説明

貴重文書を認証するための方法および認証装置

タガントは貴重文書中にまたはその上に組み込むことができる。タガントは、2つの希土類イオンがドープされた結晶タガントを含む。タガントを組み込むことができる基材または印刷物は最小吸収の赤外波長窓を有し、タガントはこの波長範囲の入射赤外放射によって励起される。好適な第1の希土類イオンは、入射赤外放射の効率的な広帯域吸収体として機能し、エネルギーを第2の希土類イオンに非放射的に渡し、第2の希土類イオンは入射赤外放射よりも長い波長で赤外放射を放出する。放出された赤外放射は、やはり、タガントが組み込まれている印刷物または基材の最小吸収の透過窓内にある。貴重文書を認証する方法は所定の値での放出放射の検出を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2009年12月21日に出願した現在係属中の米国仮出願第61/288,597号の利益を主張するものである。
【0002】
[0002]本技術分野は、一般に、貴重文書の有色印刷物内に組み込まれた隠れ組成物の赤外励起および赤外発光を使用して、静止または移動性貴重文書を認証する方法および検証装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]単純なものから複雑なものまで、貴重文書を検証するための多くの方法がある。いくつかの方法には、クレジットカードのホログラム、銀行券の浮出し像または透かし、機密保持フォイル、機密保持リボン、銀行券内の有色糸もしくは有色繊維、またはパスポートの浮揚画像および/または沈下画像などの、文書上のまたは文書中に組み込まれた可視の(すなわち、公開の)フィーチャが含まれる。これらのフィーチャは眼で検出することが容易であり、認証のために装置を必要としない可能性があるが、これらの公開のフィーチャは、捏造者および/または偽造者を目指す者によって容易に特定される。そのため、公開のフィーチャに加えて、秘密の(すなわち、隠れ)フィーチャを貴重文書に組み込むことがある。隠れフィーチャには、貴重文書の基材に組み込まれる目に見えない蛍光繊維、化学的に敏感な着色料、蛍光顔料、または染料が含まれる。隠れフィーチャは、貴重文書の基材上に印刷されるインクに、または積層構造の貴重文書で使用される膜を製作するのに使用される樹脂内に含まれうる。隠れフィーチャは人間の眼で検出できないので、隠れフィーチャを検出するように構成された検出器が貴重文書を認証するのに必要である。
【0004】
[0004]例えば、銀行券を認証するのに使用される多くの検証システム(例えば、隠れフィーチャおよび対応する検出器)がある。例えば、Kaule等の米国特許第4,446,204号は、一方では、印刷された画像にさえ必要に応じて証券用紙のIR透過特性を検査することができ、他方では、磁気特性を有し、IR透過試験および磁気試験の両方は互いに影響されず、証券用紙の同じ位置で実行することができる付加または塗布された着色剤の形態の認証可能なフィーチャをもつ証券用紙を開示している。次に、既知の検出デバイスを使用して、検証のための認証可能なフィーチャの異なる位置のスペクトル領域に検出器を整合させる。
【0005】
[0005]さらに、Nagaseの米国特許第5,679,959号は、証書の表面上に刺激光を投射するための光源と、刺激光による照射に応じて証書表面から放出される光を光電効果で検出し、検出された光の量に応じて検出データを生成する光電子増倍管と、基準データを記憶するためのROMと、光電子増倍管によって生成された検出データとROMに記憶された基準データとを比較するための中央処理装置(「CPU」)とを含む証書識別装置を開示している。しかし、そのようなシステムは、偽造物からの検出された放出放射が真正の放出放射パラメータと同様である場合、偽造文書を検出することができない。
【0006】
[0006]多くの既知の検証システムは、隠した認証可能なフィーチャを検出することと、その発光スペクトルを評価することとを含む。発光のみが検出される場合、貴重文書は真正であると見なされ、そうでなければ偽造物として排除される。このタイプの既存の検証システムの1つの問題は、認証可能なフィーチャが基材上のインクなどの印刷物に全体的に含まれる場合に生じるが、それは、認証可能なフィーチャが摩耗および摩滅消失にさらされるからである。その結果、認証可能なフィーチャの発光スペクトルの振幅の予測できない劣化があり、したがって、認証装置は真正文書を偽造物として誤って特定する可能性がある。別の問題は、時が経つにつれて、偽造者がより巧妙になり、貴重文書のこれらのフィーチャの組み込みを検出することができる科学的装置をより一層利用できるようになるので、この方法はそれほど安全でなくなってきているということを含む。
【0007】
[0007]可視または紫外光源によって励起された蛍光体の減衰時間を固定の状況で検出することを含む既存の検証システムがある。例えば、Vasic等の米国特許第7,030,371号は、発光強度および時定数などの特有のルミネセンスパラメータを迅速に抽出できるようにする方法およびデバイスによって認証される時間延期発光特性を示すルミネセンスマーカー化合物を保持する機密文書または物品を開示している。さらに、Allen等の米国特許公開第20090152468号は、使用されている特定のタガントの放射の減衰時間を正確に測定することによって、サンプルの励起の後にタガント材料サンプルから放出される赤外放射を検出するための技法および装置を開示している。しかし、これらのシステムは、移動性貴重文書の検出および認証を含んでいない。
【0008】
[0008]例えば、Muth等の米国特許第6,686,074号を含むいくつかの先行技術特許は、入射励起電磁放射波長を吸収し、反ストークス過程のためにより短い波長で電磁放射を放出する蛍光体を含む2つの希土類イオンの使用を開示している。反ストークス過程はわずか数パーセントの変換効率のために非効率的であり、放出されたより短い波長の放射は印刷インク中に存在する顔料によって容易に吸収されることがある。
【0009】
[0009]Oshima等の米国特許第5,932,139号は、蛍光物質、蛍光組成物、蛍光マークキャリア、およびそれらの光学読取り装置を開示している。蛍光インク堆積物は、バナジン酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、およびタングステン酸塩などのNd、Yb、およびErのオキシ塩または有機材料をもつ蛍光物質を含む。蛍光物質は、励起光の波長と異なる波長のより大きい波長をもつ蛍光光を放出することができ、それは典型的なダウンコンバージョン過程効果である。発光波長は赤外範囲内にあるが、吸収は可視または近赤外スペクトル領域で生じることのみが示されている。使用されるインクは、スペクトルの可視領域で吸収性である染料を有しており、したがって、蛍光物質によって吸収されるエネルギーは小さい。近赤外領域では、蛍光物質は狭線吸収のみを有し、したがって、入射した放射の大部分は蛍光物質によって吸収されず、その結果、放出される赤外強度は強度が小さい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
[0010]貴重文書を認証するための検証システムが存在するにもかかわらず、静止または移動性貴重文書を確実に正確に検出するシステム、例えば、銀行券の分類および検出を含むシステムなどへの必要性が存在する。検証システムは、複製することが困難である機密フィーチャを貴重文書の中および/または上に組み込むべきであり、貴重文書の偽造および捏造を防止するのに十分に独特で複雑である検出識別方法およびフィーチャを有するべきである。銀行券などのこれらの貴重文書は高速で認証することができることも重要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[0011]一態様では、タガントが、重要文書上の印刷物中で使用するために用意される。タガントは、少なくとも第1の希土類活性イオンおよび第2の希土類活性イオンを含む無機結晶格子を含む。第1の希土類活性イオンは、約1300nmから約2200nmの第1の波長を有する励起入射赤外放射を吸収し、吸収した赤外放射を第2の希土類活性イオンに移送し、第2の希土類活性イオンは、励起入射赤外放射の第1の波長よりも長い約1400nmから約2200nmの第2の波長で赤外放射を放出する。
【0012】
[0012]別の態様では、貴重文書を認証する方法が提供される。この方法は、a)貴重文書を認証装置に供給するスッテプであり、貴重文書が印刷物を含み、印刷物が、少なくとも第1の希土類活性イオンおよび第2の希土類活性イオンを含む無機結晶格子を含むタガントを含み、第1の希土類活性イオンが、約1300nmから約2200nmの第1の波長を有する励起入射赤外放射を吸収し、吸収した赤外放射を第2の希土類活性イオンに移送し、第2の希土類活性イオンが、励起入射赤外放射の第1の波長よりも長い第2の波長で赤外放射を放出する、ステップと、b)第1の波長の励起入射赤外放射をタガントに認証装置の赤外照明光源により供給するステップと、c)第2の希土類活性イオンから放出された赤外放射を認証装置の赤外検出器で検出し、赤外検出器から発光データを生成するステップと、d)事前選択された検証基準内に発光データがあることを認証装置の処理装置で検証するステップと、e)処理装置からの認証データを出力して、貴重文書を認証または排除するステップとを含む。
【0013】
[0013]特定の例が、図示および説明のために選ばれており、本明細書の一部を形成する添付図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】[0014]1000nmの赤外波長を超える赤外波長で高い透過率のスペクトル領域の可用性を示す典型的な赤色インク、緑色インク、スミレ色インク、および黒色インクの測定された透過率(吸収は、1から図示の透過率を減算したものに等しい)を示す図である。
【図2a】[0015]1100nm未満での狭線吸収挙動、および1400nmから1700nmの赤外波長範囲での広帯域吸収を示すエルビウム希土類イオンがドープされた典型的な無機イットリウムアルミニウムガーネットの測定された吸収挙動を示す吸収曲線を示す図である。
【図2b】[0015]1100nm未満での狭い線吸収挙動を示すエルビウム希土類イオンがドープされた典型的な無機イットリウムアルミニウムガーネットの測定された吸収挙動を示す同様の吸収曲線を示す図である。
【図3】[0016]1400nmから1700nmの赤外波長範囲で発光挙動を示すエルビウム希土類イオンがドープされた典型的な無機イットリウムアルミニウムガーネットの公表されている発光挙動を示す図である。
【図4】[0017]可視スペクトルの端から約2200nmまでの検出性能を示す一群の典型的な市販のInGaAs赤外検出器を示す図である。
【図5】[0018]本技術の移動性貴重文書認証システムの一例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0019]この本技術は、貴重文書中または上に組み込むことができるタガントに関し、かつ印刷物内に組み込まれたタガントを含む貴重文書を認証する方法に関する。本技術の貴重文書は基材を含み、印刷物の少なくとも1つの区域をさらに含むことができる。例えば、基材が着色されている場合などのいくつかの例では、タガントは基材中に組み込むことができる。基材は、限定はしないが、紙およびプラスチック材料を含む、貴重文書用の任意の好適な基材とすることができる。タガントは印刷物中に組み込むこともできる。インクなどの印刷物は黒色を含む任意の色とすることができる。印刷物の可視スペクトル範囲の吸収の量は色によって決まる。例えば、印刷物が黒色である場合、分光分析の示すところによれば、印刷物は可視スペクトルの端から端まで吸収する。黒色を含むすべての色の基材および印刷物は、色にかかわらず、スペクトルの赤外部分において吸収が著しく低下する傾向があり、有色物質による赤外透過率は、赤外波長が増加するとともに増加することが本技術で確認されている。そのため、希土類活性イオンをもつタガントは、基材中に、または印刷物を生成するのに使用される材料、例えばインクなどの中に添加することができ、タガントは入射励起赤外放射を効率的に吸収し、吸収係数の低下した赤外スペクトル領域で赤外信号を放出する。タガントは基材または印刷物中に隠すことができ、それは、貴重文書のユーザーに、および貴重文書のルーチン検査の際に全く見えない。希土類活性イオンは1000nm未満の吸収および発光を示すこともできるが、吸収の性質をもつ基材またはインクの着色により、それらのスペクトル区域の励起および発光が大幅に減少する。IR(1300nmを超える)にさらに入り込んでタガント中の希土類活性イオンを励起すると、スペクトル的に1300nm未満である発光線は励起されないことになる。この性質は基材または印刷物中のタガントの存在をさらに隠し、機密フィーチャとしての価値を増加させる。
【0016】
[0020]本技術で使用するのに好適なタガントは、印刷物の高度に透明な窓中に波長をもつ赤外入射放射によって効率的に励起され、印刷物の高度に透明な窓内でより長い波長を有する赤外放射を放出する。励起波長がタガントの発光波長に近づくと、タガントからの赤外発光過程の効率は増加する。さらに、赤外波長領域の励起波長はタガント発光体の従来の発光波長のいくつかよりも長くすることができるので、それらの従来の発光波長遷移は、より長い励起波長が励起に使用される場合、励起されず、それにより、所望の発光の効率をより大きくすることができる。
【0017】
[0021]好適なタガントは、さらに、タガントの結晶格子内に組み込まれた少なくとも2つの希土類活性イオンを有することによって、狭線吸収体としてではなく帯域吸収体として励起赤外放射を吸収する。帯域吸収体は広いスペクトル範囲の赤外波長にわたって入射赤外放射を吸収し、したがって、LEDなどの赤外照明源で十分に励起することができる。タガント中の希土類活性イオンに関連するいくつかの吸収線は1000nm未満の狭帯域吸収体である。これらの狭帯域吸収線は非常に強いことがあるが、それらはやはり狭いので、LEDなどの安価な光源とのスペクトルの重なりが極めて不十分である。狭い帯域幅およびスペクトルの場所を見いだし、その吸収線にレーザダイオードを合わせるという重要な課題が生じることもある。
【0018】
[0022]タガントによって吸収される全エネルギーは、入射励起放射の波長にわたるタガントの吸収断面積、タガントを含む印刷物の全体的な厚さ、および励起光源のスペクトルに関係する。一般に、励起光源はレーザダイオードおよびLEDを含む。レーザダイオードは、非常に狭い波長で多数の光子を放出することができるが、最高の性能のために吸収ピークに合わされなければならない。さらに、この種の用途にレーザダイオードを使用するのは、所要の光学的安全管理の理由で望ましくない。LEDはUVからIR領域までのスペクトル幅の増加を示す。広いスペクトル幅は、一般に、タガント内の活性イオンの可視領域の狭い吸収線とのスペクトル整合が不十分である。しかし、波長がIR領域の方に増加するにつれて、この領域では多くのイオンが広帯域吸収を示すので、LEDはスペクトル整合が良好になる。さらに、LEDは費用対効果が大きい解決策であり、IRのスペクトル領域では有効である。
【0019】
[0023]本技術のタガントは少なくとも2つの希土類活性イオンを含むことができる。いかなる理論にも拘束されるものではないが、タガントを励起する際、励起光子は第1の希土類活性イオンによって吸収され、蓄積準位まで減衰すると考えられる。少なくともいくつかの例では、第1の希土類活性イオンは広帯域吸収によって入射励起放射を吸収するが、それは、第1の希土類活性イオンの吸収特性が約20nmから約50nmまで、またはそれ以上などのように広いことを意味する。次に、そのエネルギーは、タガントの同じ結晶格子内に組み込まれた第2の希土類活性イオンに非放射的に移送され、次に、第2の希土類活性イオンのより高い波長の特性の光子として放出される。高い強度の発光は入射励起光子の高い吸収を必要とする。希土類活性イオンを含むタガントは、典型的には、約400nmから約900nmの励起赤外波長範囲では狭線吸収体として入射赤外放射を吸収し、一方、タガント中の希土類活性イオンのうちのいくつかは約1300nmから約2200nmの赤外波長範囲で広帯域吸収を示すことが見いだされた。基底状態の近くで終了する遷移から生じるタガントの発光線は、さらに、同じスペクトル区域で吸収体となる。約1500nmから約1900nmの赤外波長で入射励起赤外放射を吸収するタガントは市販のLEDで容易に励起される。第1の希土類活性イオンが広帯域吸収によって入射励起放射を吸収する場合、低パワーLEDは好適なタガントを十分に励起することになる。タガント中の第2の希土類活性イオンによって典型的には約1700nmから約2200nmの範囲の波長で放出された高い強度の赤外放射は、Teledyne Judson Technologies、Montgomeryville、ペンシルベニア州から入手できる商用の拡大型InGaAs検出器によって容易に確実に検出される。好適な赤外検出器は第2の希土類活性イオンからの放出赤外放射を事前選択された波長で受け取る。
【0020】
[0024]少なくともいくつかの例では、インクは貴重文書上に印刷物を生成するために使用することができる。したがって、本技術のタガントを含むインクを用意することができる。インクは、インクを印刷できるようにするのに好適な他の成分、さもなければ、貴重文書上への所期の塗布に有用な他の成分をさらに含むことができる。例えば、インクは、タガントが混合または懸濁された少なくとも1つの液体またはゲルを含むことができる。次に、インクを貴重文書上に印刷して、タガントを含む印刷物を用意することができる。印刷物に組み込まれたタガントにLEDランプからフォトニックエネルギーを高い効率で移送することにより、タガントは大量のエネルギーを第2の希土類イオンの発光エネルギー準位に非放射的に移送し、第2のイオンから発光が行われる。そのため、インクは、例えば、インクの約0.01重量%から約40重量%またはインクの約0.01重量%から約5重量%の量のタガントを含む少量のタガントを含むことができる。インクは乾燥に際して重量をほんのわずかしか失わない傾向があり、したがって、貴重文書上の印刷物は、印刷物を形成するために印刷された最初のインクとほぼ同じ量のタガントを有すると予想される。測定の目的のために、印刷物中のタガントの量はインク中のタガントの量と同じであると考えることができる。したがって、タガントは、限定はしないが、印刷物の約0.1重量%、印刷物の約0.5重量%、印刷物の約1重量%、印刷物の約2重量%、印刷物の約5重量%、印刷物の約10重量%、印刷物の約15重量%、印刷物の約20重量%、印刷物の約25重量%、印刷物の約30重量%、もしくは印刷物の約35重量%の量またはそれからの量を含む、印刷物の約0.01重量%から約40重量%の量で貴重文書上の印刷物中に存在することができる。いくつかの例では、タガントは印刷物の約0.01重量%から約5重量%の量で貴重文書上の印刷物中に存在することができる。好ましくは、印刷物中のタガントの量は十分であり、その結果、銀行券などの貴重文書上の印刷物が摩耗された場合でさえ、真正の貴重文書を認識および検証するのに十分なタガントが印刷物内にあることになる。
【0021】
[0025]タガントが基材中に直接組み込まれている例では、タガントは、限定はしないが、基材の約0.1重量%、基材の約0.5重量%、基材の約1重量%、基材の約2重量%、基材の約5重量%、基材の約10重量%、基材の約15重量%、基材の約20重量%、基材の約25重量%、基材の約30重量%、もしくは基材の約35重量%の量またはそれからの量を含む、例えば、基材の約0.01重量%から約40重量%を含む任意の好適な量で基材に存在することができる。いくつかの例では、タガントは基材の約0.01重量%から約5重量%の量で貴重文書の基材中に存在することができる。好ましくは、基材中のタガントの量は十分であり、その結果、銀行券などの貴重文書上の印刷物が摩耗された場合でさえ、真正の貴重文書を認識および検証するのに十分なタガントが基材内にあることになる。
【0022】
[0026]本技術で使用されるべきタガント用の希土類活性イオンを含む好適なホスト材料は、アルミン酸塩、ホウ酸塩、ガーネット、酸化物、ケイ酸塩、フッ化物、ゲルマニウム酸塩、モリブデン酸塩、オキシフッ化物、オキシ硫化物、リン酸塩、タングステン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、バナジン酸塩、およびそれらの組合せからなる群から選択された無機結晶格子を含む。少なくとも2つの活性イオンがドーパントとしてタガントの格子内に組み込まれ、ホスト格子のいくつかのイオンと置き換わる。タガントの結晶格子マトリクスのホスト格子イオンの代わりになるのに使用される希土類活性イオンの吸収および放出特性は、使用される特定の希土類イオンのエネルギー準位によって、ならびに結晶場からの効果によって影響される。活性イオンは、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジウム、ジスプロシウム、ネオジウム、または他の好適な希土類元素、およびそれらの混合物などの希土類元素からなる群から選択することができる。活性イオンは、典型的には、結晶格子中のイットリウム、ランタン、またはガドリニウムなどのイオンと置き換わる。活性イオンの1つ、例えば、エルビウムは、約1400nmから約1700nmの範囲で入射赤外放射の広帯域吸収を示し、上記で列記した活性イオンから選択された第2の希土類活性イオンにこのエネルギーを非放射的に移送し、第2の希土類活性イオンは約1600nmから約2200nmの範囲で赤外放射を放出する。
【0023】
[0027]本技術は、本技術のタガントを含む基材または印刷物を有する貴重文書を認証する貴重文書認証装置に関する。貴重文書認証装置は、赤外照明源と、タガントからの放出赤外放射を事前選択された波長で受け取る赤外検出器と、少なくとも1つの処理装置とを含むことができる。コンピュータなどの1つまたは複数の処理装置は真の発光データおよび/または試験の発光データを記憶するのに使用することができる。発光データは、第2の希土類活性イオンからの光学発光を好適な赤外検出器およびフィルタを使用して検出することから得られる。この信号を電子的に捕捉および検査して、値が所定の認証限界内にあることを検証し、次に、所定の合格/不合格パラメータに基づいて試験の貴重文書を認証または排除する。
【0024】
[0028]本技術は、さらに、少なくとも2つの希土類活性イオンを含むタガントを含む貴重文書を試験することによって貴重文書を認証する方法に関し、希土類活性イオンのうちの1つは、限定はしないが、約1400nmから約1900nmの範囲の波長を含む第1の波長を有する励起入射赤外光を吸収し、希土類活性イオンのうちの第2のものは、限定はしないが、約1600nmから約2200nmの範囲の波長を含む第2の波長を有する赤外放射を放出する。貴重文書は、約1000nmから約2200nmの波長範囲の光に感度のある拡大型InGaAs検出器または他の好適な検出器によって試験される。検出システムは、タガントによって放出される事前選択の波長範囲のみを通過させる光学フィルタを光経路中に含むことができる。貴重文書が、例えば、高速銀行券認証および計数機械中で静止または移動しているとき、この真正性の試験を行うことができる。この方法は、タガントをもたない貴重文書を高い信頼性で検出および排除する。
【0025】
[0029]本技術は、タガントが第1の希土類活性イオンの吸収帯に対応する入射赤外放射で励起されるときに、貴重文書の印刷物内に組み込まれた隠れタガントからの赤外発光を測定することによって、検証システムの機密精度および真正性精度を向上させることができる。入射赤外波長および発光赤外波長の両方は、印刷インクの色にかかわらず印刷インクによる吸収の最も少ない波長範囲内にある。したがって、隠れタガントは、人間の眼、または紫外線遮断を含む最も一般的な検出方法には見えない貴重文書の暗黒区域内に隠すことができる。タガントは、ホスト格子によって影響されるような活性イオンに基づいて既知の特定の波長帯域での赤外放射しか放出しないので、検出は赤外検出器および光学フィルタの適切に選択された組合せを必要とし、それにより、貴重文書の機密保持が向上される。
【0026】
[0030]銀行券を含む貴重文書のためのインクなどの印刷物は多くの色が必要になる。可視スペクトルにおけるインクの吸収の性質は、人間の眼が知覚する色を与える。上記で述べたように、黒色インクは可視スペクトル内の波長のほとんどを吸収する。したがって、タガント励起光源が有色物質の吸収スペクトル内にある場合、印刷物は強い吸収の性質を有する。同様に、印刷物のより高い吸収の範囲内におけるタガントからのいかなる発光もやはり著しく低減され、有用な検出信号は生成されない。赤外波長範囲で測定された透過率(1から吸収を減算したもの)は、光の波長が増加するにつれて非常に高い透過率値まで増加する。この透過率の増加または吸収の減少は1000nmよりも長い赤外波長を超えたところで見られる。
【0027】
[0031]図1は、赤色インク、緑色インク、スミレ色インク、および黒色インクを含む典型的なインクの測定された吸収スペクトルを示す。有色インクの各々は、異なるスペクトル透過挙動を示し、反射の際に人間の眼で知覚される色を生成する。すべての色のインクは、赤外波長領域の特に1000nmを超えたところで低い赤外吸収を示す。さらに、赤外透過率は、赤外波長が増加するにつれて改善されるように見える。したがって、タガントを入射赤外励起放射で励起することができる場合、放射は、印刷インクの色またはその印刷密度にかかわらずタガントによる吸収に利用することができる。その結果、タガントは、貴重文書のユーザーには全く見えない貴重文書の濃厚に印刷された暗黒区域に隠され、安全な認証フィーチャをもたらすことができる。対象技術は、タガントを励起するのに必要とされる入射励起放射のスペクトル窓において吸収の減少を示す印刷インクを使用することに関する。
【0028】
[0032]エルビウムは、赤外LEDからの入射タガント励起放射を吸収するための広帯域吸収体として機能する希土類活性イオンである。図2aおよび2bは、エルビウム希土類活性イオンがドープされた典型的な既知の無機イットリウムアルミニウムガーネットの測定された吸収データを示し、図1に示されたような約1100nm未満での狭線吸収挙動と、約1400nmから約1700nmの赤外波長範囲での広帯域吸収とを示す。図2aおよび2bは、1100nmまでのみの吸収挙動を示すSardar等の「Absorption intensities and emission cross section of principal intermanifold and inter−Stark transitions of Er3+(4f11) polycrystalline ceramic garnet YAl12」、Journal of Applied Physics、97、123501(2005)による刊行物で開示されているものと同様の吸収曲線を示す。広帯域吸収の波長は、図1に示したような印刷インクの高い透過率の赤外波長範囲と一致していることが分かり、したがって、印刷インクに埋め込まれたタガントは、1400nmから1700nmの赤外波長範囲において印刷インクによる減衰なしに容易に励起することができる。1550nmでピークになるスペクトル帯域の放射を放出するInGaAs LEDランプである、Marubeni America Corporation、カリフォルニア州、USAから入手できるMarubeni L1550−03などの市販のLEDデバイスは、タガントのフォトニック励起のための入射光源として使用することができる。本技術に有用であり、当業者に知られている商用の他のLEDランプ光源がある。タガントの光子励起は1550nmで実行されるので、より短い波長発光をもたらすよりエネルギーの大きい電子遷移は励起されず、吸収された光子エネルギーは、エネルギー準位が約1600nmから約2200nmの範囲の波長をもつより高い波長の発光をもたらす第2の希土類イオンに非放射的に移送される。
【0029】
[0033]図3は、Sardar等の「Absorption intensities and emission cross section of principal intermanifold and inter−Stark transitions of Er3+(4f11) polycrystalline ceramic garnet YAl12」、Journal of Applied Physics、97、123501(2005)により公表されているような1600nmから2200nmの赤外波長範囲で発光挙動を示すエルビウム希土類活性イオンをもつ典型的な無機イットリウムアルミニウムガーネットの発光挙動を示す。
【0030】
[0034]図4は、可視スペクトルの端から約2200nmまでの検出性能を示す一群の典型的な市販のInGaAs赤外検出器を示す。
[0035]図5は、移動性貴重文書認証装置100の概略構成を示す。貴重文書101は認証装置を通って移動する。貴重文書101は、タガントが組み込まれた印刷インク102を有する。タガントは、発光ダイオード(LED)103からの典型的な波長の1550nmの入来励起赤外放射を受け取る。LED103の光はレンズシステム104および105でコリメートされ、スポットとして、またはラインもしくは広い区域として貴重文書101を照明する。約1400nmから約2200nmの範囲のタガントからの赤外発光は、反射鏡106、光学フィルタ107、および合焦レンズ108によって検出器109に誘導される。処理装置110は、LED103に電力を供給し、貴重文書が認証装置を通り抜けるようにし、検出された赤外放射発光データを受け取る。検出器109が、貴重文書101上の印刷インク102内に組み込まれたタガントからの適切な波長の赤外発光を受け取り、処理装置110に渡す場合、貴重文書101は真正であると見なされ、または、そうでなければ、偽造物として排除される。
【0031】
[0036]前述の説明から、特定の例を例証のために本明細書で説明したが、本開示の趣旨または範囲を逸脱することなく様々な変更を行うことができることが理解されよう。したがって、前述の詳細な説明は限定ではなく例示と見なされ、かつすべての均等物を含む以下の特許請求の範囲は、特許請求される対象を特定して指摘し明確に請求するものであることが理解されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の希土類活性イオン(active ion)および第2の希土類活性イオンを含む無機結晶格子(inorganic crystal lattice)を含むタガント(taggant)であって、
前記第1の希土類活性イオンが、1300nmから2200nmの第1の波長を有する励起入射赤外放射(exciting incident infrared radiation)を吸収し、前記吸収した赤外放射を前記第2の希土類活性イオンに移送し、前記第2の希土類活性イオンが、前記励起入射赤外放射の前記第1の波長よりも長い1400nmから2200nmの第2の波長で赤外放射を放出する、タガント。
【請求項2】
前記タガントが、エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジウム、ジスプロシウム、ネオジウム、およびそれらの混合物からなる群から選択された希土類元素からの少なくとも2つの希土類活性イオンを含む、請求項1に記載のタガント。
【請求項3】
少なくとも第1の希土類活性イオンおよび第2の希土類活性イオンを含む無機結晶格子を有するタガントを含む貴重文書(value document)であって、
前記第1の希土類活性イオンが、1300nmから2200nmの第1の波長を有する励起入射赤外放射を吸収し、前記吸収した赤外放射を前記第2の希土類活性イオンに移送し、前記第2の希土類活性イオンが、前記励起入射赤外放射の前記第1の波長よりも長い1400nmから2200nmの第2の波長で赤外放射を放出する、貴重文書。
【請求項4】
前記貴重文書が印刷物を含み、前記タガントが前記印刷物の0.01重量%から40重量%の量で前記印刷物中に存在する、請求項3に記載の貴重文書。
【請求項5】
前記第1および第2の希土類活性イオンが各々エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジウム、ジスプロシウム、ネオジウム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の貴重文書。
【請求項6】
前記無機結晶格子が、アルミン酸塩、ホウ酸塩、ガーネット、酸化物、ケイ酸塩、フッ化物、ゲルマニウム酸塩、モリブデン酸塩、オキシフッ化物、オキシ硫化物、リン酸塩、タングステン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、バナジン酸塩、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項3に記載の貴重文書。
【請求項7】
貴重文書を認証する方法であって、
a)貴重文書を認証装置に供給するスッテプであり、前記貴重文書が、少なくとも第1の希土類活性イオンおよび第2の希土類活性イオンを含む無機結晶格子を含むタガントを含み、前記第1の希土類活性イオンが、1300nmから2200nmの第1の波長を有する励起入射赤外放射を吸収し、前記吸収した赤外放射を前記第2の希土類活性イオンに移送し、前記第2の希土類活性イオンが、前記励起入射赤外放射の前記第1の波長よりも長い第2の波長で赤外放射を放出する、ステップと、
b)前記第1の波長の励起入射赤外放射を前記タガントに前記認証装置の赤外照明光源により供給するステップと、
c)前記第2の希土類活性イオンから放出された赤外放射を前記認証装置の赤外検出器で検出し、前記赤外検出器から発光データを生成するステップと、
d)事前選択された検証基準内に前記発光データがあることを前記認証装置の処理装置で検証するステップと、
e)前記処理装置からの認証データを出力して、前記貴重文書を認証または排除するステップと
を含む、方法。
【請求項8】
前記貴重文書が印刷物を含み、前記タガントが前記印刷物の0.01重量%から40重量%の量で前記印刷物中に存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および第2の希土類活性イオンが各々エルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジウム、ネオジウム、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項10】
前記無機結晶格子が、アルミン酸塩、ホウ酸塩、ガーネット、酸化物、ケイ酸塩、フッ化物、ゲルマニウム酸塩、モリブデン酸塩、オキシフッ化物、オキシ硫化物、リン酸塩、タングステン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、バナジン酸塩、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−515095(P2013−515095A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544934(P2012−544934)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/061193
【国際公開番号】WO2011/084724
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】