説明

赤外線反射フィルム及びその製造方法

【課題】高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持ち、且つ赤外線の拡散反射性を高めた赤外線反射フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光透過性基材と、光透過性基材上に設けられた第1層と、その第1層上に設けられて第1層よりも屈折率が小さい第2層とを少なくとも有し、第1層と第2層との界面領域に微粒子の層が存在するように構成した赤外線反射フィルムにより上記課題を解決した。こうした赤外線反射フィルムは、光透過性基材上に塗布される第1層形成用溶液及びその第1層形成用溶液上に塗布される第2層形成用溶液を有する少なくとも2種の溶液を重ねる第1工程と、その第1工程で重ねた溶液を光透過性基材上に塗布する第2工程と、光透過性基材上に塗布した溶液を乾燥する第3工程とを有する方法により製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線反射フィルムは、赤外線を遮断して室内温度の上昇を防ぐ目的で、建物や乗り物(自動車、電車、バス、航空機、船舶等)の窓ガラスに貼着されて使用されるほか、農業ハウス用としても使用される。建物内や乗り物内に入射する赤外線を遮蔽することができるので、建物内や乗り物内等の温度上昇を防ぎ、夏場の冷房に費やすエネルギーを削減することが可能になる。そうした赤外線フィルムは、可視光を透過するために室内に明かりを入れることもできるし、赤外線反射フィルムを通して室内から室外を視認することもできる。しかし、高い赤外線反射性と高い透明性(可視光線の高透過性)を両立させるのは容易なことではなく、赤外線反射性の高いフィルムは、低透明性で重量が大きくなる傾向にあり、一方、透明性の高いフィルムは、赤外線反射性が低い傾向にある。さらに、赤外線反射フィルムは、通常、長期間にわたって日光を浴び続けるため、耐久性に優れたものが求められている。
【0003】
赤外線反射フィルムとしては、光透過性基材上に、屈折率の異なる無機材料を蒸着法により多数積層させることで赤外線反射性を高めた赤外線反射フィルムが知られている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1に開示されている赤外線反射フィルムは、製造方法が煩雑であり、製造コスト面にも問題がある。そこで、赤外線の高反射性及び可視光線の高透過性(透明性)を両立し、且つ生産性良く安価に製造できる赤外線反射フィルムが求められており、例えば、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗布方式を利用して製造した赤外線反射フィルムが開発されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−237276号公報
【特許文献2】特開平10−286900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の赤外線反射フィルムは、その製造工程において、各屈折率層の塗布及び乾燥を層の数だけ繰り返すことになるため、生産性は必ずしも高くならない。本発明者がさらに検討したところ、特許文献2に記載の赤外線反射フィルムは、その製造方法の特徴上、赤外線の反射特性は殆どが正反射性であり、外壁等に適用した際、該赤外線反射フィルムへ照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射され、路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を及ぼす傾向にあることが判明した。
【0006】
本発明は、上記した問題を解決するためになされたものであって、その目的は、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持ち、且つ赤外線の拡散反射性を高めた赤外線反射フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る赤外線反射フィルムは、光透過性基材と、該光透過性基材上に設けられた第1層と、該第1層上に設けられて該第1層よりも屈折率が小さい第2層とを少なくとも有し、前記第1層と前記第2層との界面領域に、微粒子が存在することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、光透過性基材上に少なくとも第1層と第2層とがその順で設けられ、第1層よりも第2層の屈折率が小さく、第1層と第2層との界面領域に微粒子が存在するので、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持ち、特にその微粒子の存在により、赤外線の拡散反射性が高い赤外線反射フィルムを提供できる。その結果、例えば赤外線反射フィルムに照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射されるのを低減でき、路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を低減できる。
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る赤外線反射フィルムの製造方法は、光透過性基材上に第1層を形成するために塗布される第1層形成用溶液、及び、該第1層形成用溶液上に前記第1層よりも屈折率が小さい第2層を形成するために塗布される第2層形成用溶液、を有する少なくとも2種の溶液を重ねる第1工程と、前記第1工程で重ねられた前記少なくとも2種の溶液を前記光透過性基材上に塗布する第2工程と、前記光透過性基材上に塗布された前記少なくとも2種の溶液を乾燥する第3工程とを有し、前記第1工程で前記第1層形成用溶液と前記第2層形成用溶液とを重ねたとき、両溶液の界面領域に該両溶液の混合を防ぐ微粒子の層が形成されることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、第1工程で第1層形成用溶液と第2層形成用溶液とを重ねたとき、両溶液の界面領域に該両溶液の混合を防ぐ微粒子の層が形成されるので、その微粒子の層によって両溶液が分離した状態で光透過性基材上に塗布され、乾燥される。その結果、光透過性基材上に第1層と第2層とがその順で設けられ、しかも第1層よりも第2層の屈折率が小さいので、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持つ赤外線反射フィルムを製造できる。さらに、第1層と第2層との界面領域に微粒子の層が形成されるので、その微粒子の層によって、赤外線の拡散反射性が高まる。その結果、この方法で製造された赤外線反射フィルムを用いれば、例えば、照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射されるのを低減でき、路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を低減できる等の効果を奏する。
【0011】
本発明に係る赤外線反射フィルムの製造方法において、前記第1層形成用溶液及び前記第2層形成用溶液のうちの一方の溶液に含まれる成分が、前記微粒子の層を形成するように構成してもよいし、前記第1層形成用溶液に含まれる成分と、前記第2層形成用溶液に含まれる成分とが、前記微粒子の層を形成するように構成してもよい。
【0012】
これらの発明によれば、第1層形成用溶液及び第2層形成用溶液のうちの一方又は両方の溶液に含まれる成分によって、第1層と第2層との界面領域に微粒子の層を形成することができる。そのため、赤外線の拡散反射性に関与する微粒子の層を形成するための成分の性質等によって、第1層及び第2層の一方又は両方に含ませるかを任意に選ぶことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る赤外線反射フィルムによれば、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持ち、特に赤外線の拡散反射性が高い赤外線反射フィルムを提供できるので、例えば赤外線反射フィルムに照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射されるのを低減でき、路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を低減できる等の効果を奏する。
【0014】
本発明に係る赤外線反射フィルムの製造方法によれば、両溶液の界面領域に形成された微粒子の層により、両溶液が分離した状態で光透過性基材上に塗布され、乾燥されるので、光透過性基材上に第1層と第2層とがその順で設けられ、しかも第1層よりも第2層の屈折率が小さい赤外線反射フィルムを製造できる。その結果、製造された赤外線反射フィルムは、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持ち、さらに第1層と第2層との界面領域に形成された微粒子の層によって赤外線の拡散反射性が高まる。この方法で製造された赤外線反射フィルムを用いれば、例えば、照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射されるのを低減でき、路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を低減できる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る赤外線反射フィルムの一例を示す断面模式図である。
【図2】実施例1で得た赤外線反射フィルムの断面の模式図である。
【図3】実施例1で得た赤外線反射フィルムの断面のSEM写真図である。
【図4】比較例1で得た赤外線反射フィルムの断面のSEM写真図である。
【図5】本発明に係る赤外線反射フィルムの製造方法の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る赤外線反射フィルム及びその製造方法について詳しく説明する。本発明は、その特徴を含む範囲で以下の実施形態に限定されず、各種の変形形態も包含する。
【0017】
[赤外線反射フィルム]
本発明に係る赤外線反射フィルムは、図1に示すように、光透過性基材と、光透過性基材上に設けられた第1層と、第1層上に設けられて第1層よりも屈折率が小さい第2層とを少なくとも有している。そして、本発明の第1の観点は、第1層と第2層との界面領域に微粒子の層を有することに特徴があり、第2の観点では、第2層側から入射する波長1000nmの光の入射角5度における正反射光の強度が、全反射光の強度の5%以下であることに特徴がある。
【0018】
こうした特徴を持つ赤外線反射フィルムは、光透過性基材上に設けられた第1層と第2層との屈折率差により、高い赤外線反射性と高い可視光透過性を持つ。さらに、第1の観点では、第1層と第2層との界面領域に存在する微粒子の層が赤外線の拡散反射性を高めるように作用し、第2の観点では、波長1000nmの光の入射角5度における正反射光の強度が全反射光の強度の5%以下であるので、赤外線の拡散反射性が高めるように作用する。
【0019】
本願では全反射光と正反射光の強度を波長1000nmで測定したが、この波長1000nmは赤外線領域の波長の中から選択した波長であり、本発明は、その波長における評価結果で赤外線反射フィルムを特定している。また、「入射角」とは、第2層側から赤外線反射フィルムに入射した光が空気と赤外線反射フィルム媒質との境界面に達したとき、光の進行方向を表す線がその境界面と交わる点が入射点であり、その線が入射点で境界面に立てた法線となす角であると定義できる。
【0020】
「屈折率」の大小は、本願では波長589nmで測定した屈折率で評価し、その測定は、後述する実施例に記載の屈折率計で行った。「少なくとも」とは、第1層及び第2層の他に他の層が設けられていてもよいことを意味し、具体的には、後述の実施例に示す第3層が設けられていてもよいし、それ以上の層が設けられていてもよい。複数の層で積層されている場合の最外層の屈折率は、その直ぐ下層の屈折率よりも高いことが好ましい。複数積層された場合の隣接する層間の屈折率差は特に制限はないが、赤外線反射性及び赤外線反射フィルムの透明性の観点から、屈折率差がいずれの層間においても0.1〜0.4の範囲であることが好ましい。なお、隣接する層間における屈折率差が全て同じ値である必要はない。「界面領域」とは、前記相接する層の境界面を含む領域であり、両層が一部混合している場合にはその混合領域を指し、混合した領域が実質的に無い場合には相接する2層の境界面そのものを指す。
【0021】
また、赤外線反射性の観点から、屈折率の異なる層が奇数積層され、光透過性基材上の第1層の屈折率が第2層の屈折率よりも高く、且つ最外層の屈折率が直ぐ下層の屈折率よりも高いことが好ましい。さらに、積層された各層は、屈折率の高低が繰り返されている、つまり各層の相対的な屈折率が「…−高−低−高−低−高−…」となる関係にあることが好ましい。層数が増すにしたがって赤外線反射性能は向上するが、逆に可視光線透過率は低下するため、使用用途に合わせて、適当な層数を選択するのがよい。
【0022】
(微粒子を含有する赤外線反射フィルム)
赤外線反射フィルムは、波長1000nmの光の入射角5度における全反射光の強度に対する正反射光の強度の割合が5%以下であるが、これは、例えば図1及び図2に示すように、積層された層のうち、少なくとも1対の相接する層である第1層と第2層との界面領域に微粒子の層が存在することによって実現されている。このときの正反射光の強度の割合が、全反射光の強度の5%以下であることにより、赤外線反射フィルムに照射された太陽光線中の赤外線がそのまま地面に正反射される割合が小さいので、例えば正反射光によって引き起こされる路面温度上昇や隣家の局所的な温度上昇等の悪影響を低減できる。
【0023】
微粒子は、例えば第1層と第2層のような相接する層の界面領域に層状に存在する。この微粒子は、入射してきた赤外線を乱反射させる効果(赤外線の拡散反射性)を有する。微粒子の成分としては、特に制限されるものではなく、低分子成分(好ましくは分子量1000以下)、高分子成分(好ましくは重量平均分子量1万〜10万)及び無機物等が挙げられる。
【0024】
赤外線反射フィルムの透明性の観点からは、微粒子が高分子成分からなることが好ましい。該高分子成分については後述の通りである。なお、高分子成分であれば、分子量を制御することによって微粒子の平均粒子径を調整し易い。また、微粒子が無機元素を含むものものであってもよく、例えば、後述するように、架橋性チタン化合物(チタン系架橋剤ともいう。)で架橋されてできた微粒子であってもよい。
【0025】
微粒子の平均粒子径は、赤外線の拡散反射性及び赤外線反射フィルムの透明性の観点から、好ましくは10nm〜1μm程度、より好ましくは10nm〜100nmである。微粒子の粒子径は、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等によって確認することができる。なお、微粒子は、完全な粒子形態のものあるが、必ずしも完全な粒子形態でなくてもよい。例えば、粒子のような形態で第1層と第2層との間にSEM又はTEM等で観察されるものであってもよい。いずれにしても、界面領域には微粒子又は微粒子状の層が存在するので、その微粒子又は微粒子状物によって、赤外線の拡散反射性を向上させることができる。
【0026】
高分子成分としては、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸又はその塩、ポリビニルスルホン酸又はその塩並びにポリビニルアルコール又はその塩から選択される少なくとも1種が好ましい。該「その塩」としては、いずれも、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。該高分子成分は、低分子成分に比べ、層間の耐久密着性を高める効果や、積層体の製造段階において上下層の混合抑制の効果を有する。
【0027】
該高分子成分は、皮膜を形成し得るものであることが好ましく、その観点から、重量平均分子量が1万〜10万であることが好ましく、2万〜7万であることがより好ましく、4万〜6万であることがさらに好ましい。
【0028】
ポリスチレンスルホン酸又はその塩や、ポリビニルスルホン酸又はその塩のスルホン化度に特に制限はない。また、ポリビニルスルホン酸又はその塩としては、けん化されたものを用いてもよく、けん化度としては特に制限はない。なお、赤外線反射フィルムを製造する際には、前記スルホン化度やけん化度に一定の条件が発生するが、これについては後述する。
【0029】
また、前記微粒子は、前記したものの他に、下記成分(a)の架橋性の高分子材料と、下記成分(b)の架橋剤との化学反応によって形成される高分子成分からなるものであってもよい。
【0030】
成分(a)の架橋性の高分子材料としては、水酸基やカルボキシル基等を有する高分子材料、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。架橋性の高分子材料は、溶剤への溶解性の観点から、重量平均分子量が5千〜30万のものが好ましく、3万〜20万のものがより好ましく、5万〜15万のものがさらに好ましい。
【0031】
また、成分(b)の架橋剤としては、例えば、水酸化チタン、有機チタンキレート化合物等の架橋性チタン化合物;架橋性ジルコニウム化合物;尿素樹脂、メラニン樹脂等のアミノ樹脂;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物;アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレンレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;カルボジイミド化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−[2−(ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0032】
また、前記微粒子は、前記したものの他に、下記成分(c)の高分子材料と、下記成分(d)の電解質とを用いることにより、凝集性の高分子材料周辺の溶剤を電解質が奪う塩析による凝集反応によって形成される高分子成分からなるものであってもよい。
【0033】
成分(c)の高分子材料としては、水酸基やカルボキシル基等を有する親水性の高分子材料、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられる。
【0034】
成分(d)の電解質としては、公知のものが挙げられ、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の二元電解質;塩化バリウム等の三元電解質;水酸化アルミニウム等の酸性及びアルカリ性を有する両性電解質;たんぱく質、ポリメタクリル酸等の高分子電解質等が挙げられる。
【0035】
また、前記微粒子は、前記したものの他に、下記成分(e)の配位子と、下記成分(f)のイオン性物質との錯体形成反応により形成される低分子成分又は高分子成分からなるものであってもよい。
【0036】
成分(e)の配位子としては、例えば亜リン酸、リン酸、ポリリン酸等のリン含有配位子;酢酸等のカルボン酸含有配位子等のほか、水酸基、チオール基等を含有する配位子等が挙げられる。
【0037】
成分(f)のイオン性物質としては、例えばカルシウムイオン、マグネシウムイオン等のイオン源となる物質であれば特に制限はなく、例えば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
また、前記微粒子は、前記したものの他に、下記成分(g)の酸と、下記成分(h)の塩基との中和反応により形成された低分子成分からなるものであってもよい。
【0039】
成分(g)の酸としては、例えば酢酸、ギ酸、炭酸等の弱酸が挙げられる。
【0040】
成分(h)の塩基としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ベンジジン、アニリン、キノリン等の、有機アミンや含窒素複素環式芳香族化合物に代表される弱塩基が挙げられる。
【0041】
なお、微粒子としては、前記したものに限定されず、赤外線反射フィルムとしての透明性を著しく阻害しない範囲において、赤外線を乱反射させることが可能なあらゆる微粒子を用いることができる。
【0042】
これら微粒子の成分は、界面領域のみならず、各層中にも2〜20質量%程度含有されていてもよく、赤外線反射性、赤外線反射フィルムの透明性及び耐久性の観点からは、好ましくは5〜15質量%、より好ましくは7〜13質量%含有されていてもよい。なお、各層中に含有される該成分は、微粒子である必要性はない。
【0043】
(各層を構成する成分;層形成用成分)
赤外線反射フィルムの各層を構成する成分としては、公知のものを使用することができる。なお、可視光線の透過性の高い成分が好ましく、さらに、実施例に記載の方法により測定した屈折率が、好ましくは1.1〜10、より好ましくは1.3〜7、より好ましくは1.3〜6、より好ましくは1.3〜3.5、さらに好ましくは1.3〜3、特に好ましくは1.3〜2である成分を適宜選択するのがよい。
【0044】
具体的には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化アンチモン、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、硫化亜鉛、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化亜鉛、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、シリカ(SiO)、アルミナ等の無機系酸化物;フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等の金属フッ素化物;Al,In,Sn,Sb,Bi,Cu,Ag,Au,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Fe,Co,Ni,Pd,Pt等の金属やこれらの合金等が好ましく挙げられる。これらの中でも、本発明の赤外線反射フィルムの可視光線の透過率、赤外線の反射性及び拡散反射性の観点から、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化アンチモンがより好ましく、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化スズがさらに好ましい。該成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、該成分の形状に特に制限は無いが、平均粒子径は、本発明の赤外線反射フィルムの可視光線の透過率、赤外線の反射性及び拡散反射性の観点から、0.5〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。
【0045】
赤外線反射フィルムの作製に関しては、例えば製造コストの観点から、積層体を構成する層の少なくとも1層が、前記無機系酸化物、前記金属フッ素化物、及び前記金属又はその合金を用いてゾルゲル法又は熱硬化反応により形成されたものであることが好ましく、全ての層がゾルゲル法又は熱硬化反応により形成されたものであることがより好ましい。なお、簡便性の観点からは、熱硬化反応よりもゾルゲル法の方がより好ましい。ここで、ゾルゲル法とは、原料となる溶液が、無機系酸化物等の微粒子が遊離又は浮遊した状態、いわゆるゾル状態を経由し、加水分解、重縮合、熱処理によってゲル状態を形成する方法である。
【0046】
各層を構成する成分中、前記無機系酸化物、前記金属フッ素化物、及び前記金属又はその合金の含有量が20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0047】
(光透過性基材)
光透過性基材としては、光、つまり可視光線(波長:360〜830nm)を透過する基材であれば特に制限はない。該光透過性基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム等のセルロース系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム等の塩化ビニル系フィルム;ポリビニルアルコールフィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム等のビニル系共重合体フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリメチルペンテンフィルム;ポリスルホンフィルム;ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム等のポリエーテル系フィルム;ポリイミドフィルム;フッ素樹脂フィルム;ポリアミドフィルム;アクリル樹脂フィルム;ノルボルネン系樹脂フィルム;シクロオレフィン樹脂フィルム等の光透過性樹脂基材が好ましく挙げられる。これらの中でも、赤外線反射フィルムの透明性及び製造コストの観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。なお、光透過性とは、可視光を好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上透過するものをいう。
【0048】
光透過性基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、好ましくは10〜300μm、より好ましくは30〜200μmの範囲、さらに好ましくは50〜200μmである。
【0049】
これらの光透過性基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。また、この光透過性基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。該酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は光透過性基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から、好ましく用いられる。
【0050】
赤外線反射フィルムの厚さは、光透過性基材の厚さを除くと、好ましくは0.5〜15μm、より好ましくは1〜10μmである。
【0051】
赤外線反射フィルムは各層間に界面領域を有するが、その界面領域では上下層がわずかに混合しており、そのため、密着性に非常に優れているという効果がある。その混合率は、おおよそ、各層の数質量%程度(例えば0.5〜20質量%程度、より少ない場合は0.5〜10質量%程度、さらに好ましくは1〜3質量%程度)のものである。
【0052】
本発明の赤外線反射フィルムは、実施例に記載した方法により測定した可視光線透過率が75〜85%、より詳細には78〜81%と高く、実施例に記載した方法により測定した赤外線透過率が50%以下、より詳細には42〜45%に抑制されており、実施例に記載した方法により測定した高温高湿保持後の赤外線反射フィルムは、高温高湿保持前の密着性を実質的に100%保持し、耐久性に優れている。さらに、本発明の赤外線反射フィルムは、実施例に記載した方法により測定した赤外線の正反射光の強度の割合が、全反射光の強度に対して5%以下であり、詳細には1〜5%、より詳細には1.5〜4.5%である。なお、従来のタンデム塗布方式によって積層されて製造された赤外線反射フィルムでは、層界面に微粒子を含有させることはなく、赤外線反射フィルムの赤外線の正反射光の強度割合は5%を超えるものであり、通常、赤外線の正反射光の強度割合が10%以上となるものであった(比較例1参照)。
【0053】
[赤外線反射フィルムの製造方法]
上記した本発明に係る赤外線反射フィルムの製造方法に特に制限はないが、例えば、以下の製造方法を利用することで簡便に製造することができる。
【0054】
(1)光透過性基材上に第1層を形成するために塗布される第1層形成用溶液、及び、その第1層形成用溶液上にその第1層よりも屈折率が小さい第2層を形成するために塗布される第2層形成用溶液、を有する少なくとも2種の溶液を重ねる(積層する)第1工程、(2)第1工程で重ねられた少なくとも2種の溶液を光透過性基材上に塗布する(転移させる)第2工程、(3)光透過性基材上に塗布された少なくとも2種の溶液を乾燥する第3工程、とを有し、その第1工程で、第1層形成用溶液と第2層形成用溶液とを重ねたとき、両溶液の界面領域に該両溶液の混合を防ぐ微粒子の層を形成するという製造方法を例示できる。
【0055】
なお、このとき、第1工程にて相接する2つの層形成用溶液が含有する溶剤同士を、同一の溶剤又は相溶性を有する溶剤とすることが好ましい。また、該2つの溶液のうちの少なくとも一方又は両方に混合防止成分を含有させ、第1工程で該2つの層形成用溶液を積層する際に、前記相接する2つの層形成用溶液から形成される2層の界面領域に前記混合防止成分由来の微粒子の層を存在させる。
【0056】
この製造方法によれば、積層後の層分離構造を保持できるとともに、界面領域に前記混合防止成分由来の微粒子が存在することとなる。ここで、「混合防止成分由来の微粒子」とは、混合防止成分そのものが微粒子化したものや、混合防止成分がその他の混合防止成分と化学反応して微粒子化したものや、混合防止成分が熱によって変性して微粒子化したもの等、いわゆる混合防止成分を利用して得られたあらゆる微粒子をも含むものであり、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0057】
(層形成用溶液)
本発明の赤外線反射フィルムの各層を形成する際には、前記各層を構成する成分(層形成用成分)と溶剤を含有するゾル液を層形成用溶液として用いることが好ましい。
【0058】
該ゾル液が含有する溶剤としては、例えば、水、及びメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系有機溶剤に代表される親水性有機溶剤が挙げられる。水を主溶剤とした層形成用溶液を「水系溶液」、そして親水性有機溶剤を主溶剤とした層形成用溶液を「親水性有機溶剤系溶液」とし、これらの詳細については後述する。
【0059】
層形成用溶液中の層形成用成分の濃度は、ゾルゲル法を効率的に行う観点からは、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは30〜50質量%である。また、層形成用溶液が混合防止成分を含有する場合、混合防止成分の濃度は、ゾルゲル法を効率的に行う観点から、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、より好ましく2〜15質量%、さらに好ましくは3〜10質量%である。
【0060】
このようなゾル液は、市販品を用いるのが簡便であり好ましい。該市販品としては、例えば「AERODISP(登録商標)−W740」(日本アエロジル株式会社製、水分散液);「サンコロイド(登録商標)HX−M5」(日産化学工業株式会社製、アルコール分散液)等のサンコロイドシリーズ;「オプトレイク(登録商標)1120Z 8RU−25」(日揮触媒化成株式会社製、メタノール分散液)等のオプトレイクシリーズ等が挙げられる。
【0061】
該赤外線反射フィルムの製造方法は、前記の通り、層形成用溶液A(上層溶液)及び層形成用溶液B(下層溶液)を積層し、積層した層形成用溶液を、光透過性基材上に転移させる工程を含む。
【0062】
上層用の層形成用溶液A及び下層用の層形成用溶液Bを積層する方法に特に制限は無いが、例えば(I)傾斜したスライド面上にて積層させる方法、(II)水平な平面状にて積層させる方法、(III)円形シリンダー上にて積層させる方法、(IV)傾斜した放物面上にて積層させる方法等が挙げられる。これらの中でも、通常、方法(I)が好ましく利用される。
【0063】
層形成用溶液A及び層形成用溶液Bは、層間の密着性を高くするために、一方が親水性有機溶剤系溶液であり、他方が水系溶液であることが好ましい。上層用の層形成用溶液Aと下層用の層形成用溶液Bは、いずれが親水性有機溶剤系溶液であってもよい。
【0064】
(親水性有機溶剤系溶液の媒体)
親水性有機溶剤系溶液が含有する親水性有機溶剤としては、積層する2層間のはじきを抑制する観点から、水に対する溶解度が1g/100mL以上のものが好ましく、50g/100mL以上のものがより好ましく、水と任意の量で混和するものがさらに好ましい。また、親水性有機溶剤系溶液は、揮発性及び環境保全の観点から、アルコール系溶液であることが好ましい。該アルコール系溶液に用いるアルコールとしては、層間密着性の観点から、ヒドロキシル基を有する親水性の化合物が好ましく、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、エチレングリコール等が挙げられる。後述する乾燥時間を短縮する観点から、アルコールの沸点は、40〜120℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。アルコールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
なお、親水性有機溶剤系溶液には、媒体として、アルコール以外の有機溶剤であってアルコールと親和性のある溶剤や水を併用してもよいが、混合防止用成分による層分離構造保持の効果の観点から、媒体全量に対するアルコールの含有量が80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%)となっていることが好ましい。
【0066】
(水系溶液の媒体)
水系溶液が含有する水としては特に制限はなく、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。水系溶液中の媒体としては、水以外に、アセトン、メタノール、メチルエチルケトン等の水溶性の有機溶剤が併用されていてもよいが、混合防止用成分による層分離構造保持の効果の観点から、媒体全量に対する水の含有量が80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは実質100質量%)となっていることが好ましい。
【0067】
本発明においては、接する2種の層形成用溶液の一方又は両方に、前記混合防止成分である前記高分子成分等を混入する方法として、(a)親水性有機溶剤に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分を、親水性有機溶剤系溶液に混入する方法、及び/又は(b)水に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分を、水系溶液に混入する方法を好ましく用いることができる。該方法としては、方法(a)が好ましい。
【0068】
親水性有機溶剤又は水に対する溶解度が50mg/100mL以上として上限値を設けていないのは、任意に溶解するものをも含むからである。
【0069】
なお、「親水性有機溶剤に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分」は、好ましくは、親水性有機溶剤に対する溶解度が70mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分であり、より好ましくは、親水性有機溶剤に対する溶解度が80mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分であり、さらに好ましくは、親水性有機溶剤に対する溶解度が100mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が0.5mg/100mL以下である高分子成分である。
【0070】
また、「水に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分」は、好ましくは、「水に対する溶解度が70mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分」であり、より好ましくは、「水に対する溶解度が80mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分」であり、さらに好ましくは、「水に対する溶解度が100mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が0.5mg/100mL以下である高分子成分」である。
【0071】
(高分子成分)
高分子成分については前記微粒子を構成する高分子成分として記載したものと同じであるが、赤外線反射フィルムの製造方法を利用するに際し、以下により詳細に説明をする。
【0072】
親水性有機溶剤に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ水に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分としては、けん化度30〜45モル%(好ましくは30〜40モル%)のポリビニルアルコール(PVA)、スルホン化度5〜20モル%のポリスチレンスルホン酸及びその塩、スルホン化度5〜20モル%のポリビニルスルホン酸及びその塩等が挙げられる。
【0073】
また、水に対する溶解度が50mg/100mL以上であり、且つ親水性有機溶剤に対する溶解度が1mg/100mL以下である高分子成分としては、けん化度80〜100モル%のポリビニルアルコール(PVA)、スルホン化度60〜100モル%のポリスチレンスルホン酸及びその塩、スルホン化度60〜100モル%のポリビニルスルホン酸及びその塩等が挙げられる。
【0074】
水系溶液と親水性有機溶剤系溶液は、互いに親和性があるため、通常であれば両者は混ざり合うが、上記製造方法では、前記混合防止成分を用いることにより、2種の層形成用溶液が接触した際に、混合防止の一方の溶液に対する溶解性が乏しいために直ちに不溶化して微粒子として析出することや、前記化学反応によって微粒子が析出すること等によって、両溶液の大幅な拡散混合を効果的に防止又は抑制できるものと推測される。
【0075】
水系溶液と親水性有機溶剤系溶液との間に中間層を挿入するといった実施形態ではないにも関わらず、相接する層形成用溶液の混合を効率的に防止又は抑制できるのは、混入した混合防止成分が層形成用溶液全体の性質に影響を及ぼし、その結果、層分離構造を保持できる程度に、他方の層形成用溶液に対する親和性を効率的に低下させることができたことも要因の1つと考えられる。
【0076】
なお、積層体の層分離構造は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、実施例に記載の方法の様にして、積層体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によって確認することもできる。
【0077】
(その他の成分)
前記各層形成用溶液には、さらに必要に応じて、各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤等を含有させることができる。
【0078】
また、前記赤外線反射フィルムの製造方法以外にも、例えば、相接する2つの層形成用溶液、つまり上層溶液A及び下層溶液Bに着目すると、下層溶液Bへ上層溶液Aが接触することによって化学反応を生じさせて界面領域に微粒子を形成ながら積層体を形成する方法も利用できる。化学反応によって溶剤に難溶又は不溶の生成物が2つの層の界面(界面領域)に微粒子として析出し、相接する2つの層形成用溶液の積層構造を保持することができる限り、あらゆる化学反応を利用することができる。具体的には、[A]水酸基やカルボキシル基等を有する架橋性の高分子材料(a)と、架橋性チタン化合物等の架橋剤(b)との架橋反応、[B]水酸基やカルボキシル基等を有する親水性の高分子材料(c)と電解質(d)とを用いた塩析による凝集反応、[C]リン酸等の配位子(e)と、水酸化カルシウム等のイオン性物質(f)との錯体形成反応、[D]酢酸等の酸(g)と、トリエタノールアミン等の塩基(h)との中和反応等が挙げられる。この場合、成分(a)〜(g)が混合防止成分ということになり、成分(a)と(b)、成分(c)と(d)、成分(e)と(f)、成分(g)と(h)は、それぞれ相接する2つの層形成用溶液に別々に含有させればよい。
【0079】
他にも、(i)触媒と、該触媒と接触することにより重合等の化学反応を生じる化合物とを用いる方法[化学反応:重合反応等、混合防止成分:触媒及び化学反応を生じる化合物]、(ii)温度変化により化学反応(例えば、架橋反応、重合反応、熱分解反応等)を起こす化合物を一方の溶液に含有させ、溶液の温度を変化させておき、該2つの溶液を接触させる方法[化学反応:架橋反応、重合反応等、混合防止成分:化学反応を起こす化合物]、(iii)一方の溶液に、特定の溶剤と接触することによって化学反応(加水分解等の分解反応を含む。)を起こす化合物を含有させておき、他方の溶液と接触させる方法[混合防止成分:化学反応を起こす化合物]、(iv)一方の溶液に、特定の層形成用成分と接触することによって化学反応を起こす化合物を含有させ、他方の溶液と接触させる方法[混合防止成分:化学反応を起こす化合物]等が挙げられる。これらの化学反応によって生成する生成物が、溶剤に難溶又は不溶であり、相接する2層が有する界面に微粒子として存在していればよい。
【0080】
こうした赤外線反射フィルムを製造する方法としては、層形成用成分を含有させた複数の層形成用溶液を積層し(第1工程)、積層した層形成用溶液を光透過性基材上に転移させる(第2工程)方法が採られる。
【0081】
積層する際に傾斜したスライド面を利用する場合、層形成用溶液を流動させるための、傾斜したスライド面を有するものとしては、例えば図5に示すようなスライドコーターが好ましく挙げられる。
【0082】
効率的に積層体を形成する観点から、スライド面の傾斜角度は、水平方向に対して5〜40度が好ましく、10〜35度がより好ましく、15〜35度がさらに好ましい。また、効率的に積層体を形成する観点から、スライド面上への層形成用溶液の吐出口の中心と、隣り合う層形成用溶液の吐出口の中心との距離は、8〜30cmが好ましく、10〜28cmがより好ましく、12〜26cmがさらに好ましい。さらに、効率的に積層体を形成する観点から、複数のスライド面上への層形成用溶液の吐出口の内、層形成用溶液を光透過性基材へ転移する部位に最も近い吐出口の中心と、光透過性基材との距離は、2〜14cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、4〜11cmがさらに好ましい。特に、このように設計されたスライドコーターを使用した場合に、本発明の効果が顕著に現れる傾向にある。
【0083】
以下に、図5のスライドコーターを参照して、層形成用溶液を積層する方法の一例を詳細に説明する。
【0084】
塗布ヘッド1における2つのスリット状の吐出口から、それぞれ層形成用溶液A及び層形成用溶液Bを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、層形成用溶液A及び層形成用溶液Bを積層する。積層した層形成用溶液は、ロール3によって走行する光透過性基材4上に転移させる。
【0085】
積層した層形成用溶液を光透過性基材4上に転移させた後、加熱乾燥させる(第3工程)ことにより、積層体を形成することができる。加熱乾燥温度は、通常、好ましくは50〜130℃、より好ましくは60〜120℃、さらに好ましくは70〜100℃である。加熱乾燥時間に特に制限は無いが、通常、1分〜5分間程度必要である。
【0086】
こうして得られる赤外線反射フィルムは、層の混合を防ぐ高分子成分が微小な析出物となり、各層からの屈折率差による赤外線反射性と、微小析出物による拡散反射性とを同時に実現できる、高耐久性の赤外線拡散反射フィルムである。
【実施例】
【0087】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各例では、以下の光透過性基材を使用した。さらに、各例において得られた赤外線反射フィルムの可視光線透過率、赤外線透過率及び層間の密着性について、以下のとおりに測定した。
【0088】
[1.光透過性基材]
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績株式会社製、「コスモシャインA4100」)を光透過性基材として使用した。
【0089】
[2.可視光線透過率の測定方法]
JIS R 3106(1998)に準拠して可視光線透過率を測定した。なお、可視光線は、赤外線反射フィルムの光透過性基材とは反対側から照射した。
【0090】
[3.赤外線透過率の測定方法]
JIS R 3106(1998)に準拠して赤外線透過率(日射透過率)を測定した。なお、赤外線は、赤外線反射フィルムの光透過性基材とは反対側から照射した。赤外線透過率が小さいほど、赤外線反射性能に優れる。
【0091】
[4.密着性の測定方法]
旧JIS K 5400の碁盤目試験方法に準拠し、下記評価方法によって層間の密着性を評価した。各例で得られた赤外線反射フィルムに碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目へ貼り付け、そして剥がし、残留したマスの数を確認した。100マス中、95マス以上が残留していれば、層間の密着性に非常に優れていると言える。
【0092】
(耐久性)
密着性の評価において、温度80℃、湿度90%の環境下に50時間保持した後の赤外線反射フィルムを用いて測定及び評価を行い、製造初期の赤外線反射フィルムの場合との比較により、耐久性を評価した。密着性の差が小さいほど、耐久性に優れる。
【0093】
[5.赤外線の正反射率の評価方法]
分光光度計(日本分光株式会社製、V−650)により、反射角度5°正反射測定ユニット及び150mmφ積分球拡散反射測定ユニットを用いて、波長1000nmの近赤外線の入射角5度の場合の正反射光の強度の割合を、全反射光の強度に対する割合として測定した。その値が小さいほど、赤外線の拡散反射性に優れていることを示す。
【0094】
[6.グロー放電発光分光分析法による元素定量分析]
グロー放電発光分光分析装置(株式会社堀場製作所、「GDS−Profiler2」)により、RF電源出力:20W,アルゴンガス圧力:800Pa、アノード径:4mm、パルス電源使用(周波数:25Hz、Duty比:0.1)、測定方式:シンクロ(パルス周期)によって、元素分析を行った。炭素元素は156.144nmで測定でき、チタン元素は364.275nmで測定できる。
【0095】
[アルコール可溶高分子系成分、ポリビニルスルホン酸の合成(ラジカル重合)] 50mLのフラスコ中に、モノマーとしてビニルスルホン酸(旭化成株式会社製、製品名:VSA−S)を5g、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(関東化学株式会社製試薬)を0.05g、及び溶媒として純水15gを、50mLのナス型フラスコにて混ぜ合わせ、溶け残りが無くなるまで十分に撹拌した。その後、60℃にて24時間加温撹拌した後、少量のメタノール(関東化学株式会社製試薬)を加えて開始剤をろ別し、ろ液を多量のテトラヒドロフラン(関東化学株式会社製試薬)に展開することで、ポリビニルスルホン酸を沈殿物として分離した。テトラヒドロフランによる洗浄と、50℃での減圧乾燥とを2回繰り返した後、GPCで分子量を測定したところ、約60000の重量平均分子量を示した。100mLの水に対しては1mg以下の難溶性であるが、同量の親水性溶剤、例えばエタノールに対しては50mg以上の溶解性であることを確認し、アルコール可溶高分子系成分とした。
【0096】
[製造例1(第1層及び第3層用の高屈折率層用水系溶液)]
酸化チタンの水分散液(日本アエロジル株式会社製、「AERODISP(登録商標)−W740」)を、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、ミニザルト 17594K)に通して異物を除去し、高屈折率層用水系溶液とした。なお、屈折率の測定のため、上記高屈折率層用水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、DVA−36L型、光源:ナトリウムD線)を用い、測定波長:589nmで測定したところ、屈折率は1.61であった。
【0097】
[製造例2(第2層用の低屈折率用アルコール系溶液)]
酸化ケイ素のエタノール分散液(シーアイ化成株式会社製、「NanoTek SiO」)と、上述のポリビニルスルホン酸(固形分比率で10質量%相当)とを撹拌及び混合したアルコール系溶液を、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、「ミニザルト 17594K」)に通して異物を除去し、低屈折率用アルコール系溶液とした。なお、屈折率の測定のため、上記低屈折率層用水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、DVA−36L型)を用いて測定したところ、屈折率は1.38であった。
【0098】
[製造例3(第2層用の低屈折率用アルコール系溶液;比較例用)]
酸化ケイ素のエタノール分散液(シーアイ化成株式会社製、「NanoTek SiO」)を、5μmメッシュの水系フィルターに通して異物を除去し、低屈折率用アルコール系溶液とした。
【0099】
[製造例4(第1層及び第3層用の高屈折率層用水系溶液)]
酸化スズの水分散液(シーアイ化成株式会社製、「NanoTek SnO」)と、アクリルバインダー(BASF社製、「Joncryl67」、重量平均分子量1万2500、固形分比率で20%相当)とを撹拌及び混合した水系インキを、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、ミニザルト 17594K)に通して異物を除去し、高屈折率層用水系溶液とした。なお、製造例2と同様にして塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、DVA−36L型)を用いて測定したところ、屈折率は1.55であった。
【0100】
[製造例5(第1層及び第3層用の混合防止成分入り高屈折率層用水系溶液)]
酸化チタンの水分散液(日本アエロジル株式会社製、「AERODISP(登録商標)−W740」)とポリビニルアルコール(関東化学株式会社製試薬、重量平均分子量10万、固形分比率で10質量%相当)とを撹拌及び混合した水系溶液を、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、ミニザルト 17594K)に通して異物を除去し、高屈折率層用水系溶液とした。なお、製造例2と同様にして塗膜を形成し、該塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、DVA−36L型)を用いて測定したところ、屈折率は1.59であった。
【0101】
製造例1〜5で得た水系溶液及びアルコール系溶液の組成等について、以下の表1にまとめた。
【0102】
【表1】

【0103】
[実施例1(3層からなる赤外線反射フィルムの製造)]
図5に示すスライドコーター(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、層形成用溶液を光透過性基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と光透過性基材との距離;10cm)を使用して、製造例1で準備した水系溶液、製造例2で準備したアルコール系溶液、製造例1で準備した水系溶液の順に積層されるように、前記光透過性基材上(コロナ処理をした面上)に同時塗布した。塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させることにより、3層からなる透明な赤外線反射フィルムを製造した。各層の厚さはそれぞれ6μm程度であった。得られた赤外線反射フィルムの断面(下層・中間層部位)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図3に示すように良好な積層構造が確認された。得られた赤外線反射フィルムの層厚、並びに可視光線透過率、赤外線透過率及び密着性の測定結果を表2に示す。
【0104】
[実施例2(3層からなる赤外線反射フィルムの製造)]
図5に示すスライドコーター(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗布液を光透過性基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と光透過性基材との距離;10cm)を使用して、製造例4で準備した水系溶液、製造例2で準備したアルコール系溶液、製造例4で準備した水系溶液の順に積層されるように、前記光透過性基材上(コロナ処理をした面上)に同時塗布した。塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させることにより、3層からなる透明な赤外線反射フィルムを製造した。各層の厚さはそれぞれ6μm程度であった。得られた赤外線反射フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、良好な積層構造が確認された。得られた赤外線反射フィルムの層厚、並びに可視光線透過率、赤外線透過率及び密着性の測定結果を表2に示す。
【0105】
[実施例3(3層からなる赤外線反射フィルムの製造)]
図5に示すスライドコーター(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗布液を光透過性基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と光透過性基材との距離;10cm)を使用して、製造例5で準備した水系溶液、製造例2で準備したアルコール系溶液、製造例5で準備した水系溶液の順に積層されるように、前記光透過性基材上(コロナ処理をした面上)に同時塗布した。塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させることにより、3層からなる透明な赤外線反射フィルムを製造した。各層の厚さは6μm程度であった。得られた赤外線反射フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、良好な積層構造が確認された。得られた赤外線反射フィルムの層厚、並びに可視光線透過率、赤外線透過率及び密着性の測定結果を表2に示す。
【0106】
[比較例1(タンデム塗布方式を利用した赤外線反射フィルムの製造)]
光透過性基材に製造例1で得た第1層用の水系溶液を塗布した後に80℃で3分乾燥し、次いで、製造例3で得た第2層用のアルコール系溶液を塗布した後に80℃で1分乾燥し、さらに製造例1で得た第3層用の水系溶液を塗布した後に80℃で1分乾燥して、3層からなる透明な赤外線反射フィルムを製造した。得られた赤外線反射フィルムの層厚、並びに可視光線透過率、赤外線透過率及び密着性の測定結果を表2に示す。また、断面のSEM写真図を図4に示す。
【0107】
[比較例2]
図5に示すスライドコーター(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗布液を光透過性基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と光透過性基材との距離;10cm)を使用して、製造例1で準備した水系溶液、製造例3で準備したアルコール系溶液、製造例1で準備した水系溶液の順に積層されるように、前記光透過性基材上(コロナ処理をした面上)に同時塗布した。しかし、各溶液が混合してしまい、積層状態を保つことができず、赤外線反射フィルムを製造することができなかった。
【0108】
【表2】

【0109】
[結果]
実施例1〜3及び比較例1それぞれにおいて得られた赤外線反射フィルムの断面をSEMにより観察した結果、実施例1〜3の赤外線反射フィルム(図3参照)では、界面領域に微粒子の層が確認された。そして、その微粒子の層が存在する界面領域では、チタン元素の存在を確認した。一方、従来法に従った比較例1の赤外線反射フィルム(図4参照)では、界面領域に微粒子は確認されなかった。なお、高分子系成分を3層全てに含有させた実施例3においては、実施例1及び2で得られた赤外線反射フィルムよりも高い拡散反射性を有する赤外線反射フィルムが得られたことが分かる。
【0110】
[製造例6(高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液)]
酸化チタン水分散液(日本アエロジル株式会社製、「AERODISP(登録商標)−W740」、固形分40%)60g、バインダー成分であるシリコーンアクリル水分散液(日信化学工業株式会社製、「シャリーヌFE−230N」、固形分10%)120g、同じくバインダー成分であるゲルセット用ゼラチン(新田ゼラチン株式会社、「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」、固形分100%)12g、皮膜形成材料としての水酸化チタン(マツモト交商株式会社製)3g、イオン交換水(粘度、固形分調整用)485gからなる組成物(全量680g)を、40℃の恒温水槽中でメカニカルスターラーにて加温攪拌し、温度を下げないよう注意しながら、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、「ミニザルト 17594K」)に通して異物を除去し、高屈折率層用水系塗工液(40℃での粘度50cps以下)とした。
【0111】
製造した高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液は、インキ固形分(N/V)が7.5質量%であり、固形中のフィラー:樹脂重量比率(P/V)が50:50であり、樹脂中の有機バインダー:ゼラチン重量比率が50:50であり、樹脂:皮膜形成材料重量比率が8:1である。なお、屈折率の測定のため、上記高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、その塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、「DVA−36L型」)を用いて測定したところ、屈折率は1.60であった。
【0112】
[製造例7(低屈折率用ゼラチン入り水系溶液)]
酸化ケイ素水分散液(デュポン社製、「ルドックスHS―40」、固形分40%)60g、バインダー成分であるシリコーンアクリル水分散液(日信化学工業株式会社製、「シャリーヌFE−230N」、固形分10%)120g、同じくバインダー成分であるゲルセット用ゼラチン(新田ゼラチン株式会社、「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」、固形分100%)12g、皮膜形成材料としてのポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製、架橋性樹脂「ゴーセノールKL−03」、固形分100%)12g、イオン交換水(粘度、固形分調整用)596gからなる組成物(全量800g)を、40℃の恒温水槽中でメカニカルスターラーにて加温攪拌し、温度を下げないよう注意しながら、5μmメッシュのフィルター(株式会社ハイテック製、「ミニザルト 17594K」)に通して異物を除去し、高屈折率層用水系塗工液(40℃での粘度50cps以下)とした。
【0113】
製造した低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液は、インキ固形分(N/V)が7.5質量%であり、固形中のフィラー:樹脂重量比率(P/V)が50:50であり、樹脂中の有機バインダー:ゼラチン重量比率が50:50であり、樹脂:皮膜形成材料重量比率が2:1である。なお、屈折率の測定のため、上記高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液を光透過性基材上に塗工した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて塗膜を形成し、その塗膜の屈折率を屈折率計(株式会社溝尻光学工業所製、「DVA−36L型」)を用いて測定したところ、屈折率は1.40であり、製造例5の高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液を用いた場合の塗膜との屈折率差は0.20であった。
【0114】
[実施例4(3層からなる赤外線反射フィルムの製造)]
図5に示すスライドコーター(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗布液を光透過性基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と光透過性基材との距離;10cm)を使用して、製造例6で準備した高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液、製造例7で準備した低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液、製造例6で準備した高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液の順に積層されるように、光透過性基材であるPETフィルム上(東レ株式会社製、「ルミラーU46」、厚さ125μm、コロナ処理をした面上)に塗工液温度約40℃にて同時塗布した。塗工後、5℃にて1分間冷却した後、60℃のオーブン中で3分間乾燥させることにより、3層からなる透明な赤外線反射フィルムを製造した。各層の厚さは6μm程度であった。得られた赤外線反射フィルムの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、良好な積層構造が確認された。その積層構造を形成する界面には、凝集態様の層が見られた。また、その界面では、グロー放電発光分光分析によりチタン元素と炭素元素の存在を確認でき、チタン元素と炭素元素を含む反応生成物ができていることが確認できた。また、日射反射率(350nm〜2100nmの塗布からの[反射光総量]/[塗布膜表面に入射した太陽光総量](JIS
K 5602)は20%であった。
【0115】
[比較例2]
実施例4において、高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液に配合する水酸化チタンに代えてポリビニルアルコールを配合して高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液を調液した。また、低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液に配合するポリビニルアルコールに代えて水酸化チタンを配合して低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液を調液した。それらの溶液を用い、実施例5と同様にして、赤外線反射フィルムの製造を試みた。高屈折率層用ゼラチン入り水系溶液は粘度が100cps以下で問題なく調液でき、且つ塗布可能であったが、低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液は白濁と増粘(粘度は100cps以上)が著しく、塗布することができなかった。これは、低屈折率層用ゼラチン入り水系溶液に含まれる酸化ケイ素水分散液と水酸化チタンとの相溶性が悪いためであった。
【0116】
本発明に係る赤外線反射フィルムでの赤外線反射フィルムのメカニズムについて、上記した実施例1〜4及び比較例1,2の結果に基づいて考察する。赤外線反射フィルムの要求特性は、赤外線の反射と可視光の透過であるため、本来の光学設計によれば、高屈折率層と低屈折率層を積層して、高屈折率層→低屈折率層で光を全反射させることになる。通常、反射させる光の波長(λ)は、光学厚み(膜厚×屈折率)で制御する(λ/4)。一般的な材料設計としては、主材料として金属酸化物とポリマーが用いられ、ポリマーの場合は屈折率差が大きくできないが多層化しやすく、一方、金属酸化物の場合は屈折率差を大きくしやすいが、多層化しにくいという材料特有の特徴がある。本発明に係る赤外線反射フィルムは、金属酸化物を用いて屈折率層を形成しているが、厚さ因子が必ずしも前記した理論どおりになっていない。この点については現在のところ明確にはなっていないが、上記した実施例や比較例の結果から少なくとも言えることは、厚くなって厚さ因子が理論どりになっていなくても、可視光の透過性が低下しにくく、しかも、その現象は、微粒子の影響ではない(微粒子の層を形成しなくても、同じであったため)ことがいえ、おそらく同時多層形成しているバインダー成分の関与に基づいているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る赤外線反射フィルムは、例えば建物や乗り物(自動車、電車、バス、航空機、船舶等)の窓ガラス用として、さらに農業ハウス用として利用可能である。また、壁材、床材、天井材等として利用すれば、例えば室内にある遠赤外線を熱源とする機器がある場合に、遠赤外線を拡散反射させて効率良く室内全体を暖めることができ、有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 塗布ヘッド
2 スライド面
3 ロール
4 基材
A 上層用溶液
B 下層用溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材と、該光透過性基材上に設けられた第1層と、該第1層上に設けられて該第1層よりも屈折率が小さい第2層とを少なくとも有し、
前記第1層と前記第2層との界面領域に微粒子の層が存在することを特徴とする赤外線反射フィルム。
【請求項2】
光透過性基材上に第1層を形成するために塗布される第1層形成用溶液、及び、該第1層形成用溶液上に前記第1層よりも屈折率が小さい第2層を形成するために塗布される第2層形成用溶液、を有する少なくとも2種の溶液を重ねる第1工程と、
前記第1工程で重ねられた前記少なくとも2種の溶液を前記光透過性基材上に塗布する第2工程と、
前記光透過性基材上に塗布された前記少なくとも2種の溶液を乾燥する第3工程とを有し、
前記第1工程で前記第1層形成用溶液と前記第2層形成用溶液とを重ねたとき、両溶液の界面領域に該両溶液の混合を防ぐ微粒子の層が形成されることを特徴とする赤外線反射フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1層形成用溶液及び前記第2層形成用溶液のうちの一方の溶液に含まれる成分が、前記微粒子の層を形成する、請求項2に記載の赤外線反射フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第1層形成用溶液に含まれる成分と、前記第2層形成用溶液に含まれる成分とが、前記微粒子の層を形成する、請求項2に記載の赤外線反射フィルムの製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196954(P2012−196954A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217585(P2011−217585)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】