説明

質量コード化コンビナトリアルライブラリーの製造方法

【課題】第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する方法を提供する。
【解決手段】質量コード化分子ライブラリーが、一般式X(Y)n(式中、Xはスキャホールドであり、Yはそれぞれ独立して、側部分であり、そしてnは1より大きい整数である)を有する化合物のセットを含む質量コード化コンビナトリアルライブラリーは、側部分前駆体セットから側部分前駆体サブセットを選択することを含む。該サブセットは、該側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが該サブセット中に存在するような充分に多数の側部分前駆体を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
ゲノム学は、すべてのヒト機能及び疾患の原因となる遺伝子を識別しつつある。ヒトゲノム中の80,000遺伝子について、ヒトの発生、発達、知性及び他の特性に関与する何千もの遺伝子が決定されている。ヒトは、何百種類もの遺伝病及び感染症に罹患するが、これらに関与する遺伝子も識別されている。これら遺伝子すべてによってコードされるタンパク質は、治療薬の標的である。しかしながら、ヒト機能及び疾患に適用されうる薬物は、ゲノム情報から簡単に明らかにはならないであろう。一つの疾患のための従来の薬物開発は、長期にわたり、単調かつ極めて費用のかかる作業である。ポストゲノム段階の薬物開発が直面する主な障害を除く技術は、実質的に有効であると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
発明の概要
本発明は、一般式X(Y)n(式中、Xはスキャホールドであり、Yはそれぞれ独立して、側部分であり、そしてnは1より大きい整数、典型的には、2〜約6である)を有する化合物の質量コード化セットを製造する方法を提供する。その方法は、側部分前駆体セットから側部分前駆体サブセットを選択することを含む。そのサブセットは、サブセット中の側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約50、100、250又は500の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の側部分前駆体を含む。その側部分前駆体のサブセットは、側部分前駆体のサブセットに由来するn個の側部分の可能なコンビネーションすべての少なくとも約90%が、n個の側部分の他のコンビネーションすべての分子質量合計と異なる分子質量合計を有するように選択される。その方法は、更に、その側部分前駆体サブセットを、n個の反応性基を有するスキャホールド前駆体と接触させることを含み、その反応性基はそれぞれ、少なくとも一つの側部分前駆体と反応して共有結合を形成することができる。その側部分前駆体サブセットは、側部分前駆体とそれぞれの反応性基の反応に充分な条件下でスキャホールド前駆体と接触して、一般式X(Y)nを有する化合物の質量コード化セットを生じる。
【0003】
もう一つの実施態様において、本発明は、生体分子、例えば、タンパク質又はDNA若しくはRNAのような核酸分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーの1種類又は複数のメンバーを識別する方法を提供する。その方法は、(1)生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させ、それによって、その生体分子のリガンドである該質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、その生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(2)その質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから生体分子−リガンド複合体を分離し;(3)その生体分子−リガンド複合体を解離させ;そして(4)それぞれのリガンドの分子質量を測定して、各リガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程を含む。
【0004】
もう一つの実施態様において、本発明は、生体分子のリガンドでありかつその生体分子を結合することが知られているリガンド(既知のリガンド)の結合部位でその生体分子に結合する質量コード化分子ライブラリーの1種類又は複数のメンバーを識別する方法を提供する。その方法は、(1)生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させ、その結果、その生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、その生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(2)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから生体分子−リガンド複合体を分離し;(3)その生体分子−リガンド複合体を、その生体分子に結合することが知られているリガンドと接触させて、生体分子−リガンド複合体を解離させ、ここにおいて、そのリガンドは、既知のリガンドの結合部位でその生体分子に結合し、それによって、生体分子−既知のリガンド複合体及び解離したリガンドを形成し;(4)その解離したリガンド及び生体分子−リガンド複合体を分離し;そして(5)それぞれの解離したリガンドの分子質量を測定して、それぞれの解離したリガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程を含む。
【0005】
尚もう一つの実施態様において、本発明は、第一生体分子のリガンドであるが、第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーの1種類又は複数のメンバーを識別する方法を提供する。その方法は、(1)第一生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させ、それによって、第一生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその第一生体分子に結合して、第一生体分子−リガンド複合体を形成し、第一生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(2)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第一生体分子−リガンド複合体を分離し;(3)その第一生体分子−リガンド複合体を解離させ;(4)第一生体分子のそれぞれの解離リガンドの分子質量を測定し;(5)第二生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させ、それによって、第二生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその第二生体分子に結合して、第二生体分子−リガンド複合体を形成し、第二生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(6)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第二生体分子−リガンド複合体を分離し;(7)その第二生体分子−リガンド複合体を解離させ;(8)第二生体分子のそれぞれの解離リガンドの分子質量を測定し;そして(9)工程(4)で測定される分子質量のどれが、工程(8)で測定されないかを確認する工程を含む。これは、第一生体分子のリガンドであるが、第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーの分子質量を提供する。
【0006】
もう一つの実施態様において、第一生体分子のリガンドであるが、第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーの1種類又は複数のメンバーを識別する方法は、(1)第二生体分子を該質量コード化分子ライブラリーと接触させ、その結果、その第二生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその第二生体分子に結合して、第二生体分子−リガンド複合体を形成し、第二生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(2)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第二生体分子−リガンド複合体を分離し;(3)第一生体分子を、工程(2)の質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーと接触させ、それによって、その第一生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその第一生体分子二結合して、第一生体分子−リガンド複合体を形成し、第一生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;(4)その第一生体分子−リガンド複合体を解離させ;そして(5)第一生体分子のそれぞれのリガンドの分子質量を測定する工程を含む。測定されるそれぞれの分子質量は、第二生体分子のリガンドではない第一生体分子のリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当する。
【0007】
尚もう一つの実施態様において、本発明は、生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別しかつそのリガンドの生体分子への結合の作用を評価する方法に関する。その方法は、生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させ、それによって、その生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーはその生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーは結合しないまま残り;質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから生体分子−リガンド複合体を分離し;その生体分子−リガンド複合体を解離させ;それぞれのリガンドの分子質量を測定して、各リガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程を含む。それぞれのリガンドの分子質量は、そのリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当し、それによって、生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別させる。その方法は、更に、リガンドの生体分子への結合の作用を、in vivo 又は in vitro 検定において生体分子の機能に関して評価することを含む。
【0008】
本発明の態様は以下の通りであってもよい。
(1)一般式X(Y)n(式中、Xはスキャホールドであり、nは2〜約6であり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物の質量コード化セットを製造する方法であって、以下の工程:
(a)側部分前駆体セットから、側部分前駆体サブセットを選択する工程であって、該サブセットが、該サブセットに由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の側部分前駆体を含み、このとき該サブセットに由来するn個の側部分の該コンビネーションの少なくとも約90%が、該サブセットに由来するn個の側部分の他のすべてのコンビネーションの分子質量合計と異なる分子質量合計を有するもの;そして
(b)該側部分前駆体サブセットをスキャホールド前駆体と接触させる工程であって、該スキャホールド前駆体がn個の反応性基を有し、このとき反応性基がそれぞれ、側部分前駆体とそれぞれの反応性基の反応に充分な条件下において、少なくとも一つの側部分前駆体と反応して共有結合を形成するもの、
を含み、それによって一般式X(Y)nを有する化合物の質量コード化セットを製造する、上記方法。
【0009】
(2)スキャホールド前駆体が、1個又はそれ以上の飽和、部分飽和、又は芳香族の環状基を含む、(1)に記載の方法。
(3)少なくとも一つの環状基が、1個又はそれ以上の反応性基で置換されている、(2)に記載の方法。
【0010】
(4)反応性基が、環状基に直接的に又は間にあるC1−6−アルキレン基を介して結合している、(3)に記載の方法。
(5)反応性基がそれぞれ独立して、反応性カルボニル基、反応性スルホニル基、反応性ホスホニル基、末端エポキシド基及びイソシアネート基から成る群より選択される、(4)に記載の方法。
【0011】
(6)反応性基が、カルボニルクロリド、カルボニルペンタフルオロフェニルエステル及びスルホニルクロリドから成る群より選択される、(5)に記載の方法。
(7)少なくとも一つの側部分前駆体が、第一アミノ基、第二アミノ基又はヒドロキシル基を含む、(5)に記載の方法。
【0012】
(8)反応性基がそれぞれ独立して、第一アミノ、第二アミノ及びヒドロキシル基から成る群より選択される、(4)に記載の方法。
(9)少なくとも一つの側部分前駆体が、反応性カルボニル基、反応性スルホニル基、反応性ホスホニル基、末端エポキシド基又はイソシアネート基を含む、(8)に記載の方法。
【0013】
(10)少なくとも一つの側部分前駆体が、カルボニルクロリド、カルボニルペンタフルオロフェニルエステル又はスルホニルクロリド基を含む、(9)に記載の方法。
(11)選択する工程が、以下の工程を含む、(1)に記載の方法:
(a)側部分前駆体セットから、二つの異なった側部分前駆体のあらゆるセットを選抜する工程であって、該選抜する工程が、2個セットそれぞれについて、該二つの側部分前駆体が等しい分子質量を有する場合、その二つの内の一方を除去して残りのセットを形成するような方法で行われるもの;
(b)残りのセットから、4個の側部分前駆体のあらゆるセットを選抜する工程であって、ある与えられた4個セットについて、与えられた4個セット中の第一の二つの前駆体の分子質量の合計が、与えられた4個の側部分前駆体セット中の第二の二つの前駆体の分子質量の合計と等しい場合、4個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜する工程が、残りセットを形成するもの;
(c)残りセットから、6個の異なった側部分前駆体のあらゆるセットを選抜する工程であって、ある与えられた6個セットについて、与えられた6個セット中の第一の3個の前駆体の分子質量の合計が、与えられた6個セット中の第二の3個の前駆体の分子質量の合計と等しい場合、6個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜する工程が、側部分前駆体の作業選択セットであってそこから望ましいサブセットを選択するためのものを形成するもの;そして
(d)作業選択セットから、望ましいサブセットを選抜する工程であって、以下により、選択されたサブセットを与えるもの:
(i)選択されたサブセットの候補を該作業選択セットから抜粋し、
(ii)抜粋されたサブセットの候補から、n個の側部分前駆体の可能なすべてのコンビネーションを生じさせ、そして
(iii)生じたコンビネーションが、許容しうる質量重複%を有するかどうかを確認し、そしてそのような場合、選抜されたサブセットの候補を選択されたサブセットとして選択すること。
【0014】
(12)選択する工程が、ディジタルプロセッサアセンブリーによって行われる、(11)に記載の方法。
(13)選択する工程が、スキャホールド前駆体と接触した場合に質量コード化化合物を同時に生じる側部分前駆体を含む側部分前駆体サブセットを選択することを含む、(1)に記載の方法。
【0015】
(14)選択する工程が、以下の工程を含む、(13)に記載の方法:
(a)側部分前駆体セットから、二つの異なった側部分前駆体のあらゆるセットを選抜する工程であって、該選抜する工程が、2個セットそれぞれについて、該二つの側部分前駆体が等しい分子質量を有する場合、その二つの内の一方を除去して残りのセットを形成するような方法で行われるもの;
(b)残りのセットから、4個の異なる側部分前駆体のセットを選抜する工程であって、ある与えられた4個セットについて、与えられた4個セット中の第一の二つの前駆体の分子質量の合計が、与えられた4個の側部分前駆体セット中の第二の二つの前駆体の分子質量の合計と等しい場合、4個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜する工程が、残りセットを形成するもの;
(c)残りセットから、6個の異なった側部分前駆体のあらゆるセットを選抜する工程であって、ある与えられた6個セットについて、与えられた6個セット中の第一の3個の前駆体の分子質量の合計が、与えられた6個セット中の第二の3個の前駆体の分子質量の合計と等しい場合、6個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜する工程が、側部分前駆体の作業選択セットであってそこから望ましいサブセットを選択するためのものを形成するもの;そして
(d)作業選択セットから、望ましいサブセットを選抜する工程であって、以下により、選択されたサブセットを与えるもの:
(i)選択されたサブセットの候補を該作業選択セットから抜粋し、
(ii)抜粋されたサブセットの候補から、n個の側部分前駆体の可能なすべてのコンビネーションを生じさせ、そして
(iii)生じたコンビネーションが、許容しうる質量重複%を有するかどうかを確認し、そしてそのような場合、選抜されたサブセットの候補を選択されたサブセットとして選択すること。
【0016】
(15)選択する工程が、ディジタルプロセッサアセンブリーによって行われる、(14)に記載の方法。
(16)生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(式中、nは2〜約6の整数であり、Xはスキャホールドであり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化コンビナトリアルライブラリーが、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、上記方法が以下の工程:
(a)生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから、生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)生体分子−リガンド複合体を解離する工程;そして
(d)それぞれのリガンドの分子質量を測定し、それぞれのリガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程であって、このときそれぞれのリガンドの分子質量が、そのリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当するもの
を含み、それによって生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する、上記方法。
【0017】
(17)生体分子が固体支持体上に固定されている、(16)に記載の方法。
(18)固体支持体が、クロマトグラフィーカラム中に包含される水不溶性マトリックスである、(17)に記載の方法。
【0018】
(19)生体分子を含む溶液を質量コード化分子ライブラリーと接触させて、質量コード化分子ライブラリーの一つ又は複数のメンバーが該生体分子のリガンドであれば、生体分子−リガンド複合体及び該質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液を形成する、(16)に記載の方法。
【0019】
(20)生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液を、サイズ排除クロマトグラフィーカラムを通し、それによって質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを生体分子−リガンド複合体後にカラムから溶離することにより、質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを生体分子−リガンド複合体から分離する、(19)に記載の方法。
【0020】
(21)生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液をサイズ排除膜と接触させ、それによって非結合化合物が該膜を通過し、生体分子−リガンド複合体が該膜を通過しないことにより、質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを生体分子−リガンド複合体から分離する、(19)に記載の方法。
【0021】
(22)生体分子がタンパク質又は核酸分子である、(16)に記載の方法。
(23)生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別し、そして該リガンドの該生体分子への結合の作用を評価する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(式中nは2〜約6の整数であり、Xはスキャホールドであり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化コンビナトリアルライブラリーが、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、以下の工程を含む、前記方法:
(a)生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから、生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)該生体分子−リガンド複合体を解離する工程;
(d)それぞれのリガンドの分子質量を測定し、それぞれのリガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程であって、このときそれぞれのリガンドの分子質量が、そのリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当し、それによって生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別するもの;そして
(e)該リガンドの該生体分子への結合の作用を、in vitro検定において該生体分子の機能に関して評価する工程。
【0022】
(24)in vitro検定が、細胞増殖検定、細胞死検定又はウイルス複製検定である、(23)に記載の方法。
(25)生体分子がタンパク質又は核酸分子である、(23)に記載の方法。
【0023】
(26)生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別し、そして該リガンドの該生体分子への結合の作用を評価する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(式中nは2〜約6の整数であり、Xはスキャホールドであり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化コンビナトリアルライブラリーが、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、以下の工程を含む、前記方法:
(a)生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから、生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)該生体分子−リガンド複合体を解離する工程;
(d)それぞれのリガンドの分子質量を測定し、それぞれのリガンド中に存在するn個の側部分のセットを識別する工程であって、このときそれぞれのリガンドの分子質量が、そのリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当し、それによって生体分子のリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別するもの;そして
(e)該リガンドの該生体分子への結合の作用を、in vitro検定において該生体分子の機能に関して評価する工程。
【0024】
(27)生体分子の機能に関するリガンドの該生体分子への結合の作用が、動物モデル、生物又はヒトで評価される、(26)に記載の方法。
(28)生体分子がタンパク質又は核酸分子である(26)に記載の方法。
【0025】
(29)生体分子のリガンドであり、かつ生体分子の既知の第二のリガンドの結合部位で該生体分子に結合する質量コード化分子ライブラリーのメンバーを識別する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(式中、nは2〜約6の整数であり、Xはスキャホールドであり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化分子ライブラリーは、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、上記方法が以下の工程:
(a)生体分子を該質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが生体分子に結合して生体分子−リガンド複合体を形成し、生体分子のリガンドでない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから、生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)生体分子−リガンド複合体を第二のリガンドと接触させる工程であって、生体分子−リガンド複合体を解離させ、このとき該リガンドが、第二のリガンドの結合部位で該生体分子に結合し、それによって生体分子−第二リガンド複合体及び解離したリガンドを形成するもの;
(d)解離したリガンド及び生体分子−リガンド複合体を分離する工程;そして
(e)それぞれの解離したリガンドの分子質量を測定する工程であって、
このときそれぞれの解離したリガンドの分子質量が、そのリガンド中に存在する側部分のセットに相当するもの、
を含み、それによって生体分子のリガンドであり、かつ生体分子の既知の第二のリガンドの結合部位で生体分子に結合する質量コード化分子ライブラリーのメンバーを識別する、上記方法。
【0026】
(30)第二リガンドが、ポリペプチド、核酸分子又は補助因子である、(29)に記載の方法。
(31)生体分子が固体支持体上に固定されている、(29)に記載の方法。
【0027】
(32)固体支持体が、クロマトグラフィーカラム中に包含される水不溶性マトリックスである、(31)に記載の方法。
(33)生体分子がタンパク質又は核酸分子である、(29)に記載の方法。
【0028】
(34)第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(nは2〜約6の整数であり、Xはスキャホールドであり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化コンビナトリアルライブラリーが、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、上記方法が以下の工程:
(a)第一生体分子を該質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって第一生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第一生体分子に結合して、第一生体分子−リガンド複合体を形成し、第一生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第一生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)第一生体分子−リガンド複合体を解離させる工程;
(d)第一生体分子のそれぞれのリガンドの分子質量を測定する工程;
(e)第二生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって第二生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第二生体分子に結合して、第二生体分子−リガンド複合体を形成し、第二生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(f)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第二生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(g)第二生体分子−リガンド複合体を解離させる工程;
(h)第二生体分子のそれぞれのリガンドの分子質量を測定する工程;そして
(i)工程(d)で測定される1種類又は複数の分子質量のどれが、工程(h)で測定されないかを確認する工程であって、それによって第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーの分子質量を提供し、
このとき工程(i)で測定されるそれぞれの分子質量が、該第二生体分子のリガンドではない該第一生体分子のリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当するもの
を含み、それによって第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する、上記方法。
【0029】
(35)第一及び第二生体分子が、それぞれ独立して、タンパク質又は核酸分子である、(34)に記載の方法。
(36)第一及び第二生体分子がそれぞれタンパク質であり、第二生体分子のアミノ酸配列が、1個又はそれ以上のアミノ酸残基の挿入、欠失又は置換によって第一生体分子から誘導される、(35)に記載の方法。
【0030】
(37)第一生体分子が第一タンパク質であり、第二生体分子が第二タンパク質であり、該第一及び第二タンパク質が同一アミノ酸配列を有し、このとき該第一及び第二タンパク質が異なった翻訳後修飾を有する、(35)に記載の方法。
【0031】
(38)リン酸化、グリコシル化又はユビキチン化の程度において、第一タンパク質が第二タンパク質とは異なる、(35)に記載の方法。
(39)第二生体分子が、リガンドと第一生体分子の複合体である、(35)に記載の方法。
【0032】
(40)第一及び第二生体分子が、それぞれ固体支持体上に固定されている、(35)に記載の方法。
(41)固体支持体が、クロマトグラフィーカラム中に包含される水不溶性マトリックスである、(40)に記載の方法。
【0033】
(42)第一生体分子を含む溶液を質量コード化分子ライブラリーと接触させて、第一生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液を形成し、第二生体分子を含む溶液を質量コード化分子ライブラリーと接触させて、第二生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液を形成する、(35)に記載の方法。
【0034】
(43)第二生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液を、サイズ排除クロマトグラフィーカラムを通し、それによって該カラムから第二生体分子−リガンド複合体の後に質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを溶離することにより、質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを第二生体分子−リガンド複合体から分離する、(42)に記載の方法。
【0035】
(44)第二生体分子−リガンド複合体及び質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを含む溶液をサイズ排除膜と接触させ、それによって非結合化合物が該膜を通過し、第二生体分子−リガンド複合体が該膜を通過しないことにより、質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーを第二生体分子−リガンド複合体から分離する、(42)に記載の方法。
【0036】
(45)第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(nが2〜約6の整数であり、Xがスキャホールドであり、そしてYがそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、このとき該質量コード化コンビナトリアルライブラリーが、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体とスキャホールド前駆体を反応させることによって生じ、上記方法が以下の工程:
(a)第二生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって第二生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第二生体分子に結合して、第二生体分子−リガンド複合体を形成し、第二生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(b)質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから第二生体分子−リガンド複合体を分離する工程;
(c)第一生体分子を、工程(b)の質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーと接触させる工程であって、それによって第一生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第一生体分子に結合して、第一生体分子−リガンド複合体を形成し、第一生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残るもの;
(d)第一生体分子−リガンド複合体を解離させる工程;
(e)第一生体分子のそれぞれのリガンドの分子質量を測定する工程であって
このとき工程(e)で測定されるそれぞれの分子質量が、第二生体分子のリガンドではない第一生体分子のリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当しするもの
を含み、それによって第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する、上記方法。
【0037】
(46)第一及び第二生体分子が、それぞれ独立して、タンパク質又は核酸分子である、(45)に記載の方法。
(47)第二生体分子が固体支持体上に固定されている、(45)に記載の方法。
【0038】
(48)固体支持体が、クロマトグラフィーカラム中に包含される水不溶性マトリックスである、(47)に記載の方法。
(49)一般式X(Y)n(式中、Xはスキャホールドであり、nは2〜約6であり、そしてYはそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物の質量コード化セットを製造する装置であって、側部分前駆体セットから側部分前駆体サブセットを選択するためのディジタルプロセッサアセンブリーを含み、該サブセットが、該サブセットに由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の側部分前駆体を含み、このとき該サブセットに由来するn個の側部分の該コンビネーションの少なくとも約90%が、該サブセットに由来するn個の側部分の他のすべてのコンビネーションの分子質量合計と異なる分子質量合計を有する、上記装置。
【0039】
(50)ディジタルプロセッサアセンブリーが、ディジタルプロセッサによって行われるルーチンを用いて以下を行う、(49)に記載の装置:
(a)側部分前駆体セットからの、二つの異なった側部分前駆体のあらゆるセットの選抜であって、該選抜が、2個セットそれぞれについて、該二つの側部分前駆体が等しい分子質量を有する場合、その二つの内の一方を除去して残りのセットを形成するような方法で行われるもの;
(b)残りのセットからの、4個の側部分前駆体のあらゆるセットの選抜であって、ある与えられた4個セットについて、与えられた4個セット中の第一の二つの前駆体の分子質量の合計が、与えられた4個の側部分前駆体セット中の第二の二つの前駆体の分子質量の合計と等しい場合、4個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜が、残りセットを形成するもの;
(c)残りセットからの、6個の異なった側部分前駆体のあらゆるセットの選抜であって、ある与えられた6個セットについて、与えられた6個セット中の第一の3個の前駆体の分子質量の合計が、与えられた6個セット中の第二の3個の前駆体の分子質量の合計と等しい場合、6個の側部分前駆体の一つを除去することを含み、該選抜が、側部分前駆体の作業選択セットであってそこから望ましいサブセットを選択するためのものを形成するもの;そして
(d)作業選択セットからの、望ましいサブセットの選抜であって、以下により、選択されたサブセットを与えるもの:
(i)選択されたサブセットの候補を該作業選択セットから抜粋し、
(ii)抜粋されたサブセットの候補から、n個の側部分前駆体の可能なすべてのコンビネーションを生じさせ、そして
(iii)生じたコンビネーションが、許容しうる質量重複%を有するかどうかを確認し、そしてそのような場合、選抜されたサブセットの候補を選択されたサブセットとして選択すること。
【発明の効果】
【0040】
本発明の方法は、多数の化合物を含む質量コード化コンビナトリアルライブラリーの迅速な製造を可能にする。その質量コード化は、スキャホールド及び側部分の個々のコンビネーションの分子質量による識別を可能にする。本発明の方法によって製造されたライブラリーは、ある与えられた生体分子のリガンドである化合物の迅速な識別も可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】図1A及び1Bは、質量コード化コンビナトリアルライブラリーの製造のためのより大きい側部分前駆体セットの中から側部分前駆体のサブセットを選択する手順及び変法を示すフローチャートである。
【図1B】図1A及び1Bは、質量コード化コンビナトリアルライブラリーの製造のためのより大きい側部分前駆体セットの中から側部分前駆体のサブセットを選択する手順及び変法を示すフローチャートである。
【図2A】図2Aは、質量コード化手法を用いて選択される側部分前駆体のコンピュータ選択セットから得られるコンビナトリアルライブラリーの質量重複を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、無作為に選択される側部分前駆体セットから得られるコンビナトリアルライブラリーの質量重複を示すグラフである。
【図2C】図2Cは、(1)質量コード化手法を用いて選択される側部分前駆体のコンピュータ最適化セット(...)及び(2)無作為に選択される側部分前駆体セット(−)から得られるコンビナトリアルライブラリーの質量重複を示すグラフを示す。
【図3】図3は、ライブラリーにおける質量重複を最小限にする又は除く側部分前駆体のサブセットを選択する本発明の方法を具体的に示すディジタルプロセッサアセンブリーを用いるコンピュータシステムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
発明の詳細な説明
薬物開発における主な障害には、(1)ほぼ無制限に多数の化合物の迅速な製造を可能にすると同時に、タンパク質又は核酸分子のような具体的な生体分子標的に強固に結合する単一の化合物を効率よく識別する能力を包含するコンビナトリアルケミストリー技術;(2)標的生体分子の機能が充分に理解されていない場合でも、その標的生体分子と強固に結合するようになる化合物の大ライブラリー混合物中での迅速な識別を可能にする極めて有効な標的に基づくスクリーニング技術、及び(3)化学成分が、医学的に重要な生体分子とどのように相互作用するかを記載している情報データセットへの要求が含まれる。
【0043】
本発明は、質量コード化コンビナトリアルライブラリーのような、化合物の質量コード化セットを製造する方法を提供する。それら化合物は、一般式X(Y)n(式中、Xはスキャホールドであり、Yはそれぞれ独立して、側部分であり、そしてnは1より大きい整数、典型的には、2〜約6である)を有する。本明細書中で用いられる“スキャホールド”という用語は、2個又はそれ以上の側部分を共有結合によって結合している分子フラグメントを意味する。そのスキャホールドは、化合物の質量コード化セットのそれぞれのメンバーに共通の分子フラグメントである。本明細書中で用いられる“側部分(peripheral moiety)”という用語は、スキャホールドに結合している分子フラグメントを意味する。質量コード化化合物のセットのメンバーそれぞれには、スキャホールドに結合したn個の側部分のコンビネーションが含まれるであろうが、この化合物セットは、質量コード化コンビナトリアルライブラリーを形成している。
【0044】
本明細書中で用いられる“コンビネーション”という用語は、mが2より大きい整数であり、nが1より大きい整数であり、そしてmがnより大きい又はnと等しい場合に、n個のメンバーを有するm種類の部分の順列(permutation)すべてを意味し、次のようである。
(1)所定の部分が0〜n回存在するn個のメンバーを有する順列が含まれる。
(2)同一のn個の部分を有するが、順番の異なった順列が1回かつ1回だけ含まれる。
【0045】
n個のメンバーを有するm種類の部分のすべての順列のコンビネーション数は、次の式から計算することができる。
コンビネーション=k!/((k−n)!*n!) ただし、k=m+(n-1)
例えば、3個のメンバーを有する、A、B、C、Dで標識された4種類の部分のコンビネーションは、AAA;AAB;AAC;AAD;ABB;ABC;ABD;ACC;ACD;ADD;BBB;BBC;BBD;BCC;BCD;BDD;CCC;CCD;CDD及びDDDである。BAA及びABAは、例えば、別々のコンビネーションとして計数されることはなく;AABのみを計数する。この実施例において、m=4、n=3及びコンビネーションの数は、
6!/((6−3)!*3!)=20
によって与えられる。
【0046】
本明細書中で用いられる“化合物の質量コード化(mass-coded)セット”及び“質量コード化コンビネーションライブラリー”という用語は、Xがスキャホールドであり、Yがそれぞれ独立して、側部分であり、そしてnが1より大きい整数、典型的には、2〜約6である式XYnを有する化合物のセットを意味する。このような化合物セットは、利用可能な側部分前駆体のセットから固定数の側部分前駆体(サブセット)を選択しなければならないという要件があるなら、スキャホールドと側部分前駆体セットのコンビネーションによって混合物として合成され、かつ最小限の質量重複を有するように設計される。
【0047】
本明細書中で用いられる“質量”又は“分子質量”という用語は、分子又は化学部分の集合の正確な質量を意味し、この中のそれぞれの原子は、その特定の要素にとって最も豊富に天然に存在する同位体である。正確な質量及びそれらの質量分析法による測定は、Pretsch ら,Tables of Spectral Data for Structure Determination of Organic Compounds, 第2版,Springer-Verlag (1989) 及び Holden ら,Pure Apple.Chem. 55:1119-1136(1983) によって論じられており、それぞれの内容は本明細書中にそのまま援用される。
【0048】
本明細書中で用いられる用語としての“最小限の質量重複(minimum mass redundancy)”は、n個の反応性基(nは1より大きい整数、典型的には、2〜約6である)を有するスキャホールド前駆体と、側部分前駆体サブセットとの反応によって形成される式X(Y)nの化合物のセットによって表され、このとき側部分前駆体のサブセットに由来するn個の側部分の可能なコンビネーションの少なくとも約90%が、そのサブセットに由来するn個の側部分の他のいかなるコンビネーションの分子質量合計とも異なる分子質量合計を有する。側部分の一のコンビネーションの分子質量合計は、そのコンビネーション中のそれぞれの側部分の質量の合計である。この目的に関して、二つの分子質量は、それらが質量分析法又は高分解能質量分析法によって区別されうる場合に異なる。例えば、少なくとも0.001原子質量単位だけ異なる分子質量は、高分解能質量分析法によって区別することができる。
【0049】
式X(Y)nを有する特定の化合物中のn個の側部分のコンビネーションの分子質量合計は、その化合物の分子質量にn個の側部分が集合的に寄与していることであると理解されるはずである。セット中のそれぞれの化合物は一定のスキャホールドを含んでいるので、化合物の質量コード化セット中の二つの化合物の分子質量の差は、それぞれの化合物中の側部分のセットの分子質量合計の差である。
【0050】
本発明の方法は、より大きい側部分前駆体セットから側部分前駆体サブセットを選択することを含む。好ましい選択方法の詳細は、図1A、1B及び図3を参照して後に論じられる。そのサブセットは、一つの実施態様において、そのサブセット中の側部分全体に由来するn個の側部分の少なくとも約50の異なったコンビネーションが形成されうるような充分に多数の側部分前駆体を含む。もう一つの実施態様では、n個の側部分の少なくとも約100の異なったコンビネーションが形成されうる。更にもう一つの実施態様では、n個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが形成されうるし、なおもう一つの実施態様では、n個の側部分の少なくとも約500の異なったコンビネーションが形成されうる。
【0051】
側部分前駆体のサブセットは、そのサブセットに由来するn個の側部分のすべての可能なコンビネーションの少なくとも約90%が、n個の側部分の他のコンビネーションのすべての分子質量合計と異なる分子質量合計を有するように選択される。その方法は、更に、その側部分前駆体サブセットを、n個の反応性基を有するスキャホールド前駆体と接触させることを含み、その反応性基はそれぞれ、少なくとも一つの側部分前駆体と反応して共有結合を形成することができる。その側部分前駆体サブセットを、側部分前駆体とそれぞれの反応性基の反応に充分な条件下でそのスキャホールド前駆体と接触させて、化合物の質量コード化セットを生じる。
【0052】
一つの実施態様において、側部分前駆体サブセットに由来するn個の側部分のすべての可能なコンビネーションの少なくとも約90%は、n個の側部分の他のコンビネーションのすべての分子質量合計と異なる分子質量合計を有する。もう一つの実施態様において、そのサブセットに由来するn個の側部分の可能なコンビネーションはそれぞれ、n個の側部分の他のコンビネーションのすべての分子質量合計と異なる分子質量合計を有する。
【0053】
スキャホールド前駆体は、側部分前駆体反応性基と反応して共有結合を形成することができる2個又はそれ以上の反応性基を含む任意の分子でありうる。例えば、適当なスキャホールド前駆体は、広範囲の寸法、形状、柔軟度及び電荷を有することができる。それら反応性基は、用いられる条件下で分子内反応する可能性があってはならない。更に、スキャホールド前駆体分子は、用いられる条件下で別のスキャホールド前駆体分子と反応してはならない。スキャホールド前駆体は、隠されているすなわち保護されている、又は側部分前駆体とそれら反応性基の反応を妨げない任意の追加の官能基を含むこともできる。
【0054】
好ましくは、スキャホールド前駆体は、環状炭化水素又は複素環式基のような1個又はそれ以上の飽和、部分飽和、又は芳香族の環状基を含む。1個又はそれ以上の環状基を含むスキャホールド前駆体において、それら環状基は、縮合している、直接結合によって連結している、又は酸素原子、NH基又はC1−6−アルキレン基のような介在基によって連結していることがありうる。少なくとも一つの環状基は、1個又はそれ以上の反応性基で置換されている。それら反応性基は、環状基に直接的に、又はC1−6−アルキレン基、好ましくは、メチレン基のような介在基によって結合していることがありうる。
【0055】
適当なスキャホールド前駆体の例には、反応性基で置換されたベンゼン、ビフェニル、シクロヘキサン、ビピリジル、N−フェニルピロール、ジフェニルエーテル、ナフタレン及びベンゾフェノンが含まれる。他の適当な種類のスキャホールド前駆体を以下に示す。
【0056】
【化1】

【0057】
これらの例において、表示の置換基Rは、それぞれ独立して、反応性基であり、スキャホールド前駆体には、(1)側部分前駆体とそれらの反応を防止するように隠されているすなわち保護されている(例えば、上のスキャホールド前駆体f及びg)か又は(2)所定の反応条件下でRとも側部分前駆体とも反応しない(例えば、R=C(O)O(C6F5)及び側部分前駆体が第一アミノ基を含む上のスキャホールド前駆体h)1個又はそれ以上の追加の官能基が含まれうる。
【0058】
側部分前駆体は、スキャホールド前駆体の反応性基の一つ又はそれ以上に相補的である反応性基を含む化合物である。その反応性基に加えて、側部分前駆体には、広範囲の構造特性が含まれうる。例えば、側部分前駆体は、反応性基の他に1個又はそれ以上の官能基を含むことができる。追加の官能基はいずれも、適当に隠されていなければならないし、又はスキャホールド前駆体と側部分前駆体との間の反応を妨げてはならない。更に、二つの側部分前駆体は、用いられる条件下で互いに反応してはならない。例えば、側部分前駆体のサブセットは、反応性基の他に、一定範囲にわたる電荷、疎水性/親水性及び寸法の基より選択される官能基を含むことができる。例えば、側部分前駆体は、陰電荷、陽電荷、親水基又は疎水基を含むことができる。
【0059】
反応性基に加えて、側部分前駆体は、例えば、アミノ酸側鎖、ヌクレオチド塩基又はヌクレオチド塩基類似体、糖部分、スルホンアミド、模擬ペプチド基、帯電した又は極性のある官能基、アルキル基及びアリール基を含むことができる。
【0060】
本目的に関して、二つの反応性基は、それらが互いに反応して共有結合を形成しうるならば相補的である。好ましい実施態様において、その結合形成反応は、副生成物の形成をほとんど伴うことなく、周囲条件下で速やかに起こる。好ましくは、ある与えられた反応性基は、ある与えられた相補的反応性基と正確に1回反応するであろう。
【0061】
一つの実施態様において、スキャホールド前駆体の反応性基及び側部分前駆体の反応性基は、例えば、求核置換によって反応して共有結合を形成する。一つの実施態様において、スキャホールド前駆体の反応性基は求電子基であり、側部分前駆体の反応性基は求核基である。もう一つの実施態様において、スキャホールド前駆体の反応性基は求核基であるが、側部分前駆体の反応性基は求電子基である。
【0062】
相補的な求電子基及び求核基には、共有結合を形成するのに適した条件下において求核置換によって反応するいずれか2種類の基が含まれる。種々の適当な結合形成反応が当該技術分野において知られている。例えば、本明細書中にそれぞれそのまま援用されている、March, Advanced Organic Chemistry, 第4版,New York: John Wiley and Sons (1992), 10-16章;Carey 及び Sundberg, Advanced Organic Chemistry, Part B, Plenum (1990), 1-11章;及び Collman ら,Principles and Applications of Organotransition Metal Chemistry, University Science Books, ミルバリー,CA(1987),13-20章を参照されたい。適当な求電子基の例には、カルボニルクロリド(アシルクロリド)基及びカルボニルペンタフルオロフェニルエステル基のような反応性カルボニル基、スルホニルクロリド基のような反応性スルホニル基、及び反応性ホスホニル基が含まれる。用いることができる他の求電子基には、末端エポキシド基及びイソシアネート基が含まれる。適当な求核基には、第一及び第二アミノ基及びアルコール(ヒドロキシル)基が含まれる。
【0063】
明記された反応性基を含む適当なスキャホールド前駆体の例を以下に示す。
【0064】
【化2】

【0065】
これらの例において、Rは、それぞれ独立して、明記された反応性基と同じでありうる又は異なった基でありうる追加の反応性基である。
以下に示されるのは、アミノ基を有する適当な側部分前駆体の例である。
【0066】
【化3】

【0067】
この場合、Rはアミノ酸側鎖であり、tBocはtブトキシカルボニルであり、Acはアセチルであり、tBuは第三ブチルである。
相補的な反応性基を有するスキャホールド前駆体及び側部分前駆体の例には、次が含まれるが、それらは例示の目的で与えられており、いずれにせよ、制限するものとして解釈されるべきではない。
【0068】
1. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の反応性カルボニル基、反応性スルホニル基又は反応性ホスホニル基、又はそれらのコンビネーションが含まれる。それぞれの側部分前駆体には、そのスキャホールド前駆体と反応してアミド結合、スルホンアミド結合又はホスホンアミド結合を形成する第一又は第二アミノ基が含まれる。
【0069】
2. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の第一又は第二アミノ基又はそれらのコンビネーションが含まれる。それぞれの側部分前駆体には、反応性カルボニル基、反応性スルホニル基又は反応性ホスホニル基が含まれる。
【0070】
3. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の末端エポキシド基が含まれる。それぞれの側部分前駆体には、第一又は第二アミノ基が含まれる。適当なルイス酸の存在下において、それらスキャホールド前駆体及び側部分前駆体は反応して、β−アミノアルコールを形成する。
【0071】
4. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の第一又は第二アミノ基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、末端エポキシド基を含有する。
5. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のイソシアネート基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、そのスキャホールド前駆体と反応して尿素を形成する第一又は第二アミノ基を含有する。
【0072】
6. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の第一又は第二アミノ基又はそれらのコンビネーションが含まれる。それぞれの側部分前駆体は、イソシアネート基を含有する。
7. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のイソシアネート基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、そのスキャホールド前駆体と反応してカルバメートを形成するアルコール基を含有する。
【0073】
8. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の芳香族ブロミドが含まれる。それぞれの側部分前駆体は、有機トリブチルスズ化合物である。それらスキャホールド前駆体及び側部分前駆体は、適当なパラジウム触媒の存在下で反応して、1個又はそれ以上の炭素−炭素結合を形成する。
【0074】
9. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個の芳香族ハライド又はトリフラートが含まれる。それぞれの側部分前駆体には、第一又は第二アミノ基が含まれる。それらスキャホールド前駆体及び側部分前駆体を、適当なパラジウム触媒の存在下で反応させて、1個又はそれ以上の炭素−窒素結合を形成する。
【0075】
10. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のアミノ基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、還元条件下(還元的アミノ化)でそのスキャホールド前駆体と反応してアミンを形成するアルデヒド基又はケトン基を含有する。
【0076】
11. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のアルデヒド基又はケトン基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、還元条件下(還元的アミノ化)でそのスキャホールド前駆体と反応してアミンを形成するアミノ基を含有する。
【0077】
12. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のリンイリド基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、そのスキャホールド前駆体と反応して(ウィッティヒ型反応)アルケンを形成するアルデヒド基又はケトン基を含有する。
【0078】
13. スキャホールド前駆体には、2個〜約6個のアルデヒド基又はケトン基が含まれる。それぞれの側部分前駆体は、そのスキャホールド前駆体と反応して(ウィッティヒ型反応)アルケンを形成するリンイリド基を含有する。
【0079】
スキャホールドとは、そのスキャホールド前駆体のそれぞれの反応性基が側部分前駆体と反応した後に残るスキャホールド前駆体の部分である。側部分とは、結合形成反応後にスキャホールドに結合している側部分前駆体の部分である。スキャホールド前駆体の反応性官能基と特定の側部分前駆体の反応によって生じる側部分を、その側部分前駆体に“由来する”と称する。
【0080】
側部分前駆体には、反応性基の他に、1個又はそれ以上の官能基が含まれうる。これら追加の官能基の1個又はそれ以上は、これら官能基の望ましくない反応を防止するために保護することができる。適当な保護基は、当該技術分野においていろいろな官能基について知られている(本明細書中に援用される Greene 及び Wuts, Protective Groups in Organic Synthesis, 第2版,New York: John Wiley and Sons (1991))。特に有用な保護基には、t−ブチルエステル及びエーテル、アセタール、トリチルエーテル及びアミン、アセチルエステル、トリメチルシリルエーテル、及びトリクロロエチルエーテル及びエステルが含まれる。
【0081】
セット中の化合物は、適当な側部分前駆体のサブセットの選択の結果として質量コード化されている。その側部分前駆体サブセットは、n個の反応性基(nは2〜約6の整数である)を有するスキャホールド前駆体について、その側部分前駆体サブセットに由来するn個の側部分の少なくとも約50、100、250又は500の異なったコンビネーションが存在するように選択される。そのサブセット中の側部分前駆体に由来するn個の側部分の可能なコンビネーションの少なくとも約90%は、異なった質量合計を有するであろう。一つの実施態様において、化合物の質量コード化セットの製造に適した側部分前駆体の選択には、ハードウェア装置、ソフトウェア装置又はそれらの任意のコンビネーションを利用した1回又はそれ以上の自動工程が含まれる。好ましい実施態様において、ディジタルプロセッサアセンブリーは、ライブラリー中の質量重複を最小限にする又は除く側部分前駆体のサブセットを選択する適当なソフトウェアルーチンを用いる。図3は、本発明の方法を実施するディジタルプロセッサアセンブリーを用いたこのような装置を代表するものである。
【0082】
図3に関して、(a)プログラム、ルーチン、手順等を実行するための動作メモリー17を有するディジタルプロセッサ11、(b)ディジタルプロセッサ動作メモリー17においてプログラム、ルーチン及び/又は手順の実行を支持するようにデータ、パラメータ等を与えるためにディジタルプロセッサ11に接続された入力手段21、及び(c)ディジタルプロセッサ11の演算から結果、プロンプト、メッセージ等を表示するためにディジタルプロセッサ11に接続された出力手段23から形成されるコンピュータシステム25を示す。入力手段21には、当該技術分野において一般的なキーボード、マウス等が含まれる。出力手段23には、当該技術分野において一般的なビューモニター、印刷機等が含まれる。本発明のソフトウェアルーチン27は、動作メモリー17においてディジタルプロセッサ11によって次のように実行される。
【0083】
最初に、ユーザーインターフェースは、最終使用者に、側部分前駆体の初期セット13の表示及びそれに由来する側部分の正確な質量を入力させる。この初期セット13は、コピーされてよいし、移動されてよいし又はそれ以外の場合、データベース又は他の当該技術分野において知られているような源から得てよい。ユーザーインターフェースには、最終使用者から、使用者に決定される/望まれる基準19のセットも与えられる。好ましい実施態様において、使用者に選択される基準19には、(i)初期セット中の側部分前駆体の全計数j、(ii)本発明のソフトウェアルーチン27が入力初期セット13から側部分前駆体サブセットを選択する対象スキャホールド前駆体の反応性基の数を示すnの値、及び(iii)サブセットのメンバーの数kが含まれる。好ましくは、ユーザーインターフェースは、使用者が選択した基準19を図3に15で示される入力手段21によって最終使用者が対話式で与えることを可能にする。
【0084】
ディジタルプロセッサ11は、前述の入力に応答性であり、ソフトウェアルーチン27と位置的に又はオフディスクで連結されたメモリー領域29すなわちデータ記憶システム中に側部分前駆体の初期セット13の表示を記憶する。すなわち、メモリー領域29すなわちデータ記憶システムは、本発明のソフトウェアルーチン27を支持している。メモリー領域29中に示される初期セット13中の側部分前駆体それぞれについて、その側部分前駆体に由来する側部分のそれぞれの正確な質量の識別名及び表示を、ソフトウェアルーチン27に与える。側部分前駆体識別名、正確な質量の表示、及び使用者に選択される基準(n、j及びk)を受け取り次第、ソフトウェアルーチン27は、Xがスキャホールドであり、Yがそれぞれ独立して、側部分であり、そしてnが1より大きい整数、典型的には、2〜約6である式XYnを有する化合物の得られたライブラリーにおいて質量重複を最小限にする又は除くk個の側部分前駆体のサブセットを決定しかつ生じる。好ましくは、ソフトウェアルーチン27は、そのサブセットに由来するn個の側部分の可能なコンビネーションの少なくとも約90%が異なった質量合計を有する側部分前駆体のサブセットを決定する。好ましい実施態様において用いられるソフトウェアルーチン27の詳細は、例示の目的で次に論じられるが、制限するものではない。側部分前駆体の初期セット13のサブセットを選択する本発明の方法を行うための他のソフトウェア又はファームウェアルーチンは、この開示で与えられる当業者の権限に適しているしかつその範囲内であるということは理解される。
【0085】
典型的な状況では、n個の反応性基(nは整数である)を含むスキャホールド前駆体、j個の側部分前駆体(jは6又はそれより大きい整数である)のセットを必要とするが、その場合、側部分前駆体に由来する側部分は、y1、y2、・・・y3の分子質量を有する。j個の側部分前駆体のセットからk個の側部分前駆体(k≦j)の適当なサブセットを選択するのに用いることができるソフトウェアルーチンの例には、次の工程が含まれる。
【0086】
1. j個の側部分前駆体の初期セットから、2個の側部分前駆体のあらゆるセットを選択する。ya=ybの場合、yaか又はybを無作為に除去する。
2. 側部分前駆体の残りのセットから、4個の側部分前駆体のあらゆるセットを選択する。ya+yb=yc+ydの場合、ya、yb、ycか又はydを無作為に除去する。
【0087】
3. 側部分前駆体の残りのセットから、6個の側部分前駆体のあらゆるセットを選択する。ya+yb+yc=yd+ye+yfの場合、ya、yb、yc、yd、yeか又はyfを無作為に除去する。
工程1〜3のいずれにおいても、側部分前駆体の残りの数が<kになる場合、セットjから作ることができる質量コード化サブセットkは存在しないので、新規セットjを用いなければならない。
【0088】
4. 側部分前駆体のコンピュータで選択される残りのセットから、k個の側部分前駆体の任意のすなわちすべてのサブセットを選択する。
5. このサブセットからn個の側部分前駆体の可能なコンビネーションをすべて生じさせる。
【0089】
6. 得られたコンビネーションセットの質量重複%を許容できないことが判明した場合、望まれる質量コード化ライブラリーが得られるまで又は側部分前駆体の更に可能なコンビネーションが残らなくなるまで工程5を繰り返す。後者の場合、工程1を用いて再開する。
【0090】
質量コード化側部分前駆体の上のサブセットがいったん決定されたら、側部分前駆体とスキャホールド前駆体との間で起こる結合形成反応に適した条件下において、相補的な側部分前駆体のサブセットとスキャホールド前駆体を接触させる。化合物の質量コード化セットは、好ましくは、コンビナトリアルライブラリーとして溶液中で合成される。
【0091】
より大きい側部分前駆体セットからの前述のサブセット選択及びその選択されたサブセットを用いる化合物の質量コード化セットの作成を、より一般的に図1A及び1Bに示す。図1Aに関して、側部分前駆体のより大きいセットを既知の源から31に与える。最終使用者(例えば、化学者)は、工程33において、より大きいセット31からj個の側部分前駆体の初期セットを選択する。典型的には、化学者は、より大きいセットのすべてを選択して、33に初期セットを形成する。本発明の質量コード化選択法35をその初期セットに適用する。質量コード化手順35の結果は、上に概略を示された質量コード化基準を満たす側部分前駆体のサブセット37である。工程39において、この側部分前駆体サブセットを用いて、k個の側部分前駆体の理論上のサブセットすべてを生じさせる。工程39において更に、k個の側部分の理論上のサブセットすべてから得られるライブラリーの質量重複を計算し、上に定義されたような質量コード化ライブラリーを生じるサブセットだけを41へ送る。最終結果は、上に論じられたように、ある与えられたサブセット中のn個の側部分前駆体の50、100、250又は500の異なったコンビネーションが存在し、しかもある与えられたサブセットに由来するn個の側部分の可能なコンビネーションすべての少なくとも90%が、n個の側部分の他のコンビネーションすべての分子質量合計と異なる分子質量合計を有するk個の側部分前駆体の一つ又はそれ以上のサブセット41である。その一つ又は複数の側部分前駆体サブセット41は、引き続き、上に論じられた方法で適当なスキャホールド前駆体と接触させた場合、化合物の質量コード化セットを生じると考えられる。
【0092】
図1Aの本発明の質量コード化選択法35の一段アプリケーションに代わるものとして、手順35の多重又は段階アプリケーションが適し、場合によっては、好都合でありうる。例えば、それぞれのレベルで質量コード化法を用いることは、最適の質量コード化をそれぞれもたらすことができる異なったセットへの迅速な選別を可能にする。質量コード化処理中に、セットが次の層へ進むにつれて、ある基準はそのセット寸法を減少させる。この多層アプローチは、速度の利点及び質量重複の排除をもたらす。
【0093】
初期セット33についての質量コード化選択法35の多重アプリケーションを図1Bに示す。ここにおいて、初期セット33は複数の部分に分割される(側部分前駆体のより大きい出発セット31及び図1Aの場合と同様の化学者選択33)。質量コード化選択法35を複数の部分それぞれに適用し、結果として得られる中間セット43A、43B、43Cを生じる。質量コード化選択法35を、結果として得られる中間セット43A、43B、43Cを含むこの回ではなく次のラウンド/レベルにおいて適用する。これは、最終セット45A、45B、45Cを生じる。工程39は、図1Aの場合と同様であり、k個の側部分前駆体のサブセット47A、47B、47Cを生じ、それらは、引き続き、上に論じられた方法で適当なスキャホールド前駆体と接触させた場合、化合物の質量コード化セットを生じると考えられる。
【0094】
図1Aに示されたアプローチと図1Bのアプローチとの間の他の変化は、当業者の権限の範囲内であると理解される。前述の考察及び図面は、本発明の方法を例示するためのものであり、制限するものではない。
【0095】
一つの実施態様では、スキャホールド前駆体を、側部分前駆体サブセットの全メンバーと同時に接触させる。概して、n個の反応性基(nは2〜約6の整数である)を有するスキャホールド前駆体は、そのスキャホールド前駆体に相対して少なくとも約nモル当量の選択されたサブセットからの側部分前駆体と接触するであろう。例えば、そのスキャホールド前駆体は、そのサブセットのそれぞれのメンバーをほぼ等濃度で含む溶液と接触することができる。例えば、スキャホールド前駆体がn個の反応性基(nは1より大きい整数である)を含み、そのサブセット中の側部分前駆体の数がpで示される場合、そのスキャホールド前駆体は、約n/p〜約(1.1)n/pモル当量のそれぞれの側部分前駆体と接触することができる。
【0096】
もう一つの実施態様では、スキャホールド前駆体を、側部分前駆体サブセットのメンバーと逐次的に接触させる。これは、少なくとも1個の側部分及び少なくとも1個の反応性基を含む中間の部分的に反応したスキャホールド前駆体分子の形成をもたらす。例えば、そのスキャホールド前駆体は、結合形成を起こすのに適した条件下において、一つ又はそれ以上の側部分前駆体と接触することができる。次に、得られた中間体は、結合形成を起こすのに適した条件下において、一つ又はそれ以上の追加の側部分前駆体と接触することができる。これら工程は、それぞれのスキャホールド前駆体反応性基が側部分前駆体と反応するまで繰り返すことができる。
【0097】
一つの実施態様において、スキャホールド前駆体の反応性基は、適当な反応性基保護/脱保護スキームを用いて側部分前駆体のサブセットと逐次的に反応することができる。例えば、スキャホールド前駆体は、反応性基の一つ又はそれ以上のセットを含むことができるが、その場合、一つのセットは保護されていないが、もう一つのセットは保護されている、又は二つのセットが異なった保護基で隠されている。一つの例は、一つの保護されていない反応性基及び二つの保護された反応性基を含有するスキャホールド前駆体
【0098】
【化4】

【0099】
の使用である。この場合、保護されていないペンタフルオロフェニルエステルは、側部分前駆体(例えば、第一アミン)と最初に反応することができる。次に、Cl3CCH2Oで保護された基か又はベンジルオキシで保護された基を、標準法を用いて脱保護し、側部分前駆体セットと反応させることができる。最後に、残りの一つ又は複数の保護された基を脱保護し、側部分前駆体セットと反応させることができる。
【0100】
側部分前駆体とそれぞれのスキャホールド前駆体反応性基の反応後、保護された官能基を有するいずれの側部分も、当該技術分野において知られている方法を用いて脱保護することができる。
【0101】
このような混合物に由来する側部分コンビネーションを加えた個々のスキャホールドを識別する能力は、ライブラリーの質量コード化及び分子質量を確認する質量分析法の能力の結果である。これは、特定の生体分子への結合のような特定の活性を有するセット中の側部分コンビネーションを加えた個々のスキャホールドの識別を可能にする。
【0102】
一つの実施態様において、本発明は、タンパク質又は核酸分子などの生体分子に結合する又はそのリガンドである質量コード化コンビナトリアルライブラリー中の1種類又は複数の化合物を識別する方法を提供する。質量コード化コンビナトリアルライブラリーは、例えば、上に開示された本発明の方法によって製造することができる。タンパク質のような標的生体分子を、質量コード化コンビナトリアルライブラリーと接触させるが、ライブラリーのいずれかのメンバーがその生体分子のリガンドであるならば、生体分子−リガンド複合体が形成される。生体分子を結合しない化合物を、その生体分子−リガンド複合体から分離する。その生体分子−リガンド複合体を解離させ、それらリガンドを分離し、それらの分子質量を測定する。コンビナトリアルライブラリーの質量コード化のために、ある与えられた分子質量は、側部分の独特のコンビネーションに又は少数のこのようなコンビネーションだけに特有である。したがって、リガンドの分子質量は、その組成の決定を可能にする。
【0103】
一つの実施態様において、いずれか既知の固定化技術によって標的を固体支持体上に固定する。その固体支持体は、例えば、クロマトグラフィーカラム中に入っている水不溶性マトリックス又は膜でありうる。化合物の質量コード化セットは、クロマトグラフィーカラム中に入っている水不溶性マトリックスに適用することができる。次に、そのカラムを洗浄して、非特異的結合剤を除去する。次に、標的に結合した化合物(リガンド)は、pH、塩濃度、有機溶媒濃度を変更することによって、又は標的への既知のリガンドとの競合のような他の方法によって解離させることができる。解離したリガンドは、逆相カラム上に直接的に注入される。逆相カラムは濃縮器/採取器として働き、エレクトロスプレー質量分析計(ES−MS)のような質量分析計に直接的にインターフェース接続することができる。質量分析計によって与えられる質量情報は、リガンド中のスキャホールド及び側部分のコンビネーションを識別するのに充分である。
【0104】
もう一つの実施態様において、標的は溶液中に遊離していて、化合物の質量コード化セットと一緒にインキュベートされる。標的に結合する化合物(リガンド)を、ゲル濾過又は限外濾過などのサイズ分離工程によって選択的に単離する。一つの実施態様において、質量コード化化合物及び標的生体分子の混合物をサイズ排除クロマトグラフィーカラムに通過させるが(ゲル濾過)、それは、任意のリガンド−標的複合体を非結合化合物から分離する。そのリガンド−標的複合体を逆相クロマトグラフィーカラムに移すが、それは、リガンドを標的から解離させる。次に、解離したリガンドを質量分析法によって分析する。質量分析計によって与えられる質量情報は、リガンドのスキャホールド及び側部分組成を識別するのに充分である。このアプローチは、標的の固定化が活性の減損をもたらすことがありうる場合に特に好都合である。
【0105】
単一リガンドが上記処理によっていったん識別されたら、いろいろなレベルの分析を適用して、SAR情報を与えかつそのリガンドの親和性、特異性及び生物活性を更に最適化させることができる。同じスキャホールドに由来するリガンドについて、三次元分子モデル作成を用いて、それらリガンドに共通の有意の構造特性を識別し、それによって、標的生体分子上の共通の部位で結合すると考えられる低分子リガンドのファミリーを生じることができる。
【0106】
具体的な結合部位に関する共通点、最も高い親和性、リガンドを確認するために、この分析には、標的へのそれらの親和性に関する、ある与えられたリガンドファミリーのメンバーの等級付けが含まれるべきである。この処理は、一つの実験において標的生体分子に関する低親和性及び高親和性両方のリガンドを識別することによってこの情報を与えることができる。例えば、固定された標的をスクリーニングに用いる場合、リガンドの解離速度は、標的からリガンドの間に用いられるカラム容積の数値と反比例の相関関係にある。溶液中に遊離した標的をスクリーニングに用いる場合、より高い濃度の標的を用いることによって弱親和性リガンドを選択することができる。
【0107】
化合物の質量コード化セットそれぞれを、一定数の側部分前駆体を用いて合成すると仮定するならば、開示されたアプローチは、場合によっては、別々のライブラリー中で合成される分子の構造特性を組み合わせる優れたリガンドを識別することができる。
【0108】
可能な場合、リガンド構造特性の分析は、標的生体分子の構造に関する情報に基づき、ここにおいて、仮定の共通リガンドは、コンピュータの使用によって推定上の結合部位と連結される。追加のコンピュータ分析には、多重最低エネルギーコンホメーションの動的研究が含まれうるが、それは、異なったスキャホールドに由来する高親和性リガンドの比較を可能にする。最終目的は、最も高い結合親和性/特異性を与える側部分の最適の官能基及び最適のベクトル提示両方の識別である。これにより、改良された第二期のスキャホールドの合成についての基準が得られるかもしれない。
【0109】
質量コード化化合物のモジュール設計のために、コンピュータ分析は、標的への親和性に関して機能的に最も重要性が少ないスキャホールド上の結合点を識別することがありうる。多くの場合、リガンドは、標的生体分子によって完全に飲み込まれることはないであろうし、一つの側部分は、生体分子から離れて大部分の溶媒の方向に向けられるであろう。リガンドのファミリーの三次元配置は、溶媒に提示される部位において高度の官能基可変性を示すであろう。次に、この部位の修飾を用いて、親和性を最適にすることができる。例えば、非臨界的反応性部位は、除去することができるし、水素原子又はメチル基のような低分子非反応性基で置き換えることができる。この位置の側部分の他は構造的に一致する化合物のセットを調べて、別のタンパク質/DNA/RNA分子の結合を最も有効に阻害する又は促進する化合物を識別することができる。更に、この位置の側部分は、二つのリガンドを一緒に結合するように修飾することができる。二つのリガンドの結合は、場合によっては、改良された親和性及び特異性を有するリガンドを与えうるし、一方が、隣接した部位に結合する分子を結合するならば、設計される生体分子二量体を与えうるであろう。
【0110】
いろいろなスクリーニングアプローチを用いて、一つの標的に関して高親和性を有するが、別の近縁の標的にはかなり弱い親和性を有するリガンドを得ることができる。一つのスクリーニング戦略は、両方の生体分子のリガンドを平行実験で識別した後、他所参照比較によって共通リガンドを排除することである。この方法において、それぞれの生体分子のリガンドは、上に開示されたように別々に識別することができる。この方法は、固定された標的生体分子及び溶液中に遊離した標的生体分子双方に適合しうる。
【0111】
固定された標的生体分子について、もう一つの戦略は、非標的生体分子に結合するリガンドをすべて、ライブラリーから除去する予備選択工程を加えることである。例えば、第一の生体分子を、上記のように質量コード化コンビナトリアルライブラリーと接触させることができる。次に、その第一生体分子に結合しない化合物を、形成される任意の第一生体分子−リガンド複合体から分離する。次に、第二生体分子を、第一生体分子に結合しなかった化合物と接触させる。第二生体分子に結合しない化合物は、上記のように識別することができ、第二生体分子に関して、第一生体分子に対するよりもかなり大きい親和性を有する。
【0112】
上に詳述されたスクリーニングアプローチは、同じ生体分子の変型と選択的に相互作用するリガンドを識別するのにも適用することができ、その場合、第一生体分子は未変更の生体分子でありかつ第二生体分子はその生体分子の変型又は変異型である。第二生体分子は、例えば、1個又はそれ以上のアミノ酸部分の挿入、欠失又は置換によって第一生体分子のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有することがありうる。例えば、第二生体分子には、特定の疾患の進行に関連する特異的アミノ酸突然変異が含まれうる。或いは、第二生体分子は、リン酸化又はグリコシル化の特別な部位のような異なった翻訳後修飾を有することで、第一生体分子と異なることがありうるし、又はそれは切断されていてよいし又は別の生体分子と誤って縮合していてよい。
【0113】
上に詳述されたスクリーニングアプローチは、もう一つの既知の生物学的に適切なリガンドとして生体分子上の同じ部位に結合する低分子リガンドを識別する方法としても役立ちうる。この既知のリガンドは、タンパク質又はペプチドのような別の生体分子でありうるし、又はそれは、DNA若しくはRNA分子又は酵素反応に関与する基質若しくは補助因子でありうる。一つの実施態様において、第一及び第二生体分子は両方ともタンパク質である。その第一タンパク質は、タンパク質及び既知のリガンドの複合体であるが、第二タンパク質は、タンパク質だけである。そのタンパク質だけに結合するが、既知のリガンドとタンパク質の複合体に結合しない化合物は、既知のリガンドの結合部位でそのタンパク質に結合する。このアプローチは、ペプチド又はタンパク質のような既知の治療的リガンドの低分子置換の開発に特に充分に適している。
【0114】
本発明の方法の利点は、しばしば、ゲノム学によって規定される遺伝子産物を用いる場合のように、目的の任意の生体分子の機能が充分に理解されていない場合でも、又は機能検定を利用できない場合に、その生体分子に強固に結合する化合物を識別するのにその方法を用いることができるということである。記載されたスクリーニング技術は、大規模な平行スクリーニング性能を与えるように小型化することができる。
【0115】
上に開示された方法によって識別される、機能がまだ知られていない生体分子のリガンドも、その生体分子の生物学的機能を確認するのに用いることができる。これは、新規遺伝子配列は識別され続けているが、これら配列によってコードされるタンパク質の機能、及び新規薬物発見及び開発のための標的としてのこれらタンパク質の妥当性は、疾患の治療にゲノム情報を適用することへの最も有意の障害を決定しかつおそらくは表示することが難しいので、好都合である。本発明に記載の方法によって得られる標的特異的リガンドは、標的タンパク質の機能及び治療的介入に関する標的タンパク質の妥当性の両方を理解するための全細胞バイオアッセイにおいて又は適当な動物モデルにおいて有効に用いることができる。このアプローチは、その標的が低分子薬物発見に特に扱いやすいということを確かめることもできる。本発明に記載の方法によって得られるリガンドは低分子であり、したがって、現行のヒト治療薬(低分子薬物)と類似している。
【0116】
一つの実施態様において、コンビナトリアルライブラリーのメンバーは、上記の方法を用いて特定の生体分子のリガンドとして識別される。次に、そのリガンドを、生体分子へのリガンドの結合の生体分子の機能に関する作用について in vitro 検定で評価することができる。機能が知られている生体分子について、その検定には、リガンドの存在下及び不存在下における生体分子の活性の比較が含まれうる。生体分子の機能が知られていない場合、その生体分子を発現する細胞をリガンドと接触させることができ、その細胞の生存能力又は機能へのリガンドの作用を評価する。そのin vitro検定は、例えば、細胞死検定、細胞増殖検定又はウイルス複製検定でありうる。例えば、生体分子がウイルスによって発現されるタンパク質である場合、そのウイルスに感染した細胞を、そのタンパク質のリガンドと接触させることができる。次に、タンパク質へのリガンドの結合がウイルス生存能力に及ぼす影響を評価することができる。
【0117】
本発明の方法によって識別されるリガンドは、in vivoモデルにおいて又はヒトにおいても評価されうる。例えば、そのリガンドは、生体分子を生産する動物又は生物において評価されうる。結果として得られるその動物又は生物の健康状態のいずれの変化も(例えば、疾患進行)確認することができる。
【0118】
タンパク質又は核酸分子などの、機能が知られていない生体分子について、その生体分子に結合するリガンドの、その生体分子を生産する細胞又は生物への作用は、生体分子の生物学的機能に関する情報を与えることができる。例えば、特定の細胞過程がリガンドの存在下で阻害されるという知見は、その過程が、少なくとも一部分はその生体分子の機能に依るということを示している。
【0119】
本発明によって与えられる質量コード化ライブラリーは、低分子の領域が、ヒト及び他のゲノム中にコードされる任意の生体分子とどのように相互作用するかを記載する情報セットの開発を可能にする。この情報セットには、(1)標的生体分子に結合するライブラリー及びそこにある成分(2)生体分子標的への化合物の結合親和性の原因となる化学官能基についての定量的構造−活性関係、及び(3)化合物によって結合される生体分子のドメインに関するデータが含まれると考えられる。そのデータベースを用いて、多数の方法で、例えば、特異的薬物結合部位と高親和性で相互作用する化学的薬物支持物質(chemical pharmacophore)を識別することによって、薬物開発を促進することができる。
【0120】
ここで、本発明を、次の実施例において更にかつより具体的に記載する。
【実施例】
【0121】
実施例1(コンピュータ手法による質量コード化の適用:質量コード化及び非質量コード化コンビナトリアルライブラリーの比較)
以下は、コンビナトリアルライブラリーの設計に向けた質量コード化手法の適用の分析である。分子式X(Y)nを有する化合物の質量コード化コンビナトリアルライブラリーを生じる所定のスキャホールド前駆体と反応させることができる側部分前駆体のサブセットを識別する場合に行われる工程の順序を図1Aに示し;図1Bは、代わりの工程順序である。式X(Y)nを有する特定の化合物中のn個の側部分のコンビネーションの分子質量合計は、その化合物の分子質量にn個の側部分が集合的に寄与していることであると理解されるはずである。ライブラリー中のそれぞれの化合物には一定のスキャホールドが含まれるので、質量コード化ライブラリー質量重複は、側部分前駆体の識別されたサブセットに由来するn個の側部分の全コンビネーションの分子質量合計重複に相当する。
【0122】
質量コード化分析は、以下に示される22個の側部分の初期セットについて行われた。この初期セットは任意に選択された。含まれたのは、同様の正確な質量を有する側部分前駆体であった。マスターセットは、得られる側部分の正確な質量と共に、以下に示される側部分前駆体から成った。与えられる分子質量は、正確な分子質量であり、同位体平均ではない。それら正確な分子質量は、スキャホールド前駆体との反応の結果として減少する任意の原子(この場合、水素原子の減少)に関しても調整される。22個の側部分前駆体の初期セットから、16個の側部分前駆体の二つのセットを生じさせた。一方のセットは、本明細書中に記載の質量コード化手法を用いてコンピュータによって選択された(コンピュータ選択セット)。もう一方のセットは無作為に選択された。
【0123】
16個の側部分前駆体のそれぞれのセットから、コンピュータで12個の側部分前駆体のあらゆる可能なサブセットを生じさせた。これらサブセットを用いて、一度に4個得る側部分前駆体の全コンビネーション(4個のペンタフルオロフェニルエステルのような4個の反応性基を有するスキャホールド前駆体を用いて合成されるライブラリーを示す)を生じさせた。この処理は、各12個の1820サブセットを含有する16個の側部分前駆体の2セットを生じた。理論的には、12個の側部分前駆体のこれらサブセットはそれぞれ、4個の反応性基を含有する適当なスキャホールド前駆体と同時に反応させた場合、異なった側部分コンビネーションを含有する1365の化合物のライブラリーを生じると考えられる(15!/[(15-4)!*4!]=1365)。コンピュータでは、あらゆる前駆体サブセットが記憶し、得られたライブラリー中の質量重複について検査した(この実施例において、質量重複は、小数点以下第2位の有効数字まで検査された)。
【0124】
質量コード化手法及び質量重複検査は、質量重複を任意の有効数字まで検査するようにコンピュータフィルターを調整することが可能であるという点で両方とも柔軟性であるということに注目すべきである。質量コード化のためのこの構造は、迅速な自動質量コード化を可能にし、コンピュータ選択セットを用いて生じたライブラリーのかなりの部分が10%未満の重複を有することを確実にし、正確な質量以外の側部分前駆体選択のためのパラメーターを含む。この選択のためのコンピュータ必要条件は全く重要である。60個又はそれ以上の側部分前駆体のマスターセットから側部分前駆体のあらゆる可能なセットを強制計算しかつ検査することはコンピュータ処理しにくいので、質量コード化手法は不可欠である。
【0125】
【化5】

【0126】
【化6】

【0127】
結果
16個の側部分前駆体のコンピュータ選択セットは、86a、79a、13a、108a、76a、20a、69a、1a、70a、26a、24a、36a、97a、94a、104a及び21aを含有した。16個の無作為に選択された側部分前駆体のセットは、79a、13a、20a、69a、1a、26a、24a、104a、52a、54a、19a、77a、53a、21a、55a、36aを含有した。側部分前駆体のコンピュータ選択セットから生じたライブラリーは、5%未満の質量重複を有する234のライブラリー及び10%未満の質量重複を有する972のライブラリーについて11.5%/ライブラリーの平均質量重複を有した(図2A)。無作為に選択された側部分前駆体セットから生じたライブラリーは、10%未満の質量重複を有するライブラリーがなく、60.7%の平均質量重複を有した(図2B)。それら二つのライブラリーセットの質量重複のグラフによる直接比較を図2Cに示す。側部分前駆体のコンピュータ選択セットに由来するライブラリー及び該当する質量重複を以下の表に挙げる。
【0128】
実施例2(単機能タンパク質のリガンドの開発)
質量コード化コンビナトリアルライブラリーを用いて、単機能タンパク質に関して高親和性を有するリガンドを識別することができる。一つのこのような単機能タンパク質は、セリンプロテアーゼトリプシンである。トリプシンに高親和性を示すリガンドは、トリプシンのタンパク質分解活性を阻害するそれらの能力について更にスクリーニングする候補であると考えられる。トリプシンへのリガンドの識別には、次の、化学的に活性化されたビオチン前駆体を用いたタンパク質のインキュベーションにより、トリプシンを共有結合によってビオチニル化する工程が含まれる。ビオチン−トリプシン結合体を、ストレプトアビジンで誘導体化された水不溶性カラムマトリックスに結合させることによって固定する。質量コード化コンビナトリアルライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、トリプシン+ストレプトアビジン複合体が入っているカラム上に注入する。カラムに結合しない化合物は、結合用緩衝液を用いて洗い去る。カラムに結合する化合物を、pHの変更又は有機溶媒%の増加などの緩衝液条件の変更によって解離させる。次に、これら化合物を、トリプシン+ストレプトアビジンカラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。逆相カラムから化合物を溶離させ、質量分析法によって分析する。ストレプトアビジンカラムを用いて同様にライブラリーをスクリーニングする場合にも認められる質量を除去することによって、トリプシンのリガンドに該当する分子質量を識別する。それぞれのトリプシンリガンドの分子質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、トリプシンの阻害剤としてのそれらの in vitro 活性について調べる。
【0129】
実施例3(多機能タンパク質のリガンドの開発)
多くのタンパク質、特に、ヒトタンパク質は多機能性であり、これら機能は、しばしば、多数のタンパク質との相互作用によって媒介される。したがって、タンパク質上の異なった部位に結合するリガンドは、異なった治療結果を生じることがありうると考えられる。ヒトタンパク質HSP70は、このような多機能タンパク質の一例である。HSP70は、大部分折りたたまれていない多数のポリペプチドと相互作用して、それらの翻訳及び折りたたみを容易にするすることが分かっている。HSP70のこの役割は、抗原プロセシング/提示、若干の癌の発育、及び種々のヒトウイルスの複製を含めたいろいろな生理学的過程に関係している。質量コード化コンビナトリアルライブラリーを用いて、HSP70に関して高親和性を有しかつ異なった部位で結合するリガンドを識別することができる。HSP70のこれらリガンドは、免疫応答、癌進行及びウイルス感染へのそれらの作用を確定する次の検定で更に評価することができる。
【0130】
HSP70へのリガンドの識別には、次の、化学的に活性化されたビオチン前駆体を用いたタンパク質のインキュベーションにより、HSP70を共有結合によってビオチニル化する工程が含まれる。ビオチン−HSP70結合体を、ストレプトアビジンで誘導体化された水不溶性カラムマトリックスに結合させることによって固定する。質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、HSP70+ストレプトアビジン複合体が入っているカラム上に注入する。カラムに結合しない化合物は、結合用緩衝液を用いて洗い去る。カラムに結合する化合物を、pHの変更又は有機溶媒%の増加などの緩衝液条件の変更によって解離させる。カラムから解離する化合物を、HSP70+ストレプトアビジンカラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。逆相カラムから化合物を溶離させ、質量分析法によって分析する。ストレプトアビジンカラムを用いて同様にライブラリーをスクリーニングする場合にも認められる質量を除去することによって、HSP70のリガンドに該当する分子質量を識別する。それぞれのHSP70リガンドの質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、免疫応答、癌進行及びウイルス感染に影響を及ぼすそれらの in vivo 能力について調べる。
【0131】
実施例3(既知のリガンドのタンパク質への結合に影響を及ぼすリガンドの開発)
生物学的に重要なリガンドがある標的タンパク質に関して知られているが、そのリガンドの結合を調節する分子についての高処理スクリーニング法の開発は実用的でない場合が多い。例えば、HSP70は、ADPの存在下において変性ポリペプチドを結合すること、及びATPのHSP70への結合は、そのポリペプチドの解離をもたらすことが知られている。質量コード化コンビナトリアルライブラリーは、ATP、ADP又は変性ペプチドのHSP70への結合に影響を及ぼす低分子リガンドの発見において用いることができ、一つの立体配置を以下に挙げるが、HSP70は、化学的に活性化されたビオチン前駆体を用いたタンパク質のインキュベーションにより、共有結合によってビオチニル化されている。ビオチン−HSP70結合体を、ストレプトアビジンで誘導体化された水不溶性カラムマトリックスに結合させることによって固定する。質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、HSP70+ストレプトアビジン複合体が入っているカラム上に注入する。カラムに結合しない化合物は、結合用緩衝液を用いて洗い去る。カラムに結合する化合物を、ATP、ADP、又は変性ペプチドを加えたADPの添加で解離させる。HSP70上のこれら既知のリガンドと同様の部位に結合する化合物だけが、これら条件下で溶離するであろう。カラムから解離する化合物を、HSP70+ストレプトアビジンカラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。逆相カラムから化合物を溶離させ、質量分析法によって分析する。ストレプトアビジンカラムを用いて同様にライブラリーをスクリーニングする場合にも認められる質量を除去することによって、HSP70のリガンドに該当する分子質量を識別する。それぞれのHSP70リガンドの質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、HSP70へのこれら既知のリガンドと競合する能力について、及び免疫応答、癌進行及びウイルス感染に影響を及ぼすそれらの in vivo 能力について in vitro で調べる。
【0132】
実施例4(タンパク質治療薬のための低分子置換の発見)
ある場合には、標的タンパク質への既知のリガンドは、実際上、別のタンパク質であり、これら2種類のタンパク質の結合が、治療的利点を与える。このような相互作用の例は、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)のG−CSF受容体(G−CSF−R)への結合である。非ペプチド低分子を用いたG−CSFの置換は、質量コード化コンビナトリアルライブラリーを用いて着手することができ、一つのアプローチを以下に詳述するが、二つの別々のかつ平行した実験において、その質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、G−CSF−R単独か又はG−CSFを加えたG−CSF−Rと一緒にインキュベートする。1種類又は複数のタンパク質に結合する化合物を、急速サイズ排除クロマトグラフィーによって非結合化合物から分離する。結合性化合物を、その1種類又は複数のタンパク質と一緒に、サイズ排除カラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。それら結合性化合物を、その1種類又は複数のタンパク質から解離させ、逆相カラムから溶離させ、質量分析法によって分析する。G−CSF/G−CSF−R界面に結合する化合物に該当する質量は、G−CSF−R単独を用いてライブラリーをスクリーニングする場合にしか認められない質量として識別され、G−CSF/G−CSF−R複合体を用いたスクリーニングにおいても認められる質量は無視する。それぞれの界面特異的化合物の質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。次に、スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、G−CSFを模擬するそれらの in vitro 又は in vivo 能力について調べる。
【0133】
実施例5(二つのタンパク質を二量体化する低分子の開発)
エリスロポエチン(EPO)のような若干の治療用タンパク質は多価であり、2モル当量の標的タンパク質を結合することによって作用し、それによって、EPOの場合はEPO受容体(EPO−R)である標的タンパク質を二量体化する。実施例3に概略を示されたタンパク質置換戦略は、二つのEPO−R分子の二量体化を引き起こすことによって治療的に作用する非ペプチド化合物を生じるように拡大することができる。二つの別々のかつ平行した実験において、質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、EPO−R単独か又はEPOを加えたEPO−Rと一緒にインキュベートする。1種類又は複数のタンパク質に結合する化合物を、急速サイズ排除クロマトグラフィーによって非結合化合物から分離する。結合した化合物を、その1種類又は複数のタンパク質と一緒に、サイズ排除カラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。それら結合した化合物を、その1種類又は複数のタンパク質から解離させ、逆相カラムから溶離させ、質量分析法によって分析する。EPO/EPO−R界面に結合する化合物に該当する質量は、EPO−R単独を用いてライブラリーをスクリーニングする場合にしか認められない質量として識別され、EPO/EPO−R複合体を用いたスクリーニングにおいても認められる質量は無視する。それぞれの界面特異的化合物の質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、標的タンパク質EPO−Rに結合するそれらのin vitro能力について調べる。標的タンパク質への最も高い親和性を示す化合物を比較して、それらの中で類似性を確認する。理想的には、スキャホールド上の一つの誘導体化部位は、高親和結合に関して比較的重要でないことが認められる。続いて、この部位の側部分を、2分子の最も高い親和性の化合物を結合する共有結合鎖で置き換えて、標的タンパク質EPO−Rを二量体化する非ペプチド化合物を生じる。
【0134】
実施例6(同時の標的確認及び低分子薬物発見)
標的特異的リガンドのバイオアッセイへの応用によって疾患過程での役割が確認されうる標的タンパク質のクラスの一例は、単純疱疹ウイルスの読み取り枠(ORF)によってコードされたタンパク質である。ORFでコードされたタンパク質へのリガンドの識別、及びそのORFでコードされたタンパク質の機能及び抗ウイルス薬物発見のための標識としての妥当性を確認するための得られたリガンドの使用には、次の、化学的に活性化されたビオチン前駆体を用いたORFでコードされたタンパク質のインキュベーションにより、ORFでコードされたタンパク質を共有結合によってビオチニル化する工程が含まれる。ORFでコードされたタンパク質−ビオチン結合体を、ストレプトアビジンで誘導体化された水不溶性カラムマトリックスに結合させることによって固定する。質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、ORFでコードされたタンパク質+ストレプトアビジン複合体が入っているカラム上に注入する。カラムに結合しない化合物は、結合用緩衝液を用いて洗い去る。カラムに結合する化合物を、pHの変更又は有機溶媒%の増加などの緩衝液条件の変更によって解離させる。これら化合物を、ORFでコードされたタンパク質+ストレプトアビジンカラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。逆相カラムからそれら結合性化合物を溶離させ、質量分析法によって分析する。ORFでコードされたタンパク質のリガンドに該当する分子質量を、ストレプトアビジンカラムを用いて同様にライブラリーをスクリーニングする場合にも認められる質量を除去することによって識別する。ORFでコードされたタンパク質のそれぞれのリガンドの質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々の化合物を合成し、哺乳動物細胞バイオアッセイ又は動物モデルにおいてウイルスの複製又は伝播を阻害するそれらの能力について調べる。
【0135】
ウイルス特異的阻害活性についての知見は、ORFでコードされたタンパク質をウイルス疾患過程の臨界的成分として関係させ、そのORFでコードされたタンパク質が低分子抗ウイルス薬物発見に特に扱いやすいことを確証する。ORFでコードされたタンパク質に特異的なリガンドの相対結合親和性と、ORFでコードされたタンパク質に特異的なリガンドの相対阻害濃度との間の直接的な相関についての知見は、低分子抗ウイルス薬物発見に関する標的としてそのORFでコードされたタンパク質の識別を更に強化する。
【0136】
実施例7(標的タンパク質のアフィニティー精製に適用できる低分子の開発)
質量コード化コンビナトリアルライブラリーを用いて、標的タンパク質に関して高親和性を有するリガンドを識別することができる。一つのこのような標的タンパク質は、ヒトエリスロポエチン(EPO)であり、それは、治療薬として用いるために産業的に発現されかつ精製されている。EPOに高親和性を示すリガンドは、固体支持体上に固定されて、EPO特異的アフィニティーマトリックスを生じることができる。
【0137】
EPOへのリガンドの識別及びEPO特異的アフィニティーマトリックスの構築には、次の、質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、EPOタンパク質と一緒にインキュベートする工程が含まれる。EPOタンパク質に結合する化合物を、急速サイズ排除クロマトグラフィーによって非結合化合物から分離する。これら化合物を、EPOタンパク質と一緒に、サイズ排除カラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。それら化合物をEPOタンパク質から解離させ、逆相カラムから溶離させ、質量分析法によって分析する。EPOタンパク質特異的リガンドの分子質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々のリガンドを合成し、EPOタンパク質に結合するそれらの in vitro 能力について調べる。EPOタンパク質に最も高い親和性を示す化合物を比較して、それら化合物間の類似性を確認する。スキャホールド上の一つの反応性部位が、高親和結合に関して比較的重要でないことが認められるならば、この部位の側部分は、水不溶性マトリックスにEPO特異的リガンドを結合する共有結合鎖で置き換えられ、それによってEPO特異的アフィニティーマトリックスを生じる。
【0138】
或いは、その共有結合鎖を用いて、商業的に入手可能なアフィニティーマトリックス(ストレプトアビジンで誘導体化されるアガロース)に関して高親和性を有するビオチンなどの別の分子にEPO特異的リガンドを結合させる。ビオチン−ストレプトアビジン相互作用は、強力な非共有結合固定化技術として用いられる。
【0139】
実施例8(標的タンパク質の可視化に適用できる低分子の開発)
質量コード化コンビナトリアルライブラリーを用いて、標的タンパク質に関して高親和性を有するリガンドを識別することができる。一つのこのような標的タンパク質は、ヒトタンパク質テロメラーゼであり、その発現は、癌進行及び老化に関連している。テロメラーゼに高親和性を示すリガンドは、放射性又は非放射性の標識を用いて機能化されて、in vitro又はin vivoにおいてその酵素の可視化のためのテロメラーゼ特異的アフィニティープローブを生じることができる。テロメラーゼへのリガンドの識別及びテロメラーゼ特異的アフィニティープローブの構築には、次の工程、すなわち質量コード化ライブラリーを適当な結合用緩衝液中に溶解させ、テロメラーゼタンパク質単独を用いてインキュベートする工程が含まれると考えられる。テロメラーゼタンパク質に結合する化合物を、急速サイズ排除クロマトグラフィーによって非結合化合物から分離する。結合している化合物を、テロメラーゼタンパク質と一緒に、サイズ排除カラムの下流に置かれている逆相カラム上に加える。それら化合物をテロメラーゼタンパク質から解離させ、逆相カラムから溶離させ、質量分析法によって分析する。テロメラーゼタンパク質特異的リガンドそれぞれの質量は、スキャホールドを加えた側部分の一つのコンビネーションと同じになる。スキャホールドを加えた側部分のその識別されたコンビネーションから生じる1種類又は複数の個々のリガンドを合成し、テロメラーゼタンパク質に結合するそれらのin vitro能力について調べる。テロメラーゼタンパク質に最も高い親和性を示す化合物を比較して、それら化合物間の類似性を確認する。理想的には、スキャホールド上の一の反応性の部位が、高親和結合に関して比較的重要でないことを見ておく。続いて、この部位で、側部分を、放射性部分又は発蛍光団などの非放射性部分にそのテロメラーゼ特異的リガンドを結合する共有結合鎖で置き換え、それによってテロメラーゼ特異的アフィニティープローブを生じる。
【0140】
実施例9(質量コード化コンビナトリアルライブラリー混合物を用いたアフィニティー選択によるウシトリプシンの低分子阻害剤の識別)
質量コード化ライブラリー混合物を、実施例1に記載のように選択される10個の側部分前駆体のセットとスキャホールド前駆体
【0141】
【化7】

【0142】
の反応によって合成した。この側部分前駆体セットを以下に示す。この側部分前駆体は、一般式X(Y)4(式中、Xはこのスキャホールドであり、Yはそれぞれ独立して、側部分前駆体の一つに由来する側部分である)を有する化合物の質量コード化コンビナトリアルライブラリー混合物を生じるように選択された。このライブラリーには、4個の側部分の715の異なったコンビネーション及び715の異なった質量が含まれる。
【0143】
【化8】

【0144】
2mM質量コード化ライブラリー混合物及び50μMウシトリプシンを結合用緩衝液(50mMトリス,pH7.75;40mM CaCl2;10%DMSO全量v/v)中に含有する均一溶液を、室温で30分間インキュベート後、氷上で5分間インキュベートした。20μLのこの混合物を、4.6x200mmサイズ排除HPLCカラム上に注入し、結合用緩衝液を用いて1.5ml/分で溶離させた。タンパク質は、非結合ライブラリー成分より僅か前に溶離し、このタンパク質ピークを集めた。ギ酸及びアセトニトリルをそれぞれ10%の最終濃度まで加えて、そのタンパク質からリガンドをすべて解離させ、得られた混合物をLC−MSによって分析した。質量スペクトル分析によって、スキャホールドを加えた4個の側部分の一つのコンビネーションに合った一つの質量が得られ、このコンビネーションを有する単一の異性体の合成は、以下に示されるトリプシンリガンドの同一性を確証した。
【0145】
【化9】

【0146】
この分子は、標準的な n vitroトリプシン活性検定によって検定した場合、トリプシンの強力な阻害剤であった。
均等物
本発明を詳しく示し、かつその好ましい実施態様に関して記載してきたが、そこにおいて、請求の範囲によって定義される発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の種々の変更を行うことができることは当業者に理解されるであろう。当業者は、常套実験だけを用いて、本明細書中に具体的に記載の発明の具体的な実施態様への多くの均等物を認識するであろうし又は確認できるであろう。このような均等物は、請求の範囲の範囲内に包含されるものである。
【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
【表3】

【0150】
【表4】

【0151】
【表5】

【0152】
【表6】

【0153】
【表7】

【0154】
【表8】

【0155】
【表9】

【0156】
【表10】

【0157】
【表11】

【0158】
【表12】

【0159】
【表13】

【0160】
【表14】

【0161】
【表15】

【0162】
【表16】

【0163】
【表17】

【0164】
【表18】

【0165】
【表19】

【0166】
【表20】

【0167】
【表21】

【0168】
【表22】

【0169】
【表23】

【0170】
【表24】

【0171】
【表25】

【0172】
【表26】

【0173】
【表27】

【0174】
【表28】

【0175】
【表29】

【0176】
【表30】

【0177】
【表31】

【0178】
【表32】

【0179】
【表33】

【0180】
【表34】

【0181】
【表35】

【0182】
【表36】

【0183】
【表37】

【0184】
【表38】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する方法であって、該質量コード化分子ライブラリーが、一般式XYn(nが2〜約6の整数であり、Xがスキャホールドであり、そしてYがそれぞれ独立して、側部分である)を有する化合物を含み、ここで該質量コード化コンビナトリアルライブラリーは、n個の反応性基を有するスキャホールド前駆体(ここでそれぞれの反応性基は、少なくとも1つの側部分前駆体と共有結合を形成するように反応することが可能である)を、側部分前駆体に由来するn個の側部分の少なくとも約250の異なったコンビネーションが存在するような充分に多数の異なった側部分前駆体と反応させることによって生じ、上記方法が以下の工程:
(a)第二生体分子を質量コード化分子ライブラリーと接触させる工程であって、それによって第二生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第二生体分子に結合して、第二生体分子−リガンド複合体を形成し、第二生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残る;
(b)該第二生体分子−リガンド複合体を、質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーから分離する工程;
(c)第一生体分子を、工程(b)の質量コード化分子ライブラリーの非結合メンバーと接触させる工程であって、それによって第一生体分子のリガンドである質量コード化分子ライブラリーのメンバーが第一生体分子に結合して、第一生体分子−リガンド複合体を形成し、第一生体分子のリガンドではない質量コード化ライブラリーのメンバーが結合しないまま残る;
(d)第一生体分子−リガンド複合体を解離させる工程;
(e)第一生体分子のリガンドのそれぞれの分子質量を測定する工程;
を含み、このとき工程(e)で測定される分子質量が、第二生体分子のリガンドではない第一生体分子のリガンド中に存在するn個の側部分のセットに相当し、それによって第一生体分子のリガンドであるが第二生体分子のリガンドではない質量コード化コンビナトリアルライブラリーのメンバーを識別する、前記方法。
【請求項2】
第一及び第二生体分子が、それぞれ独立して、タンパク質又は核酸分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二生体分子が固体支持体上に固定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
固体支持体が、クロマトグラフィーカラム中に包含される水不溶性マトリックスである、請求項3に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−39067(P2011−39067A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206977(P2010−206977)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【分割の表示】特願2000−527513(P2000−527513)の分割
【原出願日】平成11年1月4日(1999.1.4)
【出願人】(500317752)ネオジェネシス・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】