説明

赤外線検出装置

【課題】電流電圧変換回路のSN比を低下させることなく、不要な低周波成分の影響を抑制することができる赤外線検出装置を提供する。
【解決手段】赤外線検出装置1は、AD変換部4における量子化器42の入力から所定周波数以下の低周波成分である不要成分を低減させる補正回路6を備えている。補正回路6は、デジタルフィルタ5の一部を構成する第1のフィルタ部51の出力から、AD変換部4の一部を構成する積分器41における演算増幅器412の非反転入力端子に不要成分を帰還する。演算増幅器412の反転入力端子には電流電圧変換回路3からの入力信号が入力されているので、量子化器42には不要成分を入力信号から除去した信号が入力されることになり、AD変換部4の入力信号が不要成分の影響で入力許容範囲を超えることは回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電素子を用いた赤外線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギ化を図るなどの目的で、人体の動きを検知して効率的な動作を行う様々な電気機器が提案されている。たとえば、このような電気機器には、赤外線の検知部として焦電素子を用いた赤外線検出装置が内蔵されている。一般的な赤外線検出装置は、レンズ等を用いて検知エリア内からの赤外線を焦電素子に集めており、焦電素子が受光する赤外線量の変化に応じて焦電素子から出力される電流信号が変化する。
【0003】
この種の(焦電型)赤外線検出装置として、焦電素子と、焦電素子の出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換部とを備えた装置が知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の赤外線検出装置1では、電流電圧変換回路は、図7に示すように、焦電素子2に入力端子が接続された演算増幅器31を備えている。演算増幅器31の出力端子と入力端子との間には、コンデンサ32で構成された帰還容量が接続されている。演算増幅器31の出力端子と入力端子との間には、さらに直流帰還回路が設けられ、入力抵抗100によって帰還を行っている。直流帰還回路はインピーダンス変換のための演算増幅器31とは別の演算増幅器101にコンデンサ102と抵抗値103が付加された積分回路で構成される。人体検知に必要な周波数帯は、直流帰還回路によって定まるDC帰還時定数に対応する特定周波数よりも高い周波数側に設定される。
【0005】
このような構成の電流電圧変換回路によれば、焦電素子2から出力される電流は、帰還容量のインピーダンスを用いて電流から電圧に変換される。また、演算増幅器31の帰還動作を安定化するため直流帰還回路を接続しているので、赤外線検出装置1として使用される周波数ではSN比が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3472906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した構成の赤外線検出装置1では、電流電圧変換回路の入力端子に入力抵抗100が接続されているので、入力抵抗100で発生するノイズ成分が電流電圧変換回路に入力されることになり、電流電圧変換回路のSN比の低下につながる。特に、カットオフ周波数を低くしたり(たとえば0.1Hz未満)、入力抵抗100の熱雑音を抑えたりするためには、入力抵抗100は抵抗値がたとえばT(テラ)Ωオーダの高抵抗とする必要がある。
【0008】
しかし、赤外線検出装置1の小型化の観点から入力抵抗100は通常、IC(集積回路)に内蔵される抵抗素子にて構成され、このような抵抗素子で高抵抗を実現しようとすると、温度特性が大きく抵抗値のばらつきが大きくなる。入力抵抗100の抵抗値がばらついて抵抗値が下がると、入力抵抗100の熱雑音が増え、結果的にノイズ成分が増大して電流電圧変換回路のSN比が低下する。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されており、電流電圧変換回路のSN比を低下させることなく、不要な低周波成分の影響を抑制することができる赤外線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の赤外線検出装置は、焦電素子と、前記焦電素子から出力される電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、前記電流電圧変換回路から出力されるアナログ値をデジタル値に変換しシリアル方式で出力するAD変換部と、前記AD変換部の出力のうち予め決められた周波数帯域の信号成分を通過させるデジタルフィルタと、前記AD変換部の出力から所定周波数以下の低周波成分を低減させるように、前記デジタルフィルタから前記AD変換部に前記低周波成分を帰還する補正回路とを備えることを特徴とする。
【0011】
この赤外線検出装置において、前記デジタルフィルタは、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを有しており、前記補正回路は、前記ローパスフィルタの出力から前記低周波成分を抽出して前記AD変換部に帰還することが望ましい。
【0012】
この赤外線検出装置において、前記デジタルフィルタは、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを有しており、前記補正回路は、前記AD変換部の出力から前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数以下の前記低周波成分を低減させることにより、前記ハイパスフィルタの一部を兼ねることがより望ましい。
【0013】
この赤外線検出装置において、前記AD変換部は、アナログ値の積分を行う積分器と、前記積分器の出力を量子化する量子化器とを有しており、前記積分器は、反転入力端子と出力端子との間に容量素子が接続された第1の演算増幅器を具備し、前記電流電圧変換回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に入力され、前記補正回路の出力は、前記第1の演算増幅器の非反転入力端子に帰還されることがより望ましい。
【0014】
この赤外線検出装置において、前記AD変換部はΔΣ方式であることがより望ましい。
【0015】
この赤外線検出装置において、前記補正回路は、前記低周波成分を通過させる調整部と、前記調整部の出力をノイズシェーピングするノイズシェーパと、前記ノイズシェーパの出力をアナログ値に変換するDA変換部とを有することがより望ましい。
【0016】
この赤外線検出装置において、前記電流電圧変換回路は、反転入力端子に前記焦電素子が接続され、当該反転入力端子と出力端子との間に帰還用の素子が接続された第2の演算増幅器を具備し、当該第2の演算増幅器の非反転入力端子には基準電圧が印加され、前記補正回路は、前記低周波成分に相当するデジタル値をアナログ値に変換するDA変換部を有し、前記DA変換部の電源供給部は、前記基準電圧を発生する基準電源部の電源供給部と共用されていることがより望ましい。
【0017】
この赤外線検出装置において、前記AD変換部は、アナログ値の積分を行う積分器と、前記積分器の出力を量子化する量子化器とを有しており、前記積分器は、出力端子と反転入力端子との間に容量素子が接続された第1の演算増幅器を具備し、当該第1の演算増幅器の非反転入力端子には基準電圧が印加され、前記電流電圧変換回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に入力され、前記補正回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に帰還されることがより望ましい。
【0018】
この赤外線検出装置において、前記AD変換部はΔΣ方式であることがより望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、AD変換部の出力から低周波成分を低減させるように、デジタルフィルタからAD変換部に低周波成分を帰還する補正回路を備えるので、電流電圧変換回路のSN比を低下させることなく、不要な低周波成分の影響を抑制できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る赤外線検出装置の構成を示す概略回路図である。
【図2】実施形態1に係る赤外線検出装置の構成を示す概略回路図である。
【図3】実施形態1に係る赤外線検出装置の構成を示す概略回路図である。
【図4】実施形態1に係る赤外線検出装置の動作を示す説明図である。
【図5】実施形態1に係る赤外線検出装置の他の構成を示す概略回路図である。
【図6】実施形態2に係る赤外線検出装置の構成を示す概略回路図である。
【図7】従来例を示す概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態1)
本実施形態の赤外線検出装置1は、図2に示すように、焦電素子2と、焦電素子2に接続される電流電圧変換回路3と、電流電圧変換回路3に接続されるAD変換部4と、AD変換部4に接続されるデジタルフィルタ5と、後述の補正回路6とを備えている。本実施形態では、一例として検知エリア内の人体検知に用いられる赤外線検出装置1について説明するが、赤外線検出装置1がたとえばガス検知等の人体検知以外の用途に用いられることを妨げる趣旨ではない。電流電圧変換回路3とAD変換部4とデジタルフィルタ5と補正回路6とは、外付け部品を用いずにIC(集積回路)化されることによりワンチップ化される。
【0022】
焦電素子2は、検知エリアから赤外線を受光し、受光した赤外線量の変化に応じて電流信号を出力する。
【0023】
電流電圧変換回路3は、反転入力端子に焦電素子2が接続された演算増幅器(第2の演算増幅器)31を有している。演算増幅器31の出力端子−反転入力端子間には、交流帰還用の容量素子としてのコンデンサ32が接続されている。演算増幅器31の非反転入力端子には、基準電圧を発生する基準電源部33が接続されている。
【0024】
このように構成される電流電圧変換回路3によれば、焦電素子2から出力された微弱な電流信号は、コンデンサ32のインピーダンスを用いて電圧信号に変換される。したがって、演算増幅器31から出力される電圧は、基準電源部33が発生する基準電圧からコンデンサ32の両端電圧を差し引いた値となる。要するに、電流電圧変換回路3の出力は、基準電圧を動作点として、焦電素子2が赤外線を受光したことによる電流信号の変化に応じて動作点から変化する。
【0025】
なお、以下では説明を簡単にするために、上記動作点(基準電圧)にあるときの電流電圧変換回路3の出力をゼロとして説明する。つまり、以下では、電流電圧変換回路3の出力は、演算増幅器31から出力される電圧の動作点からの変化量を意味する。
【0026】
AD変換部4は、電流電圧変換回路3から入力される電圧値(アナログ値)をデジタル値に変換して、シリアル方式でデジタルフィルタ5に出力する。つまり、AD変換部4は、アナログ信号の瞬時値をデジタルのシリアルビット列に変換して出力する。
【0027】
本実施形態では、図1に示すように、AD変換部4としてΔΣ(デルタシグマ)方式(ΣΔ方式)のAD変換器(ΔΣAD変換器)が用いられている。これにより、比較的小型で且つ高精度のAD変換部4を実現することができる。
【0028】
すなわち、AD変換部4は、入力信号の積分を行う積分器41と、積分器41の出力を量子化する量子化器42と、量子化器42の出力をアナログ値に変換するDA変換器43とを有している。なお、電流電圧変換回路3と積分器41との間には抵抗45が挿入されている。
【0029】
積分器41は、反転入力端子と出力端子との間にコンデンサ(容量素子)411が接続された演算増幅器(第1の演算増幅器)412を具備しており、演算増幅器412の反転入力端子には電流電圧変換回路3からの入力信号が入力される。量子化器42は、積分器41の出力電圧つまり積分値と、所定の閾値とを比較することによって、アナログ値をデジタル値に変換する。ここでは、量子化器42は1つの閾値を用いてアナログ値を1ビット(bit)のデジタル値に変換する。
【0030】
DA変換器43は、量子化器42で変換されたデジタル値を1クロック分だけ遅延させた値である遅延値を、アナログ値に変換して演算増幅器412の反転入力端子に帰還する。これにより、AD変換部4においては、時間経過に伴う入力信号の変化分(微分値)を積分した値が、デジタル値として量子化器42から出力されることになる。
【0031】
AD変換部4は、入力されたアナログ信号の振幅が入力許容範囲内にあれば、量子化器42にてアナログ値をデジタル値に変換し、入力許容範囲外の振幅を持つアナログ信号が入力されると量子化器42の出力が飽和する。
【0032】
デジタルフィルタ5は、予め決められた周波数帯域を通過帯域とするデジタルバンドパスフィルタとしての機能を有している。本実施形態では、人体の存在を検知した際に焦電素子2が発生する電流信号の周波数帯域(ここでは0.1Hz〜10Hz程度とする)をデジタルフィルタ5の通過帯域とする。以下、「バンドパスフィルタ」を「BPF」と称する。
【0033】
デジタルフィルタ5は、図1に示すように、AD変換部4の出力に接続される第1のフィルタ部51と、第1のフィルタ部51の出力に接続される第2のフィルタ部52とを具備している。第1のフィルタ部51は、ローパスフィルタとしての機能を有し、第2のフィルタ部52は、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタとしての機能を有しており、両フィルタ部51,52を併せてBPFを構成している。
【0034】
ここで、AD変換部4は、上述のようにΔΣ方式のAD変換器からなるので、オーバーサンプリングによって量子化誤差の低減を図っている。第1のフィルタ部51は、量子化器42から出力されるデジタル値についてサンプリング周波数を間引いて(ダウンサンプリング)、デジタル値の分解能を1ビットから多ビットへ変換するデシメーションフィルタとして機能する。
【0035】
デジタルフィルタ5に代えてアナログBPFが用いられている場合で、0.1Hz〜10Hz程度の信号を通過させるためには、回路定数の比較的大きなコンデンサ等の素子が必要になる。このような素子はIC(集積回路)に外付けされることになるので、この構成では赤外線検出装置1の回路部分をワンチップ化することができない。これに対して、本実施形態の赤外線検出装置1は、上述のようにデジタルBPFを用いたことにより、外付け部品が不要となり回路部分をワンチップ化することができるという利点がある。
【0036】
以上説明した構成の赤外線検出装置1では、焦電素子2から出力された電流信号は、電流電圧変換回路3にて電圧信号に変換された後、AD変換部4でデジタル値に変換され、デジタルフィルタ5に入力される。デジタルフィルタ5からは人体の存在を検知した際に焦電素子2が発生する電流信号の周波数帯域(0.1Hz〜10Hz程度)のデジタル信号が出力され、後段のマイコン(マイクロコンピュータ)等に入力される。
【0037】
マイコンは、デジタルフィルタ5から入力されるデジタル信号に基づいて、検知エリア内における人体の存否の判定を行う。つまり、マイコンは、デジタルフィルタ5の出力値(電流電圧変換回路3の出力に相当する)と、予め定められている第1の閾値とを比較することにより検知エリア内の人体の存否を判定する判定部(図示せず)を有する。判定部は、デジタルフィルタ5の出力値の絶対値が第1の閾値を超えている期間には、検知エリア内に人がいると判定してHレベルの検知信号を出力し、閾値以内であれば検知エリア内に人はいないと判定して検知信号をLレベルとする。
【0038】
ところで、所定周波数以下の低周波成分がAD変換部4の入力に含まれていると、AD変換部4の入力信号が入力許容範囲を超えやすくなる。つまり、電流電圧変換回路3の演算増幅器31の反転入力端子で電流リークが生じたり、電流電圧変換回路3に焦電素子2から低周波の揺らぎ成分が入力されたりしていると、AD変換部4の入力に含まれる低周波成分により量子化器42の出力は飽和しやすくなる。なお、焦電素子2から電流電圧変換回路3へ入力される低周波の揺らぎ成分としては、たとえば周囲温度の変化などに起因して検知対象(人体)とは無関係に焦電素子2の出力に生じる成分がある。以下では、検知対象とは関係のない不要な所定周波数以下の低周波成分を「不要成分」ともいう。
【0039】
また、量子化器42の入力から不要成分を低減させるために、電流電圧変換回路3とAD変換部4との間にハイパスフィルタを付加することも考えられる。ただし、不要成分に対応できる程度にハイパスフィルタのカットオフ周波数を低くする(0.1Hz程度とする)ためには、ハイパスフィルタに回路定数の比較的大きな抵抗素子および容量素子を用いる必要があり、ハイパスフィルタのIC(集積回路)化は困難である。そのため、本実施形態のように電流電圧変換回路3とAD変換部4とデジタルフィルタ5とが外付け部品を用いずにICによりワンチップ化される構成では、電流電圧変換回路3とAD変換部4との間にハイパスフィルタを付加することはできない。
【0040】
そこで、本実施形態の赤外線検出装置1は、量子化器42の入力から所定周波数以下の低周波成分(不要成分)を低減させる補正回路6を備えている。ここでは一例として、人体検知時に焦電素子2が発生する電流信号の周波数帯域(0.1Hz〜10Hz程度)との関係から、不要成分は0.1Hz以下の低周波成分であることとする。
【0041】
補正回路6は、デジタルフィルタ5およびAD変換部4に接続されており、AD変換部4の出力から不要成分を低減させるように、デジタルフィルタ5からAD変換部4に不要成分を帰還(フィードバック)する。ここでは、補正回路6は、図1に示すように、デジタルフィルタ5の一部を構成する第1のフィルタ部51の出力から、積分器41における演算増幅器412の非反転入力端子に不要成分を帰還する。
【0042】
具体的に説明すると、補正回路6は、第1のフィルタ部51の出力に接続された調整部61と、調整部61の出力に接続された補正用DA変換器(DA変換部)62とを有している。調整部61は、不要成分の上限周波数(ここでは0.1Hz)をカットオフ周波数とするデジタルローパスフィルタであって、第1のフィルタ部51の出力から不要成分に相当するデジタル信号のみを抽出して補正用DA変換器62に出力する。補正用DA変換器62は、調整部61から入力される不要成分に相当するデジタル値をアナログ値に変換して演算増幅器412に帰還する。
【0043】
この構成によれば、積分器41における演算増幅器412には、補正回路6により不要成分に相当するアナログ信号がフィードバック信号として帰還される。ここで、演算増幅器412の反転入力端子には電流電圧変換回路3からの入力信号が入力されているので、量子化器42には不要成分を入力信号から除去した信号が入力されることになる。したがって、AD変換部4の入力信号が不要成分の影響で入力許容範囲を超えることを回避でき、結果的に、AD変換部4の入力許容範囲を広げることができる。
【0044】
次に、補正用DA変換器62の構成について、図3を参照してより詳しく説明する。補正用DA変換器62は、複数の抵抗素子が直列に接続されて構成される抵抗アレイ621と、抵抗アレイ621の複数の接続点の中から積分器41に接続する接続点を選択するマルチプレクサ622と、マルチプレクサ622を制御する制御回路623とを有する。抵抗アレイ621には一定の直流電圧(内部電源電圧)Vccが印加されており、複数の抵抗素子が基準電圧Vccを分圧することにより、複数の接続点には接続点ごとに異なる電圧が生じる。制御回路623は、調整部61の出力するデジタル値に相当する大きさの電圧が演算増幅器412の非反転入力端子に出力されるように、調整部61の出力するデジタル値に応じて積分器41に接続する接続点を選択する。
【0045】
つまり、補正用DA変換器62は、直流電圧Vccを抵抗アレイ621にて分圧し、AD変換部4への入力信号に変動が生じていないときに所定の電圧Vrが積分器41に出力されるように、制御回路623にて積分器41に接続する接続点を選択する。一方、AD変換部4への入力信号に不要成分による高電位側への変動が生じた場合、この変動に応じて積分器41への出力電圧が電圧Vrよりも大きくなるように、補正用DA変換器62は、制御回路623にて積分器41に接続する接続点を選択する。この動作により、不要成分に相当するアナログ信号が演算増幅器412に帰還される。
【0046】
ここにおいて、抵抗アレイ621に直流電圧Vccを印加する電源部は、電流電圧変換回路3の演算増幅器31に基準電圧を与える基準電源部33(図1参照)の電源供給部と兼用される。言い換えれば、補正用DA変換器62の電源供給部は、演算増幅器31に与えられる基準電圧を発生する基準電源部33の電源供給部と共用される。つまり、抵抗アレイ621の複数の接続点のいずれかに演算増幅器31の非反転入力端子が接続されることにより、抵抗アレイ621で分圧された電圧が基準電圧として演算増幅器31に与えられる。
【0047】
この構成によれば、電流電圧変換部3の出力の動作点を決める基準電圧と、抵抗アレイ621に印加される直流電圧Vccとは、共通の電源供給部によって生じる。したがって、この電源供給部の出力にノイズ成分が生じた場合、このノイズ成分は、電流電圧変換回路3と補正用DA変換器62との両方の出力に影響することになり、積分器41において相殺される。その結果、基準電源部33の出力に生じたノイズ成分が量子化器42の入力に影響することを回避でき、AD変換部4の出力の信頼性が向上する。
【0048】
また、補正回路6は、所定周波数以下の不要成分をAD変換部4の出力から低減させるので、AD変換部4の入出力との関係ではハイパスフィルタとして作用する。ここで、補正回路6は、デジタルフィルタ5の一部を構成するハイパスフィルタのカットオフ周波数以下の低周波成分を、AD変換部4の出力から低減させるように調整部61のカットオフ周波数が調整されていてもよい。この場合、補正回路6によって構成されるハイパスフィルタは、デジタルフィルタ5の一部を構成するハイパスフィルタとしての機能を兼ねることとなるので、デジタルフィルタ5のフィルタの次数を少なくすることができる。たとえば、人体検知のために5次のフィルタが必要な場合、デジタルフィルタ5自体は4次のフィルタとすることができる。
【0049】
次に、赤外線検出装置1の動作について図4を参照して説明する。図4では、焦電素子2の周囲温度の変化に起因して、焦電素子2から電流電圧変換回路3への入力に所定周波数以下の揺らぎ成分(不要成分)が生じている場合を例として、量子化器42の入力を示す。
【0050】
まず、補正回路6が設けられていない場合について説明する。この場合、図4(a)に示すように、量子化器42の入力には検知対象成分(人体の動きにより焦電素子2が発生する成分)の他に、不要成分が含まれている。そのため、量子化器42の入力は不要成分によって大きく揺らぐこととなり、量子化器42の出力を飽和させないためにはAD変換部4の入力許容範囲R1は比較的広く設定されている必要がある。
【0051】
これに対して、本実施形態のように補正回路6が設けられている場合、図4(b)に示すように、量子化器42の入力においては補正回路6により検知対象成分以外の不要成分が大幅に低減される。そのため、量子化器42の入力が不要成分によって大きく揺らぐことはなく、AD変換部4の入力許容範囲R2が比較的狭く設定されていても、量子化器42の出力は飽和しにくい。
【0052】
以上説明した本実施形態の赤外線検出装置1によれば、補正回路6が、デジタルフィルタ5からAD変換部4に不要成分を帰還することによって、量子化器42の入力から所定周波数以下の低周波成分(不要成分)を低減させることができる。すなわち、上記構成の赤外線検出装置1では、たとえば周囲温度の変化などに起因して検知対象とは関係のない不要な低周波成分が焦電素子2から出力される出力電流に含まれていても、不要な低周波成分を不要成分として除去することができる。
【0053】
したがって、不要な低周波成分の影響でAD変換部4の入力信号が入力許容範囲を超えることを回避できる。そのため、AD変換部4の入力許容範囲R2を狭く、つまり量子化器42の入力のダイナミックレンジを比較的小さく設定することによって、焦電素子2の出力に基づく電圧信号のような微弱な入力信号を量子化器42で精度よく変換することが可能になる。もしくは、量子化器42の精度が同等であれば、補正回路6がない構成に比べて、赤外線検出装置1の回路規模を小さくして小型化を図ることができる。
【0054】
しかも、本実施形態の構成では、電流電圧変換回路3の入力端子に接続される入力抵抗は不要であるので、背景技術の欄で説明した赤外線検出装置のように、入力抵抗で発生するノイズ成分によって電流電圧変換回路3のSN比が低下することもない。要するに、上記構成の赤外線検出装置1によれば、電流電圧変換回路3のSN比を低下させることなく、不要な低周波成分の影響を抑制することができるという利点がある。
【0055】
また、本実施形態においては、補正回路6は、デジタルフィルタ5のローパスフィルタを構成しデシメーションフィルタとして機能する第1のフィルタ部51の出力から、不要成分を抽出してAD変換部4に帰還している。そのため、第1のフィルタ部51は補正回路6において不要成分を抽出するためのフィルタとして兼用されることとなり、部品の共用化により赤外線検出装置1の構成の簡略化を図ることができる。
【0056】
さらに、本実施形態では、電流電圧変換回路3の出力はAD変換部4の一部を構成する積分器41の演算増幅器412の反転入力端子に入力され、補正回路6の出力は演算増幅器412の非反転入力端子に帰還されている。したがって、補正回路6は、電流電圧変換回路3から積分器41に入力される信号とは分離した系で、不要成分の帰還をかけることができ、AD変換部4の精度が向上するという利点がある。
【0057】
特に、本実施形態ではアナログ値の積分を行う積分器41を有するAD変換部4として、ΔΣ方式のAD変換器が用いられているので、赤外線検出装置1の回路部分をIC(集積回路)化しながらも、比較的高精度のAD変換部4を実現することができる。また、補正回路6にて帰還された不要成分は、AD変換部4の積分器41によって量子化器42の入力から低減されるので、帰還された不要成分を低減するための構成をAD変換部4と別に設ける必要がない。
【0058】
ところで、補正回路6は、図5に示すように調整部61と補正用DA変換器62との間に、調整部61の出力をノイズシェーピングするノイズシェーパ63を有していてもよい。この構成では、補正DA変換器62は、ノイズシェーパ63にてノイズシェーピングされた不要成分に相当するデジタル値をアナログ値に変換して演算増幅器412に帰還することになる。
【0059】
なお、本実施形態では、AD変換部4としてΔΣ方式のAD変換器を例示したが、AD変換部4はΔΣ方式以外のAD変換器であってもよい。
【0060】
(実施形態2)
本実施形態の赤外線検出装置1は、図6に示すように補正回路6の出力が、AD変換部4の一部を構成する積分器41の演算増幅器412の反転入力端子に帰還されている点で実施形態1の赤外線検出装置1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、実施形態1と共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0061】
すなわち、本実施形態では、演算増幅器412の非反転入力端子には基準電圧を発生する基準電源部413が接続されており、補正回路6の出力は演算増幅器412の反転入力端子に接続されている。これにより、演算増幅器412の反転入力端子には、補正回路6の出力する信号が入力されることになる。なお、基準電源部413は電流電圧変換回路3の基準電源部33と兼用されていてもよい。
【0062】
以上説明した本実施形態の赤外線検出装置1によれば、補正回路6の出力はAD変換部4の初段に設けられている積分器41の入力端子に接続されていればよいので、補正回路6の出力を演算増幅器412の非反転入力端子に直接接続する必要がない。したがって、補正回路6を付加しながらも、IC(集積回路)化された汎用のAD変換器をAD変換部4として用いることができるという利点がある。
【0063】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0064】
1 赤外線検出装置
2 焦電素子
3 電流電圧変換回路
4 AD変換部
5 デジタルフィルタ
6 補正回路
31 (第2の)演算増幅器
33 基準電源部
41 積分器
42 量子化器
51 第1のフィルタ部
61 調整部
62 補正用DA変換器(DA変換部)
63 ノイズシェーパ
411 コンデンサ(容量素子)
412 (第1の)演算増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焦電素子と、前記焦電素子から出力される電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、前記電流電圧変換回路から出力されるアナログ値をデジタル値に変換しシリアル方式で出力するAD変換部と、前記AD変換部の出力のうち予め決められた周波数帯域の信号成分を通過させるデジタルフィルタと、前記AD変換部の出力から所定周波数以下の低周波成分を低減させるように、前記デジタルフィルタから前記AD変換部に前記低周波成分を帰還する補正回路とを備えることを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項2】
前記デジタルフィルタは、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを有しており、前記補正回路は、前記ローパスフィルタの出力から前記低周波成分を抽出して前記AD変換部に帰還することを特徴とする請求項1に記載の赤外線検出装置。
【請求項3】
前記デジタルフィルタは、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタを有しており、前記補正回路は、前記AD変換部の出力から前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数以下の前記低周波成分を低減させることにより、前記ハイパスフィルタの一部を兼ねることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の赤外線検出装置。
【請求項4】
前記AD変換部は、アナログ値の積分を行う積分器と、前記積分器の出力を量子化する量子化器とを有しており、前記積分器は、反転入力端子と出力端子との間に容量素子が接続された第1の演算増幅器を具備し、前記電流電圧変換回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に入力され、前記補正回路の出力は、前記第1の演算増幅器の非反転入力端子に帰還されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の赤外線検出装置。
【請求項5】
前記AD変換部はΔΣ方式であることを特徴とする請求項4に記載の赤外線検出装置。
【請求項6】
前記補正回路は、前記低周波成分を通過させる調整部と、前記調整部の出力をノイズシェーピングするノイズシェーパと、前記ノイズシェーパの出力をアナログ値に変換するDA変換部とを有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の赤外線検出装置。
【請求項7】
前記電流電圧変換回路は、反転入力端子に前記焦電素子が接続され、当該反転入力端子と出力端子との間に帰還用の素子が接続された第2の演算増幅器を具備し、当該第2の演算増幅器の非反転入力端子には基準電圧が印加され、前記補正回路は、前記低周波成分に相当するデジタル値をアナログ値に変換するDA変換部を有し、前記DA変換部の電源供給部は、前記基準電圧を発生する基準電源部の電源供給部と共用されていることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の赤外線検出装置。
【請求項8】
前記AD変換部は、アナログ値の積分を行う積分器と、前記積分器の出力を量子化する量子化器とを有しており、前記積分器は、出力端子と反転入力端子との間に容量素子が接続された第1の演算増幅器を具備し、当該第1の演算増幅器の非反転入力端子には基準電圧が印加され、前記電流電圧変換回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に入力され、前記補正回路の出力は、前記第1の演算増幅器の反転入力端子に帰還されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の赤外線検出装置。
【請求項9】
前記AD変換部はΔΣ方式であることを特徴とする請求項8に記載の赤外線検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−225763(P2012−225763A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93447(P2011−93447)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】