説明

赤外線検出器

【課題】従来の赤外線検出器は熱型赤外線受光素子とシート状ゲッターが同一平面上に実装されているため、ゲッター活性化に伴うゲッターの発熱時に発生する輻射熱により熱型赤外線受光素子、ダイボンディング材への影響を与える、ゲッターの溶接状態のバラツキが発生するという課題があった。
【解決手段】ガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベース1の金属製ベース部に段差を持たせ熱型赤外線受光素子2を実装するベース平面とシート状ゲッター4を実装する平面が異なる高さ平面とし、ゲッター実装用電気的接続端子8をネイル形状とすることにより、輻射熱の影響、溶接状態のバラツキの低減が図れる構造としたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に真空気密封止を要する熱型赤外線検出器のパッケージ構造に於けるゲッター実装に係わる構造を改良した赤外線検出器に関する物である。
【背景技術】
【0002】
熱型赤外線検出器は、測定対象物から発せられる赤外線の微弱な熱変化エネルギーを赤外線受光部でとらえ、電流値、電圧値、抵抗値のような電気特性の温度変化を電気信号に変換し、出力する検出器である。
【0003】
熱型赤外線検出器は、赤外線受光素子へ入射した赤外線エネルギーの熱的な拡散による損失を低下させる為、熱絶縁性を高くすることが重要である。高い分解能を得るため、即ち高い熱絶縁性を得る為、赤外線受光素子構造、赤外線受光素子を断熱構造としたり、素子を収納するパッケージ中雰囲気を真空とすることで熱伝導率を抑制している。一般的に検出器パッケージ内部を低圧とし、真空度を10−1Pa程度以下にすることが知られている。
【0004】
また、パッケージを真空封止後、パッケージ内部の部材から反応性ガス(N、Oなど)、水素、水分、炭化水素といったようなアウトガスが発生し、これによりパッケージ内の真空度が低下することが知られている。よって、パッケージ内部の真空状態を長期間維持するために、ゲッターと呼ばれるガス吸着剤が一般的に使用される。このアウトガスを吸収するためにゲッターを熱型赤外線受光素子と共にパッケージ内に実装する。ゲッター実装時に真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で350〜900℃に加熱し活性化をおこなうことでガスを効率的に吸着することが知られている。
【0005】
従来の赤外線検出器として、熱型赤外線受光素子と、ガス吸着用のシート状ゲッターとをガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベースに実装し、金属製のベースに金属製CANを溶接、赤外線透過ウインドウを真空中で接合する事によりパッケージ内部を真空とした図4の様な構成の物が既に知られている。(特許文献1)
【0006】
従来の赤外線検出器では、ゲッターはシート状ゲッターの両端をガラスにて気密封止された電気的接続端子上面に溶接され、熱型赤外線検出素子と同一平面上に配置、実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2008−198075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の赤外線検出器は前述のように構成されるため、ゲッター活性化に伴うゲッターの発熱時に発生する輻射熱が直接熱型赤外線受光素子、ボンディング材に放射されることとなる。これにより、熱型赤外線受光素子の特性の低下、ダイボンディング材の劣化という課題があった。
【0009】
また、ゲッターを赤外線検出器内部に実装する際、電気的に導通するようにシート状ゲッターをガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベースの電気的接続端子に溶接する事により実装するが、従来品の場合、溶接する際、設置状態が不安定になることから溶接の状態のバラツキが発生するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述のような課題を解決するためになされた物で、ゲッター通電活性化時に発生する輻射熱が、熱型赤外線受光素子、ダイボンディング材に与えるダメージを低減させるために、金属製のベース部に段差を持たせ熱型赤外線検出素子を実装するベース平面とゲッターを実装する平面が異なる高さ平面であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明はガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製ベースのゲッター実装用電気的接続端子上面へゲッターを溶接する際、従来、棒状の形状であったゲッター溶接部である電気的接続端子先端の形状を、ネイル形状としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る赤外線検出器は金属ベースが前述のような階段構造を有するため、シート状ゲッターの通電活性化時、ゲッターより放射される輻射熱を金属ベース垂直面にて遮ることが可能となる。これにより、活性化中の発熱したゲッターから放射された輻射熱が熱型赤外線受光素子、また、ダイボンディング材に直接放射されることが無くなり、ゲッター活性化時に発生する輻射熱の影響を低減することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る赤外線検出器はゲッター実装用電気的接続端子インナー端子先端の形状がネイル状となっているため、シート状ゲッターを溶接する際、ゲッターの設置状態が安定的となることにより、溶接状態のバラツキを小さくする事が可能となる。
【0014】
前述のようにゲッター発熱に伴う輻射熱による熱型赤外線受光素子、ダイボンディング材へのダメージの低減、ゲッターの溶接状態のバラツキを小さくすることにより、製品歩留まりを向上させることが可能となり、コスト低減を図ることの出来る赤外線検出器を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係わる赤外線検出器の内部構造断面図
【図2】ゲッター実装部(A部)拡大図
【図3】金属製ベース段差拡大図
【図4】従来の赤外線検出器の内部構造断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して詳細な説明をする。
【0017】
図1〜4において、1はガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベース、2は熱型赤外線受光素子、3はダイボンディング材、4はシート状ゲッター、5は金属製CAN、6は赤外線透過ウインドウ、7は接合材、8はゲッター実装用電気的接続端子、9は電気的接続端子である。
【実施例1】
【0018】
ガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベース1は熱型赤外線受光素子2を実装する平面とシート状ゲッター5を実装する平面の2つの平面を持つ。金属ベース1はシート状ゲッター5を実装する平面が熱型赤外線受光素子2を実装する平面より低くなるような異なった高さの平面をもつ構造をとる。また、前述2つの平面の境界は金属ベース面に対し垂直な面を持つ階段状の構造を有する。この階段形状の段差がシート状ゲッターから放射される直進性の輻射熱を遮ることが可能となる設定の条件を図3にて説明する。前述金属ベース垂直面からシート状ゲッター外端の距離をa、前述金属ベース垂直面から赤外線受光素子端の距離をb、シート状ゲッター天面から前述金属ベース赤外線受光素子実装平面までの高さをc、前述金属ベース赤外線受光素子実装平面から赤外線受光素子天面までの高さをdとしたとき、a〜dの各寸法がa≧b、c≧d条件を満たす高さ、距離を設定することにより、シート状ゲッターから放射される直進性の輻射熱を遮ることが可能となる。
【0019】
また、金属ベース1はシート状ゲッター5を実装する平面には電気的接続端子の先端形状がネイル(釘)状となっているゲッター実装用電気的接続端子8を2本有する。このときゲッター実装用電気的接続端子上端部の径は気密封止部に使用されているガラス径より小さくならなくてはいけない。また、熱型赤外線受光素子2を実装する平面にある電気的接続端子のインナー端子は一般的な棒状の形状を持つ。
【0020】
このような金属製のベース1の熱型赤外線受光素子2を実装する平面にはダイボンディング材3を介して熱型赤外線検出素子2が実装されている。その熱型検出素子2は電気的接続端子9に金やアルミニウム等によりワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0021】
ここで前記熱型赤外線検出素子2は、例えばブリッジ構造を持つ素子が2次元アレイ状に素子基板上に配置されていたサーミスタボロメーター素子である。この2次元アレイ状の配列された各素子がブリッジ構造をとることにより、素子と基板間に一定距離を設けることにより、熱絶縁を得ている。例として、サーミスタボロメーターを上げているが、熱絶縁が重要なサーモパイル素子でもよい。また、ダイボンディング材3は、実装後の真空度の低下を防ぐため、アウトガスの少ないダイボンディング材を使用している。
【0022】
シート状ゲッターは、前述金属ベース1のシート状ゲッターを実装する平面にある先端がネイル形状を持つ2本のゲッター実装用電気的接続端子8上端に両端を溶接されることで実装されている。このシート状ゲッター5はニクロムシート上にチタン、ジルコニウム等を焼結して形成されたもので、ゲッター実装用電気的接続端子を介してニクロムシートに通電する事で350〜900℃に加熱されて表面が活性化されることにより、真空パッケージ内の材料から放出されるガスを吸着し、真空パッケージ内の真空の劣化を防止する非蒸発型のゲッターである。
【0023】
また、金属ベース1に金属製CAN5を溶接、赤外線ウインドウ6真空中で気密に接合することにより真空パッケージが形成されている。赤外線ウインドウ6は低融点半田等の接合剤7を介して金属製CAN5に気密接合される。
【0024】
ここで赤外線透過ウインドウ6は例えばシリコンのような赤外線透過性のある物が用いられる。赤外線透過ウインドウの表面と裏面には反射防止膜もしくは、所望の波長の赤外線を通す例えば8−14umのような波長帯を透過する赤外線透過膜がコーティングされている。赤外線透過ウインドウ6はカルコゲナイドガラス、ゲルマニウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛等の材料を使用することも可能である。また、赤外線透過ウインドウ6には裏面(金属CAN5側)の外縁に接合材7と接合が可能となるようメタライズ膜が形成されている。金属製CAN5についても接合材7と接合が可能となるよう表面メッキ処理が施されている。
【0025】
以上説明した実施の形態によれば、ガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベース1、金属製CAN5、赤外線ウインドウ6により形成された真空パッケージ内に、熱型赤外線検出素子2、シート状ゲッター4が配置してある。シート状ゲッター4は、熱型赤外線検出素子を実装する面よりも低い位置にあるゲッターを実装する面に実装されることにより、通電活性化時350〜900℃に発熱するゲッターから放射される輻射熱が直に熱型赤外線検出素子、ダイボンディング材に放射されることが無くなり、通電活性化時に与えるダメージを低減することが出来る。
【0026】
また、シート状ゲッター4は先端がネイル状の形状を持つゲッター実装用電気的接続端子8に溶接により実装されるため、ゲッターを溶接する際、ゲッターの設置状態が安定的となることにより、溶接状態のバラツキを抑制する事が可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 ガラスにて気密封止された電気的接続端子を備える金属製のベース
2 熱型熱型赤外線受光素子
3 ダイボンディング材
4 シート状ゲッター
5 金属製キャップ
6 赤外線透過ウインドウ
7 接合材
8 ゲッター実装用電気的接続端子
9 電気的接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のベース部に段差を持たせ熱型赤外線検出素子を実装するベース平面とゲッターを実装する平面が異なる高さ平面であることを特徴とした赤外線検出器。
【請求項2】
請求項1の赤外線検出器において、ゲッター溶接部である電気的接続端子先端の形状を、ネイル形状としたことを特徴とした赤外線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−197184(P2010−197184A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41748(P2009−41748)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000229081)日本セラミック株式会社 (129)
【Fターム(参考)】