説明

貴金属装飾品の製造方法、及び貴金属装飾品

【課題】貴金属粘土状組成物の焼成体と、七宝の原材料や技術とを適宜に組み合わせることにより、簡易に且つ従来にない装飾性を備える貴金属装飾品の製造方法、及び貴金属装飾品を提供する。
【解決手段】本発明の貴金属装飾品(8G)の製造方法は、貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成する造形体作成工程と、上記造形体を焼成して得られた焼成体に形成された空間部に、七宝琺瑯層を焼成する琺瑯層形成工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属粘土状組成物の焼成体と、七宝の原材料や技術とを適宜に組み合わせることにより、簡易に且つ従来にない装飾性を備える貴金属装飾品の製造方法、及び貴金属装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、七宝は、素地に釉薬を盛りつけて、高温で焼成する焼きものであって、素地に金属を用いる点で、他の焼きものとは異なるが、その加工手段(技法)において、成熟した技術を有している。素地としては、銅、丹銅、銀などが一般に素地金属として用いられ、鋳造或いは各種の彫金用具を用いて素地板が形成され、釉薬としては、珪石、鉛丹、硝石などを基本成分とし、各種の色を作る金属化合物が加えられ、これらの釉薬を焼成して琺瑯層を形成するものである。
【0003】
また、特許文献1には、貴金属粉末を含有する可塑性組成物を用いて造形し、これを焼成して得られた密度比が60〜95%である多孔質焼成体の表面に釉薬を塗布した後、焼成する方法が開示されている。
さらに、特許文献2には、貴金属粉末を含有する可塑性組成物を造形し、その表面にガラス組成物を付着し、これを焼成する製造方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3147697号公報
【特許文献2】特許第3004038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の技術は、たしかに多孔質焼成体に釉薬を塗布して焼成すると、釉薬の焼成により形成された琺瑯層が強固に密着するものであった。
しかしながら、前記特許文献1には、多孔質焼成体の表面に釉薬を塗布している、即ちコーティング層を形成しているに過ぎないので、得られる焼成体は視覚的に興趣に富むものではなかった。。
また、前記特許文献2でも、琺瑯層が強固に密着したものが得られ、短時間に製造することができるが、同様に、焼成する前の造形体の表面の一部にガラス組成物を塗布して焼成しているに過ぎないので、得られる焼成体は視覚的に興趣に富むものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、貴金属粘土状組成物の焼成体である貴金属装飾品と、七宝用材料や七宝釉薬技術とを適宜に組み合わせることにより、簡易に且つ従来にない装飾性を備える貴金属装飾品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記に鑑み提案されたもので、貴金属焼成体と七宝琺瑯層とが組み合わされた視覚的に興趣に富む装飾性を備えるように、七宝琺瑯層をコーティング層として用いない手法を見出し、本件発明に至ったものである。
本発明の第1の発明は、貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成する造形体作成工程と、上記造形体を焼成して得られた焼成体の上記空間部に、七宝琺瑯層を焼成する琺瑯層形成工程と、を含むことを特徴とする貴金属装飾品の製造方法に関するものである。
外部に連通する空間部とは、例えば格子状又は網状(透かし模様の空間)等に形成され、その空間部に七宝琺瑯層が形成される。
【0008】
本発明の第2の発明は、前記造形体作成工程において、上記空間部の下部を貴金属箔で塞ぐことにより、凹状の空間部を形成し、前記琺瑯層形成工程において、上記凹状の空間部に七宝琺瑯層を焼成することを特徴とする貴金属装飾品の製造方法に関するものである。
この発明は、前記第1の発明における空間部の底部を貴金属箔で形成した態様に相当する。
【0009】
本発明の第3の発明は、貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成する造形体作成工程と、上記造形体に形成された上記空間部に七宝用釉薬層を形成する釉薬層形成工程と、上記造形体形成工程と釉薬層形成工程とを経た造形体を焼成する造形体焼成工程と、を含むことを特徴とする貴金属装飾品の製造方法に関するものである。
この発明は、前記第1の発明における二度の焼成を一度の焼成に代えたものであり、前記第1の発明を造形−焼成−釉薬塗布−焼成とすると、この第3の発明は造形−釉薬塗布−焼成となる。
【0010】
本発明の第4の発明は、前記造形体作成工程において、上記空間部の下部を貴金属箔で塞ぐことにより、凹状の空間部を形成し、前記釉薬層形成工程において、上記凹状の空間部に七宝用釉薬層を形成することを特徴とする貴金属装飾品の製造方法に関するものである。
この発明は、前記第3の発明における空間部の底部を金属箔で形成した態様に相当するものである。また、この発明は、前記第2の発明における二度の焼成を一度の焼成に代えたものであり、前記第2の発明を造形−焼成−釉薬塗布−焼成とすると、この第4の発明は造形−釉薬塗布−焼成となる。
【0011】
本発明の第5の発明は、前記第1〜4の発明の何れか1つにより得られることを特徴とする貴金属装飾品に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の発明は、貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて、外部に連通する空間部を有する造形体を作成しておき、この造形体を焼成して得られた焼成体の上記空間部に七宝琺瑯層を焼成したものであって、七宝琺瑯層を焼成体の表面に設けたものではなく、七宝琺瑯層を側方から焼成体にて保持したものとなる。
この方法で製造される貴金属装飾品は、七宝琺瑯層が外部に連通する空間部に形成されるので、例えば格子状又は網状等の透かし模様の装飾品にすることができる。この場合、枠部分を貴金属粉末を含有する粘土状組成物にて作成し、ガラス部分を七宝琺瑯層にて作成すればよく、ステンドグラス風の装飾品を極めて容易に製作できる。
【0013】
本発明の第2の発明は、前記第1の発明における空間部の下部を貴金属箔で形成したので、透かし模様には適用できないが、七宝琺瑯層が貴金属箔を底面とする凹状の空間部に形成されるので、七宝琺瑯層の側部のみを支持される第1の発明に比べて七宝琺瑯層がより安定に保持される。
また、この第2の発明では、七宝琺瑯層を通して貴金属箔の色合いを出現させることができる。したがって、この場合、例えば枠部分を貴金属粉末を含有する粘土状組成物にて作成し、ガラス部分を七宝琺瑯層にて作成すれば、鏡状の装飾品を極めて容易に製作できる。
【0014】
本発明の第3の発明は、貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成しておき、造形体に形成された上記空間部に七宝用釉薬層を形成して焼成したものであって、前記第1の発明における二度の焼成を一度の焼成に代えたので、製造の手間、コストを低減することができる。
この方法で製造される貴金属装飾品は、前記第1の発明と同様に、七宝琺瑯層を側方から焼成体にて保持したものとなり、この方法で製造される貴金属装飾品は、前記第1の発明と同様に、七宝琺瑯層が外部に連通する空間部に配されるため、例えば格子状又は網状等の透かし模様の装飾品にすることができる。この場合、枠部分を貴金属粉末を含有する粘土状組成物にて作成し、ガラス部分を七宝用釉薬層で形成して、一度に焼成すればよく、ステンドグラス風の装飾品を極めて容易に製作できる。
【0015】
また、本発明の第4の発明は、前記第3の発明における空間部の下部を貴金属箔で形成し、前記第2の発明における二度の焼成を一度の焼成に代えたので、製造の手間、コストを低減することができる。
この方法で製造される貴金属装飾品は、前記第2の発明と同様に、七宝琺瑯層が貴金属箔上に配されるので、七宝琺瑯層の側部のみを支持される第3の発明に比べて七宝琺瑯層がより安定に保持され、前記第2の発明と同様に、七宝琺瑯層を通して貴金属箔の色合いを出現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いる粘土状組成物は、貴金属粉末を含有するものであり、詳しくは貴金属粉末と有機系バインダとを混練してなるものである。
【0017】
前記貴金属粉末としては、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ru,Ir,Os等の純貴金属粉、或いはこれらの元素の一種以上を主成分とする貴金属合金粉であって、特に限定するものではないが、平均粒径20μm以下の粒子で、最大で60.0μm程度、最小で0.3μm程度の粉末が好ましい。
【0018】
前記有機系バインダとしては、特に限定するものではないが、少なくとも水溶性セルロース系樹脂、ブリティシュガム、キサンタンガム 、デキストリン、デキストラン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、ポリエリレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、水溶性アクリル樹脂、ウレタン樹脂、熱可塑性樹脂や、油性バインダから選択される一種以上を使用することが好ましい。
前記有機系バインダのうち、水溶性セルロース系樹脂及びブリティッシュガムは、可塑性を付与すると共に密着性を向上する作用を果たす。ポリエチレンオキサイドは、低濃度で高い粘性を与え、液状での接着性を向上する作用を果たす。グリセリンは、適度な保水性を与える。アルギン酸ナトリウムは、グリセリンと同様に適度な保水性を与えるが、密着向上作用にも寄与する。ポリアクリル酸エステル及びポリアクリル酸は、粘着性をより強固にする作用を果たす。前記油性バインダは、アクリル系樹脂などの高分子有機系結合材料が好ましく使用される。
有機系バインダとして、特に望ましくは、水を除いた固形分表示でデンプン0.02〜3.0wt%と水溶性セルロース系樹脂0.02〜3.0wt%を用いる。このうち水溶性セルロース系樹脂については、前述のように可塑性の付与、密着性を向上する作用を果たすが、デンプンは、銀粉末組成物を乾燥した時の乾燥強度を増大させる。しかし、有機系バインダとしてデンプンのみを用いると、造形時に生地割れが発生し易くなる。そこで水溶性セルロース系樹脂を併用することにより、これらの問題を解消できる。デンプンは、前記の通り粘土組成物中の水を除いた固形分表示で0.02〜3.0wt%を含有するのであるが、0.02wt%より少ないと、乾燥時の強度不足をまねき易くなる。また、3wt%を越えると、造形時、生地割れが発生し易くなる。また、収縮率も増大する。一方、水溶性セルロース系樹脂も前記の通り、水を除いた固形分表示で0.02〜3.0wt%を含有するのであり、0.02wt%より少ないと、可塑性を付与する効果が充分に発揮されない。3wt%を越えると、収縮率が増大する。このような水溶性セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が用いられ、水に溶解して用いる。
上記デンプンや水溶性セルロース系樹脂から構成される有機系バインダの量としては、デンプンと水溶性セルロース系樹脂の合計量が0.1〜4wt%の範囲内であることが望ましい。有機系バインダの量が0.1より少ないと、形状保持が難しい。また、造形、乾燥後の強度が弱くなるといった不都合がある。有機系バインダの量が4wt%を越えると、収縮立が大きくなり、ひび割れが生じやすくなる。したがって、有機系バインダの量は0.1〜4wt%が適当である。
水は必要量加えるものとし、少なすぎると硬くなって造形難く、多すぎると形状が保てなくなる。この銀粉含有組成物は、水の含有量により、粘土状でもペースト状でもスラリー状にも調製できる。
焼結促進剤としてBi、Se、Sb、In、Sn、Zn粉末又はそれらの合金粉末を加えても良い。
さらに、密着性向上剤として炭酸鉛、炭酸リチウム、酸化亜鉛、リン酸、炭酸ナトリウム、酸化バナジウム、珪酸ナトリウム、リン酸塩等から選ばれる金属化合物粉末又はガラス粉末を加えても良い。
また、可塑性を改善する目的で、フェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してなる網状高分子、グリセリン、ジグリセリン、イソプレングリコール、1・3ブチレングリコール、流動パラフィン、アルコール類、油脂、フタル酸、フタル酸−n−ジオクチル、フタル酸−n−ジブチル、ポリビニルアルコールを加え、必要に応じて界面活性剤、表面活性剤、粘着防止剤を加えても良い。
【0019】
粘土状組成物における前記の各成分の添加割合は、貴金属粉末75〜99wt%と、有機系バインダ0.1〜4wt%と残部水を含有する組成が好適である。尚、上記の範囲内において貴金属粉末の割合が高い場合には、粘土状の挙動を有するが、貴金属粉末の割合が低い場合には、粘度が低くなり、スラリー状或いはペースト状の挙動を有するが、本発明では共に“粘土状”と呼称する。
【0020】
前記好適な組成では、貴金属粉末は75〜99wt%であるが、少なすぎると、収縮が大きくなり、焼結にも支障を生じ、多すぎると、その分、有機系バインダ及び水の割合が多くなって、造形に支障を生ずる。
【0021】
前記七宝用釉薬は、珪石(SiO2),鉛丹(Pb34),硝石(K2O)を主成分とし、Al23,B23,Na2O,ZnO,P25,P23,Sb23,Sb25,As25,V25,CaO,MgO,PbO,TiO2等のガラス原料物質を、単独で、或いは2種以上混合して用いることができる。また、金、クロム酸鉛、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化銅、酸化クロム、酸化アンチモン、酸化イリジウム、その他の金属酸化物等の着色顔料を添加することも可能である。中でも貴金属粉末の融点より軟化点が低い釉薬を用いることが望ましい。これらの釉薬の多くは約800℃で融解し、金属面に密着して発色する。発色の際のにごりを防ぐためには、釉薬の調製前に、釉薬を水洗いする必要がある。釉薬には、焼成後に透明、半透明、不透明となるものがあり、透明釉薬は「白スキ」「桃スキ」など末尾に「スキ(透)」の文字が付けられて市販されている。市販されている七宝用釉薬のうち、粗粒、中粒とは、50〜80メッシュのものを意味し、微粒とは80〜120メッシュのものを意味する。また、釉薬と同一成分である七宝用フリットはそれら以上の粒径のものを意味する。
【0022】
前記第2,4の発明で用いる貴金属箔は、金箔、銀箔、プラチナ箔などがあり、薄膜状に薄く延ばされたものであり市販されている。
【0023】
尚、前記第1,3の発明では、特に限定するものではないが、不燃布上にて造形体作成工程を行ってもよく、特に例えばシリンジを用いて微細且つ複雑な形状を造形する際などには、好適である。この不燃布は、釉薬の流れを防止する役割を果たす離型材である。
これに対し、前記第2,4の発明では、空間部の下部を貴金属箔で形成するので、例えば前記不燃布に代えて貴金属箔を用いて造形体作成工程を行えばよい。即ち例えばシリンジを用いて微細且つ複雑な形状を造形する際などには、貴金属箔上に粘土状組成物を射出して凹状の空間部を有する造形体を造形すればよい。
【0024】
前記第1,2の発明のように、先に粘土状組成物の焼成や貴金属箔の焼き付けを行った後に空間部や凹状の空間部などに七宝琺瑯層を焼成するようにしてもよいし、前記第3,4の発明のように空間部や凹状の空間部などに七宝用釉薬層を形成する以前には、加熱工程を行わないようにし、粘土状組成物の焼成や貴金属箔の焼き付けを七宝琺瑯層の焼成と同時に行うようにしてもよい。後者の方法は、加熱工程が一度でよいため、簡易であるし、エネルギーコストも少なく抑えることができる。
【0025】
七宝用釉薬の取り扱いに際しては、公知の七宝技術、七宝用加工材料などを採用すればよく、例えば製品を焼成するに際しては、クラと呼ばれる支え台、金網を炉床板として用いてもよいし、七宝用釉薬を盛り付ける際には、筆やホセと呼ばれる竹べら等を用いて行うようにしてもよい。
【実施例】
【0026】
[銀粉末]
平均粒径2.5μmの銀粉末50重量%、平均粒径20μmの銀粉末50重量%からなる銀混合粉末を用いた。
[有機系バインダと水との混合物]
表1に、使用した二種の有機系バインダと水との混合物の配合組成を示した。
【表1】

【0027】
[銀粘土造形用組成物]
前記銀粉末92重量%と前記有機系バインダと水との混合物A8重量%とを加えて十分に混練し、銀粘土造形用組成物とした。この組成物は、手やヘラにて所望のデザインに造形する。
[銀ペーストシリンジ射出用組成物]
前記銀粉末85重量%と前記有機系バインダと水との混合物B15重量%とを加えて十分に混練し、銀ペーストシリンジ射出用組成物とした。この組成物は、シリンジにて所望のデザインに押し出し射出する。
【0028】
[七宝用釉薬]
ピュアホワイト(半透明白)
スカイブルー
バイオレット
[貴金属箔]
銀箔…厚み7〜10μm程度
焼き付け用プリント銀箔…厚み10μm程度
【0029】
〔実施例1〕
図1(e)に示す貴金属装飾品8Gは、第1の発明及び第3の発明の一実施例を示すものであり、この実施例1は第1の発明の一実施例である。
図1(a),(b)に示すように、図示しない不燃布上に、前記銀ペーストシリンジ射出用組成物をシリンジを用いて図示するような網状造形体31中に透かし模様(空間部32)を造形して乾燥した。続いて図1(c),(d)に示すように、網状造形体31を2〜3層重ね、透かし模様を造形して乾燥し、電気炉にて800℃で10分焼成した。焼成後、バレル又はステンレスブラシ、磨きヘラで仕上げた。
耐火ボードの上に不燃布を置き、その上に焼成体を置き、空間部32に七宝用釉薬を塗布(充填)して電気炉にて800℃前後で七宝琺瑯層33を焼成した。なお、不燃布は、七宝琺瑯層33の焼成の後に取り除いた。そして、これらの操作を数回繰り返して綺麗に空間部32に七宝琺瑯層33が焼成したら完成とした。なお、全ての空間部32に七宝琺瑯層を焼成するのではなく、幾つかの空間部32はそのままデザインとして残すものとした。
得られた貴金属装飾品8Gは、数種類の色の七宝琺瑯層33が形成され、それぞれの七宝琺瑯層33の側方を銀焼成体が囲んだデザインの銀装飾品であった。
【0030】
〔実施例2〕
この実施例2は第3の発明の一実施例である。
前記銀ペーストシリンジ射出用組成物をシリンジを用いて不燃布上に網状造形体31中に透かし模様(空間部32)を造形して乾燥した後、前記焼成工程を行わずに、空間部32に七宝用釉薬33を塗布(充填)し、網状造形体31の焼成と七宝琺瑯層33の焼成とを同時に行うようにしても同様に銀装飾品8Gが得られた。
この方法は、前記の実施例1の方法に比べて焼成のための加熱工程が一度でよいため、簡易であるし、エネルギーコストも少なく抑えることができた。
【0031】
〔実施例3〕
図2(c)に示す貴金属装飾品8Hは、第2の発明及び第4の発明の一実施例を示すものであり、この実施例3は第2の発明の一実施例である。
まず図2(a),(b)に示すように、耐火ボードの上に10μm厚の銀箔41を敷き、前記銀ペーストシリンジ射出用組成物をシリンジを用いて図示するような四角枠状の造形体42を造形して乾燥し、電気炉にて800℃で10分焼成した。そして、図2(c)に示すように、造形体42の内側の凹状の空間部に七宝用釉薬を塗布(充填)して電気炉にて800℃前後で焼成し、それを数回繰り返して綺麗に凹状の空間部に七宝琺瑯層43が焼成したら銀枠部分をステンレスブラシ、磨きヘラで仕上げた。なお、銀箔41は、造形体41の底部以外の部分を切除した。
得られた貴金属装飾品8Hは、略四角状の造形体42が銀の焼成体、底部が銀箔41で形成され、七宝琺瑯層43を通して(透かして)底部に位置する銀箔41が見えるデザインの銀装飾品であった。
【0032】
〔実施例4〕
この実施例4は第4の発明の一実施例である。
前記銀箔41上に、前記銀ペーストシリンジ射出用組成物をシリンジを用いて四角枠状の造形体42を造形して乾燥した後、焼成工程を行わずに、造形体42の内側の凹状の空間部に七宝用釉薬を塗布(充填)し、造形体42の焼成と七宝琺瑯層43の焼成とを同時に行うようにしても同様に銀装飾品8Hが得られた。
この方法は、前記の実施例3の方法に比べて焼成のため加熱工程が一度でよいため、簡易であるし、エネルギーコストも少なく抑えることができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)第1の発明及び第3の発明における銀ペースト状組成物にて網状造形体を造形した状態を示す斜視図、(b)その要部の断面図、(c)網状造形体を2〜3層重ねて空間部を造形した状態を示す斜視図、(d)その要部の断面図、(e)得られた銀装飾品を示す斜視図、(f)その要部の断面図である。
【図2】(a)第2の発明及び第4発明により得られた銀装飾品の一実施例を示す斜視図、(b)銀箔の上に銀ペースト状組成物にて凹状の空間部を造形した状態を示す断面図、(c)凹状の空間部に七宝琺瑯層を焼成した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
8G 貴金属装飾品
31 造形体
32 七宝琺瑯層
8H 貴金属装飾品
41 銀箔
42 造形体
43 七宝琺瑯層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成する造形体作成工程と、上記造形体を焼成して得られた焼成体の上記空間部に、七宝琺瑯層を焼成する琺瑯層形成工程と、を含むことを特徴とする貴金属装飾品の製造方法。
【請求項2】
前記造形体作成工程において、上記空間部の下部を貴金属箔で塞ぐことにより、凹状の空間部を形成し、前記琺瑯層形成工程において、上記凹状の空間部に七宝琺瑯層を焼成することを特徴とする請求項1に記載の貴金属装飾品の製造方法。
【請求項3】
貴金属粉末を含有する粘土状組成物を用いて外部に連通する空間部を有する造形体を作成する造形体作成工程と、上記造形体に形成された上記空間部に七宝用釉薬層を形成する釉薬層形成工程と、上記造形体形成工程と釉薬層形成工程とを経た造形体を焼成する造形体焼成工程と、を含むことを特徴とする貴金属装飾品の製造方法。
【請求項4】
前記造形体作成工程において、上記空間部の下部を貴金属箔で塞ぐことにより、凹状の空間部を形成し、前記釉薬層形成工程において、上記凹状の空間部に七宝用釉薬層を形成することを特徴とする請求項3に記載の貴金属装飾品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の製造方法より得られることを特徴とする貴金属装飾品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−138287(P2008−138287A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292252(P2007−292252)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(592258133)相田化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】