説明

赤外線検出素子、赤外線撮像装置

【課題】簡単な構造により製造プロセスを複雑化することなく高感度な赤外線検出素子を実現する。
【解決手段】赤外線検出素子の上部電極に対し、当該上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部を設ける。このような開口機能部では赤外線の透過率が大となるため、その分、焦電素子側に透過される赤外線の量を大とすることができる。つまりこの結果、赤外線の検出感度の向上を図ることができる。また、上記開口機能部は上部電極の厚さを薄く又はゼロとするのみで形成されるものであり、従って高感度化を実現するにあたっての赤外線検出素子の製造プロセスの複雑化を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を受光して検出する赤外線検出素子に関わり、特に、自発分極の変化により表面電荷を発生させる焦電型の赤外線検出素子に適用して好適なものである。また本発明は、上記赤外線検出素子を備えて赤外線撮像画像を得る赤外線撮像装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特許第3944465号公報
【特許文献2】特開2008−51522号公報
【背景技術】
【0003】
受光した赤外線を検出する赤外線検出素子は、その動作原理により、量子型と熱型と呼ばれる2種類に大別される。
これらのうち、入射した赤外線を吸収して受光素子の温度が変化することで赤外線を検出する熱型の赤外線検出素子は、冷却が不要であるという利点がある。このため、近年では、赤外線撮像装置(サーモグラフィ)のイメージャや、エコ製品等に搭載される人感センサとして利用されるようになってきている。
【0004】
このような熱型の赤外線検出素子にも、例えば以下のような3種類があることが知られている。一つは、ゼーベック効果を生じさせる熱電対を接続したサーモパイル型である。また、もう一つは、温度上昇による抵抗値の変化を利用したボロメータ型である。そして、焦電素子の自発分極の変化により、表面電荷を発生させる焦電型が知られている。
これらのうち焦電型の赤外線検出素子では、赤外線に対する感度を高めるために、焦電材料の種類や配合を工夫し、温度変化による表面電荷の発生効率である焦電係数を大きくする研究や、入射した赤外線を効率よく吸収する研究が盛んに行われている。
【0005】
例えば上記特許文献1には、図15に示すように、基板105上において支持柱104によって赤外線吸収部101を温度センサ103上に浮かせた中空構造とすることが開示されている。
これは、赤外線吸収部101を支持柱104によって独立して配置することで、赤外線吸収部101の面積をできるだけ大きくしようとするものである。すなわち、画素領域の面積に対する検出可能なセンサ面積の割合を大きくするものである。
【0006】
また、上記特許文献2では、図16に示すように、赤外線検出部としてのダイオード114の上層側に、赤外線吸収膜110、副反射膜111、金属反射膜(赤外線反射膜)112から成る赤外線吸収層113を形成することが開示されている。この赤外線吸収層113では、最下部に赤外線反射膜112を形成したことで、最上部の赤外線吸収膜110を透過した赤外線を反射させて再度赤外線吸収膜110に戻すことにより、赤外線の吸収効率を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記特許文献1の場合、赤外線吸収部101は支持柱104によって空中に浮かせるように支持されている。半導体プロセスでは、このような構造は、一度支持柱104の形成材料を成膜(支持柱層とする)し、その後赤外線吸収部101を成膜し、さらに、支持柱層のうち支持柱104となるべき部分を除いた不要な部分をエッチングにより抜くといった工程が必要となり、プロセスの複雑化を招いてしまう。
また、特許文献1において、実際に赤外線を検出するのは、赤外線吸収部101に対して支持柱104により接続された温度センサ103である。この温度センサ103としてはダイオードやトランジスタを用いることが開示されており、温度変化によりダイオードやトランジスタの電気特性が変化することで、赤外線が検出されることになる。
このことから理解されるように、特許文献1の構成では、赤外線吸収部101が赤外線を吸収することで得た熱を、支持柱104を通じて温度センサ103に伝達しなければならない。すなわち、赤外線吸収によって得た熱が全て温度センサ103の温度上昇のために用いられる訳ではなく、赤外線吸収部101と支持柱104で生じた温度上昇分、換言すれば赤外線吸収部101と支持柱104の熱容量分だけは必ず損失となってしまう。
この結果、入射した赤外線エネルギーの利用効率が低下する傾向となる。
また、上記の構造によると、センサへの熱の伝達遅れも問題となる。
【0008】
また、上記特許文献2においても、赤外線検出部であるダイオード114の上に、赤外線反射膜112と赤外線吸収膜110を成膜しなければならず、製造プロセスが複雑化することとなる。
また、赤外線吸収膜110と反射膜112の熱容量分だけ損失が生じるという問題もある。
【0009】
本発明は、これら従来技術の有する問題に鑑み為されたものであり、その課題は、簡単な構造により製造プロセスを複雑化することなく、入射した赤外線を効率良く吸収し、得た赤外線エネルギーを効果的に利用できる高感度な赤外線検出素子を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決を図るべく、本発明では赤外線検出素子として以下のように構成することとした。
すなわち、本発明の赤外線検出素子は、焦電素子と、前記焦電素子を挟み込む位置関係となるように配された上部電極と下部電極とを備えると共に、前記上部電極に、前記上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部が設けられているものである。
【0011】
また、本発明では撮像装置として以下のように構成することとした。
つまり、撮像面内に配列された複数の赤外線検出素子を備えて構成された撮像素子と、前記撮像面に対して赤外線を集光する撮像光学系とを備える。
また、前記赤外線が集光されることに応じて前記赤外線検出素子に得られる電荷を検出した結果に基づき、赤外線撮像画像信号を得る画像信号取得部を備える。
そして、前記撮像素子における前記赤外線検出素子として、焦電素子と、前記焦電素子を挟み込む位置関係となるように配された上部電極と下部電極とを備えると共に、前記上部電極に、前記上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部が設けられている赤外線検出素子を備えるようにした。
【0012】
上記のように本発明では、赤外線検出素子の上部電極に対し、当該上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部を設けるものとしている。このような開口機能部では赤外線の透過率が大となるため、その分、焦電素子側に透過される赤外線の量を大とすることができる。つまりこの結果、赤外線の検出感度の向上を図ることができる。
また、上記開口機能部は上部電極の厚さを薄く又はゼロとするのみで形成されるものであり、従って高感度化を実現するにあたっての赤外線検出素子の製造プロセスの複雑化を回避できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、赤外線検出素子の高感度化を、その製造プロセスの複雑化を回避しつつ実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態としての撮像装置の内部構成を示したブロック図である。
【図2】第1の実施の形態としての赤外線検出素子の構造を表す斜視図である。
【図3】第1の実施の形態としての赤外線検出素子の断面構造図である。
【図4】イメージャの構造を表す平面図である。
【図5】開口部の有/無に応じた赤外線の透過/反射の様子を模式的に示した図である。
【図6】開口部が有/無の場合の熱伝導の様子を模式的に示した図である。
【図7】開口率と赤外線の透過率・反射率との関係を表により示した図である。
【図8】開口率に対する温度変化比・出力比の関係を示した図である。
【図9】第2の実施の形態としての赤外線検出素子の断面構造図である。
【図10】第3の実施の形態としての赤外線検出素子の断面構造図である。
【図11】変形例1としての赤外線検出素子の断面構造図である。
【図12】開口部の形状についてのバリエーションを例示した図である。
【図13】変形例2としての赤外線検出素子の構造について説明するための図である。
【図14】変形例3としての赤外線検出素子の断面構造図である。
【図15】支持柱を設けた従来例としての赤外線検出素子の構造について説明する為の図である。
【図16】赤外線吸収層を備える従来例としての赤外線検出素子の構造について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行う。

<1.第1の実施の形態>
[1-1.撮像装置の構成]
[1-2.赤外線検出素子及びイメージャの構造]
[1-3.作用及び効果]
<2.第2の実施の形態>
<3.第3の実施の形態>
<4.変形例>
【0016】
<1.第1の実施の形態>
[1-1.撮像装置の構成]

図1は、本発明の撮像装置の一実施形態としての撮像装置(以下、実施の形態の撮像装置とも称する)の内部構成を示したブロック図である。
図1において、実施の形態の撮像装置には、撮像レンズ1が設けられる。撮像レンズ1は、図中に入射光Liと示す被写体からの赤外線をイメージャ4の撮像面に集光する。
撮像レンズ1の材料は、赤外線を透過する材料であれば特に限定されない。例えば、従来提案されているGeレンズやSiレンズの他に、これらのレンズより安価な材料からなり、赤外線を透過させることが可能なレンズを使用することもできる。また、今後開発される赤外線用のレンズ材料も使用することが可能である。
なお、赤外線をイメージャ4に集光するための光学系は、実際には複数のレンズにより構成されるものとなるが、ここでは説明の簡単のため、撮像レンズ1のみを抽出して示している。
【0017】
シャッタ2及びシャッタ駆動部3は、イメージャ4に対する被写体からの赤外線の照射/遮蔽が交互に繰り返されるようにするために設けられる。
例えば、シャッタ2としては、遮蔽材(被写体からの赤外線を遮蔽する材料で構成される)と当該遮蔽材を変位可能に保持するアクチュエータとを有して構成されたものを用いることができる。この場合、シャッタ駆動部3が上記アクチュエータを駆動制御することで、イメージャ4に対する赤外線の照射/遮蔽が繰り返されるように構成することができる。
或いは、シャッタ2としては液晶シャッタなどの開口/閉口可変設定素子により構成することもでき、その場合、シャッタ駆動部3は、当該開口/閉口可変設定素子の開口状態/閉口状態を電気的に制御することで、イメージャ4に対する赤外線の照射/遮蔽を繰り返させることになる。
【0018】
ここで、本例のイメージャ4が有する赤外線検出素子は、焦電素子を用いたいわゆる焦電型の赤外線検出素子となるが、焦電素子は、温度変化(温度差)に応じて電荷が生じるものであり、従って静定した被写体の撮像も可能とするためには、意図的に温度差を生じさせる必要がある。
このために、上記のようなシャッタ2及びシャッタ駆動部3を設けるものとしている。すなわち、これらシャッタ2及びシャッタ駆動部3によって上述のようにイメージャ4に対する被写体からの赤外線の照射/遮蔽が交互に繰り返されることで、各画素(各赤外線検出素子)に対して意図的に温度差(照射状態における被写体からの温度と遮蔽状態におけるシャッタ2からの温度との温度差)を生じさせることができ、その結果、移動する被写体の撮像のみでなく静定した被写体の撮像も可能となるものである。
【0019】
イメージャ4は、その撮像面において焦電素子による赤外線検出素子が複数配列されている。
後述もするが、各赤外線検出素子は、焦電素子(後述する焦電薄膜10)と、当該焦電素子を挟み込むようにして設けられた上部電極(11)と下部電極(12)とを有して構成され、上述したシャッタ2及びシャッタ駆動部3による赤外線の照射/遮蔽に伴い、上記焦電素子に前述の「温度差」に応じた電荷が発生し、当該電荷が上記上部電極及び下部電極を通じて電荷電圧変換されて検出される。
【0020】
画像信号取得部5は、上記のようにしてイメージャ4の各赤外線検出素子で電荷電圧変換されて得られる電圧信号(輝度値)を入力して、赤外線撮像画像信号を得る。
【0021】
画像信号処理部6は、画像信号取得部5で得られた撮像画像信号について各種の画像信号処理を施す。例えば、黒レベル補正、画素欠陥補完、収差補正、光学シェーディング補正、レンズディストーション補正、温度調整、距離変化量の算出、コーディング等を行う。
画像信号処理部6からの出力は、図示しないがインターフェース等を介して、撮像装置の外部のディスプレイ(画像表示装置)等に送られる。
【0022】
[1-2.赤外線検出素子及びイメージャの構造]

図2は、第1の実施の形態の赤外線検出素子の構造を示す斜視図、図3は第1の実施の形態の赤外線検出素子の断面構造図、図4はイメージャ4の構造を表す平面図である。
図2及び図3に示すように、本実施の形態の赤外線検出素子は、焦電素子としての焦電薄膜10と、上部電極11、下部電極12、基板13とを備える。具体的にこれらは、上層側から順に上部電極11、焦電薄膜10、下部電極12、基板13の順で形成されている。
ここで、本明細書において「上層側」とは、赤外線検出素子において被写体からの赤外線が入射する側の面(前述した撮像面)を上面としたときの上層側を指す。
【0023】
焦電薄膜10は、赤外線を吸収して温度が変化することにより自発分極の値が変化する焦電材料で構成される。なお、焦電材料については特に限定はしないが、例えば、無機材料としてはチタン酸鉛やチタン酸ジルコン酸鉛、タンタル酸リチウムがよく知られ、また有機材料としては三硫化グリシン(TGS)、ポリビニリデンジフロライド等がよく知られており、これらを採用することができる。
【0024】
上部電極11及び下部電極12は導電性を有する材料で構成される。これら上部電極11及び下部電極12の材料としては例えばPt、Ti、Cr、Al、Au、Cuなどを挙げることができる。
【0025】
そして、本実施の形態の場合、上部電極11に対しては、図のように開口部11Aが設けられる。当該開口部11Aの形成により、上部電極11の下層に形成された焦電薄膜10の一部が外界に表出(露出)するようにされている。つまり、当該開口部11Aが形成された部分の上部電極11の厚さはゼロである。
本例の場合、開口部11Aは、1つの赤外線検出素子(1つの画素)につき4つを設けるものとしている。また開口部11Aの形状は矩形状としている。
【0026】
図4に示すように、イメージャ4においては、基板13上に[上部電極11・焦電薄膜10・下部電極12]から成るユニット(画素)が複数独立して配列される。上部電極11が形成される面が、イメージャ4の表面(撮像面)となる。
【0027】
[1-3.作用及び効果]

ここで、焦電薄膜10は、赤外線吸収に伴う温度変化により自発分極の値が変化して表面電荷を生じるという性質上、上下の電極により挟まれた面積でしか出力を得ることができない。そこで、より多くの赤外線を受光して高感度化を図るには、上部電極11としてはなるべく広い面積となるように形成されるのが通常である。
【0028】
しかしながら、一般的に金属の赤外線反射率は90%を超えており、そのまま電極として用いた場合、入力した赤外線のエネルギーの90%以上を反射してしまい、上部電極11の下に位置する焦電薄膜10の温度変化にそのエネルギーを十分に利用することができない。
そこで本実施の形態では、前述した開口部11Aを設けることで、焦電薄膜10の一部を上面側に露出させるようにしている。
【0029】
図5は、開口部11Aが無い場合の赤外線の透過/反射の様子(図5(a))と、開口部11Aを設けた場合の赤外線の透過/反射の様子(図5(b))とをそれぞれ模式的に示し、図6は、開口部11Aが無い場合の熱伝導の様子(図6(a))と、開口部11Aを設けた場合の熱伝導の様子(図6(b))とをそれぞれ模式的に示している。
なお図6においては熱量を色の濃淡で表しており、濃色ほど熱量が大であることを表す。
【0030】
図5を参照して理解されるように、上部電極11における開口部11Aの形成部分では焦電薄膜10が露出しているため、本来は上部電極11にて反射されてしまう赤外線を焦電素子に透過することができ、焦電薄膜10に到達する赤外線の量をより増大させることができる。
そしてこれに伴い、図6に示すように焦電薄膜10に到達する赤外線エネルギーの量としても開口部11を設けた場合の方が増大する。
【0031】
図7は、上部電極11の開口率と赤外線の透過率・反射率との関係を表にして示している。なお、図7は、上部電極11についてその材料をPtとし且つ膜厚を30nmとした上で、画素サイズを17μm*17μmとしたときのシミュレーション結果を示すものである。
この図7を参照すると、上部電極11の開口率(つまり上部電極11において開口部11Aが占める割合)を大とするに従って反射率は低下し、逆に透過率は上昇することが分かる。
【0032】
この一方で、一般的に焦電素子の温度変化量ΔTは、下記の[式1]で求まる。


【数1】



ただし、η:赤外線の吸収効率、P:赤外線の入射熱量、G:素子の熱コンダクタンス、ω:チョッピング周波数(シャッタ2による照射/遮蔽の周期)、H:素子の熱容量である。
【0033】
ここで、赤外線の入射熱量Pは、図7に示した赤外線の反射率と透過率とで決まり、透過率が大きくなるほど焦電素子に入力される赤外線のエネルギーは大きくなり、温度変化量は大きくなる。
【0034】
さらに、焦電素子の出力ΔVは、下記[式2]で決まる。


【数2】



ただし、A:電極面積、λ:焦電係数、R:電荷電圧変換用抵抗値、τ:電気的時定数である。
【0035】
これら[式1][式2]に従って求めた上部電極11の開口率に対する温度変化比・出力比[%]の関係を図8に示す。
この図8を参照して分かるように、開口率を大きくすることによっては、温度変化比(照射時と遮蔽時との温度差)は大きくなっていく。但し、開口率を大とすると上部電極11の面積Aは小さくなるため、開口率が過大であると返って高感度化が図られなくなってしまう。この点は、[式2]を参照しても明らかである。
【0036】
図8によれば、開口率はおよそ30%〜70%程度であれば、出力を従来比(開口部11Aなしの場合との比)で2.5倍以上向上できる。
また、開口率を45%程度とすれば、出力を従来比で最大(従来比で3倍程度)に高めることができる。
これらの点より開口率は、30%〜70%程度が好ましく、また45%程度が最も好ましいものとなる。
【0037】
上記のように本実施の形態によれば、上部電極11に開口部11Aを設けたことで、赤外線検出素子の高感度化を実現できる。
また、開口部11Aは、例えば[基板13・下部電極12・焦電薄膜10・上部電極11]による積層構造体を形成後、上部電極11に対しエッチングを施すなどの簡易な工程により形成できる。この点からも理解されるように、本実施の形態によれば、赤外線検出素子の高感度化を、その製造プロセスの複雑化を回避しつつ実現することができる。
【0038】
<2.第2の実施の形態>

ここで、上記もしているように開口部11Aは上部電極11にエッチングを施すなどの簡易な工程により形成することができる。具体的に、このような開口部11Aの形成工程としては、上部電極11をイオンミリングによってエッチングする手法が挙げられる。
【0039】
しかしながら、イオンミリングでは物理的なイオンの衝突を起こしているため、焦電薄膜10の表面への衝撃が避けられず、その結果として、焦電薄膜10の分極特性の劣化を招き兼ねない。
【0040】
そこで、第2の実施の形態の赤外線検出素子として、図9に示すような構造による赤外線検出素子を提案する。
なお、図9は第2の実施の形態の赤外線検出素子の断面構造を示すものである。
また第2の実施の形態において、撮像装置における赤外線検出素子以外の構成については第1の実施の形態で説明したものと同様となるので改めての説明は省略する。
【0041】
図9において、第2の実施の形態の赤外線検出素子では、上層側から順に上部電極11、保護透過膜20、焦電薄膜10、下部電極12、基板13を形成している。すなわち、第1の実施の形態の赤外線検出素子における上部電極11と焦電薄膜10との間に、保護透過膜20を配したものである。
【0042】
このように上部電極11と焦電薄膜10との間に保護透過膜20を形成しておくことにより、イオンミリング時の焦電薄膜10の劣化を効果的に防ぐことができる。
このとき、保護透過膜20としては導電性を有する材料を選択する。また同時に、赤外線の透過率が高い材料を選定することが好ましい。例えば一例として、TiやCrなどを挙げることができる。
【0043】
また、上記のように上部電極11と焦電薄膜10との間に保護透過膜20を成膜した構造とすれば、イオンミリングによる異種金属の選択比が違う為に、保護透過膜20上部でエッチングを終了できるという効果も奏する。
【0044】
ここで、エッチングに伴う焦電薄膜10の特性劣化の防止を図るためには、上部電極11を完全に貫通させず一部を残すという手法も採り得る(例えば図14を参照)。第2の実施の形態において、敢えて保護透過膜20を設けるものとして、赤外線透過率の高いTiやCrだけで上部電極11を形成するものとしていないのは、下記の理由による。

1)TiやCrは雰囲気中の酸素と結合してTiO2やCrxOyとなってしまう。
この酸化物になった酸化チタンおよび酸化クロムは電気接触抵抗が非常に高く、電極としての使用には適さない虞がある。

2)例えば焦電薄膜10を1μm以上の厚さで成膜した場合、上部の表面粗さは100nm以上になってしまう。この場合、上部電極11を亀裂なく成膜するには100nm以上の膜厚が必要となる。100nm以上の膜厚であると、透過率の高いTiやCrであっても遠赤外線透過率が10%以下となってしまう。

これらの理由より、遠赤外線透過率の比較的よい材料を保護透過膜20として使用し、本来の上部電極11としては電気特性の安定している例えばPt等の材料を使用することが、望ましいものとなる。
【0045】
上記のように第2の実施の形態によれば、上部電極11と焦電薄膜10との間に保護透過膜20を設けたことで、イオンミリング時の焦電薄膜10の劣化を効果的に防ぐことができる。
また同時に、オンミリングによる異種金属の選択比が違う為に、保護透過膜20上部でエッチングを終了できるという効果も奏する。
【0046】
なお、イオンミリングによる上部電極11のエッチング量を高精度にコントロールできる場合には、第1の実施の形態の構造で何ら問題無いことは言うまでもない。
【0047】
<3.第3の実施の形態>

図10は、第3の実施の形態としての赤外線検出素子の断面構図である。
先の図3と対比して分かるように、第3の実施の形態の赤外線検出素子は、第1の実施の形態の赤外線検出素子における上部電極11の上面側に吸収膜30を成膜したものとなる。
吸収膜30は、赤外線を吸収可能な材料で構成される。
このような構造によれば、開口部11Aを設けたことによる赤外線透過量の増加と、吸収膜30を設けたことによる熱吸収率の上昇との双方の作用により赤外線検出感度の向上を図ることができる。
【0048】
<4.変形例>

以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明としてはこれまでで説明した具体例に限定されるべきものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な構成を採り得る。
【0049】
例えば赤外線吸収率のさらなる向上を図るべく、変形例1として、図11のような構造を採ることもできる。
図11では、図中の右側に赤外線検出素子の全体的な断面構造(第1の実施の形態の赤外線検出素子の全体的な断面構造と同じ)を示すと共に、分図(a)(b)により上部電極11の形成部分の拡大図を、また分図(c)により焦電薄膜10における開口部11Aにより露出(開口)された部分の拡大図を示している。
【0050】
これら分図(a)(b)(c)に示すように、上部電極11の上面、上部電極11の上面及び焦電薄膜10の上面の双方、焦電薄膜10における開口部11Aにより開口された部分の少なくとも何れかに、微細な凹凸を与える。具体的には、少なくとも対象とする赤外線の波長以下のピッチによる凹凸を与える。例えば、表面粗さ100nm〜5μm程度の凹凸が望ましい。
【0051】
このような微細な凹凸を与えた構造とすることで、遠赤外線領域の波長に対して、入射側の波形と反射側の波形の位相を、当該凹凸で反転することにより、赤外線の反射率の低下(透過率の上昇)を促すことができる。
この結果、効率的に熱を吸収することが可能となり、さらなる赤外線検出感度の向上が図られる。
【0052】
なお、図11では第1の実施の形態の赤外線検出素子に微細凹凸構造を採用する場合を例示したが、第2及び第3の実施の形態の赤外線検出素子にもこのような凹凸構造を採用できることは言うまでもない。
【0053】
また、これまでの説明では、開口部11Aを矩形状とし、且つ上部電極11に開口部11Aを4つ形成する場合を例示したが、上部電極11に対する開口部11Aの形成パターンはこれに限定されるべきものではなく、例えば図12に示すような種々のパターンが考えられる。
図12において、図12(a)は上部電極11の中央部に長方形状の開口部11Aを1つのみ形成するパターン、図12(b)は菱形の開口部11Aを複数形成するパターン、図12(c)は円形の開口部11Aを複数形成するパターンである。
また図12(d)は、ジグザグ形状の縁部を有する2つの開口部11Aを、ジグザグの頂点同士を対向させるように配置したパターンであり、図12(e)は、ジグザグ形状の縁部を有する2つの開口部11Aをジグザグの頂点同士をずらして対向させるように配置したパターンである。
また図12(f)は、細長の開口部11Aを渦巻き状に形成したパターンである。
【0054】
なお、これらの開口部11Aの形状及び形成パターンは一例に過ぎず、他の形状及び形成パターンを採用できることは言うまでもない。
何れにしても焦電薄膜10の温度変化を効率よく起こすためには、開口の周長はできる限り長くすることが好ましい。
【0055】
また、焦電薄膜10における赤外線の受光面積をなるべく大きくする意味で、図13のように焦電薄膜10にテーパを形成しても良い(変形例2)。
図13(a)は、上部電極11の中央部に開口部11Aを設けた場合に対応して、焦電薄膜10の当該開口部11Aにより開口された部分にテーパを形成した例を示している。
また図13(b)は、上部電極11に開口部11Aを形成するものではないが、上部電極11を焦電薄膜10の中央部のみに配置した場合に対応して、焦電薄膜10の上部電極11の形成部分以外の部分に対してテーパを形成した例を示している。
【0056】
また、図14は変形例3の赤外線検出素子として、上部電極11に対し、開口部11Aに代えて凹部11Bを形成する例を示している。
当該凹部11Bは、上部電極11の厚さを薄くすることで形成されるものであり、例えば、上部電極11に対するエッチングとして当該上部電極11の貫通を避け一部を残すことで形成される。
このような凹部11Bの形成により厚さが薄くなった部分では、焦電薄膜10への赤外線の透過量が増加し、その結果、開口部11Aを設けた場合と同様の原理で赤外線検出素子の高感度化が図られるものとなる。
【0057】
また、このように凹部11Bを形成する構造とすれば、エッチング時の焦電薄膜10への衝撃が避けられ、焦電薄膜12の劣化を避けることができる。
【符号の説明】
【0058】
Li 入射光、1 撮像レンズ、2 シャッタ、3 シャッタ駆動部、4 イメージャ、5 画像信号取得部、6 画像信号処理部、10 焦電薄膜、11 上部電極、11A 開口部、11B 凹部、12 下部電極、13 基板、20 保護透過膜、30 吸収膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦電素子と、
前記焦電素子を挟み込む位置関係となるように配された上部電極と下部電極とを備えると共に、
前記上部電極に、前記上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部が設けられている
赤外線検出素子。
【請求項2】
前記開口機能部による前記上部電極の開口率が略30%〜70%である請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項3】
前記上部電極はPt、Ti、Cr、Al、Au、Cuの何れかで構成されている請求項2に記載の赤外線検出素子。
【請求項4】
前記焦電素子と前記上部電極との間に保護透過膜が配されている請求項3に記載の赤外線検出素子。
【請求項5】
前記保護透過膜がTi又はCrで構成される請求項4に記載の赤外線検出素子。
【請求項6】
前記上部電極の上面側に対して赤外線吸収膜が配されている請求項5に記載の赤外線検出素子。
【請求項7】
前記焦電素子の上面における少なくとも前記開口機能部により開口された領域又は前記上部電極の上面若しくは下面に対して、少なくとも検出対象とする赤外線の波長以下のピッチによる凹凸が与えられている
請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項8】
前記上部電極における前記開口機能部の形成数が1である請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項9】
前記上部電極に前記開口機能部が複数形成されている請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項10】
前記開口機能部は前記上部電極の厚さをゼロとするように形成されたものである請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項11】
前記開口機能部は前記上部電極の厚さを薄くした凹部である請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項12】
前記焦電素子にテーパが形成されている請求項1に記載の赤外線検出素子。
【請求項13】
撮像面内に配列された複数の赤外線検出素子を備えて構成された撮像素子と、
前記撮像面に対して赤外線を集光する撮像光学系と、
前記赤外線が集光されることに応じて前記赤外線検出素子に得られる電荷を検出した結果に基づき、赤外線撮像画像信号を得る画像信号取得部とを備えると共に、
前記撮像素子における前記赤外線検出素子として、
焦電素子と、前記焦電素子を挟み込む位置関係となるように配された上部電極と下部電極とを備えると共に、前記上部電極に、前記上部電極の厚さを薄く又はゼロとするように形成した開口機能部が設けられている赤外線検出素子を備える
赤外線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図9】
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