説明

負極活物質材料

【課題】リチウムイオン二次電池の電解液中の溶媒が還元分解されることによって起こるガスの発生を抑制することができる、負極活物質材料を提供する。
【解決手段】負極活物質材料は、負極活物質本体の表面の少なくとも一部が、下記化学式1で表されるカーボネート構造を有する重合体で被覆されてなる;


式中、nは2〜100の整数を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルキレン基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は負極活物質材料に関する。より詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池の長寿命化を達成するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコンなどに使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して、極めて高い出力特性、および高いエネルギー密度を発揮することが求められている。したがって、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質などを集電体の表面に塗布した正極と、負極活物質などを集電体の表面に塗布した負極とが、電解液を含む電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
電解質層に含まれる電解液は、一般に、リチウム塩が非プロトン性極性溶媒(以下、単に「溶媒」とも称する)に溶解されてなり、ここで、溶媒はリチウムイオンの移動媒体として機能している。正負イオン間の静電引力は媒体の比誘電率に反比例するので、イオンの解離を促進する観点から、溶媒の誘電率は高い方が好ましい。一方、イオンの移動度は溶媒の粘度に反比例することから、溶媒の粘度は低い方が好ましい。しかしながら、単独の溶媒で高誘電率および低粘度を達成することは困難であるので、通常、高誘電率溶媒である環状炭酸エステルと、低粘度溶媒である鎖状炭酸エステルとの混合溶媒が用いられる(以下、「炭酸エステル」をカーボネート(carbonate)とも称する)。
【0006】
しかしながら、これらのカーボネート系溶媒は、充電時に負極活物質表面で還元分解され、これによりサイクル特性が低下することが知られている。このため、カーボネート系溶媒の分解を抑制するための技術が模索されている。
【0007】
例えば、特許文献1では環状カーボネートであるプロピレンカーボネートと、鎖状カーボネートと含む電解液に、ビニレンカーボネートを添加する手法を提案している。ビニレンカーボネートはエチレンカーボネートのC−C結合部が二重結合になっており、初期充電時に電解重合のように重合して、負極活物質表面に固体電解質被膜(Solid Electrolyte Interface:SEI)を形成する。当該文献では、このSEIの形成により、プロピレンカーボネートの還元分解を抑制することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−67266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、カーボネート系溶媒のうち、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートは、還元分解によりメタンやエタンなどのガスを発生させる。このようなガスの発生は、電池の膨張やサイクル特性の低下などを引き起こし、電池寿命を短くする原因となりうる。特許文献1の技術では、このような溶媒由来のガスの発生を初期充電時に十分に防ぐことができなかったことから、さらなる改良が望まれていた。
【0010】
そこで本発明は、リチウムイオン二次電池の電解液中の溶媒が還元分解されることによって起こるガスの発生を抑制することができる、負極活物質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の負極活物質材料は、負極活物質本体の表面の少なくとも一部が、下記化学式1で表されるカーボネート構造を有する重合体で被覆されてなる;
【0012】
【化1】

【0013】
式中、nは2〜100の整数を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルキレン基を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の負極活物質材料によれば、負極活物質本体の表面を覆うカーボネート構造を有する重合体が初期充電時に溶媒よりも先に還元分解されるため、溶媒の還元分解が起こりにくくなる。カーボネート構造を有する重合体は還元分解されてもガスをほとんど生じずにSEIを形成する。そして、このSEIの形成によりさらなる溶媒の還元分解が抑制される。したがって、リチウムイオン二次電池の電解液中の溶媒が還元分解されることによって起こるガスの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る負極活物質材料を模式的に表した断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載により定められるべきものであり、以下の形態のみに限定されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
<負極活物質材料>
図1は、本発明の一実施形態に係る負極活物質材料を模式的に表す断面図である。図1の負極活物質材料1は、負極活物質としてのグラファイト3の表面全体がカーボネート構造を有する重合体5で被覆されている。以下、本形態の負極活物質材料を構成する各部材について説明する。
【0018】
[負極活物質]
負極活物質は、放電時にイオンを放出し、充電時にイオンを吸蔵できる組成を有する。なお、本明細書においては、負極活物質がカーボネート構造を有する重合体(以下、「カーボネート重合体」とも略称する)で被覆されてなる負極活物質材料と区別するために、「負極活物質」を「負極活物質本体」と称する場合がある。
【0019】
負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti、TiO、もしくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3もしくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。また、負極活物質は、リチウムと合金化する元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0020】
上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Clなどが挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できるという観点から、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことが特に好ましい。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
負極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、負極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、負極活物質が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくてもよいことはいうまでもない。かかる負極活物質の粒径および1次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径を使用できる。なお、負極活物質の形状は、その種類や製造方法などによって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0022】
[カーボネート構造を有する重合体]
本形態におけるカーボネート構造を有する重合体(カーボネート重合体)は、負極活物質表面において、電解液中の溶媒の還元分解を抑制する機能を有する。
【0023】
カーボネート重合体は、下記化学式1で表される構造を有する。
【0024】
【化2】

【0025】
式中、nは2〜100の整数を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルキレン基を表す。この際、複数のRまたはRは、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
【0026】
で表される炭素原子数1〜10のアルキル基としては、特に制限はないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、およびn−デシル基などが挙げられる。このうち、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基であることが好ましく、なかでもより立体障害が大きい炭素原子数3または4のアルキル基であることがより好ましい。
【0027】
で表される炭素原子数2〜5のアルキレン基としては、特に制限はないが、例えば、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、およびペンタメチレン基などが挙げられる。このうち、Rは、炭素原子数2または3のアルキレン基であることが好ましく、なかでもエチレン基であることがより好ましい。なお、これらのカーボネート重合体は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられても構わない。
【0028】
上記化学式1で表されるカーボネート重合体は、例えば、下記化学式2に示す反応によって製造することができる。
【0029】
【化3】

【0030】
なお、化学式2では、化学式1におけるRがイソプロピル基であり、Rがエチレン基である場合のカーボネート重合体の合成例を示す。
【0031】
化学式2に示すように、まず、Pdなどの金属触媒存在下で、エチレングリコール(HO−CHCH−OH)と、一酸化炭素(CO)および酸素(O)とを接触させる。これにより、エチレングリコールがカーボネート結合を介して重合し、これに伴い水が副生する。そして、得られた反応溶液から触媒を濾過によって取り除いた後、濾液から副生した水を蒸留などによって除去することにより、末端にヒドロキシ基(−OH)を有するカーボネート骨格を有する重合体を得る。
【0032】
次に、当該重合体と、イソプロピルアルコール(i−PrOH)と、一酸化炭素および酸素とを、上記反応と同様にPdなどの金属触媒存在下で接触させる。当該反応により、上記重合体の末端にカーボネート基を介してi−Pr基が結合される。そして、得られた反応溶液から触媒を濾過によって取り除いた後、濾液から副生した水を蒸留などによって除去することにより、目的のカーボネート重合体を得ることができる。なお、反応に使用する各原料の添加量や反応条件などは特に制限はなく、公知の手法を適宜参照することができる。
【0033】
負極活物質の表面を覆うカーボネート重合体は、初期充電時に還元分解され、SEIとなる。一般的に、SEIは負極活物質表面において薄く、緻密に形成されることが好ましく、また短時間で形成されることが好ましい。よって、必要量のカーボネート重合体によって負極活物質表面が均一に覆われることが好ましい。
【0034】
具体的には、負極活物質を覆うカーボネート重合体の量は、負極活物質の全質量に対して、1〜10質量%であることが好ましい。被覆量が1質量%以上であると、ガスの発生を効果的に防ぐことができる。一方、被覆量が10質量%以下であると、電池抵抗の上昇を防ぐことができる。
【0035】
また、ガスの発生を効果的に防ぐという観点から、負極活物質本体の表面積のより広い範囲をカーボネート重合体が覆っていることが好ましい。具体的には、カーボネート重合体が覆う面積は、負極活物質の表面積に対して、好ましくは70〜100%、より好ましくは90〜100%、さらに好ましくは、95〜100%である。
【0036】
本形態の負極活物質材料は、上記負極活物質をカーボネート重合体で被覆することによって製造される。被覆の方法は特に制限はなく、一例を挙げると、カーボネート重合体を適当な溶媒で希釈したカーボネート重合体溶液を作製し、当該カーボネート重合体溶液と負極活物質とを混合後、余分なカーボネート重合体溶液を除去し、乾燥させることによって得ることができる。負極活物質材料へのカーボネート重合体の被覆量は、カーボネート重合体溶液の濃度や、上記被覆操作を繰り返し行うことによって調節することができる。
【0037】
本形態の負極活物質材料は、負極活物質の表面の少なくとも一部がカーボネート重合体が被覆されてなることにより、電解液を構成する溶媒の分解を抑制し、ガスの発生を防ぐことができる。従来の、カーボネート重合体により被覆されていない負極活物質を用いた場合、下記化学式3に示すように、初期充電時に負極活物質表面で溶媒が還元分解され、R−O結合が開裂し、RとROCOOLiとが形成される。ROCOOLiは溶媒に不溶であるので、負極活物質表面でSEIを形成する。また、ROCOOLiはさらに還元分解されて、RとLiOCOOLi(炭酸リチウム)とを形成しうる。炭酸リチウムもまた溶媒に不溶であるので、負極活物質表面でSEIを形成する。また、溶媒の還元分解により生じたRは系内の水素(H)と反応してRHを生じたり、2つのR同士が反応してR−Rを生じたりする。RHまたはR−Rは気体であるので、これらのガスによって電池の膨張が起こりうる。
【0038】
【化4】

【0039】
一方、本形態の負極活物質材料を用いた場合、下記化学式4に示すように、初期充電時に負極活物質表面に被覆されたカーボネート重合体が溶媒よりも先に還元分解される。この際、R−O結合またはR−O結合が開裂する可能性があるが、カーボネート重合体1分子中にはR−O結合よりもR−O結合の数の方が多いため、末端のR−O結合よりもR−O結合が開裂する確率の方が高く、R−O結合はほとんど開裂しない。R−O結合が開裂すると、化学式4中のAで表されるリチウム塩と、化学式4中のBで表されるカーボネート重合体とが生じる。化学式4中のBで表されるカーボネート重合体は、水素などと反応したとしても分子量が大きいためにガスとはならないため、電池の膨張を防ぐことができる。また、溶媒の還元分解による劣化を防ぐことができるので、サイクル特性の低下も抑制できる。なお、一度負極活物質の表面がSEIで覆われると、負極活物質の表面で溶媒が還元分解されなくなるので、初期充電時以降も、ガスの発生が抑制できるとともにサイクル特性の低下も防ぐことができる。
【0040】
【化5】

【0041】
<リチウムイオン二次電池>
次に、本形態のリチウムイオン二次電池について説明する。本形態のリチウムイオン二次電池は、先述の本形態の負極活物質材料を含むことを特徴とする。
【0042】
図2は、本発明の一実施形態に係る積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。図2に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素17が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素17を収納し密封した構成を有している。
【0043】
発電要素17は、負極集電体11の両面(発電要素の最下層用および最上層用は片面のみ)に負極活物質層12が配置された負極と、電解質層13と、正極集電体14の両面に正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層12とこれに隣接する正極活物質層15とが、電解質層13を介して対向するようにして、負極、電解質層13、正極がこの順に積層されている。
【0044】
これにより、隣接する負極、電解質層13および正極は、1つの単電池層16を構成する。したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層16の外周には、隣接する負極集電体11と正極集電体14との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず)が設けられていてもよい。発電要素17の両最外層に位置する最外層負極集電体11aには、いずれも片面のみに負極活物質層12が配置されている。なお、図2とは負極および正極の配置を逆にすることで、発電要素17の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面のみに正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0045】
負極集電体11および正極集電体14には、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板18および正極集電板19がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム22の端部に挟まれるようにラミネートフィルム22の外部に導出される構造を有している。負極集電板18および正極集電板19は、必要に応じて負極端子リード20および正極端子リード21を介して、各電極の負極集電体11および正極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい(図2にはこの形態を示す)。ただし、負極集電体11が延長されて負極集電板18とされ、ラミネートフィルム22から導出されていてもよい。同様に、正極集電体14が延長されて正極集電板19とされ、同様に電池外装材22から導出される構造としてもよい。
【0046】
また、リチウムイオン二次電池の他の一形態として、双極型リチウムイオン二次電池が挙げられる。双極型リチウムイオン二次電池は、集電体の一方の面に正極活物質層が形成され、集電体の他方の面に負極活物質層が形成された双極型電極が、電解質層を介して積層されてなる発電要素を有する。上記リチウムイオン二次電池10と双極型リチウムイオン二次電池の各構成要件および製造方法に関しては、双方の電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。よって、上記したリチウムイオン二次電池10の各構成要件を中心に、以下説明する。ただし、双極型リチウムイオン二次電池の各構成要件および製造方法に関しても、同様の構成要件および製造方法を適宜利用して構成ないし製造することができることはいうまでもない。
【0047】
以下、本形態のリチウムイオン二次電池を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
【0048】
(集電体)
集電体は導電性材料から構成され、その両面に活物質層が配置されて電池の電極を構成する。
【0049】
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属を組み合わせためっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅が好ましい。
【0050】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0051】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0052】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
【0053】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はないが、通常は1〜100μm程度である。
【0054】
(正極活物質層)
正極活物質層は正極活物質を含む。正極活物質は、放電時にイオンを吸蔵し、充電時にイオンを放出する組成を有する。好ましい一例としては、遷移金属とリチウムとの複合酸化物であるリチウム−遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが使用できる。これらリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル特性に優れ、低コストな材料である。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することが可能である。この他、前記正極活物質としては、LiFePOなどの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOHなど、を用いることもできる。上記正極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0055】
なお、正極活物質の粒子径や形状は、特に制限されず、上述の負極活物質と同様の形態を取りうるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0056】
活物質層には、必要であれば、その他の物質が含まれてもよい。例えば、導電助剤、バインダなどが含まれうる。また、イオン伝導性ポリマーが含まれる場合には、前記ポリマーを重合させるための重合開始剤が含まれてもよい。
【0057】
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)などの種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0058】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、PTFE、SBR、合成ゴム系バインダなどが挙げられる。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。また、バインダとゲル電解質として用いるマトリックスポリマーとが同じ場合には、バインダを使用する必要はない。
【0059】
活物質層に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより調整されうる。活物質層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、好ましくは10〜100μm程度であり、より好ましくは20〜50μmである。活物質層が10μm程度以上であれば、電池容量が充分に確保されうる。一方、活物質層が100μm程度以下であれば、電極深部(集電体側)にリチウムイオンが拡散しにくくなることに伴う内部抵抗の増大という問題の発生が抑制されうる。
【0060】
集電体表面上への正極活物質層(または負極活物質層)の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にして使用できる。例えば、上記したように、正極活物質(または負極活物質材料)、ならびに必要であれば、イオン伝導性を高めるための電解質塩、電子伝導性を高めるための導電助剤、およびバインダを、適当な溶剤に分散、溶解などして、正極活物質スラリー(または負極活物質スラリー)を調製する。これを集電体上に塗布、乾燥して溶剤を除去した後、プレスすることによって、正極活物質層(または負極活物質層)が集電体上に形成される。この際、溶剤としては、特に制限されないが、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサンなどが用いられうる。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。
【0061】
上記方法において、正極活物質スラリー(または負極活物質材料スラリー)を集電体上に塗布・乾燥した後、プレスする。この際、プレス条件を調節することにより、正極活物質層(または負極活物質層)の空隙率が制御されうる。
【0062】
プレス処理の具体的な手段やプレス条件は特に制限されず、プレス処理後の正極活物質層(または負極活物質層)の空隙率が所望の値となるように、適宜調節されうる。プレス処理の具体的な形態としては、例えば、ホットプレス機やカレンダーロールプレス機などが挙げられる。また、プレス条件(温度、圧力など)も特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0063】
[電解質層]
電解質層は、電極間でリチウムイオンが移動する際の媒体としての機能を有する。電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質(電解液)および高分子ゲル電解質などが適宜用いられうる。
【0064】
液体電解質は、溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解したものである。溶媒としては、特に制限はないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)などの鎖状カーボネート系溶媒;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネート系溶媒;プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)などのエステル系溶媒などが挙げられる。これらのカーボネート系溶媒またはエステル系溶媒は負極活物質表面での還元分解によるガスの発生が顕著であるので、これらの溶媒を使用する場合に本形態の負極活物質材料を使用すると、より一層顕著な効果が得られうる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。
【0065】
また、液体電解質には必要に応じてビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート、ホスファゼン、またはリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)などの添加剤が添加されても良い。これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
支持塩(リチウム塩)としては、特に制限はないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiSbF、LiAlCl、Li10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCNなどの無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、LiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)などの有機酸陰イオン塩などが挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0067】
一方、高分子ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などが挙げられる。また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらのうち、PEO、PPOおよびそれらの共重合体、PVdF、PVdF−HFPを用いることが望ましい。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩がよく溶解しうる。また、マトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。
【0068】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)などの炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0069】
[集電板]
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(正極集電板および負極集電板)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
【0070】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などの金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0071】
[正極端子および負極端子リード]
図2に示すリチウムイオン二次電池10においては、負極端子リード20および正極端子リード21をそれぞれ介して、集電体は集電板と電気的に接続されている。
【0072】
正極および負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器など)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0073】
[外装材]
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図2に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素17をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。
【0074】
本形態のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層に上記負極活物質材料を用いることにより、電解質に含まれる溶媒の還元分解によるガスの発生が抑制される。よって、密封後の電池の膨張や、溶媒の分解によるサイクル特性の低下を効果的に防ぐことができ、電池の寿命を延ばすことができる。
【実施例】
【0075】
本発明の作用効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0076】
<リチウムイオン二次電池の作製>
[実施例1]
(カーボネート重合体の合成)
1LのSUS製の攪拌式オートクレーブに、エチレングリコール(110mmol)、Pd/Cu触媒(触媒量)を投入した。これらを150℃で攪拌しながら、一酸化炭素(120mmol)と酸素(60mmol)とを、滴下ボンベを用いて、オートクレーブ内の圧力が0.5MPa以下となるように調整しながら等モルずつ加えた。一酸化炭素および酸素を全量投入してから10時間攪拌した後、温度を25℃まで下げ、オートクレーブ内の未反応のガスを抜き、反応溶液を取り出した。そして、この反応溶液を蒸留して水分を除去することにより、末端がヒドロキシ基(−OH)であるカーボネート骨格を有する重合体を得た。
【0077】
次に、当該重合体、メタノール(24mmol)、およびPd/Cu触媒(触媒量)を攪拌式オートクレーブに投入した。そして上記と同様に、150℃で攪拌しながら、一酸化炭素(24mmol)と酸素(12mmol)とを、滴下ボンベを用いて、オートクレーブ内の圧力が0.5MPa以下となるように調整しながら等モルずつ加えた。反応終了後、濾過によりPd/Cu触媒を除去し、ろ液を蒸留して水分を除去することによりカーボネート重合体(化学式1において、Rはメチル基であり、Rはエチレン基である)を得た。なお、当該カーボネートの数平均分子量は1000(平均重合度n=10)であった。数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
【0078】
(負極活物質材料の作製)
上記カーボネート重合体1質量部をアセトニトリル10質量部で希釈したカーボネート重合体溶液を用意した。負極活物質としてのグラファイト(平均粒子径:10μm)50gと、上記ポリカーネート溶液100gとを混合した。混合物中の粉末成分を濾過により回収し、粉末成分に付着した過剰のカーボネート重合体およびアセトニトリルを除去することによって、グラファイト表面にカーボネート重合体を被覆した。得られた粉末成分の質量を測定し、被覆前のグラファイト95質量部に対してカーボネート重合体が5質量部被覆するまで、上記被覆操作を繰り返した。その後、粉末成分を80℃で8時間真空乾燥することにより負極活物質材料を得た。
【0079】
(負極の作製)
上記負極活物質材料90質量%、およびバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量%からなる固形分を用意した。この固形分にスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、負極活物質スラリーを作製した。得られた負極活物質スラリーを、負極集電体である銅箔(厚さ:10μm)の一方の面に塗布し乾燥させた後、プレス処理を施した。これにより、集電体の一方の面に負極活物質層を有する負極(最外層負極)を作製した。またこれとは別に、銅箔の一方の面に負極活物質スラリーを塗布し乾燥させた後、他方の面にも負極活物質スラリーを塗布し乾燥させ、その後プレス処理を施して、集電体の両方の面に負極活物質層を有する負極を作製した。
【0080】
(正極の作製)
正極活物質としてLiMnO(平均粒子径:10μm)85質量%、導電助剤としてアセチレンブラック(平均粒子径:0.1μm)5質量%、およびバインダとしてPVdF10質量%からなる固形分を用意した。この固形分にスラリー粘度調整溶媒であるNMPを適量添加して、正極活物質スラリーを作製した。得られた正極活物質スラリーを、正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ:10μm)の一方の面側に塗布し乾燥させた後、もう片方の面にも塗布し乾燥させ、プレス処理を施して、正極活物質層を両面に有する正極を作製した。
【0081】
(電解液の作製)
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(40:60(体積比))を用意した。この溶媒に、リチウム塩であるLiPFを1.0Mの濃度で添加して、電解液を作製した。
【0082】
(電池の組み立て)
上記で作製した正極および負極を、活物質層どうしが向き合うように、セパレータ(ポリエチレン微多孔膜、厚さ:25μm)を介して、最外層負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極・・・正極、セパレータ、最外層負極の順で積層した。これにより単電池層が10層積層されてなる積層体(正極5枚、負極4枚、最外層負極2枚)を得た。
【0083】
得られた積層体の正極および負極のそれぞれに集電板を溶接し、アルミラミネートフィルムからなる外装中に密封した。これを乾燥させた後、上記で作製した電解液を注液し、真空シールをして、積層型のリチウムイオン二次電池を完成させた。
【0084】
[実施例2]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えてエタノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがメチル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1000(平均重合度n=10)であった。
【0085】
[実施例3]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、n−プロパノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがn−プロピル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1000(平均重合度n=10)であった。
【0086】
[実施例4]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、イソプロパノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがイソプロピル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1000(平均重合度n=10)であった。
【0087】
[実施例5]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、n−ブタノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがn−ブチル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0088】
[実施例6]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、イソブタノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがイソブチル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0089】
[実施例7]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、sec−ブタノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがsec−ブチル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0090】
[実施例8]
(カーボネート重合体の合成)において、メタノールに代えて、tert−ブタノールを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがtert−ブチル基であり、Rがエチレン基である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0091】
[実施例9]
(カーボネート重合体の合成)において、エチレングリコールに代えて、1,2−プロパンジオールを用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがイソプロピル基であり、Rがメチルエチレン基(−CH(CH)CH−)である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0092】
[実施例10]
(カーボネート重合体の合成)において、エチレングリコールに代えて、1,3−プロパンジオールを用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。なお、カーボネート重合体は、化学式1におけるRがイソプロピル基であり、Rがトリメチレン基(−CHCHCH−)である構造を有し、数平均分子量が1100(平均重合度n=10)であった。
【0093】
[実施例11]
(電解液の作製)において、エチルメチルカーボネート(EMC)に代えて、ジエチルカーボネート(DEC)を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0094】
[実施例12]
(電解液の作製)において、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(40:60(体積比))に代えて、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とエチルメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(40:30:30(体積比))を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0095】
[実施例13]
(電解液の作製)において、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(40:60(体積比))に代えて、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(40:30:30(体積比))を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0096】
[実施例14]
(電解液の作製)において、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(40:60(体積比))に代えて、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(40:20:20:20(体積比))を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
[実施例15]
(電解液の作製)において作製した電解液に、ビニレンカーボネート(VC)1質量%をさらに添加したことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
[実施例16]
(電解液の作製)において作製した電解液に、プロパンスルトン(PS)1質量%をさらに添加したことを除いては、実施例4と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
[比較例1]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0100】
[比較例2]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例11と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
[比較例3]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例12と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
[比較例4]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例13と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
[比較例5]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例15と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
[比較例6]
(負極の作製)において、カーボネート重合体を被覆しなかったことを除いては、実施例16と同様の方法でリチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
<電池性能の評価>
(初期放電容量測定)
上記実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池について、0.1Cにて20時間充電(CCCV、上限電圧4.2V)することにより初充電を行った後、0.1Cで放電(CC、下限電圧2.5V)を行った。この初充電の際に、負極活物質表面に被覆したカーボネート重合体が還元分解され、負極活物質表面にSEIが形成される。
【0106】
そして、25℃で24時間放置後、0.2Cにて8時間充電(CCCV、上限電圧4.2V)を行なった後、0.2Cで放電(CC、下限電圧2.5V)を行い、この際の放電容量を測定して、これを初期放電容量とした。
【0107】
また、電池体積をアルキメデス法により測定し、初期電池体積とした。
【0108】
(電池抵抗測定)
上記リチウムイオン二次電池を充電状態(SOC:State of charge)50%に充電し、1Cで10秒間放電した際の電位差ΔEを、流れた電流値で除して、得られた値に正極と負極とが対向する部分の面積をかけた値を電池抵抗とした。なお、電池抵抗測定は、−20℃で実施した。
【0109】
(サイクル試験)
上記リチウムイオン二次電池について、55℃に設定した恒温槽において、1Cにて2.5時間充電(CCCV、上限4.2V)を行なった後、10分休止し、1Cにて放電(CC、下限2.5V)を行った。この操作を1サイクルとして、300サイクル繰り返すことによりサイクル試験を行った。
【0110】
この後、25℃で24時間放置後、0.2Cにて8時間充電(CCCV、上限電圧4.2V)を行った後、0.2Cで放電(CC、下限電圧2.5V)を行い、サイクル試験後の放電容量を測定した。そして、初期放電容量に対するサイクル試験後の放電容量の割合を百分率で表し、容量維持率とした。
【0111】
また、サイクル試験後の電池体積をアルキメデス法により測定し、初期電池体積に対するサイクル試験後の体積の割合を百分率で表し、体積膨張率(セルの膨れ度合い)とした。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1によると、負極活物質表面をカーボネート重合体で被覆してなる負極活物質材料を使用した実施例1〜16では、カーボネート重合体での被覆を行わなかった比較例1〜6と比べて、体積膨張率が低く、容量維持率が高いことが示された。これは、初期充電時に負極活物質表面を覆うカーボネート重合体が溶媒よりも先に還元分解されてSEIを形成することにより、溶媒の還元分解が防がれ、ガスの発生が抑制されたことによるものと考えられた。
【0114】
また、化学式1におけるRが炭素原子数3または4のアルキル基である実施例3〜16では、Rがメチル基またはエチル基である実施例1または2と比較して、より優れた体積膨張率および容量維持率が得られた。
【符号の説明】
【0115】
1 負極活物質材料、
3 負極活物質、
5 カーボネート構造を有する重合体、
10 リチウムイオン二次電池、
11 負極集電体、
11a 最外層負極集電体、
12 負極活物質層、
13 電解質層、
14 正極集電体、
15 正極活物質層、
16 単電池層、
17 発電要素、
18 負極集電板、
19 正極集電板、
20 負極端子リード、
21 正極端子リード、
22 ラミネートフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質本体の表面の少なくとも一部が、下記化学式1で表されるカーボネート構造を有する重合体で被覆されてなる、負極活物質材料;
【化1】

式中、nは2〜100の整数を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数2〜5のアルキレン基を表す。
【請求項2】
前記化学式1中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素原子数2または3のアルキレン基を表す、請求項1に記載の負極活物質材料。
【請求項3】
前記化学式1中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数3または4のアルキル基を表し、Rはエチレン基を表す、請求項2に記載の負極活物質材料。
【請求項4】
集電体と、
前記集電体の表面に形成されてなる正極活物質層と、
前記集電体の表面に形成されてなる負極活物質層と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する、電解液を含む電解質層と、が積層されてなる発電要素を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の負極活物質材料を含む、リチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59410(P2012−59410A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199130(P2010−199130)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】