説明

赤外線イメージセンサ及び信号読み出し方法

【課題】自己発熱量を十分に補償しつつ、感度を確保することができる赤外線イメージセンサ及び信号読み出し方法を提供する。
【解決手段】赤外線を検出する赤外線イメージセンサであって、複数の画素を配列した画素領域及び少なくとも一つのリファレンス画素を有する受光部12と、画素領域に含まれる1つの画素の信号とリファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号を取得する差分回路と、第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号を算出する画素信号算出部と、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線イメージセンサ及び信号読み出し方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線イメージセンサとして、温度によって抵抗値が変化する材料を用いて赤外線を検知する熱型の検出器が知られている(例えば特許文献1,2参照。)。特許文献1記載の検出器は、いわゆるボロメータ型の赤外線検出器であって、入射された赤外線を感知する感熱抵抗体からなる画素が複数2次元状に配列されて構成されている。この赤外線検出器には全ての画素ごとに当該画素用のリファレンス画素が設けられており、画素の信号とリファレンス画素の信号との差分を取ることによって赤外線検出器を取りまく環境変化による影響を補償する。
【0003】
特許文献2記載の赤外線検出器は、入射された赤外線を感知する感熱抵抗体からなる画素が複数2次元状に配列されて構成されている。この赤外線検出器には画素列ごとにリファレンス画素が設けられており、画素の信号とリファレンス画素の信号との差分を取ることによって画素に電流を流す際の自己発熱によるダイオード温度上昇を補償する。すなわち、画素列に含まれる複数の画素に対する自己発熱の補償を、1つのリファレンス画素を用いて行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−227689号公報
【特許文献2】特開平2001−215152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の赤外線イメージセンサは、全ての画素に隣接してリファレンス画素を設ける必要があるため、同一の画素領域を有する赤外線イメージセンサと比較して開口率が小さくなり感度が低下する。特許文献2記載の赤外線イメージセンサは、画素列に対して一つのリファレンス画素を設けるため感度を保つことはできるが、自己発熱を適切に補償することができないおそれがある。例えば、画素列1ラインを読み取る場合、検出用の画素についてはそれぞれ1回だけ通電されて情報が読み取られるが、リファレンス画素については画素数分通電されて情報が読み取られる。したがって、リファレンス画素の自己発熱量が検出用の画素の自己発熱量と比較して大きくなり、自己発熱を適切に補償することができない場合がある。
【0006】
そこで本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、自己発熱量を十分に補償しつつ、感度を確保することができる赤外線イメージセンサ及び信号読み出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る赤外線イメージセンサは、赤外線を検出する赤外線イメージセンサであって、複数の画素を配列した画素領域及び少なくとも一つのリファレンス画素を有する受光部と、画素領域に含まれる1つの画素の信号とリファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号を取得する差分回路と、第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号を算出する画素信号算出部と、を備えて構成される。
【0008】
本発明に係る赤外線イメージセンサでは、画素領域に対して少なくとも1つのリファレンス画素が配置される。このためセンサの感度を確保することができる。さらに、差分回路により画素領域に含まれる1つの画素の信号とリファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号が取得され、画素信号算出部により第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号が算出される。このように、画素間の差分信号を用いることで、画素領域に含まれる画素全てと1つのリファレンス画素とを比較する必要がなくなるため、リファレンス画素の自己発熱量と検出用の画素の自己発熱量との差分を小さくすることができる。よって、自己発熱量を十分に補償しつつ、感度を確保することができる。
【0009】
ここで、所定の2つの画素は、それぞれの一端が互いに接続されて直列に接続され、かつそれぞれの他端が異なる電位に接続され、差分回路は、所定の2つの画素の接続点における電位と所定の電位との差分に基づいて第2差分信号を取得してもよい。あるいは、所定の2つの画素は、それぞれの一端が異なる抵抗と接続されてそれぞれが抵抗と直列に接続され、かつそれぞれの他端が同一の電位に接続され、差分回路は、所定の2つの画素と抵抗とのそれぞれの接続点における電位の差分に基づいて第2差分信号を取得してもよい。このように構成することで、所定の2つの画素における差分信号である第2差分信号を容易に算出することができる。
【0010】
また、画素領域は、少なくとも一つの画素列からなり、リファレンス画素は、少なくとも一つの画素列の一端に配置されていてもよい。このように構成することで、赤外線イメージセンサの感度に影響しないようにリファレンス画素を配置することができる。
【0011】
また、画素領域は、少なくとも一つの画素列からなり、リファレンス画素は、少なくとも一つの画素列の両端に配置されていてもよい。このように構成することで、例えば2つのリファレンス画素それぞれを基準とした画素の信号を求めて平均化することにより自己発熱による影響を一層低減させることができる。
【0012】
また、所定の2つの画素は、隣接する画素であることが好適である。このように構成することで、使用環境における温度変化が与える影響や、素子形成面内の異なる位置における特性のバラツキが与える影響を低減することができる。
【0013】
また、本発明に係る信号読み出し方法は、少なくとも一つの画素列からなる画素領域、及び、画素列の一端に配置されたリファレンス画素を2つ有する受光部を備える赤外線イメージセンサにおける信号読みだし方法であって、画素領域に含まれる1つの画素の信号とリファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号を取得する差分信号取得ステップと、第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号を算出する画素信号算出ステップと、を備え、差分信号取得ステップは、第1のリファレンス画素を起点として隣接する画素を辿るように第1差分信号及び第2差分信号を取得するとともに、第2のリファレンス画素を起点として隣接する画素を辿るように第1差分信号及び第2差分信号を取得し、画素信号算出ステップは、第1のリファレンス画素を起点として得られた第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号を算出するとともに、第2のリファレンス画素を起点として得られた第1差分信号及び第2差分信号に基づいて画素の信号を算出し、算出された2つの結果に基づいて画素の信号を算出することを特徴として構成される。
【0014】
本発明に係る信号読み出し方法によれば、2つのリファレンス画素を用いて第2差分信号を2つ算出し、2つのリファレンス画素それぞれを基準とした画素の信号を求めて平均化することにより自己発熱による影響を一層低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自己発熱量を十分に補償しつつ、感度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る赤外線イメージセンサの構成概要図である。
【図2】図1の受光部の一部拡大平面図である。
【図3】図1の受光部におけるボロメータ素子の斜視図である。
【図4】図1の受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【図5】図4に示す赤外線イメージセンサの第1の信号読み取り動作を説明するフローチャートである。
【図6】図4に示す赤外線イメージセンサの第2の信号読み取り動作を説明するフローチャートである。
【図7】図5に示す動作実行時における自己発熱による温度上昇量の時間依存性を説明する概要図である。
【図8】図6に示す動作実行時における自己発熱による温度上昇量の時間依存性を説明する概要図である。
【図9】第2実施形態に係る赤外線イメージセンサの受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【図10】図9に示す赤外線イメージセンサの信号読み取り動作を説明するフローチャートである。
【図11】第3実施形態に係る赤外線イメージセンサの受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【図12】図11に示す赤外線イメージセンサの信号読み取り動作を説明するフローチャートである。
【図13】第4実施形態に係る赤外線イメージセンサの受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【図14】第5実施形態に係る赤外線イメージセンサの受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【図15】第6実施形態に係る赤外線イメージセンサの受光部の各行における差分検出回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の実施形態に係る赤外線イメージセンサは、温度によって抵抗値が変化する材料を用いて赤外線を検出する、いわゆるボロメータ型の赤外線イメージセンサであって、赤外イメージャやサーモグラフィー等に好適に用いられるものである。最初に、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの構成を説明する。図1は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの構成概要図、図2は、図1の受光部の一部を拡大した平面図、図3は、図1の受光部の1画素の構成を示す斜視図である。
【0019】
図1に示すように、赤外線イメージセンサ1は、赤外線を熱変化により検出する検出器であって、赤外線受光器として機能する受光部12を備えている。受光部12は、m列×n行の複数の画素を配列させた画素領域を有する2次元赤外線センサアレイとして構成されている。受光部12の各行には、積分アンプ21がそれぞれ接続されている。積分アンプ21それぞれには、積分アンプ21から出力されたアナログ信号を保持するサンプル/ホールド回路22がそれぞれ接続されている。サンプル/ホールド回路22には、スイッチ回路23及びA/D変換器24が順に接続されている。スイッチ回路23は、サンプル/ホールド回路22の出力を順次選択して、A/D変換器24へ出力する。A/D変換器24は、スイッチ回路23により選択された各行の画像信号をデジタル変換し、デジタル出力を図示しないメモリに格納する。メモリに格納されたデジタル出力は、図示しない信号処理部で信号処理されて画像イメージが構築され、画像表示回路又は画像演算回路に送られる。なお、図1では、全ての行の信号をスイッチ回路23で切り替えて1つのA/D変換器24でデジタル変換する例を示しているが、行全体をいくつかのブロックに分けてブロック毎にスイッチ回路23及びA/D変換器24を設けてもよい。この場合、高速なA/D変換器24を必要としない。または、行ごとにA/D変換器24を設けてスイッチ回路23を不要としてもよい。
【0020】
図2に示すように、受光部12は、基板10上に複数の画素(ボロメータ素子11)を2次元アレイ化することにより形成され、いわゆる表面マイクロマシンとされている。画素を構成するボロメータ素子11は、図3に示すように、基板10の表面に形成されたROIC(Read Only IC)パッド16,17と、ROICパッド16,17上にそれぞれ形成された電極プラグ18,19と、基板10の表面から離間して配置されたボロメータ薄膜15とを備えて構成されている。
【0021】
ROICパッド16,17は、導電性を有する矩形状のパッドであり、信号処理回路部(不図示)と電気的に接続されている。電極プラグ18,19は、ROICパッド16,17上に積層方向に延びるように略円柱状に形成され、ROICパッド16,17と電気的に接続されている。電極プラグ18,19は、導電性を有する材料からなり、例えばAlが用いられる。
【0022】
ボロメータ薄膜15は、基板10と略平行に配置された薄膜であって、赤外線を受光する矩形平面の受光部15aと、受光部15aの角部15b,15cに形成された梁部15d,15eとを有している。梁部15d,15eは、角部15b,15cを起点に受光部15aの外周に沿って延び、対向して形成されている。そして、受光部15aと梁部15d,15eとの間は、スリットを介してそれぞれ空間的に隔てられており、熱的に分離されている。ボロメータ薄膜15は、温度変化による抵抗率変化が大きい材料が用いられ、例えば、アモルファスシリコンが用いられる。
【0023】
また、ボロメータ薄膜15の梁部15d,15eには、受光部15aと電気的に接続される配線が、梁部15d,15eの形状に沿って設けられている。そして、図3に示すように、ボロメータ薄膜15は、梁部15d,15eのそれぞれの一端部が電極プラグ18,19と接続することで基板10の表面上に支持されており、ボロメータ薄膜15と基板10との間には、空隙が画成されている。そして、梁部15d,15eの配線が電極プラグ18,19にそれぞれ電気的に接続されている。これにより、配線は、電極プラグ18,19及びROICパッド16,17を介して回路部と電気的に接続されている。また、ボロメータ素子11の基板10の表面において、ボロメータ薄膜15と対向する領域には、反射膜20が積層されている。この反射膜20は、赤外線に対する反射率が大きい金属が用いられる。
【0024】
このように、ボロメータ素子11は、ボロメータ薄膜15が基板10の表面から離間して基板10と略平行に配置される構成(メンブレン構成)とされ、ボロメータ薄膜15と基板10との間は、空隙により空間的に隔てられて熱的に分離された構成とされている。そして、ボロメータ薄膜15の受光部15aの温度変化による抵抗率変化を、配線、電極プラグ18,19及びROICパッド16,17を介して回路部で読み取ることができる構成とされている。
【0025】
図4は、受光部12の各行における積分アンプ21までの回路(差分回路)を詳細に示す回路図である。図4に示すように、受光部12の1ライン部分は、m(m:整数)個の画素センサPと1個のリファレンスセンサP、及び所定の2つの画素センサP,P(x,y:整数)を積分アンプ21と接続するためのスイッチSを備えて構成される。すなわち、リファレンスセンサPは、画素列ごとに1つ設けられている。リファレンスセンサPは、例えば画素列の一端部に配置されている。リファレンスセンサPは、各画素センサPと同じ環境で形成されたセンサであって、各画素センサPと同様の構造を有しており、赤外光に対して感度を有しない点が、画素センサPと相違する。リファレンスセンサPは、例えば、赤外線に対して遮光する機能を有する、又は、画素センサPには通常備えている赤外線吸収膜を備えない構成とされている。なお、リファレンスセンサPのみ、一端部にスイッチSが接続され、他端部にスイッチSが接続されている。リファレンスセンサPは、スイッチSによって電源電位Vへもグランド電位(GND:電位0[V])へも接続可能に構成されている。なお、スイッチSによって接続される所定の2つの画素センサP,Pは、例えば画素センサP,P間の距離が500[μm]以下の範囲となるものが選択される。所定の2つの画素センサP,Pは、より好ましくは隣接しているものが採用される。第1実施形態では説明理解の容易性を考慮して、所定の2つの画素センサP,Pは隣接しているものとして説明する。
【0026】
隣り合う画素センサPn−1,P(n:整数)は、その一端部が交互に電源電位Vとグランド電位0[V]とに接続されている。任意の隣り合う2つの画素センサPn−1,PをスイッチSn−1,Sで接続すると、電源電位Vとグランド電位0[V]の間に、2つの画素センサPn−1,Pが直列に接続される。2つの画素センサPn−1,Pの接続点が、積分アンプ21の−入力端に接続されている。積分アンプ21は、電流検出型の積分アンプである。積分アンプ21の+入力端にはリファレンス電圧V(ここではV=V/2)が入力されている。例えば、スイッチS1,をONとすると、画素センサPと画素センサPとが積分アンプ21に繋がり、画素センサP及び画素センサPに流れる電流の差分が積分アンプ21の積分容量Cに蓄積される。このように、本実施例では、常に隣り合う画素センサPがスイッチSにより接続されて、その差分信号が積分アンプ21により積分されて電圧信号として出力されるように構成されている。
【0027】
次に、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの動作について説明する。本実施形態に係る赤外線イメージセンサの信号取得動作は2通り存在する。図5は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの第1の信号取得動作を示すフローチャートである。図5に示す制御処理は、例えば赤外線イメージセンサの電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。なお、図5に示す制御処理は、赤外線イメージセンサに備わる制御部(不図示)により実行されるものである。制御部は例えばCPU等の演算処理部を備えている。
【0028】
最初に、制御部は初期処理を実行する(S10)。S10の処理では制御部が処理順番を規定するカウント値n(n:整数)を1に設定する。その後、制御部は差分回路前処理を実行する(S12)。S12の処理では、制御部が、隣り合う画素センサPn−1及び画素センサPの差分信号Vを得るための初期処理として、図4に示すように、積分アンプ21の負帰還部に取り付けられたスイッチSをONとし、積分容量Cに蓄えられた電荷を放出し、その後スイッチSをOFFとする。S12の処理が終了すると、差分信号取得・記憶処理へ移行する(S14)。
【0029】
S14の処理では、制御部が、隣り合う画素センサPn−1及び画素センサPの差分信号Vを取得する。制御部は、スイッチSn−1とスイッチSをONとし、画素センサPn−1と画素センサPを直列に接続し、積分アンプ21にて差分信号を積分する。制御部は、積分時間s秒後、積分アンプ21の出力の出力電圧をVとして、サンプル/ホールド回路22に取り込む。なお、n=1のときのみ、スイッチSをGND側に切り替えて、リファレンスセンサPと画素センサPとの差分信号Vを取得する。S14の処理が終了すると、カウント処理へ移行する(S16)。
【0030】
S16の処理では、制御部が、カウント値nをカウントアップする。S16の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S18)。
【0031】
S18の処理では、制御部が、S18の処理でカウントしたカウント値nが画素数mよりも大きいか否かを判定する。S18の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きくないと判定した場合には、差分回路前処理へ再度移行する(S12)。このように、全ての隣り合う画素センサPn−1及び画素センサPの差分信号Vを取得するまで、S12〜S18の処理を繰り返し実行する。なお、制御部は、繰り返し動作を1フレームの時間内に収まるように実行し、差分信号VからVまでをサンプル/ホールド回路22に取り込む。また、サンプル/ホールド回路22に蓄えられた各画素センサP間の差分信号Vは、スイッチ回路23によりA/D変換器24に送られ、デジタル信号に変換後、メモリに記憶されていく。
【0032】
一方、S18の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きいと判定した場合には、全ての画素センサについて差分信号Vを取得したことになるので、絶対値信号算出処理へ移行する(S20)。
【0033】
S20の処理では、制御部がS14の処理で取得された差分信号Vを用いて絶対値信号を算出する。なお、この部分は制御部に含まれる画素信号算出部が実行する。各差分信号V、V、V、…、Vは、差分信号VのみがリファレンスセンサPとの差分信号である。このため、差分信号V(第1差分信号)のみ、画素センサPが受光した赤外線の光量に比例した信号を得ることができる。しかし、差分信号V以降は、隣の画素センサとの赤外線量の差分信号(第2差分信号)となる。よって、全体の画像を取得するためには演算する必要がある。各画素センサにおける赤外線光量に比例した信号をそれぞれ、M、M、M、…、Mとすると、Vは以下のように表現することができる。
【数1】

【0034】
上式より、画素センサPの絶対値信号Mを求めるには、V−Vを計算すればよい。また、絶対値信号Mを算出した後であれば、絶対値信号Mは、絶対値信号M+差分信号Vによって算出することができる。以後、順次足し算及び引き算を施すことで、全ての画素センサPの絶対値を以下のように求めることができる。
【数2】


なお、これらの計算は単純な足し算と引き算であり、ソフトウェアでもハードウェアでもリアルタイムで計算することは十分可能である。S20の処理が終了すると、図5に示す制御処理を終了する。
【0035】
以上で図5に示す制御処理を終了する。図5に示す制御処理を実行することで、隣り合う画素センサが接続された部分がアンプに繋がり、その差分信号が取得される。画素列の全体の長さは数[mm]となるため、ライン全体では画素センサの抵抗値に数%程度のバラツキが生ずる。しかしながら、隣接する画素センサ間であれば例えば数10[um]程度しか離れていないため、素子形成時の半導体プロセス上の環境はほぼ等しくなり、接続される2画素センサ間の特性上の差異はほとんどない。そのため、無入力状態では、その分圧電圧はV/2となり、出力にオフセットは生じない。すなわち、半導体プロセスのバラツキの影響をほとんど受けない状態で画素間の差分信号を取得することが可能であるため、周囲温度の変化により発生するオフセットをほとんどゼロにすることができる。
【0036】
また、図5に示す制御処理を実行することで、リファレンスセンサPは1フレームの間に1回だけ通電される。したがって、全ての画素センサと接続されて複数回通電されることによってリファレンスセンサPのみ自己発熱が極端に大きくなることを回避することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの第2の信号取得動作を説明する。図6は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの第2の信号取得動作を示すフローチャートである。図6に示す制御処理は、例えば赤外線イメージセンサの電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。なお、図6に示す制御処理は、赤外線イメージセンサに備わる制御部(不図示)により実行されるものである。制御部は例えばCPU等の演算処理部を備えている。
【0038】
最初に、制御部は初期処理を実行する(S30)。S30の処理は、図5のS10の処理と同様であり、カウント値nを1に設定する。その後、制御部は差分回路前処理を実行する(S32)。S32の処理は、S12の処理と同様であり、制御部が積分容量Cに蓄えられた電荷を放電する。S32の処理が終了すると、差分信号取得・記憶処理へ移行する(S34)。S34の処理は、S14の処理と同様であり、制御部が積分時間sで差分信号Vを取得して記憶する。S34の処理が終了すると、カウント処理へ移行する(S36)。
【0039】
S36の処理では、制御部が、カウント値nをカウントアップする。ここで、制御部はカウント値nに2を加算する。S36の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S38)。
【0040】
S38の処理は、S18の処理と同様であり、制御部はS36の処理でカウントしたカウント値nが画素数mよりも大きいか否かを判定する。S38の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きくないと判定した場合には、差分回路前処理へ再度移行する(S32)。そして、S34の処理でn+2番目の差分信号Vを積分時間sで取得する。このように、S36の処理でカウント値を2ずつ加算し、カウント値nが画素数mよりも大きくなるまで、差分信号V,V,V、Vm−1のように差分信号Vの添え字の奇数番目のみ順次取得する。なお、制御部は、繰り返し動作を1/2フレームの時間内に収まるように実行し、取得した差分信号Vをサンプル/ホールド回路22に取り込む。制御部は、繰り返し動作を1/2フレームの時間内に収まるように実行するために、画素数mに2を加算したm+2で1フレーム時間を割って求まる時間Tに対して差分信号の積分時間sを等しいかあるいは短く設定する。
【0041】
一方、S38の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きいと判断した場合には、偶数判断処理へ移行する(S40)。S40の処理において、カウント値nが偶数でないと判断した場合には、ダミー通電処理へ移行する(S44)。
【0042】
S44の処理では、制御部が図4に示すリファレンスセンサPと画素センサPとを接続する。このときスイッチSを、電源V側に接続する。S44の処理は、画素列の両端に配置されたセンサの通電回数を等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。以下、詳細を説明する。上述した第1の信号取得動作では、上記の差分信号Vを算出する式から理解することができるように、各画素センサPは1ラインの中で2回通電される。例えば、画素センサPは、差分信号Vを取得するとき及び差分信号Vを取得するときに通電される。このため、第1の信号取得動作では、リファレンスセンサP及び画素センサPの通電回数だけが他の画素センサの通電回数と異なる結果となる。すなわち、リファレンスセンサPは差分信号Vを取得するときの1回だけ、画素センサPは差分信号Vの信号を取得するときの1回だけの通電となる。このため、第2の信号取得動作では、信号取得のための通電以外に、リファレンスセンサPと画素センサPとを接続した通電目的のみの操作も追加し、リファレンスセンサP及び画素センサPも他の画素センサと同じように2回通電されるようにする。S44の処理で全ての画素で同じ自己発熱となる。S44の処理が終了すると、時間調整処理へ移行する(S45)。
【0043】
S45の処理では、制御部が1/2フレーム時間に達するまで待機する処理である。各差分信号の取得は短時間で終了することもあるが、自己発熱の放熱をしてから後半(偶数番目)の差分信号の取得をするためである。この処理により、後半の信号取得処理開始を1/2フレーム経過まで遅延させ、前半(奇数番目)の信号取得により発熱した素子を十分放熱させることができる。なお、待ち時間が0時間となることもある。前半及び後半のトータルの信号取得時間をそれぞれ1/2フレーム時間に設定することが好ましい。又は、ダミーセンサPを配置して、PとPとのダミー通電を独立に行ってもよい。S45の処理が終了すると、カウントリセット処理へ移行する(S46)。
【0044】
S46の処理では、制御部がカウント値nを2に設定する。すなわち、偶数から開始するように設定する。なお、上述のように積分時間sを設定しているため、奇数番目の差分信号の取得とダミー通電は1フレーム時間の前半1/2フレーム時間内に終了し、差分信号Vの信号取得を差分信号Vの信号取得から1/2フレーム時間遅らせた時刻に開始することができる。S46の処理が終了すると、差分回路前処理へ再度移行する(S32)。そして、制御部は、S34の処理で差分信号Vを取得し、S36の処理でカウント値nに2を加算し、S38の処理で、S36の処理においてカウントされたカウント値nが画素数mよりも大きいか否かを判定する。S38の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きくないと判定した場合には、差分回路前処理へ再度移行する(S32)。そして、S34の処理でn+2番目の差分信号Vを取得する。このように、S36の処理でカウント値を2ずつ加算し、カウント値nが画素数mよりも大きくなるまで、差分信号V,V,V、Vのように差分信号Vの添え字の偶数番目のみ順次取得する。一方、S38の処理でカウント値nがmより大きいと判定した場合には、偶数判断処理へ移行する(S40)。S40の処理において、カウント値nが偶数でないと判断した場合には、絶対値信号算出処理へ移行する(S42)。
【0045】
S42の処理では、画素信号算出部がS34の処理で取得された差分信号Vを用いて絶対値信号Mを算出する。なお、この処理はS20の処理と同様である。S42の処理が終了すると図6に示す制御処理を終了する。
【0046】
以上で図6に示す制御処理を終了する。図6に示す制御処理を実行することで、図5に示す制御処理を実行する場合と同様に、半導体プロセスのバラツキの影響をほとんど受けない状態で画素間の差分信号を取得することができるため、周囲温度の変化により発生するオフセットを、ほとんどゼロにすることが可能となる。
【0047】
また、図6に示す制御処理を実行することで、リファレンスセンサPは1フレームの間に2回通電される。したがって、全ての画素センサと接続されて複数回通電されることによってリファレンスセンサPのみ自己発熱が大きくなることを回避することができるとともに、リファレンスセンサPの通電回数と画素センサの通電回数を等しくすることができる。
【0048】
さらに、図6に示す制御処理を実行することによって、奇数番目の差分信号Vが取得された後に偶数番目の差分信号Vが取得される。このように通電することによって、一度通電された画素センサを連続で通電することを回避することができる。すなわち、自己発熱の放熱時間を確保することが可能となるため、放熱後の画素センサを用いて差分信号を取得することができる。
【0049】
以下では自己発熱の放熱時間について図7,8を用いて詳細に説明する。図7は、図5に示す順次信号取得時における画素センサごとの温度上昇量の時間依存性を示し、図8は、図6に示す偶奇順信号取得時における画素センサごとの温度上昇量の時間依存性を示している。図7に示すように、差分信号の取得をV、V、V…の順で行うと、1個前の信号取得時に片側の画素センサが通電されているため、既に通電された画素センサとまだ通電されていない(実際には、1フレーム前に通電されているが、時定数に対して長い時間が経過しており、放熱はほとんど完了している)センサとの差分信号を取得することになるため、自己発熱の温度上昇量を完全にキャンセルすることはできない。
【0050】
自己発熱の温度上昇量は、画素センサの抵抗において消費される電力に比例する。この電力をP[W]、センサの熱コンダクタンスをG、センサの熱容量をC、センサの時定数をτ=C/G、通電開始からの時間をtとすると、t時間後に到達する自己発熱による温度上昇dTは、以下の式1で表される。
【数3】

【0051】
すなわち、上記式1で表される温度上昇がオフセットとして信号に上乗せされることになる。オフセット分が実際の信号に対してどの程度の大きさになるかを見積もると以下のようになる。例えば、320×240の画素数のイメージセンサとし、各行に積分アンプ21を配置してスイッチSで切り替えて画素センサPの信号を読み取るとする。この場合、1フレームの1/320の時間内、すなわち、33[msec]/320=約100[usec]内に読み取る必要がある。このため、積分時間sは約100[usec]以下の値となる。この時間をsとし、τは1フレームの1/3、すなわち、10[msec]程度に設定すれば、s/τ<<1となる。このため、上記式1を積分した式は、近似式として以下の式2で与えられる。
【数4】

【0052】
一方、信号の発熱に寄与するエネルギーをP[W]、その温度上昇分をdTとすると、時間sでの積分された信号分は、以下の式3となる。
【数5】


よって、得られる信号(トータルの温度上昇分)dTは、以下の式4となる。
【数6】


上記式4の括弧[]内の第2項が、自己発熱によるオフセットであり、これが、第1項の信号分に対して、どの程度の大きさかが重要となる。
【0053】
例えば、F値1.0のレンズを用いて、画素サイズ50[um]の検出器に集光されるエネルギーは、人体36[℃]から発せられる赤外線に対しては、数10[nW]程度である。検出器の抵抗を100[kΩ]とし、両端に2V印加した場合には、電力Pは以下の式5となる。
【数7】


積分時間sを最大の積分時間100[usec]とすると、s/τ=0.01となるので、オフセットは以下の式6となる。
【数8】


式6に示すように、発熱に寄与するエネルギーPに対して1桁大きくなり無視できない。印加電圧又は抵抗は設計の範囲で変更することが可能である。しかし、このような手法で自己発熱を下げることは、検出器に流す電流も下げることを意味し、信号電力を小さくなる。このため、他の雑音に対するマージンが小さくなる。よって、信号電力と同等の自己発熱発生は、避けられないのが実状である。通電解除後は、自己発熱によって発生した温度上昇は同じ時定数τで降下していき、時間t秒後の温度上昇分は、以下の式7で表される。
【数9】

【0054】
ここで、図8に示すように、本実施形態に係る赤外線イメージセンサでは、奇数番目と偶数番目にグループ分けして通電することで、連続して通電することを回避し放熱時間を確保している。信号の積分時間sは、1フレーム時間を画素数+2で割った時間Tに対して等しいかあるいは短く設定されている。これにより、奇数番目の差分信号V取得と、ダミー通電(差分信号Vの取得)は、1フレーム時間の前半1/2フレーム時間内に終了し、差分信号Vの信号取得を差分信号Vの信号取得から1/2フレーム時間遅らせた時刻に開始することができる。この遅延時間をTとすると、差分信号V取得開始時点において、画素センサPは、遅延時間T時間前にリファレンスセンサPと共に差分信号Vの信号取得のために通電を開始し、T−s時間前に通電を完了した状態となるため、画素センサPの自己発熱による温度上昇分は、時定数τで、T−s時間分放熱される。この時の放熱し切れなかった分は、式7より計算でき、約20%程度オフセットとして残る。
【0055】
差分信号Vの信号取得では、画素センサPと画素センサPの差分を取得するので、画素センサPの自己発熱残存分も考慮しなければならない。画素センサPは、最初の画素センサPの通電後s時間後に、差分信号V取得のために通電を開始し、2・s時間後に通電を完了した状態となるため、差分信号V取得開始時間に対しては、T−2・s時間分、自己発熱が放熱される。この放熱時間は、画素センサPと時間sだけ差があるが、NTSC(National Television System Committee)におけるビデオレートの場合、遅延時間Tは約16[msec]で、sは0.1[msec]以下であるので、その差は非常に小さく、画素センサPの自己発熱残存分もほぼ20%と考えてよい。さらに、差分信号V取得時では、画素センサPと画素センサPとの差分を計算するため、s時間分の差を除き、自己発熱の残存分もキャンセルすることができる。なお、全ての画素センサPとリファレンスセンサPとを比較する従来の手法では、積分時間sを短くしても信号取得間隔Tを短くすることは、リファレンスセンサPの自己発熱の放熱が行われなくなるためできない。一方、本実施形態に係る赤外線イメージセンサでは、同じ素子に連続で通電することを回避しているため、積分時間sと信号取得間隔Tとを同じにすることができる。積分時間sと信号取得間隔Tとを同一とする方が、二つのセンサの自己発熱残存分を近づけることができる。この自己発熱分のキャンセル機構を図で示したものが図8となる。
【0056】
次に、上述したキャンセル機構を式で説明する。最初に差分信号V取得のために通電された画素センサPは、積分時間s経過後、通電OFFとなり、放熱が開始される。通電OFF後の自己発熱分のオフセットは、式7で与えられるが、式7のtがT−s経過した時に、再び、差分信号V取得のために通電され、積分時間sの間積分された分が信号のオフセットとなる。オフセットの大きさは、式8で与えられる。
【数10】

【0057】
一方、差分信号V取得時に同時に通電される画素センサPは、T−s時間前に通電され、T−2・s時間前に通電OFFされている。この場合のオフセットの大きさは、式9で与えられる。
【数11】

【0058】
差分信号V取得時は、この差分がオフセットとなるので、最終的な信号に重畳されるオフセット分は、以下の式10で与えられる。
【数12】

【0059】
ここで、対比のために、全ての画素センサPとリファレンスセンサPとの差分信号を取得する場合を説明する。1フレームの時間を1ラインの画素数で割った時間をTとすると、T時間ごとに画素の読み取りを行わなければならないため、リファレンス画素Pには、T時間毎に通電による自己発熱が発生する。ある画素で通電開始する瞬間を考えると、T時間前、2T時間前、3T時間前…の各時間において発生した温度上昇の放熱しきれなかった分がオフセットdToffとして残る。オフセットdToffは以下の式11で表される。
【数13】


なお、上記式11では時間Tはτに対して十分短い時間であるという近似を行っている。s時間での積分により積算されるオフセット分は、式11に時間sを乗じた値となる。全ての画素センサPとリファレンスセンサPとの差分信号を取得する手法では、式4で示された括弧[]内の第2項は消去されるが、式11で示される項が新たに加わるため、結局、オフセットは次式となる。
【数14】

【0060】
第1実施形態の手法(すなわちリファレンスセンサPと画素センサPとの差分信号及び画素センサP間の差分信号を用いる手法)と、全ての画素センサPとリファレンスセンサPとの差分信号を取得する手法とを対比する。式10で与えられるオフセット分の括弧[]内の項と、他の方式で与えられる式12や式4の括弧[]内の第2項を比較する。まず、式10で与えられるオフセット分の括弧[]内の項は、式12で与えられるオフセット分より小さいのは明らかである。一方、第1実施形態の手法では、遅延時間Tが1/2フレーム時間、τが1/3フレーム時間程度であることを考えると、積分時間sを100[usec]とした場合であってもオフセットは、Exp(−T/τ)*(s/τ)≒0.22*0.1[ms]/10[ms]〜0.0022となる。このため、式4の0.5*P*(s/τ)に対し、0.002*P*(s/τ)となり、1/250のオフセットとなる。
【0061】
式6で示したように、体温36[℃]の人体からの信号に対する画素への入射エネルギー数10[nW]に対し、式12では200[nW]という無視できない自己発熱によるオフセットがあった。これに対して、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサでは、1[nW]以下のオフセットに抑えることができる。これは、積分アンプ21のダイナミックレンジを圧迫するほどの大きさではなく、十分校正値としてあらかじめ取得しておき、除去できる量になる。
【0062】
なお、リファレンスセンサPと最終画素センサPは、ダミー通電(差分信号V取得)を行うことで通電を2回行うが、他の画素と異なり、隣接する画素同士の通電ではない。そのため、半導体プロセスでの面内バラツキ数%の特性差が生ずる可能性がある。しかし、ダミー通電は通電することにのみに意味があり、信号取得時と同じ条件で自己発熱が発生するかどうかが重要となる。本実施形態の差分回路からわかるように、センサが接続される積分アンプ21のマイナス入力は、イマジナリショートにより常に電圧V=V/2となる。このため、素子の両端に印加される電圧は、どの素子同士を接続しても常に同じ状態となる。よって、リファレンスセンサPは、画素センサPと接続されるときも、最終画素センサPと接続されるときも同じ量の自己発熱が発生することになり、本実施形態の自己発熱のキャンセル機構は有効に働くことになる。
【0063】
また、上記の例では、積分時間sを100[usec]とし、各画素の信号取得に必要な最大時間間隔Tを100[usec]と同じにした。積分時間sは、S/N比をよくするためには、長い方がよい。しかし、他の雑音と信号との間である程度のマージンがあれば、積分時間sを短くすることができる。この場合、式4や、式12で与えられる他の方法では、自己発熱のオフセットは、積分時間sの長さに比例して小さくなる。これに対して、本実施形態に係る方式では、式10に示すとおり、オフセット分は積分時間sの2乗に比例して小さくなる。
【0064】
以上、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、画素間の差分信号を用いることで、画素領域に含まれる画素全てと1つのリファレンス画素とを比較する必要がなくなるため、リファレンス画素の自己発熱量と検出用の画素の自己発熱量との差分を小さくすることができる。よって、自己発熱量を十分に補償しつつ、感度を確保することができる。このように、自己発熱による温度変化のハードウェア的な補償を、開口率を下げずに実現でき、低コストで小型な赤外線カメラの実現が可能となる。
【0065】
また、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、リファレンス画素を少なくとも一つの画素列の一端に配置するため、赤外線イメージセンサの感度に影響しないようにリファレンス画素を配置することができる。
【0066】
また、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、隣接する画素の差分信号を利用するため、使用環境における温度変化が与える影響や、素子形成面内の異なる位置における特性のバラツキが与える影響を低減することができる。
【0067】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る赤外線イメージセンサは、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサとほぼ同様に構成されるものであり、画素センサPに隣接するリファレンスセンサとして画素センサPm+1が配置され、さらに、ダミーのリファレンスセンサPが画素センサPの隣り、あるいは、画素センサPm+1の隣に配置されている点が相違する。以下では、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一の部分は説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0068】
本実施形態に係る赤外線イメージセンサの構成は、図1に示す第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一である。図9は、受光部12の各行における積分アンプ21までの回路(差分回路)を詳細に示す回路図である。図9に示すように、受光部12の1ライン部分は、m+1(m:整数)個の画素センサPm+1と1個のリファレンスセンサP、1個のダミーのリファレンスセンサP及び所定の2つの画素センサP,P(x,y:整数)を積分アンプ21と接続するためのスイッチS,Sm+1を備えて構成される。すなわち、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサの回路に比べて、ダミーのリファレンスセンサP及びリファレンスセンサとして機能する画素センサPm+1が追加された点、リファレンスセンサPのみ、一端部にスイッチSが接続され他端部にスイッチSが接続されている点が相違し、その他の部分は同一である。
【0069】
次に、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの信号取得動作を説明する。図6は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの第2の信号取得動作を示すフローチャートである。図6に示す制御処理は、例えば赤外線イメージセンサの電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。なお、図6に示す制御処理は、赤外線イメージセンサに備わる制御部(不図示)により実行されるものである。制御部は例えばCPU等の演算処理部を備えている。
【0070】
最初に、制御部は初期処理を実行する(S50)。S50の処理は、図5のS10の処理と同様であり、カウント値nを1に設定する。その後、差分回路前処理へ移行する(S56)。
【0071】
S56の処理は、S12の処理と同様であり、制御部が積分容量Cに蓄えられた電荷を放電する。S56の処理が終了すると、差分信号取得・記憶処理へ移行する(S58)。S58の処理は、S14の処理と同様であり、制御部が積分時間sで差分信号Vを取得して記憶する。S58の処理が終了すると、カウント処理へ移行する(S60)。
【0072】
S60の処理では、制御部が、カウント値nをカウントアップする。ここで、制御部はカウント値nに2を加算する。S60の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S62)。
【0073】
S62の処理は、S18の処理と同様であり、制御部はS60の処理でカウントしたカウント値nが画素数mよりも大きいか否かを判定する。S62の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きくないと判定した場合には、差分回路前処理へ移行する(S56)。その後、S58の処理でn+2番目の差分信号Vを積分時間sで取得する。このように、S60の処理でカウント値を2ずつ加算し、カウント値nが画素数mよりも大きくなるまで、差分信号V,V,V、Vm−1のように差分信号Vの添え字の奇数番目のみ順次取得する。なお、制御部は、繰り返し動作を1/2フレームの時間内に収まるように実行し、取得した差分信号Vをサンプル/ホールド回路22に取り込む。
【0074】
一方、S62の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きいと判断した場合には、偶数判断処理へ移行する(S64)。S64の処理において、カウント値nが偶数でないと判断した場合には、ダミー通電処理へ移行する(S66)。S66の処理では、制御部が図9に示すダミーのリファレンスセンサPと画素センサPm+1とを接続する。このときスイッチSを、GND側に接続する。S66の処理は、画素センサPm+1の通電回数を他のセンサの通電回数と等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。S66の処理が終了すると、1/2フレーム経過するまで待機する処理へ移行する(S67)。この処理により、後半の信号取得処理開始を1/2フレーム経過まで遅延させ、前半の信号取得により発熱した素子を十分放熱させることができる。続いて、カウントリセット処理へ移行する(S68)。
【0075】
S68の処理では、制御部がカウント値nを2に設定する。すなわち、偶数から開始するように設定する。S68の処理が終了すると、ダミー通電処理へ移行する(S69)。S69の処理では、制御部が図9に示すダミーのリファレンスセンサPとリファレンスセンサPとを接続する。このときスイッチSを、電源V側に接続する。S69の処理は、リファレンスセンサPの通電回数を他のセンサの通電回数と等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。S69の処理が終了すると、差分回路前処理へ移行する(S56)。そして、制御部は、S58の処理で差分信号Vを取得し、S60の処理でカウント値nに2を加算し、S62の処理で、S60の処理においてカウントされたカウント値nが画素数mよりも大きいか否かを判定する。S60の処理において、カウント値nが画素数mよりも大きくないと判定した場合には、差分回路前処理へ再度移行する(S56)。そして、S58の処理でn+2番目の差分信号Vを取得する。このように、S60の処理でカウント値を2ずつ加算し、カウント値nが画素数mよりも大きくなるまで、差分信号V,V,V、Vのように差分信号Vの添え字の偶数番目のみ順次取得する。一方、S62の処理でカウント値nがmより大きいと判定した場合には、偶数判断処理を行う(S64)。
【0076】
ここまでの処理に関して、第1実施形態との違いを説明する。第1実施形態では、画素センサPとリファレンスセンサPを通電目的で接続し、2回の通電になるようにした。これに対して、本実施形態では、画素センサPはリファレンスセンサである画素センサPm+1と接続して、画素センサPと画素センサPm+1の差分信号Vm+1を取得する。これにより、画素センサPは、差分信号V取得時と、差分信号Vm+1取得時の2回通電される。一方、このままではリファレンスセンサP及び画素センサPm+1は1回だけの通電になるため、リファレンスセンサPとダミーのリファレンスセンサPを接続したダミー通電と、画素センサPm+1とダミーのリファレンスセンサPとを接続したダミー通電の2つの操作を追加して、全てのセンサで同じ自己発熱になるようにしている。なお、リファレンスセンサP及び画素センサPm+1を接続してリファレンスセンサPの通電回数を2回にすることも考えられるが、通電間隔を全てのセンサにおいて1/2フレーム時間にするために上記の通りとする。
【0077】
また、上述の通り、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、前半と後半にわけて、奇数番目の信号取得と偶数番目の信号取得を行う。S50〜S68の処理を実行することで、信号取得に関わるリファレンスセンサPへの通電は、前半の最初に行われ、後半の最後にリファレンスセンサPm+1への通電が行われる。全てのセンサに対し等間隔で通電を行うために、前半の最後にリファレンスセンサPm+1へのダミー通電を行い、後半の最初にリファレンスセンサPへのダミー通電を行う。この通電のために、ダミーのリファレンスセンサPが用いられる。なお、ダミー通電のとき、リファレンスセンサPを接続しなければ、リファレンスセンサPあるいはPm+1に流れる電流全てがアンプ側の積分容量に流れ込み、積分アンプ21が飽和することになる。積分アンプ21のマイナス入力は、イマジナリショートにより、電圧V=V/2になっているが、積分アンプ21が飽和するとイマジナリショートが働かなくなって、結果としてセンサに流れる電流が変化してしまう。このため、ダミーのリファレンスセンサPを設ける必要がある。ただし、積分アンプ21の電流供給能力が十分あれば、スイッチSをショートして積分アンプ21を飽和させないようにすることができるため、その場合には、ダミーのリファレンスセンサPを省略することが可能である。
【0078】
S62の処理でカウント値nがmより大きいと判定した場合には、偶数判断処理へ移行する(S64)。S64の処理において、カウント値nが偶数でないと判断した場合には、絶対値信号算出処理へ移行する(S70)。
【0079】
S70の処理では、画素信号算出部がS58の処理で取得された差分信号Vを用いて絶対値信号Mを算出する。絶対値信号Mの算出手法の説明の前に、まず、第1実施形態における、式10で与えられるオフセット分を含めた絶対値画像算出式を整理する。今、最初に通電され、T−s時間経過して再び通電される画素において、式8で与えられるオフセット分∫dTh1をdMとし、次に通電されT−2・s時間経過後に通電される、式9で与えられるオフセット分を∫dTh2をdMとし、dM−dM=dMとする。各画素のオフセット分は、1ラインで数%程度の特性バラツキがあったとしても、そのバラツキ分は、引き算したdMに対して数%異なるだけであり、dM自体が小さいことを考慮すれば、無視できるレベルである。すなわち、全ての信号取得におけるオフセットdMは同じ値と見なして問題ない。よって、差分信号Vは、次のように表される。
【数15】


よって、絶対値M'は以下のようにオフセットを含んだ形で計算される。
【数16】

【0080】
すなわち、1ラインの画素数を320とすると、m番目の画素のオフセットは、dMの320倍のオフセットを持つことになる。第1実施形態の例で積分時間sを100[usec]とした場合、式4で与えられるオフセットに対して、dMは1/250となったが、これを320倍したm番目の画素のオフセットは、明らかに、式4で与えられるオフセットより大きくなる。ただし、このことは、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサの手法が悪い方法ということにはならない。なぜならば、積分アンプ21で検出しているオフセットは、あくまでもdMであり、式4で与えられるオフセットに比べて2桁以上小さな値である。このため、積分アンプ21やA/D変換器24のダイナミックレンジを圧迫するものではない。上記のm倍されたオフセットは、あくまでも計算機上での演算結果であり、容易に校正値として差し引くことが可能な値である。また、第1実施形態で述べたように、dMは、積分時間sの2乗で小さくなるため、積分時間sを少し短くするだけで、十分小さなオフセットにすることもできる。
【0081】
次に、S70の処理で実行される本実施形態に係る自己発熱分のキャンセル方法について説明する。前述のように、m番目の外にもリファレンスセンサとして機能する画素センサPm+1を追加して、画素センサPと画素センサPm+1との差分信号Vを取得するが、このとき得られる差分信号Vm+1も差分信号V同様の絶対値信号(第1差分信号)となる。リファレンスセンサPだけの場合には、差分信号Vから順にV,V,V…を足し引きしながら絶対値信号Mを求める。これに対して、画素センサPm+1を追加すると、m側から1番目の画素に向かって、足し引きしても各画素センサの絶対値信号を求めることができる。添え字の小さいほうからの絶対値の計算値と大きい方からの絶対値の計算値を整理すると次式のようになる。
【数17】


【数18】


この2セットのデータを使って重み付け平均を計算する。例えば、平均値M1'''として、M1'とM1''に対してm:1の重み付けをして平均化すると以下のようになる。
【数19】


このように、式の上では、完全に自己発熱によるオフセットを消去することができる。実際には、全ての差分信号VにおけるdMが完全に同じではないため、完全には消去できないが、そのバラツキは、前述したようにdMに対して数%程度と考えられる。このため、実使用上は完全に消去できると考えても問題ない。よって、この方法ならば、定期的に校正値を取得する必要はなくなる。S70の処理を終了すると、図10に示す制御処理を終了する。
【0082】
以上で図10に示す制御処理を終了する。図10に示す制御処理を実行することで、図5に示す制御処理を実行する場合と同様に、半導体プロセスのバラツキの影響をほとんど受けない状態で画素間の差分信号を取得することができるため、周囲温度の変化により発生するオフセットを、ほとんどゼロにすることが可能となる。
【0083】
また、図10に示す制御処理を実行することで、リファレンスセンサP及び画素センサPm+1は1フレームの間に2回通電される。したがって、全ての画素センサと接続されて複数回通電されることによってリファレンスセンサP及び画素センサPm+1のみ自己発熱が大きくなることを回避することができるとともに、リファレンスセンサP及び画素センサPm+1の通電回数と画素センサの通電回数を等しくすることができる。
【0084】
また、図10に示す制御処理を実行することによって、奇数番目の差分信号Vが取得された後に偶数番目の差分信号Vが取得される。このように通電することによって、一度通電された画素センサを連続で通電することを回避することができる。すなわち、自己発熱の放熱時間を確保することが可能となるため、放熱後の画素センサを用いて差分信号を取得することができる。
【0085】
また、図10に示す制御処理を実行することによって、第1実施形態ではキャンセルしきれなかった式10で示されるオフセットをキャンセルすることができる。このオフセットは、あらかじめ校正値として取得することで、実画像データから差し引くことも可能である。しかし、自己発熱は、センサの抵抗値の変化で異なる量になるため、周囲温度が変化すると検出器自体の抵抗値が変化し、オフセットも変化する。よって、定期的に校正の取得が必要となる。本実施形態に係る赤外線イメージセンサを採用することでオフセットが変化した場合であっても自己発熱を適切に排除することができる。
【0086】
また、第1実施形態では、積分時間sを極端に短くすると、リファレンスセンサPの通電間隔が1/2フレーム時間からずれてくる。他のセンサは全て1/2フレーム毎に通電されるが、リファレンスセンサPのみ差分信号V取得時と差分信号V取得時に通電される。このため、積分時間sを短くすると、前半の信号取得時間が短くなり、差分信号Vと差分信号Vの通電タイミングが近づき、結果としてリファレンスセンサPのみ通電時間間隔が一定でなくなる。これに対して第2実施形態では、ダミーのリファレンスセンサPを備えており、前半の最後と後半の最初にダミー通電するため、積分時間sを短くしても全てのセンサに対して等間隔で通電を行うことができる。
【0087】
以上、第2実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、周囲温度変化や自己発熱による温度変化のハードウェア的な補償を、開口率を下げずに実現でき、低コストで小型な赤外線カメラの実現が可能となる。
【0088】
また、第2実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、リファレンス画素を少なくとも一つの画素列の両端に配置するため、2つのリファレンス画素それぞれを基準とした画素の信号を求めて平均化することにより自己発熱による影響を一層低減させることができる。
【0089】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る赤外線イメージセンサは、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサとほぼ同様に構成されるものであり、リファレンスセンサP(第1実施形態に係る赤外線イメージセンサのリファレンスセンサPに対応)に隣接するリファレンスセンサPが配置される点、ダミーのリファレンスセンサPがリファレンスセンサPの隣り、あるいは、画素センサPの隣に配置されている点、及び、隣り合う画素の片端が電源VとGNDに交互に接続されているのではなく、2つの画素ずつ電源VとGNDに交互に接続されている点が相違する。以下では、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一の部分は説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0090】
本実施形態に係る赤外線イメージセンサの構成は、図1に示す第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一である。図11は、受光部12の各行における積分アンプ21までの回路(差分回路)を詳細に示す回路図である。図11に示すように、受光部12の1ライン部分は、m(m:整数)個の画素センサPと2個のリファレンスセンサP,リファレンスセンサP、1個のダミーのリファレンスセンサP(不図示)及び所定の2つの画素センサP,P(x,y:整数,a,b)を積分アンプ21と接続するためのスイッチS,S,Sを備えて構成される。すなわち、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサの回路に比べて、リファレンスセンサP及びダミーのリファレンスセンサPが追加された点、ダミーのリファレンスセンサPのみ、一端部にスイッチSが接続され他端部にスイッチSが接続されている点が相違する。さらに、リファレンスセンサP、リファレンスセンサP及び画素センサPは、隣り合う2つの画素同士を一組として、組ごとに画素の端部の接続先が異なる構成とされている。例えば、リファレンスセンサP,P、画素センサP,P、画素センサP,P、画素センサP,P…と一組が形成されており、これらの組ごとに電源VとGNDに交互に接続されている。すなわち、2つの画素ずつ電源VとGNDに交互に接続されている。その他の部分は第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一である。なお、第2実施形態に係る赤外線イメージセンサと同様に、積分アンプ21の電流供給能力に余裕があれば、スイッチSをショートして通電することでダミーのリファレンスセンサPを不要としてもよい。
【0091】
次に、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの信号取得動作を説明する。図12は、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの信号取得動作を示すフローチャートである。図12に示す制御処理は、例えば赤外線イメージセンサの電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。なお、図12に示す制御処理は、赤外線イメージセンサに備わる制御部(不図示)により実行されるものである。制御部は例えばCPU等の演算処理部を備えている。
【0092】
最初に、制御部は初期処理を実行する(S80)。S80の処理は、図5のS10の処理とほぼ同様であり、kを1に設定し、カウント値nをkに設定する。kは繰り返し処理の実行回数及び繰り返し処理の先頭の画素センサ番号を規定するものである。その後、制御部はカウント値判定処理へ移行する(S82)。S82の処理では、制御部はカウント値nが4であるか否かを判定する。S82の処理でカウント値nが4でないと判定した場合には、カウント値判定処理へ移行する(S86)。S86の処理では、制御部はカウント値nが3であるか否かを判定する。S86の処理でカウント値nが3でないと判定した場合には、差分回路前処理へ移行する(S90)。
【0093】
S90の処理は、S12の処理と同様であり、制御部が積分容量Cに蓄えられた電荷を放電する。S90の処理が終了すると、差分信号取得・記憶処理へ移行する(S92)。S92の処理は、S14の処理とほぼ同様であり、制御部が積分時間sで差分信号Vを取得して記憶する。なお、差分信号Vを取得する場合には、画素センサPと画素センサPとを接続して取得する。差分信号Vを取得する場合には、画素センサPと画素センサPとを接続して取得する。また、差分信号Vを取得する場合には、画素センサPn−2と画素センサPとを接続して取得する。このように、隣接する画素ではなく、一つおきの画素ごとを接続して差分信号を取得する。S92の処理が終了すると、カウント処理へ移行する(S94)。
【0094】
S94の処理では、制御部が、カウント値nをカウントアップする。ここで、制御部はカウント値nに4を加算する。S94の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S96)。
【0095】
S96の処理は、S18の処理と同様であり、制御部はS94の処理でカウントしたカウント値nが画素数mから3を減算したm−3よりも大きいか否かを判定する。S96の処理において、カウント値nがm−3よりも大きくないと判定した場合には、カウント値判定処理へ再度移行する(S82)。そして、S82の処理において、カウント値nが4でないと判定した場合にはS86の処理へ移行し、S86の処理において、カウント値nが3でないと判定した場合には差分回路前処理へ移行する(S90)。その後、S92の処理でn+4番目の差分信号Vを積分時間sで取得する。このように、S94の処理でカウント値を4ずつ加算し、カウント値nがm−3よりも大きくなるまで、差分信号V,V,V、Vm−3のように所定の差分信号Vのみ順次取得する。
【0096】
一方、S96の処理において、カウント値nがm−3よりも大きいと判断した場合には、繰り返し回数判定処理へ移行する(S98)。S98の処理では、制御部が繰り返し回数kが3より小さいか否かを判定する。S98の処理において、繰り返し回数kが3より小さいと判定した場合には、ダミー通電処理へ移行する(S100)。
【0097】
S100の処理では、制御部が図11に示す画像センサPm+k−2とダミーのリファレンスセンサP(不図示)とを接続する。S100の処理は、画像センサPm+k−2の通電回数を他のセンサの通電回数と等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。S100の処理が終了すると、1/4フレーム経過するまで待機する処理へ移行する(S101)。この処理により、これまでの信号取得により発熱した素子を十分放熱させることができる。その後、繰り返し回数kのカウントアップ処理へ移行する(S102)。
【0098】
S102の処理では、制御部が繰り返し回数kのカウントアップとカウント値nを初期化する。制御部は、ここで、制御部は繰り返し回数kに1を加算するとともに、カウント値nをkに設定する。S102の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S104)。
【0099】
S104の処理では、制御部は繰り返し回数kが4より大きいか否かを判定する。S104の処理において、繰り返し回数kが4より大きくないと判定した場合には、カウント値判定処理へ再度移行する(S82)。そして、S82の処理において、カウント値nが4であると判定した場合にはダミー通電処理へ移行する(S84)。
【0100】
S84の処理では、制御部が図11に示すリファレンスセンサPとダミーのリファレンスセンサP(不図示)とを接続する。S84の処理は、リファレンスセンサPの通電回数を他のセンサの通電回数と等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。S84の処理が終了すると、S86のカウント値判定処理へ移行し、カウント値nが3でないと判定した場合には差分回路前処理へ移行する(S90)。その後、S92の処理でn+4番目の差分信号Vを積分時間sで取得し、S94の処理でカウント値を4ずつ加算し、S96の処理でカウント値がm−3よりも大きいか否かを判定する。このように、カウント値を4ずつ加算し、カウント値nがm−3よりも大きくなるまで、差分信号V,V,V10、Vm−2のように所定の差分信号Vのみ順次取得する。
【0101】
一方、S96の処理において、カウント値nがm−3よりも大きいと判断した場合には、S98の繰り返し回数判定処理へ移行し、繰り返し回数kが3より小さいと判定した場合には、S100のダミー通電処理へ移行し、繰り返し回数kのカウントアップ処理へ移行する(S102)。S102の処理では、制御部が繰り返し回数kに1を加算しカウント値nにkを代入する。そして、S104の処理において、繰り返し回数kが4より大きくないと判定した場合には、カウント値判定処理へ再度移行する(S82)。そして、S82の処理において、カウント値nが4でないと判定した場合にはS86のカウント値判定処理へ移行し、カウント値nが3であると判定した場合にはダミー通電処理へ移行する(S88)。
【0102】
S88の処理では、制御部が図11に示すリファレンスセンサPとダミーのリファレンスセンサP(不図示)とを接続する。S88の処理は、リファレンスセンサPの通電回数を他のセンサの通電回数と等しくするために行うものであり、通電目的のみの操作となる。S88の処理が終了すると、差分回路前処理へ移行する(S90)。その後、S92の処理でn+4番目の差分信号Vを積分時間sで取得し、S94の処理でカウント値を4ずつ加算し、S96の処理でカウント値がm−3よりも大きいか否かを判定する。このように、カウント値を4ずつ加算し、カウント値nがm−3よりも大きくなるまで、差分信号V,V,V11、Vm−1のように所定の差分信号Vのみ順次取得する。
【0103】
一方、S96の処理において、カウント値nがm−3よりも大きいと判断した場合には、S98の繰り返し回数判定処理へ移行し、繰り返し回数kが3より小さくないと判定した場合には、繰り返し回数kのカウントアップ処理へ移行する(S102)。S102の処理では、制御部が繰り返し回数kに1を加算しカウント値をkに設定する。そして、S104の処理において、繰り返し回数kが4より大きくないと判定した場合には、カウント値判定処理へ再度移行する(S82)。そして、S82の処理において、カウント値nが4でないと判定した場合にはカウント値判定処理へ移行し、カウント値nが3でないと判定した場合には差分回路前処理へ移行する(S90)。その後、S92の処理でn+4番目の差分信号Vを積分時間sで取得する。このように、S94の処理でカウント値を4ずつ加算し、カウント値nがm−3よりも大きくなるまで、差分信号V,V,V12、Vのように所定の差分信号Vのみ順次取得する。
【0104】
一方、S96の処理において、カウント値nがm−3よりも大きいと判断した場合には、繰り返し回数判定処理へ移行する(S98)。S98の処理では、制御部が繰り返し回数kが3より小さいか否かを判定する。S98の処理において、繰り返し回数kが3より小さくないと判定した場合には、繰り返し回数kのカウントアップ処理へ移行する(S102)。
【0105】
S102の処理では、制御部が繰り返し回数kのカウントアップとカウント値nを初期化する。制御部は、ここで、制御部は繰り返し回数kに1を加算するとともに、カウント値nをkに設定する。S102の処理が終了すると、カウント値判定処理へ移行する(S104)。
【0106】
S104の処理では、制御部は繰り返し回数kが4より大きいか否かを判定する。S104の処理において、繰り返し回数kが4より大きいと判定した場合には、絶対値信号算出処理へ移行する(S106)。
【0107】
以上、ここまでの処理で繰り返し回数kが1〜4の値をとり、以下のような流れになる。最初、リファレンスセンサPと画素センサPの間で絶対値信号(第1差分信号)である差分信号Vを取得する。次に、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号Vを取得する。続いて、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号Vを取得する。このように繰り返し、差分信号Vm−3まで取得する。続いて、リファレンスセンサPと画素センサPの間で絶対値信号(第1差分信号)である差分信号Vを取得する。次は、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号V、画素センサPと画素センサP10とを接続して差分信号V10というように、差分信号Vm−2まで取得する。その後、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号V、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号Vというように、差分信号Vm−1まで取得する。最後は、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号V、画素センサPと画素センサPとを接続して差分信号Vというように、差分信号Vまで取得する。これにより、1ラインの画素情報が全て取得されることになる。なお、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同様に、リファレンスセンサP,P、画素センサPm−1,Pにおける通電間隔と通電回数を他の画素と同じにするため、差分信号Vm−3の取得後に画素センサPm−1のダミー通電、差分信号Vm−2取得後に画素センサPのダミー通電、差分信号V取得前にリファレンスセンサPのダミー通電、差分信号V取得前にリファレンスセンサPのダミー通電を行う。
【0108】
次に、S106の処理では、画素信号算出部がS92の処理で取得された差分信号Vを用いて絶対値信号Mを算出する。自己発熱によるオフセット分は、第1実施形態と同一であるので、式を見やすくするため、省略して整理すると以下のようになる。
【数20】


【数21】


【数22】


【数23】

【0109】
このように、本実施形態では、1ラインを二つに分け、差分信号Vによる絶対値信号基準で得られる画素情報と差分信号Vによる絶対値信号基準で得られる画素情報を2種類得て一つの画像情報を取得する。S106の処理が終了すると、図12に示す制御処理を終了する。
【0110】
以上で図12に示す制御処理を終了する。第1実施形態及び第2実施形態では、1ライン(行)上の隣り合う画素間での差分信号を取得し、画像を再構成している例を説明したが、本実施形態のように必ずしも隣り合う画素間で差分信号を取得しなくてもよい。画素サイズは、20〜50[um]とすることが多く、20[um]を採用した場合、一つ置きの画素間で差分をとっても画素間の距離はせいぜい40[um]である。このため、半導体プロセスの環境的にはほぼ同じとみなすことができる。よって、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、半導体プロセスのバラツキの影響をほとんど受けない状態で画素間の差分信号を取得することができるため、周囲温度の変化により発生するオフセットを、ほとんどゼロにすることが可能となる。
【0111】
また、図12に示す制御処理を実行することで、全ての画素センサの通電回数を等しくすることができるとともに、一度通電された画素センサを連続で通電することを回避することができる。すなわち、自己発熱の放熱時間を確保することが可能となるため、放熱後の画素センサを用いて差分信号を取得することができる。
【0112】
さらに、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの信号読み取り手法は以下のように拡張することも可能である。例えば、行と列の関係を入れ替え、列の隣り合う画素間での差分信号を用いてもよい。また、必ずしも隣り合う画素間での差分でなくても良い。この方法の利点は、等価的に画素数を減らしていることになるため、第1実施形態で示した演算後のオフセットを半分にできることにある。本実施形態では、各画素を一つ置きに接続しているが、1ラインを二つに分けるだけであるならば、第2実施形態のように両端にリファレンスセンサを配置して、右半分と左半分を独立に信号取得してもよい。しかしながら、このように構成した場合には、第1実施形態を第2実施形態に拡張したような、オフセットの完全なキャンセルする方法への拡張はできない。なお、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの画素列の右端にも、追加のリファレンスセンサを2つ追加することで改良することができる。
【0113】
このように、本実施形態ではセンサの特性が同一とみなせる範囲での接続を変えることで、種々のバリエーションを生み出すことができる。特性が同一とみなせるならば、二つおきにセンサを接続して、1ラインを3つあるいは4つに分けて独立な画素情報を得ることも可能である。もう一つの例としては、2ラインを左半分と右半分に分けて2ラインで一つの積分アンプ21に接続する方法である。上のラインの左半分は、第2実施形態と同じように隣接するセンサ同士を接続させていき、左半分の最後の画素センサPm/2は、下のラインの画素センサPm/2と接続させる。下のラインの左半分も上のライン同様の接続となり、画素センサPm/2で折り返したあと、順次画素センサPm/2−1、Pm/2−2、…Pと接続させ、最後に下のラインのリファレンスセンサと接続させる。これは、2ラインを真ん中で折り返して一つのラインとみなした第2実施形態と同様である。この2ラインの右半分にも、右端にリファレンスセンサを配置し、別の積分アンプ21を使用して信号処理する。なお、隣り合うラインでは、センサの特性はライン上で隣り合うセンサの関係と同等であるので、隣り合うラインにて上下で接続しても同様の処理ができる。
【0114】
以上、第3実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、第1及び第2実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、周囲温度変化や自己発熱による温度変化のハードウェア的な補償を、開口率を下げずに実現でき、低コストで小型な赤外線カメラの実現が可能となる。また、熱型イメージセンサをテラヘルツイメージングに利用する場合には、信号レベルは通常の熱イメージセンサよりも1〜2桁近く低くなるため、高S/N比を有する信号検知手段が必要となる。そのような用途にも本実施形態に係る手法を取ることで高感度なカメラの実現が可能となる。
【0115】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る赤外線イメージセンサは、第3実施形態に係る赤外線イメージセンサとほぼ同様に構成されるものであり、画素列に対して積分アンプ21を複数備える点が相違する。以下では、第1,3実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一の部分は説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0116】
画素列に対して積分アンプ21を複数備える赤外線イメージセンサは、例えば2つの形態となる。第1の例としては、S/N比を改善するために複数の積分アンプを備えるものである。1ラインに1個のアンプでは、積分時間sは、1フレーム時間を1ラインの画素数で割った時間T以上に長くすることはできない。検出器の感度が同じとき、S/N比を改善するには、1ラインに対する積分アンプ21の数を増やすことで、積分時間sを長くすることが可能となる。従来の技術では、熱型検出器を用いたイメージセンサにおいては、積分時間sを長くすることは、自己発熱によるオフセットを大きくすることになるため、積分アンプ21やA/D変換器24のダイナミックレンジを圧迫する。特に従来技術では、現実的なS/N改善の手段とはなりえない。しかしながら、上記の実施形態で説明した方式では、信号検出時のオフセットを従来技術に比べて2桁以上小さくできる。このため、アンプを増やすことによるS/N比の改善は有効な手段となる。なお、第1実施形態又は第2実施形態で示す画素センサの接続を行うと必ず取得信号の引き算が発生するので、積分アンプ21自身の持つオフセット等も打ち消されている。このため、複数の積分アンプ21を備える場合であっても、異なるアンプで取得した差分信号を絶対値信号算出のために演算するのではなく、差分信号を用いた演算は一つのアンプからの出力のみで行うほうが好ましい。
【0117】
本実施形態に係る第1の構成は、上述した第3実施形態において2つの積分アンプ21を用いたものである。第3実施形態では、リファレンスセンサPを基準とした差分信号VセットとファレンスセンサPを基準にした差分信号セットが独立に得られるが、これらを異なる積分アンプ21で増幅する構成をとる。これにより、積分時間sは、アンプが1個の場合に比べて2倍の時間をとることができる。もちろん、第1実施形態の改良版である第2実施形態のように、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの画素列の右端にもリファレンスセンサを2つ追加してもよい。
【0118】
本実施形態に係る第2の構成を図13に示す。第2の構成では積分アンプ21を複数備えることで分解能を改善することを目的としている。図13は、受光部12の各行における積分アンプまでの回路(差分回路)を詳細に示す回路図である。図13に示すように、本実施形態に係る赤外線イメージセンサの差分回路は、第3実施形態に係る赤外線イメージセンサの差分回路に比べて、積分アンプ21a,21bを備える点が相違する。
【0119】
図13に示すように、絶対値信号を取得する画素センサPと画素センサPとの差分検知用の積分アンプ21b、及び、画素間の差分信号取得用の積分アンプ21aを備えている。積分アンプ21bは、積分アンプ21aとは異なるゲインを持つものが用いられる。また、A/D変換器24にも分解能の高いものを用いてもよい。通常の熱イメージにおいて、隣り合う画素間で急激な温度変化があるようなものは現実の世界ではないため、画素同士の差分信号検知には大きなダイナミックレンジは要求されない。このため、ゲインを高くして信号強度を強くする方が、S/N比的にも分解能的にも有利になる。
【0120】
一方、絶対値信号は広いダイナミックレンジとA/D変換器24の分解能を高くする必要がある。上述した実施形態では、一つの積分アンプ21とA/D変換器24で、絶対値信号と差分信号を取得していたため、ダイナミックレンジとしては、絶対値信号の取得の要求仕様で決まり、A/D変換の変換時間は画素数で決まる。一般的に、A/D変換器24は、変換時間を早くすると低分解能となり、逆に変換時間を遅くすると高分解能となる。このため、本実施形態では、絶対値信号取得に個別に用意した積分アンプ21aとA/D変換器24をつなぐ。このとき、絶対値信号取得側のA/D変換器24は、画素間の差分信号取得時間よりも長い時間を変換時間として割り当てることができるため、高分解能となる。一方、差分信号用には大きなダイナミックレンジは要求されないため、低分解能で高速なA/D変換器24を用いればよい。
【0121】
なお、本実施形態では、絶対値信号取得時において積分時間sを長くしてS/N比を上げることもできる。この場合、自己発熱量が他の画素と異なる状態とならないように積分時間sは同じにすることが好ましい。また、本実施形態の第2の構成においても第2実施形態のようにリファレンス素子として機能する画素センサPm+1を追加して、自己発熱のオフセットをキャンセルすることもできる。この場合には、画素センサPm+1と画素センサPの差分信号検知をダイナミックレンジの広い積分アンプ21b側に接続することになる。
【0122】
以上、第4実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、第1〜第3実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、周囲温度変化や自己発熱による温度変化のハードウェア的な補償を、開口率を下げずに実現でき、低コストで小型な赤外線カメラの実現が可能となる。
【0123】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る赤外線イメージセンサは、第1〜第4実施形態に係る赤外線イメージセンサとほぼ同様に構成されるものであり、アンプ部の構成のみが相違する。以下では、第1〜4実施形態に係る赤外線イメージセンサと同一の部分は説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0124】
第1〜第4実施形態に係る赤外線イメージセンサでは、全て電流検出型の積分アンプを用い、隣接するセンサを接続する手法を例に説明したが、他の構成でも差分信号の取得は可能である。第5実施形態に係る赤外線イメージセンサの一例を図14に示す。図14に示すように、第1実施形態に係る赤外線イメージセンサと同様に電流検出型の積分アンプ21を用いているが、積分アンプ21の入力が相違する。すなわち、隣接する画素センサ同士を接続するのではなく、リファレンスセンサPを含む偶数番目の画素センサP2nは積分アンプ21のプラス入力に、奇数番目の画素センサP2n+1は、積分アンプ21のマイナス入力に接続できるようスイッチSを配置し、全ての画素センサの方端は全て同じ電圧Vに接続しておく。また、積分アンプ21のマイナス側のラインには抵抗R−が接続され、プラス側のラインには抵抗R+が接続される。抵抗R−,R+は、まったく同じ抵抗値のものを使用する。また、抵抗R−,R+は、画素センサと同じ構造である必要はなく、また、回路基板との熱的接続を強くすることで自己発熱を発生させないように構成する。抵抗R−,R+は、温度特性が小さい通常の金属による抵抗であることが好ましい。
【0125】
次に、図14に示す回路の動作を説明する。最初リファレンスセンサPのスイッチSをONにし、画素センサPのスイッチSもONにする。このとき、積分アンプ21のプラス入力には、リファレンスセンサPと抵抗R+で電圧Vを分圧した電位が加わる。積分アンプ21のイマジナリショートの機構により、このプラス入力の電位がマイナス入力の電位に現れるため、よって、マイナス入力に接続した抵抗R−も抵抗R+と同じ電流が流れる。このとき、画素センサPに赤外線がまったく入射されていなければ、リファレンスセンサPと同じ抵抗値になるので、流れる電流も同じとなり、積分アンプ21の出力は0となる(実際には、プラス入力と同じ電圧が現れる)。もし、画素センサPに信号が入射されていれば、リファレンスセンサPとは異なる抵抗値になっているため、リファレンスセンサPとは異なる電流を流さないと、マイナス入力の電位を同じにすることができないため、異なる電流が流れることになる。抵抗R−に流れる電流は抵抗R+と同じ、すなわち、リファレンスセンサPに流れる電流と同じなので、結果としてリファレンスセンサPと画素センサPとの差分電流が積分容量Cに流れ込むことになる。
【0126】
上記動作は、第1実施形態に適用した場合であっても全く同じである。このため、本実施形態に係るアンプ構成を適用しても、第1〜第4実施形態に係る赤外線イメージセンサを構築することができる。
【0127】
また、抵抗R−,R+は、基板との間の熱伝導をよくし、且つ温度変化による特性変化の小さな材料で作成してあるため、各画素の信号取得に毎回使用しても、自己発熱の問題は発生しない。そのため、各画素に抵抗R−,R+を用意する必要はない。
【0128】
また、上記構成を採用することにより、画素センサに印加する電圧Vを自由に選べることができる。通常、積分アンプ21に印加できる電圧は制限がある。例えば、電源電圧5[V]の積分アンプ21では、5[V]が上限値となる。差分信号Vは、プラスマイナスに出力がでるため、第1〜第4実施形態に係る赤外線イメージセンサのアンプ構成では、差分信号Vを電源電圧の中央、すなわち、2.5[V]にするのが好適である。そのため、画素センサに与える電圧は5[V]に決定される。画素センサの抵抗値は設計可能であるが、電源電圧を決めてしまうことは設計に対する一つの制約になる。しかし、本実施形態では、抵抗R−,R+の値を自由に設定できるため、画素センサへの印加電圧にも自由度が生まれる。たとえば、画素センサの抵抗値が100[kΩ]の場合、抵抗R−,R+に100[kΩ]の抵抗値を採用すれば、印加電圧5[V]で積分アンプ21の動作中心は2.5[V]となる。抵抗R−,R+を50[kΩ]した場合、動作中心2.5[V]を維持したまま、印加電圧を7.5[V]に上げることができる。印加電圧を上げた場合、信号電流が増えるのでS/N比を向上させることが可能となる。
【0129】
本実施形態に係る赤外線イメージセンサの他の例を図15に示す。図15に示すように、本実施形態に係る赤外線イメージセンサは、電圧検出型のアンプ構成を有する。図15では、画素センサの並びは図14と同じであるため、説明理解の容易性を考慮して、リファレンスセンサP及び画素センサPのみを記載して他の記載を省略する。
【0130】
図15に示すように、リファレンスセンサPは、その一端が電圧Vに接続されている。また、リファレンスセンサPは、電流源Is+とスイッチSを介して直列に接続されている。この接続点は、アンプA+のプラス入力と接続されている。また、画素センサPは、その一端が電圧Vに接続されている。また、画素センサPは、電流源Is−とスイッチSを介して直列に接続されている。この接続点は、アンプA−のプラス入力と接続されている。電流源Is−,Is+はどちらも同じ一定電流を流す電流源である。また、アンプA−,A+はバッファアンプである。アンプA+の出力側はアンプAのプラス入力に接続され、アンプA−の出力側はアンプAのマイナス入力に接続される。アンプAは、アンプA−,A+の電圧の差分を演算し、積分する回路である。
【0131】
電流源Is−とIs+は同一の一定電流を流す電流源であるため、リファレンスセンサPと画素センサPとの抵抗値の違いにより、アンプA−とアンプA+のプラス入力には、異なる電位が印加される。この差分電位が、差分信号に相当する。アンプA−,A+は、単なるバッファアンプであるので、出力はそれぞれのアンプのプラス入力に印加された電圧が出力される。アンプAは、アンプA−,A+の電圧の差分を演算して積分する回路であるので、結果として出力には、リファレンスセンサP及び画素センサPの差分信号が得られる。以後、スイッチを切り替えることで、各画素の差分信号を取得することで、第1〜第4実施形態の赤外線イメージセンサと同様の信号を得ることができる。すなわち、上記構成は、第1〜第4実施形態へ適用することが可能である。
【0132】
以上、第5実施形態に係る赤外線イメージセンサによれば、第1〜第5実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、周囲温度変化や自己発熱による温度変化のハードウェア的な補償を、開口率を下げずに実現でき、低コストで小型な赤外線カメラの実現が可能となる。
【0133】
なお、上述した実施形態は、本発明に係る赤外線イメージセンサの一例を示すものである。本発明に係る赤外線イメージセンサは、実施形態に係る赤外線イメージセンサに限られるものではなく、実施形態に係る赤外線イメージセンサを変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0134】
例えば、上記実施形態で説明したアンプ構成については、上述した実施形態に限られるものではなく、2つのセンサの差分信号を取り出すことができればどのような構成を有していてもよい。また、画素センサはボロメータに限られず、サーモパイル等の熱型検出器であればよい。
【0135】
また、上記実施形態において、リファレンスセンサPと画素センサPの信号取得を最初に行うように説明してきたが、この順番は本質ではない。例えば、第1実施形態では、最初に絶対値信号Vを取得する場合を説明したが、偶数番目及び奇数番目に分けて実行するようにするとともに、偶数番目を前半に取得し、後半に絶対値信号を取得するようにしてもよい。この場合、絶対値信号からの時間差は±1/2フレーム時間になり短くなる。
【0136】
さらに、上記実施形態では、1つの画素列に対して少なくとも一つのリファレンスセンサPを備える例を説明したが、例えば、複数の画素列に対して少なくとも一つのリファレンスセンサPを備える場合であってもよい。すなわち、複数の画素列からなる画素領域に対して少なくとも一つのリファレンスセンサPを備えればよい。
【符号の説明】
【0137】
1…赤外線イメージセンサ、12…受光部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を検出する赤外線イメージセンサであって、
複数の画素を配列した画素領域及び少なくとも一つのリファレンス画素を有する受光部と、
前記画素領域に含まれる1つの画素の信号と前記リファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び前記画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号を取得する差分回路と、
前記第1差分信号及び前記第2差分信号に基づいて前記画素の信号を算出する画素信号算出部と、
を備えることを特徴する赤外線イメージセンサ。
【請求項2】
前記所定の2つの画素は、それぞれの一端が互いに接続されて直列に接続され、かつそれぞれの他端が異なる電位に接続され、
前記差分回路は、前記所定の2つの画素の接続点における電位と所定の電位との差分に基づいて前記第2差分信号を取得する請求項1に記載の赤外線イメージセンサ。
【請求項3】
前記所定の2つの画素は、それぞれの一端が異なる抵抗と接続されてそれぞれが抵抗と直列に接続され、かつそれぞれの他端が同一の電位に接続され、
前記差分回路は、前記所定の2つの画素と抵抗とのそれぞれの接続点における電位の差分に基づいて前記第2差分信号を取得する請求項1に記載の赤外線イメージセンサ。
【請求項4】
前記画素領域は、少なくとも一つの画素列からなり、
前記リファレンス画素は、少なくとも一つの前記画素列の一端に配置されている請求項1〜3の何れか一項に記載の赤外線イメージセンサ。
【請求項5】
前記画素領域は、少なくとも一つの画素列からなり、
前記リファレンス画素は、少なくとも一つの前記画素列の両端に配置されている請求項1〜3の何れか一項に記載の赤外線イメージセンサ。
【請求項6】
前記所定の2つの画素は、隣接する画素である請求項1〜5の何れか一項に記載の赤外線イメージセンサ。
【請求項7】
少なくとも一つの画素列からなる画素領域、及び、前記画素列の一端に配置されたリファレンス画素を2つ有する受光部を備える赤外線イメージセンサにおける信号読みだし方法であって、
前記画素領域に含まれる1つの画素の信号と前記リファレンス画素の信号との差分信号である第1差分信号、及び前記画素領域に含まれる複数の画素のうち所定の2つの画素の信号の差分信号である第2差分信号を取得する差分信号取得ステップと、
前記第1差分信号及び前記第2差分信号に基づいて前記画素の信号を算出する画素信号算出ステップと、
を備え、
前記差分信号取得ステップは、第1の前記リファレンス画素を起点として隣接する画素を辿るように前記第1差分信号及び前記第2差分信号を取得するとともに、第2の前記リファレンス画素を起点として隣接する画素を辿るように前記第1差分信号及び前記第2差分信号を取得し、
画素信号算出ステップは、第1の前記リファレンス画素を起点として得られた前記第1差分信号及び前記第2差分信号に基づいて前記画素の信号を算出するとともに、第2の前記リファレンス画素を起点として得られた前記第1差分信号及び前記第2差分信号に基づいて前記画素の信号を算出し、算出された2つの結果に基づいて前記画素の信号を算出すること、
を特徴とする信号読みだし方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−202832(P2012−202832A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67843(P2011−67843)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】