説明

貼付剤及び貼付製剤

【課題】
本発明は、発汗時などの水分存在下で、発汗時などの水分存在下で、剥離時に皮膚への糊残りが発生すること、及び発汗時などの水分存在下で皮膚から剥がれることを抑制することができる貼付剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層は、下記(A)成分〜(D)成分が配合された配合物が架橋されて得られる貼付剤:
(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;
(B)塩基性基を含有する単量体を必須成分として共重合させた共重合体;
(C)液状成分;及び
(D)酸性化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤及び貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚を保護するなどの用途を有する貼付剤、及び薬物を皮膚面を通して生体内へ投与するなどの用途を有するハップ剤やテープ状製剤などの貼付製剤が種々開発されており、関連する技術は、例えば次の文献に記載されている。
【0003】
特表平10−504552号公報(特許文献1)には、(a)共重合された(メタ)アクリル酸を所定割合含む自己接着性ポリアクリレートコポリマーと、(b)塩基性アミノ基類を含むポリマーと、(c)可塑剤とを含む医療用感圧性接着剤を、ポリエステルシート上に塗布した貼付剤が開示されている。この文献には、この接着剤は、発汗などの水分の存在下でより強力な粘着性に変わる最小程度の粘着性を有するべきことが述べられている。
【0004】
しかし、この文献には、ビニルピロリドンが開示されておらず、さらにビニルピロリドンを、カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合させることは示唆すらされていない。
【0005】
特開2000−44904号公報(特許文献2)には、アクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、アクリル酸とを所定割合で共重合させた共重合体(A成分)と、メタクリル酸アミノアルキルエステル/メタクリル酸アルキルエステル共重合体(B成分)と、所定の液状成分(C成分)と、薬物とを配合し、架橋させた粘着剤層を有する貼付製剤が開示されている(実施例3)。そして、このような貼付製剤は、薬物溶解性と皮膚接着性のバランスが取れたものであったことが述べられている。
【0006】
しかし、この文献には、塩基性基を含有する単量体を有する特定の共重合体を、ビニルピロリドンを有する共重合体とは別個の共重合体として粘着剤層に含有させることは開示も示唆もされていない。
【0007】
また、上記いずれの文献にも、酸性化合物を粘着剤層に添加することは開示も示唆もされていない。さらに、上記いずれの文献にも、発汗時などの水分存在下で、剥離時に皮膚への糊残りが発生すること、及び発汗時などの水分存在下で皮膚から剥がれることを抑制する課題は見出されない。
【特許文献1】特表平10−504552号公報
【特許文献2】特開2000−44904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に鑑み本発明は、発汗時などの水分存在下で剥離時に皮膚への糊残りが発生すること、及び発汗時などの水分存在下で皮膚から剥がれることを抑制することができる貼付剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、発汗時などの水分の存在下での粘着剤層の凝集力を維持しつつ、発汗時などの水分存在下で皮膚から剥がれを抑制するためには、複数種の特定の共重合体が配合され架橋された粘着剤層であって、酸性化合物をも添加された粘着剤層が効果的であることを見出した。このような酸性化合物を粘着剤層に添加することで、粘着剤層の接着力にかかわらず、このような粘着剤層が発汗時などの水分存在下で、却って皮膚から剥がれ難くなることは、予測不可能なことである。
【0010】
かくして、本発明は:
[1]
支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤であって、
粘着剤層は、下記(A)成分〜(D)成分が配合された配合物が架橋されて得られる貼付剤:
(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;
(B)塩基性基を含有する単量体を必須成分として共重合させた共重合体;
(C)液状成分;及び
(D)酸性化合物;
[2]
粘着剤層は化学的架橋処理により架橋されている、[1]記載の貼付剤;
[3]
45重量部の(A)成分に対して、1〜20重量部の(B)成分が配合される、[1] または[2]記載の貼付剤;
[4]
塩基性基は、それぞれ置換されてもよいアミノ基、ピリジン基、及びイミダゾール基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、[1] 〜[3]いずれかの記載の貼付剤;
[5]
粘着剤層は、(B)成分中の塩基性基のモル数の0.2倍以上であるモル数のプロトンを提供する(D)成分を配合して得られる、[1] 〜[4]いずれかに記載の貼付剤;及び
[6]
[1]〜[5]いずれかに記載の貼付剤の粘着剤層は薬物を含む、貼付製剤;
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の貼付剤はその粘着剤層に、ビニルピロリドンを含む特定の共重合体と、塩基性基を含有する単量体を含む特定の共重合体と、酸性化合物とを併用することで、発汗時などの水分存在下での粘着剤層の凝集力を維持することができる。それによって、発汗時などに皮膚面から貼付剤を剥離する際にも、凝集破壊及び皮膚面へのいわゆる糊残りを抑制することができるだけでなく、発汗時などの水分存在下で皮膚から剥がれ難いという顕著な効果を奏する。
【0012】
さらに、本発明の貼付剤は、粘着剤層が効率的に架橋されることから、粘着剤層が液状成分を大量に保持可能であり、いわゆるゲル状の構造体が効率的に得られるので、皮膚貼付時には粘着剤層のソフト感に優れ、剥離時に皮膚刺激が発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いる支持体としては、粘着剤層を構成する共重合体や液状成分、含まれる場合の薬物などが支持体中を通って背面から失われて含有量の低下を起こさないものが好ましい。
【0014】
具体的にはポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、サーリン、金属箔などの単独フィルム又はこれらの積層フィルムなどを用いることができる。
【0015】
これらのうち支持体と後述する粘着剤層との間の接着力(投錨力)を良好とするために、支持体を上記材質からなる無孔のプラスチックフィルムと多孔質フィルムとの積層フィルムとすることが好ましい。この場合、粘着剤層は多孔質フィルム側に形成するようにすることが好ましい。
【0016】
このような多孔質フィルムとしては、粘着剤層との投錨力が向上するものが採用されるが、具体的には紙、織布、不織布、機械的に穿孔処理を施したシートなどが挙げられ、これらのうち取り扱い性などの点からは、特に紙、織布、不織布が好ましい。
【0017】
本発明の貼付剤において、上記支持体の少なくとも片面に形成される粘着剤層は、複数種の特定の共重合体(A)成分及び(B)成分と、液状成分(C)成分と、(D)酸性化合物とが配合された配合物が架橋されて得られる、適度な弾性を有する架橋構造体であり、所謂ゲル状の構造を有することができる。
【0018】
まず、上記(A)成分としての共重合体は、カルボキシル基を含有する単量体と、ビニルピロリドンと、(メタ)アクリル酸エステルを必須成分として共重合することによって得ることができる。(A)成分の共重合体は粘着剤層に主に、接着性や添加される液状成分との相溶性を向上させる成分として用いられる。
【0019】
上記(A)成分共重合体におけるカルボキシル基を含有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などが挙げられ、これらの単量体は一種で、又は二種以上配合して用いることができる。反応性、出来たテープの接着性の観点からアクリル酸が好ましい。これらの単量体の割合としては、粘着特性としての接着性や凝集性、粘着剤層中に薬物が含有される場合の薬物の放出性、粘着剤層を架橋処理する際の反応性などの点から、(A)成分の共重合体中、1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
【0020】
上記(A)成分共重合体におけるビニルピロリドンとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、メチルビニルピロリドンなどを用いることができ、これらは一種で、又は二種以上配合して用いることができる。なかでも反応性の観点からN−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。凝集力の観点から、これらの割合は、(A)成分の共重合体中、10〜30重量%が好ましく、19〜30重量%がより好ましい。
【0021】
上記(A)成分共重合体における(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、接着性などの点から、炭素数が4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、具体的にはアルキル基がブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシルなどの炭素数4〜13の直鎖アルキル基や分岐アルキル基などを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができ、これらは一種で、又は二種以上配合して用いることができる。
【0022】
常温での接着性の観点から、アルキル基がブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシルである(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、2−エチルヘキシルである(メタ)アクリル酸アルキルエステルがもっとも好ましい。接着性の観点から、これらの単量体の割合は(A)成分の共重合体中、好ましくは30〜89重量%、より好ましくは60〜80重量%の範囲となるように任意に設定することができる。
【0023】
なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは上記例示のものに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮するのであれば、アルキル基以外のエステル化物や、炭素数1〜3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや炭素数14以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを併用してもよいことは云うまでもない。
【0024】
本発明では、(B)成分の共重合体は、粘着剤層の接着性を向上させ、さらに粘着剤層に薬物を含有する場合には薬物の溶解性を向上させる成分として用いられる。上記(B)成分の共重合体は、塩基性基を含有する単量体を必須成分として共重合させて得ることが出来る。
【0025】
上記(B)成分共重合体における、塩基性基を含有する単量体としては、塩基性窒素原子を含有する基を含有する単量体が、反応性などの取り扱い性の点で好ましい。このような塩基性窒素原子を含有する基としては、置換されてもよいアミノ基(とりわけアルキルアミノ基)、ピリジン基、イミダゾール基などが挙げられ、塩基性窒素原子を含有する基を含有する単量体としては、それらを側鎖に有するアクリル系単量体もしくはビニル系単量体などが挙げられる。より具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレートなどの炭素数が1〜4のアルキル基を有するモノ又はジアルキルアミノ(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどが挙げられる。中でも、反応性などの取扱い性の観点から、塩基性基を含有する単量体としてはジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらの塩基性基を含有する単量体は、一種でもしくは二種以上で用いることができる。これらの単量体の割合は、(A)成分の共重合体との相溶性や粘着特性の維持などの点から、(B)成分の共重合体中、20〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0026】
また、上記(B)成分の共重合体は、粘着剤層の接着性を調節させるためには、(メタ)アクリル酸エステルを共重合させたものが好ましい。上記(B)成分の共重合体における、(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、接着性などの点から、炭素数が1以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることが好ましく、具体的にはアルキル基がメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの炭素数1〜10の直鎖アルキル基や分岐アルキル基などを有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができ、これらは一種で、または二種以上配合して用いることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルの割合(複数種用いる場合は総量として)は、(A)成分の共重合体との相溶性や接着性の調節などの点から、(B)成分の共重合体中、30〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。
【0027】
なお、上記(A)成分及び(B)成分の共重合体それぞれには、本発明における各成分の特性を変化させない範囲で必要に応じて他の共重合性単量体を任意の量で共重合することもできる。共重合反応は、自体公知の方法で行うことができ、例えば、上記の単量体を、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等)を添加して、溶媒(酢酸エチル等)中で、50〜70℃で5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0028】
上記(A)成分及び(B)成分の共重合体のうち、良好な貼付感や粘着剤層中に薬物が含有される場合の薬物の溶解性のバランスの点で、最も好ましく用いることができるものとしては、(A)成分として共重合体中、60〜80重量%のアクリル酸−2−エチルヘキシルエステルと、19〜30重量%のN−ビニル−2−ピロリドンと、1〜10重量%アクリル酸とを必須成分として共重合させた共重合体、(B)成分として、共重合体中、30〜60重量%のメタクリル酸ジメチルアミノエチルと、15〜40重量%、好ましくは20〜40重量%のメタクリル酸メチルと、15〜40重量%、好ましくは20〜40重量%のメタクリル酸ブチルとを必須成分として共重合させた共重合体などを用いることができる。
【0029】
(A)成分と(B)成分の合計重量の、粘着剤層の総重量に占める割合は、特に限定されないが、十分な接着性を粘着剤層に付与するためには、粘着剤層の総重量基準で30〜65重量%が好ましく、35〜60重量%がより好ましい。また、(A)成分と(B)成分の割合は特に限定されないが、(A)成分45重量部に対して、(B)成分を好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1.5〜12.5重量部配合する。本発明の貼付剤は、(B)成分が1重量部以上であれば、接着力が十分で、さらに薬物含有時に十分な薬物溶解度を有し、(B)成分が20重量部以下であれば、適度な接着力を保ちつつ、剥離時の皮膚刺激が抑えられる。
【0030】
本発明において上記(A)成分及び(B)成分と共に粘着剤層中に配合される(C)成分としての液状成分は、粘着剤層中に均一に溶解分散させるものであり、架橋された粘着剤層を可塑化させゲル状にして、これにソフト感を付与する。つまり、本発明ではこの(C)成分を配合し、架橋ゲル化させることによって、本発明のアクリル系粘着テープや経皮吸収製剤を皮膚面から剥離するときに、粘着力(皮膚接着力)に起因する痛みや皮膚刺激性を低減できるのである。さらに、粘着剤層が上記のように可塑化されるので、貼付製剤として薬物を含有する場合、薬物の自由拡散性が良好となるので、皮膚面上への放出性(皮膚移行性)も向上するようになる。
【0031】
このような(C)成分としては、上記(A)成分及び(B)成分と相溶性を有し、粘着剤層に対して可塑化作用を有する限り特に限定されないが、そのような相溶性の観点から有機液状成分が好ましく、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリンなどの油脂類、酢酸エチル、エチルアルコール、ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ドデシルピロリドン、イソソルビトールなどの有機溶媒、液状界面活性剤、ジイソプロピルアジペート、フタル酸エステル、ジエチルセバケート、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどの可塑剤、流動パラフィンなどの炭化水素類、エトキシ化ステアリルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリル酸エチル、N−メチルピロリドン、オレイン酸エチル、オレイン酸、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、1,3−ブタンジオールなどが挙げられ、これらのうち一種単独で又は二種以上を配合して用いることができる。
【0032】
上記(C)成分の液状成分のうち、好ましい有機液状成分としては、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(特には、モノ、ジ、又はトリグリセリド)、アセチルクエン酸トリブチルが挙げられる。
【0033】
これらの脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルは、粘着剤層を可塑化する作用を発揮するものであればよいが、前記アクリル系共重合体との相溶性を保ち、かつ貼付剤を調製する際の加熱工程での揮散を防ぐためには、後述の炭素数の脂肪酸からなるものが好ましい。
【0034】
また、前記脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルは、貼付剤の保存安定性を保つためには、分子内に二重結合を有さない脂肪酸からなるものが好ましい。さらに、後述の貼付製剤の場合、単位面積あたりの薬物の含有量が多いと製剤中で飽和溶解度以上の薬物が結晶することもある。したがって、添加する脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルは、薬物の結晶析出及び析出速度、並びに得られる製剤の外観及び保存安定性に悪影響を及ぼすことがないものが好ましい。
【0035】
よって、用いる脂肪酸エステルとしては、好ましくは炭素数が12〜16、より好ましくは12〜14の高級脂肪酸と炭素数が好ましくは1〜4の低級1価アルコールからなる脂肪酸エステルが好適に採用される。
【0036】
このような高級脂肪酸としては、好ましくはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)であり、特にミリスチン酸を用いることがよい。また、低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐アルコールであってもよい。好ましくはイソプロピルアルコールが用いられる。従って、最も好ましい脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピルである。
【0037】
一方、グリセリン脂肪酸エステルとしては炭素数が8〜10の高級脂肪酸とグリセリンからなるグリセリドが好ましい。このような高級脂肪酸としては、好ましくはカプリル酸(オクタン酸、C8)、ペラルゴン酸(ノナン酸、C9)、カプリン酸(デカン酸、C10)であり、特にカプリル酸を用いたカプリル酸モノグリセリドやジグリセリドやトリグリセリドである。
【0038】
これら(C)成分の割合は、上記(A)成分と(B)成分との合計量1重量部に対して、好ましくは0.5〜1.5重量部、より好ましくは0.7〜1.5重量部である。(C)成分の割合がこの範囲内であれば、実用的な皮膚接着性や低皮膚刺激性を得ることができ、また後述の貼付製剤においては、薬物の放出性(皮膚移行性)を確保する点でも充分である。
【0039】
本発明において上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分と共に粘着剤層中に配合する(D)成分としての酸性化合物は、粘着剤層中に均一に溶解分散させることで、発汗時などの水分存在下で、貼付剤を皮膚から剥がれ難くさせる作用を有する。このメカニズムは、必ずしも明らかではないが、(D)成分である酸性化合物が(B)成分中の塩基性基に起因する架橋構造をやや弱めることが、他の架橋構造を優先的とさせることと関連するものと推測される。
【0040】
このような(D)成分としては任意の酸性の有機又は無機化合物を用いることができ、特に限定されないが、安全性及び使用実績を考慮すると、薬学的に許容される酸性化合物が好ましく、具体的には例えば、有機酸、例えば酢酸、乳酸、安息香酸、サリチル酸,クエン酸,酒石酸、コハク酸,フマル酸,マレイン酸,メシル酸,プロピオン酸など、無機酸、例えば塩酸、硫酸,硝酸などが挙げられる。所望により、これらの酸性化合物は、上記(B)成分中の塩基性基を含有する単量体に付加した酸であってもよい。
【0041】
(D)成分の量は特に限定されないが、(B)成分中の塩基性基、好ましくは塩基性窒素原子を含有する基、例えばそれぞれ置換されてもよいアミノ基、ピリジン基、又はイミダゾール基のモル数の0.2倍以上、好ましくは0.2〜1.6倍、より好ましくは0.6〜1.4倍であるモル数のプロトンを提供する量の(D)成分を配合することが望ましい。本明細書では、(D)成分が無機化合物である場合、所定モル数のプロトンを提供する量とは、イオン結合された所定モル数のプロトンを、化学量論的に含有する量を意味する。(D)成分が有機化合物である場合、所定モル数のプロトンを提供する量とは、所定モル数のプロトン供与基を、化学量論的に含有する量を意味する。(D)成分の量が上記の範囲内であれば、発汗時などの水分存在下で貼付剤が皮膚から剥がれにくく、粘着剤層pHの低下及びそれに伴う皮膚刺激が抑えられる。
【0042】
本明細書にいう(B)成分中の塩基性基のモル数は下記計算式にて求める:
(B)成分中の塩基性基のモル数=(B)成分の量[g]×(塩基性基の(B)成分中の重量割合[重量%]/100)/塩基性基の化学式量。
【0043】
塩基性基が塩基性窒素原子を含有する基である場合、本明細書にいう塩基性基の(B)成分中の重量割合[重量%]は、日本薬局方の窒素定量法(セミミクロケルダール法)で測定された窒素の(B)成分中の重量割合[重量%]と、窒素の原子量に基づいて算出される。
【0044】
本発明では、(D)成分である酸性化合物について、1価の酸性物質、例えば塩酸の1モルは1モルのプロトンを提供し、2価の酸性物質、例えば酒石酸の1モルは、2モルのプロトンを提供するものとする。同様に、3価以上の酸性物質の1モルは、3モル以上のプロトンを提供するものとする。
【0045】
本発明の貼付剤における粘着剤層は、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を必須成分として配合されたものであるが、これらの各成分を溶解、混合させる場合には、相溶させる必要があるので、イソプロピルアルコールやメタノール、テトラヒドロフラン、アセトンなどの水にも油にも相溶する両親媒性の溶剤と、共重合体を溶解する酢酸エチルなどの疎水性溶剤を混合した溶媒にて混合するのが好ましい。
【0046】
本発明では、以上のように配合を行ったのち、好ましくは粘着剤層を架橋させて所謂ゲル状態とし、配合された液状成分の流出を抑制し、さらに凝集力を粘着剤層に付与する。
【0047】
架橋は、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋、化学的架橋などで施すことができる。粘着剤層成分に影響を少なくするためには、化学的架橋が好ましく、具体的にはポリイソシアネート化合物や有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物等の架橋剤を用いた化学的架橋などが用いられる。
【0048】
これらの架橋剤のうち、水分存在下での粘着剤層の凝集力を効果的に確保するためには、キレート化合物、とりわけアルミニウムキレート化合物が好適である。これらの架橋剤は、塗工、乾燥するまでは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れたものである。この場合の架橋剤の配合量は好ましくは、(A)成分の共重合体の合計重量100重量部に対して0.01〜2重量部程度である。
【0049】
本発明の貼付製剤は、使用時まで粘着剤層の粘着面を保護するため、該粘着面に剥離ライナーを積層するのが好ましい。剥離ライナーとしては、充分に軽い剥離性を確保できれば、特に限定されず、例えば粘着剤層と接触する面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって剥離処理が施された、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム、上質紙、グラシン紙等の紙、あるいは上質紙又はグラシン紙等とポリオレフィンとのラミネートフィルム等が挙げられる。該剥離ライナーの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは25〜100μmである。
【0050】
本発明の剥離ライナーとしては、バリアー性、価格の点からポリエステル(特に、ポリエチレンテレフタレート)樹脂からなるものが好ましい。さらに、この場合、取り扱い性の点から、25〜100μm程度の厚みのものがより好ましい。
【0051】
以上のような貼付剤において、その粘着剤層に薬物を含有させ、貼付製剤とすることができる。ここにいう薬物は特に限定されず、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。薬物は必要に応じて二種以上併用することもできる。
【0052】
これらの薬物の割合は、薬物種や投与目的に応じて適宜設定することができるが、治療や予防に有効な量の放出、経済性及び皮膚に対する接着性を考慮すると、好ましくは粘着剤層の総重量に基づき1〜40重量%程度の範囲で含有させる。
【0053】
本発明の貼付剤及び貼付製剤は、例えば次のようにして製造される:共重合体、液状成分、必要により薬物、架橋剤等の配合原料を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は分散液を支持体の少なくとも片面上に塗布し、乾燥して粘着剤層を支持体の表面上に形成させ、次いで剥離ライナーを設ける方法が挙げられる。あるいは、上記の溶液又は分散液を保護用の剥離ライナーの少なくとも片面上に塗布し、乾燥して粘着剤層を剥離ライナーの表面上に粘着剤層を形成させ、次いで支持体を粘着剤層に接着させることによって製造することができる。粘着剤層の架橋を促進するため熟成工程をさらに設けることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが本発明はこれらに限定されない。なお、以下の文中で部及び%とあるのは、全て重量部及び重量%を意味する。
(共重合体の用意)
(A)成分として、72%のアクリル酸2−エチルヘキシルエステルと、25%のN−ビニル−2−ピロリドンと、3%のアクリル酸とを、共重合させたアクリル系共重合体(a)を用意した。
(B)成分として、50%のメタクリル酸ジメチルアミノエチルと、25%のメタクリル酸メチルと、25%のメタクリル酸ブチルとを共重合させた共重合体を用意した。
【0055】
1.貼付剤
(実施例1)
固形分として45部の(A)成分としてのアクリル系共重合体(a)の溶液に、固形分として2部の上記(B)成分(平均分子量;150,000,塩基性窒素原子の重量割合;4.3%)の酢酸エチル溶液を加えた。そこに2部の(B)成分中の塩基性窒素のモル数の0.8倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.18部の塩酸を含有するメタノール性塩酸を加えた。そこに(C)成分としての52.84部のミリスチン酸イソプロピル(以下、「IPM」という)を加えた。そこに、架橋剤としてのエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートを加え、濃度調整用のイソプロパノール及び酢酸エチルを適量加えて、高速ミキサーにて攪拌して均一な粘着剤溶液を得た。なお、架橋剤は、アクリル系共重合体(a)の固形分100部に対して0.3部となるよう添加した。得られた粘着剤溶液を75μm厚のポリエステル製剥離シート上に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布、乾燥して架橋されたゲル状の粘着剤層を作製した。
2μm厚のポリエステルフィルムの片面に、8g/m2の目付量のポリエステル製不織布を接着積層してなる支持体の不織布面に、上記にて作製した粘着剤層を転写、積層し、これを60℃で48時間加温熟成して本発明の貼付剤を作製した。
【0056】
なお、2gの(B)成分中の塩基性基のモル数の0.8倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分としての塩酸の配合量は、下記式の計算の結果、0.18gと算出された。
(D)成分の配合量[g]={((B)成分の配合量[g]×((B)成分の配合量[g]×塩基性窒素の(B)成分中の重量割合[重量%]/100/窒素の原子量)×0.8×(D)成分の分子量=2×4.3/100×0.8×36.46=0.18[g]
したがって、2部の(B)成分に対して、0.18部の(D)成分を配合した。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、下記事項のほかは実施例1と同様にして実施例2の貼付剤を作製した:
2部の(B)成分の代わりに、5部の(B)成分を用いる;
5部の(B)成分中の塩基性基のモル数の0.8倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.45部の塩酸を用いる;
(B)成分及び(D)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(実施例3)
実施例1において、下記事項のほかは実施例1と同様にして実施例2の貼付剤を作製した:
2部の(B)成分の代わりに、10部の(B)成分を用いる;
10部の(B)成分中の塩基性基のモル数の0.8倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.90部の塩酸を用いる;
(B)成分及び(D)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(実施例4)
実施例2において、下記事項のほかは実施例2と同様にして実施例4の貼付剤を作製した:
(B)成分中の塩基性基のモル数の1.2倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.67部の塩酸を用いる;
(B)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(実施例5)
実施例2において、下記事項のほかは実施例2と同様にして実施例5の貼付剤を作製した:
(B)成分中の塩基性基のモル数の0.4倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.22部の塩酸を用いる;
(B)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(実施例6)
実施例2において、下記事項のほかは実施例2と同様にして実施例4の貼付剤を作製した:
(B)成分中の塩基性基のモル数の0.2倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として0.11部の塩酸を用いる;
(B)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(実施例7)
実施例2において、下記事項のほかは実施例2と同様にして実施例4の貼付剤を作製した:
(B)成分中の塩基性基のモル数の1.2倍であるモル数のプロトンを提供する(D)成分として1.10部の酢酸を用いる;
(B)成分の増加分だけ(C)成分を減ずる。
(比較例1〜3)
実施例1〜3において、(D)成分を配合せず、それぞれ実施例1〜3の(D)成分を同量の(C)成分に置き換えたほかはそれぞれ実施例1〜3と同様にして、比較例1〜3の貼付剤を作製した。
【0058】
(実験例)
<水分存在下での粘着剤層の凝集力>
ボランティア5名の上腕部内側にサンプルを貼付し、発汗又は入浴1〜2時間後に剥離してその際の糊残りを下記基準の3段階で評価し、その平均点を求めた。
基準:
1 糊残りがまったく認められない
2 わずかに糊残りが認められる
3 明らかに糊残りが認められる
糊残りの多いものが、水分存在下での粘着剤層の凝集力が低いものと評価された。
<発汗及び入浴時の剥がれ難さ>
ボランティア5名の上腕部内側にサンプルを貼付し、発汗又は入浴時のサンプルの剥がれやすさについて下記基準の3段階で評価し、その平均点を求めた。
基準:
1 力を加えないと剥がれない。
2 少しの力で剥がれる。
3 力を加えなくても剥がれる。
<接着力>
ベークライト板に幅24mmに裁断した帯状の各製剤サンプルを貼付し、荷重300gのローラを1往復させて密着させたのち、180度方向に300mm/分の速度で剥離して、接着力(剥離力)を測定した。
<ゲル分率>
各サンプルを10cm2に裁断して粘着剤層の重量(W1)[g]を測定した。次に、そのサンプルを100mlの酢酸エチルに24時間浸漬した後、酢酸エチルを交換した。この操作を3回繰り返し、溶剤可溶分を抽出した。その後サンプルを取出し、乾燥させた後の粘着剤層の重量(W2)[g]を測定し、下記式によってゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(W2×l00)/(W1×α/β)
ここで、α[g]=(A)成分重量[g]+架橋剤重量[g]
β[g]=(A)成分重量[g]+(B)成分重量[g]+(C)成分重量[g]+((D)成分重量[g])+架橋剤重量[g]+存在する場合の薬物の重量[g]
ゲル分率が高いものは粘着剤層が十分に架橋されたものと評価された。
結果を表1に示した。
【0059】

【表1】

表1から明らかなように、実施例の貼付剤は、いずれも水分存在下での粘着剤層の凝集力、接着力及びゲル分率は十分であった。また、実施例の貼付剤は、発汗又は入浴時の水分存在下で剥がれ難いものであった。これに対して、比較例の接着力は、実施例よりも高かったにもかかわらず、比較例の貼付剤は、発汗又は入浴時の水分存在下で実施例の貼付剤よりも剥がれ易いものであった。実施例1〜4は、発汗又は入浴時の水分存在下で、特に、皮膚から剥がれにくいものであった。
2.貼付製剤
実施例1〜6において、それぞれ44.10〜52.82部の(C)成分IPMのうちのそれぞれ1部を薬物インドメタシンに置き換えるほかは実施例1〜6と同様にして本発明の貼付製剤を作製する。本発明の貼付製剤は、本発明の貼付剤と同様に剥離時の糊残りが低減され、発汗及び入浴時でも十分な皮膚接着力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の貼付剤又は貼付製剤の一実施態様を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 支持体
2 粘着剤層
3 剥離ライナー
10 貼付剤又は貼付製剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも片面に粘着剤層を備える貼付剤であって、粘着剤層は、下記(A)成分〜(D)成分が配合された配合物が架橋されて得られる貼付剤:
(A)カルボキシル基を含有する単量体と、(メタ)アクリル酸エステルと、ビニルピロリドンとを必須成分として共重合させた共重合体;
(B)塩基性基を含有する単量体を必須成分として共重合させた共重合体;
(C)液状成分;及び
(D)酸性化合物。
【請求項2】
粘着剤層は化学的架橋処理により架橋されている、請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】
45重量部の(A)成分に対して、1〜20重量部の(B)成分が配合される、請求項1記載の貼付剤。
【請求項4】
塩基性基は、それぞれ置換されてもよいアミノ基、ピリジン基、及びイミダゾール基からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1記載の貼付剤。
【請求項5】
粘着剤層は、(B)成分中の塩基性基のモル数の0.2倍以上であるモル数のプロトンを提供する(D)成分を配合して得られる、請求項1記載の貼付剤。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の貼付剤の粘着剤層は薬物を含む、貼付製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24224(P2010−24224A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121731(P2009−121731)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】