説明

貯水池内の土砂輸送方法およびその装置

【課題】 堆積した土砂を輸送するのに大きな人工的なエネルギーを必要とせず、無動力ないし低動力で輸送することができる貯水池内の土砂輸送方法およびその装置を提供すること。
【解決手段】 貯水池8内に落差を与えて設置した土砂輸送管21に高圧水ポンプ22で初期水流を形成し、上方端21aのシュート22から浚渫した土砂を投入して周囲の水より密度の高い土砂流を形成し、この土砂流をポンプ制御装置27で制御して持続するようしておき、浚渫した土砂をシュート22に投入することで他端部21bの排出口に輸送するようにし、土砂流を持続させて無動力ないしは低動力で土砂を輸送できるようにしている。
これにより、排砂設備4を有効に利用して人工的なエネルギーを節約して効率的に堆積土砂を流出させ、有効貯水量を確保できるとともに、下流への土砂供給も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯水池内の土砂輸送方法およびその装置に関し、ダム貯水池内で浚渫した土砂を、無動力ないし低動力で輸送できるようにしたもので、ダムの排砂設備を有効に活用できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
治水や利水、あるいは発電のために河川をダムによってせき止めて形成された貯水池では、運搬される土砂が次第に堆積する。
【0003】
この土砂の堆積は予め想定され、一般に100年間で堆積する高さや量を、図4に示すように、計画堆砂位や計画堆砂量としているが、これらを越えて貯水池に土砂が堆積すると、有効に利用できる有効貯水量が減少するとともに、下流への土砂の供給が減り、河床低下や海岸侵食(砂浜痩せ)が生じてしまう。
【0004】
このため、堆積土砂をバケットや浚渫ポンプで吸引することで浚渫して水面上に揚げ、トラックなどで運搬して有効貯水量を回復させることが行われたり、ダム1の計画堆砂位より下方に排砂管2と排砂ゲート3からなる排砂設備4を設けて堆積位が排砂管2より高くなったときに排砂ゲート3を開いて堆積した土砂を流出させることが行われている。
【0005】
しかし、有効貯水量を回復するため、浚渫して浚渫土砂をトラックなどで輸送する方式では、土砂移動のために人工的なエネルギーを必要とするとともにコストがかかり、下流に土砂が供給できない。
【0006】
一方、排砂設備4を使って土砂を下流に流す方式では、浚渫土砂輸送方式に比べ人工的なエネルギーを必要としない点および下流への土砂供給の点で優れるものの、図4(b)に示すように、排砂管2の呑み口近傍の土砂しか流すことができない。
【0007】
そこで、ダムでの浚渫でなく、浚渫土砂による埋め立ての場合の土砂輸送であるが、特許文献1には、浚渫ポンプで浚渫した土砂をスラリー状にして輸送管を用いて遠く離れた処分場に輸送する場合に、土砂の沈降が生じて流れ難くなった時に圧縮空気を送り込むことでプラグ流を発生させるようにし、土砂スラリーを中継ポンプを用いずに輸送することが開示されている。
【0008】
また、ダムの排砂設備を有効に活用するため、排砂管の呑み口近傍に土砂を輸送する方法として、特許文献2には、図5に示すように、ダム1からの放流水のエネルギーを水車駆動のコンプレッサー5で回収して高圧空気を作り、これを空気配管6で土砂輸送管7の貯水池8の底部の入口端に供給してエアリフトポンプの作用を発生させ、土砂を水面上の土砂輸送管で輸送することが開示されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、図6に示すように、貯水池8の堆積土砂の上面を給水開口を除いて遮水シート9で覆い、堆積土砂と遮水シート9の間に浸入した水で流れを形成して土砂を巻きこんで流出させることが開示されている。
【特許文献1】特開2004−60330号公報
【特許文献2】特開平11−93147号公報
【特許文献3】特開2003−261924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1のように、土砂の沈降を圧縮空気を注入することによるプラグ流で排除することができるものの、堆積土砂の輸送には浚渫ポンプのエネルギー(動力)を利用することになり、土砂輸送に多大な人工的なエネルギーを必要とする問題がある。
【0011】
また、特許文献2のように、放流水のエネルギーを回収して高圧空気を供給してエアリフトポンプの作用を発生させて土砂を輸送するものでは、土砂の輸送を必要とする間、常時コンプレッサーを運転しなければならず、人工的なエネルギーが、常時必要となるという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献3のように、貯水池の堆積土砂の表面を遮水シートで覆って土砂を輸送する場合には、人工的なエネルギーを必要としないものの巨大な遮水シートが必要となり、設置のためのコストがかかるという問題がある。
【0013】
この発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので、堆積した土砂を輸送するのに大きな人工的なエネルギーを必要とせず、無動力ないし低動力で輸送することができる貯水池内の土砂輸送方法およびその装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来技術が有する課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、堆積土砂を輸送すべき排砂設備の排砂管はダム下部の深い所にあるのに対し、堆積土砂を浚渫する場所はダムから離れた上流側の浅い場所になり、これらの場所に大きな落差があり、この落差によるエネルギーを利用して浚渫した土砂を輸送することを見出し、この発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、例えば図3に示すように、ジュースで満たされたストロー全体を水の入った容器の中に落差を与えて立てた状態あるいは斜めの状態で沈めた場合に、ストローの下端からジュースが流出することになるが、この現象と同様に、落差のある状態で土砂輸送管を設置し、その内部に周囲の水(貯水)より密度の高い土砂流を持続・形成すれば、土砂を無動力ないしは低動力で輸送できることなる。
【0016】
このような見地に基づく、この発明の請求項1記載の貯水池内の土砂輸送方法は、ダムの上流側の貯水池に堆積した土砂を輸送するに際し、前記貯水池の底部に落差を付与して土砂輸送管を配置するとともに、この土砂輸送管内に初期水流を発生させた後、この土砂輸送管の上方端に設けた投入口より土砂を投入して管内に水より密度の高い土砂流を形成し、この投入口から土砂を投入しながら前記土砂流を持続して前記土砂輸送管の下方端の排出口へ土砂を輸送するようにしたことを特徴とするものである。
【0017】
この貯水池内の土砂輸送方法によれば、貯水池内に落差を与えて設置した土砂輸送管に初期水流を形成し、上方端の投入口から浚渫した土砂を投入して周囲の水より密度の高い土砂流を形成し、この土砂流を持続するように浚渫した土砂を投入することで輸送するようにしており、持続した土砂流で、無動力ないしは低動力で土砂を輸送できるようにしている。
【0018】
また、この発明の貯水池内の土砂輸送方法では、前記構成に加え、前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合には、前記土砂輸送管に補助水流を供給しながら前記土砂流を持続するようにすれば良く、さらに、前記初期水流を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して形成するようにしたり、前記浚渫ポンプの吐出側を連結して前記初期水流を形成し、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて吸引側を前記土砂輸送管に連結するようにしても良い。
【0019】
さらに、この発明の請求項5記載の貯水池内の土砂輸送装置は、ダムの上流側の貯水池に堆積した土砂を輸送する装置であって、前記貯水池の底部に落差を付与して配置され上方端に投入口を、下方端に排出口を備えた土砂輸送管と、
この土砂輸送管内に初期水流を発生させる水流発生手段と、この水流発生手段により前記土砂輸送管内に初期水流を発生させたのち前記投入口から土砂を投入して管内に水より密度の高い土砂流を持続形成させる前記水流発生手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0020】
この貯水池内の土砂輸送装置によれば、貯水池内に落差を与えて設置した土砂輸送管に水流発生手段で初期水流を形成し、上方端の投入口から浚渫した土砂を投入して周囲の水より密度の高い土砂流を形成し、この土砂流を水流発生手段を制御する制御手段で持続するようしておき、浚渫した土砂を投入口に投入することで排出口に輸送するようにし、土砂流を持続させて無動力ないしは低動力で土砂を輸送できるようにしている。
【0021】
また、この発明の貯水池内の土砂輸送装置は、前記構成に加え、前記水流発生手段を、前記初期水流の発生に加え、前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合の前記土砂流形成のため補助水流の供給を可能に構成したり、前記土砂輸送管の上方端の前記投入口の下流側に、投入される土砂を一定量ずつ供給し得る土砂フィーダーを設けるようにしたり、前記水流発生手段を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して構成したり、前記浚渫ポンプの吸引管と前記土砂輸送管との間に、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて前記吸引管から土砂を供給するバイパス管路を設けるようにしても良い。
【発明の効果】
【0022】
この発明の請求項1記載の貯水池内の土砂輸送方法によれば、貯水池内に落差を与えて設置した土砂輸送管に初期水流を形成し、上方端の投入口から浚渫した土砂を投入して周囲の水より密度の高い土砂流を形成することができ、この土砂流を持続するように浚渫した土砂を投入することで、浚渫した土砂を持続した土砂流で、無動力ないしは低動力で輸送することができる。
【0023】
また、この発明の請求項2記載の貯水池内の土砂輸送方法によれば、前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合にも、前記土砂輸送管に補助水流を供給しながら前記土砂流を持続させることで、低動力で浚渫した土砂を輸送することができ、さらに、請求項3記載の発明によれば、前記初期水流を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して形成することができ、初期水流を形成するための装置を省略して簡素化でき、請求項4記載の発明では、前記浚渫ポンプの吐出側を連結して前記初期水流を形成し、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて吸引側を前記土砂輸送管に連結することで、浚渫のためのエネルギーも必要とせず、浚渫および土砂輸送を一層効率的に行うことができる。
【0024】
さらに、この発明の請求項5記載の貯水池内の土砂輸送装置は、貯水池内に落差を与えて設置した土砂輸送管に水流発生手段で初期水流を形成し、上方端の投入口から浚渫した土砂を投入して周囲の水より密度の高い土砂流を形成し、この土砂流を水流発生手段を制御する制御手段で持続するようにしたので、持続した土砂流に浚渫した土砂を投入口から投入することで、排出口に浚渫土砂を輸送することができる。
これにより、無動力ないしは低動力で土砂を輸送することができる。
【0025】
また、この発明の請求項6記載の貯水池内の土砂輸送装置によれば、前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合でも前記水流発生手段で前記初期水流の発生に加えて補助水流を供給可能とすることで、低動力で浚渫した土砂を輸送することができ、請求項7記載の発明によれば、前記土砂輸送管の上方端の前記投入口の下流側に、投入される土砂を一定量ずつ供給し得る土砂フィーダーを設けることで、一層容易に土砂流を持続することができ、さらに請求項8記載の発明によれば、前記水流発生手段を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して構成することで、初期水流を形成するための装置を省略して簡素化でき、請求項9記載の発明では、前記浚渫ポンプの吸引管と前記土砂輸送管との間に、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて前記吸引管から土砂を供給するバイパス管路を設けるようにすることで、浚渫のためのエネルギーも必要とせず、浚渫および土砂輸送を一層効率的に行うことができる。
【0026】
本方式の実現により、従来排砂管呑み口近傍の土砂しか排砂できなかった貯水池において、排砂後の凹みに計画堆砂面より高い位置まで上流などから土砂を輸送して堆砂させた後排出することができるようになり、貯水池の有効貯水量の維持あるいは回復を低コストで実現することができる。
【0027】
なお、このための運用方法としては、排砂管呑み口近傍に貯めた土砂を降雨などによる河川の増水時に排砂ゲートを介して排砂し、非増水時など次の排砂ゲートを開けるまでの間に本方式によって上流の土砂を排砂後の凹みに輸送するようにすれば良いことになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の一実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、この発明の貯水池内の土砂輸送装置の一実施の形態にかかる概略構成図である。
【0029】
この貯水池内の土砂輸送装置20が設置されるダム1でせき止められた貯水池8には、堆積する土砂Sをダム1の下流側に排出するための排砂設備4として排砂管2と排砂ゲート3を備えており、排砂ゲート3を開くことで、排砂管2を介して少なくとも呑み口近傍の堆積土砂Sを流し出すことができるようになっている。
【0030】
このような貯水池内に設ける土砂輸送装置20は、貯水池8の底部分の地山に堆積した堆積土砂S上に土砂輸送管21がダム1に略直角など一端部21aと他端部21bとの間に落差が形成されるように設置され、一端部21aが上流側の比較的浅い浚渫場所近傍に、他端部21bが浚渫土砂の輸送先となる排砂設備4の排砂管2の呑み口近傍にそれぞれ配置される。
【0031】
この土砂輸送管21には、上流側の一端部21aが、例えばバケット浚渫船Bで浚渫した土砂を投入するための投入口とされ、投入を容易とするため漏斗状のシュート22が設けてある。
【0032】
このような土砂輸送管21は、少なくとも一端部21aと他端部21bは、アンカーなど何らかの固定手段で貯水池8の底部に固定されるが、中間部は特に固定する必要はなく、また、多少の上下があっても良く、貯水池8の底部の凹凸に対応できるよう可撓ジョイントで接続したものであっても良い。
【0033】
このように中間部を固定しなくても貯水池8の底部では、出水時でも流速は小さく、土砂輸送管21が流される恐れはほとんどなく、土砂輸送管21の上に土砂が堆積してもなんら問題がない。
【0034】
この土砂輸送管21には、初期水流を発生させる水流発生手段として高圧ポンプ23とホース24で接続されたジェットノズル25とを備えており、例えばジェットノズル25が土砂輸送管21の他端部21b近くの管内に他端部に向けて高圧水を噴射できるように取り付けられ、高圧ポンプ23は水面上ないしは湖畔上に設置してある。
【0035】
なお、この水流発生手段のジェットノズル25は、高圧水で土砂輸送管21内に水流を発生させることができれば良く、その取り付け位置は他端部21b近傍に限らず、中間部や上流側の一端部21a近傍であっても良い。
【0036】
また、土砂輸送管21の一端部のシュート22は、図示例のように水中である必要はなく、水面上であっても良いが、土砂輸送管21内に水流ないし土砂流を形成する必要があることから、シュート22の下流側近傍など土砂輸送管21内に十分な水を供給できるようにする必要がある。
【0037】
さらに、この貯水池内の土砂輸送装置20では、初期水流の発生および土砂流の発生を検出するため土砂輸送管21の一端部21aおよび他端部21bの近傍にそれぞれ圧力検出器26が設けられ、水流発生手段を構成する高圧ポンプ23の制御手段であるポンプ制御装置27に検出信号が入力され、この検出結果に基づいて高圧ポンプ23の運転・停止を制御できるようにしてある。
【0038】
なお、土砂輸送管21の一端部21aには、浚渫による土砂輸送を行わない間、内部に土砂が堆積しないように蓋を設けたり、シュート22に蓋を設けるようにしても良い。
【0039】
このように構成した貯水池内の土砂輸送装置20の動作とともに、土砂輸送方法について説明する。
単に土砂輸送管21内に土砂が入っているだけであれば、土砂輸送管21が土砂の安息角(通常、30度以上)以上に傾斜していなければ土砂は移動せず、通常の貯水池8では、底部はそれほど傾斜していないので、土砂は自然状態では移動しない。
【0040】
そこで、この土砂輸送装置20では、水流発生手段を構成する高圧水ポンプ23を運転し、ジェットノズル25を介して土砂輸送管21内に水流を発生させる。
【0041】
この水流を土砂輸送管21内に発生させた状態で一端部21aのシュート22からバケット浚渫船Bで浚渫した土砂を適量投入し始める。
【0042】
すると、投入された土砂が水流に吸込まれるように流れて行き、土砂輸送管21内に土砂流が形成される。
【0043】
この土砂輸送管21内の土砂流は、全体として水よりも密度の高い流体として振舞うことから、土砂輸送管21の一端部21aと他端部21bとの間に落差が予め形成してあることから下方に流れようとし、管内に土砂流を作り出す。
【0044】
したがって、土砂輸送管21内全体に土砂流が流れ出すと、高圧水の噴射がなくとも、適量の土砂がシュート22から供給されれば、土砂輸送管21の落差によって土砂流が持続され得ることになる。
【0045】
なお、図示省略したが、シュート22から浚渫土砂を一定量ずつ供給できるように土砂フィーダーをシュート22と土砂輸送管21の一端部21aとの間に設置するようにしても良く、例えばスクリューフィーダーを設置する。
【0046】
そこで、圧力検出器26で土砂輸送管21の両端部21a、21bの圧力差を検出することで、土砂流が形成されたかどうかを知ることができ、これによってポンプ制御装置27で高圧水ポンプ23を停止するよう制御する。
【0047】
このような土砂輸送方法について、試算したところ、例えば土砂輸送管の管路径を0.5m,管路長を1000m,落差を50m,土砂濃度を10%(密度を1.15kg/m3)と仮定した場合に、土砂輸送管の管内流速が1.6m/sの土砂流が生じることが分かり、土砂輸送に必要な流速1.0m/sよりも大きく、十分な流速を確保できることが分かった。
【0048】
このように落差を与えた土砂輸送管21内に土砂流を持続するようにして浚渫土砂を輸送することができ、初期水流を形成するため高圧水ポンプ23を運転するだけで、その後は人工的なエネルギーを必要とせずに浚渫土砂を輸送することができる。
【0049】
また、土砂輸送管21の落差が小さい場合とか、配管距離が長い場合には、流れの損失が大きくなって、落差だけでは土砂輸送管21内に土砂流を形成するだけの十分な流速を確保できない場合がある。
【0050】
このような場合には、浚渫土砂を輸送するのに必要な流速を確保するため、水流発生手段である高圧水ポンプ23により高圧水の噴射を継続するようにすれば良く、この場合の高圧水は、初期水流の発生の場合に比べ低圧の水で良く、土砂輸送管21の落差と協働して土砂流を持続できれば良い。
【0051】
このような土砂輸送管21の落差が小さい場合や流れ損失が大きい場合でも、落差エネルギーを全く利用しない場合に比べ落差エネルギーの分だけ浚渫土砂の輸送エネルギーを節約することができる。
【0052】
また、この土砂輸送方法では、土砂輸送管21内の土砂濃度は安定した土砂流を維持する上で重要であり、土砂濃度が小さくなりすぎると落差による圧力差がなくなって管内流速が低下し土砂が流れなくなる一方、土砂濃度が高くなりすぎると、流れの損失が大きくなって土砂が流れなくなり、土砂が管を閉塞してしまう恐れがあることから、土砂濃度の調整の点でもシュート22と土砂輸送管21の一端部21aとの間に土砂フィーダーを設けることが有効である。
【0053】
この土砂フィーダーを運転するために電力など人工的なエネルギーが必要となるが、この場合でも浚渫土砂輸送に必要な全エネルギーを比較すれば、落差を利用する分だけ節約することができる。
【0054】
次に、この発明の貯水池内の土砂輸送装置の他の一実施の形態について図2により説明する。
【0055】
この貯水池内の土砂輸送装置20Aでは、バケット浚渫船Bによる浚渫に替え、ポンプ浚渫船Pによる浚渫の場合に適用したものであり、すでに説明した装置と共通部分には、同一記号を記し、説明は省略する。
【0056】
このような貯水池内に設ける土砂輸送装置20Aでも、貯水池8の底部分の地山に堆積した堆積土砂S上に土砂輸送管21がダム1に対して略直角方向などに配置されるとともに、一端部21aと他端部21bとの間に落差が形成されるように設置され、一端部21aが上流側の比較的浅い浚渫場所近傍に、他端部21bが浚渫土砂の輸送先となる排砂設備4の排砂管2の呑み口近傍にそれぞれ配置してある。
【0057】
この土砂輸送管21には、上流側の一端部21aに浚渫した土砂を投入するため、ポンプ浚渫船Pの吐出管31が連結され、吸引管32から浚渫ポンプ33で吸引した浚渫土砂を直接土砂輸送管21に投入できるようにしてある。
【0058】
このような土砂輸送管21は、すでに説明したように、少なくとも一端部21aと他端部21bは、アンカーなど何らかの固定手段で貯水池8の底部に固定されるが、中間部は特に固定する必要はなく、また、多少の上下があっても良く、貯水池8の底部の凹凸に対応できるよう可撓ジョイントで接続したものであっても良い。
【0059】
この貯水池内の土砂輸送装置20Aでは、土砂輸送管21内に初期水流を発生させるための水流発生手段としてポンプ浚渫船Pの浚渫ポンプ33を兼用するようにしてあり、特別に高圧水ポンプやジェットノズルを設けていない。
【0060】
そして、浚渫ポンプ33で堆積土砂を吸引せず水だけを吸引して土砂輸送管21内に初期水流を発生させるようにしている。
【0061】
さらに、この貯水池内の土砂輸送装置20Aでも、初期水流の発生および土砂流の発生を検出するため土砂輸送管21の一端部21aおよび他端部21bの近傍にそれぞれ圧力検出器26が設けられ、水流発生手段を構成する浚渫ポンプ33の制御手段である浚渫ポンプ制御装置34に検出信号が入力され、この検出結果に基づいて浚渫ポンプ33の運転・停止を制御できるようにしてある。
【0062】
また、この貯水池内の土砂輸送装置20Aでは、初期水流が発生した後、浚渫ポンプ33で吸引した浚渫土砂を土砂輸送管21に投入して土砂流を形成するが、土砂流が保持継続された後、土砂流による圧力差で直接堆積土砂を吸引するようにし、直接吸引管32から土砂輸送管21に浚渫土砂を投入できるようバイパス管35が設けてあり、浚渫ポンプ33の運転を停止状態として吸引管32と吐出管31とを連通させて落差エネルギーを吸引エネルギーとして利用して浚渫および浚渫土砂の輸送を行うようにしてある。この場合の浚渫ポンプ33の運転制御とバイパス管35への切換制御を浚渫ポンプ制御装置34で行うようにしてある。
【0063】
このように構成した貯水池内の土砂輸送装置20Aの動作とともに、土砂輸送方法について説明する。
この土砂輸送装置20Aでは、水流発生手段を構成するポンプ浚渫船Pの浚渫ポンプ33を運転し、水だけを送り込んで土砂輸送管21内に水流を発生させる。
【0064】
この水流を土砂輸送管21内に発生させた状態でポンプ浚渫船Pの浚渫ポンプ33で浚渫を開始し、浚渫した土砂を吐出管31を介して土砂輸送管21の一端部21aから適量投入し始める。
【0065】
すると、投入された土砂が水流に吸込まれるように流れて行き、土砂輸送管21内に土砂流が形成される。
【0066】
この土砂輸送管21内の土砂流は、全体として水よりも密度の高い流体として振舞うとともに、土砂輸送管21の一端部21aと他端部21bとの間に落差が予め形成してあることから下方に流れようとし、容器内に沈めたストロー内のジュースのように管内に土砂流を作り出す。
【0067】
したがって、土砂輸送管21内全体に土砂流が流れ出すと、適量の土砂を浚渫ポンプ33から供給するだけで、土砂輸送管21の落差によって土砂流が持続され、土砂が輸送され得ることになる。
【0068】
そこで、圧力検出器26で土砂輸送管21の両端部21a、21bの圧力差を検出することで、土砂流が形成されたかどうかを知り、これによって浚渫ポンプ制御装置34で浚渫ポンプ33を停止するよう制御するとともに、浚渫ポンプ33をバイパスさせて浚渫土砂を直接土砂輸送管21に供給できるようバイパス管35への切換を行う。
【0069】
このように落差を与えた土砂輸送管21内に土砂流を持続するようにして浚渫土砂を輸送することができ、初期水流を形成するためポンプ浚渫船Pの浚渫ポンプ33を運転するだけで、その後は落差エネルギーを吸引のエネルギーとして利用することも可能となり、人工的なエネルギーを必要とせずに無動力ないしは低動力で浚渫および浚渫土砂を輸送することができる。
【0070】
また、土砂輸送管21の落差が小さい場合とか、配管距離が長い場合には、流れの損失が大きくなって、落差だけでは土砂輸送管21内に土砂流を形成するだけの十分な流速を確保できない場合には、すでに説明したように、浚渫土砂を輸送するのに必要な流速を確保するため、水流発生手段であるポンプ浚渫船Pの浚渫ポンプ33を運転し土砂とともに、水を供給するようにすれば良い。
【0071】
この場合の浚渫ポンプ33による水の供給は、土砂輸送管21の落差と協働して土砂流を持続できれば良く、土砂輸送管21の落差が小さい場合や流れ損失が大きい場合でも、落差エネルギーを全く利用しない場合に比べ落差エネルギーの分だけ浚渫土砂の輸送エネルギーを節約することができる。
【0072】
このような貯水池内の土砂輸送法およびその装置によれば、ダムに設けられる排砂設備4を有効に利用して排砂ゲート3を開けて排砂管2から呑み口近傍の堆積土砂を流出させることと、この部分に浚渫した土砂を輸送することを組み合わせることで、人工的なエネルギーを節約して効率的に堆積土砂を流出させ、有効貯水量を確保できるとともに、下流への土砂供給も可能となる。
【0073】
なお、上記実施の形態では、いずれも土砂輸送管を1本だけ設けた場合を例に説明したが、これに限らず複数本設置するようにしても良く、設置方向もダムにほぼ直角にする場合に限らず、落差を確保できればどのような方向であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明の貯水池内の土砂輸送装置の一実施の形態にかかる概略構成図である。
【図2】この発明の貯水池内の土砂輸送装置の他の一実施の形態にかかる概略構成図である。
【図3】この発明の貯水池内の土砂輸送方法の土砂流発生の基本原理の説明図である。
【図4】ダムの貯水池と排砂設備の説明図および排砂管近傍の排砂模式図である。
【図5】従来の貯水池内の土砂輸送装置の概略構成図である。
【図6】従来の他の貯水池内の土砂輸送装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ダム
2 排砂管
3 排砂ゲート
4 排砂設備
8 貯水池
20,20A 貯水池内の土砂輸送装置
21 土砂輸送管
21a 一端部
21b 他端部
22 シュート
23 高圧水ポンプ(水流発生手段)
24 ホース
25 ジェットノズル
26 圧力検出器
27 ポンプ制御装置(制御手段)
31 吐出管
32 吸引管
33 浚渫ポンプ
34 浚渫ポンプ制御装置
35 バイパス管
S 堆積土砂
B バケット浚渫船
P ポンプ浚渫船


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの上流側の貯水池に堆積した土砂を輸送するに際し、
前記貯水池の底部に落差を付与して土砂輸送管を配置するとともに、この土砂輸送管内に初期水流を発生させた後、この土砂輸送管の上方端に設けた投入口より土砂を投入して管内に水より密度の高い土砂流を形成し、この投入口から土砂を投入しながら前記土砂流を持続して前記土砂輸送管の下方端の排出口へ土砂を輸送するようにしたことを特徴とする貯水池内の土砂輸送方法。
【請求項2】
前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合には、前記土砂輸送管に補助水流を供給しながら前記土砂流を持続するようにしたことを特徴とする請求項1記載の貯水池内の土砂輸送方法。
【請求項3】
前記初期水流を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して形成するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の貯水池内の土砂輸送方法。
【請求項4】
前記浚渫ポンプの吐出側を連結して前記初期水流を形成し、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて吸引側を前記土砂輸送管に連結するようにしたことを特徴とする請求項3記載の貯水池内の土砂輸送方法。
【請求項5】
ダムの上流側の貯水池に堆積した土砂を輸送する装置であって、
前記貯水池の底部に落差を付与して配置され上方端に投入口を、下方端に排出口を備えた土砂輸送管と、
この土砂輸送管内に初期水流を発生させる水流発生手段と、
この水流発生手段により前記土砂輸送管内に初期水流を発生させたのち前記投入口から土砂を投入して管内に水より密度の高い土砂流を持続形成させる前記水流発生手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする貯水池内の土砂輸送装置。
【請求項6】
前記水流発生手段を、前記初期水流の発生に加え、前記土砂輸送管の前記投入口と前記排出口との落差が前記土砂流の持続に不十分な場合の前記土砂流の補助水流を供給可能に構成したことを特徴とする請求項5記載の貯水池内の土砂輸送装置。
【請求項7】
前記土砂輸送管の上方端の前記投入口の下流側に、投入される土砂を一定量ずつ供給し得る土砂フィーダーを設けたことを特徴とする請求項5または6記載の貯水池内の土砂輸送装置。
【請求項8】
前記水流発生手段を、前記土砂輸送管の前記投入口に浚渫用ポンプの吐出側を連結して構成したことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の貯水池内の土砂輸送装置。
【請求項9】
前記浚渫ポンプの吸引管と前記土砂輸送管との間に、前記土砂流が持続されたのち当該浚渫ポンプをバイパスさせて前記吸引管から土砂を供給するバイパス管路を設けたことを特徴とする請求項8記載の貯水池内の土砂輸送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−118123(P2006−118123A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303799(P2004−303799)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】