説明

貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造及び負圧発生防止方法

【課題】 水張耐圧試験を行う際に、上部のマンホールや通気管など開口部のバルブ操作の忘れや遅れなどのミスやバルブ故障、或いは吸気量の不足などにより、貯槽内部が負圧状態とならないように、自動的に空気を吸い込むようにした吸排気装置を水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造及び負圧発生防止方法を提供する。
【解決手段】 水張り時に空気抜き機能を有し、満水時に水がリークしない耐圧密閉機能を有し、かつ水抜き時に吸気機能を有する、浮力弁体6とシール面体7と支持枠体8とで形成した一体型の吸排気装置5を貯槽頂部の上部開口部3に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、球形、横置、縦置等の貯槽の水張試験や耐圧試験を行う際にバルブ故障やバルブ操作ミスなどにより、貯槽内部が負圧状態となることを防止する構造及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11及び図12に示すように、水張耐圧試験を行う際に、バルブ故障やバルブ操作ミス等のヒューマンエラー、排水量に対する通気量が不足した場合などによって貯槽内部が負圧となり、貯槽を座屈損壊してしまうことがある。
1は、球形タンク、横置きタンク、縦置タンク等の貯槽、2は下部開口部、3は上部開口部、4は通気管(図12に示す)である。2aは下部開口部2に接続する水張水抜配管、3aは上部開口部3に接続する空気出入配管である。Aは空気、Wは水を示す。
【0003】
図11は、上部開口部3を締め切った状態で下部開口部から水を排出する際に、貯槽壁板が薄い場合に貯槽1内部が負圧となって座屈を生じた状況を示す。殊に、高圧下で気体や液体を貯蔵する貯槽1は、通常の場合、使用圧力としての内圧を基準に耐圧設計がなされており、内部が大気圧以下に減圧すること、すなわち外圧が作用することを想定した設計は経済的観点もあって行われていないことが多い。そのため、上部開口部3の空気出入配管3aの開口通気のための操作を忘れたり操作遅れなどのバルブ操作ミスやバルブ故障などがあった場合に、貯槽1の内部が負圧となって、Zに示すように貯槽を座屈損壊させる事故となった。
【0004】
図12は、上部開口部3は締め切った状態で通気管4を吸排気に使用する事例で、この場合は水抜き時に、吸気ラインのサイズ不足、弁の開度不足、弁の故障や詰まり等の原因により途中で吸気量が追いつかずに、貯槽1内が負圧となって座屈を生じた状況を示す。つまり、排水量に比較して上部の通気管4から供給される空気量が少ないために内部が負圧になって、Zに示すように貯槽を座屈損壊させた事故例である。
【0005】
上記のような負圧による事故を防止する従来技術として、例えば特許文献1の特開2003−128184号「タンク、コンテナ等の容器の破損防止機構」がある。この発明は、下部に排出部、上部にエア抜き部を有する型の容器の破損防止機構において、排出部の開放操作に連動させてエア抜き部の開放操作を行わせる連結手段またはエア抜き部の開放操作後でないと排出部の開放操作を行えないようにする連結手段を備えているものである。
【0006】
また、他の従来技術として、例えば特許文献2の特開2003−301969号「真空安全弁の作動確認方法及びその作動確認構造」がある。この発明は、真空安全弁の負圧側配管の内部を作動側空間と開放側空間とに仕切るよう、シール板を挿入して作動空間を密閉し、シール板をスライドさせることにより作動側空間を負圧にして真空安全弁の作動を確認するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−128184号公報
【特許文献2】特開2003−301969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11に示すように貯槽の水張り満水の耐圧試験を行う際に、バルブ操作の忘れや遅れなどのミスやバルブ故障などにより貯槽内が著しく負圧になることにより、貯槽1を座屈損壊させる事故が発生することがある。
【0009】
図12に示すように水抜きの途中で吸気量が排水量に追いつかない場合、つまり水張試験や耐圧試験後の排水を行う際に、上部の通気管4から供給される空気量が少ない状況になっても貯槽1の内部を著しく負圧にさせることなく、貯槽1を座屈損壊させる事故が発生しないような機構が求められている。
【0010】
特許文献1の特開2003−128184号「タンク、コンテナ等の容器の破損防止機構」の発明は、エア抜き部が開放されていない状態での内容物の排出が行われないような機構とされているので、作業者の不注意で容器内に負圧が生じてしまうようなことはなく、作業者の取扱い不注意等による容器の破損を完全に防止できるが、通常使用時の構造機構であるため、装置が複雑でメンテナンスが大変であった。
【0011】
また特許文献2の特開2003−301969号「真空安全弁の作動確認方法及びその作動確認構造」の発明は、簡単な構造で真空安全弁の作動を容易に確認することができるが、圧力検査時における高圧状態から急激な負圧に変化するのを確認するものではない。
【0012】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、水張耐圧試験を行う際に、上部のマンホールや通気管など開口部のバルブ操作の忘れや遅れなどのミスやバルブ故障、或いは吸気量の不足などにより、貯槽内部が負圧状態とならないように、自動的に空気を吸い込むようにした吸排気装置を水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造及び負圧発生防止方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造は、水張り時に空気抜き機能を有し、満水時に水がリークしない耐圧密閉機能を有し、かつ水抜き時に吸気機能を有する、浮力弁体とシール面体と支持枠体とで形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に設けてなることを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明に係る貯槽の水張耐圧試験時における負圧発生防止方法は、水張り時に空気抜き機能を有するとともに水抜き時に吸気機能を有する浮力弁体を設けて形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に取付け、水張り時には下部開口部からの水張りとともに上部開口部に設けた吸排気装置から排気し、満水及び昇圧時には吸排気装置を密封状態に閉塞し、水抜き時には貯槽内部が負圧にならないように下部開口部からの排水とともに上部開口部に設けた吸排気装置から吸気することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造は、水張り時に空気抜き機能を有し、満水時に水がリークしない耐圧密閉機能を有し、かつ水抜き時に吸気機能を有する、浮力弁体とシール面体と支持枠体とで形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に設けたので、水張り時には貯槽内の空気を排出し、満水時には耐圧試験時には閉塞して圧力を保持し、水抜き時には排水量以上の吸気が可能となり必要空気量を取り込むため、吸気量の不足がなく負圧になることなく安全性が向上する。
【0016】
この浮力弁体を設けて形成した一体型の吸排気装置を取付けて水張耐圧試験を行えば、水張り時に貯槽内の残存気体の排気が容易となり、完全排気によって耐圧試験圧力を容易に得ることができ、また、電気信号や測定器具を必要としないため機器の故障や操作ミスなどの不具合がなく、排水時の負圧による座屈損壊に対する安全を確保することができる。
【0017】
請求項2の発明に係る貯槽の水張耐圧試験時における負圧発生防止方法は、水張り時に空気抜き機能を有するとともに水抜き時に吸気機能を有する浮力弁体を設けて形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に取付け、水張り時には下部開口部からの水張りとともに上部開口部に設けた吸排気装置から排気し、満水及び昇圧時には吸排気装置を密封状態に閉塞し、水抜き時には貯槽内部が負圧にならないように下部開口部からの排水とともに上部開口部に設けた吸排気装置から吸気するので、水張り時の空気抜きを完全に行い、満水時の水密性が良く昇圧及び試験圧力維持も確実となり、水抜き時の排水も安全確実に行うことができる。

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造の取付け状況を示す全体側面説明図である。
【図2】図1の取付け部の部分拡大説明図である。
【図3】水張り満水昇圧時の全体側面説明図である。
【図4】図3の取付け部の部分拡大説明図である。
【図5】水抜き時の全体側面説明図である。
【図6】図5の取付け部の部分拡大説明図である。
【図7】水抜き途中の全体側面説明図である。
【図8】図7の取付け部の部分拡大説明図である。
【図9】この発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造を構成する吸排気装置の一部を欠如した斜視説明図である。
【図10】図9の側断面図で、満水で密封シールされている状況を示す。
【図11】従来の貯槽の負圧による座屈状況説明図である。
【図12】従来の貯槽の吸気量が追いつかない場合の座屈状況説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造及び負圧発生防止方法について、圧力容器に属する球形タンクを事例にして図1から図10を参照しながら説明する。
図1から図10にわたって同一の用語には同一の符号を使用し、各符号の説明は一部を省略している。この実施形態は、既設又は新規建設の貯槽の水張試験や耐圧試験の際の負圧発生防止構造に適用する。
【0020】
本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の実施形態に変更(例えば構成要素の省略又は付加、構成要素の形状の変更等)を加えることが出来るのはもちろんである。
1は貯槽、2は下部開口部、3は容器頂部に位置する上部開口部、4は通気管(図7、図8に示す)で、2aは下部開口部2に接続する水張水抜配管である。
上部開口部3にはこの発明に係る吸排気装置5を設置する。5aは吸排気装置5に接続する吸排気配管である。Aは空気、Wは水を示す。
【0021】
図1は、貯槽頂部の上部開口部に空気抜き機能及び吸気機能を備えた一体型の吸排気装置を設けて水の張り込みを実施している状況を示す。
貯槽1の下部開口部2の水張水抜配管2aのバルブを開けて貯槽1内に水Wを張り込むと同時に、容器頂部の上部開口部3に設けた吸排気装置5の吸排気配管5aからはこの水量に見合った量の空気Aを排気している。
【0022】
図2は、図1の部分拡大斜視説明図で、吸排気装置の取付け部の詳細を示す。
吸排気装置5は、浮力弁体6と、シール面体7と、支持枠体8とからなり、水張り途中には、浮力弁体6は支持枠体8上に載置しシール面体7部は開口状態となり、矢印に示すように空気Aが抜ける構造となっている。
貯槽1内の空気Aは、上部開口部3に設けた吸排気装置5の吸排気配管5aから排気される。
【0023】
図3は、水張り満水後の昇圧の状況を矢印で示す。
下部開口部2の水張水抜配管2aのバルブを開けて貯槽1内に水Wを張り込んで満水にした後に、さらに水圧で矢印のように昇圧して水張試験や耐圧試験を実施する。この際に、上部開口部3に設けた吸排気装置5は閉塞状態で耐圧構造を有している。
【0024】
図4は、図3の吸排気装置5取付け部の詳細を示す。
浮力体構造の浮力弁体6は水Wに浮いた状態で空気の排出に伴って上昇する。この浮力弁体6は例えば比重が0.9程度の部材で形成し、かつシール面体7は浮力弁体6に密着する形状に形成することにより、空気が完全に排出された後に浮力弁体6がシール面体7に密着して閉塞する。この閉塞によって水Wは漏れることなく密封状態となって耐圧試験時の昇圧と圧力維持を確実にする。
【0025】
図5は、水抜き時の状況を示す。
満水で貯槽1の水張耐圧試験を実施した後に、下部開口部2に接続する水張水抜配管2aから水Wを排出する。この際に、浮力弁体が降下することにより容器内部が負圧にならないように上部開口部3に設置した吸排気装置5の吸排気配管5aから空気Aが流入する。
【0026】
図6は、図5の吸排気装置5の取付け部の詳細を示す。
水抜きを開始すると浮力弁体6はシール面体7から離脱し開放状態となり、支持枠体8の上に降下し、吸排気配管5aから空気Aが流入する。この吸排気装置5は、水張試験水の排水量以上の吸気が可能なサイズとし、負圧とならないようにただちに必要空気量を取り込む構造とする。
【0027】
図7は、通気管を備えた貯槽の場合における水抜き途中の状況を示す。
満水で貯槽1の耐圧試験を実施した後に、下部開口部2に接続する水張水抜配管2aから水Wを排出して貯槽1の水位が低下した状態である。この際に、水張水抜配管2aから排出する水Wの量に対して通気管4から吸気する空気Aの量が不足する場合に、容器内部が負圧にならないように上部開口部3に設置した吸排気装置5の吸排気配管5aから必要量の空気Aが流入する。
【0028】
図8は、図7の吸排気装置5の取付け部の詳細を示す。
浮力弁体6は支持枠体8の上に降下し、シール面体7から離脱し開放状態となっている。水Wの排出量に対して通気管4からの空気Aの吸気量が不足する場合に、吸排気配管5aから必要量の空気Aが流入する。この吸排気装置5は、水張試験水の排水量以上の吸気が可能なサイズとし負圧を生ずることのない必要空気量を取り込む構造とする。
【0029】
図9は吸排気装置5の一部を欠如した斜視説明図で、図10は水Wを満たし密封シールした状況を示している。
吸排気装置5は水張試験や耐圧試験を行う際に使用するもので上部フランジに着脱する一体化した簡便な構造で、満水時の耐圧試験圧力に耐える構造とする。この吸排気装置5は、浮力弁体6と、シール面体7と、支持枠体8と、外殻の吸排気調整室9とからなり、水張り時には空気を抜き、満水時及び昇圧時には閉塞し、水抜き時には開口する構造とする。
浮力弁体6は、浮力弁体ガイド10の内部を垂直に上下動するように形成し、図10に示すように、満水時にはシール面体7に広い面積で接触して密着シールし、水Wがリークすることなく耐圧密閉機能を維持し、負圧時にはシール面体7から離脱し下降する。
浮力弁体6は、図に示す球体の他、円錐体などの形状でも良く、水Wの浮力で垂直に上下動し、シール面体7に広い面積を有する当接部7aで密着してシールする構造とする。この浮力弁体6は、圧力で変形することがない部材、例えば耐圧性のゴム材、合成樹脂材、金属材などで形成する。
シール面体7の当接部7aは中央部を開口し浮力弁体6との接触面に沿った湾曲面に形成し、開口部周縁は浮上した浮力弁体6が面接触してシールし閉塞する構造とする。
支持枠体8は、通気と通液が可能な桟や格子状の枠体で、浮力弁体6の荷重を支える構造とする。
【0030】
このように、貯槽の水張試験や耐圧試験等の施工において吸排気装置を設置することにより、水張り時の残存気体の排気が容易になり、完全排気は耐圧圧力を容易に得ることができ、試験時間の工程短縮化が図れ、かつ耐圧試験を安全に行うことができる。さらに水抜き排水時の負圧による座屈損壊に対する予防策となり安全を確保できる。この構造は、電気信号や測定器具を必要としないため、建設時や定期点検時等で、別途設置した圧力監視装置等に不具合が生じた場合でも排水時の安全を確保できる。

【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明に係る貯槽の水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造及び負圧発生防止方法は、球形や横置等の各種構造の貯槽や配管などの設備について、水張耐圧試験のみならず、試験運転時や通常運転時に取付けた場合には、バルブの故障やバルブ操作ミスなどによって負圧状態となることを防止するなど広範囲に適用することができる。

【符号の説明】
【0032】
1 貯槽
2 下部開口部
2a 水張水抜配管
3 上部開口部
3a 空気出入配管
4 通気管
5 吸排気装置
5a 吸排気口
6 浮力弁体
7 シール面体
7a 当接部
8 支持枠体
9 吸排気調整室
10 浮力弁体ガイド
Z 座屈部
W 水
A 空気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水張り時に空気抜き機能を有し、満水時に水がリークしない耐圧密閉機能を有し、かつ水抜き時に吸気機能を有する、浮力弁体とシール面体と支持枠体とで形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に設けてなることを特徴とする水張耐圧試験時に使用する負圧発生防止構造。
【請求項2】
水張り時に空気抜き機能を有するとともに水抜き時に吸気機能を有する浮力弁体を設けて形成した一体型の吸排気装置を貯槽頂部の上部開口部に取付け、水張り時には下部開口部からの水張りとともに上部開口部に設けた吸排気装置から排気し、満水及び昇圧時には吸排気装置を密封状態に閉塞し、水抜き時には貯槽内部が負圧にならないように下部開口部からの排水とともに上部開口部に設けた吸排気装置から吸気することを特徴とする水張耐圧試験時における負圧発生防止方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−30816(P2012−30816A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170118(P2010−170118)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】