説明

赤色蛍光体及びその製造方法

【課題】青色光で励起して高い発光強度で赤色光を発する赤色蛍光体、及びその工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】一般式 M2TiO4(式中、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素を示す。)で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなる赤色蛍光体において、Si含有量を24000ppm以下とする。斯かる赤色蛍光体は、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を混合し、得られた混合物を焼成して焼成体を得た後、該焼成体をアニール処理する工程を含み、前記の各金属源として、それらに含まれるSiの量が、得られる赤色蛍光体のSi含有量が24000ppm以下となるような量の純度を有するものを用いることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸塩を母材とする赤色蛍光体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、青色ダイオードが実用化され、このダイオードを発光源とする白色発光ダイオードの研究は多くある。発光ダイオードは軽量で、水銀を使用せず、長寿命であるという利点を有する。
【0003】
例えば、Y3Al512:Ceを青色発光素子に塗布した白色発光ダイオードが知られている。しかし、この発光ダイオードは、厳密には白色ではなく、緑青色の混ざった白色になる。このため、Y3Al512:Ceと、青色光を吸収し赤色の蛍光を発する赤色蛍光体とを混ぜて、色調を調整することが提案されている。青色光を吸収し赤色の蛍光を発する赤色蛍光体に関する報告は、有機系材料に関しては多くあるが、無機系材料に関するものは少ない。
【0004】
一方、一般的な赤色蛍光体として、酸化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、硫化物蛍光体、窒化物蛍光体等の無機系材料が提案され、チタン酸塩を母材とする蛍光体も提案されている。例えば、下記特許文献1には、一般式;M2TiO4(Mはアルカリ土類金属元素を示す。)で表されるチタン酸塩に3価のEuを賦活して得られた赤色発光蛍光体が提案されている。また、下記特許文献2には、一般式MeIxMeIIyTi1-a4m:Mnz(式中、MeIは二価又は三価のカチオン、MeIIは一価のカチオン、Xは電荷を釣合わせるCl又はFであり、0≦x≦4、0≦y≦4、0≦m≦4、0≦a≦1、0<z≦0.5)で表される赤色蛍光体等が提案されている。
【0005】
これらの従来技術におけるチタン酸塩を母材とする蛍光体は、アルカリ土類金属源、チタン酸源及び賦活成分を乾式又は湿式で混合し、これら原料の均一混合物を得た後、焼成を行って得られるところ、得られる赤色発光体は、発光強度に問題があり、量子収率も低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−232948号公報
【特許文献2】特開2007−297643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、青色光で励起して高い発光強度で赤色光を発する赤色蛍光体、及びその工業的に有利な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような実情において、鋭意研究を重ねた結果、特定の一般式で示されるチタン酸塩を母材とし、Mnを賦活してなる赤色蛍光体において、不純物が発光強度に影響を与えることを知見した。さらなる研究の結果、本発明者らは、発光強度に大きな影響を与える不純物がSiであることを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、下記一般式(1)
2TiO4 (1)
(式中、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素を示す。)
で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなり、且つSi含有量が24000ppm以下であることを特徴とする赤色蛍光体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記赤色蛍光体を製造するための好適な方法であって、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を混合し、得られた混合物を焼成して焼成体を得た後、該焼成体をアニール処理する工程を含み、前記の各金属源として、それらに含まれるSiの量が、得られる赤色蛍光体のSi含有量が24000ppm以下となるような量の純度を有するものを用いることを特徴とする赤色蛍光体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤色光の発光強度が高い赤色蛍光体を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、該赤色蛍光体を工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1で得られた赤色蛍光体の蛍光スペクトル(励起波長460nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の赤色蛍光体は、基本的には青色光で励起して赤色光を発するものである。具体的には、少なくとも270〜550nm、好ましくは380〜490nmの励起光によって励起する。また、600〜750nm、好ましくは650〜700nmの領域に発光帯を有する(即ち赤色スペクトルを有する)。
【0014】
本発明の赤色蛍光体は、下記一般式(1)
2TiO4 (1)
(式中、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素を示す。)
で表されるチタン酸塩にMnを賦活したものである。一般式(1)中のMは、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素であり、これらの中でも、Mはマグネシウムが青色領域の波長の光により励起され、効率よく赤色に発光する点で好ましい。尚、Mが2種以上のアルカリ土類金属元素であるときは、一般式(1)はMIx1IIx2・・・MNxnTiO4となり、X1、X2、・・・XnはX1+X2+・・・+Xn=2を満たす正数である。
【0015】
チタン酸塩に賦活するMnは、2価〜4価の1種又は2種以上であり、特に4価のMnが赤色領域の発光の強度が高い点で好ましい。賦活するMnの含有量は、チタン酸塩に対してMn原子として0.01〜2.5モル%、特に0.25〜1.0モル%であると、発光効率が高く、発光強度に優れる点で好ましい。
【0016】
本発明の赤色蛍光体は、前記組成を有することに加えて、実質的にSiを含有しないこと、具体的にはSi含有量が24000ppm以下であることに特徴がある。Si含有量は15000ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。本発明の赤色蛍光体において、Siは発光強度を低下させる原因となるため、Si含有量は少ない程好ましい。Si含有量は、現在のところ20ppm程度まで低下させることが可能である。このレベルのSi含有量であれば、十分高い発光強度を示す。
【0017】
一般式(1)で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなる赤色蛍光体をはじめとして、赤色蛍光体として従来知られている無機系材料には、一般に、原料となる金属源等に由来して様々な不純物が含まれている。しかし、不純物が赤色蛍光体の性能に与える影響については、これまで報告はなかった。本発明者らは、特に一般式(1)で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなる赤色蛍光体の性能について、不純物に注目して検討したところ、不純物が発光強度に影響を与えることを知見した。さらに検討を進めると、不純物の中でもSiが、発光強度に大きな影響を与えることが分かった。従来知られている一般式(1)で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなる赤色蛍光体(例えば特許文献2に記載の方法で調製したもの)は、Siを25000ppm程度含んでいる。これを本発明で規定するように24000ppm以下とすると、発光強度に明らかな改善効果が認められる。
【0018】
本発明の赤色蛍光体中のSi含有量は、例えば、リガク社製の蛍光X線分析装置(ZSX100e)を用いて108〜110度の範囲内のKα線ピーク強度値にて分析して定量することができる。また、明確ではないが、本発明の赤色蛍光体において、SiはSi4+として、蛍光体結晶中に固溶している状態で存在していると考えられる。
【0019】
本発明の赤色蛍光体は粉体であり、その粒子形状は特に制限されない。粒子形状は、例えば、球状、多面体状、紡錘形状、針状のほか、不定形でもよい。励起光の吸収効率等の一層の向上の観点からは、球状が好ましい。
【0020】
本発明の赤色蛍光体は、平均粒径が1〜30μm、特に10〜25μmであることが好ましい。平均粒径が1μm未満であると、励起光が散乱しやすく、励起光の吸収効率が低下する傾向にある。平均粒径が30μm超であると、粒子表面積が小さくなり、やはり励起光の吸収が不十分となりやすい。尚、本発明でいう平均粒径はいずれも、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の平均粒径のことである。該平均粒径はメジアン径である。二次粒子の平均粒径(メジアン径)は、例えば、堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(型番LA920)で測定し、サンプルの屈折率を1.81、分散媒の屈折率1.33として体積基準で算出することができる。
【0021】
平均粒径は、例えば以下のようにして調節することができる。すなわち、後述の焼成工程で得られた焼成体に自動乳鉢またはボールミルなどによる粉砕処理を施し、場合によっては目的粒子径にあった目開きの篩を用いて分級を行うことで、所望の平均粒径をもつ粉体を得ることができる。
【0022】
本発明の赤色蛍光体は、BET比表面積が0.05〜1.0m2/g、特に0.1〜0.5m2/gであることが好ましい。BET比表面積が0.05m2/g未満であると、励起光の吸収が不十分となりやすい。BET比表面積が1.0m2/g超であると、表面積が大きいことに伴い平均粒径が小さいため、励起光が散乱し励起光の吸収が不十分となることがある。BET比表面積は、例えば島津製作所製のBET法モノソーブ比表面積測定装置(フローソーブII 2300)を用いて測定することができる。
【0023】
BET比表面積は、例えば以下のようにして調節することができる。すなわち、後述の焼成工程で得られた焼成体に自動乳鉢またはボールミルなどによる粉砕処理を施し、場合によっては目的粒子径にあった目開きの篩を用いて分級を行うことで、所望のBET比表面積をもつ粉体を得ることができる。
【0024】
次いで、本発明の赤色蛍光体の好ましい製造方法について説明する。
本発明の赤色蛍光体の製造方法は、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を混合し、得られた混合物を焼成して焼成体を得た後、該焼成体をアニール処理する工程を含む。即ち、本発明の赤色蛍光体の製造方法は、大別して(イ)混合工程、(ロ)焼成工程及び(ハ)アニール処理工程を含んでいる。
【0025】
(イ)の混合工程においては、アルカリ土類金属源、マンガン源、及びチタン源が均一に混合された均一混合物を調製する。
【0026】
第1の原料のアルカリ土類金属源としては、例えば、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩等を用いることができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも水酸化物が、焼成後に不純物が残留しない点及び原料同士の反応性が高い点で好ましい。アルカリ土類金属源は、水溶液等の溶液の状態ではなく、固体(粉体)の状態で使用される。アルカリ土類金属源としては、平均粒径が5μm以下、特に0.2〜2μmのものを使用すると、均一混合が容易に可能となる観点で好ましい。
【0027】
第2の原料のマンガン源としては、例えば、マンガンの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩等を用いることができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも炭酸マンガンが、焼成後に不純物が残留しない点及び母体組成に対して固溶しやすい点で好ましい。マンガン源も、固体(粉体)の状態で使用される。マンガン源として、平均粒径が10μm以下、特に1〜9μmのものを使用すると、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0028】
第3の原料のチタン源としては、例えば、チタンの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコキシド化合物等を用いることができる。これらの化合物は、1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも酸化チタン(TiO2)が、焼成後に不純物が残留しない点及び比較的容易に入手可能な点で好ましい。使用する酸化チタン(TiO2)は、硫酸法或いは塩素法で得られるものであってもよく、また、アナターゼ型或いはルチン型のものであっても特に制限なく用いることができる。また、チタン源も、固体(粉体)の状態で使用される。チタン源としては、平均粒径が5μm以下、特に0.2〜2μmのものを使用すると、均一混合が容易に可能になる観点で好ましい。
【0029】
本発明の赤色蛍光体は、前述したとおり、Siを実質的に含有しない、具体的にはSi含有量が24000ppm以下のものである。従って、混合工程においては、前記の各金属源として、それらに含まれるSiの量が、得られる赤色蛍光体のSi含有量が24000ppm以下となるような量の高純度を有するものを用いる。
【0030】
本発明者らは、主にSiの赤色蛍光体への混入は、原料のチタン源(例えば酸化チタン)に由来することを知見した。本発明においては、使用するチタン源として、Si含有量が9000ppm以下、特に6000ppm以下、とりわけ100ppm以下の高純度のものを使用することが好ましい。原料のチタン源としては、市販品を使用することができる。市販品の中でも、上記の高純度のチタン源を選択して使用することが好ましい。
【0031】
アルカリ土類金属源及びマンガン源についても、チタン源と同様にSi含有量が低い高純度のものを用いることが好ましい。もっとも、アルカリ土類金属源及びマンガン源のSi含有量は、一般にチタン源に比べて低いため、本発明において通常問題とならない。アルカリ土類金属源についてはSi含有量100ppm以下、マンガン源についてはSi含有量100ppm以下の純度のものをそれぞれ使用することが好ましい。アルカリ土類金属源及びマンガン源については、一般的な市販品であっても、これらのSi含有量を満たすことができる。
【0032】
アルカリ土類金属源及びチタン源の混合割合は、チタン源中のチタン原子(Ti)に対するアルカリ土類金属源中のアルカリ土類金属原子(M)のモル比(M/Ti)で1.6〜2.5、特に1.8〜2.2であると、単結晶粒子が得られ内部量子効率が最も優れる観点で好ましい。
【0033】
一方、マンガン源の混合割合は、得られるチタン酸塩に対してMn原子として0.01〜3モル%、特に0.1〜1.5モル%とすることが、励起光を良く吸収し光変
換効率も優れる観点から好ましい。
【0034】
最終的に得られる赤色蛍光体中のSi含有量は、使用する各金属源の具体的種類にも影響を受けるが、前述の好ましい純度の金属源及び好ましい混合割合を採用すれば、通常、赤色蛍光体のSi含有量を24000ppm以下とすることができる。
【0035】
第1〜第3の原料のアルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を混合する方法としては、湿式法及び乾式法のいずれも可能であるが、機械的手段により湿式法で行うことが、各原料が均一に混合された均一混合物を容易に得ることができる点で好ましい。特に粉砕と混合を同時に行える機器であるメディアミルによって湿式法で混合処理を行うことにより、均一混合物を一層容易に得ることができ、また、該均一混合物を用いて得られる赤色蛍光体は、特に発光強度が高い。
【0036】
メディアミルを用いた混合処理について、更に説明する。
メディアミルでの混合処理は、基本的にはスラリー調製工程と、得られたスラリーをメディアミルに導入し混合処理を行う混合工程からなる。
【0037】
スラリー調製工程においては、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を分散媒に分散させてスラリーとする。分散媒としては、水及び非水分散媒のいずれでも用いることができる。取り扱いが容易である等の観点から、分散媒として水を用いることが好ましい。
【0038】
スラリーの固形分濃度(アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源の合計濃度)は、5〜40重量%、特に10〜30重量%であることが処理スケールが小さく、操作性が容易である観点から好ましい。
【0039】
スラリーには、分散剤を加えてもよい。分散剤の添加により、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源が分散媒中に一層均一に分散するようになる。その結果、これら原料の均一混合物を一層容易に得ることができる。使用する分散剤は、分散媒の種類に応じて適切なものを選択すればよい。分散媒が水である場合には、分散剤として各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩等を用いることができる。スラリー中における分散剤の濃度は0.01〜10重量%、特に1〜5重量%とすることが、十分な分散効果の点で好ましい。
【0040】
尚、スラリーの調製に使用する分散媒及び分散剤についても、Si含有量が極力少ないものを使用することが好ましいが、通常、前記の分散媒及び分散剤を使用する限り、赤色蛍光体の発光強度に影響を与える量のSiが、それらに由来して赤色蛍光体に混入することはない。また、本発明の製造方法においては、スラリー調製に使用する各金属源、分散媒及び分散剤以外に、赤色蛍光体の発光強度に影響を与える程のSiが混入する要因はない。
【0041】
次いで、スラリー調製工程で得られたスラリーをメディアミルに導入し混合処理を行って、均一混合物を得る。メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等を用いることができる。特にビーズミルを用いることが好ましい。その場合、運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置のサイズや処理量、アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源の種類等に応じて適切に選択すればよい。
【0042】
湿式法による混合処理は、固形分の平均粒径(二次粒子の平均粒径)が0.05〜1μm、特に0.1〜0.5μmとなるまで行うことが、より均一な混合物を得る観点から好ましい。
【0043】
混合処理後は、スラリーから均一混合物をろ過して回収する。回収した均一混合物は、(ロ)の焼成工程に付す前に乾燥処理を行っておくことが好ましい。乾燥処理は、例えば80〜200℃にて1〜100時間行うことができる。
【0044】
次いで、(イ)の混合工程で得られた均一混合物を(ロ)の焼成工程に付して、焼成体を得る。焼成条件は、焼成温度が1150〜1600℃、特に1200〜1350℃であることが好ましい。焼成温度が1150℃未満では母体結晶が単相で得られにくく、また発光イオンが固溶し難くなり、一方、焼成温度が1600℃を越えると粒子同士の焼結が進みすぎることにより粉体を得ることが困難になる傾向がある。焼成時間は1時間以上、特に3〜20時間とすることが好ましい。焼成の雰囲気は特に制限されず、大気等の酸化性ガス雰囲気中及び不活性ガス雰囲気中の何れであってもよい。
【0045】
得られた焼成体は、必要に応じて所望の粒径まで解砕し、粉体の状態で次のアニール処理工程に付す。焼成は所望により何度行ってもよい。或いは、粉体の特性を均一にする目的で、一度焼成したものを解砕し、次いで再焼成を行ってもよい。また、アニール処理工程を行うのに先立って、必要により予め分級等を行って粒度特性を調整してもよい。
【0046】
次いで、(ロ)の焼成工程によって得られた焼成体を、(ハ)のアニール処理工程に付して、本発明の赤色蛍光体を得る。このアニール処理を行うことにより、顕著に発光強度を高めることができる。該アニール処理により、発光強度が高くなる理由については定かではないが、母体結晶の構造が立方晶から正方晶に変化することで発光イオンが吸収した光エネルギーを効率よく発光に変換されるようになるためと考えられる。
【0047】
アニール処理の条件は、処理温度が500〜800℃、特に570〜690℃であることが好ましい。この理由はアニール処理温度が500℃未満では、結晶変化が起こらなくなり、一方、アニール処理温度が800℃を越えると、再度立方晶に戻る傾向があるからである。アニール処理時間は1時間以上、特に3〜24時間とすることが好ましい。アニール処理の雰囲気は特に制限されず、酸素、大気等の酸化性雰囲気中及び不活性ガス雰囲気中の何れであってもよい。なお、必要により、アニール処理は何度でも行うことができる。
【0048】
アニール処理後の赤色蛍光体は、必要により所望の粒径まで解砕或いは分級等を行ってもよい。
【0049】
本発明の赤色蛍光体は、耐湿性を改善する目的で、更に粒子表面を金属酸化物で表面処理されているものであってもよい。
前記金属酸化物としては、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nb、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Th、Pa、U、Puから選ばれる1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物が用いられる。
赤色蛍光体の粒子表面をこれらの金属酸化物で被覆処理する方法としては、公知の方法を用いることができ、その一例を示せば、前記金属元素を含む金属アルコキシドを用いて、該赤色蛍光体を含有するスラリー又は懸濁液へ前記金属アルコキシドを添加し、該金属アルコキシドの加水分解反応を、必要により酸触媒又はアルカリ触媒の存在下に行い、赤色蛍光体の粒子表面を前記金属酸化物で均一に表面処理する方法等が挙げられる。
【0050】
このようにして得られた赤色蛍光体は、例えば、電解放射型ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミッセンス等のディスプレイデバイスの用途に使用できる。また、460nm前後に近い励起スペクトルを有することから青色LED励起用蛍光体の用途に適用できる。特にエレクトロルミネッセンスのディスプレイデバイスの用途に好適である。また、青色励起緑色蛍光体と併用する方法、青色LDE素子と、青色励起緑色蛍光体を併用して用いる方法、或いは青色LDE素子と、青色励起黄色発光蛍光体を併用して用いる方法等により、白色LEDに適用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の実施例及び比較例におけるSi含有量、平均粒径及びBET比表面積は、それぞれ下記のようにして測定した。
Si含有量:リガク社製の蛍光X線分析装置(ZSX100e)を用いて108〜110度の範囲内のKα線ピーク強度値にて分析して定量した。
平均粒径:堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(型番LA920)で測定し、サンプルの屈折率を1.81、分散媒の屈折率1.33として体積基準で算出した。
BET比表面積:島津製作所製のBET法モノソーブ比表面積測定装置(フローソーブII 2300)を用いて測定した。
【0053】
〔実施例1〕
水酸化マグネシウム(平均粒径0.57μm)、Si含有量が4676ppmである酸化チタン(平均粒径0.64μm)、及び炭酸マンガン(平均粒径5.2μm)を、マグネシウム:チタン:マンガンのモル比が2:0.996:0.004となるように秤量しタンクに仕込んだ。タンクに水と分散剤(花王(株)製、ポイズ2100)を加え、固形分濃度が15重量%のスラリーを調製した。分散剤の濃度は2.0重量%であった。
スラリーを攪拌しながら、直径2.0mmのジルコニアボールを用いてボールミリングを150分間行うことにより、湿式法による混合粉砕を行った。混合粉砕後のスラリー中の原料混合物の平均粒径を光散乱法により測定すると0.5μmであった。
【0054】
次いで、スラリーから混合物をろ過して回収し、120℃で10時間乾燥を行って乾燥粉体を得た。乾燥粉体の平均粒径は0.5μmで、安息角は45°であった。
【0055】
次いで、乾燥粉体を電気炉に仕込み、大気下、1250℃で5時間静置状態で焼成した。次いで、焼成した粉体を一旦室温(20℃)に戻した後、酸素雰囲気下、600℃で16時間、アニーリング処理した。
【0056】
アニーリング処理後の粉体について、X線回折測定による分析を行った。分析結果から、得られた粉体は、Mg2TiO4:0.4モル%Mn4+であることを確認した。
【0057】
〔比較例1〕
実施例1で用いた酸化チタンに代えて、Si含有量が9351ppmである酸化チタン(平均粒径0.64μm、BET比表面積6.7m2/g)を用いた以外は、実施例1と同様の操作及び条件により粉体を得た。得られた粉体について、実施例1と同様の分析を行った。分析結果は実施例1と同様であり、得られた粉体は、Mg2TiO4:0.4モル%Mn4+であることを確認した。
【0058】
<Si含有量、平均粒径及びBET比表面積の測定>
実施例1及び比較例1で得られた蛍光体試料について、Si含有量、平均粒径及びBET比表面積の測定を行なった。測定結果を表1に示す。
【0059】
<蛍光特性の評価>
実施例1及び比較例1で得られた蛍光体試料について、励起波長460nmでの発光スペクトルの極大波長、その極大波長での発光強度、及びCIE色度を測定した。測定結果を表1に示す。尚、極大波長での発光強度は、比較例1の蛍光体試料の発光強度を100としたときの相対強度値として表した。また、図1に実施例1で得られた蛍光体試料の蛍光スペクトルを示す。
発光スペクトル及びCIE色度の測定は以下のように行った。
発光スペクトル:蛍光分光光度計(日立ハイテク製)を用いて、励起光460nmとし、430から800nmの範囲を走査しスペクトルを得た。
CIE色度:励起波長460nmにおける蛍光スペクトル相対値からJIS Z 8701に従いxy表色色度座標を求めた。
【0060】
〔実施例2〕
実施例1で用いた酸化チタンに代えて、Si含有量が9.4ppmである酸化チタン(平均粒径0.64μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作及び条件により粉体を得た。得られた粉体について、実施例1と同様の分析を行った。分析結果は実施例1と同様であり、得られた粉体は、Mg2TiO4:0.4モル%Mn4+であることを確認した。
得られた粉体について、実施例1と同様にして、Si含有量、平均粒径及びBET比表面積の測定並びに蛍光特性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の記載から、Si含有量が赤色蛍光体の発光強度に影響を与えることが明らかである。Si含有量が24000ppm以下であると、発光強度に向上効果が認められ、15000ppm以下(実施例1)、特に100ppm以下(実施例2)であると、極めて高い向上効果が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
2TiO4 (1)
(式中、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属元素を示す。)
で表されるチタン酸塩にMnを賦活してなり、且つSi含有量が24000ppm以下であることを特徴とする赤色蛍光体。
【請求項2】
270〜550nmの励起光によって発光する請求項1記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
600〜750nmの領域に発光帯を有する請求項1又は2記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
前記一般式(1)中のMがMgである請求項1〜3のいずれかに記載の赤色蛍光体。
【請求項5】
平均粒径が1〜30μmである請求項1〜4のいずれかに記載の赤色蛍光体。
【請求項6】
請求項1記載の赤色蛍光体を製造する方法であって、
アルカリ土類金属源、マンガン源及びチタン源を混合し、得られた混合物を焼成して焼成体を得た後、該焼成体をアニール処理する工程を含み、
前記の各金属源として、それらに含まれるSiの量が、得られる赤色蛍光体のSi含有量が24000ppm以下となるような量の純度を有するものを用いることを特徴とする赤色蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記チタン源のSi含有量が9000ppm以下である請求項6記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ土類金属源、前記マンガン源及び前記チタン源の混合は、湿式法で行う請求項6又は7記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項9】
焼成温度が1150〜1600℃である請求項6〜8のいずれかに記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項10】
アニール処理の温度が500〜800℃である請求項6〜9のいずれかに記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記チタン源が二酸化チタンである請求項6〜10のいずれかに記載の赤色蛍光体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−265448(P2010−265448A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91236(P2010−91236)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】