説明

貴金属担持光触媒体粒子の製造方法

【課題】高い光触媒活性を示す光触媒体を製造することができる、光触媒体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子およびその分散液を製造する方法であり、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子を製造する方法、この製造方法によって得られる貴金属担持光触媒体粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が生成するとともに、伝導帯に電子が励起される。かかる正孔および電子は、それぞれ強い酸化力および還元力を有することから、半導体に接触した分子種に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は、光触媒体と呼ばれている。
【0003】
このような光触媒体としては、従来、酸化タングステンや酸化チタンが利用されており、特に酸化タングステンは、蛍光灯のように大部分が可視光である光の下においても良好な光触媒作用を発現しうる光触媒体として知られている。さらに、近年では、酸化タングステンや酸化チタン等の光触媒体の光触媒活性をより高める手段として、これら光触媒体に白金等の貴金属を担持させることが検討されている。例えば、分散媒中に粒子状の光触媒体を分散させるとともに貴金属の前駆体を溶解させ、この分散液に高強度の紫外線を照射することにより、前記貴金属の前駆体を還元して貴金属に変換する、いわゆる光電着法が報告されており(非特許文献1)、紫外線照射後の分散液から分散媒を除去することにより、固形分として貴金属担持光触媒体粒子を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar Cells, 51(1998), 203-219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の方法で貴金属担持光触媒体粒子を工業的に得ようとした場合、貴金属の前駆体を還元する工程において強力な紫外線を照射するが、雰囲気を制御せずに大気中で行うため、貴金属の前駆体の還元と共に、光触媒体粒子が分散している分散媒(例えば水)中の溶存酸素の還元が起こり、光電着を行う上で効率が悪く、しかも、十分な活性を示す貴金属担持光触媒体粒子が得られなかった。そのため、工業化の観点からは、貴金属の担持を高い効率で行え、しかも高い活性を示す貴金属担持光触媒体粒子の製造方法が求められていた。
【0006】
そこで、本発明の課題は、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、光触媒体粒子に貴金属を担持する工程において、光触媒体粒子分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に光照射を行うことにより、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子を製造する方法であり、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、かつ前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子の製造方法である。
【0009】
また本発明は、光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造する方法であり、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料分散液中への不活性ガスの吹き込みによって、原料分散液中の溶存酸素量は低減されているので、光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光の照射によって貴金属の前駆体を貴金属に還元する光電着法を効率よく行うことができ、その結果、高い光触媒活性を示す貴金属担持光触媒体粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<光触媒体>
光触媒体とは、例えば、紫外線や可視光線の照射により光触媒作用を発現する半導体であり、具体的には、特定の結晶構造を示す金属元素と酸素、窒素、硫黄、フッ素との化合物等が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceが挙げられる。その化合物としては、これら金属の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、Ti、W、Nbの酸化物が好ましく、とりわけメタチタン酸、酸化チタン、酸化タングステンなどが好ましい。なお、光触媒体は単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0012】
<メタチタン酸>
メタチタン酸(H2TiO3、TiO(OH)2、β-水酸化チタン)は、例えば硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解することにより得ることが出来る。
メタチタン酸の粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点から、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。前記メタチタン酸のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0013】
<酸化チタン>
光触媒体が酸化チタンの場合、光触媒体の前駆体化合物としては、三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、オキシ塩化チタン、チタンテトライソポロポキシドなどを用いることができる。
すなわち、酸化チタン(TiO2)は、例えば、(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに水、酸性水溶液、塩基性水溶液等を加えて沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法などによって得ることができる。これらの方法で得られる酸化チタンは、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型など所望の結晶型にすることができる。
また酸化チタンとしては、前記の他にも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, No.2, P.196-197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.4, P.364-365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, No.8, P.772-773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548-1552(2005)等に記載の酸化チタンを用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得ることもできる。
酸化チタンの粒子径は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、平均分散粒子径で、通常20〜150nm、好ましくは40〜100nmである。前記酸化チタンのBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0014】
<酸化タングステン>
光触媒体が酸化タングステンの場合、光触媒体の前駆体化合物としては、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、タングステン酸(H2WO4)、塩化タングステン、タングステンアルコキシドなどを用いることができる。
すなわち、酸化タングステン粒子としては、通常は三酸化タングステン〔WO3〕粒子が挙げられる。三酸化タングステン粒子は、例えば、タングステン酸カルシウム(CaWO4)、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4)、タングステン酸カリウム(K2WO4)のタングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸(H2WO4)を得、得られたタングステン酸を焼成する方法により得ることができる。また、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することなどにより熱分解する方法により得ることもできる。可視光線の照射下で高い光触媒活性を示すことから、酸化タングステンを光触媒体として用いることが好ましい。
本発明で用いる酸化タングステン粒子の粒子径は、平均分散粒子径で、光触媒作用の点で、通常50nm〜200nm、好ましくは80nm〜130nmである。前記酸化タングステン粒子のBET比表面積は、光触媒作用の点で、通常4m2/g〜100m2/g、好ましくは15m2/g〜50m2/gである。
【0015】
<光触媒体の製造>
本発明で用いる光触媒体の製造方法においては、高い比表面積の光触媒体を得るために、粒径が50nm〜200nmの有機物粒子を光触媒体の前駆体化合物と混合することができる。有機物粒子としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリイミド、エポキシ樹脂、胡桃粉砕物などを用いることができるが、これらの中でもポリメタクリル酸メチルを用いるのが好ましい。
【0016】
かかる混合物は、例えば光触媒体前駆体化合物が溶媒に溶解した溶液を有機物粒子と接触させることにより、有機物粒子に光触媒体前駆体化合物を含浸させ、次いで溶媒を留去する方法により得ることができる。粉末状の光触媒体前駆体化合物と有機物粒子とを粉末状態のまま混合してもよい。溶媒中に光触媒体前駆体化合物および有機物粒子を分散させた後、溶媒を留去してもよい。
【0017】
有機物粒子は、乾燥したものを用いてもよいし、ある程度水分等で湿らせたコロイド状で用いてもよい。また、焼成する前の混合物は、室温〜200℃の範囲で乾燥させてもよい。
【0018】
光触媒体前駆体化合物を分散または溶解させる溶媒としては、光触媒体の前駆体化合物を分散または溶解し得、かつ有機物粒子を溶解しないものであれば、特に制限はないが、水やメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いるのが好ましい。
【0019】
次に、かかる混合物を焼成して、有機物粒子を焼失させる。焼成は通常、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉などの焼成装置を用いて行うことができる。焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは380℃以上で、かつ通常750℃以下、好ましくは650℃以下の範囲内で適宜設定すればよい。また、焼成時間は、焼成温度や焼成装置の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常、10分以上、好ましくは30分以上であり、かつ、30時間以内、好ましくは10時間以内である。焼成は、有機物粒子が焼失するのに十分な量の酸素を含む雰囲気中で行う。
【0020】
得られた光触媒体に粉砕を施してもよい。この粉砕は焼成の前に行ってもよいし、焼成後に行ってもよい。ここで行う粉砕は、水などの液体を加えることなく乾燥状態で粉砕する乾式粉砕であってもよいし、水などの液体を加えて湿潤状態で粉砕する湿式粉砕であってもよい。乾式粉砕により粉砕するには、例えば、転動ミル、振動ボールミル、遊星ミルなどのボールミル、ピンミルなどの高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル、ジェットミル等の粉砕装置を用いることができる。湿式粉砕により粉砕するには、例えば上記と同様のボールミル、高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル等の粉砕装置を用いることができる。
【0021】
<光触媒体粒子分散液>
本発明の光触媒体粒子分散液は、前記光触媒体が分散媒に分散した液である。
【0022】
<貴金属の前駆体>
本発明で使用する貴金属の前駆体としては、分散媒中に溶解し得るものが使用される。かかる前駆体が溶解すると、これを構成する貴金属元素は通常、プラスの電荷を帯びた貴金属イオンとなって、分散媒中に存在する。そして、この貴金属イオンが、光の照射により0価の貴金属に還元されて、光触媒体粒子の表面に担持される。貴金属としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、IrおよびRhが挙げられる。その前駆体としては、これら貴金属の水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも高い光触媒活性を得る点から、貴金属は、Cu、Pt、Au、Pdが好ましい。
【0023】
Cuの前駆体として、例えば硝酸銅(Cu(NO3)2)、硫酸銅(CuSO4)、塩化銅(CuCl2、CuCl)、臭化銅(CuBr2,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI26)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH4)2Cl4)、オキシ塩化銅(Cu2Cl(OH)3)、酢酸銅(CH3COOCu、(CH3COO)2Cu)、蟻酸銅((HCOO)2Cu)、炭酸銅(CuCO3)、蓚酸銅(CuC24)、クエン酸銅(Cu2647)、リン酸銅(CuPO4)が挙げられる。
【0024】
Ptの前駆体として、例えば塩化白金(PtCl2、PtCl4)、臭化白金(PtBr2、PtBr4)、沃化白金(PtI2、PtI4)、塩化白金カリウム(K2(PtCl4))、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)、亜硫酸白金(H3Pt(SO3)2OH)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4Cl2)、炭酸水素テトラアンミン白金(C21446Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH3)4HPO4)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH3)4(OH)2)、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO3)2(NH3)4)、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH3)4)(PtCl4))、ジニトロジアミン白金(Pt(NO2)2(NH3)2)が挙げられる。
【0025】
Auの前駆体として、例えば塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH)2)、テトラクロロ金酸(HAuCl4)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl4)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr4)が挙げられる。
【0026】
Pdの前駆体として、例えば酢酸パラジウム((CH3COO)2Pd)、塩化パラジウム(PdCl2)、臭化パラジウム(PdBr2)、沃化パラジウム(PdI2)、水酸化パラジウム(Pd(OH)2)、硝酸パラジウム(Pd(NO3)2)、硫酸パラジウム(PdSO4)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K2(PdCl4))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K2(PdBr4))、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NH34Cl2)、テトラアンミンパラジウム臭化物(Pd(NH34Br2)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(Pd(NH34(NO32)、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸((Pd(NH34)(PdCl4))、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム((NH42PdCl4)等が挙げられる。
【0027】
貴金属の前駆体は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用される。その使用量は、貴金属原子に換算して、光触媒体粒子の使用量100質量部に対して、光触媒作用の向上効果が十分に得られる点で通常0.005質量部以上、コストに見合った効果が得られる点で通常1質量部以下であり、好ましくは0.01質量部〜0.6質量部である。
【0028】
<原料分散液>
本発明では、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散され、かつ前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液を用いる。分散媒中に光触媒体粒子を分散させるには湿式媒体撹拌ミルなどの公知の装置で分散処理を施すことが好ましい。
【0029】
<分散媒>
分散媒としては通常、水を主成分とする水性媒体、具体的には水の含有量が50質量%以上のものが用いられている。分散媒の使用量は、光触媒体粒子に対して、通常5質量倍〜200質量倍である。分散媒の使用量が5質量倍未満では光触媒体粒子が沈降し易くなり、200質量倍を超えると容積効率の点で不利である。
【0030】
<犠牲剤>
本発明では、犠牲剤を原料分散液に添加することが好ましい。犠牲剤としては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、蓚酸等のカルボン酸が用いられる。犠牲剤が固体の場合、この犠牲剤を適当な溶媒に溶解して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。尚、犠牲剤は、光照射を行う前に原料分散液に添加してもよいし、原料液に一定時間光照射を行い、その後に犠牲剤を添加して、さらに光照射を行ってもよい。犠牲剤の量は分散媒に対して、通常0.001質量倍〜0.3質量倍、好ましくは0.005質量倍〜0.1質量倍である。犠牲剤の使用量が0.001質量倍未満では光触媒体粒子への貴金属の担持が不十分となり、0.3質量倍を超えると犠牲剤の量が過剰量となりコストに見合う効果が得られない。
【0031】
<不活性ガス>
本発明では、原料分散液への光照射前もしくは光照射中に不活性ガスの吹き込みを行う。不活性ガスとしては、窒素、および希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等)があげられる。尚、不活性ガスは、犠牲剤を添加した後にも行ってもよい。不活性ガスの吹き込み量は、光触媒体粒子分散液に含まれる溶存酸素がある程度除去できればよく、例えば、光触媒体粒子分散液30gに対して、500mL/分のガスを10分〜24時間バブリングさせればよい。
【0032】
<光の照射>
本発明では、不活性ガスをバブリングした原料分散液に光を照射する。原料分散液への光の照射は、撹拌しながら行ってもよい。透明なガラスやプラスチック製の管内を通過させながら管の内外から照射してもよく、これを繰り返してもよい。光源としては光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、殺菌灯、水銀灯、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、太陽光を用いることができる。照射する光の波長は通常、180nm〜500nmである。光照射を行う時間は、十分な量の貴金属を担持できることから、通常20分以上、好ましくは1時間以上、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。24時間を越える場合、それまでに貴金属の前駆体の殆どは貴金属となって担持されてしまい、光照射にかかるコストに見合う効果が得られない。
【0033】
<pH調整>
本発明では、原料分散液のpHを2.5〜4.5、好ましくは2.7〜3.5に維持しながら光照射を行うのが好ましい。通常、光照射により貴金属が光触媒体粒子の表面に担持される際には分散液のpHが酸性に除々に変化するので、pHを本発明で規定する範囲内に維持するため、通常塩基を添加すればよい。塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の水溶液が挙げられるが、これらの中でもアンモニア水を用いるのが好ましい。
【0034】
<貴金属担持光触媒体>
かくして不活性ガスを吹き込んだ後に光を照射することにより、貴金属前駆体が貴金属となって光触媒体粒子の表面に効率よく担持されて、目的の貴金属担持光触媒体粒子を得る。
【0035】
<貴金属担持光触媒体粒子分散液>
この貴金属担持光触媒体粒子が分散された分散液は、例えば、そのまま基材上に塗布したときに均一な膜質の光触媒体層を形成することができる。基材としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁材、床等の建築資材、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材等の自動車内装材、衣類やカーテン等の繊維製品が挙げられる。
【0036】
この貴金属担持光触媒体粒子分散液に、密着性を向上させる目的で無機系バインダー、有機系バインダーを添加することもできる。
【0037】
この貴金属担持光触媒体粒子分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどのケイ素化合物、非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ゼオライト、カオリナイトなどのアルミノケイ酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Ag、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどの金属元素の水酸化物や酸化物、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂が挙げられる。これらの添加剤を添加して用いる場合、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を基材に塗布して形成された光触媒体層に光が照射されると、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機物、アルデヒド類、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌等を分解、除去することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において得られた光触媒体の分析および評価は以下の方法で行った。
【0039】
(結晶相)
X線回折装置(理学電機製「Rigaku RINT ULTIMA」)を用いて測定した。
(BET比表面積)
高速・比表面積・細孔分布測定装置(ユアサアイオニクス(株)製「NOVA1200e」)を用いて窒素吸着法にて測定した。
【0040】
(光触媒活性(酢酸分解))
光触媒活性は、可視光照射下で光触媒作用による酢酸の分解反応を行い、その完全分解生成物である二酸化炭素の生成速度を測定することにより評価した。具体的には、光触媒試料50mgをスライドガラスの片面に正方形(15mm×15mm)に広げ、これを内容積330mLのパイレックス(登録商標)ガラス製容器の底に置いて、上方よりキセノンランプ(Cermax製:300W)を用いて紫外線と可視光線の両方を含む光を30分間照射して、光触媒試料表面の残存有機物を除去した。その後、ガラス製容器を密閉し、ここにシリンジを用いて約22マイクロモルの酢酸を導入し、暗中で20分間放置した。次いで、紫外線カットフィルター(旭テクノガラス製「L-42」)を装着したキセノンランプを光源として可視光を照射し、その間、 光照射開始時から4分間隔で容器内のガスの一部をサンプリングしてガスクロマトグラフ(アジレントテクノロジー社製「Agilent3000マイクロGC」)にて二酸化炭素の量を測定した。光照射時間を横軸に、また二酸化炭素の量を縦軸にプロットし、得られるグラフから、光照射が20分のときの二酸化炭素量を読み取り、この値に基づき1時間あたりの二酸化炭素の生成量を算出し、これを二酸化炭素の生成速度とした。
【0041】
(光触媒活性(アセトアルデヒド分解))
光触媒作用は、蛍光灯の光の照射下でのアセトアルデヒドの分解反応における一次反応速度定数を測定することにより評価した。
まず、光触媒作用測定用の試料を作製した。すなわち、ガラス製シャーレ(外径70mm、内径66mm、高さ14mm、容量約48mL)に、得られた光触媒体粒子分散液を、底面の単位面積あたりの固形分換算の滴下量が1g/m2となるように滴下し、シャーレの底面全体に均一となるように展開した。次いで、このシャーレを110℃の乾燥機内で大気中1時間保持することにより乾燥させて、ガラス製シャーレの底面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に、紫外線強度が2mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これを光触媒作用測定用試料とした。
【0042】
次に、この光触媒作用測定用試料をシャーレごとガスバッグ(内容積1L)の中に入れて密閉し、次いで、このガスバッグ内を真空にした後、酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガス0.6Lを封入し、さらにその中に1容量%でアセトアルデヒドを含む窒素ガス3mLを封入して、暗所で室温下1時間保持した。その後、市販の白色蛍光灯を光源とし、測定用試料近傍での照度が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにガスバッグの外から蛍光灯の光を照射し、アセトアルデヒドの分解反応を行った。このとき、測定試料近傍の紫外光の強度は6.5μW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)であった。蛍光灯の光の照射を開始してから1.5時間毎にガスバッグ内のガスをサンプリングし、アセトアルデヒドの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製「GC−14A」)にて測定した。そして、照射時間に対するアセトアルデヒドの濃度から一次反応速度定数を算出し、これをアセトアルデヒド分解能として評価した。この一次反応速度定数が大きいほど、アセトアルデヒドの分解能(すなわち光触媒作用)が高いと言える。
【0043】
(製造例1−ポリメタクリル酸メチル粒子の合成)
5Lガラス製反応容器に、水250質量部、炭酸ナトリウム1.5質量部、濃度15質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液4.7質量部、およびペルオキソ二硫酸ナトリウム0.06質量部を仕込み、攪拌しながら窒素雰囲気下80℃にてメタクリル酸メチル61.5質量部を60分間かけて連続的に添加した後、さらに攪拌しながら同温度で60分間熟成した。次いで、水12質量部とペルオキソ二硫酸ナトリウム0.06質量部とからなる水溶液を添加して攪拌し、その後、攪拌しながら80℃にてメタクリル酸メチル61.5質量部を60分間かけて連続的に添加した後、さらに攪拌しながら同温度で60分間熟成して、重合体のラテックスを得た。このラテックスの固形分濃度は31質量%であった。次に、得られた重合体のラテックスに−20℃の冷凍庫内で24時間凍結させた後に融解させる処理を施すことにより重合体粒子を凝集させ、得られた凝集スラリーを遠心分離機を用いて1500rpm(470G)の条件で10分間脱水した後、得られた重合体のウエットケーキを80℃の真空乾燥機にて24時間乾燥させて、球状のポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
得られたポリメタクリル酸メチル粒子の粒径を光散乱光度計(大塚電子製「DLS−7000」)を用いて動的散乱法により測定したところ、平均粒径は145nmであった。
【0044】
(実施例1)
WO3換算での濃度50質量%のメタタングステン酸アンモニウム水溶液(日本無機化学工業製「MW−2」;比重:1.8g/mL)8mLにメタノール4.4mLを加えてスパチュラでかるく撹拌した溶液に、製造例1で得たポリメタクリル酸メチル粒子6gを加えて混合した。その後、得られた混合物を室温で3時間静置した後、吸引ろ過により固液分離し、得られた固形物をシャーレに移してドラフト内に放置することにより自然乾燥させた。得られた乾燥後の固形物2gを焼成炉にて5℃/分で420℃まで昇温し、空気中420℃で5時間焼成して、粒子状の酸化タングステン粒子を得た。BET比表面積は23m2/gであった。
【0045】
得られた酸化タングステン粒子0.5gを水50mLに分散し、そこにPtが酸化タングステン粒子100質量部に対して0.03質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れて、アルゴンガスをこの分散液に30分間吹き込んだ後、密閉条件下で1時間光照射を行った。光源には紫色の発光ダイオード(OptoSupply, 5mm Super Violet LED OSSV5111A, 45mW/sr, 400nm)を28個用いた。その後上の酸化タングステン粒子の分散液にメタノール5mLを加えて、アルゴンガスを再度1時間吹き込んだ後、攪拌しながら上記と同様にして光の照射を1時間行った。その後濾過、水洗浄、120℃で乾燥することにより、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。
【0046】
Pt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は12.0μmol/hであった。
【0047】
(実施例2)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.06質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は22.0μmol/hであった。
【0048】
(実施例3)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.1質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は32.9μmol/hであった。
【0049】
(実施例4)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.2質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は60.0μmol/hであった。
【0050】
(実施例5)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.3質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は63.6μmol/hであった。
【0051】
(実施例6)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.5質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は63.9μmol/hであった。
【0052】
(実施例7)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して0.7質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は58.0μmol/hであった。
【0053】
(実施例8)
Ptが、酸化タングステン粒子100質量部に対して1.0質量部となるように濃度0.019mol/Lのヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れた以外は、実施例1と同様の方法でPt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は50.3μmol/hであった。
【0054】
(比較例1)
ヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れず(Ptの担持を行わず)に実施例1と同様にして、酸化タングステン粒子を得た。この酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は5.73μmol/hであった。
【0055】
(比較例2)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例1と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は6.44μmol/hであった。
【0056】
(比較例3)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例2と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は12.8μmol/hであった。
【0057】
(比較例4)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例3と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は12.4μmol/hであった。
【0058】
(比較例5)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例4と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は31.0μmol/hであった。
【0059】
(比較例6)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例5と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は55.4μmol/hであった。
【0060】
(比較例7)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例6と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は60.8μmol/hであった。
【0061】
(比較例8)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例7と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は52.2μmol/hであった。
【0062】
(比較例9)
アルゴンガスの吹き込みを行わなかった以外は実施例8と同様にして、Pt担持酸化タングステン粒子を得た。このPt担持酸化タングステン粒子の光触媒活性を評価したところ、可視光照射下での酢酸の分解反応における二酸化炭素の生成速度は48.7μmol/hであった。
【0063】
(製造例2−酸化タングステン粒子分散液の調製)
イオン交換水4kgに、粒子状の酸化タングステン粉末(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、媒体攪拌式分散機(寿工業(株)製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流速:0.25L/分
処理温度:20℃
合計処理時間:約50分
【0064】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で3時間保管したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0065】
(実施例9)
製造例2で得た酸化タングステン粒子分散液に、ヘキサクロロ白金酸(H2PtCl6)の水溶液を、ヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部となるように加え、ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は10質量部(固形分濃度10質量%)であった。この分散液のpHは2.4であった。
【0066】
次いで、この酸化タングステン粒子分散液29.7gを、蓋にガスクロマトグラフィー用セプタムを取り付けた50mLのガラス製容器(スクリュー管瓶、アズワン製)に移し、窒素をバブリングさせながら500mL/minで30分間吹き込み、気相部に空気が入らないように蓋を閉めた。その後スターラーで攪拌しながら、ガラス容器の側面からブラックライトで紫外線(紫外線強度:約2.8mW/cm2(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に、同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)を1時間照射後、前記ガスクロマトグラフィー用セプタムから注射器にてメタノールを0.3g添加した。その後、引き続きブラックライト(紫外線強度2.82mW)で紫外線を16時間照射して、白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。
【0067】
得られた分散液の光触媒活性(アセトアルデヒド分解)を評価したところ、反応速度定数は0.421h-1であった。
【0068】
(実施例10)
窒素の代わりにアルゴンを用いた以外は実施例9と同様にして貴金属担持光触媒体粒子分散液を得た。この貴金属担持光触媒体粒子分散液の光触媒活性(アセトアルデヒド分解)を評価したところ、反応速度定数は0.400h-1であった。
【0069】
(比較例10)
窒素の代わりに酸素を用いた以外は実施例9と同様にして貴金属担持光触媒体粒子分散液を得た。この貴金属担持光触媒体粒子分散液の光触媒活性(アセトアルデヒド分解)を評価したところ、反応速度定数は0.318h-1であった。
【0070】
(比較例11)
窒素の吹き込みを行わない以外は実施例9と同様にして貴金属担持光触媒体粒子分散液を得た。この貴金属担持光触媒体粒子分散液の光触媒活性(アセトアルデヒド分解)を評価したところ、反応速度定数は0.355h-1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子を製造する方法であり、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、かつ前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である請求項1又は2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
光触媒体粒子の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒体粒子が分散媒中に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液を製造する方法であり、前記分散媒中に前記光触媒体粒子が分散し、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液に不活性ガスを吹き込んだ後に、前記原料分散液に前記光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射することにより、前記光触媒体粒子の表面に貴金属を担持させることを特徴とする貴金属担持光触媒体粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記光触媒体粒子が酸化タングステン粒子である請求項4又は5のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−36770(P2011−36770A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185192(P2009−185192)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】