説明

質量分析用デバイスおよびその作製方法、並びに、そのデバイスを用いたレーザ脱離イオン化質量分析装置および分析方法

【課題】レーザ脱離イオン化質量分析において、不要なイオン化促進剤の飛散を防止してイオン化促進剤由来の妨害ピークを低減し、より定量性の高い分析を可能とする。
【解決手段】イオン化された被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析方法に用いられる質量分析用デバイスにおいて、
複数の凹状微細構造を有する微細構造層を備え、
凹状微細構造における開口の開口幅が、凹状微細構造の構造幅よりも小さいものとする。そして、開口を小さくすることにより出口が狭くなった凹状微細構造に、イオン化促進剤を貯留する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光照射により被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の同定等に用いられる質量分析方法において、被分析物質を何らかの方法でイオン化し、これに電界あるいは磁界を作用させることにより分離分析し、イオン化された被分析物質のm/z値(ここで、mはイオンの質量を統一原子質量単位で割って得られた無次元量、zはイオン化された被分析物質の電荷の価数である。)に従って分離した後、電気的に検出したマススペクトルから被分析物質の分析を行う方法が知られている。この場合、上記のイオン化の方法としては、電子スプレーイオン化(ElectroSpray Ionization:ESI)法、電界脱離(Field Desorption:FD)法、高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment:FAB)法、およびレーザ脱離イオン化(Laser Desorption Ionization:LDI)法等が挙げられる。また、上記の分離分析型としては、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、および飛行時間(Time-of-Flight:TOF)型等が挙げられる。
【0003】
通常、質量分析方法は、上記のようなイオン化方法および分離分析型から相性を考慮してそれぞれ1つが選択され、それらが組み合わされることにより行われる。例えば、上記のLDI法およびTOF型を組み合わせたLDI−TOF法は、質量分析用デバイス上に供給された被分析物質にレーザ光を照射して、被分析物質をイオン化すると共にデバイスから脱離させ、この被分析物質を電磁場発生器によって加速させながら所定距離飛行させ、この飛行時間によりイオン化された被分析物質のm/z値を分析するものである(特許文献1)。このLDI−TOF法は、LDI法の特徴(微小領域の測定が可能である等)とTOF型の特徴(高感度検出等)とを併せ持ち広く使用されている。
【0004】
しかしながら、従来のLDI−TOF法では、生体物質(たんぱく質等)や合成樹脂(ナイロン等)等の高分子量の重合物質(ポリマー)が被分析物質である場合に、適用が難しいという問題があった。これは、レーザ光照射によって、ポリマーの脱離・イオン化に加え、ポリマーの分解も同時に発生し、ポリマーのピークが十分な強度で得られないためである。さらに、分解物自体のピークも検出されるため、マススペクトルが複雑になり、その解析が困難になるという弊害も発生していた。ポリマーを分解せずに脱離・イオン化ができれば、マススペクトルの各ピークのm/z値から、分子量だけではなく、繰り返し単位や末端基構造等に関する多くの化学構造的な情報を得ることが可能となる。そのため、ポリマーを分解せずにイオン化するソフトイオン化法の開発が広く進められてきた。
【0005】
代表的なソフトイオン化法として、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(Matrix-Assisted LDI:MALDI)法および表面支援レーザ脱離イオン化(Surface-Assisted LDI:SALDI)法が挙げられる。このMALDI法およびSALDI法は、分子量が1万を超すポリマーの測定も可能であり、被分析物質に対する化学的な影響も少ない分析法として知られている。
【0006】
MALDI法は、マトリックス剤(シナピン酸やグリセリン等)に被分析物質を混入したものを試料とし、マトリックス剤が吸収した光エネルギーを利用して被分析物質をマトリックス剤と共に気化させ、次いで被分析物質をイオン化させる方法である。このMALDI法では、マトリックス剤が、照射レーザ光のエネルギーを吸収して脱離・イオン化されるため、マトリックス剤に含まれている被分析物質に対する照射レーザ光の影響が軽減される(図14B)。したがって、被分析物質の分解を抑制することができ、高感度で検出を行うことが可能となった。このMALDI法をTOF−MSに適用したMALDI−TOF MSは、生体物質や合成高分子の分野で普及してきており、より高精度な分析を可能とするMALDI−TOF MSが検討されている(特許文献2)。しかし、MALDI法では、被分析物質とマトリックス剤との混晶状態に大きく左右されるため、マトリックス剤の選択および試料調整にノウハウとある程度の試行錯誤が必要であるという課題が存在する。
【0007】
一方、SALDI法は、被分析物質の脱離・イオン化を支援する機能を有するデバイス表面を利用するものである。例えば、この先駆けとなったのが、DIOS(Desorption/ Ionization On porous Silicon)法である。DIOS法は、上記の機能を有するデバイスとして、ナノメートルレベルの微細構造を有する多孔質シリコン基板を用いている。この多孔質シリコン基板は、シリコンウェハを光照射下のフッ化水素酸溶液中にて電界エッチングする等の方法により、作成することができる。このDIOS法では、このデバイス表面に被分析物質を含む試料溶液を塗布し、レーザ光を照射するだけで、被分析物質を分解せずにイオン化することができる。SALDI法は、MALDI法のように被分析物質とマトリックス剤との混晶状態に左右されることがないため、簡易的かつ定量性の高い分析方法である。しかし、SALDI法は、イオン化効率(或いは検出感度)の面でMALDI法に劣る。このため、SALDI法においてイオン化効率を上げる必要がある場合には、被分析物質のイオン化を促進するイニシエータ剤が用いられている。イニシエータ剤は、マトリックス剤とは異なり被分析物質との混晶を形成せずともイオン化を促進することができるため、イニシエータ剤をデバイス表面に塗布するだけで、容易にイオン化効率を向上させることが可能である。
【0008】
以上のように、被分析物質のイオン化を促進させる役割を果たすマトリックス剤およびイニシエータ剤(以下、これらを総称してイオン化促進剤という。)は、LDI法において非常に重要な役割を果たしている。
【特許文献1】特開2004−184137号公報
【特許文献2】特開平9−320515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、LDI法においてイオン化促進剤を添加した場合、イオン化促進剤由来の妨害ピークが発生するという問題がある。例えば図14Bに示すように、従来のMALDI法では、被分析物質を含まないマトリックス剤のみの飛散イオン(図14B中のI’)が大きな問題となる。通常イオン化促進剤の分子量はおよそ500Da以下であるから、500Da以下の質量領域にイオン化促進剤由来の多数の妨害ピークが発生してしまう。これにより、500Da以下の分子量を持つ被分析物質の分析が非常に困難になってしまう。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、LDI法において、不要なイオン化促進剤の飛散を防止してイオン化促進剤由来の妨害ピークを低減し、より定量性の高い分析を可能とする質量分析用デバイスおよびその作製方法、並びに、そのデバイスを用いたレーザ脱離イオン化質量分析装置および分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る質量分析用デバイスは、
質量分析用デバイスの供給面上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により質量分析用デバイスから脱離させ、イオン化された被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析方法に用いられる質量分析用デバイスにおいて、
複数の凹状微細構造を有する微細構造層を備え、
複数の凹状微細構造が、供給面に開口を有するものであり、
この開口の開口幅が、凹状微細構造の構造幅よりも小さいことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明に係る質量分析用デバイスにおいて、凹状微細構造は、微細孔であることが好ましい。
【0013】
ここで、「凹状微細構造」とは、供給面に平行な面をx−y平面とし、供給面に垂直な方向をz軸として、y−z平面或いはz−x平面で断面を取ったときに、供給面に対して窪んだ形状(凹状)を確認できる微細構造を意味するものとする。ここで、凹状の微細構造は、チャネル型微細構造(供給面でライン状に延びる凹凸構造が、ストライプ状に繰り返される形状。)であっても、孔型微細構造(供給面の面積に対して比較的小さく限られた領域内で、主に深さ方向に窪んだ形状。いわゆる微細孔。)であってもよい。さらに、凹状の微細構造は、チャネル型微細構造および微細孔の中間的な構造であってもよい。
【0014】
「凹状微細構造の構造幅」とは、x−y平面に平行な方向における窪んだ形状の幅を意味するものとする。例えば、凹状微細構造がチャネル型微細構造の場合には、構造幅は、凹凸構造のラインに垂直な方向における凹部の幅(チャネル幅)を意味し、凹状微細構造が微細孔の場合には、構造幅は、微細孔の径の長さ(孔径)を意味する。
【0015】
「開口幅」とは、凹状微細構造の構造幅と平行な方向における開口の長さを意味するものとする。例えば、凹状微細構造がチャネル型微細構造の場合には、開口幅は、チャネル幅と平行な方向における開口の長さを意味し、凹状微細構造が微細孔の場合には、開口幅は、孔径と平行な方向における開口の径の長さ(口径)を意味する。
【0016】
さらに、微細孔は、被分析物質のイオン化を促進するイオン化促進剤を貯留するものであることが好ましい。
【0017】
ここで、「イオン化促進剤」とは、LDI法において被分析物質のイオン化を促進するために添加される材料を意味するものとする。ここで、いわゆるマトリックス剤やイニシエータ剤は、イオン化促進剤に含まれるものとする。
【0018】
そして、供給面がある側と反対側の多孔質層の面に隣接する断熱層を備えることが好ましい。
【0019】
ここで、「断熱層」とは、微細構造層の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する層を意味するものとする。
【0020】
また、供給面がある側と反対側の質量分析用デバイスの表面に金属層を備えること好ましい。
【0021】
さらに、本発明に係る質量分析用デバイスの作製方法は、
質量分析用デバイス上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により質量分析用デバイスから脱離させ、イオン化された被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析方法に用いられる質量分析用デバイスの作製方法において、
微細構造層前駆体の一つの面に開口を有するように、複数の凹状微細構造を形成し、
被覆材料を1以上の方向から、上記開口がある面に対して斜め蒸着することを特徴とするものである。
【0022】
ここで、「微細構造層前駆体」とは、微細構造層の基となる物体を意味するものとする。
【0023】
そして、本発明に係る質量分析用デバイスの作製方法において、
微細構造層前駆体は、被陽極酸化物質であり、
複数の凹状微細構造として、被陽極酸化物質に陽極酸化処理を施すことにより、陽極酸化処理を施した陽極酸化面に開口を有する複数の微細孔を形成することが好ましい。
【0024】
また、斜め蒸着を行った後に、複数の凹状微細構造にエッチング処理を施すことが好ましい。
【0025】
さらに、本発明に係るレーザ脱離イオン化質量分析装置は、
上記に記載の質量分析用デバイスと、
質量分析用デバイス上に供給された被分析物質に、レーザ光を照射するレーザ光源と、
質量分析用デバイスを支持するデバイス支持部と、
レーザ光の照射により、質量分析用デバイスから脱離されイオン化された被分析物質を、イオン化された被分析物質のm/z値に応じて分離する分析部と、
イオン化された被分析物質を検出する検出部と、
検出部によって得られた検出データに基づいて、イオン化された被分析物質のマススペクトルを形成するデータ処理部とを備えることを特徴とするものである。
【0026】
さらに、本発明に係るレーザ脱離イオン化質量分析方法は、
上記に記載の質量分析用デバイスを用いて、
質量分析用デバイス上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により質量分析用デバイスから脱離およびイオン化させ、
イオン化された被分析物質のm/z値に応じて、イオン化された被分析物質を分離して検出し、
検出によって得られた検出データに基づいて、イオン化された被分析物質のマススペクトルを形成することを特徴とするものである。
【0027】
ここで、mはイオンの質量を統一原子質量単位で割って得られた無次元量、zはイオン化された被分析物質の電荷の価数である。
【発明の効果】
【0028】
本発明による質量分析用デバイスは、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅が凹状微細構造の構造幅よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0030】
「質量分析用デバイスおよびその作製方法」
<質量分析用デバイスの第1の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス10の構成について説明する。図1Aおよび図1Bは、それぞれ本実施形態に係る質量分析用デバイス10の全体構成を示す概略斜視図および概略正面図である。そして、図1Cは、質量分析用デバイス10の凹状微細構造内にイオン化促進剤が充填された状態を示す概略正面図である。
【0031】
図1Aおよび図1Bに示すように、質量分析用デバイス10は、金属層11と、この金属層上に形成された、凹状微細構造を有する微細構造層12と、微細構造層12上に形成された、微細孔15aの開口15bを絞る突出部14aを有する被覆層14とを備えている。
【0032】
金属層11および微細構造層12は、被陽極酸化物質を陽極酸化することによって得られる多孔質酸化物質である。図2Aおよび図2Bに示すように、被陽極酸化物質90(微細構造層前駆体)を陽極酸化すると、表面からこの面に対して略垂直方向に酸化反応が進行し、陽極酸化皮膜12が生成される。また、図2Bに示すように、陽極酸化により生成される陽極酸化皮膜12は、例えば平面視的に略正六角形状の多数の微細柱状体が隙間なく配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体の略中心部には、表面から深さ方向に略ストレートに延びる非貫通型の微細孔15aが開孔される。また、各微細柱状体の底面は丸みを帯びた形状となる。すなわち、多孔質酸化物質13は、酸化の進行していない無孔質な下層11と多孔質な上層12からなっている。本実施形態において、上記微細孔15aが本発明における凹状微細構造であり、上記陽極酸化皮膜12が本発明における微細構造層であり、被陽極酸化物質90のうち非陽極酸化部分11が金属層である。また、被陽極酸化物質90の形状は特に制限されず、板状等が好ましい。さらに、支持体の上に被陽極酸化物質90が層状に成膜されたものなど、支持体付きの形態で用いることも差し支えない。
【0033】
多孔質酸化物質13としては、Alを主成分とする金属体(被陽極酸化物質)の一部を陽極酸化することによって得られる多孔質アルミナ(Al2O3)がよく知られている。しかしながら、被陽極酸化物質90の材料は、特に制限されるものではなく、陽極酸化可能なものであれば、任意の材料が使用できる。例えば、Al以外では、Si、Ti、Ta、Hf、Zr、In、Zn等が使用できる。また、被陽極酸化物質90は、陽極酸化可能な材料を2種以上含むものであってもよい。用いる被陽極酸化物質90の種類によって、形成される微細孔15aの平面パターンは変わるが、平面視略同一形状の微細孔15aが隣接して配列した構造が形成されることには変わりない。
【0034】
微細孔15aは、本発明においてイオン化促進剤の貯留部となる。本実施形態において図1Bに示すように、凹状微細構造の構造幅は、微細孔15aの孔径W1である。また、微細孔15aは、多孔質酸化物質13の上面13s(図2B)上に被覆層14が形成されていることにより、この被覆層14の上面14sに開口15bを有している。そして、この開口15bの口径W2が、本発明における開口幅である。さらに、図1Bに示すように、微細孔15aの上部において被覆層14の一部14aが入り込むように、被覆層14が形成されているため、口径W2が孔径W1よりも小さくなるように形成されている。すなわち、微細孔15aの開口15bは、微細孔15aの上部に入り込んだ被覆層14の一部である突出部14aによって、口径W2を絞られている。ここで、本実施形態においては、基本的に陽極酸化によって形成された時点の開口(図2B中の15c)の長さおよび突出部14aの厚さによって、口径W2の値が決まる。したがって、口径W2の値は、陽極酸化或いは斜め蒸着の条件によって調整することができる。そして、微細孔15aの断面形状、孔径や隣接する微細孔同士の配列ピッチは、陽極酸化条件により制御することができ、特に制限されるものではない。通常、互いに隣接する微細孔15a同士のピッチは10〜500nmの範囲で、また微細孔15aの孔径W1は、5〜400nmの範囲でそれぞれ制御可能である。特開2001−9800号公報や特開2001−138300号公報には、微細孔の形成位置や孔径をより細かく制御する方法が開示されている。これらの方法を用いることにより、上記範囲内において任意の孔径及び深さを有する微細孔を略規則的に配列形成することができる。
【0035】
被覆層14は、その一部14aが微細孔15aの上部において入り込むように、多孔質酸化物質13の上面13s上に形成されており、微細孔15aの開口を狭める機能を果たしている。また、本実施形態においては、被覆層14の上面14sが質量分析用デバイス10の試料供給面10sとなる。被覆層14の材料は、特に制限されるものではなく、金属材料、半導体材料および高分子材料等を用いることができる。例えば、被覆層14の材料を金属材料とした場合には、開口15bにおける被覆層14のエッジ等で、プラズモンによる電場増強効果を得ることもできる。この場合、金属材料としては、プラズモンを効率よく誘起する観点から、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Ti等が挙げられ、電場増強効果の高いAu,Ag等が特に好ましい。
【0036】
イオン化促進剤Iは、レーザ光の照射により被分析物質にプロトンやエネルギーを供与して被分析物質のイオン化を促進させるものであり、かかる機能を有していれば特に制限されない。生体物質(たんぱく質等)や合成樹脂(ナイロン等)等の高分子量の重合物質(ポリマー)が被分析物質である場合に、文献Nature Vol.449 1033-1037 (2007)に記載(Supplementary Information、16頁)されている、ビス(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)テトラメチル-ジシロキサン、1,3-ジオクチルテトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-カルボキシプロピル)テトラメチルジシロキサン等の有機ケイ素化合物が好ましい。その他のイオン化促進剤としては、カーボンナノチューブ、基質、フラーレン等が挙げられる。また、ニコチン酸、ピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、3-アミノピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸、2-(4-ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、2-メルカプトベンゾチアゾール、5-クロロ-2-メルカプトベンゾチアゾール、2,6-ジヒドロキシアセトフェノン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン、ジスラノール、ベンゾ[a]ピレン、9-ニトロアントラセン、2-[(2E)-3-(4-tret-ブチルフェニル)-2-メチルプロプ-2-エニリデン]マロノ二トリルなどのMALDI法で用いられるいわゆるマトリックス剤もイオン化促進剤Iとして使用してもよい。イオン化促進剤Iは、1種類の化合物を用いてもよく、また、2種以上の化合物の混合物や積層体として用いてもよい。
【0037】
次に、質量分析用デバイス10の作製方法について、図2A〜図4を用いて説明する。
【0038】
質量分析用デバイス10の作製方法は、被陽極酸化物質90(図2A)の一面90sから陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質90を基に、微細孔15aを有する陽極酸化皮膜12と非陽極酸化部分11とからなる多孔質酸化物質13を形成し(図2B)、この多孔質酸化物質13の開口面13sに対して被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより(図3Aおよび図3B)、一部14aが微細孔15aに入り込むように被覆層14を形成するものである。
【0039】
陽極酸化処理は、例えば、被陽極酸化物質90を陽極とし、カーボンやアルミニウム等を陰極(対向電極)として、これらを陽極酸化用の電解液に浸漬し、陽極と陰極の間に電圧を印加することで実施できる。陽極酸化皮膜12の皮膜構造は、電解液の種類、電流密度および液温等の条件により異なるため、通常電解液は、多孔質型(ポーラス型)の処理か、或いは無孔質型(バリヤー型)の処理かによって適宜選択される。一般的に、皮膜溶解性の高い電解液で処理を行うと多孔質型の皮膜が生成する。多孔質型の電解液としては、特に制限されず、硫酸、シュウ酸、リン酸、クロム酸、スルファミン酸およびベンゼンスルホン酸等を用いることができる。また、これらの酸の2以上を含む酸性電解液が好ましい。
【0040】
例えば、被陽極酸化物質90としてAlを陽極酸化すると、図2Bに示すように、表面90s(図示上面)から略垂直方向に酸化反応が進行し、微細孔15aを有するアルミナ層12(陽極酸化皮膜)が生成される。この場合、このアルミナ層12が本発明における微細構造層となる。陽極酸化により生成されるアルミナ層12は、平面視略正六角形状の微細柱状体が隣接して配列した構造を有するものとなる。各微細柱状体の略中心部には、多孔質酸化物質13の上面13sから深さ方向に微細孔15aが開孔される。また、各微細孔15aおよび微細柱状体の底面は、図示する如く、丸みを帯びた形状を有する。陽極酸化により生成されるアルミナ層12の構造は、益田秀樹、「陽極酸化法によるメソポーラスアルミナの調製と機能材料としての応用」、材料技術Vol.15,No.10、1997年、p.34等に記載されている。陽極酸化処理の条件は、被陽極酸化物質90の材料、陽極酸化を行う深さおよび微細孔15aの形状等を考慮し適宜設計すればよい。電解液としてシュウ酸を用いる場合、好適な条件例としては、電解液濃度0.5M、液温15℃、印加電圧40Vが挙げられる。電解時間を変えることで、任意の層厚のアルミナ層12を生成できる。陽極酸化前の被陽極酸化物質90の厚さを生成されるアルミナ層12よりも厚く設定した場合には、非陽極酸化部分11が残り、この非陽極酸化部分11が金属層となる。このようにして、微細孔15aを有する陽極酸化皮膜12と非陽極酸化部分11とからなる多孔質酸化物質13を形成することができる。
【0041】
斜め蒸着は、多孔質酸化物質13の開口面13sに対して被覆材料を1以上の方向から蒸着することにより行う。すなわち、図4に示すように蒸着材料が飛来する方向Dにおいて、方向Dの先端を原点に3次元座標をとり、原点を通り方向Dに平行な半直線aとz軸とが成す角度をθ(0<θ<90)、方向Dのx−y平面への射影線bとx軸とが成す角度をφ(0≦φ<360)とした場合、(θ、φ)が1以上の値をとるような方向から蒸着することを意味する。例えば、図3Aでは(θ=θo、φ=90°)という方向D1から斜め蒸着を行っており、図3Bでは(θ=θo、φ=270°)という方向D2から斜め蒸着を行っている。当然ながら(θ、φ)の値は、特に制限されるものではない。図3Aに示す1方向の斜め蒸着のみで被覆層14’を形成した場合には、突出部14a’は開口15b’の一部のみに存在することになるが、開口15b’を絞ることは可能である。すなわちこの場合においても、微細孔15aの孔径W1よりも開口15bの口径W2が小さくなるように形成することができる。また、多孔質酸化物質13を斜め蒸着中に連続的に回転させてもよい。被覆層14の成膜方法は、特に制限されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザ蒸着法およびクラスタイオンビーム法等の気相成長法を用いることができる。上記のような斜め蒸着により、微細孔15aの上部に被覆層14の一部14aが入り込むように被覆層14を形成することができる。
【0042】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス10は、凹状微細構造15aを有し、かつ凹状微細構造15aの開口幅W2が凹状微細構造15aの構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造15a内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。図14Aは、上記のイオン化促進剤の飛散防止を概念的に示した図である。イオン化促進剤を開口幅W2が狭くなっている凹状微細構造15aに貯留することにより、従来法(図14B)よりも不要なイオン化促進剤の飛散を防止する様子がわかる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態においては、前述したように被覆層14の材料を金属材料とすると、プラズモンによる電場増強効果も得られる。通常被分析物質のイオン化度は、照射レーザ光の強度に依存している。これは、レーザ光の照射によりイオン化促進剤が励起され、この励起状態にあるイオン化促進剤からプロトン、イオン或いはエネルギー等が供与されることによって、被分析物質がイオン化するためである。したがって、プラズモンによる電場増強効果がある場合には、この電場増強効果によって照射レーザ光の強度を増強し被分析物質のイオン化効率を向上させることができる。この結果、検出信号の絶対強度を増強することができ、より定量性の高い質量分析が可能となり、さらにレーザ光強度の低パワー化を実現することが可能となる。
【0044】
<設計変更>
また、陽極酸化を利用して微細孔15aを規則配列させる場合について説明したが、微細孔15aの形成方法は、陽極酸化に制限されない。陽極酸化を利用する以外に、樹脂等の基板の表面にナノインプリント技術により規則配列した複数の凹状微細構造を形成する方法、金属等の基板の表面に、集束イオンビーム(FIB)、電子ビーム(EB)等の電子描画技術により規則配列した複数の凹状微細構造を描画する方法等が挙げられる。しかしながら、表面全面を一括処理でき、大面積化に対応でき、高価な装置を必要としないことから、陽極酸化を利用した上記実施形態はより好ましいと言える。また、微細孔15aは規則配列させてもよいし、させなくてもよい。
【0045】
<質量分析用デバイスの第2の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス20の構成について説明する。図5は、質量分析用デバイス20を示す概略正面図である。質量分析用デバイス20は、第1の実施形態に係る質量分析用デバイス10と同様の構成であるが、孔径W1が質量分析用デバイス10に比べて拡大している点で質量分析用デバイス10と異なる。したがって、質量分析用デバイス10と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0046】
図5に示すように、質量分析用デバイス20は、金属層21と、この金属層上に形成された、凹状微細構造25aおよび突出部22aを有する微細構造層22と、微細構造層22上に形成された、微細孔25aの開口25bを絞る突出部24aを有する被覆層24とを備えている。そして、微細構造層22は、上方の突出部22aを残すように孔径W1が拡大された微細孔25aを有する構造となっている。すなわち、本実施形態における微細孔25aは、開口25bが上記突出部22aおよび上記突出部24aによって絞られている構造となっている。ここで、被覆層24の表面24sが質量分析用デバイス20の試料供給面20sとなる。また、本実施形態においては、基本的に陽極酸化によって形成された時点の開口(図2B中の15c)の長さおよび突出部24aの厚さによって、口径W2の値が決まる。したがって、口径W2の値は、陽極酸化或いは斜め蒸着の条件によって調整することができる。
【0047】
次に、質量分析用デバイス20の作製方法について説明する。質量分析用デバイス20の作製方法は、被陽極酸化物質90(図2A)の一面90sから陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質90を基に、微細孔25aを有する陽極酸化皮膜22(微細構造層)と非陽極酸化部分21とからなる多孔質酸化物質23を形成し、この多孔質酸化物質23の開口面に対して被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより、一部24aが微細孔25aに入り込むように被覆層24を形成し、その後微細孔25aの内壁をエッチングするものである。すなわち、質量分析用デバイス10を形成し、質量分析用デバイス10における微細孔15aの内壁をエッチングすることにより、孔径W1の拡大した微細孔25aを形成するものである。この際、陽極酸化皮膜22の上方部分22aは、被覆層24の突出部24aの存在によりエッチングされずに残される。
【0048】
微細孔25aのエッチング方法は、特に限定されるものではなく、ウェットエッチング等を用いることができる。例えば、微細構造層22がアルミナ(Al2O3)である場合には、液温30℃の5wt%リン酸溶液で微細孔25aの内壁を溶解エッチングすることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス20も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、微細孔25a内壁のエッチングにより微細孔25aがより拡大された構造となっている。したがって、より多くのイオン化促進剤を微細孔25aに貯留することができ、質量分析の効率を向上させることが可能となる。
【0051】
<質量分析用デバイスの第3の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス30の構成について説明する。図6は、質量分析用デバイス30を示す概略正面図である。質量分析用デバイス30は、第2の実施形態に係る質量分析用デバイス20と略同様の構成であるが、被覆層がない点で質量分析用デバイス20と異なる。したがって、質量分析用デバイス20と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0052】
図6に示すように、質量分析用デバイス30は、金属層31と、この金属層上に形成された、凹状微細構造35aおよび突出部32aを有する微細構造層32とを備えている。そして、微細構造層32は、上方の突出部32aを残すように孔径W1が拡大された微細孔35aを有する構造となっている。すなわち、本実施形態における微細孔35aは、開口35bが上記突出部32aによって絞られている構造となっている。ここで、微細構造層32の表面32sが質量分析用デバイス30の試料供給面30sとなる。また本実施形態においては、基本的に陽極酸化によって形成された時点の開口(図2B中の15c)の口径が、微細孔35aの開口35bの口径W2となる。したがって、口径W2の値は、陽極酸化の条件によって調整することができる。
【0053】
次に、質量分析用デバイス30の作製方法について説明する。質量分析用デバイス30の作製方法は、被陽極酸化物質90(図2A)の一面90sから陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質90を基に、微細孔35aを有する陽極酸化皮膜32(微細構造層)と非陽極酸化部分31とからなる多孔質酸化物質33を形成し、この多孔質酸化物質33の開口面に対して被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより、一部が微細孔35aに入り込むように被覆層を形成し、微細孔35aの内壁をエッチングし、その後被覆層を除去するものである。すなわち、質量分析用デバイス20を形成し、質量分析用デバイス20における被覆層24を除去するものである。この際、陽極酸化皮膜32の上方部分32aは、被覆層の突出部の存在によりエッチングされずに残される。
【0054】
被覆層の除去は、特に限定されるものではなく、ウェットエッチング等を用いることができる。例えば、被覆層がアルミの場合には、液温30℃の5wt%リン酸溶液で溶解エッチングすることによって、微細孔25aの内壁のエッチングと共に除去することができる。ここで、被覆層は、完全に除去されてもよいし、一部残留していてもよい。ただし、残留物は、陽極酸化皮膜32の表面32sとの密着性が低下して、この残留物由来の妨害ピークが発生しやすくなるため、完全に除去することが好ましい。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス30も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造35a内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態においては、微細孔35a内壁のエッチングにより微細孔35aがより拡大された構造となっている。したがって、より多くのイオン化促進剤を微細孔35aに貯留することができ、質量分析の効率を向上させることが可能となる。さらに、本実施形態においては、質量分析用デバイス(10、20)における被覆層がない構造となっている。したがって、陽極酸化皮膜32と被覆層との密着性が低い場合に、被覆層の一部が飛散することによる妨害ピークを低減することができ、より定量性の高い質量分析が可能となる。
【0057】
<質量分析用デバイスの第4の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス40の構成について説明する。図7は、質量分析用デバイス40を示す概略正面図である。
【0058】
図7に示すように、質量分析用デバイス40は、金属層41と、この金属層上に形成された、凹状微細構造45aを有する微細構造層42と、微細構造層42上に形成された、微細孔45aの開口45bを絞る突出部44aを有する被覆層44を備えている。ここで、突出部44aは、凹状微細構造45aの底部付近にまで到達する、開口45b側が太いテーパ形状となっている。すなわち、本実施形態における微細孔45aは、開口45bが上記突出部44aによって絞られている構造となっている。ここで、被覆層44の表面44sが質量分析用デバイス40の試料供給面40sとなる。また、本実施形態においては、基本的に陽極酸化によって形成された時点の開口(図2B中の15c)の長さおよび突出部44aの厚さによって、口径W2の値が決まる。したがって、口径W2の値は、陽極酸化或いは斜め蒸着の条件によって調整することができる。
【0059】
次に、質量分析用デバイス40の作製方法について説明する。質量分析用デバイス40の作製方法は、被陽極酸化物質90(図2A)の一面90sから陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質90を基に、孔径W1の大きな微細孔45aを有する陽極酸化皮膜42(微細構造層)と非陽極酸化部分41とからなる多孔質酸化物質43を形成し、この多孔質酸化物質43の開口面に対して、図4におけるθを固定して被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより、一部が微細孔45aに入り込むように被覆層を形成し、上記斜め蒸着の工程を上記θの値を変化させながら複数回繰り返すものである。ここで、本実施形態のように、微細孔45aの幅が一定ではない場合には、微細孔45aの孔径W1は微細孔45a内における最大値とする。
【0060】
微細構造層の作製方法は、第1の実施形態と同様である。ただし、突出部44aのテーパ形状によって開口45bを絞るため、微細孔45aはなるべく幅が大きくなるように形成することが好ましい。
【0061】
被覆層44の材料や作製方法は、第1の実施形態と略同様である。ただし、図4におけるθの値を変化させながら斜め蒸着を複数回繰り返す点が異なる。θの値は、徐々に増加させてもよく、また徐々に減少させてもよい。このような方法により、開口45b側が太いテーパ形状の突出部44aを形成することができる。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス40も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0063】
さらに、本実施形態に係る質量分析用デバイスも、被覆層44の材料を金属材料とすると、プラズモンによる電場増強効果も得られる。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
<質量分析用デバイスの第5の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス50の構成について説明する。図8は、質量分析用デバイス50を示す概略正面図である。
【0065】
図8に示すように、質量分析用デバイス50は、金属層51と、この金属層上に形成された、凹状微細構造55aおよび突出部52aを有する微細構造層52とを備えている。ここで、突出部52aは、凹状微細構造55aの内壁であり、また開口55b側へ近づくにつれ幅が狭くなるようなテーパ形状となっている。すなわち、本実施形態における微細孔55aは、開口55bが上記突出部52aによって絞られている構造となっている。ここで、微細構造層52の表面52sが質量分析用デバイス50の試料供給面50sとなる。
【0066】
次に、質量分析用デバイス50の作製方法について説明する。質量分析用デバイス50の作製方法は、以下に示すものである。まず、被陽極酸化物質90(図2A)の一面90sから陽極酸化を進行させることにより、被陽極酸化物質90を基に、微細孔55aを有する陽極酸化皮膜52(微細構造層)と非陽極酸化部分51とからなる多孔質酸化物質53を形成する。そして、この多孔質酸化物質53の開口面に対して、図4におけるθを固定して被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより、一部が微細孔55aに入り込むように被覆層を形成する。さらに、微細孔55a内をエッチングすることにより、被覆層に覆われていない部分をエッチングし、エッチングが終わったら被覆層を除去する。その後、上記θの値を変化させながら上記斜め蒸着の工程、エッチングの工程および被覆層除去の工程を順次複数回繰り返すものである。ここで、本実施形態においても第4の実施形態と同様に、微細孔55a内における幅の最大値が、微細孔55aの孔径W1である。
【0067】
微細構造層の作製方法は、第1の実施形態と同様である。本実施形態においては、基本的に陽極酸化によって形成された時点の開口(図2B中の15c)の口径が、微細孔55aの開口55bの口径W2となる。したがって、口径W2の値は、陽極酸化の条件によって調整することができる。
【0068】
被覆層の材料や作製方法は、第1の実施形態と略同様である。ただし、図4におけるθの値を変化させながら斜め蒸着を複数回繰り返す点が異なる。θの値は、徐々に増加させてもよく、また徐々に減少させてもよい。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス50も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造55a内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態においても、第3の実施形態と同様に被覆層を除去している。したがって、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
<質量分析用デバイスの第6の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス60の構成について説明する。図9は、質量分析用デバイス60を示す概略正面図である。質量分析用デバイス60は、第3の実施形態に係る質量分析用デバイス30における金属層31が、断熱層Hとなっている点で質量分析用デバイス30と異なる。したがって、質量分析用デバイス30と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0072】
次に、質量分析用デバイス60の作製方法について説明する。質量分析用デバイス60の作製方法は、質量分析用デバイス30において、陽極酸化処理後、金属層31を溶解除去法等により除去し、この金属層31を除去した面に断熱層Hを形成するものである。ここで、質量分析用デバイス30の作製方法は、前述した通りである。
【0073】
断熱層Hは、微細構造層の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する層である。したがって、質量分析用デバイス60の下方への熱拡散を防ぎ、レーザ光照射により発生する熱を微細構造層32に効率よく閉じ込めることができる。断熱層Hの材料は、特に制限されるものではなく、例えばポリスチレンフォームやセルローズ断熱材等を用いることができる。断熱層Hの成膜方法は、特に制限されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザ蒸着法およびクラスタイオンビーム法等の気相成長法を用いることができる。また、断熱層Hの成膜方法は、接着剤を用いてフィルム或いは板状の断熱材を接着させる方法をでもよい。この場合、接着剤は、導電性を有することが好ましい。これは、質量分析を測定において質量分析用デバイス60に電圧を印加する際、質量分析用デバイス60に印加される電圧を均一にするためである。
【0074】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス60も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造35a内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0075】
さらに、本実施形態においても、第3の実施形態と同様に被覆層を除去している。したがって、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
さらに、本実施形態においては、微細構造層32の金属層31を除去した部分に断熱層Hを形成している。したがって、質量分析用デバイス60の下方への熱拡散を防ぎ、レーザ光照射により発生する熱を微細構造層32に効率よく閉じ込めることができる。この結果、サンプルの飛散効率を向上することができ、より定量性の高い質量分析が可能となる。
【0077】
<質量分析用デバイスの第7の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス70の構成について説明する。図10は、質量分析用デバイス70を示す概略正面図である。質量分析用デバイス70は、第6の実施形態に係る質量分析用デバイス60の底面に第2の金属層Mを有する構成となっている。したがって、質量分析用デバイス60と同様の構成要素についての説明は、特に必要のない限り省略する。
【0078】
次に、質量分析用デバイス70の作製方法について説明する。質量分析用デバイス70の作製方法は、質量分析用デバイス60において、断熱層Hを形成後、この断熱層Hの下面(質量分析用デバイス60の底面)に第2の金属層Mを形成するものである。ここで、質量分析用デバイス60の作製方法は、前述した通りである。
【0079】
第2の金属層Mは、質量分析用デバイス70に電圧を印加する際に、質量分析用デバイス70に印加される電圧を均一にする機能を有する。第2の金属層Mの材料は、特に制限されるものではなく、例えばステンレス、アルミ、銅、金等を用いることができる。そして、第2の金属層Mの成膜方法は、特に制限されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、レーザ蒸着法およびクラスタイオンビーム法等の気相成長法を用いることができる。また、第2の金属層Mの成膜方法は、接着剤を用いてフィルム或いは板状の導電物質を接着させる方法でもよい。
【0080】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス70も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、LDI法においてイオン化促進剤を凹状微細構造35a内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0081】
さらに、本実施形態においても、第3の実施形態と同様に被覆層を除去している。したがって、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
さらに、本実施形態においても、第6の実施形態と同様に、微細構造層32の金属層31を除去した部分に断熱層Hを形成している。したがって、第6の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
さらに、本実施形態においては、断熱層Hの下面(質量分析用デバイス60の底面)に第2の金属層Mを形成している。したがって、質量分析用デバイス70に電圧を印加する際に、質量分析用デバイス70に印加される電圧を均一にすることができる。この結果、印加電圧ムラによる信号強度ムラを軽減することが可能となる。
【0084】
<質量分析用デバイスの第8の実施形態>
まず、本実施形態に係る質量分析用デバイス80の構成について説明する。図11は、質量分析用デバイス80を示す概略斜視図である。
【0085】
図11に示すように、質量分析用デバイス80は、凹状微細構造85aを有する微細構造層82と、微細構造層82上に形成された、凹状微細構造85aの開口85bを絞る突出部84aを有する被覆層84を備えている。ここで、突出部84aは、被覆層84の一部であり、凹状微細構造85aの上方に一部入り込むように形成されている。すなわち、本実施形態における凹状微細構造85aは、開口85bが上記突出部84aによって絞られている構造となっている。ここで、被覆層84の表面84sが質量分析用デバイス80の試料供給面80sとなる。
【0086】
次に、質量分析用デバイス80の作製方法について説明する。質量分析用デバイス80の作製方法は、微細構造層前駆体90(図2A)の一面90sにストライプ状のマスクを形成し、その上からドライエッチングすることにより、チャネル型の微細構造85aを有する微細構造層82を形成し、この微細構造層82の開口面に対して、第1の実施形態と同様に被覆材料を1以上の方向から斜め蒸着することにより、一部がチャネル型微細構造85aに入り込むように被覆層84を形成するものである。
【0087】
微細構造層82は、ライン状に延びる凹凸構造がストライプ状に繰り返される形状であり、いわゆるチャネル型の微細構造である。微細構造層82の材料は、特に限定されるものではなく、Al等の金属材料やSi等の半導体材料を用いることができる。微細構造層82の作製方法は、特に限定されるものではなく、例えば微細構造層前駆体上にストライプ状のマスクを形成し、その上からドライエッチングする方法、集束イオンビーム(FIB)や電子ビーム(EB)等の電子描画による方法等が挙げられる。また、本実施形態においては、基本的に凹状微細構造85aの構造幅W1および突出部84aの厚さによって、口径W2の値が決まる。したがって、口径W2の値は、微細構造層82の作製方法或いは斜め蒸着の条件によって調整することができる。
【0088】
被覆層84の材料や作製方法は、第1の実施形態と略同様である。
【0089】
以上のように、本実施形態に係る質量分析用デバイス80も、第1の実施形態と同様に、凹状微細構造を有し、かつ凹状微細構造の開口幅W2が凹状微細構造の構造幅W1よりも小さくなるように構成されている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
さらに、本実施形態に係る質量分析用デバイスも、被覆層84の材料を金属材料とすると、プラズモンによる電場増強効果も得られる。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
「レーザ脱離イオン化質量分析装置および分析方法」
次に、本発明に係る質量分析用デバイス(例えば、第3の実施形態に係る質量分析用デバイス30)を用いたレーザ脱離イオン化質量分析装置および分析方法について説明する。
【0092】
図12を参照して、質量分析方法を実施するための質量分析装置の一実施形態について説明する。本実施形態の質量分析装置100は、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)である。図12は本実施形態の質量分析装置100の構成を示す概略図である。
【0093】
図示されるように、質量分析装置100は、真空に保たれたボックス101内に、上記実施形態の質量分析用デバイス30と、質量分析用デバイス30を保持する基板保持手段を備えたステージ102と、質量分析用デバイス30の表面に供給された試料にレーザ光Lを照射して、被分析物質Sを質量分析用デバイス30の表面から脱離させる光照射手段103と、脱離した被分析物質Sを検出して被分析物質Sの質量を分析する分析手段104とを備え、質量分析用デバイス30と分析手段104との間に、質量分析用デバイス30の表面に対向する位置に配された引き出しグリッド105と、引き出しグリッド105の質量分析用デバイス30側の面と反対側の面に対向して配されたエンドプレート106を備えた構成としている。
【0094】
ステージ102は、該ステージ102上に載置された質量分析用デバイス30を少なくとも一方向(図中X方向)に移動させることが可能な移動ステージである
光照射手段103は、レーザ光源を備えており、光源から出射される光を導光するミラーなどの導光系を備えていてもよい。光源としては、例えば、波長355nm、パルス幅50ps〜50ns程度のパルスレーザが挙げられる。
【0095】
分析手段104は、レーザ光Lの照射により質量分析用デバイス30の表面から脱離され、引き出しグリッド105及びエンドプレート106の中央の孔を通過して飛行してきた被分析物質Sを検出する検出部107と、検出部107の出力を増幅させるアンプ108と、アンプ108からの出力信号を処理するデータ処理部109により概略構成されている。
【0096】
以下に上記構成の質量分析装置100を用いた質量分析について説明する。質量分析は、質量分析用デバイス30上に供給された被分析物質Sについて行う。まず、質量分析用デバイス30に電圧Vs印加され、所定のスタート信号により光照射手段103から特定波長のレーザ光Lが質量分析用デバイス30の表面に照射される。レーザ光Lの照射により、試料中の被分析物質Sがイオン化されると共に表面から脱離される。なお、被分析物質Sはイオン化された後に脱離されるものであってもよいし、脱離された後にイオン化されるものであってもよい。脱離された被分析物質Sは、質量分析用デバイス30と引き出しグリッド105との電位差Vsにより引き出しグリッド105の方向に引き出されて加速し、中央の孔を通ってエンドプレート106の方向にほぼ直進して飛行し、更にエンドプレート106の孔を通過して検出部107に到達して検出される。
【0097】
検出部107からの出力信号は、アンプ108により所定レベルに増幅され、その後データ処理部109に入力される。データ処理部109では、上記スタート信号と同期する同期信号が入力されており、この同期信号とアンプ108からの出力信号とに基づいて被分析物質Sの飛行時間を求めることができるので、その飛行時間からm/z値を導出してマススペクトルを得ることができる。
【0098】
本実施形態では、質量分析装置100がTOF−MSである場合を例に説明したが、イオン化された試料イオンの質量分析を行う装置としては、TOF型のものに限らず、IT(Ion Trap;イオントラップ型)、FT(ICR)(Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance;フーリエ変換型)、また複数の質量分析手法を組み合わせた手法であるQqTOF(Quadrupole-TOF;四重極-TOF型)、TOF−TOF(TOF連結型)などの質量分析装置を用いることができる。
【0099】
以上のように、本実施形態に係るレーザ脱離イオン化質量分析装置および方法では、質量分析用デバイスとして、本発明に係る質量分析用デバイスを用いている。したがって、LDI法において、イオン化促進剤を凹状微細構造内に貯留することにより、レーザ照射による不要なイオン化促進剤の飛散を防止することが可能となる。これにより、イオン化促進剤由来の妨害ピークを低減することができ、定量性の高い質量分析が可能となる。
【0100】
<実施例>
本発明に係る質量分析用デバイスの実施例、そして本発明に係る質量分析用デバイスを用いて行ったレーザ脱離イオン化質量分析装置および分析方法の実施例を以下に示す。
【0101】
質量分析用デバイス30は以下の方法により製造した。まずアルミ板に対して、硫酸溶液(液温16℃、0.3M)中で25Vの電圧印加の下、60s間陽極酸化を行い、アルミナを含む多孔質酸化物質を形成した。そして、(θ、φ)=(70°、90°)および(70°、270°)の角度で2回に渡って、厚さが10nmのアルミ膜を斜め蒸着によって形成した。次に、液温30℃の5wt%リン酸溶液で、多孔質酸化物質上のアルミ膜およびアルミナ層を溶解することにより、アルミ膜の除去および微細孔の孔径拡大を行った。
【0102】
また、分析条件は、分析装置:島津製作所製MALDI−TOFMS AXIMA、励起波長:355nm、測定モード:ポジティブモードおよびリニアモード、サンプル:SIGMA-ALDRICH製 Angiotensin I、サンプル濃度:0.5mM、溶液滴下量:0.5ul、使用マトリックス剤:α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸、使用デバイス:上記本発明に係る質量分析用デバイス30、対照デバイス:ステンレスプレートである。図13Aは、ステンレスプレートを用いた場合の分析結果であり、図13Bは、質量分析用デバイス30を用いた場合の分析結果である。図13Aおよび図13Bにより、質量分析用デバイス30を用いたことによりイオン化促進剤由来の妨害ピークを低減できていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1A】第1の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略斜視図
【図1B】第1の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図(その1)
【図1C】第1の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図(その2)
【図2A】微細構造層前駆体を示す概略斜視図
【図2B】多孔質酸化物質を示す概略斜視図
【図3A】第1の実施形態に係る質量分析用デバイスにおける被覆層の形成工程を示す概略図(その1)
【図3B】第1の実施形態に係る質量分析用デバイスにおける被覆層の形成工程を示す概略図(その2)
【図4】被覆材料の斜め蒸着における蒸着方向の定義を示す図
【図5】第2の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図6】第3の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図7】第4の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図8】第5の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図9】第6の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図10】第7の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図11】第8の実施形態に係る質量分析用デバイスを示す概略図
【図12】本発明に係るレーザ脱離イオン化質量分析装置の一実施形態を示す概略図
【図13A】従来法によるレーザ脱離イオン化質量分析方法の実施結果を示すマススペクトルデータ
【図13B】本発明にかかるレーザ脱離イオン化質量分析方法の実施結果を示すマススペクトルデータ
【図14A】レーザ照射時における本発明に係る質量分析用デバイスの近傍を示す概略図
【図14B】レーザ照射時における従来の質量分析用デバイスの近傍を示す概略図
【符号の説明】
【0104】
10 質量分析用デバイス(第1の実施形態)
10s 試料供給面
11 金属層(非陽極酸化部分)
12 微細構造層(陽極酸化皮膜)
13 多孔質酸化物質
14 被覆層
14a 突出部
14s 被覆層の表面
15a 凹状微細構造(微細孔)
15b 開口
20 質量分析用デバイス(第2の実施形態)
30 質量分析用デバイス(第3の実施形態)
40 質量分析用デバイス(第4の実施形態)
50 質量分析用デバイス(第5の実施形態)
60 質量分析用デバイス(第6の実施形態)
70 質量分析用デバイス(第7の実施形態)
80 質量分析用デバイス(第8の実施形態)
90 被陽極酸化物質
100 質量分析装置
H 断熱層
I イオン化促進剤
L レーザ光
M 第2の金属層
S 被分析物質
W1 構造幅(孔径)
W2 開口幅(口径)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析用デバイスの供給面上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により前記質量分析用デバイスから脱離させ、イオン化された前記被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析方法に用いられる質量分析用デバイスにおいて、
複数の凹状微細構造を有する微細構造層を備え、
該複数の凹状微細構造が、前記供給面に開口を有するものであり、
該開口の開口幅が、前記凹状微細構造の構造幅よりも小さいことを特徴とする質量分析用デバイス。
【請求項2】
前記凹状微細構造が、微細孔であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析用デバイス。
【請求項3】
前記凹状微細構造が、前記被分析物質のイオン化を促進するイオン化促進剤を貯留するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の質量分析用デバイス。
【請求項4】
前記供給面がある側と反対側の前記微細構造層の面に隣接する断熱層を備えることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の質量分析用デバイス。
【請求項5】
前記供給面がある側と反対側の前記質量分析用デバイスの表面に金属層を備えることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の質量分析用デバイス。
【請求項6】
質量分析用デバイス上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により前記質量分析用デバイスから脱離させ、イオン化された前記被分析物質のマススペクトルを測定するレーザ脱離イオン化質量分析方法に用いられる質量分析用デバイスの作製方法において、
微細構造層前駆体の一つの面に開口を有するように、複数の凹状微細構造を形成し、
被覆材料を1以上の方向から、前記開口がある面に対して斜め蒸着することを特徴とする質量分析用デバイスの作製方法。
【請求項7】
前記微細構造層前駆体が、被陽極酸化物質であり、
前記複数の凹状微細構造として、前記被陽極酸化物質に陽極酸化処理を施すことにより、該陽極酸化処理を施した陽極酸化面に開口を有する複数の微細孔を形成することを特徴とする請求項6に記載の質量分析用デバイスの作製方法。
【請求項8】
前記斜め蒸着を行った後に、前記複数の凹状微細構造にエッチング処理を施すことを特徴とする請求項6または7に記載の質量分析用デバイスの作製方法。
【請求項9】
請求項1から5いずれかに記載の質量分析用デバイスと、
該質量分析用デバイス上に供給された被分析物質に、レーザ光を照射するレーザ光源と、
前記質量分析用デバイスを支持するデバイス支持部と、
前記レーザ光の照射により、前記質量分析用デバイスから脱離されイオン化された前記被分析物質を、該イオン化された被分析物質のm/z値に応じて分離する分析部と、
前記イオン化された被分析物質を検出する検出部と、
該検出部によって得られた検出データに基づいて、前記イオン化された被分析物質のマススペクトルを形成するデータ処理部とを備えることを特徴とするレーザ脱離イオン化質量分析装置。
(ここで、mはイオンの質量を統一原子質量単位で割って得られた無次元量、zはイオン化された被分析物質の電荷の価数である。)
【請求項10】
請求項1から5いずれかに記載の質量分析用デバイスを用いて、
該質量分析用デバイス上に供給された被分析物質を、レーザ光照射により前記質量分析用デバイスから脱離およびイオン化させ、
イオン化された前記被分析物質のm/z値に応じて、該イオン化された被分析物質を分離して検出し、
検出によって得られた検出データに基づいて、前記イオン化された被分析物質のマススペクトルを形成することを特徴とするレーザ脱離イオン化質量分析方法。
(ここで、mはイオンの質量を統一原子質量単位で割って得られた無次元量、zはイオン化された被分析物質の電荷の価数である。)

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2010−71664(P2010−71664A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236247(P2008−236247)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】