説明

赤外線遮蔽材料微粒子分散液、赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター

【課題】赤外線遮蔽特性が経時的に低下し難い赤外線遮蔽材料微粒子分散液とこの分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材等を提供する。
【解決手段】赤外線遮蔽材料微粒子分散液は、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子と、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)が溶媒中に含まれることを特徴とする。また、赤外線遮蔽膜は、紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂等から選択される媒体が添加された上記赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成しかつこの塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を溶媒中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散液に係り、特に、赤外線遮蔽材料微粒子の微細化に伴う赤外線遮蔽特性が経時的に低下し難い赤外線遮蔽材料微粒子分散液の改良と、この分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線遮蔽体の需要が急増しており、赤外線遮蔽体に関する特許が多く提案されている。機能的観点からは、例えば、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら近赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的としたもの、プラズマディスプレイパネル(以下PDPと記す場合がある)から前方に放射される近赤外線が、コードレスフォンや家電機器のリモコンに誤動作を引き起こしたり、伝送系光通信に悪影響を及ぼしたりすることを防止することを目的としたもの等がある。
【0003】
また、遮光部材の観点からは、例えば、窓材等に使用される遮光部材として、可視光領域から近赤外線領域に吸収特性があるカーボンブラック、チタンブラック等の無機顔料、可視光領域のみに強い吸収特性のあるアニリンブラック等の有機顔料等黒色系顔料を含有する遮光フィルムや、アルミ等の金属を蒸着したハーフミラータイプの遮光部材が提案されている。
【0004】
特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、当該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ、上記第2層の透明誘電体膜の屈折率を第1層および第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な赤外線遮断性能が要求される部位に好適に使用できる赤外線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、当該第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、当該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた赤外線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0007】
また、特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウムまたはカリウム等の添加元素を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)および二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法またはスプレー法でガラスシートに被覆しかつ250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0008】
特許文献5には、タングステン酸を加水分解して得られた酸化タングステン(タングステン酸化物)を用い、当該酸化タングステンに、ポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が酸化タングステンに吸収されて励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価タングステンの出現量が著しく増加して着色反応が速くなり、これに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時に近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が提案されている。
【0009】
また、特許文献6には、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、または加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物から成る粉末を得ること、当該酸化タングステン微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させることができること等が提案されている。
【0010】
また、特許文献7には、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩を原料とし、その混合水溶液の乾固物を約300〜700℃の加熱温度で加熱し、この加熱中に不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)が添加された水素ガスを供給することにより、MWO(M;アルカリ、アルカリ土類、希土類等の金属元素、0<x<1)で表される種々のタングステンブロンズを作製する方法が提案されている。また、同様の操作を支持体上で行わせ、種々のタングステンブロンズ被覆複合体を製造する方法が提案され、燃料電池等の電極触媒材料として用いることが提案されている。
【0011】
更に、特許文献8には、赤外線遮蔽材料微粒子が樹脂やガラス等の媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、赤外線遮蔽材料微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子で構成され、かつ、当該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体、およびこの赤外線遮蔽材料微粒子分散体の光学特性や導電性、製造方法等について開示されている。
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】国際公開WO2005/37932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、これ等赤外線遮蔽体において、特許文献8に開示された一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を用いた赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、可視光透過率を高く保ったまま赤外線の透過率を低くできるという優れた機能を発揮することから、窓ガラスやプラズマディスプレイパネルに用いることが検討されている。
【0013】
そして、これ等用途においては、赤外線遮蔽特性と高い透明性(低いヘイズ値)が要求されているため、ヘイズ値を低下させることを目的として上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子の粒子径を更に微細化する試みがなされている。
【0014】
しかし、微細化されたタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が溶媒中に分散された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、および、この分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜(赤外線遮蔽材料微粒子分散体)や赤外線遮蔽光学部材においては、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子の微細化に伴い赤外線遮蔽特性が経時的に低下してしまう問題が存在した。
【0015】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、赤外線遮蔽材料微粒子の微細化に伴う赤外線遮蔽特性が経時的に低下し難い赤外線遮蔽材料微粒子分散液と、この分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意研究を行った結果、上記分散液に、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)を添加することで、赤外線遮蔽特性が経時的に低下し難い赤外線遮蔽材料微粒子分散液が得られることを見出し、かつ、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いることにより赤外線遮蔽特性が経時的に低下し難い赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターが得られることを見出した。
【0017】
すなわち、請求項1に係る発明は、
赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子と、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)が溶媒中に含まれることを特徴とする。
【0018】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記金属塩が、カルボン酸塩、カルボニル錯塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩の内から選択される1種類以上の金属塩により構成されることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記金属塩の含有量が、上記赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下であることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴し、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項1〜6のいずれかに記載の発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、
金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下していることを特徴とする。
【0019】
次に、請求項8に係る発明は、
赤外線遮蔽膜において、
紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択される1種類以上の媒体が添加された請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
赤外線遮蔽膜において、
粘着剤が添加された請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項8または9に記載の発明に係る赤外線遮蔽膜において、
金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下していることを特徴とする。
【0020】
また、請求項11に係る発明は、
赤外線遮蔽光学部材において、
基材と、この基材表面に形成された請求項8〜10のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とし、
請求項12に係る発明は、
プラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターにおいて、
請求項11の赤外線遮蔽光学部材が組み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液によれば、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子に加えて、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)が溶媒中に含まれているため、この金属塩の作用により、赤外線遮蔽材料微粒子分散液における赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減させることが可能となる。
【0022】
従って、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材の赤外線遮蔽特性も従来にない経時安定性を有するため、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子と、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)が溶媒中に含まれることを特徴としている。
【0025】
1.タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmを有する太陽光線等の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような材料の粉末を、光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本明細書において、「透明性」とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0026】
そして、WO中には有効な自由電子が存在しないため、WOは近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線遮蔽材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ3酸化タングステンや、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加した所謂タングステンブロンズは、導電性材料で自由電子を持つ材料であることが知られており、これ等材料の単結晶等の分析により赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。そして、タングステンと酸素との化合物における組成範囲の特定部分において、赤外線遮蔽材料として特に有効な範囲があり、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子が見出され、当該タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子を樹脂やガラス等の媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体等が得られている(特許文献8参照)。
【0027】
まず、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液において、溶媒中に含まれる赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される。
【0028】
そして、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、更に、当該赤外線遮蔽材料微粒子をWyOzと記載したとき2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が2.2以上であれば、赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することができると共に、材料としての化学的安定性を得ることができるため有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が2.999以下であれば、必要とされる量の自由電子が生成され、効率のよい赤外線遮蔽材料となる。
【0029】
また、WyOzへ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素)を添加することで、z/y=3.0の場合も含めて当該WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるため好ましい。ここで、WyOzに対し、上述した酸素量の制御と自由電子を生成する元素の添加とを併用することでより効率の良い赤外線遮蔽材料を得ることができる。酸素量の制御と自由電子を生成する元素の添加とを併用した赤外線遮蔽材料の一般式をMxWyOz(但し、Mは、上記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と表記したとき、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす赤外線遮蔽材料が望ましい。
【0030】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0031】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上であることが好ましい。
【0032】
ここで、元素Mが添加された当該MxWyOzにおける安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの内から選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、上記元素Mにおいて、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが更に好ましい。
【0033】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、MxWyOzで表記される赤外線遮蔽材料においても、上述したWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、更に好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0034】
更に、複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造を模式的に示す図1の平面図を参照しながら説明する。図1において、符号10で示すWO単位にて形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に符号20で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0035】
本発明において可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図1で説明した単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mが配置した構造)が含まれていればよく、当該複合タングステン酸化物微粒子が結晶質であっても非晶質であっても構わない。この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これ等以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよく、上記元素に限定される訳ではない。
【0036】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0037】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽材料として有効である。そして、これ等の結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。但し、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0038】
本発明に係るタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するためその透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0039】
また、上記赤外線遮蔽材料微粒子の粒子径は、その使用目的によって各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に、可視光領域の透明性を重視する場合は、更に粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下がよい。この理由は、粒子の粒子径が小さければ、幾何学散乱若しくはミー散乱に起因する波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。すなわち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱若しくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。更に、粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい、粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0040】
上記粒子径を800nm以下と選択することにより、赤外線遮蔽材料微粒子を樹脂等の媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体(赤外線遮蔽膜)のヘイズ値は、可視光透過率85%以下においてヘイズ30%以下とすることができる。ここで、ヘイズが30%よりも大きい値であると曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0041】
また、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該赤外線遮蔽材料の耐候性向上の観点から好ましい。
【0042】
また、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzと表記したとき、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので赤外線遮蔽材料として好ましい。
【0043】
2.タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子、および、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0044】
そして、上記タングステン化合物出発原料として、3酸化タングステン粉末、酸化タングステンの水和物粉末、6塩化タングステン粉末、タングステン酸アンモニウム粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0045】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合、製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、若しくは、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末を用いることが更に好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や6塩化タングステン溶液を用いることが更に好ましい。これ等原料を用い、これ等を不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0046】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、更に元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これ等に限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0047】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し赤外線遮蔽材料微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、更に好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0048】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で赤外線遮蔽材料微粒子として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、更に安定な赤外線遮蔽材料微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、赤外線遮蔽材料微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0049】
上述したように、得られた赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0050】
3.金属塩
上記赤外線遮蔽材料微粒子分散液に含まれる金属塩が赤外線遮蔽材料微粒子分散液に作用してその赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減させる理由として、本発明者等は、以下のように推察している。すなわち、赤外線遮蔽材料微粒子分散液中において金属塩は赤外線遮蔽材料微粒子の近傍または/および表面に存在し、この金属塩の作用により、空気中等から浸入してきた水分を十分に捕捉し、また、紫外線等によって発生したラジカルも十分に捕捉して、有害ラジカルが連鎖的に発生するのを抑制する結果、上記赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減させていると推察している。但し、金属塩の作用については未解明な点も多く、上記以外の作用が働いている可能性もあるため、上記作用に限定されるわけではない。
【0051】
そして、本発明に適用される金属塩としては、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される金属と、無機酸若しくは有機酸から成る塩(但し、硫酸塩を除く)で構成され、これ等1種または2種以上を用いることが好ましい。尚、上記金属以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属、Sc、Y、V、Al、Pb、Biとの塩についても、若干その効果は落ちるが、赤外線遮蔽材料微粒子分散液の赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減でき有効である。また、これ等以外の金属塩は効果がないため不適である。
【0052】
また、本発明に適用される金属塩は、上記金属の塩であって、カルボン酸塩、カルボニル錯塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩の内から選択されることが好ましい。
【0053】
そして、上記カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、オクチル酸、ナフテン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、アミノ酸等が挙げられる。また、上記カルボニル錯塩を構成するβ-ジケトンとしては、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、2-テノイルトリフルオロアセトン等が例示される。
【0054】
また、赤外線遮蔽材料微粒子分散液における上記金属塩の含有量は、一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0055】
上記含有量が0.01重量部未満であると、空気中等から浸入してきた水分を十分に捕捉することが困難で、また、紫外線等によって発生したラジカルも十分に捕捉することが難しくなり、有害ラジカルが連鎖的に発生するのを抑制できなくなって赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減させる効果が不十分になる場合がある。他方、上記含有量が20重量部を越えると、赤外線遮蔽材料微粒子分散液およびこの分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜や赤外線遮蔽光学部材中における赤外線遮蔽材料微粒子の分散性が悪くなり、ヘイズを悪化させてしまう場合がある。
【0056】
従って、赤外線遮蔽材料微粒子分散液における上記金属塩の含有量は、上記タングステン酸化物微粒子または/および上記複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0057】
4.溶媒
次に、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液で適用される溶媒は、特に限定されることなく公知の有機溶剤を使用することができる。具体的には、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、3−メチル−メトキシ−プロピオネート(MMP)等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、フォルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。中でも極性の低い有機溶剤が好ましく、特にMIBK、MEK等のケトン類や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、PGMEA、PE−AC等のグリコールエーテルアセテート類等、疎水性の高いものがより好ましい。これ等溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
5.赤外線遮蔽膜と赤外線遮蔽光学部材およびその製造方法
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液の好ましい使用方法としては、この分散液に、紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択された1種類以上の媒体を添加して塗布液を構成し、かつ、この塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜から溶媒を蒸発させて赤外線遮蔽膜を得る方法がある。
【0059】
そして、この使用方法では、予め高温で焼成した赤外線遮蔽材料微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて、上記赤外線遮蔽材料微粒子が含まれる赤外線遮蔽膜を基材表面に結着させることができる。このため、耐熱温度の低い基材への適用が可能となり、赤外線遮蔽膜形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0060】
また、赤外線遮蔽材料微粒子が含まれる赤外線遮蔽材料微粒子分散液中に金属塩を必要量添加して塗布膜を形成するだけで、赤外線遮蔽材料微粒子と金属塩を含有する赤外線遮蔽膜を得ることができ、赤外線遮蔽特性の経時的低下が抑制された赤外線遮蔽光学部材を簡便に製造することが可能である。そして、この赤外線遮蔽光学部材を用いることにより太陽光を受ける屋外用途等への用途の拡大が図れ、極めて有用である。
【0061】
赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加される上記媒体としては、上述したように紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂等が目的に応じて選定可能である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、上記媒体として、上述したように金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物を利用することも可能であり、上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。
【0062】
また、上記赤外線遮蔽材料微粒子分散液に粘着剤を添加して塗布液を構成し、この塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られる赤外線遮蔽膜も有用である。そして、粘着剤の主要材料としては、エストラマーや合成樹脂等の高分子物質が挙げられ、被接着材料や接着後の部材の使用条件等によって適宜選定される。例えば、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル・アクリル樹脂、酢酸ビニル・塩化ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂、エチレン・アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、天然ゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。
【0063】
また、上述した塗布液(赤外線遮蔽材料微粒子分散液)が塗布される基材としては所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材の材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ふっ素樹脂等が各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0064】
次に、上記紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択された1種類以上の媒体を赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加した塗布液、あるいは、上記粘着剤を赤外線遮蔽材料微粒子分散液に添加した塗布液の塗布方法としては、基材表面に塗布膜を均一に形成できればよく、特に限定されないが、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が例示される。
【0065】
6.赤外線遮蔽材料微粒子分散液と赤外線遮蔽膜の拡散透過プロファイル測定
本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液において上記赤外線遮蔽材料微粒子に対する金属塩の配合割合は、上述したように一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して、金属塩が0.01重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0066】
ところで、赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜中における金属塩の含有量が適正範囲にあるか否かを判定する方法として、以下に述べる拡散透過プロファイルの測定原理により求められる赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜における波長毎の拡散透過率に基づく方法が挙げられる。すなわち、金属塩の含有量が適正範囲にあるか否かの判定基準として、金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜における拡散透過プロファイルの低下レベルにより判定することができる。より詳細に説明すると、金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜中において、上記金属塩は赤外線遮蔽材料微粒子の近傍または/および表面に存在し、この金属塩の存在により赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜の屈折率が変化するため、金属塩が添加されない赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜と比較して拡散透過プロファイルが相対的に低下するものと推測される。そして、拡散透過プロファイルの低下レベルから、赤外線遮蔽材料微粒子の近傍または/および表面での金属塩の存在状態が予測され、例えば、金属塩が添加されない赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜と比較し、波長360nm〜500nm領域の拡散透過プロファイルにおける極大値の低下率が2%より大きければ十分な量の金属塩が当該赤外線遮蔽材料微粒子の近傍または/および表面に存在していると考えられる。この結果、十分な量の金属塩の作用により空気中等から浸入してきた水分を十分に捕捉でき、また、紫外線等によって発生したラジカルも十分に捕捉できることが推測されるため、赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜中における金属塩の含有量が適正範囲にあると推定される。尚、上記極大値の低下率が22%以下であれば、赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜中における赤外線遮蔽材料微粒子の分散性が良好なため、金属塩添加に伴うヘイズの悪化を回避することができる。
【0067】
そして、上記赤外線遮蔽材料微粒子分散液においては、金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下している要件を具備する場合、また、上記赤外線遮蔽膜においては、金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下している要件を具備する場合には、赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜中における金属塩の含有量が適正範囲にあると判定することができる。
【0068】
次に、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜における拡散透過プロファイルの測定原理を図2および図3を用いて説明する。
【0069】
まず、上記拡散透過プロファイルを測定する測定装置は、図2および図3に示すように球状本体内面が拡散反射性を有しかつ測定試料(金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2が取り付けられる第一開口部(図示せず)、標準反射板5またはライトトラップ部品6が取り付けられる第二開口部(図示せず)、受光器3が取り付けられる第三開口部(図示せず)を球状本体外面に有する積分球4と、上記第一開口部を介し球状空間内に入射される直線光を出射する光源1と、上記受光器3に取り付けられかつ受光された反射光または散乱光を分光する分光器(図示せず)と、上記分光器3に接続されかつ分光された反射光または散乱光の分光データを保存するデータ保存手段(図示せず)と、保存された上記ブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データから拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を得る演算手段(図示せず)を具備している。
【0070】
ここで、球状本体外面に第一、第二および第三開口部(図示せず)を有する積分球4は、球状本体内面に硫酸バリウム若しくはスペクトラロン(SPECTRALON:登録商標)等が塗布されて拡散反射性を有するもので、標準反射板5への入射角は、標準側、対照側とも10°であればよい。また、上記受光器3としては、例えば、光電子倍増管(紫外・可視域)、冷却硫化鉛(近赤外域)を使用したものを用いることができる。また、受光器3に取り付けられる分光器(図示せず)については、紫外・可視域の波長測定範囲、測光正確さ(±0.002Abs)が必要である。
【0071】
次に、球状空間内に入射される直線光を出射する光源1としては、例えば、紫外域は重水素ランプ、可視・近赤外域は50Wハロゲンランプが適用される。
【0072】
また、標準反射板5には、例えば材質がスペクトラロン(SPECTRALON:登録商標)の白板を用いることができ、上記ライトトラップ部品6には、入射された直線光を反射させずにトラップする機能が必要で、例えば、入射された直線光をほぼ完全に吸収するダークボックスが用いられる。
【0073】
そして、上記拡散透過プロファイルの測定装置を用いて、測定試料である赤外線遮蔽材料微粒子分散液あるいは赤外線遮蔽膜の拡散透過プロファイルの極大値を評価するには、ブランク透過光強度測定工程と、拡散透過光強度測定工程と、拡散透過率演算工程との各工程を要する。
【0074】
まず、上記ブランク透過光強度測定工程においては、図2に示すように積分球4の第二開口部に標準反射板5を取り付け、第一開口部に測定試料(金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)を取り付けない状態で外部光源1からの直線光を第一開口部を介し球状空間内に入射させると共に、標準反射板5で反射された反射光を受光器3で受光し、かつ、受光器3に取り付けられた分光器(図示せず)により分光して上記反射光の分光データを得る。
【0075】
次に、上記拡散透過光強度測定工程においては、図3に示すように積分球4の第二開口部にライトトラップ部品6を取り付け、第一開口部に測定試料(金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2を取り付けた状態で外部光源1からの直線光を測定試料2と第一開口部を介し球状空間内に入射させると共に、ライトトラップ部品6でトラップされた光以外の散乱光を上記受光器3で受光し、かつ、受光器3に取り付けられた分光器(図示せず)により分光して散乱光の分光データを得る。
【0076】
上記拡散透過率演算工程において、データ保存手段(図示せず)により保存されたブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データに基づき、演算手段(図示せず)により拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を求めると共に、得られた波長毎の拡散透過率から、測定試料である金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材の拡散透過プロファイルにおける波長360nm〜500nm領域の極大値を求めることができる。
【0077】
そして、上述した方法と同様にして、金属塩が添加されない赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた金属塩が添加されない赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材の上記拡散透過プロファイルにおける波長360nm〜500nm領域の極大値を求め、金属塩が添加された赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた金属塩が添加された赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材における極大値の低下率が2%から22%低下している場合、赤外線遮蔽材料微粒子分散液中あるいは赤外線遮蔽膜(赤外線遮蔽膜を有する赤外線遮蔽光学部材)中における金属塩の含有量が適正範囲にあると判定することができる。
【0078】
尚、拡散透過プロファイルを測定する上記測定装置においては、上記光源1と測定試料(金属塩が添加され若しくは添加されない赤外線遮蔽材料微粒子分散液、この赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られた赤外線遮蔽膜若しくは赤外線遮蔽光学部材)2との間に光線調整用の光学系を設けてもよい。そして、この光学系では、例えば複数枚のレンズを組み合わせて平行光を調整し、絞りにより光量の調整を行う。場合によっては、フィルターによって特定波長のカットを行ってもよい。
【0079】
6.本発明に係る赤外線遮蔽光学部材が組み込まれたプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター
近年、ディスプレイの大型化、薄型化に伴い、PDPが注目を集めている。PDPの発光原理は、放電空間において、電圧を印加することにより放電させ、放電空間に導入していたキセノンとネオンの混合ガスを励起して真空紫外線を放射させ、これが、赤、緑、青のそれぞれの蛍光体を発光させてカラー表示を可能にさせている。
【0080】
このとき、キセノンガスから真空紫外線以外に近赤外線が発生し、PDP前方に一部が放射される。特に800nm〜1100nmの波長域は、コードレスフォンや家電機器のリモコンの誤動作を引き起こしたり、伝送系光通信に悪影響を及ぼす等の問題が生じている。このため、PDPの前面には、上記誤動作等を防止する目的で、近赤外線の遮蔽加工が施されている。
【0081】
これ等近赤外線の遮蔽加工に用いられる近赤外線吸収剤には、ディスプレイの輝度に悪影響を及ぼさないよう可視光線領域(約380nm〜780nm)の光は十分透過し、800nm〜1100nmの近赤外線を遮蔽するような特性が要求される。
【0082】
そして、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散液は優れた赤外線遮蔽特性を有すると共に、分散液に添加された金属塩の作用により赤外線遮蔽材料微粒子分散液における赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減することができる。従って、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜、および、基板と赤外線遮蔽膜とで構成される赤外線遮蔽光学部材の赤外線遮蔽特性も従来にない経時安定性を有しており、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用できる効果を有する。
【実施例】
【0083】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれ等実施例に当然のことながら限定されるわけではない。
【0084】
また、実施例中の可視光透過率とは、試料に垂直入射する昼光の光束について透過光束の入射光束に対する比である。ここで、上記昼光とは、国際照明委員会が定めたCIE昼光を意味する。このCIE昼光では、観測データに基づき黒体放射の色温度と同じ色温度の昼光の分光照度分布を波長560nmの値に対する相対値で示している。また、上記光束とは、放射の波長ごとの放射束と視感度(人の目の光に対する感度)の値の積の数値を波長について積分したものである。つまり、可視光透過率とは、波長380nm〜780nmの領域の光透過量を人の目の視感度で規格化した透過光量の積算値で人の目の感じる明るさを意味する値である。
【0085】
透過率測定は、分光光度計(日立製作所製U−4000)を使用して、波長300nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定している。
【0086】
拡散透過率測定は、分光光度計(日立製作所製U−4000)を使用し、上述した方法により波長300nm〜800nmの範囲で1nmの間隔で測定している。
【0087】
膜のヘイズ値は、JIS K 7105に基づき測定を行なった。
【0088】
また、平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置(大塚電子株式会社製ELS−800)により測定した平均値とした。
[実施例1]
Cs0.33WO粉末を100重量部、メチルイソブチルケトン320重量部、分散剤80重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子径50nmの分散液(A液)とした。
【0089】
このA液500重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)250重量部、オクチル酸ニッケル0.005重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散液(塗布液)を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用い塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を70℃で60秒乾燥して溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0090】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.9%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。
【0091】
この赤外線遮蔽膜を65℃の温水に7日間浸漬し、同様に透過プロファイルを測定したところ、820nmにおける透過率は9.9%であった。65℃の温水浸漬による820nmの透過率の上昇量(ΔT)は3.0%と小さいことが分かった。
[実施例2]
オクチル酸ニッケルの添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製した。
【0092】
得られた赤外線遮蔽膜について、実施例1と同様の評価を行った。まず、可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.5%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例3]
オクチル酸ニッケルの添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0093】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.5%と実施例2より更に小さいことが分かった。
[実施例4]
オクチル酸ニッケルの添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0094】
可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.7%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.7%と実施例2より更に小さいことが分かった。
[実施例5]
オクチル酸ニッケルの添加量を30重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0095】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。しかし、ヘイズは1.4%であり、透明性の若干の悪化が確認された。また、波長820nmにおける透過率Tは7.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.5%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例6]
金属塩を酢酸ニッケルに換えて添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽材料微粒子分散液を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0096】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は実施例1と同様に3.0%と小さいことが分かった。
[実施例7]
金属塩を酢酸ニッケルに換えて添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0097】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.2%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.8%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例8]
金属塩を酢酸ニッケルに換えて添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0098】
可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.8%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.6%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例9]
金属塩を過塩素酸ニッケルに換えて添加量を0.1重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0099】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.4%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.5%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例10]
金属塩をオクチル酸亜鉛に換えて添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0100】
可視光透過率は69%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.8%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例11]
金属塩をオクチル酸亜鉛に換えて添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0101】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.5%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例12]
金属塩をオクチル酸亜鉛に換えて添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0102】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.2%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.7%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例13]
金属塩を酢酸亜鉛に換えて添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0103】
可視光透過率は64%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは5.9%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.5%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例14]
金属塩を酢酸亜鉛に換えて添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0104】
可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.8%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.0%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例15]
金属塩を酢酸亜鉛に換えて添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0105】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.8%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例16]
金属塩を過塩素酸亜鉛に換えて添加量を1重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0106】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.2%と実施例1より小さいことが分かった。
【0107】
【表1】

[実施例17]
金属塩をオクチル酸セシウムに換えて添加量を0.1重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0108】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.8%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例18]
金属塩をオクチル酸バリウムに換えて添加量を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0109】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.6%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.9%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例19]
金属塩をオクチル酸ジルコニウムに換えて添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0110】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.7%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例20]
金属塩をオクチル酸クロムに換えて添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0111】
可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.8%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は3.0%と実施例1と同様に小さいことが分かった。
[実施例21]
金属塩をオクチル酸マンガンに換えて添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0112】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.0%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例22]
金属塩をオクチル酸銅に換えて添加量を10重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0113】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は3.2%と小さいことが分かった。
[実施例23]
金属塩をオクチル酸インジウムに換えて添加量を15重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0114】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は1.4%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例24]
金属塩をオクチル酸スズに換えて添加量を0.05重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0115】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.9%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は3.1%と小さいことが分かった。
[実施例25]
実施例1と同様に平均分散粒子径50nmの分散液(A液)を調製した。このA液500重量部とアクリル樹脂系粘着剤(PSA)3000重量部、オクチル酸ニッケル0.01重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散液とした。
【0116】
この赤外線遮蔽材料微粒子分散液(塗布液)を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用い塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を80℃で120秒乾燥して溶剤を蒸発させた後、一週間25℃でエージングし、更に、厚さ3mmのガラス基板上に貼り付けて赤外線遮蔽膜を得た。
【0117】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.6%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。
【0118】
この赤外線遮蔽膜を80℃、95RH%の恒温恒湿槽に7日間静置し、同様に透過プロファイルを測定したところ、820nmにおける透過率は8.5%であった。上記恒温恒湿槽静置による820nmの透過率の上昇量(ΔT)は1.9%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例26]
Cs0.33WO粉末をRb0.33WO粉末に換えると共に、オクチル酸ニッケルの添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0119】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は3.2%と小さいことが分かった。
[実施例27]
Cs0.33WO粉末をRb0.33WO粉末に換えると共に、オクチル酸ニッケルの添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0120】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.9%と実施例1より小さいことが分かった。
[実施例28]
Cs0.33WO粉末をRb0.33WO粉末に換えると共に、オクチル酸ニッケルの添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0121】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.5%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。そして、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は2.7%と実施例1より小さいことが分かった。
【0122】
【表2】

[実施例29]
可視光透過率を53%(40%から60%の範囲)とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、上述した拡散透過プロファイルの測定原理に従って波長360nm〜500nm領域における透過散乱プロファイルの極大値を測定したところ、図4のグラフ図に示すように3.7%であった。
【0123】
他方、可視光透過率を48%(40%から60%の範囲)かつ金属塩であるオクチル酸ニッケルを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして作製した以下に示す比較例7に係る赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における上記透過散乱プロファイルの極大値は、図4のグラフ図に示すように3.8%であった。
【0124】
従って、金属塩が添加された実施例29の赤外線遮蔽膜における上記透過散乱プロファイルの極大値の減少率は[(3.8−3.7)/3.8]×100=2.6%であり、実施例29の赤外線遮蔽膜中における金属塩(オクチル酸ニッケル)の含有量は適正範囲(2%から22%)にあることが確認される。
[実施例30]
可視光透過率を50%(40%から60%の範囲)とし、かつ、オクチル酸ニッケルの添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製した。
【0125】
そして、上述した拡散透過プロファイルの測定原理に従って波長360nm〜500nm領域における透過散乱プロファイルの極大値を測定したところ、図4のグラフ図に示すように3.4%であった。
【0126】
他方、可視光透過率を48%(40%から60%の範囲)かつ金属塩であるオクチル酸ニッケルを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして作製した比較例7に係る赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における上記透過散乱プロファイルの極大値は、図4のグラフ図に示すように3.8%であった。
【0127】
従って、金属塩が添加された実施例30の赤外線遮蔽膜における上記透過散乱プロファイルの極大値の減少率は[(3.8−3.4)/3.8]×100=10.5%であり、実施例30の赤外線遮蔽膜中における金属塩(オクチル酸ニッケル)の含有量も適正範囲(2%から22%)にあることが確認される。
[実施例31]
可視光透過率を52%(40%から60%の範囲)とし、かつ、オクチル酸ニッケルの添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製した。
【0128】
そして、上述した拡散透過プロファイルの測定原理に従って波長360nm〜500nm領域における透過散乱プロファイルの極大値を測定したところ、図4のグラフ図に示すように3.0%であった。
【0129】
従って、金属塩が添加された実施例30の赤外線遮蔽膜における上記透過散乱プロファイルの極大値の減少率は[(3.8−3.0)/3.8]×100=21.1%であり、実施例30の赤外線遮蔽膜中における金属塩(オクチル酸ニッケル)の含有量も適正範囲(2%から22%)にあることが確認される。
【0130】
【表3】

[比較例1]
オクチル酸ニッケルを添加しない以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0131】
可視光透過率は67%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.7%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。しかし、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は4.5%と大きいことが分かった。
[比較例2]
実施例1と同様に平均分散粒子径50nmの分散液(A液)を調製した。このA液500重量部とアクリル樹脂系粘着剤(PSA)3000重量部とを混合してオクチル酸ニッケル(金属塩)が添加されていない赤外線遮蔽材料微粒子分散液とした。
【0132】
この赤外線遮蔽材料微粒子分散液(塗布液)を、厚さ50μmのPETフィルム上にバーコーターを用い塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を80℃で120秒乾燥して溶剤を蒸発させた後、一週間25℃でエージングし、更に、厚さ3mmのガラス基板上に貼り付けて赤外線遮蔽膜を得た。
【0133】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.6%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。
【0134】
しかし、この赤外線遮蔽膜を80℃、95RH%の恒温恒湿槽に7日間静置した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は3.2%と大きいことが分かった。
[比較例3]
Cs0.33WO粉末をRb0.33WO粉末に換えると共に、オクチル酸ニッケルを添加しない以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0135】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.9%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。しかし、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は5.1%と大きいことが分かった。
[比較例4]
金属塩をオクチル酸カリウム(本発明に係る金属塩を構成する元素:Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Sn以外のカリウム塩)に換え、その添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0136】
可視光透過率は66%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.4%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。しかし、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は4.9%と大きいことが分かった。
[比較例5]
比較例4と同様に金属塩をオクチル酸カリウムに換え、その添加量を20重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0137】
可視光透過率は68%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは7.1%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。しかし、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は5.3%と大きいことが分かった。
[比較例6]
金属塩を硫酸ニッケル(本発明に係る金属塩を構成するカルボン酸塩、カルボニル錯塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩以外の硫酸塩)に換え、その添加量を0.01重量部とした以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、実施例1と同様の評価を行った。
【0138】
可視光透過率は65%で可視光領域の光を十分透過していることが分かった。更に、ヘイズは0.9%であり、透明性が極めて高いことも確認できた。また、波長820nmにおける透過率Tは6.0%であり、良好な近赤外線フィルターであることが確認された。しかし、65℃の温水に7日間浸漬した後の820nmにおける透過率の上昇量(ΔT)は10.5%と大きいことが分かった。
【0139】
【表4】

[比較例7]
可視光透過率を48%(40%から60%の範囲)かつ金属塩であるオクチル酸ニッケルを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして赤外線遮蔽膜を作製し、かつ、上述した拡散透過プロファイルの測定原理に従って波長360nm〜500nm領域における透過散乱プロファイルの極大値を測定したところ、図4のグラフ図に示すように3.8%であった。
【0140】
尚、比較例7は、実施例29、30、31に係る赤外線遮蔽膜中における金属塩(オクチル酸ニッケル)の含有量が適正範囲(透過散乱プロファイルの極大値の減少率が2%から22%)にあるか否かを確認するためになされている。
【0141】
[評 価]
(1)本発明に係る実施例1から実施例5ではオクチル酸ニッケル(金属塩)を添加しているため、金属塩が添加されていない比較例1と較べて温水浸漬による加速試験での近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが表1と表4の上昇量(ΔT)から確認される。すなわち、本発明による赤外線遮蔽膜(赤外線遮蔽光学部材)が従来にない赤外線遮蔽特性の経時安定性を有することが分かる。
【0142】
その中で、実施例1は、実施例2から5に較べると、オクチル酸ニッケル(金属塩)の添加量が0.005重量部と少ないため、表1の上昇量(ΔT)から確認されるように耐温水性改良効果が比較的小さくなっている。また、実施例5は実施例1から4に較べると、オクチル酸ニッケル(金属塩)の添加量が30重量部と多いいため、ヘイズが1.4%になってしまった。よって、金属塩の添加量を、赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下に設定することにより、耐温水性改良効果と良好なヘイズ値が得られるため好ましい。
(2)実施例6から実施例8は添加する金属塩を酢酸ニッケルとし、実施例10から実施例12は金属塩をオクチル酸亜鉛とし、実施例13から実施例15は金属塩を酢酸亜鉛にした実施例であり、表1の上昇量(ΔT)から確認されるように金属塩の添加量を、赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下に設定することにより、耐温水性改良効果と良好なヘイズ値が得られることが分かる。
(3)実施例1から実施例9は添加する金属塩の有機酸の種類を変更した実施例である。実施例1から実施例5ではオクチル酸ニッケル塩を、実施例6から実施例8では酢酸ニッケル塩を、実施例9では過塩素酸ニッケル塩を添加したものであり、表1の上昇量(ΔT)から近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが確認される。
【0143】
実施例10から実施例16も添加する金属塩の有機酸の種類を変更した実施例である。実施例10から実施例12ではオクチル酸亜鉛塩を、実施例13から実施例15では酢酸亜鉛塩を、実施例16では過塩素酸亜鉛塩を添加したものであり、表1の上昇量(ΔT)から近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが確認される。
(4)実施例1から実施例5、実施例10から実施例12、実施例17から実施例24は添加する金属塩の金属元素の種類を変更した実施例であり、表1と表2の上昇量(ΔT)から近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが確認される。
【0144】
また、実施例25は、他の実施例で適用された紫外線硬化型樹脂をアクリル樹脂系粘着剤(PSA)に変更した実施例である。そして、実施例25においてもオクチル酸ニッケル(金属塩)を添加しているため、オクチル酸ニッケル(金属塩)が添加されずかつ上記粘着剤が適用された比較例2と較べて、近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが確認される。つまり、紫外線硬化型樹脂のバインダーが粘着剤に変更されても耐温水性改良効果が得られることが分かる。
【0145】
ところで、実施例25において金属塩の添加量が、実施例2、実施例6、実施例10、実施例13、実施例20と同一の「0.01重量部」に設定されているにも拘らず、加速試験後における820nmの透過率上昇量(ΔT)が「1.9%」であり、実施例2(2.5%)、実施例6(3.0%)、実施例10(2.8%)、実施例13(2.5%)、実施例20(3.0%)より低くなっている。
【0146】
この理由は、他の実施例で適用された紫外線硬化型樹脂を実施例25ではアクリル樹脂系粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)に変更し、上記赤外線遮蔽膜がPETフィルムとガラス基板間に挟持された構造になっていることと、透過率上昇量を測定する「加速試験の条件」が紫外線硬化樹脂の場合の浸漬方式と異なり、80℃、95RH%の恒温恒湿槽に7日間静置する方法で行っているためと思われる。
【0147】
同様に、上記アクリル樹脂系粘着剤(PSA)が適用されかつ赤外線遮蔽膜がPETフィルムとガラス基板間に挟持された構造を有する比較例2においても、他の比較例と較べて加速試験後における820nmの透過率上昇量(ΔT)が「3.2%」と低い値になっている。
(5)実施例26、実施例27、実施例28は、赤外線遮蔽材料をRb0.33WOに変更した実施例である。そして、これ等実施例26−28においてもオクチル酸ニッケル(金属塩)を添加しているため、同様にRb0.33WO粉末が適用されかつ金属塩が添加されない比較例3と較べて近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されていることが確認される。
(6)比較例4と比較例5は金属塩の金属元素を「カリウム」に変更し、比較例6は金属塩の酸を「硫酸」に変更した比較例である。
【0148】
そして、金属塩がオクチル酸カリウムに変更された比較例4と5は温水浸漬による加速試験で近赤外線遮蔽特性の劣化が抑制されることは確認されなかった。
【0149】
また、金属塩が硫酸ニッケルに変更された比較例6は、温水浸漬による加速試験で近赤外線遮蔽特性の劣化の増加が確認された。
(7)実施例29、実施例30および実施例31は、比較例7との関係から赤外線遮蔽膜中における金属塩(オクチル酸ニッケル)の含有量が適正範囲にあるか否かを確認するためになされている。
【0150】
そして、金属塩を添加した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における透過散乱プロファイルの極大値の減少率が2%から22%の範囲に入る場合、赤外線遮蔽膜中における金属塩の含有量は適正であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0151】
金属塩が添加された本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液によれば、赤外線遮蔽特性の経時的な低下を低減させることが可能となる。従って、本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜および赤外線遮蔽光学部材の赤外線遮蔽特性も従来にない経時安定性を有するため、各種建築物や車両の窓材、PDP(プラズマディスプレイパネル)、窓材等に使用される遮光フィルム、遮光部材等に適用できる産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】本発明において適用される六方晶を有する複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造の模式図。
【図2】本発明に係る赤外線遮蔽膜等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
【図3】本発明に係る赤外線遮蔽膜等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
【図4】実施例29−31と比較例7に係る赤外線遮蔽膜の波長と拡散透過率との関係を示す拡散透過プロファイルのグラフ図。
【符号の説明】
【0153】
1 光源
2 測定試料
3 受光器
4 積分球
5 標準反射板
6 ライトトラップ部品
10 WO単位
20 元素M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子により構成される赤外線遮蔽材料微粒子と、Cs、Sr、Ba、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、In、Snの内から選択される1種類以上の元素から成る金属塩(但し、硫酸塩を除く)が溶媒中に含まれることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項2】
上記金属塩が、カルボン酸塩、カルボニル錯塩、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩の内から選択される1種類以上の金属塩により構成されることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項3】
上記金属塩の含有量が、上記赤外線遮蔽材料微粒子100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項4】
上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項5】
一般式MxWyOzで表記される上記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶若しくは立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項6】
上記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内の1種類以上を含み、かつ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項7】
金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽材料微粒子分散液の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液。
【請求項8】
紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、常温硬化樹脂、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解重合物から選択される1種類以上の媒体が添加された請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする赤外線遮蔽膜。
【請求項9】
粘着剤が添加された請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散液を基材表面に塗布して塗布膜を形成し、かつ、この塗布膜から溶媒を蒸発させて得られることを特徴とする赤外線遮蔽膜。
【請求項10】
金属塩を含有しかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値が、金属塩を含有せずかつ可視光透過率を40%から60%に設定した赤外線遮蔽膜の波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値と較べて2%から22%低下していることを特徴とする請求項8または9に記載の赤外線遮蔽膜。
【請求項11】
基材と、この基材表面に形成された請求項8〜10のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜とで構成されることを特徴とする赤外線遮蔽光学部材。
【請求項12】
請求項11の赤外線遮蔽光学部材が組み込まれていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−197146(P2009−197146A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40954(P2008−40954)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】