この係合部には、パワーピストン(30)が復帰位置から前方に移動しているとき、付勢部材(スプリング62)の付勢力が作用していて、両フックの係合が解かれて離脱する際の摺動時には、大きな摩耗が発生し易い)において、過度の摩耗が生じることがある。
【0008】
この場合には、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良に起因して、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進しない場合(車両走行時の通常ブレーキ時)において、係止部材(64)の係止側フック(64a)がスライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)との係合を解かれて離脱するおそれがあり、スライドバルブ(60)が付勢部材(スプリング62)により後方位置に所定量移動させられて、ブレーキアシスト作動状態となるおそれがある。なお、上記した過度の摩耗は、係止部材(64)とスライドバルブ(60)の各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とすることにより解消し得るものの、耐摩耗素材は高価であって大幅なコストアップを強いられる。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、上記した形式の負圧式倍力装置において、前記保持機構は、前記パワーピストン(30)に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材(64)と、この係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)を備えていて、前記係止部材(64)には、前記スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)と係合離脱可能で前記付勢部材(65)とにより前記保持機構を構成する係止側フック(64a)が設けられており、
かつ、前記パワーピストン(30)と前記係止部材(64)間には、前記係止部材(64)の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、
この規制機構では、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値以下であって前記バルブ側フック(60b)と前記係止側フック(64a)が係合しているときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が規制され、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が許容されるように設定されていることに特徴がある。
【0010】
この負圧式倍力装置においては、前記パワーピストン(30)と前記係止部材(64)間に、前記係止部材(64)の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、この規制機構では、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が許容されるように設定されている。このため、車両走行時の緊急ブレーキ時に、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進すると、前記規制機構にて前記係止部材(64)の径外方への移動が許容される。したがって、前記規制機構が設けられていない場合と同様の作動が得られて、所期のブレーキアシスト作動が得られる。
【0011】
ところで、上記した規制機構では、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下であって、前記バルブ側フックと前記係止側フックが係合しているときには、前記係止部材の径外方への移動が規制されるように設定されている。このため、長期間の使用等に際して、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動等が過度に繰り返されて、スライドバルブのバルブ側フックと係止部材の係止側フックとの係合部において、過度の摩耗が生じた場合であっても、入力部材のパワーピストンに対する前進量が所定値以下であれば、上記した規制機構が係止部材の径外方への移動を規制して、係止側フックがバルブ側フックから離脱する作動を規制する。
【0012】
したがって、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良が生じた場合においても、入力部材がパワーピストンに対して所定値より大きく前進しない場合(通常ブレーキ時)において、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動状態となることが防止され、所期の作動が得られる。また、本発明は、パワーピストンと係止部材間に、係止部材の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構を設けることにより、実施することが可能であって、係止部材とスライドバルブの各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とする場合に比して、安価に実施することが可能である。
【0013】
また、本発明に実施に際して、前記規制機構は、前記係止部材に一体的に形成されて前記パワーピストンに対して係合離脱可能な突起(64f)を備えていて、この突起と前記パワーピストンには、軸方向にて摺動可能に係合する径方向対向面がそれぞれ設けられていることも可能である。この場合には、当該負圧式倍力装置の構成部品点数を増加させることなく規制機構を構成することが可能であり、規制機構をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0014】
なお、本発明に実施に際して、前記規制機構は、前記係止部材の前記係止側フックより径外方にある中間部位に設けられて前記パワーピストンとの係合によって前記係止部材の径内端部と径外端部を前後方向にて傾動可能とする半球状突部(164f)と、前記パワーピストンに設けられて前記半球状突部を支点とする前記係止部材の傾動時に前方に傾動している状態の前記径外端部の径外方への移動を規制するストッパ(132)を備えていることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1および図2に示したパワーピストン単体の側面図である。
【図4】図1および図2に示したパワーピストン単体の平面図である。
【図5】図3のA−A線に沿った断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿った断面図である。
【図7】図1および図2に示したスライドバルブ単体の正面図である。
【図8】図7に示したスライドバルブ単体の側面図である。
【図9】図7に示したスライドバルブ単体の平面図である。
【図10】図1および図2に示した係止部材単体の正面図である。
【図11】図10に示した係止部材単体の側面図である。
【図12】図10に示した係止部材単体の底面図である。
【図13】図2に示した係止部材の係止側フックとスライドバルブのバルブ側フックが係合した状態の作動説明図である。
【図14】パワーピストンと係止部材間に設けられる規制機構の他の実施形態を示した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図13は本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示していて、この実施形態の負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられた可動隔壁20とパワーピストン30を備えるとともに、パワーピストン30に組付けられた入力部材40と出力部材50とスライドバルブ60と制御弁70等を備えている。
【0017】
ハウジング10は、図1に示したように、前方シェル11と後方シェル12を備えていて、内部空間Roが可動隔壁20によって負圧導入管13を通して負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通する定圧室R1と、この定圧室R1と大気にそれぞれ連通・遮断する変圧室R2とに区画されている。このハウジング10は、ハウジング10と可動隔壁20を気密的に貫通する複数本(図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部にて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部には、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0018】
可動隔壁20は、金属製のプレート21とゴム製のダイアフラム22とから成り、ハウジング10に対して前後方向へ移動可能に設置されている。ダイアフラム22は、その外周縁に形成されたビード部にて、後方シェル12の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル11とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム22は、その内周縁に形成されたビード部にて、パワーピストン30の前方フランジ部外周に設けられた溝30mに、プレート21とともに気密的に固定されている。
【0019】
図1に示したブレーキマスタシリンダ100は、そのシリンダ本体101の後端部101aが前方シェル11に形成された中心筒部を貫通して定圧室R1内に気密的に突入し、またシリンダ本体101に形成されたフランジ部101bの後面が前方シェル11の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ100のピストン102は、シリンダ本体101から後方に突出して定圧室R1内に突入しており、出力部材50の先端によって前方に押動されるように構成されている。
【0020】
パワーピストン30は、図2〜図6に示したように、可動隔壁20に結合された中空状のピストンであって、円筒状に形成された部位にてハウジング10の後方シェル12に気密的かつ前後方向へ移動可能に組付けられており、ハウジング10の前方シェル11との間に介装されたスプリング31(図1参照)によって後方に付勢されている。また、パワーピストン30の軸心には、図2に示したように、前端面から後端面に向けて、反力室孔30a、反力室孔30aより小径の当接部材収納孔30b、プランジャ収納孔30c、プランジャ収納孔30cより大径のプランジャ・バルブ収納孔30d、制御弁収納孔30e、フィルタ収納孔30f等が順次設けられていて、反力室孔30aに対して連続的で当接部材収納孔30bに対して同心的に環状凹溝30gが設けられている。
【0021】
また、パワーピストン30には、プランジャ収納孔30cに対応して係止部材取付孔30hが半径方向に設けられるとともに、プランジャ・バルブ収納孔30dに対応してキー部材挿通孔30iが径方向に設けられている。また、パワーピストン30には、定圧室R1と制御弁収納孔30eを連通可能な一対の連通孔30j(図2および図5参照)が設けられていて、これら各連通孔30jの後端部には制御弁70の負圧弁部70aが着座可能な円弧状負圧弁座30kが形成されている。
【0022】
入力部材40は、パワーピストン30内にて同パワーピストン30に対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける部材であり、パワーピストン30の当接部材収納孔30bから制御弁収納孔30eに収容されてパワーピストン30に対して軸方向(前後方向)に移動可能なプランジャ41と、このプランジャ41に球状先端部42aにて関節状に連結されて後端部42bにてブレーキペダル(図示省略)に連結される入力ロッド42を備えている。
【0023】
プランジャ41は、図2にて示したように、その先端にてパワーピストン30の当接部材収納孔30bに軸方向へ移動可能に組付けられた当接部材81を介してパワーピストン30の反力室孔30aに収容された反力部材82に係合可能であり、その後端には制御弁70の大気弁部70bに離座可能に着座する環状の大気弁座41aが形成されている。反力部材82は、リアクションゴムディスクであり、出力部材50における後方部材51の円筒部51a内に収容された状態にてパワーピストン30の反力受け面(環状の前面)に当接するとともに、当接部材81の前面に当接可能となっている。
【0024】
出力部材50は、反力部材82とともにパワーピストン30の反力室孔30aと環状凹溝30gに軸方向へ移動可能に組付けられた後方部材51と、この後方部材51の先端部に一体的に組付けられた出力ロッド52(図1参照)によって構成されていて、出力ロッド52の先端はブレーキマスタシリンダ100におけるピストン102の係合部に押動可能に当接している。
【0025】
スライドバルブ60は、図2と図7〜図9に示したように、パワーピストン30と入力部材40間にてパワーピストン30に気密用シールリング61を介して同軸的かつ前後進可能(軸方向移動可能)に組付けられていて、パワーピストン30とスライドバルブ60間に介装したスプリング62により後方に付勢されており、その後端には制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座可能な第2の負圧弁座60aが形成されている。また、スライドバルブ60は、その軸方向移動位置がパワーピストン30に組付けたキー部材63、係止部材64、ガータースプリング65等によって規定されるように構成されている。
【0026】
また、スライドバルブ60は、その前端部外周に一対の円弧状バルブ側フック60bと一対の円弧状押動斜面60cを有し、その中間部に環状シール取付溝60dと係止面60eを有している。円弧状のバルブ側フック60bは、係止部材64の後方内端に形成された円弧状の係止側フック64aに係合離脱可能であり、円弧状の押動斜面60cは、係止部材64の後方内端に形成された円弧状の受動斜面64bに係合離脱可能である。また、係止面60eは、キー部材63の前面と係合離脱可能である。
【0027】
キー部材63は、パワーピストン30に対するプランジャ41とスライドバルブ60の軸方向移動を規定するために、パワーピストン30に形成された径方向のキー部材挿通孔30iに挿通されている。キー部材63の前後方向の肉厚寸法は、キー部材挿通孔30iの前後方向寸法よりも小さく、キー部材63は、パワーピストン30に対して所定量だけ前後方向に移動可能である。
【0028】
このキー部材63は、パワーピストン30から径外方に突出した両端部の後端面にて後方シェル12に当接可能であり、ハウジング10に対するパワーピストン30の後方への移動限界位置(復帰位置)は、図2に示すように、キー部材挿通孔30iの前方壁がキー部材63の前端面に当接しかつキー部材63の両端部の後端面が後方シェル12に当接した位置である。また、キー部材63は、その中央部にて、プランジャ41の中央部に形成された環状溝の前後両端面41b,41cに当接可能であり、パワーピストン30に対するプランジャ41の後方への移動限界位置は、環状溝の前端面41bがキー部材63の前端面に当接しかつキー部材63の後端面がキー部材挿通孔30iの後方壁に当接した位置である。また、パワーピストン30に対するプランジャ41の前方への移動限界位置は、環状溝の後端面41cがキー部材63の後端面に当接しかつキー部材63の前端面がキー部材挿通孔30iの前方壁に当接した位置である。
【0029】
また、キー部材63は、その中央部前面にて、スライドバルブ60の中間部に形成された係止面60eに当接可能であり、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して後方位置に移動している状態にて、パワーピストン30とスライドバルブ60がハウジング10に対して図2に示した所定位置(復帰位置)に戻る場合には、パワーピストン30の後方への移動を規制する前にスライドバルブ60の後方への移動を規制して、スライドバルブ60をパワーピストン30に対して前方所定位置に復帰させる。
【0030】
係止部材64は、図1および図2と図10〜図12に示したように、パワーピストン30の外周からパワーピストン30に形成された径方向の係止部材取付孔30hに半径方向にて直線的に移動可能に組付けられていて、パワーピストン30の外周に向けて突出可能であり、パワーピストン30の外周に装着したガータースプリング65によって半径方向内方に向けて付勢されている。なお、この実施形態においては、図示省略されているが係止部材64が一対2個用いられていて、径方向にて対向配置されている。
【0031】
この係止部材64においては、図2および図10〜図12に示したように、スライドバルブ60における円弧状のバルブ側フック60bと係合離脱可能な円弧状の係止側フック64aと、スライドバルブ60における円弧状の押動斜面60cと係合離脱可能な円弧状の受動斜面64bと、プランジャ41に形成された環状の押動斜面41dと係合離脱可能な円弧状の受動斜面64cが内端部に形成され、パワーピストン30の係止部材取付孔30hに形成した一対のストッパ30h1(図4および図6の段部参照)と当接可能な一対の段部64dが中間部に形成され、ガータースプリング65の取付溝64eが外端部に形成されている。
【0032】
このため、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下の場合には、プランジャ41に形成された押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合しなくて、スライドバルブ60のバルブ側フック60bと係止部材64の係止側フック64aの係合が保持され、図2に示したように、スライドバルブ60が前方所定位置に保持される。したがって、係止部材64の係止側フック64a、スライドバルブ60のバルブ側フック60b、ガータースプリング65等がスライドバルブ60を前方所定位置に保持する保持機構として機能する。
【0033】
なお、ガータースプリング65は、パワーピストン30に設けた環状の取付溝30nと係止部材64に設けた取付溝64eに組付けられていて、パワーピストン30が復帰位置にあるとき、図2に示した位置(係止部材64の前端面とパワーピストン30の係止部材取付孔30hにおける前端面が接する位置)にて、係止部材64をパワーピストン30の径内方に向けて所要の付勢力にて付勢している。
【0034】
また、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きい場合には、プランジャ41に形成された押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ60がスプリング62により後方位置に所定量移動させられ、スライドバルブ60の後端に形成された第2の負圧弁座60aが制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座する。したがって、プランジャ41の押動斜面41d、係止部材64の受動斜面64c、スプリング62等がスライドバルブ60を後方位置に所定量移動させる可動機構として機能する。
【0035】
また、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して後方位置に移動している状態にて、パワーピストン30とスライドバルブ60がキー部材63の機能によってハウジング10に対して図2に示した所定位置に戻る場合には、パワーピストン30が所定位置に戻る直前に、スライドバルブ60が所定位置に戻って停止するため、係止部材64の受動斜面64bがスライドバルブ60の押動斜面60cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0036】
このため、パワーピストン30が所定位置に戻ったときには、係止部材64がガータースプリング65の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bに再係合する。したがって、キー部材63、スライドバルブ60の押動斜面60c、係止部材64の受動斜面64b、ガータースプリング65等がスライドバルブ60を前方所定位置に復帰させる復帰機構として機能する。
【0037】
また、この実施形態においては、係止部材64の内端部に、パワーピストンに対して係合離脱可能な円弧状の突起64fが一体的に形成されている。この突起64fは、図2および図10〜図13に示したように、受動斜面64cの後端から後方に所要量突出していて、この突起64fの外周側とパワーピストン30の筒部内周側には、軸方向にて摺動可能に係合し得る径方向対向面(突起64fの外周面とパワーピストン30の筒部内周面)がそれぞれ設けられている。
【0038】
また、この実施形態においては、係止部材64がパワーピストン30の係止部材取付孔30hに対して軸方向(前後方向)に所要量移動可能に組付けられていて、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック60bと係止側フック64aが係合しているとき(パワーピストン30が図2に示した復帰位置から前方に移動していて、スライドバルブ60と係止部材64が図13に示した状態であるとき)には、突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面に係合可能であって、係止部材64の径外方への移動が規制されるように設定されている。
【0039】
また、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材64がプランジャ41によって押されて前方に所要量(図13の状態における係止部材64の前端面とパワーピストン30の係止部材取付孔30hにおける前端面間の隙間に相当する量)移動することにより、突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面から前方に離れて、突起64fとパワーピストン30の係合が解かれ、係止部材64の径外方への移動が許容されるように設定されている。したがって、係止部材64に形成した突起64fとこれが係合離脱可能なパワーピストン30の筒部が、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構として機能する。
【0040】
制御弁70は、上記した負圧弁部70a、大気弁部70bおよび第2の負圧弁部70cを有する環状の可動部70Aと、パワーピストン30の制御弁収容孔30eに形成された段部に気密的に嵌合固定された環状の固定部70Bと、環状の可動部70Aと環状の固定部70Bを連結する円筒状の蛇腹部70Dによって構成されている。環状の可動部70Aは、入力ロッド42間に介装したスプリング71によって前方に向けて付勢されていて、前後方向に移動可能である。環状の固定部70Bは、入力ロッド42間に介装したスプリング72によって前方に向けて付勢されていて、パワーピストン30に固定されている。なお、環状の固定部70Bとスプリング72間にはリテーナ73が介装され、入力ロッド42とスプリング72間にはリテーナ74が介装されている。
【0041】
負圧弁部70aは、パワーピストン30に形成された一対の円弧状負圧弁座30kに着座・離座可能であり、円弧状負圧弁座30kへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、円弧状負圧弁座30kからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。大気弁部70bは、プランジャ41に形成された環状の大気弁座41aに着座・離座可能であり、環状の大気弁座41aへの着座によって変圧室R2と大気の連通を遮断し、環状の大気弁座41aからの離座によって変圧室R2と大気を連通させる。第2の負圧弁部70cは、スライドバルブ60に形成された第2の負圧弁座60aに着座・離座可能であり、第2の負圧弁座60aへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、第2の負圧弁座60aからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。
【0042】
フィルタ91は、パワーピストン30のフィルタ収容孔30f内にて入力ロッド42間に装着されていて、このフィルタ91にはパワーピストン30の摺動部を外周から保護するブーツ92に形成された通気孔92aを通して大気が流入可能である。ブーツ92は、前端部にてハウジング10における後方シェル12の後端筒部に嵌合固定され、後端部にて入力ロッド42の中間部外周に嵌合固定されている。
【0043】
上記のように構成したこの実施形態の負圧式倍力装置においては、通常ブレーキ時、入力部材40、パワーピストン30等が前方に移動するものの、入力部材40とパワーピストン30との相対移動量(パワーピストン30に対する入力部材40の前進量)が所定値以下であるため、図13に示したように、プランジャ41の押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合せず、スライドバルブ60は図13に示した前方所定位置(図2に示した位置(バルブ側フック60bと係止側フック64a間に僅かな隙間が在る位置)より僅かに後方に移動してバルブ側フック60bが係止側フック64aに係合している位置)に保持される。したがって、このときには、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して前方所定位置から移動せず、一般的に知られている通常ブレーキ作動が得られる。
【0044】
一方、運転者が慌ててブレーキペダル(図示省略)を速く踏み込む緊急ブレーキ時には、入力部材40とパワーピストン30との相対移動量(パワーピストン30に対する入力部材40の前進量)が所定値より大きくなる。このときには、プランジャ41の押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合して、係止部材64を所要量前方に押動するとともに半径方向外方に押動するため、係止部材64の突起64fとパワーピストン30の係合が解かれて、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ60がスプリング62により後方位置に所定量移動させられる。
【0045】
また、スライドバルブ60が後方に移動すると、スライドバルブ60の後端に形成された第2の負圧弁座60aが制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座し、定圧室R1と変圧室R2との連通を遮断する。このとき、プランジャ41は、入力ロッド42と一体で前方へ移動中であり、スライドバルブ60が制御弁70の可動部70Aを後方へ押し戻しているため、プランジャ41の後端に形成された環状の大気弁座41aと制御弁70の大気弁部70bとが急速に離間し、変圧室R2が大気と連通する。その結果、通常ブレーキ動作に比べ、定圧室R1と変圧室R2との連通遮断及び変圧室R2と大気との連通が急速に行われ、ジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくすることが可能となり、通常ブレーキ時より大きな推進力(出力)を得ることが可能となる。
【0046】
また、上記した緊急ブレーキ動作が終了してブレーキペダル(図示省略)が戻されると、プランジャ41は、その環状溝の前端面41bがキー部材63と当接しつつ後方に移動する。キー部材63が後方シェル12に当接すると、キー部材63がスライドバルブ60の係止面60eに当接し、パワーピストン30とともに後退してきたスライドバルブ60の後方への移動を規制する。この後に、パワーピストン30が更に後退するため、パワーピストン30と一体的に後退する係止部材64の受動斜面64bがスライドバルブ60の押動斜面60cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0047】
このため、パワーピストン30が所定位置に戻ったときには、係止部材64がガータースプリング65の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bに再係合する。したがって、次の緊急ブレーキ動作に備えることになる。
【0048】
ところで、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、係止部材64をパワーピストン30の係止部材取付孔30hに直接組付けるようにしており、しかも係止部材64はパワーピストン30に径方向にて直線的に移動可能に組付けられるように構成されている。このため、当該負圧式倍力装置を簡素でコンパクトな構成とすることが可能である。
【0049】
また、この負圧式倍力装置では、スライドバルブ60に設けたバルブ側フック60bと係合離脱可能で係止部材64を径内方に向けて付勢するガータースプリング65等とにより保持機構を構成する係止側フック64aが係止部材64に設けられている。このため、係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bから離脱して係合を解除される際の動き(緊急ブレーキ用特性が得られる際の動き)は直線的であり、解除タイミングの精度が高まり、緊急ブレーキ用特性が得られる際の閾値が安定し、作動のバラツキが小さくなる。
【0050】
また、この負圧式倍力装置では、係止部材64がパワーピストン30に形成した径方向の係止部材取付孔30hに径方向にて直線的に移動可能に組付けられていて、パワーピストン30の外周に向けて突出可能であり、この係止部材64を径内方に向けて付勢するガータースプリング65はパワーピストン30の外周に装着されている。
【0051】
このため、係止部材64とガータースプリング65をパワーピストン30の外側から組付けることが可能であり、係止部材64とガータースプリング65のパワーピストン30への組付性を良好とすることが可能である。また、係止部材64の一部がパワーピストン30の外周に向けて突出することを目視することによって、係止部材64の係止側フック64aとスライドバルブ60のバルブ側フック60bの係合・離脱をパワーピストン30の外側から確認することが可能であり、生産途中にて機能確認を容易かつ確実に行うことが可能である。
【0052】
また、この負圧式倍力装置では、パワーピストン30の係止部材取付孔30hに、係止部材64の径内方への移動を所定量に規制するストッパ30h1が設けられている。このため、係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bとの係合を解除されている場合における係止部材64の待機位置(径内方移動位置)をストッパ30h1によって規定される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aに再び係合する際の復帰動作を良好とすることが可能である。
【0053】
また、この負圧式倍力装置においては、パワーピストン30と係止部材64間に、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構(突起64f)が設けられていて、この規制機構では、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材64の径外方への移動が許容されるように設定されている。このため、緊急ブレーキ時に、入力部材40がパワーピストン30に対して所定値より大きく前進すると、規制機構にて突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面から前方に離れて、係止部材64の径外方への移動が許容される。したがって、規制機構(突起64f)が設けられていない場合と同様の作動が得られて、所期のブレーキアシスト作動が得られる。
【0054】
ところで、上記した規制機構(突起64f)では、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック60bと係止側フック64aが係合しているときには、係止部材64の径外方への移動が規制されるように設定されている。このため、長期間の使用等に際して、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動が過度に繰り返されて、スライドバルブ60のバルブ側フック60bと係止部材64の係止側フック64aとの係合部において、過度の摩耗が生じた場合(この場合には、係止側フック64aとバルブ側フック60bの係合部に斜面が形成されて、スプリング62の後方への付勢力によって係止部材64が径外方へ押圧・押動されるおそれがある)であっても、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であれば、上記した規制機構(突起64f)が係止部材64の径外方への移動を規制して、係止側フック64aがバルブ側フック60bから離脱する作動を規制する。
【0055】
したがって、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良が生じた場合においても、入力部材40がパワーピストン30に対して所定値より大きく前進しない場合(通常ブレーキ時)において、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動状態となることが防止され、所期の作動が得られる。また、この実施形態は、パワーピストン30と係止部材64間に、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構(突起64f)を設けることにより、実施することが可能であって、係止部材64とスライドバルブ60の各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とする場合に比して、安価に実施することが可能である。
【0056】
上記した実施形態(図1〜図13に示した実施形態)においては、本発明による規制機構が、突起64fを備える構成として実施したが、この規制機構を図14に示した他の実施形態のように構成して本発明を実施することも可能である。図14に示した他の実施形態での規制機構は、上記した突起64fに代えて、係止部材164の係止側フック164aより径外方にある中間部位に設けられてパワーピストン130との係合によって係止部材164の径内端部164gと径外端部164hを前後方向にて傾動可能とする半球状突部164fと、パワーピストン130に設けられて半球状突部164fを支点とする係止部材164の傾動時に前方に傾動している状態の径外端部164hの径外方への移動を規制するストッパ132を備えている。ストッパ132は、パワーピストン130に一体的に組付けられているが、パワーピストン130に一体的に形成して実施することも可能である。なお、図14に示した実施形態での上記した構成以外の構成は、図1〜図13に示した上記実施形態の構成と同じであるため、100番台の同一符号を付してその説明は省略する。
【0057】
図14に示した実施形態の規制機構では、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック160bと係止側フック164aが係合しているとき(パワーピストン130が復帰位置から前方に移動しているとき)には、径外端部164hの図示下端面がパワーピストン130に設けたストッパ132に係合(当接)可能であって、係止部材164の径外方への移動が規制されるように設定されている。
【0058】
また、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材164の径内端部164gがプランジャ141の押動斜面141dによって押されて前方に所要量移動することにより、係止部材164がその半球状突部164fを支点として傾動して、係止部材164の径外端部164hがストッパ132から後方に退避し、係止部材164の径外方への移動が許容されるように設定されている。
【0059】
なお、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値より大きいとき(緊急ブレーキ時)には、係止部材164の径内端部164gがプランジャ141の押動斜面141dによって径外方にも押動されるため、係止部材164の径外端部164hがストッパ132から後方に退避した状態で、係止部材164がガータースプリング165の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、図14に示した実施形態でも、図1〜図13に示した上記実施形態と同様に、スライドバルブ160のバルブ側フック160bが係止部材164の係止側フック164aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ160がスプリング162により後方位置に所定量移動させられる。
【0060】
また、上記した実施形態(図1〜図13に示した実施形態)においては、一対2個の係止部材64を用いて本発明を実施したが、この係止部材64の個数は適宜増減可能であり、1個の係止部材を用いて本発明を実施することも可能である。この場合には、パワーピストンに半径方向の取付孔を1個設けることで実施でき、パワーピストンの強度を十分に確保することができるとともに、当該負圧式倍力装置の構成部品数を少なくしてシンプルな構成とすることが可能である。
【0061】
また、上記した実施形態においては、パワーピストン30に負圧弁座30kを設けるとともに、スライドバルブ60に負圧弁座60aを設けて本発明を実施したが、スライドバルブ60が前方位置にあるときの負圧弁座60aの位置が上記した負圧弁座30kの位置となるように設定した場合には、パワーピストン30に負圧弁座30kを設けないで実施することも可能である。
【0062】
また、上記した実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…ハウジング、20…可動隔壁、30…パワーピストン、30h…係止部材取付孔、30h1…ストッパ、30k…負圧弁座、40…入力部材、41…プランジャ、41a…大気弁座、41d…押動斜面、50…出力部材、60…スライドバルブ、60a…負圧弁座、60b…バルブ側フック、60c…押動斜面、61…シールリング、62…スプリング、64…係止部材、64a…係止側フック、64b,64c…受動斜面、64f…突起、65…ガータースプリング(付勢手段)、70…制御弁、70a…負圧制御弁部、70b…大気制御弁部、70c…負圧制御弁部、R1…定圧室、R2…変圧室
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置に関し、特に、緊急ブレーキ時のブレーキペダル踏力の不足を補うことができるようにした負圧式倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような負圧式倍力装置の一つとして、ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁に結合されたパワーピストンと、このパワーピストン内にて同パワーピストンに対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記パワーピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記パワーピストンと前記入力部材間にて前記パワーピストンに同軸的かつ前後進可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持機構と、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動機構と、前記パワーピストンと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰機構とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記パワーピストン及び/又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記パワーピストン内に組付けられた制御弁を備えた負圧式倍力装置があり、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4273931号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置において、前記保持機構は、前記パワーピストン(30)に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材(64)と、この係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)を備えていて、前記係止部材(64)には、前記スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)と係合離脱可能で前記付勢部材(65)とにより前記保持機構を構成する係止側フック(64a)が設けられている。なお、後方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキペダル側あるいは車両後方側を意味し、前方とは、負圧式倍力装置に対してブレーキマスタシリンダ側あるいは車両前方側を意味する。
【0005】
また、上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置では、係止部材(64)に設けた係止側フック(64a)、スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)、係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)等がスライドバルブ(60)を前方所定位置に保持する保持機構として機能する。また、入力部材(40)に設けた押動部(プランジャ41の押動斜面41d)、係止部材(64)に設けた受動部(斜面64c)、スライドバルブ(60)を後方に付勢する付勢部材(スプリング62)等がスライドバルブ(60)を後方位置に所定量移動させる可動機構として機能する。
【0006】
かかる構成では、車両走行時の緊急ブレーキ時に、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進すると、入力部材(40)の押動部(プランジャ41の押動斜面41d)によって係止部材(64)の受動部(斜面64c)が付勢部材(ガータースプリング65)の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)が係止部材(64)の係止側フック(64a)との係合を解かれて離脱し、スライドバルブ(60)が付勢部材(スプリング62)により後方位置に所定量移動させられる。これにより、当該負圧式倍力装置がブレーキアシスト作動状態となる。
【発明の概要】
【0007】
ところで、上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置では、長期間の使用等に際して、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進する作動(かかる作動は、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動(BA作動)、すなわち、車両走行時において運転者がブレーキペダルを所定値より早い速度で設定値より小さな踏力にて踏み込む作動や、車両停車時において運転者がブレーキペダルを所定値より遅い速度で設定値より大きな踏力にて踏み込む作動によって得られる)が過度に繰り返されると、スライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)と係止部材(64)の係止側フック(64a)との係合部(この係合部には、パワーピストン(30)が復帰位置から前方に移動しているとき、付勢部材(スプリング62)の付勢力が作用していて、両フックの係合が解かれて離脱する際の摺動時には、大きな摩耗が発生し易い)において、過度の摩耗が生じることがある。
【0008】
この場合には、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良に起因して、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進しない場合(車両走行時の通常ブレーキ時)において、係止部材(64)の係止側フック(64a)がスライドバルブ(60)のバルブ側フック(60b)との係合を解かれて離脱するおそれがあり、スライドバルブ(60)が付勢部材(スプリング62)により後方位置に所定量移動させられて、ブレーキアシスト作動状態となるおそれがある。なお、上記した過度の摩耗は、係止部材(64)とスライドバルブ(60)の各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とすることにより解消し得るものの、耐摩耗素材は高価であって大幅なコストアップを強いられる。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、上記した形式の負圧式倍力装置において、前記保持機構は、前記パワーピストン(30)に径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材(64)と、この係止部材(64)を径内方に向けて付勢する付勢部材(ガータースプリング65)を備えていて、前記係止部材(64)には、前記スライドバルブ(60)に設けたバルブ側フック(60b)と係合離脱可能で前記付勢部材(65)とにより前記保持機構を構成する係止側フック(64a)が設けられており、
かつ、前記パワーピストン(30)と前記係止部材(64)間には、前記係止部材(64)の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、
この規制機構では、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値以下であって前記バルブ側フック(60b)と前記係止側フック(64a)が係合しているときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が規制され、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が許容されるように設定されていることに特徴がある。
【0010】
この負圧式倍力装置においては、前記パワーピストン(30)と前記係止部材(64)間に、前記係止部材(64)の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、この規制機構では、前記入力部材(40)の前記パワーピストン(30)に対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材(64)の径外方への移動が許容されるように設定されている。このため、車両走行時の緊急ブレーキ時に、入力部材(40)がパワーピストン(30)に対して所定値より大きく前進すると、前記規制機構にて前記係止部材(64)の径外方への移動が許容される。したがって、前記規制機構が設けられていない場合と同様の作動が得られて、所期のブレーキアシスト作動が得られる。
【0011】
ところで、上記した規制機構では、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下であって、前記バルブ側フックと前記係止側フックが係合しているときには、前記係止部材の径外方への移動が規制されるように設定されている。このため、長期間の使用等に際して、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動等が過度に繰り返されて、スライドバルブのバルブ側フックと係止部材の係止側フックとの係合部において、過度の摩耗が生じた場合であっても、入力部材のパワーピストンに対する前進量が所定値以下であれば、上記した規制機構が係止部材の径外方への移動を規制して、係止側フックがバルブ側フックから離脱する作動を規制する。
【0012】
したがって、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良が生じた場合においても、入力部材がパワーピストンに対して所定値より大きく前進しない場合(通常ブレーキ時)において、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動状態となることが防止され、所期の作動が得られる。また、本発明は、パワーピストンと係止部材間に、係止部材の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構を設けることにより、実施することが可能であって、係止部材とスライドバルブの各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とする場合に比して、安価に実施することが可能である。
【0013】
また、本発明に実施に際して、前記規制機構は、前記係止部材に一体的に形成されて前記パワーピストンに対して係合離脱可能な突起(64f)を備えていて、この突起と前記パワーピストンには、軸方向にて摺動可能に係合する径方向対向面がそれぞれ設けられていることも可能である。この場合には、当該負圧式倍力装置の構成部品点数を増加させることなく規制機構を構成することが可能であり、規制機構をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0014】
なお、本発明に実施に際して、前記規制機構は、前記係止部材の前記係止側フックより径外方にある中間部位に設けられて前記パワーピストンとの係合によって前記係止部材の径内端部と径外端部を前後方向にて傾動可能とする半球状突部(164f)と、前記パワーピストンに設けられて前記半球状突部を支点とする前記係止部材の傾動時に前方に傾動している状態の前記径外端部の径外方への移動を規制するストッパ(132)を備えていることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1および図2に示したパワーピストン単体の側面図である。
【図4】図1および図2に示したパワーピストン単体の平面図である。
【図5】図3のA−A線に沿った断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿った断面図である。
【図7】図1および図2に示したスライドバルブ単体の正面図である。
【図8】図7に示したスライドバルブ単体の側面図である。
【図9】図7に示したスライドバルブ単体の平面図である。
【図10】図1および図2に示した係止部材単体の正面図である。
【図11】図10に示した係止部材単体の側面図である。
【図12】図10に示した係止部材単体の底面図である。
【図13】図2に示した係止部材の係止側フックとスライドバルブのバルブ側フックが係合した状態の作動説明図である。
【図14】パワーピストンと係止部材間に設けられる規制機構の他の実施形態を示した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図13は本発明による負圧式倍力装置の一実施形態を示していて、この実施形態の負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられた可動隔壁20とパワーピストン30を備えるとともに、パワーピストン30に組付けられた入力部材40と出力部材50とスライドバルブ60と制御弁70等を備えている。
【0017】
ハウジング10は、図1に示したように、前方シェル11と後方シェル12を備えていて、内部空間Roが可動隔壁20によって負圧導入管13を通して負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通する定圧室R1と、この定圧室R1と大気にそれぞれ連通・遮断する変圧室R2とに区画されている。このハウジング10は、ハウジング10と可動隔壁20を気密的に貫通する複数本(図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部にて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部には、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0018】
可動隔壁20は、金属製のプレート21とゴム製のダイアフラム22とから成り、ハウジング10に対して前後方向へ移動可能に設置されている。ダイアフラム22は、その外周縁に形成されたビード部にて、後方シェル12の外周縁に設けられた折り返し部と前方シェル11とにより気密的に挟持されている。また、ダイアフラム22は、その内周縁に形成されたビード部にて、パワーピストン30の前方フランジ部外周に設けられた溝30mに、プレート21とともに気密的に固定されている。
【0019】
図1に示したブレーキマスタシリンダ100は、そのシリンダ本体101の後端部101aが前方シェル11に形成された中心筒部を貫通して定圧室R1内に気密的に突入し、またシリンダ本体101に形成されたフランジ部101bの後面が前方シェル11の前面に当接している。また、ブレーキマスタシリンダ100のピストン102は、シリンダ本体101から後方に突出して定圧室R1内に突入しており、出力部材50の先端によって前方に押動されるように構成されている。
【0020】
パワーピストン30は、図2〜図6に示したように、可動隔壁20に結合された中空状のピストンであって、円筒状に形成された部位にてハウジング10の後方シェル12に気密的かつ前後方向へ移動可能に組付けられており、ハウジング10の前方シェル11との間に介装されたスプリング31(図1参照)によって後方に付勢されている。また、パワーピストン30の軸心には、図2に示したように、前端面から後端面に向けて、反力室孔30a、反力室孔30aより小径の当接部材収納孔30b、プランジャ収納孔30c、プランジャ収納孔30cより大径のプランジャ・バルブ収納孔30d、制御弁収納孔30e、フィルタ収納孔30f等が順次設けられていて、反力室孔30aに対して連続的で当接部材収納孔30bに対して同心的に環状凹溝30gが設けられている。
【0021】
また、パワーピストン30には、プランジャ収納孔30cに対応して係止部材取付孔30hが半径方向に設けられるとともに、プランジャ・バルブ収納孔30dに対応してキー部材挿通孔30iが径方向に設けられている。また、パワーピストン30には、定圧室R1と制御弁収納孔30eを連通可能な一対の連通孔30j(図2および図5参照)が設けられていて、これら各連通孔30jの後端部には制御弁70の負圧弁部70aが着座可能な円弧状負圧弁座30kが形成されている。
【0022】
入力部材40は、パワーピストン30内にて同パワーピストン30に対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける部材であり、パワーピストン30の当接部材収納孔30bから制御弁収納孔30eに収容されてパワーピストン30に対して軸方向(前後方向)に移動可能なプランジャ41と、このプランジャ41に球状先端部42aにて関節状に連結されて後端部42bにてブレーキペダル(図示省略)に連結される入力ロッド42を備えている。
【0023】
プランジャ41は、図2にて示したように、その先端にてパワーピストン30の当接部材収納孔30bに軸方向へ移動可能に組付けられた当接部材81を介してパワーピストン30の反力室孔30aに収容された反力部材82に係合可能であり、その後端には制御弁70の大気弁部70bに離座可能に着座する環状の大気弁座41aが形成されている。反力部材82は、リアクションゴムディスクであり、出力部材50における後方部材51の円筒部51a内に収容された状態にてパワーピストン30の反力受け面(環状の前面)に当接するとともに、当接部材81の前面に当接可能となっている。
【0024】
出力部材50は、反力部材82とともにパワーピストン30の反力室孔30aと環状凹溝30gに軸方向へ移動可能に組付けられた後方部材51と、この後方部材51の先端部に一体的に組付けられた出力ロッド52(図1参照)によって構成されていて、出力ロッド52の先端はブレーキマスタシリンダ100におけるピストン102の係合部に押動可能に当接している。
【0025】
スライドバルブ60は、図2と図7〜図9に示したように、パワーピストン30と入力部材40間にてパワーピストン30に気密用シールリング61を介して同軸的かつ前後進可能(軸方向移動可能)に組付けられていて、パワーピストン30とスライドバルブ60間に介装したスプリング62により後方に付勢されており、その後端には制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座可能な第2の負圧弁座60aが形成されている。また、スライドバルブ60は、その軸方向移動位置がパワーピストン30に組付けたキー部材63、係止部材64、ガータースプリング65等によって規定されるように構成されている。
【0026】
また、スライドバルブ60は、その前端部外周に一対の円弧状バルブ側フック60bと一対の円弧状押動斜面60cを有し、その中間部に環状シール取付溝60dと係止面60eを有している。円弧状のバルブ側フック60bは、係止部材64の後方内端に形成された円弧状の係止側フック64aに係合離脱可能であり、円弧状の押動斜面60cは、係止部材64の後方内端に形成された円弧状の受動斜面64bに係合離脱可能である。また、係止面60eは、キー部材63の前面と係合離脱可能である。
【0027】
キー部材63は、パワーピストン30に対するプランジャ41とスライドバルブ60の軸方向移動を規定するために、パワーピストン30に形成された径方向のキー部材挿通孔30iに挿通されている。キー部材63の前後方向の肉厚寸法は、キー部材挿通孔30iの前後方向寸法よりも小さく、キー部材63は、パワーピストン30に対して所定量だけ前後方向に移動可能である。
【0028】
このキー部材63は、パワーピストン30から径外方に突出した両端部の後端面にて後方シェル12に当接可能であり、ハウジング10に対するパワーピストン30の後方への移動限界位置(復帰位置)は、図2に示すように、キー部材挿通孔30iの前方壁がキー部材63の前端面に当接しかつキー部材63の両端部の後端面が後方シェル12に当接した位置である。また、キー部材63は、その中央部にて、プランジャ41の中央部に形成された環状溝の前後両端面41b,41cに当接可能であり、パワーピストン30に対するプランジャ41の後方への移動限界位置は、環状溝の前端面41bがキー部材63の前端面に当接しかつキー部材63の後端面がキー部材挿通孔30iの後方壁に当接した位置である。また、パワーピストン30に対するプランジャ41の前方への移動限界位置は、環状溝の後端面41cがキー部材63の後端面に当接しかつキー部材63の前端面がキー部材挿通孔30iの前方壁に当接した位置である。
【0029】
また、キー部材63は、その中央部前面にて、スライドバルブ60の中間部に形成された係止面60eに当接可能であり、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して後方位置に移動している状態にて、パワーピストン30とスライドバルブ60がハウジング10に対して図2に示した所定位置(復帰位置)に戻る場合には、パワーピストン30の後方への移動を規制する前にスライドバルブ60の後方への移動を規制して、スライドバルブ60をパワーピストン30に対して前方所定位置に復帰させる。
【0030】
係止部材64は、図1および図2と図10〜図12に示したように、パワーピストン30の外周からパワーピストン30に形成された径方向の係止部材取付孔30hに半径方向にて直線的に移動可能に組付けられていて、パワーピストン30の外周に向けて突出可能であり、パワーピストン30の外周に装着したガータースプリング65によって半径方向内方に向けて付勢されている。なお、この実施形態においては、図示省略されているが係止部材64が一対2個用いられていて、径方向にて対向配置されている。
【0031】
この係止部材64においては、図2および図10〜図12に示したように、スライドバルブ60における円弧状のバルブ側フック60bと係合離脱可能な円弧状の係止側フック64aと、スライドバルブ60における円弧状の押動斜面60cと係合離脱可能な円弧状の受動斜面64bと、プランジャ41に形成された環状の押動斜面41dと係合離脱可能な円弧状の受動斜面64cが内端部に形成され、パワーピストン30の係止部材取付孔30hに形成した一対のストッパ30h1(図4および図6の段部参照)と当接可能な一対の段部64dが中間部に形成され、ガータースプリング65の取付溝64eが外端部に形成されている。
【0032】
このため、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下の場合には、プランジャ41に形成された押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合しなくて、スライドバルブ60のバルブ側フック60bと係止部材64の係止側フック64aの係合が保持され、図2に示したように、スライドバルブ60が前方所定位置に保持される。したがって、係止部材64の係止側フック64a、スライドバルブ60のバルブ側フック60b、ガータースプリング65等がスライドバルブ60を前方所定位置に保持する保持機構として機能する。
【0033】
なお、ガータースプリング65は、パワーピストン30に設けた環状の取付溝30nと係止部材64に設けた取付溝64eに組付けられていて、パワーピストン30が復帰位置にあるとき、図2に示した位置(係止部材64の前端面とパワーピストン30の係止部材取付孔30hにおける前端面が接する位置)にて、係止部材64をパワーピストン30の径内方に向けて所要の付勢力にて付勢している。
【0034】
また、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きい場合には、プランジャ41に形成された押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ60がスプリング62により後方位置に所定量移動させられ、スライドバルブ60の後端に形成された第2の負圧弁座60aが制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座する。したがって、プランジャ41の押動斜面41d、係止部材64の受動斜面64c、スプリング62等がスライドバルブ60を後方位置に所定量移動させる可動機構として機能する。
【0035】
また、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して後方位置に移動している状態にて、パワーピストン30とスライドバルブ60がキー部材63の機能によってハウジング10に対して図2に示した所定位置に戻る場合には、パワーピストン30が所定位置に戻る直前に、スライドバルブ60が所定位置に戻って停止するため、係止部材64の受動斜面64bがスライドバルブ60の押動斜面60cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0036】
このため、パワーピストン30が所定位置に戻ったときには、係止部材64がガータースプリング65の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bに再係合する。したがって、キー部材63、スライドバルブ60の押動斜面60c、係止部材64の受動斜面64b、ガータースプリング65等がスライドバルブ60を前方所定位置に復帰させる復帰機構として機能する。
【0037】
また、この実施形態においては、係止部材64の内端部に、パワーピストンに対して係合離脱可能な円弧状の突起64fが一体的に形成されている。この突起64fは、図2および図10〜図13に示したように、受動斜面64cの後端から後方に所要量突出していて、この突起64fの外周側とパワーピストン30の筒部内周側には、軸方向にて摺動可能に係合し得る径方向対向面(突起64fの外周面とパワーピストン30の筒部内周面)がそれぞれ設けられている。
【0038】
また、この実施形態においては、係止部材64がパワーピストン30の係止部材取付孔30hに対して軸方向(前後方向)に所要量移動可能に組付けられていて、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック60bと係止側フック64aが係合しているとき(パワーピストン30が図2に示した復帰位置から前方に移動していて、スライドバルブ60と係止部材64が図13に示した状態であるとき)には、突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面に係合可能であって、係止部材64の径外方への移動が規制されるように設定されている。
【0039】
また、入力部材40におけるプランジャ41のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材64がプランジャ41によって押されて前方に所要量(図13の状態における係止部材64の前端面とパワーピストン30の係止部材取付孔30hにおける前端面間の隙間に相当する量)移動することにより、突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面から前方に離れて、突起64fとパワーピストン30の係合が解かれ、係止部材64の径外方への移動が許容されるように設定されている。したがって、係止部材64に形成した突起64fとこれが係合離脱可能なパワーピストン30の筒部が、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構として機能する。
【0040】
制御弁70は、上記した負圧弁部70a、大気弁部70bおよび第2の負圧弁部70cを有する環状の可動部70Aと、パワーピストン30の制御弁収容孔30eに形成された段部に気密的に嵌合固定された環状の固定部70Bと、環状の可動部70Aと環状の固定部70Bを連結する円筒状の蛇腹部70Dによって構成されている。環状の可動部70Aは、入力ロッド42間に介装したスプリング71によって前方に向けて付勢されていて、前後方向に移動可能である。環状の固定部70Bは、入力ロッド42間に介装したスプリング72によって前方に向けて付勢されていて、パワーピストン30に固定されている。なお、環状の固定部70Bとスプリング72間にはリテーナ73が介装され、入力ロッド42とスプリング72間にはリテーナ74が介装されている。
【0041】
負圧弁部70aは、パワーピストン30に形成された一対の円弧状負圧弁座30kに着座・離座可能であり、円弧状負圧弁座30kへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、円弧状負圧弁座30kからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。大気弁部70bは、プランジャ41に形成された環状の大気弁座41aに着座・離座可能であり、環状の大気弁座41aへの着座によって変圧室R2と大気の連通を遮断し、環状の大気弁座41aからの離座によって変圧室R2と大気を連通させる。第2の負圧弁部70cは、スライドバルブ60に形成された第2の負圧弁座60aに着座・離座可能であり、第2の負圧弁座60aへの着座によって定圧室R1と変圧室R2の連通を遮断し、第2の負圧弁座60aからの離座によって定圧室R1と変圧室R2を連通させる。
【0042】
フィルタ91は、パワーピストン30のフィルタ収容孔30f内にて入力ロッド42間に装着されていて、このフィルタ91にはパワーピストン30の摺動部を外周から保護するブーツ92に形成された通気孔92aを通して大気が流入可能である。ブーツ92は、前端部にてハウジング10における後方シェル12の後端筒部に嵌合固定され、後端部にて入力ロッド42の中間部外周に嵌合固定されている。
【0043】
上記のように構成したこの実施形態の負圧式倍力装置においては、通常ブレーキ時、入力部材40、パワーピストン30等が前方に移動するものの、入力部材40とパワーピストン30との相対移動量(パワーピストン30に対する入力部材40の前進量)が所定値以下であるため、図13に示したように、プランジャ41の押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合せず、スライドバルブ60は図13に示した前方所定位置(図2に示した位置(バルブ側フック60bと係止側フック64a間に僅かな隙間が在る位置)より僅かに後方に移動してバルブ側フック60bが係止側フック64aに係合している位置)に保持される。したがって、このときには、スライドバルブ60がパワーピストン30に対して前方所定位置から移動せず、一般的に知られている通常ブレーキ作動が得られる。
【0044】
一方、運転者が慌ててブレーキペダル(図示省略)を速く踏み込む緊急ブレーキ時には、入力部材40とパワーピストン30との相対移動量(パワーピストン30に対する入力部材40の前進量)が所定値より大きくなる。このときには、プランジャ41の押動斜面41dが係止部材64の受動斜面64cに係合して、係止部材64を所要量前方に押動するとともに半径方向外方に押動するため、係止部材64の突起64fとパワーピストン30の係合が解かれて、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ60がスプリング62により後方位置に所定量移動させられる。
【0045】
また、スライドバルブ60が後方に移動すると、スライドバルブ60の後端に形成された第2の負圧弁座60aが制御弁70の第2の負圧弁部70cに着座し、定圧室R1と変圧室R2との連通を遮断する。このとき、プランジャ41は、入力ロッド42と一体で前方へ移動中であり、スライドバルブ60が制御弁70の可動部70Aを後方へ押し戻しているため、プランジャ41の後端に形成された環状の大気弁座41aと制御弁70の大気弁部70bとが急速に離間し、変圧室R2が大気と連通する。その結果、通常ブレーキ動作に比べ、定圧室R1と変圧室R2との連通遮断及び変圧室R2と大気との連通が急速に行われ、ジャンピング状態での出力を通常状態よりも大きくすることが可能となり、通常ブレーキ時より大きな推進力(出力)を得ることが可能となる。
【0046】
また、上記した緊急ブレーキ動作が終了してブレーキペダル(図示省略)が戻されると、プランジャ41は、その環状溝の前端面41bがキー部材63と当接しつつ後方に移動する。キー部材63が後方シェル12に当接すると、キー部材63がスライドバルブ60の係止面60eに当接し、パワーピストン30とともに後退してきたスライドバルブ60の後方への移動を規制する。この後に、パワーピストン30が更に後退するため、パワーピストン30と一体的に後退する係止部材64の受動斜面64bがスライドバルブ60の押動斜面60cに係合して、係止部材64がガータースプリング65の付勢力に抗して半径方向外方に一時的に押動される。
【0047】
このため、パワーピストン30が所定位置に戻ったときには、係止部材64がガータースプリング65の付勢力により半径方向内方に押されて係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bに再係合する。したがって、次の緊急ブレーキ動作に備えることになる。
【0048】
ところで、上記した実施形態の負圧式倍力装置においては、係止部材64をパワーピストン30の係止部材取付孔30hに直接組付けるようにしており、しかも係止部材64はパワーピストン30に径方向にて直線的に移動可能に組付けられるように構成されている。このため、当該負圧式倍力装置を簡素でコンパクトな構成とすることが可能である。
【0049】
また、この負圧式倍力装置では、スライドバルブ60に設けたバルブ側フック60bと係合離脱可能で係止部材64を径内方に向けて付勢するガータースプリング65等とにより保持機構を構成する係止側フック64aが係止部材64に設けられている。このため、係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bから離脱して係合を解除される際の動き(緊急ブレーキ用特性が得られる際の動き)は直線的であり、解除タイミングの精度が高まり、緊急ブレーキ用特性が得られる際の閾値が安定し、作動のバラツキが小さくなる。
【0050】
また、この負圧式倍力装置では、係止部材64がパワーピストン30に形成した径方向の係止部材取付孔30hに径方向にて直線的に移動可能に組付けられていて、パワーピストン30の外周に向けて突出可能であり、この係止部材64を径内方に向けて付勢するガータースプリング65はパワーピストン30の外周に装着されている。
【0051】
このため、係止部材64とガータースプリング65をパワーピストン30の外側から組付けることが可能であり、係止部材64とガータースプリング65のパワーピストン30への組付性を良好とすることが可能である。また、係止部材64の一部がパワーピストン30の外周に向けて突出することを目視することによって、係止部材64の係止側フック64aとスライドバルブ60のバルブ側フック60bの係合・離脱をパワーピストン30の外側から確認することが可能であり、生産途中にて機能確認を容易かつ確実に行うことが可能である。
【0052】
また、この負圧式倍力装置では、パワーピストン30の係止部材取付孔30hに、係止部材64の径内方への移動を所定量に規制するストッパ30h1が設けられている。このため、係止部材64の係止側フック64aがスライドバルブ60のバルブ側フック60bとの係合を解除されている場合における係止部材64の待機位置(径内方移動位置)をストッパ30h1によって規定される。このため、スライドバルブ60のバルブ側フック60bが係止部材64の係止側フック64aに再び係合する際の復帰動作を良好とすることが可能である。
【0053】
また、この負圧式倍力装置においては、パワーピストン30と係止部材64間に、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構(突起64f)が設けられていて、この規制機構では、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材64の径外方への移動が許容されるように設定されている。このため、緊急ブレーキ時に、入力部材40がパワーピストン30に対して所定値より大きく前進すると、規制機構にて突起64fの外周面がパワーピストン30の筒部内周面から前方に離れて、係止部材64の径外方への移動が許容される。したがって、規制機構(突起64f)が設けられていない場合と同様の作動が得られて、所期のブレーキアシスト作動が得られる。
【0054】
ところで、上記した規制機構(突起64f)では、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック60bと係止側フック64aが係合しているときには、係止部材64の径外方への移動が規制されるように設定されている。このため、長期間の使用等に際して、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動が過度に繰り返されて、スライドバルブ60のバルブ側フック60bと係止部材64の係止側フック64aとの係合部において、過度の摩耗が生じた場合(この場合には、係止側フック64aとバルブ側フック60bの係合部に斜面が形成されて、スプリング62の後方への付勢力によって係止部材64が径外方へ押圧・押動されるおそれがある)であっても、入力部材40のパワーピストン30に対する前進量が所定値以下であれば、上記した規制機構(突起64f)が係止部材64の径外方への移動を規制して、係止側フック64aがバルブ側フック60bから離脱する作動を規制する。
【0055】
したがって、上記した係合部での過度の摩耗に伴う係合不良が生じた場合においても、入力部材40がパワーピストン30に対して所定値より大きく前進しない場合(通常ブレーキ時)において、緊急ブレーキ時のブレーキアシスト作動状態となることが防止され、所期の作動が得られる。また、この実施形態は、パワーピストン30と係止部材64間に、係止部材64の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構(突起64f)を設けることにより、実施することが可能であって、係止部材64とスライドバルブ60の各素材を摩耗し難い耐摩耗素材とする場合に比して、安価に実施することが可能である。
【0056】
上記した実施形態(図1〜図13に示した実施形態)においては、本発明による規制機構が、突起64fを備える構成として実施したが、この規制機構を図14に示した他の実施形態のように構成して本発明を実施することも可能である。図14に示した他の実施形態での規制機構は、上記した突起64fに代えて、係止部材164の係止側フック164aより径外方にある中間部位に設けられてパワーピストン130との係合によって係止部材164の径内端部164gと径外端部164hを前後方向にて傾動可能とする半球状突部164fと、パワーピストン130に設けられて半球状突部164fを支点とする係止部材164の傾動時に前方に傾動している状態の径外端部164hの径外方への移動を規制するストッパ132を備えている。ストッパ132は、パワーピストン130に一体的に組付けられているが、パワーピストン130に一体的に形成して実施することも可能である。なお、図14に示した実施形態での上記した構成以外の構成は、図1〜図13に示した上記実施形態の構成と同じであるため、100番台の同一符号を付してその説明は省略する。
【0057】
図14に示した実施形態の規制機構では、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値以下であってバルブ側フック160bと係止側フック164aが係合しているとき(パワーピストン130が復帰位置から前方に移動しているとき)には、径外端部164hの図示下端面がパワーピストン130に設けたストッパ132に係合(当接)可能であって、係止部材164の径外方への移動が規制されるように設定されている。
【0058】
また、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値より大きいときには、係止部材164の径内端部164gがプランジャ141の押動斜面141dによって押されて前方に所要量移動することにより、係止部材164がその半球状突部164fを支点として傾動して、係止部材164の径外端部164hがストッパ132から後方に退避し、係止部材164の径外方への移動が許容されるように設定されている。
【0059】
なお、入力部材140におけるプランジャ141のパワーピストン130に対する前進量が所定値より大きいとき(緊急ブレーキ時)には、係止部材164の径内端部164gがプランジャ141の押動斜面141dによって径外方にも押動されるため、係止部材164の径外端部164hがストッパ132から後方に退避した状態で、係止部材164がガータースプリング165の付勢力に抗して半径方向外方に押動される。このため、図14に示した実施形態でも、図1〜図13に示した上記実施形態と同様に、スライドバルブ160のバルブ側フック160bが係止部材164の係止側フック164aとの係合を解かれて離脱し、スライドバルブ160がスプリング162により後方位置に所定量移動させられる。
【0060】
また、上記した実施形態(図1〜図13に示した実施形態)においては、一対2個の係止部材64を用いて本発明を実施したが、この係止部材64の個数は適宜増減可能であり、1個の係止部材を用いて本発明を実施することも可能である。この場合には、パワーピストンに半径方向の取付孔を1個設けることで実施でき、パワーピストンの強度を十分に確保することができるとともに、当該負圧式倍力装置の構成部品数を少なくしてシンプルな構成とすることが可能である。
【0061】
また、上記した実施形態においては、パワーピストン30に負圧弁座30kを設けるとともに、スライドバルブ60に負圧弁座60aを設けて本発明を実施したが、スライドバルブ60が前方位置にあるときの負圧弁座60aの位置が上記した負圧弁座30kの位置となるように設定した場合には、パワーピストン30に負圧弁座30kを設けないで実施することも可能である。
【0062】
また、上記した実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…ハウジング、20…可動隔壁、30…パワーピストン、30h…係止部材取付孔、30h1…ストッパ、30k…負圧弁座、40…入力部材、41…プランジャ、41a…大気弁座、41d…押動斜面、50…出力部材、60…スライドバルブ、60a…負圧弁座、60b…バルブ側フック、60c…押動斜面、61…シールリング、62…スプリング、64…係止部材、64a…係止側フック、64b,64c…受動斜面、64f…突起、65…ガータースプリング(付勢手段)、70…制御弁、70a…負圧制御弁部、70b…大気制御弁部、70c…負圧制御弁部、R1…定圧室、R2…変圧室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁に結合されたパワーピストンと、このパワーピストン内にて同パワーピストンに対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記パワーピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記パワーピストンと前記入力部材間にて前記パワーピストンに同軸的かつ前後進可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持機構と、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動機構と、前記パワーピストンと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰機構とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記パワーピストン及び/又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記パワーピストン内に組付けられた制御弁を備えた負圧式倍力装置において、
前記保持機構は、前記パワーピストンに径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材と、この係止部材を径内方に向けて付勢する付勢部材を備えていて、前記係止部材には、前記スライドバルブに設けたバルブ側フックと係合離脱可能で前記付勢部材とにより前記保持機構を構成する係止側フックが設けられており、
かつ、前記パワーピストンと前記係止部材間には、前記係止部材の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、
この規制機構では、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下であって前記バルブ側フックと前記係止側フックが係合しているときには、前記係止部材の径外方への移動が規制され、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材の径外方への移動が許容されるように設定されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記規制機構は、前記係止部材に一体的に形成されて前記パワーピストンに対して係合離脱可能な突起を備えていて、この突起と前記パワーピストンには、軸方向にて摺動可能に係合する径方向対向面がそれぞれ設けられていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項1】
ハウジング内を定圧室と変圧室とに区画する可動隔壁と、この可動隔壁に結合されたパワーピストンと、このパワーピストン内にて同パワーピストンに対し前後進可能に設置されかつ外部からの操作力を受ける入力部材と、前記パワーピストンの推進力を外部に出力する出力部材と、前記パワーピストンと前記入力部材間にて前記パワーピストンに同軸的かつ前後進可能に組付けられたスライドバルブと、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下の場合には前記スライドバルブを前方所定位置に保持する保持機構と、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きい場合には前記スライドバルブを後方位置に所定量移動させる可動機構と、前記パワーピストンと前記スライドバルブが前記ハウジングに対して所定位置に戻った場合には前記スライドバルブを前記前方所定位置に復帰させる復帰機構とを備えるとともに、前記入力部材に設けた大気弁座とにより前記変圧室と大気との連通・遮断を制御する大気制御弁部と前記パワーピストン及び/又は前記スライドバルブに設けた負圧弁座とにより前記変圧室と前記定圧室との連通・遮断を制御する負圧制御弁部を有して前記パワーピストン内に組付けられた制御弁を備えた負圧式倍力装置において、
前記保持機構は、前記パワーピストンに径方向にて直線的に移動可能に組付けられた係止部材と、この係止部材を径内方に向けて付勢する付勢部材を備えていて、前記係止部材には、前記スライドバルブに設けたバルブ側フックと係合離脱可能で前記付勢部材とにより前記保持機構を構成する係止側フックが設けられており、
かつ、前記パワーピストンと前記係止部材間には、前記係止部材の径外方への移動を解除可能に規制する規制機構が設けられていて、
この規制機構では、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値以下であって前記バルブ側フックと前記係止側フックが係合しているときには、前記係止部材の径外方への移動が規制され、前記入力部材の前記パワーピストンに対する前進量が所定値より大きいときには、前記係止部材の径外方への移動が許容されるように設定されていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置において、前記規制機構は、前記係止部材に一体的に形成されて前記パワーピストンに対して係合離脱可能な突起を備えていて、この突起と前記パワーピストンには、軸方向にて摺動可能に係合する径方向対向面がそれぞれ設けられていることを特徴とする負圧式倍力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−255852(P2011−255852A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134011(P2010−134011)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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