説明

貴金属触媒のエクス−シチュでの還元および乾式不動態化

担持貴金属触媒をエクス−シチュで活性化および乾式不動態化する方法であって、水素の存在下で還元する工程;および不活性雰囲気中で冷却し、そして空気に曝露することによって、または、空気に曝露する前に、低硫黄オイルで触媒の細孔を満たすことによって、乾式不動態化する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、触媒のエクス−シチュ(ex−situ)での活性化および不動態化の方法に関する。特に、これらの方法は、メソポーラス材料またはゼオライト系材料に担持された金属触媒に関する。これらの技術は、また、水を吸収し、担持された貴金属を使用するあらゆる触媒に適用される。
【0002】
商用プラントでは、貴金属触媒のイン−シチュ(in−situ)での窒素乾燥および水素還元を実施することが困難な場合がある。触媒は、高度に分散している貴金属材料がダメージを受けることのないよう、まず不活性ガス(N)中で完全に乾燥させ、その後、水素還元中は、水蒸気分圧を極めて低いレベルに保たなければならない。商用プラントでは様々な組成の処理ガスが使用されるとともに、最小操作圧力やパージガス量も制限される。従って、大量の触媒をイン−シチュで活性化するには何週間もかかり、そして、成功するか否かは処理ガスの露点の正確な測定に強く依存するが、それは完全に信頼できるというものでもない。また、乾燥用窒素は常に入手可能であるとは限らず、十分な乾燥を行うのに必要な大量の窒素を購入するのに、法外な費用が必要となる場合もある。
【0003】
エクス−シチュで還元および乾式不動態化を行うことによって、大規模なイン−シチュ処理に対する要求を取り除くことができる。これにより、立ち上げ時間が短縮されるとともに、湿分存在下の商用イン−シチュ還元における貴金属の分散性低下の可能性が排除される。
【0004】
現在、殆どの貴金属触媒は、金属が酸化物の形態で反応器に充填され、その後、貴金属は商用装置内でイン−シチュで活性化/還元が行われる。上述したように、イン−シチュでの活性化は何週間もかかり、また、還元中の過剰湿分の存在により貴金属の分散性が大きく低下する。限られた適用では、貴金属をエクス−シチュで活性化し、還元された触媒を直ちに不活性雰囲気下で過剰のオイル、ワックスまたは液体に浸漬し、貴金属を不動態化させている。しかしながら、過剰の液体に浸漬した触媒は非常に取り扱い難く、殆どのマルチベッド反応器で充填は不可能である。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,098,684号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メソポーラスもしくはゼオライト系マトリックスを含む担持貴金属触媒をエクス−シチュで還元および乾式不動態化する方法である。この方法は、触媒を還元する工程と、過剰液体の非存在下に触媒を不動態化する工程とを含む。1つの好ましい実施形態では、還元した触媒をまず不活性雰囲気下で冷却し、その後、空気中に曝露する。別の好ましい実施形態では、不活性雰囲気下、還元した触媒の細孔をオイルで満たす。細孔のみがオイルで満たされるので、触媒は乾燥と易流動性を保持する。
【0007】
1つの好ましい実施形態では、担持金属触媒は、アルミナ結合MCM−41に担持されたパラジウムおよび白金であり、これは特許文献1に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、担持貴金属触媒をエクス−シチュで活性化および乾式不動態化する方法である。この方法は2段の手順を含む。第1に、まず担持貴金属酸化物を乾燥し、水素および不活性ガスの混合物の存在下に一段で還元する。第2に、還元した触媒を、不活性雰囲気下で冷却し、その後、空気に曝露するか、または、空気に曝露する前に超低硫黄鉱油を触媒の細孔に満たすことによって、乾式不動態化を行う。不動態化した触媒は乾燥しており、かつ、易流動性である。従って、商用反応器に容易に充填し、水素中で加熱して遊離水および不動態化の酸素を除去し、その後、それ以上の処理を行わずに通油を開始することができる。
【0009】
エクス−シチュでの還元と不動態化は、立ち上げ時間を短縮し、湿分存在下のイン−シチュ還元における貴金属の分散性低下の可能性を排除する。還元された触媒を過剰のオイルまたはワックスでエクス−シチュで不動態化することは商業的に行われてきているが、空気、またはオイルの細孔充填による乾式不動態化は、新規であり、易流動性触媒という有利性を提供する。更に、パイロットプラントのデータは、エクス−シチュで還元され乾式不動態化された触媒が、完全に乾燥したガスを使用して、制御されたイン−シチュでの乾燥および還元工程に供された触媒と、同等の性能を有することを示している。以下の実施例に記載した方法は、アルミナ結合MCM−41に担持されたパラジウムおよび白金に対するものである。
【実施例】
【0010】
実施例1:イン−シチュ還元
触媒は、アルミナ結合MCM−41に担持された0.3重量%の白金および0.9重量%のパラジウムを含む。白金およびパラジウムは、硝酸テトラアミン白金およびパラジウムの水溶液を触媒担体にまず吸収させることによって、担体表面に高度に分散される。金属をコーティング後、担体を乾燥させ、その後、空気中でか焼してテトラアミンを分解すると、細かく分散した白金およびパラジウムの酸化物が生成する。使用前に、金属の分散を損なうことなく、白金およびパラジウムの酸化物を還元することによって、触媒を活性化しなければならない。
【0011】
現在は、そのような貴金属触媒を商用反応器に充填し、まず窒素中で触媒を乾燥させ、その後、貴金属を水素中で還元することが行われている。下記の表1に示すように、貴金属の分散を不良としないために、触媒は、還元の前に窒素などの不活性ガス中で完全に乾燥させなければならず、また、水素還元中は、水蒸気分圧を極めて低いレベルに維持しなければならない。一方、温度は、貴金属を十分に還元するために少なくとも150℃としなければならない。
【0012】
【表1】

【0013】
限られた適用では、貴金属をエクス−シチュで還元し、この還元された触媒を、直ちに過剰のオイル、ワックスまたは液体に浸漬し(不活性雰囲気中で)、貴金属を不動態化させることができる。しかしながら、過剰の液体に浸漬した触媒は非常に取り扱い難く、殆どのマルチベッド反応器で充填が不可能であるので、シングルベッド反応器にのみ有用である。
【0014】
実施例2:エクス−シチュ還元および不動態化
エクス−シチュ還元では、担持された貴金属酸化物をまず乾燥させ、ロータリーか焼器中で水素と不活性ガスの混合ガスの存在下に一段で還元する。表2に示すように、ロータリーか焼器でエクス−シチュ還元の後、窒素でシールした試料上への酸素の化学吸着結果は、触媒が、貴金属の凝集もなく、完全に還元されたことを示している。
【0015】
還元された触媒を窒素中で冷却し、その後、還元された触媒を室温でゆっくりと空気に曝露することによって、空気で不動態化した触媒を製造した。この工程では、酸素が触媒表面に吸着され、還元された貴金属の酸化を抑制する。表2に示す酸素の化学吸着量(0.01O/M)は、貴金属サイトが酸素で覆われていることを示している。更に、化学吸着実験は、また、酸化物のコーティングが非常に緩和な条件(>35℃水素中)で容易に除去でき、完全に還元され高分散した活性な貴金属サイトを露出させることができることを示している。
【0016】
オイル細孔充填不動態化触媒を、不活性ガス(N2)下、オイル細孔充填不動態化技術を用いて製造した。この場合、還元された触媒に医用グレードのホワイトオイルを添加し、細孔容積の約95%に充填した。オイルで不動態化した還元触媒試料は、酸素の化学吸着によって分析することはできなかった。
【0017】
【表2】

【0018】
実施例3:エクス−シチュで還元および乾式不動態化した触媒の評価
実施例2で得られた還元および不動態化された触媒試料をパイロットプラント反応器に充填し、各触媒の、水素化処理した600N脱ろうオイルの水素仕上げに対する性能評価を行った。脱ろうオイルは、予め水素化処理して、硫黄含有量を約200重量ppmにまで低減させた。
【0019】
エクス−シチュで還元および不動態化した3種類の貴金属触媒、約5ccを上昇流マイクロリアクターに充填した。これらの触媒には、(1)現行の過剰オイルへの浸漬、(2)周囲の空気への曝露または(3)鉱油による細孔充填によって、全てエクス−シチュで還元および不動態化した貴金属触媒が含まれた。リサイクル水素および処理ガスをスクラビングして使用する典型的な商用装置の起動を模擬して、2psiの水蒸気分圧を有する水素中で触媒を150℃に加熱した。その後、通油を開始し、操作条件を2LHSV、1000psig、および2,500scf/bblに調節した。反応器の温度を275℃に上げ、約7〜10日間一定に保った。水素の純度は100%であり、リサイクルガスは使用しなかった。
【0020】
比較のために、市販の触媒試料をイン−シチュで還元し、その後、同じ600N脱ろうオイルの水素仕上げに対する性能評価を行った。この場合、同一の手順で触媒を充填した後、窒素中260℃で乾燥し、室温にまで冷却し、約260℃で乾燥水素で還元し、その後、150℃にまで冷却した。この手順は、貴金属触媒の完全なイン−シチュ還元のための「最良のケース」である。その後、通油を開始し、操作条件を上記のように調節した。
【0021】
芳香族類、硫黄および窒素含有量で定義される製品の品質を、毎日モニターした。芳香族類はUV吸収(mmol/kg)により測定した。図1に稼働時間の関数として全芳香族類を示した。図示したように、全てのエクス−シチュ水素還元および不動態化触媒の初期芳香族飽和(アロサット)性能は、イン−シチュ還元触媒と同等かもしくは優れている。更に、空気またはオイルの細孔充填のいずれかにより、エクス−シチュで還元および乾式不動態化した試料は、ホワイトオイルへの浸漬により不動態化したエクス−シチュ還元試料よりも、良好な芳香族飽和性能を有していた。
【0022】
空気不動態化に対するドライオイルの有利性
下記の例は、実施例2の2つの乾式不動態化触媒、即ち、還元貴金属を保護するための空気およびオイル細孔充填により不動態化した触媒の、より厳しい開始条件下での性能を比較するものである。還元金属の不動態化に加えて、オイル細孔充填技術もまた、触媒の貯蔵中および取り扱い中の触媒による吸湿を最小限に抑え、従って、立ち上がり時の水の生成を減少させ、更に、金属のシンタリングのリスクを低減する。
【0023】
この方法の触媒評価のための原料として、水素化処理した脱ろうオイルを使用した。このオイルは脱ろうオイル(−18℃)であり、痕跡レベルの硫黄(4.7重量ppm)と約5.5重量%の芳香族類(124mmol/kg)を含有する。
【0024】
実施例4:酸化物触媒
酸化物触媒の湿性ガス処理は、空気およびオイル不動態化触媒が比較される基本のケースであった。酸化物の状態の貴金属触媒を、乾燥工程(140℃)、および、約2.2psiaの水蒸気分圧の湿性ガスを用いる還元工程(220℃)に供した。これまでの研究は、これらの還元条件では金属のシンタリングが生じ、性能の低い触媒が生成されることを示している。
【0025】
湿性ガス処理の終わりに向けて、装置条件の変動に伴い、乾燥水素に切り替える前に、触媒を3.5psiaに増大した水蒸気分圧に、150℃で約1時間供した。その後、装置圧力を徐々に2000psigの操作圧力にまで上昇させ、脱ろうオイルを導入した。その後、反応器温度を220℃の操作温度にまで上昇させた。
【0026】
更に、触媒性能を、乾燥し、そして乾性ガスを用いて従来のパイロットプラントの立ち上げで還元された酸化物触媒の性能と再度比較した。この触媒は、N中、150℃で乾燥させ、H中250℃で8時間還元したものである。
【0027】
予想されたように、湿性ガスによる酸化物触媒の処理では、乾式処理の触媒に比べて性能の低い触媒が得られた。酸化物を湿性ガスおよび乾性ガスで処理した触媒の性能を表3および図2にまとめる。
【0028】
【表3】

【0029】
実施例5:空気およびオイル細孔充填不動態化触媒
空気およびオイル細孔充填の還元および不動態化触媒の全てを湿性ガス処理に供した。2つの反応器に空気不動態化触媒を充填した。1つの触媒は2時間の乾燥工程(140℃)と、約1psiaの水蒸気分圧を有する湿性ガスで16時間の還元工程(140℃)に供した。第2の空気不動態化触媒は、乾燥工程を省略して、直接、湿性水素により140℃で16時間の還元を行った。
【0030】
別の2つの反応器に、オイル細孔充填不動態化触媒を押出物または粉砕物の形態で充填した。他方の触媒を処理している間、2つの反応器を乾燥窒素の静圧(200psig)条件下に維持した。乾燥水素ガスに切り替える前に、オイル細孔不動態化触媒を、140℃で約4時間、湿性水素(1psia)で処理した。
【0031】
結果
図3および図4は、湿性窒素および湿性水素で処理した場合に、空気不動態化触媒の性能がより低いことを示している。この触媒の活性が、乾燥し、そして乾性ガスで還元した触媒の活性に比べてかなり低いことは明らかである。
【0032】
湿性水素のみに供された空気不動態化触媒の水素化性能は、湿性窒素および湿性水素で処理された実施例4の酸化物触媒の水素化性能より、わずかに高いことがわかった。
【0033】
【表4】

【0034】
図4および表4は、オイル細孔充填不動態化触媒の性能が、乾性ガスを用いる従来のパイロットプラントの手順に従って乾燥し還元した、実施例4の酸化物触媒の性能と類似していることを示している。これらの結果は、深刻な金属シンタリングが起きておらず、活性金属が水素化反応に十分に使用されたことを示している。
【0035】
押出物と粉砕触媒の間に見られるわずかな性能差は、直径の小さい反応器では粉砕触媒を使用すると、充填がより良好に行われることの結果であるか、または、恐らく物質移動の制約の結果であろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】イン−シチュおよび実施例2のような本発明のエクス−シチュで還元したパラジウムおよび白金担持触媒の性能の比較を示す。
【図2】実施例4の触媒の性能を示す。
【図3】実施例4の空気不動態化触媒の性能を示す。
【図4】実施例5のオイル細孔充填触媒の性能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有する担持金属触媒を、エクス−シチュで還元および乾式不動態化する方法であって、
(a)前記触媒を還元する工程;および
(b)前記触媒の乾燥および易流動性が保持されるように、前記触媒を不動態化する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記還元工程は、水素の存在下に行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒を不動態化する前記工程は、不活性雰囲気中で冷却する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性雰囲気は、窒素であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒を不動態化する前記工程は、前記細孔を満たす工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細孔は、オイルで満たされることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記オイルは、ホワイトオイルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記オイルは、パラフィン系オイルであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記細孔は、低硫黄留出物で満たされることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記細孔は、空気で満たされることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記金属触媒は、貴金属触媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒は、MCM−41に担持されたパラジウムおよび白金であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒を不動態化する前記工程は、
不活性雰囲気中で冷却する工程;および
空気に曝露する工程
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−514420(P2008−514420A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534722(P2007−534722)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/034752
【国際公開番号】WO2006/039316
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】