説明

負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機

【課題】ハンドホイールに連結された低速側入力回転部材の外周を外周フレームに設けた軸受けに大径ベアリングを使用しなければならず、費用が嵩む。
【解決手段】ハンドホイール18に連結された高トルク入力部材12と、増速機構15を介して連結され低負荷を伝達する磁気クラッチ14と、高トルク入力部材12または磁気クラッチ14を介して、メカニカルブレーキ7、8にハンドホイール18の回動操作力を伝達する出力伝達手段13とを有し、ハンドホイール18をメカニカルブレーキ7、8の出力伝達手段13と連結され回動される駆動部材10で軸承し、磁気クラッチ14を増速機構15とハンドホイール18間に配置し、前記磁気クラッチ14の外周を覆うように設けた中空入力部材11でハンドホイール18と増速機構15とをトルク伝達可能に連結し、出力伝達手段13を駆動部材10のボス部10aに該ボス部に対しトルク伝達可能に環装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機に関するもので、詳しくは、ハンドホイールとロードチェーンのオフセット量が小さい負荷感応型自動変速機を内蔵した巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻上機の自動変速機は、2つのクラッチ機構を備え、無負荷時には高速巻上げを可能にするものが開発されていたが、伝達プレートを機械的にスライドさせる接触式の切替え方式であるため、切替え時の内部抵抗が大きく、操作性が悪いという課題を有していた。そのため、作業者が荷重の状態が変化する度に煩雑な変速操作を行う必要が無く、また、所定以上の荷重を巻上げる場合には、低速側回転部材と出力部材間の動力伝達を円滑に行うことが可能で、切換時における衝撃、騒音を減少できる負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機が本出願人によって提案されている(特許文献1)。また、上記巻上機において、負荷感応型自動変速装置の小形化を実現する装置が本出願人によって提案されている(特許文献2)(特許文献3)。
【特許文献1】特開2010-116957号公報
【特許文献2】特願2010-189080明細書
【特許文献3】特願2010- 193860明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した巻上機は、ハンドホイールに連結され、高負荷を伝達する外側磁性体を有する低速側入力回転部材と、低速側入力回転部材と回転増速装置を介して連結され、低負荷を伝達する内側磁性体を有する高速側入力回転部材と、
外部負荷の大きさに応じて作用する位置切り替え手段によって両回転部材の回転軸の軸線方向に変位し、前記低速側入力回転部材と高速側入力回転部材のいずれか一方の磁性体と磁気的に係合する中間磁性体を有し、低負荷高速回転及び高負荷低速回転の切り換えを行なう出力部材を備え、
前記低速側入力回転部材は出力部材と機械的に係合する係合部を有し、
前記係合部は、前記出力部材の中間磁性体が低速側入力回転部材の外側磁性体と対向し磁気的に係合した後に、出力部材と係合する構成のものであるが、ハンドホイールに連結された低速側入力回転部材の外周を外周フレームに設けた軸受けによって支持する構成であるため、大径ベアリングを使用しなければならず、費用が嵩むという課題を有していた。
【0004】
本発明は、ハンドホイールとロードチェーンのオフセット量が小さく、かつ大径ベアリングを用いない構成とすることで、上記巻上機に比して安価でかつ構成がよりコンパクトな負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するもので、フレームに軸支されたロードシーブの一側にロードシーブを駆動する減速機構と他の側面に前記ロードシーブに掛かる負荷でブレーキ力が作用するメカニカルブレーキとを有し、
前記減速機構と前記メカニカルブレーキとを連結する駆動軸と、前記メカニカルブレーキを介してロードシーブを回動操作するハンドホイールと、
前記ハンドホイールに連結され高負荷を伝達する高トルク入力部材と、前記ハンドホイールに増速機構を介して連結され低負荷を永久磁石の磁力によって伝達する磁気クラッチと、
負荷の大きさに応じて前記高トルク入力部材または前記磁気クラッチを介して前記増速機構のいずれか一方と選択的に連結され、前記メカニカルブレーキにハンドホイールの回動操作力を伝達する出力伝達手段とを有する負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機であって、
前記ハンドホイールを前記メカニカルブレーキの前記出力伝達手段と連結され回動される駆動部材で軸承し、
前記磁気クラッチを前記増速機構と前記ハンドホイール間に配置し、
前記磁気クラッチの外周を覆うように設けた中空入力部材で前記ハンドホイールと前記増速機構とをトルク伝達可能に連結し、
前記出力伝達手段を前記駆動部材のボス部に該ボス部に対しトルク伝達可能に環装したことを特徴とする。
【0006】
また、前記増速機構は遊星歯車機構であって、前記中空入力部材を前記遊星歯車機構のプラネタリキャリアに連結し、前記磁気クラッチを前記遊星歯車機構の太陽ギヤに連結し、前記遊星歯車機構のリングギヤを前記フレームに対し固定し、かつハンドホイールをカバーするカバーフレームを有することを特徴とする。
【0007】
また、前記駆動軸は前記太陽ギヤに設けられた中心孔を貫通し先端を前記カバーフレームに設けられた軸受けで軸支することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の巻上機は、前記した通り、
ハンドホイールをメカニカルブレーキの出力伝達手段と連結され回動される駆動部材で軸承し、
磁気クラッチを増速機構と前記ハンドホイール間に配置し、
前記磁気クラッチの外周を覆うように設けた中空入力部材で前記ハンドホイールと前記増速機構とをトルク伝達可能に連結し、
前記出力伝達手段を前記駆動部材のボス部に該ボス部に対しトルク伝達可能に環装した構成としたので、従来装置においては、入力回転部材の外周を外周フレームに設けた軸受で軸支する構成を必要としたため大径ベアリングを要していたが、本発明では、ハンドホイールと出力伝達手段をメカニカルブレーキの駆動部材で軸承したので大径のベアリングを必要とせず小型化が可能となった。また、磁気クラッチを中空入力部材と増速機構で包囲したので、磁気クラッチ内への粉塵等の侵入を防止できる。
【0009】
また、増速機構を遊星歯車機構とすることで、装置を薄く、また、プラネタリキャリアと太陽ギヤは同じ回転中心で回動するので、ハンドホイールを駆動部材と遊星歯車機構のプラネタリキャリアで回転可能に軸承でき、ハンドホイールを堅牢に軸承でき装置の小型化を可能とした。
【0010】
また、駆動軸で遊星歯車機構と磁気クラッチとハンドホイールを軸承したので、良好に軸受けでき、かつ装置全体の構成をシンプルにでき小型化、低コスト化が可能で、かつハンドホイールとロードチェーンのオフセット量を小さくすることができ、操作時における振れの発生を防止することができる巻上機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の巻上機の側面断面図。
【図2】磁気クラッチの構成説明図。
【図3】高トルク入力部材の構成説明図。
【図4】(a)低トルク伝達状態を示す側面断面図、(b)図aの構成説明図。
【図5】(a)高トルク伝達状態を示す側面断面図、(b)図aの構成説明図。
【図6】高トルク伝達状態におけるクラッチ突起、高トルク入力部材の説明図。
【図7】爪車の構成説明図。
【図8】遊星歯車機構の構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図8を用いて、本発明の負荷感応型自動変速装置と前記変速装置を内蔵した巻上機(チェーンブロック)の実施の形態について説明する。
【0013】
図において、1は巻上機の上フック、1aは上フック1を本体フレーム2に固設する上フック取付け軸、2はロードシーブ及び減速ギア用軸受を備えた本体フレーム、2a、2bはロードシーブ3を挾装する本体フレーム2の鋼板フレーム、2cは鋼板フレーム2a、2bを連結する連結軸、本体フレーム2は鋼板フレーム2a、2bと連結軸2cが構成され、3は鋼板フレーム2a、2b間に回転可能に軸支され、図示しないロードチェーンを巻き上げ巻き下げするロードシーブ、4は減速歯車機構で、4aはロードシーブ3のボス部にスプライン結合されたロードギヤ、4bは駆動軸5のピニオン5aと噛合し、ロードギヤ4aと噛合する図示しない減速歯車(小)と同軸に軸着された減速ギヤ(大)で、駆動軸5の回転を減速してロードシーブ3に伝達している。5はロードシーブ3の挿通孔に回転自在に貫装された駆動軸で、一方の端部にはピニオン5a、他方には雄ねじ5bが設けられている。駆動軸5はピニオン5a側の先端が減速歯車機構4のカバーフレーム16に軸受け16aで軸支され、雄ねじ5b側の先端がハンドホイール18のカバーフレーム17に軸受け17bで軸支されている。
【0014】
6は駆動軸5に回転不能に軸着されたブレーキ受圧部材で、そのボス部6aには一対の摩擦板9、9と、摩擦板9、9に挟装される逆転防止用爪車7が回転可能に外装されている。
【0015】
7aは逆転防止用爪車7の歯部で、図7に示すように、歯部7aには後記する第1傾斜部7aと第2傾斜部7aが設けられている。7bはすべり軸受け、8は爪、8aは爪軸、8bは爪8を爪車7に付勢するばねである。
【0016】
逆転防止用爪車7の歯部7aに設けた第1傾斜部7aは、ハンドホイール18の回転を遊星歯車機構18を介して高速で回転された時に、爪8が爪軸8aを中心に緩やかな角度で前記歯部7aと当接するように設けられた傾斜面を有する。第2傾斜部7aは、爪8が爪軸8aと中心に第1傾斜部7aより大きく回動して前記歯部7aに確実に当接するように設けた傾斜面で、爪8と深く係合可能とし爪車7の逆転を確実に防止する。
【0017】
このように、逆転防止用爪車7の歯部7aに爪8が緩やかに当接する第1傾斜部7aと強く当接する第2傾斜部7aを設けることによって、爪車7が高速で回転した時の爪8と爪車7の騒音の発生を防止することができるとともに、高トルク回転時において確実に逆転防止作用を奏することができる。
【0018】
10はメカニカルブレーキの駆動部材で、ボス部10aの内周部に雌ネジ10bを、外周部にスプライン10cを有し、前記雌ネジ10bは駆動軸5の雄ネジ5bに螺合し、正転(巻き上げ操作)することで、摩擦板9、9及び逆転防止用爪車7をブレーキ受圧部材6に向かってその制動面で押圧し、駆動部材10の回転を駆動軸5に伝達するように構成され、逆転(巻き下げ操作)することで、前記押圧方向とは逆方向にスライドして逆転防止用爪車7との摩擦係合を解放し逆転(巻き下げ)を可能にするようにされており、駆動部材10はメカニカルブレーキの回動駆動操作される入力部を構成している。
【0019】
ボス部10aは、駆動部材10から、摩擦板9を押圧する制動面とは反対方向で後記するハンドホイール18のカバーフレーム17の側面方向に延長された中空軸状のボス部で、このボス部10aの外周に設けられたスプライン10cに、後記する出力伝達部材13のボス部13aが軸方向にスライド可能にボス部13aの内周に設けられたスプライン13aで緩装され、駆動部材10と出力伝達部材はトルク伝達可能に連結されている。更にこのボス部13aの外周に後記する磁気クラッチ14の中空入力軸14aが軸受け14aによって回転可能、かつ回転軸方向へのスライドを可能とするように相対移動可能に軸承されている。
【0020】
11はハンドホイール18に固設された非磁性の中空軸状の中空入力部材、12は中空入力部材11とハンドホイール18に一体回転するように連結された高トルク入力部材である。中空入力部材11の他側には後記する遊星歯車機構15のキャリア15aが一体として連結されている。また中空入力部材11は、磁気クラッチ14及び出力伝達部材13の外周を覆う周壁を有する。12aは高トルク入力部材12に設けられた咬合クラッチの係合凹部で、後記するクラッチ突起14eと係脱する咬合クラッチを構成し、図3に示す、高トルク入力部材12の正転時にクラッチ突起14eと係合する正転時トルク伝達側面12aと逆転時にクラッチ突起14eと係合する逆転時トルク伝達側面12aを有する。12bは前記係合凹部12aの凹部底面に設けられ、クラッチ突起14eを吸着するクラッチ保持磁性体である。クラッチ突起14eは永久磁石14dによって励磁される強磁性体からなり、後記するクラッチ切換動作でクラッチ突起14eが高トルク入力部材12の係合凹部12a側に移動すると、クラッチ保持磁性体12bに吸着、保持される。高トルク入力部材12は、クラッチ保持磁性体以外はクラッチ突起14eが吸着しないように、非磁性体からなっている。
【0021】
12cは前記係合凹部12aの正転時トルク伝達側面12aと逆転時トルク伝達側面12aの中間部に設けられた非磁性体からなるクラッチ離脱用突起で、巻上操作時にハンドホイルを逆転させることでクラッチ突起14eと当接し、クラッチ突起14eとクラッチ保持磁性体12bを強制的に離脱させるクラッチ離脱用傾斜面12cと巻下操作時にクラッチ突起14eがクラッチ保持磁性体12bに吸着しないようにクラッチ突起14eの移動を規制する規制傾斜面12dを有する。前記クラッチ離脱用突起12cは、図6、7に示すように、高トルク入力部材12を逆転させることで、クラッチ突起14eを正転時トルク伝達側面12aから逆転時トルク伝達側面12a方向に相対移動させ、この移動時に、正転時トルク伝達側面12a側のクラッチ保持用磁性体12bに吸着されているクラッチ突起14eはクラッチ離脱用突起12cの正転離脱用傾斜面12cに当接し、図6の中央位置に示すように、クラッチ突起14eをクラッチ保持磁性体12bから離脱させる作用を有する。クラッチ突起14eは一旦係合凹部12aから離脱しても、負荷トルクが所定値以上になると再び係合凹部12a内にスライド移動し、図6の左側位置に示すように、正転時トルク伝達側面12a、または逆転時トルク伝達側面12aにハンドホイール18を回転操作する方向に応じて当接して回転トルクを伝達する。
【0022】
15は増速機構として作用する遊星歯車機構、15aは中空入力部材11に連結されたプラネタリキャリア、15aはプラネタリキャリア15aと対をなすプラネタリキャリア、15bはプラネタリキャリア15a、15aに回転可能に軸支されたプラネタリギア、15bはプラネタリキャリア15a、15aに設けられたプラネタリギヤ軸、15cはプラネタリギヤ15bが内接噛合するリングギヤ、15dは太陽ギヤ軸15dに設けられた太陽ギヤ、15dは増速機構の出力軸である太陽ギヤ軸である。プラネタリギヤ15bは太陽ギヤ15dと外接噛合し、前記リングギヤ15cと内接噛合し、プラネタリキャリア15aの回転を増速し、太陽ギヤ軸15dを増速回転する。
【0023】
プラネタリキャリア15a〜太陽ギヤ15dから構成される遊星歯車機構15は、図1に示すように、前記駆動部材10のボス部10aとハンドホイールカバー17の側面間に配置されている。太陽ギヤ15d、太陽ギヤ15dの中心には、駆動軸5を挿通可能とする中心孔15dが設けられている。
【0024】
14は磁気クラッチで、太陽ギヤ軸15dに中空入力軸14aで連結され、中空入力軸14aの外周には軟磁性体からなる内側継鉄14bを備え、内側継鉄14bの外周には永久磁石14dと永久磁石14dによって励磁される外側継鉄14cが設けられており、両者間に働く磁気吸引力によって伝達可能なトルクを内側継鉄14bと外側継鉄14c間で伝達する構成となっている。中空入力軸14aは出力伝達部材13のボス部13aと略同一の長さを有し、ボス部13aの外周に回転軸方向で重なるように配置され、軸受け14aによってボス部13aに対し回転及び軸方向スライド可能に軸受けされている。
【0025】
外側継鉄14cは、永久磁石14dとともに出力伝達部材13に固着され、出力伝達部材13はその出力伝達部材ボス部13a内周のスプライン13aで駆動部材10のボス部10a外周のスプライン10cに軸方向にスライド可能に連結され、内側継鉄14bと外側継鉄14cは駆動部材10の中空軸状のボス部10aの外周で回動可能に軸承されている。
【0026】
外側継鉄14cと内側継鉄14b間で磁力によって伝達可能なトルクを高めるために、永久磁石14dは、ドーナツ円盤状で一方の側面がN極、他方の側面がS極に磁化されており、この永久磁石14dを一対の外側継鉄14c、14cで狭持するとともに、一対の外側継鉄14c、14cの内周に対向させて一対の内側継鉄14b、14bが配置され、さらに、外側継鉄14cと内側継鉄14bの対向する内外周面には、それぞれの歯先が対向するように複数の歯先が列設された歯形形状部14c、14bが設けられている。
【0027】
14bは歯形形状部14bの側面で磁気クラッチ14のボス部14aに外挿されたドーナツ円板状の側部磁性体、14bは側部磁性体の小径部である。
【0028】
14eは強磁性体からなる咬合クラッチを構成するクラッチ突起である。クラッチ突起14eは出力部材13から高トルク入力部材12側に向けて突出して設けられ、高負荷回転時に前記高トルク入力部12に設けた係合凹部12aに係合し、クラッチ保持磁性体12bに吸着する。
【0029】
磁気クラッチ14は図1に示すように、中空入力部材11の中空部と中空入力部材11の1側に設けた遊星歯車機構15のキャリア15aと他側に設けた高トルク入力部材12で囲まれた空間内で駆動部材10のボス部10aの外周に環装されている。
【0030】
18は回転トルク入力手段であるハンドホイールで、中空入力部材11及び高トルク入力部材12に連結手段で固設されている。また、ハンドホイール18は、高トルク入力部材12と共に駆動部材10のボス部10aに軸受け12eによって回転可能に軸受けされ、かつ中空入力軸11とプラネタリキャリア15aを介して軸受け15aによって太陽ギヤ軸15dの外周に回転可能に軸受けされている。太陽ギヤ軸15dは、幅広の軸受け14aによって出力伝達部材13の中空軸状のボス部13aの外周に軸受けされた中空入力軸14aに軸方向に延長するように固着され、磁気クラッチ14の出力伝達部材13のボス部13aは駆動部材10の中空軸状のボス部10aにスプライン10c、13aでスライド可能に嵌合されている。駆動部材10はボス部10aで駆動軸5に雄ねじ5b雌ねじ10bで螺合され、駆動軸5はその先端を軸受け16a、17bによってそれぞれフレーム2に固着されたカバーフレーム16、17に軸受けされている。したがって、ハンドホイール18、磁気クラッチ14、出力伝達部材13は、駆動軸5に各軸受け部を介して軸受けされ、駆動軸5と同心で回転する。
【0031】
次に、本発明の磁気クラッチ機構の切換動作について説明する。
【0032】
荷を吊っていないか、吊り上げる荷が軽く、ハンドホイール18を回動操作する負荷が軽い低負荷回転時には、図4(a)(b)に示すように、内側継鉄14bの歯形形状部14bと出力伝達部材13に固設された外側継鉄14cの歯形形状部14cが対向した状態にあり、永久磁石14dで励磁された外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bに設けた歯形形状部14bは両者の歯形形状部の歯先間のギャップを介して、磁気回路を形成し、両回転手段間に強い磁気吸引力が発生する。
【0033】
この状態においては、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14b間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は、外側継鉄14cと側部磁性体14b、14bの磁力による吸引力の回転中心線方向と釣合い状態にあり、内側継鉄14bの歯形形状部14bと外側継鉄14cの歯形形状部14cは、図4(a)に示す状態を維持し、内側継鉄14bの歯形形状部14bから外側継鉄14cの歯形形状部14cにトルクを伝達し、外側継鉄14cを定められた増速比で増速された太陽ギヤ軸15dと同速で回転する。
【0034】
次に、重い荷重を吊り上げて負荷トルクが増大し、負荷トルクが内側継鉄14bの歯形形状部14bと外側継鉄14cの歯形形状部14cの磁気吸引力を越えると、内側継鉄14bと外側継鉄14は相対回転し、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14bの歯形形状部の歯先間に形成されていた磁気回路が側部磁性体14b、14bを流れる磁気回路に変位するため、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14b間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は減少する。一方、外側継鉄14cと側部磁性体14b、14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は増加する。この外側継鉄14cと側部磁性体14b、14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14b間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力より増加することにより、外側継鉄14cは回転中心線方向にスライドし、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14bの相対位置が変位して、図5(a)に示すように、外側継鉄14cの歯形形状部14cと側部磁性体14b、14b間で磁気回路を形成し、同時に外側継鉄14cとともにスライドするクラッチ突起14eはハンドホイル18と同速で回転する高トルク入力部材12の係合凹部12aに係合し、クラッチ保持磁性体12bに吸着して高負荷伝達モードに切換えられる。
【0035】
次に、荷を降ろして負荷が所定値以下に減少すると、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14bが磁力によって向き合い、外側継鉄14cと側部磁性体14b、14b間に形成されていた磁気回路が内側継鉄14bの歯形形状部14bを流れる磁気回路に切り替わるので、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が増加し、外側継鉄14cと側部磁性体14b、14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は減少し、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bの歯形形状部14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が前記外側継鉄14cと側部磁性体14b、14bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力を上回るため、戻しのスラスト力が発生し、外側継鉄14cの歯形形状部14cは内側継鉄14bの歯形形状継鉄14bと対向する位置にスライドし、低負荷伝達モードとなる。
【0036】
負荷によって作動するメカニカルブレーキを有する巻上機において、荷を吊った状態でハンドホイール18の巻上操作を中止すると、吊荷の負荷はメカニカルブレーキの逆転防止用爪車7によって保持されるので、内側継鉄14bと外側継鉄14c間に働く負荷は消滅する。その状態となった時に、荷を降ろした後の低負荷状態と同じように咬み合いクラッチの咬み合いが解除されると、ハンドホイール18の巻上操作を再開するたびに、磁気クラッチ14と咬み合いクラッチとで低負荷状態(低負荷伝達モード)から高負荷状態(高負荷伝達モード)への切り替え動作が発生するが、本実施の形態では、巻き上げ動作で一旦高負荷伝達モードに切り替わると、クラッチ突起14eをクラッチ保持磁性体12bが吸着し、咬み合いクラッチが戻らないような構成となっているので、前記した切り替え動作によるショックの発生を防止する。
【0037】
荷を巻き上げ操作後に巻き下げ操作(ハンドホイール18の逆転操作)をすると、クラッチ突起14eは正転時トルク伝達側面12aから離反し正転時離脱用傾斜面12cを乗り越えて逆転時トルク伝達側面12a側に移動し当接し、逆転方向の高負荷トルクを伝達して荷を巻降ろす。
【0038】
逆転時トルク伝達側面12aと離脱用突起12c間にはクラッチ保持磁性体12bを配置していないので、荷を巻降ろして無負荷状態になったら咬み合いクラッチと磁気クラッチは自動的に低負荷伝達モードに戻り、高速で巻き下げ、巻き上げが可能となる。
【0039】
荷を吊っていないか、吊り上げる荷が軽く、ハンドホイール18を回動する負荷が軽い低負荷回転時に、クラッチ突起14eがクラッチ保持磁性体12bに吸着されている時には、ハンドホイール18を逆転方向に回動させて高トルク入力部材12を逆転させることで、図8に示すように、クラッチ突起14eを高トルク入力部材12に設けた係合凹部12aの正転時トルク伝達側面12aから逆転時トルク伝達側面側12a側に移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起14eはクラッチ離脱用突起5の正転離脱用傾斜面12cに当接し、傾斜面でガイドされクラッチ保持磁性体12bから離脱させ、外側継鉄14cは内側継鉄14bの歯形形状継鉄14bと対向する位置にスライドし、低負荷伝達モードに切り換わる。
【0040】
本実施の形態によると、磁気クラッチ14に付加される負荷により、外側継鉄14cの歯形形状部14cと内側継鉄14bに設けた歯形形状継鉄14bとの相対回転で発生するスラスト力を利用して、外側継鉄14cをスライドすることで、外側継鉄14cに固着した出力伝達部材13と高トルク入力部材12に設けられた咬合クラッチの切換えを行う構成としているので、従来装置において必要としていた別体としてのスラスト変換機構を設ける必要がないため、部品点数が少なく、構造が簡単で、小型・軽量化が可能となり、製品コストを大幅に削減することができ、また、高負荷時には、外側継鉄14cと内側継鉄14bの相対回転により発生するスラスト力により、外側継鉄14cに設けたクラッチ突起14eを高トルク入力部材12に係合する咬合クラッチの構成としているので、高負荷時においても、動力伝達を正確に行うがことができ、かつクラッチの切換えをハイレスポンスに行うことができる。
【0041】
さらに、高トルク入力部材12のトルク伝達用係合部12aにクラッチ保持磁性体12bを設けたので、出力伝達部材13が内側継鉄14bから高トルク入力部材12に切換える動作時、クラッチ突起14eがクラッチ保持磁性体12bに吸引されるため、クラッチ突起14eによる切換え動作を迅速かつ確実に行うことができ、また、高負荷伝達モードにおける巻上操作時、クラッチ突起14eは常時クラッチ保持磁性体12bに吸着されているため、クラッチ戻りの発生を防止することができる。
【0042】
また、トルク伝達用係合部12aの正転時トルク伝達側面12aと逆転時トルク伝達側面12aの中間部に、クラッチ離脱用突起12cを設けたので、前記出力回転手段13が高トルク入力部材12から磁気クラッチ14の内側継鉄14bに切換える動作時、高トルク入力部材12を逆転させることで、クラッチ突起14eを正転時トルク伝達側面12aから逆転時トルク伝達側面12a側に移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起14eは前記クラッチ離脱用傾斜面12cに当接し、クラッチ突起14eをクラッチ保持磁性体12bから離脱させるので、出力回転手段13を高トルク入力部材12から低トルク入力手段である磁気クラッチ14の内側継鉄14bに切換え、円滑に低負荷モードに切換えることができる。
【0043】
以上の通り本発明によると、
ハンドホイール18をメカニカルブレーキの出力伝達手段6と連結され回動される駆動部材10で軸承し、
磁気クラッチ14を増速機構15とハンドホイール18間に配置し、
ハンドホイール18と増速機構15とをトルク伝達可能に、かつ磁気クラッチ14の外周を覆うように連結する中空入力部材11を有し、
出力伝達手段6を駆動部材10のボス部10aに該ボス部に対しトルク伝達可能に環装した構成としたことで、従来装置においては、入力回転部材の外周を外周フレームに設けた軸受で軸支する構成を必要としたため大径ベアリングを要していたが、本発明では、ハンドホイール18と出力伝達部材13をメカニカルブレーキの駆動部材10で軸承したので、大径のベアリングを必要とせず小型化が可能となった。また、磁気クラッチ14を非磁性体の中空入力部材11の内周壁と増速機構で包囲したので、磁気クラッチ内への粉塵等の侵入を防止できる。
【0044】
また、増速機構を遊星歯車機構15とすることで、装置を薄く、また、プラネタリキャリア15aと太陽ギヤ15dは同じ回転中心で回動するので、ハンドホイール18を駆動部材10と遊星歯車機構のプラネタリキャリア15aで回転可能に軸承でき、ハンドホイール18を堅牢に軸承でき装置の小型化を可能とした。
【0045】
また、駆動軸5で遊星歯車機構15と磁気クラッチ14とハンドホイール18を軸承したので、良好に軸受けでき、かつ装置全体の構成をシンプルにでき小型化、低コスト化が可能で、かつハンドホイールとロードチェーンのオフセット量を小さくすることができ、操作時における振れの発生を防止することができる巻上機を供給することができる。
【符号の説明】
【0046】
3:ロードシーブ
4:減速歯車機構
5:駆動軸
5a:ピニオン
5b:多条の雄ねじ
6:ブレーキ受動部材
6a:ボス部
7:爪車
7a:歯部
7a:第1傾斜部
7a:第2傾斜部
8:爪
8a:爪軸
9:摩擦板
10:駆動部材
10a:ボス部
10b:多条の雌ねじ
10c:スプライン
11:中空入力部材
12:高トルク入力部材
12a:係合凹部
12b:クラッチ保持磁性体
12c:クラッチ離脱用突起
12e:軸受け
13:出力伝達部材
13a:出力伝達部材ボス部
13a:スプライン
14:磁気クラッチ
14a:中空入力軸
14b:内側継鉄
14b:歯形形状部
14c:外側継鉄
14c:歯形形状部
14d:永久磁石
14e:クラッチ突起
15:遊星歯車機構
15a:キャリア1
15a:キャリア2
15b:軸受け
15c:リングギヤ
16:カバーフレーム
16a:駆動軸軸受け
17:カバーフレーム
17b:駆動軸軸受け
18:ハンドホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームに軸支されたロードシーブの一側にロードシーブを駆動する減速機構と他の側面に前記ロードシーブに掛かる負荷でブレーキ力が作用するメカニカルブレーキとを有し、
前記減速機構と前記メカニカルブレーキとを連結する駆動軸と、前記メカニカルブレーキを介してロードシーブを回動操作するハンドホイールと、
前記ハンドホイールに連結され高負荷を伝達する高トルク入力部材と、前記ハンドホイールに増速機構を介して連結され低負荷を永久磁石の磁力によって伝達する磁気クラッチと、
負荷の大きさに応じて前記高トルク入力部材または前記磁気クラッチを介して前記増速機構のいずれか一方と選択的に連結され、前記メカニカルブレーキにハンドホイールの回動操作力を伝達する出力伝達手段とを有する負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機であって、
前記ハンドホイールを前記メカニカルブレーキの前記出力伝達手段と連結され回動される駆動部材で軸承し、
前記磁気クラッチを前記増速機構と前記ハンドホイール間に配置し、
前記磁気クラッチの外周を覆うように設けた中空入力部材で前記ハンドホイールと前記増速機構とをトルク伝達可能に連結し、
前記出力伝達手段を前記駆動部材のボス部に該ボス部に対しトルク伝達可能に環装したことを特徴とする負荷感応型自動変速装置を内蔵した巻上機。
【請求項2】
前記増速機構は遊星歯車機構であって、前記中空入力部材を前記遊星歯車機構のプラネタリキャリアに連結し、前記磁気クラッチを前記遊星歯車機構の太陽ギヤに連結し、前記遊星歯車機構のリングギヤを前記フレームに対し固定し、かつハンドホイールをカバーするカバーフレームを有することを特徴とする請求項1記載の巻上機。
【請求項3】
前記駆動軸は前記太陽ギヤに設けられた中心孔を貫通し先端を前記カバーフレームに設けられた軸受けで軸支することを特徴とする請求項2記載の巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56733(P2012−56733A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202756(P2010−202756)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】