赤外線検出素子及びそれを用いた赤外線イメージセンサ
【課題】 複雑な貼り合せ工程が不要な、シリコン基板上にオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性、高集積化が可能な赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサを提供する。
【解決手段】基板と、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、を備えたことを特徴とする赤外線検出素子が提供される。
【解決手段】基板と、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、を備えたことを特徴とする赤外線検出素子が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検出素子、特に圧電膜を使用した赤外線検出素子及びそれを用いた赤外線イメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
民生用に一般に使用されている赤外線検出素子は、全て非冷却型の赤外線検出素子であり、大別すると焦電型とボロメータ型に大別される。
焦電型赤外線センサにおいては、赤外線検出素子として焦電体と呼ばれる特殊な材料を使用する必要があり、代表的には酸化物の強誘電体であるチタン酸鉛系、あるいはチタン酸バリウム系の材料が使用される。しかしながらこれらの材料は、結晶化温度が高いこと、イオンエッチングが困難であること、酸化物であるために貴金属系の電極材料が必要であることなどから、CMOSプロセスで作製した赤外線センサ用のシリコン基板の上に直接作成することが困難であるという問題点がある。
【0003】
そこでCMOSのモノリシックプロセスに代わり、プロセスが複雑で高価な、貼り合わせ技術などを使用したハイブリッドプロセスを使用せざるを得ない。
例えば、焦電型赤外線検出素子の例として、基板上に配向性酸化物下地膜を形成し、その上に焦電体と樹脂膜を形成した後、これを別の基板と貼り合わせ、その後に配向性酸化物下地膜を溶解除去する赤外線検出素子の製造方法がある。
【0004】
ところが、この焦電型赤外線検出素子は、いくつかの問題点があった。
第1の問題点は、検出素子の作製における複雑な貼り合せおよび基板の溶解除去工程が信頼性、精度、微細化、アレイ化する上での大きな障害となることである。
【0005】
第2の問題点は、赤外線検出素子に接続される増幅器は赤外線検出素子の基板とは別の基板上に設けざるを得ず、赤外線検出素子と増幅器とは配線で接続されることとなる。このため、単一基板上に薄膜工程のみで赤外線検出部と増幅部を一括形成する場合に比較すると、ノイズなどが入りやすく、検出精度が劣化することである。
【0006】
一方、ボロメータ型赤外線センサは、抵抗素子に赤外線が照射されたときの抵抗の温度係数を利用して検知するものである。抵抗素子としてはサーミスタやSiのp−nダイオードなどが使用可能であり、シリコン基板上にモノリシックに作製することが可能なため、盛んに研究されている。しかしながら、ボロメータ型赤外線センサの最大の問題点は、検出感度の悪さである。抵抗値を読み出すためには抵抗素子にバイアス電流を流し、その結果生じる電圧の温度による変化分を検出する必要があるが、抵抗素子に生じる電圧に含まれるジョンソン雑音を始めとする種々の雑音に対して、赤外線照射による温度変化で生じる電圧変化分が小さいためS/N比が悪く、感度の良い検出が非常に困難である。
【0007】
また、ボロメータ型や焦電型に代わり、赤外線照射による温度上昇を、熱ひずみを介し圧電体を検出素子として使用した擬似焦電効果型の赤外線検出素子も提案されている(特許文献1)。
特許文献1では圧電膜として、PbTe、PbSe、PbS、HgTe、HgSe、Hg1−xCdxTe、GaSb、GaAs、InP、InAs、InSb、Ge、Mg2Si、Mg2Ge、Mg2Sn、Ca2Sn、Ca2Pb、ZnSb、ZnAs2、Zn3As2、CdSb、CdAs2、Cd3As2、Bi2Se3、Bi2Te3、Sb2Te3、As2Se3、As2Te3、PtSb2、In2Se3、In2Te3などの化合物半導体を挙げているが、これらの材料はシリコン基板上に成膜した場合、充分な圧電性を持つ単結晶膜ないしは高配向膜を作製するのは容易でない。そして、そのための特別な工夫も開示されていない。また、特に望ましい圧電膜として、狭バンドギャップの半導体であるHgTe、Hg1−xCdxTe、InSb、Cd3As2、Bi2Te3、PtSb2を挙げているが、バンドギャップが狭いために必然的にリーク電流は非常に多く、室温で読み出すには非常に大きな困難が伴う。また、圧電体と基板間の熱膨張差を利用しており、基板上に圧電体が直接形成されているため、赤外線照射によって受ける熱が容易に基板中に放散され、圧電体の温度が上がらず、得られる起電力は僅かである。
【0008】
以上のように、従来技術の焦電型、ボロメーター型、及び疑似焦電効果型の赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサーは、いずれも問題を持っており、これに対し、多くの試みが行われているが、いずれも一長一短があり、上記の技術を置き換えるまで至らないのが現状である。
【特許文献1】特許第3311869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の状況に基づきなされたものであり、その目的は、複雑な貼り合せ工程が不要な、シリコン基板上にオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性、高集積化が可能な赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、基板と、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、を備えたことを特徴とする赤外線検出素子が提供される。
【0011】
また、本発明の別の一態様によれば、上記の複数の赤外線検出素子がアレイ状に配置されてなることを特徴とする赤外線イメージセンサが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な貼り合せ工程が不要な、シリコン基板上にオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性、高集積化が可能な赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係わる赤外線検出素子14の平面図である。また、図2は、第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の部分断面図であり、図2(a)及び図2(b)は、図1のA−A線断面図、及びB−B線断面図である。
【0015】
図1および図2に表したように、基板1上にアンカー2が形成されている。下部電極4、上部電極6、並びに下部電極4及び上部電極6に挟まれてた圧電膜5により積層体51が構成されている。積層体51の端部の接続梁部8はアンカー2に連結されており、積層体51は基板1の上部において間隙52を有した状態でアンカー2によって支持されている。また基板1の上には増幅器10が形成されており、下部電極4および上部電極6は、コンタクト部12で増幅器10からの配線11と接続されている。また、上部電極6の上には赤外線吸収層13が設けられ、積層体51と一体となり、感熱部7が構成されている。なお、基板1はシリコンで形成されている。
【0016】
次に、本発明の第1の実施形態の赤外線検出素子の製造工程について説明する。図3は、本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【0017】
まず、図3(a)に表すように、シリコンからなる基板1の上に、既知の方法でCMOSプロセスにより増幅器10(図示せず)、配線11およびアンカー2を作製した。配線11としては厚さ0.5μmのアルミニウムを、またアンカー2としては厚さ1μmの窒化シリコンを使用した。
【0018】
次に、図3(b)に表すように、基板1上にスパッタ法により、非晶質シリコンからなる犠牲層3を形成し、化学的機械的研磨(CMP)法によりアンカー2の先端部が露出するまで平坦化した。さらに配線11の上方にコンタクト部12を既知のリソグラフィーおよびエッチングにより形成した。
【0019】
次に、図3(c)に表すように、厚さ2μmのアルミニウムからなる下部電極4、厚さ1.2μmの窒化アルミニウムからなる圧電膜5、厚さ2μmのアルミニウムからなる上部電極6を、スパッタによる成膜とリソグラフィーおよびエッチングによるパターニングを行うことにより形成し、積層体51を形成した。さらに厚さ2μmのポリイミドからなる赤外線吸収層13をスピンコートにより形成し、感熱部7を作成した。なお、図示していないが、下部電極4の下には厚さ20nmのアルミニウム−タンタル合金からなる非晶質下地層を形成することにより、下部電極4および上部電極6を[111]方位に、また圧電膜5を[0001]方位に強く配向させた。
【0020】
次に、図3(d)に表すように、非晶質シリコンからなる犠牲層3を、XeF2をエッチャントとする気相エッチング法により選択的にエッチングし、積層体51を基板1から分離し、赤外線検出素子14を形成した。
【0021】
このようにして得られた本発明の第1の実施形態である赤外線検出素子における、下部電極4および上部電極6、および圧電膜5の配向性を、X線回折ωモードによって測定した。その結果、下部電極4および上部電極6に由来するアルミニウムの[111]方位の配向半値幅(FWHM)は0.9°、圧電膜5に由来する窒化アルミニウムの[0001]方位の配向半値幅は1.1°と非常によく配向していることが確かめられた。
【0022】
第1の実施形態により例示される本発明の赤外線検出素子は、発明者らの以下の技術検討により見いだされたものである。
【0023】
すなわち、本発明は、焦電型やボロメータ型の赤外線検出素子に代わり、圧電体を検出素子として使用することにより、赤外線照射による温度上昇を熱ひずみを介して検出する赤外線検出素子の新たな構造とそれに用いられる材料系を見出したものである。
【0024】
発明者らは、圧電体を検出素子として使用し、赤外線照射による温度上昇を熱ひずみを介して検出する赤外線検出素子において、感度の良い赤外線検出素子を再現性良く作成するための条件を、理論的および実験的に考察した結果、少なくとも以下の条件を満たす必要があることを見出した。
【0025】
条件(A):赤外線照射を受けた場合に感熱部の温度が充分上昇するために、赤外線を吸収する層が必要である。ただし独立した赤外線吸収層は必ずしも必要ではなく、電極層や圧電膜などに赤外線が照射され、それらの材料の赤外線吸収率が大きければ、赤外線吸収層を兼ねることも可能である。
【0026】
条件(B):赤外線照射を受けた場合に感熱部の昇温速度が速く、かつ充分上昇するために、圧電膜を含む感熱部の熱容量ができるだけ小さい必要があり、圧電膜を含む感熱部の熱容量が圧電膜の熱容量の10倍以内、望ましくは5倍以内であることが必要である。
【0027】
条件(C):赤外線照射を受けた場合に感熱部の温度が充分上昇するために、感熱部と基板の間の断熱が充分大きくなるような構造が必要である。
【0028】
条件(D):赤外線照射を受けて感熱部の温度が上昇したときに、圧電膜に充分歪が生じるために、圧電膜は、圧電膜と熱膨張率が異なる第2の材料と接して拘束されており、第2の材料の熱膨張率が圧電膜と5×10−6/K以上、望ましくは10×10−6/K以上異なることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6および下部電極4である場合、上部電極6および下部電極4の線膨張率と前記圧電膜の線膨張率との差が5×10−6/K以上であることが必要である。
【0029】
条件(E):赤外線照射を受けて感熱部の温度が上昇したときに、圧電膜に充分歪が生じて圧電電位が発生するために、圧電膜と圧電膜と接する第2の材料との剛性の比が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6と下部電極4である場合、上部電極6の厚さをtTE、上部電極6の膜面内縦弾性率をETE、下部電極4の厚さをtBE、下部電極4の膜面内縦弾性率をEBE、圧電膜5の厚さをtP、圧電膜5の膜面内縦弾性率をEP、としたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。
【0030】
条件(F):圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために、(圧電膜の圧電定数/比誘電率)が大きいことが必要である。
【0031】
条件(G):圧電膜に誘起された電荷をS/N比良く読みだすために、規格化検出能が大きいことが必要である。
【0032】
条件(H):赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すために、圧電膜を有する感熱部が、CMOS素子からなる増幅回路があらかじめ作製されたシリコン基板上に、CMOS素子を壊さないために550℃以下の温度で作製されることが必要である。
【0033】
条件(I):圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために、圧電膜の圧電軸が充分に1方向に配向し、かつ分極の極性が揃った良質の結晶の作製が可能であり、かつ圧電膜の圧電軸方向に2枚の電極が設置されていることが必要である。
【0034】
上記の条件が必要な背景について詳しく説明する。いま、圧電膜が第2の材料と積層されており、面内方向の変形がお互いに拘束されているとする。圧電膜の縦弾性率、線膨張率、膜厚、容積比熱をそれぞれ Ep、αp、tp、C'pとし、第2の材料の縦弾性率、線膨張率、膜厚、容積比熱をそれぞれ Em、αm、tm、C'mとし、圧電膜の圧電係数をd31、圧電膜の比誘電率をεとした場合、感度Fvは次式で表せる。
【数1】
数式1の右辺の第2項は、圧電膜と、圧電膜および第2の材料からなる感熱部の熱容量の比であり、この比が大きいほど(感熱部と圧電膜の熱容量の比は小さいほど)感度は高くなる。このことから、条件(B)が導出される。
【0035】
また、数式1の右辺の第3項の(αm−αp)は、圧電膜と第2の材料の線膨張率の差であり、感度はこの差に比例するからこの差は大きいほど良い。このことから条件(D)が導出される。
【0036】
さらに、数式1の右辺の第1項から、感度を最大にするためには、圧電膜の縦弾性率と膜厚の積である縦剛性Eptpと、第2の材料の縦剛性Emtmが同程度であることが望ましいことが分かる。具体的には圧電膜と第2の材料の縦剛性の比が少なくても0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6と下部電極4である場合、上部電極6の厚さをtTE、上部電極6の膜面内縦弾性率をETE、下部電極4の厚さをtBE、下部電極4の膜面内縦弾性率をEBE、圧電膜5の厚さをtP、圧電膜5の膜面内縦弾性率をEP、としたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。このことから、条件(E)が導出される。
【0037】
また、数式1の右辺の第4項から、圧電膜の感度にかかわるのは(d31/C'pε)であるため、条件(F)が導出される。
【0038】
一方、圧電膜に誘起された電荷を外部回路を使用して読み出す時には、S/N比が問題になる。ノイズとして最も大きなものは通常ジョンソンノイズといわれているものであり、圧電膜の誘電損失(tanδ)が関係してる。S/N比を考慮した規格化検出能FDは次式で表せる。
【数2】
数式2から条件(G)が導出される。
【0039】
さらに、赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すために条件(H)が導出され、また、圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために条件(I)が導出された。
【0040】
上述した特許文献1に開示された赤外線検出素子は、A、B、Hの条件を満たしておらず、またE、Gについては具体的な記述がなく、従ってEとGの条件を満たす手段が開示されていない。
本発明は、上記の条件(A)〜(I)を満たすべくなされたものである。
【0041】
以下、本発明の第1の実施形態が、上述の条件(A)〜(I)に適合していることを説明する。
条件(A)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、アルミニウムからなる下部電極4および上部電極6、並びに窒化アルミニウムからなる圧電膜5から構成される積層体51は、赤外線を吸収し、温度が上昇することができる。さらに、第1の実施形態においては、積層体51の上にポリイミドからなる赤外線吸収層13が形成されており、感熱部7は効率的に赤外線を吸収して熱に変換することが可能である。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(A)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0042】
条件(B)について述べる。感熱部7は、圧電膜5およびそれを挟む下部電極4及び上部電極6からなる積層体51、ならびに赤外線吸収層13から構成されており、これらは、熱容量の大きな基板1等に接していない。第1の実施形態においては、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムの比熱が8.0cal/molK、下部電極4及び上部電極6を形成するアルミニウムの比熱が5.8cal/molK、赤外線吸収層13を形成するポリイミドの比熱は組成等にもよるが2cal/molK程度であり、感熱部7の熱容量は圧電膜5の熱容量の3倍程度に抑制することができている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(B)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、速い昇温速度で、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0043】
条件(C)について述べる。積層体51は、それと連結されたアンカー2によって基板1上の空中に支持されている。そして、上記積層体51の端部が長く細い接続梁部8によって基板上のアンカー2に接続されている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(C)を満たしており、基板1への熱伝導を充分小さくすることが可能であり、感熱部への赤外線照射により、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0044】
条件(D)について述べる。感熱部7を構成する圧電膜5が下部電極4及び上部電極6により挟まれており、面内方向の変形が拘束されている。このため、圧電膜5と下部電極4及び上部電極6の熱膨張率の差により熱応力を発生させることが可能である。具体的には、窒化アルミニウムのc軸を膜面と垂直に配向させたときに、面内方向の線膨張率は5.27×10−6/Kであり、下部電極4及び上部電極6として使用したアルミニウムの線膨張率は23×10−6/Kと大きく異なっており、充分な熱歪みを生じさせることができる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(D)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、感熱部の圧電膜に充分大きな歪みを発生させることができる。
【0045】
なお、下部電極4及び上部電極6に用いられる材料としては、アルミニウムに限られることなく、圧電膜5の線膨張率よりも少なくとも5×10−6/K以上、望ましくは10×10−6/K以上異なる線膨張率の電極材料を使用することが可能である。例示すると、銅の線膨張率は16.7×10−6/Kであり、窒化アルミニウムの面内方向の線膨張率5.27×10−6/Kと線膨張率の差が大きく、銅は電極材料に適している。なお、特許文献1においては、窒化アルミニウム圧電膜をシリコン基板に固定した構成であるが、シリコンの線膨張率は2.5×10−6/Kであり、窒化アルミニウムの線膨張率と近い値である。したがって、特許文献1に記されている構成により大きな熱歪みを誘起することはできない。
【0046】
条件(E)について述べる。圧電膜5として使用した窒化アルミニウムのc軸に垂直な方向の縦弾性率は3.95x1011Paであり、従って圧電膜5の縦弾性率Ep=3.95x1011Paである。また、アルミニウムの縦弾性率は7.2x1010Paであり、従って下部電極4の縦弾性率EBEおよび上部電極6の縦弾性率ETEは、ともに7.2x1010Paである(ポリイミドの弾性率は小さいのでここでは無視する)。また、圧電膜5の厚さtpは1.2μmであり、下部電極4の厚さtBEおよび上部電極6の厚さtTEはともに2.0μmである。従って、下部電極4および上部電極6と圧電膜5の縦剛性の比(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP)は約1.6である。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(E)を満たしており、熱応力による大きな圧電効果が生じる。
【0047】
上記の条件(F)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、実際に読み出し回路を接続したときの感度は、圧電係数d31と体積比熱C'pおよび比誘電率εの比d31/C'pεで決まる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムのc軸と垂直方向の応力に対する圧電係数d31は−3.1C/Nであり、また、体積比熱C'p は8.0cal/molK、比誘電率εは約10である。従って、d31/C'pεは、−0.10CKcm3/NJとなり、大きい値を持つ。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(F)を満たしており、圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起される。
【0048】
なお、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、窒化アルミニウムの圧電係数d31は−3.1C/Nであり、PZT系などの強誘電体材料に比較すると1桁以上小さく、一見赤外線検出素子の圧電膜としては適さないようにみえる。しかしながら、上述したように、実際に読み出し回路を接続したときの感度は、圧電係数d31と体積比熱C'pおよび比誘電率εの比d31/C'pεで決まり、窒化アルミニウムの誘電率は約10と強誘電体に比較すると充分に小さいため、d31/C'pεを充分大きくできる。
【0049】
上記の条件(G)について述べる。数式2で示したように、読み出し時のS/N比を考慮した規格化検出能FDはd31/C'p(ε・tanδ)1/2で表せる。ここで問題となるのは、上述した検出感度とともに、誘電損失tanδである。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、圧電膜5に用いられる窒化アルミニウムの誘電損失tanδは非常に小さく、通常は0.005以下であり、通常の測定では検出感度以下である。したがって規格化検出能d31/C'p(ε・tanδ)1/2を、非常に大きくできる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(G)を満たしており、S/N比が大きくでき、圧電膜に誘起された電荷を感度良く読み出すことが出来る。
【0050】
上記の条件(H)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムはCMOSプロセスとの互換性が非常によい。窒化アルミニウム膜は室温ないしは100℃程度の低温でシリコン基板上に絶縁性の高い膜を容易に形成することが可能で、下部電極4および上部電極6としてCMOS互換性が良いアルミニウムなどの酸化しやすい金属を使用することができる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(H)を満たしており、CMOS素子からなる増幅回路があらかじめ作製されたシリコン基板上に作製することができ、赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すことができる。
【0051】
上記の条件(I)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、下部電極4および上部電極6に由来するAlの[111]方位の配向半値幅(FWHM)は0.9°、圧電膜5に由来するAlNの[0001]方位の配向半値幅は1.1°と非常によく配向している膜の形成が可能であった。また圧電特性についても理論値(単結晶で測定された値)が得られ、分極が同一方向に揃っていることが確かめられた。さらに、圧電軸であるc軸が圧電膜と垂直であり、上下に電極が形成されている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(I)を満たしており、圧電膜5に歪が生じたときに検出されるに充分な電荷が効率よく誘起される。
【0052】
このように、第1の実施形態により例示された本発明の赤外線検出素子は、上記の条件(A)〜(I)を満たしている。
【0053】
このようにして製作された第1の実施形態に係わる赤外線検出素子は、後述する第3の実施形態に示される増幅器と組み合わせ、第4の実施形態に例示する赤外線イメージセンサに応用することにより、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数(雑音等価温度差:noise equivalent temperature difference)が0.07℃と、非常に高精度であることが確認された。
【0054】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子について説明する。
【0055】
図4は、本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子15の平面図である。また、図5は、図4のA−A線断面の断面図である。積層体51及び感熱部7は、第1の実施形態の場合は、片持ち梁構造であったが、第2の実施形態では両持ち梁構造にしたものである。なお、第1の実施形態と同じ役割の部品は同じ番号を付与し、説明する。
【0056】
図4及び図5に表すように、基板1の上には2ヶ所にアンカー2が形成されている。下部電極4、上部電極6、並びに下部電極4および上部電極6に挟まれた圧電膜5により積層体51が構成されている。積層体51の左右端部の接続梁部8部はアンカー2に連結されており、アンカー2により、積層体51は基板1の上部において間隙52を有した状態で支持されている。また基板1の上には増幅器10が形成されており、下部電極4および上部電極6はコンタクト部12で、増幅器10からの配線11と接続されている。なお、この積層体51の上に赤外線吸収層13が形成されており、積層体51と一体となって感熱部7が構成されている。
【0057】
このように、第2の実施形態では、積層体51を両持ち梁構造にすることにより、積層体51を基板1の上部で間隙52を空けて安定して支持することができる。また、条件(A)〜(I)を満足することは言うまでもない。
以下、本発明の赤外線検出素子と比較するために、比較例による赤外線検出素子について述べる。
【0058】
(第1の比較例)
まず、第1の比較例である焦電型の赤外線検出素子を説明する。図6は、第1の比較例の焦電型の赤外線検出素子の各工程における断面図である。
【0059】
図6(a)に表すように、MgOなどの単結晶基板414上に単一配向したチタン酸鉛系の焦電体膜411を形成し、リソグラフィーおよびエッチングにより素子形状に加工した。
次に、図6(b)に表すように、第1の樹脂膜415、第1の電極416、第2の樹脂膜417を形成した。
次に、図6(c)に表すように、この焦電体411を形成した単結晶基板414を樹脂膜を介してアルミナなどを使用したセラミック基板413に接着層422を使用して接着した。
【0060】
次に、図6(d)に示すように、単結晶基板414を溶解除去した 。
【0061】
次に、図6(e)に示すように、受光電極を兼ねた第2の電極418を形成した。また、セラミック基板413には図示しない増幅器404が別途取り付けられ、増幅器404からの配線421と検出素子の第1の電極416および第2の電極418とを導電性ペースト419により接続した。
【0062】
このようにして製作された第1の比較例の赤外線検出素子は、増幅器が別の基板に設けられているため、ノイズが多く、検出精度が悪かった。また、赤外線検出素子の作製に複雑な貼り合せおよび基板の溶解除去工程を含んでいるため、信頼性および精度が劣り、微細化が困難である。
【0063】
(第2の比較例)
次に、第2の比較例の赤外線検出素子について説明する。
図1および図2に構造を示す赤外線検出素子において、圧電膜5に用いる材料をPZT系の圧電膜に変えて作製することを試みた。圧電膜5としてPb(Zr0.48Ti0.52)O3、下部電極4および上部電極6としてPt、赤外線吸収膜13としてSiN/SiO2を用いた積層体を作製した。膜厚は、第1の実施形態の赤外線検出素子の場合と同一である。ただし圧電膜の成膜にはゾルゲル法を使用し、犠牲層選択エッチング処理の前に600℃3分の結晶化熱処理を行い、さらに分極処理を行った。
【0064】
このようにして作製された第2の比較例の赤外線検出素子を光学顕微鏡により観察した所、積層体が大きく変形して基板に接触しており、好適な赤外線検出素子を形成できなかった。結晶化熱処理の際に圧電層が大きく収縮して変形したことが原因であった。すなわち第2の比較例においては、条件(C)としての感熱部と基板の間の断熱が非常に悪いため、赤外線照射により感熱部の温度が上昇せず、他の条件(A)、(B)および条件(D)〜(E)の可否に拘らず、好適な赤外線センサを構成できない。
【0065】
(第3の比較例)
次に、第3の比較例の赤外線検出素子について説明する。図7は、第3の比較例の赤外線検出素子の断面図である。第2の比較例において圧電膜の変形により赤外線検出素子が好適に形成できなかったため、第3の比較例においては、図7に表すように、SiNからなる支持層9の上に積層体51を作製した。支持層9の厚さは5μmである。支持基板9の他は、全ての構造およびプロセスは第2の比較例と同様である。作成後に光学顕微鏡により観察した所、積層体51部は大きく上側に変形していたが、基板には接触せず、かろうじて赤外線検出素子を形成できていた。
【0066】
以上、第2の比較例及び第3の比較例で例示したPZTを圧電膜5として使用した場合は、大きな圧電係数を持っていることが特徴であり、圧電係数や誘電率を測定した結果、圧電係数d31は−61C/Nと窒化アルミニウムに比較して20倍大きかった。しかしながら比誘電率εも150と大きいため、前述した条件(F)のd31/C'pεは −0.14CKcm3/NJとなり、窒化アルミニウムよりも1.5倍にしか大きくはなかった。一方、PZTのtanδは0.07であり、窒化アルミニウムよりも10倍以上大きく、前述した条件(G)であるd31/C'p(ε・tanδ)1/2の値が、第1の実施形態の場合よりかなり小さくなった。
【0067】
このように、第2の比較例及び第3の比較例では、条件(F)は満たしてはいるものの、条件(G)は満たさず、また条件(H)も満たさない。また、第3の比較例では、条件(A)〜(F)および(I)については満たしている。しかしながら条件(G)については上述したように満たさず、また条件(H)についてもプロセス温度がCMOSの耐熱温度である550℃を超えており満たしていない。
【0068】
第3の比較例の赤外線吸収素子を、後述する第3の実施形態に示される増幅器と組み合わせ、第4の実施形態に例示する赤外線イメージセンサに応用したところ、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数が0.23℃であり、窒化アルミニウムを圧電膜5とした第1及び第2の実施形態の場合の1/3以下であった。
【0069】
以上、第1〜第3の比較例で例示したように、比較例の赤外線検出素子では、シリコン基板上でのオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性を有する赤外線検出素子は実現できなかった。
【0070】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施形態の赤外線検出素子について説明する。
図8は、第3の実施形態に係わる赤外線検出素子の回路構成を示す回路図である。図8に表すように、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、増幅器310は、積層体301に接続され、積層体301で発生する電荷を電圧に変換する第1のトランジスタ303、第1のトランジスタ303に接続されている第2のトランジスタ(負荷トランジスタ)302、第2のトランジスタ302のゲートに電圧を印加する第1の端子304、第2のトランジスタ302のソースに電圧を印加する第2の端子305、及び、第1のトランジスタ303のドレインから電圧情報を取り出す第3の端子306により構成される。図8に表すように、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、基板上に形成された増幅器310が、積層体301で発生する電荷情報を電圧情報に変換する回路を有している。
【0071】
積層体301の上部電極6または下部電極4のうちの1つが、前記第1のトランジスタのゲートに接続され、上部電極6または下部電極4のうちの残りの電極が接地され、第1のトランジスタ303のドレインは第2のトランジスタ302のドレイン及び第3の端子306に接続され、第1のトランジスタ303のソースは接地されている。第2のトランジスタ302のゲートは第1の端子304に接続され、第2のトランジスタ302のソースは第2の端子305に接続され、第2のトランジスタ302のドレインは第1のトランジスタ303のドレイン及び第3の端子306に接続されている。このようにして、本発明の第3の実施形態である赤外線検出素子の増幅器310は、ソース接地増幅回路を形成している。
【0072】
第1の端子304及び第2の端子305はある一定の電圧になっており、第2のトランジスタ302は負荷抵抗として機能するようになっている。このような回路構成により、積層体301に発生する電荷は、第1のトランジスタ303のゲートに入力され、発生する電荷量に応じた電圧が第3の端子306に出力されるようになり、積層体301の電荷情報を電圧情報に変換できる。
【0073】
積層体301の電荷情報を電圧情報に変換する際、積層体301で発生する電荷は非破壊で電圧情報に変換されるため、変換後に積層体301の電荷情報を初期状態に戻す動作を必要としない。
【0074】
第3の実施形態の赤外線検出素子300において、例えば、積層体301の5mKの温度変化に伴う電荷情報は、第3の端子306において0.1Vの電圧変化として出力される。
【0075】
なお、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、積層体301の端子(上部電極または下部電極)と第1のトランジスタ303のゲートを接続する配線は、積層体301で発生する電荷情報を効率よく伝達するために、寄生容量を出来るだけ低減させることが望ましい。
【0076】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサについて図を用いて説明する。
図9は、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの回路構成を示す回路図である。
第4の実施形態では、第3の実施形態の赤外線検出素子300をn×mのアレイ状に配置し、入力された赤外線画像情報を電圧情報に変換できるようにしている。
【0077】
第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサ100は、n×m個の赤外線イメージセンサ要素(赤外線検出素子)110、赤外線イメージセンサ要素110の列毎に配置された負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_n、負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_nの各ソースに電圧を印加する端子101、負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_nのゲートに電圧を印加する端子102、赤外線イメージセンサ要素110の行要素の選択を行う端子群103_1、103_2、・・・、103_m、赤外線イメージセンサ要素110の列要素の選択を行うスイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_n、スイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_n、の各ゲートに電圧を印加する端子群107_1、107_2、・・・、107_n、各赤外線イメージセンサ要素110の電圧信号を出力する映像出力線108、バッファーアンプ109、および映像出力端子111により構成されている。
【0078】
また、各赤外線イメージセンサ要素110には端子A、端子B、端子Cが接続されている。
負荷トランジスタ104_1のドレインは赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(2,1)要素、・・・、(m,1)要素の端子Aに接続され、以下同様に負荷トランジスタ104_2、・・・、104_nのドレインは赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Aにそれぞれ接続されている。また、端子103_1は赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(1,2)要素、・・・、(1,n)要素の端子Bに接続され、以下同様に端子103_2、・・・、103_mは、赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Bにそれぞれ接続されている。また、スイッチングトランジスタ106_1のドレインは、赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(2,1)要素、・・・、(m,1)要素の端子Cに接続され、以下同様にスイッチングトランジスタ106_2、・・・、106_nのドレインは、赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Cにそれぞれ接続されている。スイッチングトランジスタ106_1のゲートは、端子107_1に接続され、以下同様にスイッチングトランジスタ106_2、・・・、106_nは、端子107_2、・・・、107_nにそれぞれ接続されている。また、スイッチングトランジスタ106_1、106_2、・・・、106_nの各ソースは、映像出力線108に接続されている。また、映像出力線は、バッファーアンプ109に入力され、バッファーアンプ109の出力は映像出力端子111に接続されている。端子101および端子102は、ある一定の電圧になっており、負荷抵抗として機能するようになっている。
【0079】
以下、赤外線イメージセンサ要素110の増幅回路210を説明する。
図10は、第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサ100における赤外線イメージセンサ要素110の回路構成を示す回路図である。
【0080】
図10に表すように、増幅回路210は、積層体201で発生する電荷情報を電圧情報に変換する回路であり、積層体201、積層体201に接続された第1のトランジスタ203、および第1のトランジスタに接続された第2のトランジスタ202により構成される。ここで、図10に表される端子A、端子B、端子Cは、図9に表された各赤外線イメージセンサ要素110の端子A、端子B、端子Cにそれぞれ接続される。
【0081】
本発明の第4の実施形態の赤外線イメージセンサでは、図9および図10に表された構成にすることにより、図11に示すような出力信号を得ることができる。すなわち、図9に示された端子103_1、103_2、・・・、103_m、及び端子107_1、107_2、107_nのそれぞれ1つの端子にスイッチング信号を入力することで、図10に示される第2のトランジスタ202、及び図9に示されるスイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_nのそれぞれ1つがON状態となり、ある1つの赤外線イメージセンサ要素110の端子Cの電圧信号が映像出力線108に出力され、バッファーアンプ109を介して映像出力端子111に出力される。以下同様にして、スイッチング信号を切り替えることにより、全ての赤外線イメージセンサ要素110の端子Cの電圧信号を映像出力端子111に出力することができ、この出力情報を基にして、赤外線イメージセンサ100に入力された赤外線情報を可視化できるようになる。
【0082】
なお、図示しないが、赤外線イメージセンサ素子201と第1のトランジスタ203のゲートを接続する配線等の残留電荷の製造時におけるばらつきを各赤外線イメージセンサ要素110で同一とするために、上記配線を接地させるスイッチを上記配線とグラウンド間に形成し、製造後最初の起動時、或いは毎回の起動時に、スイッチを一定の間ONする機構を備えておくことができる。
【0083】
次に、第4の実施形態の赤外線イメージセンサを応用した赤外線イメージセンサシステムについて説明する。
図12は、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサを用いた赤外線イメージセンサシステムの光学系を示す模式図である。赤外線イメージセンサ31はウインド33を持つパッケージ32中に真空封止されている。ウインド33の前には赤外線を集光するためのレンズ34、絞り35、およびチョッパ36が設置されている。チョッパ36により赤外線をオン/オフさせることで、赤外線イメージセンサ31の赤外線検出素子には温度差ΔTが生じ、それにより起電力ΔVが生じ、ΔVを増幅器で読み出すことで赤外線の強さを検出できる。
【0084】
このような手順で作製した赤外線イメージセンサシステムを使用し、性能を評価したところ、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数が0.07℃と非常に高精度であることが確認された。
【0085】
ところで、本発明における積層体51は、赤外線照射に対して比較的大きな起電力を得ることができるが、生じる電荷量は比較的小さい。このため、積層体51に生じた起電力を読み出すための増幅器10は積層体51の近傍に配置して、積層体51と増幅器10の間の配線容量や、増幅器10自身の入力寄生容量を減らすことが有効である。したがって、積層体51を赤外線イメージセンサ要素としてマトリックス状に配置したとき、各赤外線イメージ要素ごとに増幅器10を設け、積層体51で発生する電荷情報を電圧情報に変換した後に、各マトリックスの信号波形を順次読み出すことが有効である。
【0086】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、基板、下部電極、上部電極、圧電膜、アンカー、増幅器、赤外線吸収膜など、赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサを構成する各要素の具体的な寸法関係や材料に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサを基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうる全ての赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子の断面図である。
【図6】比較例1の赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【図7】比較例3の赤外線検出素子の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる赤外線検出素子の回路構成を示す回路図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの回路構成を示す回路図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサにおける赤外線イメージセンサ要素の回路構成を示す回路図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの信号波形のタイミングチャート図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサを用いた赤外線イメージセンサシステムの光学系を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 アンカー
3 犠牲層
4 下部電極
5 圧電膜
51 積層体
52 間隙
6 上部電極
7 感熱部
8 接続梁部
9 支持層
10 増幅器
11 配線
12 コンタクト部
13 赤外線吸収層
14 赤外線検出素子
301 積層体
302 第2のトランジスタ
303 第1のトランジスタ
304 第1の端子
305 第2の端子
306 第3の端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検出素子、特に圧電膜を使用した赤外線検出素子及びそれを用いた赤外線イメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
民生用に一般に使用されている赤外線検出素子は、全て非冷却型の赤外線検出素子であり、大別すると焦電型とボロメータ型に大別される。
焦電型赤外線センサにおいては、赤外線検出素子として焦電体と呼ばれる特殊な材料を使用する必要があり、代表的には酸化物の強誘電体であるチタン酸鉛系、あるいはチタン酸バリウム系の材料が使用される。しかしながらこれらの材料は、結晶化温度が高いこと、イオンエッチングが困難であること、酸化物であるために貴金属系の電極材料が必要であることなどから、CMOSプロセスで作製した赤外線センサ用のシリコン基板の上に直接作成することが困難であるという問題点がある。
【0003】
そこでCMOSのモノリシックプロセスに代わり、プロセスが複雑で高価な、貼り合わせ技術などを使用したハイブリッドプロセスを使用せざるを得ない。
例えば、焦電型赤外線検出素子の例として、基板上に配向性酸化物下地膜を形成し、その上に焦電体と樹脂膜を形成した後、これを別の基板と貼り合わせ、その後に配向性酸化物下地膜を溶解除去する赤外線検出素子の製造方法がある。
【0004】
ところが、この焦電型赤外線検出素子は、いくつかの問題点があった。
第1の問題点は、検出素子の作製における複雑な貼り合せおよび基板の溶解除去工程が信頼性、精度、微細化、アレイ化する上での大きな障害となることである。
【0005】
第2の問題点は、赤外線検出素子に接続される増幅器は赤外線検出素子の基板とは別の基板上に設けざるを得ず、赤外線検出素子と増幅器とは配線で接続されることとなる。このため、単一基板上に薄膜工程のみで赤外線検出部と増幅部を一括形成する場合に比較すると、ノイズなどが入りやすく、検出精度が劣化することである。
【0006】
一方、ボロメータ型赤外線センサは、抵抗素子に赤外線が照射されたときの抵抗の温度係数を利用して検知するものである。抵抗素子としてはサーミスタやSiのp−nダイオードなどが使用可能であり、シリコン基板上にモノリシックに作製することが可能なため、盛んに研究されている。しかしながら、ボロメータ型赤外線センサの最大の問題点は、検出感度の悪さである。抵抗値を読み出すためには抵抗素子にバイアス電流を流し、その結果生じる電圧の温度による変化分を検出する必要があるが、抵抗素子に生じる電圧に含まれるジョンソン雑音を始めとする種々の雑音に対して、赤外線照射による温度変化で生じる電圧変化分が小さいためS/N比が悪く、感度の良い検出が非常に困難である。
【0007】
また、ボロメータ型や焦電型に代わり、赤外線照射による温度上昇を、熱ひずみを介し圧電体を検出素子として使用した擬似焦電効果型の赤外線検出素子も提案されている(特許文献1)。
特許文献1では圧電膜として、PbTe、PbSe、PbS、HgTe、HgSe、Hg1−xCdxTe、GaSb、GaAs、InP、InAs、InSb、Ge、Mg2Si、Mg2Ge、Mg2Sn、Ca2Sn、Ca2Pb、ZnSb、ZnAs2、Zn3As2、CdSb、CdAs2、Cd3As2、Bi2Se3、Bi2Te3、Sb2Te3、As2Se3、As2Te3、PtSb2、In2Se3、In2Te3などの化合物半導体を挙げているが、これらの材料はシリコン基板上に成膜した場合、充分な圧電性を持つ単結晶膜ないしは高配向膜を作製するのは容易でない。そして、そのための特別な工夫も開示されていない。また、特に望ましい圧電膜として、狭バンドギャップの半導体であるHgTe、Hg1−xCdxTe、InSb、Cd3As2、Bi2Te3、PtSb2を挙げているが、バンドギャップが狭いために必然的にリーク電流は非常に多く、室温で読み出すには非常に大きな困難が伴う。また、圧電体と基板間の熱膨張差を利用しており、基板上に圧電体が直接形成されているため、赤外線照射によって受ける熱が容易に基板中に放散され、圧電体の温度が上がらず、得られる起電力は僅かである。
【0008】
以上のように、従来技術の焦電型、ボロメーター型、及び疑似焦電効果型の赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサーは、いずれも問題を持っており、これに対し、多くの試みが行われているが、いずれも一長一短があり、上記の技術を置き換えるまで至らないのが現状である。
【特許文献1】特許第3311869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の状況に基づきなされたものであり、その目的は、複雑な貼り合せ工程が不要な、シリコン基板上にオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性、高集積化が可能な赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、基板と、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、を備えたことを特徴とする赤外線検出素子が提供される。
【0011】
また、本発明の別の一態様によれば、上記の複数の赤外線検出素子がアレイ状に配置されてなることを特徴とする赤外線イメージセンサが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な貼り合せ工程が不要な、シリコン基板上にオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性、高集積化が可能な赤外線検出素子およびそれを用いた赤外線イメージセンサが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係わる赤外線検出素子14の平面図である。また、図2は、第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の部分断面図であり、図2(a)及び図2(b)は、図1のA−A線断面図、及びB−B線断面図である。
【0015】
図1および図2に表したように、基板1上にアンカー2が形成されている。下部電極4、上部電極6、並びに下部電極4及び上部電極6に挟まれてた圧電膜5により積層体51が構成されている。積層体51の端部の接続梁部8はアンカー2に連結されており、積層体51は基板1の上部において間隙52を有した状態でアンカー2によって支持されている。また基板1の上には増幅器10が形成されており、下部電極4および上部電極6は、コンタクト部12で増幅器10からの配線11と接続されている。また、上部電極6の上には赤外線吸収層13が設けられ、積層体51と一体となり、感熱部7が構成されている。なお、基板1はシリコンで形成されている。
【0016】
次に、本発明の第1の実施形態の赤外線検出素子の製造工程について説明する。図3は、本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【0017】
まず、図3(a)に表すように、シリコンからなる基板1の上に、既知の方法でCMOSプロセスにより増幅器10(図示せず)、配線11およびアンカー2を作製した。配線11としては厚さ0.5μmのアルミニウムを、またアンカー2としては厚さ1μmの窒化シリコンを使用した。
【0018】
次に、図3(b)に表すように、基板1上にスパッタ法により、非晶質シリコンからなる犠牲層3を形成し、化学的機械的研磨(CMP)法によりアンカー2の先端部が露出するまで平坦化した。さらに配線11の上方にコンタクト部12を既知のリソグラフィーおよびエッチングにより形成した。
【0019】
次に、図3(c)に表すように、厚さ2μmのアルミニウムからなる下部電極4、厚さ1.2μmの窒化アルミニウムからなる圧電膜5、厚さ2μmのアルミニウムからなる上部電極6を、スパッタによる成膜とリソグラフィーおよびエッチングによるパターニングを行うことにより形成し、積層体51を形成した。さらに厚さ2μmのポリイミドからなる赤外線吸収層13をスピンコートにより形成し、感熱部7を作成した。なお、図示していないが、下部電極4の下には厚さ20nmのアルミニウム−タンタル合金からなる非晶質下地層を形成することにより、下部電極4および上部電極6を[111]方位に、また圧電膜5を[0001]方位に強く配向させた。
【0020】
次に、図3(d)に表すように、非晶質シリコンからなる犠牲層3を、XeF2をエッチャントとする気相エッチング法により選択的にエッチングし、積層体51を基板1から分離し、赤外線検出素子14を形成した。
【0021】
このようにして得られた本発明の第1の実施形態である赤外線検出素子における、下部電極4および上部電極6、および圧電膜5の配向性を、X線回折ωモードによって測定した。その結果、下部電極4および上部電極6に由来するアルミニウムの[111]方位の配向半値幅(FWHM)は0.9°、圧電膜5に由来する窒化アルミニウムの[0001]方位の配向半値幅は1.1°と非常によく配向していることが確かめられた。
【0022】
第1の実施形態により例示される本発明の赤外線検出素子は、発明者らの以下の技術検討により見いだされたものである。
【0023】
すなわち、本発明は、焦電型やボロメータ型の赤外線検出素子に代わり、圧電体を検出素子として使用することにより、赤外線照射による温度上昇を熱ひずみを介して検出する赤外線検出素子の新たな構造とそれに用いられる材料系を見出したものである。
【0024】
発明者らは、圧電体を検出素子として使用し、赤外線照射による温度上昇を熱ひずみを介して検出する赤外線検出素子において、感度の良い赤外線検出素子を再現性良く作成するための条件を、理論的および実験的に考察した結果、少なくとも以下の条件を満たす必要があることを見出した。
【0025】
条件(A):赤外線照射を受けた場合に感熱部の温度が充分上昇するために、赤外線を吸収する層が必要である。ただし独立した赤外線吸収層は必ずしも必要ではなく、電極層や圧電膜などに赤外線が照射され、それらの材料の赤外線吸収率が大きければ、赤外線吸収層を兼ねることも可能である。
【0026】
条件(B):赤外線照射を受けた場合に感熱部の昇温速度が速く、かつ充分上昇するために、圧電膜を含む感熱部の熱容量ができるだけ小さい必要があり、圧電膜を含む感熱部の熱容量が圧電膜の熱容量の10倍以内、望ましくは5倍以内であることが必要である。
【0027】
条件(C):赤外線照射を受けた場合に感熱部の温度が充分上昇するために、感熱部と基板の間の断熱が充分大きくなるような構造が必要である。
【0028】
条件(D):赤外線照射を受けて感熱部の温度が上昇したときに、圧電膜に充分歪が生じるために、圧電膜は、圧電膜と熱膨張率が異なる第2の材料と接して拘束されており、第2の材料の熱膨張率が圧電膜と5×10−6/K以上、望ましくは10×10−6/K以上異なることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6および下部電極4である場合、上部電極6および下部電極4の線膨張率と前記圧電膜の線膨張率との差が5×10−6/K以上であることが必要である。
【0029】
条件(E):赤外線照射を受けて感熱部の温度が上昇したときに、圧電膜に充分歪が生じて圧電電位が発生するために、圧電膜と圧電膜と接する第2の材料との剛性の比が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6と下部電極4である場合、上部電極6の厚さをtTE、上部電極6の膜面内縦弾性率をETE、下部電極4の厚さをtBE、下部電極4の膜面内縦弾性率をEBE、圧電膜5の厚さをtP、圧電膜5の膜面内縦弾性率をEP、としたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。
【0030】
条件(F):圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために、(圧電膜の圧電定数/比誘電率)が大きいことが必要である。
【0031】
条件(G):圧電膜に誘起された電荷をS/N比良く読みだすために、規格化検出能が大きいことが必要である。
【0032】
条件(H):赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すために、圧電膜を有する感熱部が、CMOS素子からなる増幅回路があらかじめ作製されたシリコン基板上に、CMOS素子を壊さないために550℃以下の温度で作製されることが必要である。
【0033】
条件(I):圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために、圧電膜の圧電軸が充分に1方向に配向し、かつ分極の極性が揃った良質の結晶の作製が可能であり、かつ圧電膜の圧電軸方向に2枚の電極が設置されていることが必要である。
【0034】
上記の条件が必要な背景について詳しく説明する。いま、圧電膜が第2の材料と積層されており、面内方向の変形がお互いに拘束されているとする。圧電膜の縦弾性率、線膨張率、膜厚、容積比熱をそれぞれ Ep、αp、tp、C'pとし、第2の材料の縦弾性率、線膨張率、膜厚、容積比熱をそれぞれ Em、αm、tm、C'mとし、圧電膜の圧電係数をd31、圧電膜の比誘電率をεとした場合、感度Fvは次式で表せる。
【数1】
数式1の右辺の第2項は、圧電膜と、圧電膜および第2の材料からなる感熱部の熱容量の比であり、この比が大きいほど(感熱部と圧電膜の熱容量の比は小さいほど)感度は高くなる。このことから、条件(B)が導出される。
【0035】
また、数式1の右辺の第3項の(αm−αp)は、圧電膜と第2の材料の線膨張率の差であり、感度はこの差に比例するからこの差は大きいほど良い。このことから条件(D)が導出される。
【0036】
さらに、数式1の右辺の第1項から、感度を最大にするためには、圧電膜の縦弾性率と膜厚の積である縦剛性Eptpと、第2の材料の縦剛性Emtmが同程度であることが望ましいことが分かる。具体的には圧電膜と第2の材料の縦剛性の比が少なくても0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。すなわち、第2の材料が、上部電極6と下部電極4である場合、上部電極6の厚さをtTE、上部電極6の膜面内縦弾性率をETE、下部電極4の厚さをtBE、下部電極4の膜面内縦弾性率をEBE、圧電膜5の厚さをtP、圧電膜5の膜面内縦弾性率をEP、としたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下、望ましくは0.2以上5以下であることが必要である。このことから、条件(E)が導出される。
【0037】
また、数式1の右辺の第4項から、圧電膜の感度にかかわるのは(d31/C'pε)であるため、条件(F)が導出される。
【0038】
一方、圧電膜に誘起された電荷を外部回路を使用して読み出す時には、S/N比が問題になる。ノイズとして最も大きなものは通常ジョンソンノイズといわれているものであり、圧電膜の誘電損失(tanδ)が関係してる。S/N比を考慮した規格化検出能FDは次式で表せる。
【数2】
数式2から条件(G)が導出される。
【0039】
さらに、赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すために条件(H)が導出され、また、圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起されるために条件(I)が導出された。
【0040】
上述した特許文献1に開示された赤外線検出素子は、A、B、Hの条件を満たしておらず、またE、Gについては具体的な記述がなく、従ってEとGの条件を満たす手段が開示されていない。
本発明は、上記の条件(A)〜(I)を満たすべくなされたものである。
【0041】
以下、本発明の第1の実施形態が、上述の条件(A)〜(I)に適合していることを説明する。
条件(A)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、アルミニウムからなる下部電極4および上部電極6、並びに窒化アルミニウムからなる圧電膜5から構成される積層体51は、赤外線を吸収し、温度が上昇することができる。さらに、第1の実施形態においては、積層体51の上にポリイミドからなる赤外線吸収層13が形成されており、感熱部7は効率的に赤外線を吸収して熱に変換することが可能である。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(A)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0042】
条件(B)について述べる。感熱部7は、圧電膜5およびそれを挟む下部電極4及び上部電極6からなる積層体51、ならびに赤外線吸収層13から構成されており、これらは、熱容量の大きな基板1等に接していない。第1の実施形態においては、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムの比熱が8.0cal/molK、下部電極4及び上部電極6を形成するアルミニウムの比熱が5.8cal/molK、赤外線吸収層13を形成するポリイミドの比熱は組成等にもよるが2cal/molK程度であり、感熱部7の熱容量は圧電膜5の熱容量の3倍程度に抑制することができている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(B)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、速い昇温速度で、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0043】
条件(C)について述べる。積層体51は、それと連結されたアンカー2によって基板1上の空中に支持されている。そして、上記積層体51の端部が長く細い接続梁部8によって基板上のアンカー2に接続されている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(C)を満たしており、基板1への熱伝導を充分小さくすることが可能であり、感熱部への赤外線照射により、感熱部の温度を充分上昇させることができる。
【0044】
条件(D)について述べる。感熱部7を構成する圧電膜5が下部電極4及び上部電極6により挟まれており、面内方向の変形が拘束されている。このため、圧電膜5と下部電極4及び上部電極6の熱膨張率の差により熱応力を発生させることが可能である。具体的には、窒化アルミニウムのc軸を膜面と垂直に配向させたときに、面内方向の線膨張率は5.27×10−6/Kであり、下部電極4及び上部電極6として使用したアルミニウムの線膨張率は23×10−6/Kと大きく異なっており、充分な熱歪みを生じさせることができる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(D)を満たしており、感熱部への赤外線照射により、感熱部の圧電膜に充分大きな歪みを発生させることができる。
【0045】
なお、下部電極4及び上部電極6に用いられる材料としては、アルミニウムに限られることなく、圧電膜5の線膨張率よりも少なくとも5×10−6/K以上、望ましくは10×10−6/K以上異なる線膨張率の電極材料を使用することが可能である。例示すると、銅の線膨張率は16.7×10−6/Kであり、窒化アルミニウムの面内方向の線膨張率5.27×10−6/Kと線膨張率の差が大きく、銅は電極材料に適している。なお、特許文献1においては、窒化アルミニウム圧電膜をシリコン基板に固定した構成であるが、シリコンの線膨張率は2.5×10−6/Kであり、窒化アルミニウムの線膨張率と近い値である。したがって、特許文献1に記されている構成により大きな熱歪みを誘起することはできない。
【0046】
条件(E)について述べる。圧電膜5として使用した窒化アルミニウムのc軸に垂直な方向の縦弾性率は3.95x1011Paであり、従って圧電膜5の縦弾性率Ep=3.95x1011Paである。また、アルミニウムの縦弾性率は7.2x1010Paであり、従って下部電極4の縦弾性率EBEおよび上部電極6の縦弾性率ETEは、ともに7.2x1010Paである(ポリイミドの弾性率は小さいのでここでは無視する)。また、圧電膜5の厚さtpは1.2μmであり、下部電極4の厚さtBEおよび上部電極6の厚さtTEはともに2.0μmである。従って、下部電極4および上部電極6と圧電膜5の縦剛性の比(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP)は約1.6である。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(E)を満たしており、熱応力による大きな圧電効果が生じる。
【0047】
上記の条件(F)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、実際に読み出し回路を接続したときの感度は、圧電係数d31と体積比熱C'pおよび比誘電率εの比d31/C'pεで決まる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムのc軸と垂直方向の応力に対する圧電係数d31は−3.1C/Nであり、また、体積比熱C'p は8.0cal/molK、比誘電率εは約10である。従って、d31/C'pεは、−0.10CKcm3/NJとなり、大きい値を持つ。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(F)を満たしており、圧電膜に歪が生じたときに充分な電荷が誘起される。
【0048】
なお、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子において、窒化アルミニウムの圧電係数d31は−3.1C/Nであり、PZT系などの強誘電体材料に比較すると1桁以上小さく、一見赤外線検出素子の圧電膜としては適さないようにみえる。しかしながら、上述したように、実際に読み出し回路を接続したときの感度は、圧電係数d31と体積比熱C'pおよび比誘電率εの比d31/C'pεで決まり、窒化アルミニウムの誘電率は約10と強誘電体に比較すると充分に小さいため、d31/C'pεを充分大きくできる。
【0049】
上記の条件(G)について述べる。数式2で示したように、読み出し時のS/N比を考慮した規格化検出能FDはd31/C'p(ε・tanδ)1/2で表せる。ここで問題となるのは、上述した検出感度とともに、誘電損失tanδである。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、圧電膜5に用いられる窒化アルミニウムの誘電損失tanδは非常に小さく、通常は0.005以下であり、通常の測定では検出感度以下である。したがって規格化検出能d31/C'p(ε・tanδ)1/2を、非常に大きくできる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(G)を満たしており、S/N比が大きくでき、圧電膜に誘起された電荷を感度良く読み出すことが出来る。
【0050】
上記の条件(H)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、圧電膜5を形成する窒化アルミニウムはCMOSプロセスとの互換性が非常によい。窒化アルミニウム膜は室温ないしは100℃程度の低温でシリコン基板上に絶縁性の高い膜を容易に形成することが可能で、下部電極4および上部電極6としてCMOS互換性が良いアルミニウムなどの酸化しやすい金属を使用することができる。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(H)を満たしており、CMOS素子からなる増幅回路があらかじめ作製されたシリコン基板上に作製することができ、赤外線照射により生じた微小な電荷を効率よく読み出すことができる。
【0051】
上記の条件(I)について述べる。第1の実施形態で例示される赤外線検出素子においては、下部電極4および上部電極6に由来するAlの[111]方位の配向半値幅(FWHM)は0.9°、圧電膜5に由来するAlNの[0001]方位の配向半値幅は1.1°と非常によく配向している膜の形成が可能であった。また圧電特性についても理論値(単結晶で測定された値)が得られ、分極が同一方向に揃っていることが確かめられた。さらに、圧電軸であるc軸が圧電膜と垂直であり、上下に電極が形成されている。このように、第1の実施形態で例示される赤外線検出素子は条件(I)を満たしており、圧電膜5に歪が生じたときに検出されるに充分な電荷が効率よく誘起される。
【0052】
このように、第1の実施形態により例示された本発明の赤外線検出素子は、上記の条件(A)〜(I)を満たしている。
【0053】
このようにして製作された第1の実施形態に係わる赤外線検出素子は、後述する第3の実施形態に示される増幅器と組み合わせ、第4の実施形態に例示する赤外線イメージセンサに応用することにより、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数(雑音等価温度差:noise equivalent temperature difference)が0.07℃と、非常に高精度であることが確認された。
【0054】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子について説明する。
【0055】
図4は、本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子15の平面図である。また、図5は、図4のA−A線断面の断面図である。積層体51及び感熱部7は、第1の実施形態の場合は、片持ち梁構造であったが、第2の実施形態では両持ち梁構造にしたものである。なお、第1の実施形態と同じ役割の部品は同じ番号を付与し、説明する。
【0056】
図4及び図5に表すように、基板1の上には2ヶ所にアンカー2が形成されている。下部電極4、上部電極6、並びに下部電極4および上部電極6に挟まれた圧電膜5により積層体51が構成されている。積層体51の左右端部の接続梁部8部はアンカー2に連結されており、アンカー2により、積層体51は基板1の上部において間隙52を有した状態で支持されている。また基板1の上には増幅器10が形成されており、下部電極4および上部電極6はコンタクト部12で、増幅器10からの配線11と接続されている。なお、この積層体51の上に赤外線吸収層13が形成されており、積層体51と一体となって感熱部7が構成されている。
【0057】
このように、第2の実施形態では、積層体51を両持ち梁構造にすることにより、積層体51を基板1の上部で間隙52を空けて安定して支持することができる。また、条件(A)〜(I)を満足することは言うまでもない。
以下、本発明の赤外線検出素子と比較するために、比較例による赤外線検出素子について述べる。
【0058】
(第1の比較例)
まず、第1の比較例である焦電型の赤外線検出素子を説明する。図6は、第1の比較例の焦電型の赤外線検出素子の各工程における断面図である。
【0059】
図6(a)に表すように、MgOなどの単結晶基板414上に単一配向したチタン酸鉛系の焦電体膜411を形成し、リソグラフィーおよびエッチングにより素子形状に加工した。
次に、図6(b)に表すように、第1の樹脂膜415、第1の電極416、第2の樹脂膜417を形成した。
次に、図6(c)に表すように、この焦電体411を形成した単結晶基板414を樹脂膜を介してアルミナなどを使用したセラミック基板413に接着層422を使用して接着した。
【0060】
次に、図6(d)に示すように、単結晶基板414を溶解除去した 。
【0061】
次に、図6(e)に示すように、受光電極を兼ねた第2の電極418を形成した。また、セラミック基板413には図示しない増幅器404が別途取り付けられ、増幅器404からの配線421と検出素子の第1の電極416および第2の電極418とを導電性ペースト419により接続した。
【0062】
このようにして製作された第1の比較例の赤外線検出素子は、増幅器が別の基板に設けられているため、ノイズが多く、検出精度が悪かった。また、赤外線検出素子の作製に複雑な貼り合せおよび基板の溶解除去工程を含んでいるため、信頼性および精度が劣り、微細化が困難である。
【0063】
(第2の比較例)
次に、第2の比較例の赤外線検出素子について説明する。
図1および図2に構造を示す赤外線検出素子において、圧電膜5に用いる材料をPZT系の圧電膜に変えて作製することを試みた。圧電膜5としてPb(Zr0.48Ti0.52)O3、下部電極4および上部電極6としてPt、赤外線吸収膜13としてSiN/SiO2を用いた積層体を作製した。膜厚は、第1の実施形態の赤外線検出素子の場合と同一である。ただし圧電膜の成膜にはゾルゲル法を使用し、犠牲層選択エッチング処理の前に600℃3分の結晶化熱処理を行い、さらに分極処理を行った。
【0064】
このようにして作製された第2の比較例の赤外線検出素子を光学顕微鏡により観察した所、積層体が大きく変形して基板に接触しており、好適な赤外線検出素子を形成できなかった。結晶化熱処理の際に圧電層が大きく収縮して変形したことが原因であった。すなわち第2の比較例においては、条件(C)としての感熱部と基板の間の断熱が非常に悪いため、赤外線照射により感熱部の温度が上昇せず、他の条件(A)、(B)および条件(D)〜(E)の可否に拘らず、好適な赤外線センサを構成できない。
【0065】
(第3の比較例)
次に、第3の比較例の赤外線検出素子について説明する。図7は、第3の比較例の赤外線検出素子の断面図である。第2の比較例において圧電膜の変形により赤外線検出素子が好適に形成できなかったため、第3の比較例においては、図7に表すように、SiNからなる支持層9の上に積層体51を作製した。支持層9の厚さは5μmである。支持基板9の他は、全ての構造およびプロセスは第2の比較例と同様である。作成後に光学顕微鏡により観察した所、積層体51部は大きく上側に変形していたが、基板には接触せず、かろうじて赤外線検出素子を形成できていた。
【0066】
以上、第2の比較例及び第3の比較例で例示したPZTを圧電膜5として使用した場合は、大きな圧電係数を持っていることが特徴であり、圧電係数や誘電率を測定した結果、圧電係数d31は−61C/Nと窒化アルミニウムに比較して20倍大きかった。しかしながら比誘電率εも150と大きいため、前述した条件(F)のd31/C'pεは −0.14CKcm3/NJとなり、窒化アルミニウムよりも1.5倍にしか大きくはなかった。一方、PZTのtanδは0.07であり、窒化アルミニウムよりも10倍以上大きく、前述した条件(G)であるd31/C'p(ε・tanδ)1/2の値が、第1の実施形態の場合よりかなり小さくなった。
【0067】
このように、第2の比較例及び第3の比較例では、条件(F)は満たしてはいるものの、条件(G)は満たさず、また条件(H)も満たさない。また、第3の比較例では、条件(A)〜(F)および(I)については満たしている。しかしながら条件(G)については上述したように満たさず、また条件(H)についてもプロセス温度がCMOSの耐熱温度である550℃を超えており満たしていない。
【0068】
第3の比較例の赤外線吸収素子を、後述する第3の実施形態に示される増幅器と組み合わせ、第4の実施形態に例示する赤外線イメージセンサに応用したところ、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数が0.23℃であり、窒化アルミニウムを圧電膜5とした第1及び第2の実施形態の場合の1/3以下であった。
【0069】
以上、第1〜第3の比較例で例示したように、比較例の赤外線検出素子では、シリコン基板上でのオンチップ作製が可能で、高感度、高精度、高信頼性を有する赤外線検出素子は実現できなかった。
【0070】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施形態の赤外線検出素子について説明する。
図8は、第3の実施形態に係わる赤外線検出素子の回路構成を示す回路図である。図8に表すように、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、増幅器310は、積層体301に接続され、積層体301で発生する電荷を電圧に変換する第1のトランジスタ303、第1のトランジスタ303に接続されている第2のトランジスタ(負荷トランジスタ)302、第2のトランジスタ302のゲートに電圧を印加する第1の端子304、第2のトランジスタ302のソースに電圧を印加する第2の端子305、及び、第1のトランジスタ303のドレインから電圧情報を取り出す第3の端子306により構成される。図8に表すように、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、基板上に形成された増幅器310が、積層体301で発生する電荷情報を電圧情報に変換する回路を有している。
【0071】
積層体301の上部電極6または下部電極4のうちの1つが、前記第1のトランジスタのゲートに接続され、上部電極6または下部電極4のうちの残りの電極が接地され、第1のトランジスタ303のドレインは第2のトランジスタ302のドレイン及び第3の端子306に接続され、第1のトランジスタ303のソースは接地されている。第2のトランジスタ302のゲートは第1の端子304に接続され、第2のトランジスタ302のソースは第2の端子305に接続され、第2のトランジスタ302のドレインは第1のトランジスタ303のドレイン及び第3の端子306に接続されている。このようにして、本発明の第3の実施形態である赤外線検出素子の増幅器310は、ソース接地増幅回路を形成している。
【0072】
第1の端子304及び第2の端子305はある一定の電圧になっており、第2のトランジスタ302は負荷抵抗として機能するようになっている。このような回路構成により、積層体301に発生する電荷は、第1のトランジスタ303のゲートに入力され、発生する電荷量に応じた電圧が第3の端子306に出力されるようになり、積層体301の電荷情報を電圧情報に変換できる。
【0073】
積層体301の電荷情報を電圧情報に変換する際、積層体301で発生する電荷は非破壊で電圧情報に変換されるため、変換後に積層体301の電荷情報を初期状態に戻す動作を必要としない。
【0074】
第3の実施形態の赤外線検出素子300において、例えば、積層体301の5mKの温度変化に伴う電荷情報は、第3の端子306において0.1Vの電圧変化として出力される。
【0075】
なお、第3の実施形態の赤外線検出素子300において、積層体301の端子(上部電極または下部電極)と第1のトランジスタ303のゲートを接続する配線は、積層体301で発生する電荷情報を効率よく伝達するために、寄生容量を出来るだけ低減させることが望ましい。
【0076】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサについて図を用いて説明する。
図9は、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの回路構成を示す回路図である。
第4の実施形態では、第3の実施形態の赤外線検出素子300をn×mのアレイ状に配置し、入力された赤外線画像情報を電圧情報に変換できるようにしている。
【0077】
第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサ100は、n×m個の赤外線イメージセンサ要素(赤外線検出素子)110、赤外線イメージセンサ要素110の列毎に配置された負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_n、負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_nの各ソースに電圧を印加する端子101、負荷トランジスタ群104_1、104_2、・・・、104_nのゲートに電圧を印加する端子102、赤外線イメージセンサ要素110の行要素の選択を行う端子群103_1、103_2、・・・、103_m、赤外線イメージセンサ要素110の列要素の選択を行うスイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_n、スイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_n、の各ゲートに電圧を印加する端子群107_1、107_2、・・・、107_n、各赤外線イメージセンサ要素110の電圧信号を出力する映像出力線108、バッファーアンプ109、および映像出力端子111により構成されている。
【0078】
また、各赤外線イメージセンサ要素110には端子A、端子B、端子Cが接続されている。
負荷トランジスタ104_1のドレインは赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(2,1)要素、・・・、(m,1)要素の端子Aに接続され、以下同様に負荷トランジスタ104_2、・・・、104_nのドレインは赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Aにそれぞれ接続されている。また、端子103_1は赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(1,2)要素、・・・、(1,n)要素の端子Bに接続され、以下同様に端子103_2、・・・、103_mは、赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Bにそれぞれ接続されている。また、スイッチングトランジスタ106_1のドレインは、赤外線イメージセンサ要素110の(1,1)要素、(2,1)要素、・・・、(m,1)要素の端子Cに接続され、以下同様にスイッチングトランジスタ106_2、・・・、106_nのドレインは、赤外線イメージセンサ要素110の各要素の端子Cにそれぞれ接続されている。スイッチングトランジスタ106_1のゲートは、端子107_1に接続され、以下同様にスイッチングトランジスタ106_2、・・・、106_nは、端子107_2、・・・、107_nにそれぞれ接続されている。また、スイッチングトランジスタ106_1、106_2、・・・、106_nの各ソースは、映像出力線108に接続されている。また、映像出力線は、バッファーアンプ109に入力され、バッファーアンプ109の出力は映像出力端子111に接続されている。端子101および端子102は、ある一定の電圧になっており、負荷抵抗として機能するようになっている。
【0079】
以下、赤外線イメージセンサ要素110の増幅回路210を説明する。
図10は、第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサ100における赤外線イメージセンサ要素110の回路構成を示す回路図である。
【0080】
図10に表すように、増幅回路210は、積層体201で発生する電荷情報を電圧情報に変換する回路であり、積層体201、積層体201に接続された第1のトランジスタ203、および第1のトランジスタに接続された第2のトランジスタ202により構成される。ここで、図10に表される端子A、端子B、端子Cは、図9に表された各赤外線イメージセンサ要素110の端子A、端子B、端子Cにそれぞれ接続される。
【0081】
本発明の第4の実施形態の赤外線イメージセンサでは、図9および図10に表された構成にすることにより、図11に示すような出力信号を得ることができる。すなわち、図9に示された端子103_1、103_2、・・・、103_m、及び端子107_1、107_2、107_nのそれぞれ1つの端子にスイッチング信号を入力することで、図10に示される第2のトランジスタ202、及び図9に示されるスイッチングトランジスタ群106_1、106_2、・・・、106_nのそれぞれ1つがON状態となり、ある1つの赤外線イメージセンサ要素110の端子Cの電圧信号が映像出力線108に出力され、バッファーアンプ109を介して映像出力端子111に出力される。以下同様にして、スイッチング信号を切り替えることにより、全ての赤外線イメージセンサ要素110の端子Cの電圧信号を映像出力端子111に出力することができ、この出力情報を基にして、赤外線イメージセンサ100に入力された赤外線情報を可視化できるようになる。
【0082】
なお、図示しないが、赤外線イメージセンサ素子201と第1のトランジスタ203のゲートを接続する配線等の残留電荷の製造時におけるばらつきを各赤外線イメージセンサ要素110で同一とするために、上記配線を接地させるスイッチを上記配線とグラウンド間に形成し、製造後最初の起動時、或いは毎回の起動時に、スイッチを一定の間ONする機構を備えておくことができる。
【0083】
次に、第4の実施形態の赤外線イメージセンサを応用した赤外線イメージセンサシステムについて説明する。
図12は、本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサを用いた赤外線イメージセンサシステムの光学系を示す模式図である。赤外線イメージセンサ31はウインド33を持つパッケージ32中に真空封止されている。ウインド33の前には赤外線を集光するためのレンズ34、絞り35、およびチョッパ36が設置されている。チョッパ36により赤外線をオン/オフさせることで、赤外線イメージセンサ31の赤外線検出素子には温度差ΔTが生じ、それにより起電力ΔVが生じ、ΔVを増幅器で読み出すことで赤外線の強さを検出できる。
【0084】
このような手順で作製した赤外線イメージセンサシステムを使用し、性能を評価したところ、赤外線の検出性能をあらわすNETD指数が0.07℃と非常に高精度であることが確認された。
【0085】
ところで、本発明における積層体51は、赤外線照射に対して比較的大きな起電力を得ることができるが、生じる電荷量は比較的小さい。このため、積層体51に生じた起電力を読み出すための増幅器10は積層体51の近傍に配置して、積層体51と増幅器10の間の配線容量や、増幅器10自身の入力寄生容量を減らすことが有効である。したがって、積層体51を赤外線イメージセンサ要素としてマトリックス状に配置したとき、各赤外線イメージ要素ごとに増幅器10を設け、積層体51で発生する電荷情報を電圧情報に変換した後に、各マトリックスの信号波形を順次読み出すことが有効である。
【0086】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、基板、下部電極、上部電極、圧電膜、アンカー、増幅器、赤外線吸収膜など、赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサを構成する各要素の具体的な寸法関係や材料に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサを基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうる全ての赤外線検出素子及び赤外線イメージセンサも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係わる赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係わる赤外線検出素子の断面図である。
【図6】比較例1の赤外線検出素子の製造工程の各段階における断面図である。
【図7】比較例3の赤外線検出素子の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる赤外線検出素子の回路構成を示す回路図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの回路構成を示す回路図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサにおける赤外線イメージセンサ要素の回路構成を示す回路図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサの信号波形のタイミングチャート図である。
【図12】本発明の第4の実施形態に係わる赤外線イメージセンサを用いた赤外線イメージセンサシステムの光学系を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 アンカー
3 犠牲層
4 下部電極
5 圧電膜
51 積層体
52 間隙
6 上部電極
7 感熱部
8 接続梁部
9 支持層
10 増幅器
11 配線
12 コンタクト部
13 赤外線吸収層
14 赤外線検出素子
301 積層体
302 第2のトランジスタ
303 第1のトランジスタ
304 第1の端子
305 第2の端子
306 第3の端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、
前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、
前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、
を備えたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項2】
前記圧電膜のc軸の配向半値幅は、5°以下であることを特徴とする請求項1記載の赤外線検出素子。
【請求項3】
前記上部電極および前記下部電極の線膨張率と前記圧電膜の線膨張率との差は、5×10−6/K以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線検出素子。
【請求項4】
前記上部電極の厚さをtTE、前記上部電極の膜面内縦弾性率をETE、前記下部電極の厚さをtBE、前記下部電極の膜面内縦弾性率をEBE、前記圧電膜の厚さをtP、前記圧電膜の膜面内縦弾性率をEPとしたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項5】
前記積層体は、前記上部電極の上に設けられた赤外線吸収膜をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項6】
前記積層体は、前記上部電極の上に設けられた第1の赤外線吸収膜と、前記下部電極の下に設けられた第2の赤外線吸収膜と、を有し、
前記第1及び第2の赤外線吸収膜は、実質的に同じ材質からなり且つ実質的に等しい膜厚を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項7】
前記赤外線吸収膜の線膨張率は、前記圧電膜の線膨張率より5×10−6/K以上大きいことを特徴とする請求項5または6に記載の赤外線検出素子。
【請求項8】
前記増幅器は、前記積層体において発生する電荷に応じた電圧に変換する回路を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項9】
前記増幅器は、
第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのゲートに電圧を印加する第1の端子と、
前記第2のトランジスタのソースに電圧を印加する第2の端子と、
前記第1のトランジスタのドレインから電圧を取り出す第3の端子と、
を有し、
前記上部電極または前記下部電極のいずれか一方は、前記第1のトランジスタのゲートに接続され、
前記上部電極または前記下部電極のいずれか他方は、接地され、
前記第1のトランジスタのドレインは、前記第2のトランジスタのドレインと前記第3の端子とに接続され、
前記第1のトランジスタのソースは接地され、
前記第2のトランジスタのゲートは、前記第1の端子に接続され、
前記第2のトランジスタのソースは、前記第2の端子に接続されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の複数の赤外線検出素子がアレイ状に配置されてなることを特徴とする赤外線イメージセンサ。
【請求項1】
基板と、
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に設けられ膜面に対して略垂直にc軸が配向した窒化アルミニウムからなる圧電膜と、を有する積層体と、
前記積層体の一部と前記基板とを連結し前記積層体を前記基板の上方に間隙を空けて支持するアンカーと、
前記基板上に設けられ、前記下部電極と前記上部電極とに接続された増幅器と、
を備えたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項2】
前記圧電膜のc軸の配向半値幅は、5°以下であることを特徴とする請求項1記載の赤外線検出素子。
【請求項3】
前記上部電極および前記下部電極の線膨張率と前記圧電膜の線膨張率との差は、5×10−6/K以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線検出素子。
【請求項4】
前記上部電極の厚さをtTE、前記上部電極の膜面内縦弾性率をETE、前記下部電極の厚さをtBE、前記下部電極の膜面内縦弾性率をEBE、前記圧電膜の厚さをtP、前記圧電膜の膜面内縦弾性率をEPとしたとき、(tTE・ETE+tBE・EBE)/(tP・EP) が、0.1以上10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項5】
前記積層体は、前記上部電極の上に設けられた赤外線吸収膜をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項6】
前記積層体は、前記上部電極の上に設けられた第1の赤外線吸収膜と、前記下部電極の下に設けられた第2の赤外線吸収膜と、を有し、
前記第1及び第2の赤外線吸収膜は、実質的に同じ材質からなり且つ実質的に等しい膜厚を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項7】
前記赤外線吸収膜の線膨張率は、前記圧電膜の線膨張率より5×10−6/K以上大きいことを特徴とする請求項5または6に記載の赤外線検出素子。
【請求項8】
前記増幅器は、前記積層体において発生する電荷に応じた電圧に変換する回路を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項9】
前記増幅器は、
第1のトランジスタと、
第2のトランジスタと、
前記第2のトランジスタのゲートに電圧を印加する第1の端子と、
前記第2のトランジスタのソースに電圧を印加する第2の端子と、
前記第1のトランジスタのドレインから電圧を取り出す第3の端子と、
を有し、
前記上部電極または前記下部電極のいずれか一方は、前記第1のトランジスタのゲートに接続され、
前記上部電極または前記下部電極のいずれか他方は、接地され、
前記第1のトランジスタのドレインは、前記第2のトランジスタのドレインと前記第3の端子とに接続され、
前記第1のトランジスタのソースは接地され、
前記第2のトランジスタのゲートは、前記第1の端子に接続され、
前記第2のトランジスタのソースは、前記第2の端子に接続されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の赤外線検出素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の複数の赤外線検出素子がアレイ状に配置されてなることを特徴とする赤外線イメージセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−68863(P2009−68863A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234696(P2007−234696)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]