説明

走査型プローブ装置

【課題】走査ステージあるいは探針の駆動ステージを交換するたびに操作者による校正の手間を要することなく、これらのステージに発生する慣性力を適正に相殺することができる走査型プローブ装置を提供する。
【解決手段】探針と、試料を保持する試料保持台505を移動させるための駆動素子500と、該試料保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部510、515とを備えた走査ステージと、
を有し、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置をつぎのように構成する。
すなわち、前記走査ステージが、該走査ステージを駆動する駆動回路5を備え、前記試料保持台を含む前記駆動素子と前記可動部が前記走査型プローブ装置本体1に対して着脱交換可能とした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常、走査型プローブ顕微鏡(SPM)と呼ばれる技術を応用した走査型プローブ装置に関する。
特に、探針と試料とを相対的に移動させながら、試料の情報を取得し、または情報記録を行い、または試料を加工する走査型プローブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートル以下の分解能で導電性物質表面を観察可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)が開発され、更に絶縁物質等の表面をSTMと同様の分解能で観察可能な原子間力顕微鏡(AFM)等が開発されてきた。
さらに別の発展形として、尖鋭なプローブ先端の微小開口からしみ出すエバネッセント光を利用して試料表面状態を調べる走査型近接場光顕微鏡(SNOM)等が開発されてきた。
また、これら以外にも走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型熱顕微鏡(SThM)、等が開発されている。
このように、現在では機械的探針(プローブ)を機械的に走査し、上記した試料表面の種々の物理量を高い分解能で測定できる走査型プローブ顕微鏡が開発されているが、これらの顕微鏡は走査型プローブ顕微鏡(SPM)と総称されている。
【0003】
ところで、走査型プローブ顕微鏡(SPM)においては、高精度な制御を達成するため、走査動作に伴う振動の発生を抑制することが求められる。
そのため、例えば特許文献1では、走査動作に伴う振動の発生を抑制し、これにより高精度な位置制御を高速で行える走査型プローブ顕微鏡用走査機構が提案されている。
この提案では、例えば図7に示すように、走査機構700は、駆動素子(アクチュエータ)の台座702と、この台座に設けられた駆動素子保持部材706、707を有している。
更に、走査機構700は、これらの保持部材に保持されたY方向に伸縮可能な駆動素子703と、駆動素子703の一端に固定されたX方向に伸縮可能な駆動素子704と、を有している。
加えて、走査機構700は、駆動素子704の一端に固定されたZ方向に伸縮可能な駆動素子705と、駆動素子705の一端に設けられた試料保持部材708とを有している。
駆動素子705はその中央付近が駆動素子704に接合されており、駆動素子704はその中央付近が駆動素子703に接合されており、駆動素子703はその中央付近が保持部材706、707によって保持されている。
【0004】
また、特許文献2には、高速で走査を行っても振動の発生の少ない小型で軽量な駆動ステージを有し、高速に鮮明な像を取得できる走査型プローブ顕微鏡が提案されている。
この提案では、走査型プローブ顕微鏡(SPM)の駆動ステージとして、支持体と、前記支持体に支持された少なくとも2つ以上の複数の可動部と、前記複数の可動部を駆動する1つ以上の駆動素子からなる駆動ステージが構成される。
このステージは、前記駆動素子の駆動時に、前記複数のそれぞれの可動部の生じる慣性力が互いに相殺する方向に可動部を駆動する構成とされている。
具体的には、図8(a)に示すように このステージは、円筒形の圧電素子からなる駆動ステージが2つ同心円状に重なった構造を有している。
第1の円筒形圧電素子800の内側に第2の円筒形圧電素子810が同心円状に配置されている(図8(a)では分解して表示)。
第1の円筒形圧電素子800の周囲には、4分割された電極801〜804が配置されており、その上部には移動台805が接合されている(図8(a)では分解して表示)。
また、第2の円筒形圧電素子810の周囲には、4分割された電極811〜814が配置されており、上部には重り815が接合されている(図8(a)では分解して表示)。
第1、第2の円筒形圧電素子800、810は、相対する電極(801と803、802と804、811と813、812と814)の電圧を制御して、一方が伸び他方が縮むようにすることにより、屈曲させることができる。
また、4つの電極に同じように電圧を印加することで長軸方向に伸縮させることができる。つまり、この圧電素子800、810の屈曲、伸縮を電圧で制御できる。これにより、この圧電素子の上部に配置した移動台805と重り815をそれぞれ3次元方向に駆動することができる。
また、図8(b)の本ステージの結線図に示すように結線することで、外側の円筒形圧電素子800と内側の円筒形圧電素子810は、常に逆方向に駆動されることになる。
図8(c)は、駆動時の変形の様子の断面図である。
図中で、円筒形圧電素子800は、左向きに曲がって上方向に伸びており、円筒形圧電素子810は、右向きに曲がって下方向に縮んでいる。
増幅器820〜822の増幅率−AX、−Ay、−Azはそれぞれ、円筒形圧電素子800と810の発生する慣性力がキャンセルするように設定されている。また、これらの増幅率は、移動台に載せるものの質量が変化した時には、最適な値に調整するのが望ましい。
以上のように構成された本発明は、常に外側の第1の円筒形圧電素子800と内側の第2の円筒形圧電素子810の発生する慣性力がキャンセルするように駆動されるので、高速に駆動しても振動の少ないステージを提供することができる。
【特許文献1】特開2002−082036号公報
【特許文献2】特開2000−088983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、走査型プローブ顕微鏡(SPM)では、観察すべき試料の大きさや観察すべき情報に応じて、装置の規模が異なってくる。
例えば、小さい試料で観察すべき視野(走査範囲)が狭い場合には、小さな駆動ステージが用いられ、また、走査範囲が広い場合には、大きな駆動ステージが用いられることとなる。
一方、探針については、原子間力顕微鏡(AFM)であれば、同じ探針を用いることができるので、本体から走査ステージを取り外し、別の走査ステージを本体に装着して使用する使用法が採られる場合がある。すなわち、走査ステージのみを交換する使用法が採られる場合がある。
【0006】
しかしながら、このように走査ステージのみを交換する使用法を採る際に、例えば上述した慣性力を相殺する可動部(カウンター質量、釣り合い錘)を持つ走査ステージを用いる場合、つぎのような不都合が生じる。
すなわち、慣性力を相殺する可動部(カウンター質量、釣り合い錘)をそのままにして、走査ステージのみを交換すると、カウンター質量との釣り合い関係が維持できず、期待する慣性力の相殺がなされない場合が生じる。
特に、走査ステージ或いはカウンター質量の駆動素子(アクチュエータ)として、圧電素子のような電気機械変換体を用いる場合には、使用に伴って駆動素子の動作性能が経過変化してしまうこととなる。
そのため、走査ステージのみを交換して走査型プローブ顕微鏡(SPM)の使用を続けると、カウンター質量の駆動素子の劣化が進む一方で、走査ステージは交換によりリフレッシュされるという現象が生じる。
このようなことから、印加電圧に対する変位量は、カウンター質量の駆動素子と走査ステージの駆動素子との間で、異なることになり、走査ステージに発生する慣性力の相殺はより一層困難となる。
また、走査ステージの駆動素子の特性、例えば、印加電圧に対する変位量はヒステリシスを持つことが多く、また、駆動素子毎に特性にばらつきがある。
以上のことを考慮し、期待する慣性力の相殺がなされるように駆動するためには、走査ステージを交換するたびに操作者が校正を行うことが必要となる。
すなわち、走査ステージを交換するたびに走査ステージに発生する慣性力が適正に相殺されるように操作者が校正をする手間を要することとなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、走査ステージあるいは探針の駆動ステージを交換するたびに操作者による校正の手間を要することなく、これらのステージに発生する慣性力を適正に相殺することができる走査型プローブ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を達成するために、以下のように構成した走査型プローブ装置を提供するものである。
本発明の走査型プローブ装置は、
探針と、
試料を保持する試料保持台を移動させるための駆動素子と、該試料保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備えた走査ステージと、
を有し、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置であって、
前記走査ステージは、該走査ステージを駆動する駆動回路を備え、前記走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されていることを特徴としている。
また、本発明の前記走査ステージは、前記試料保持台を含む前記駆動素子と前記可動部とが、前記走査型プローブ装置本体に対して一体的に着脱交換可能に構成されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動回路は、増幅率が変更可能な可変増幅器を有することを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動素子及び前記可動部は、それぞれ電気機械変換体で構成されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記電気機械変換体は円筒型の圧電素子からなり、前記駆動素子を構成する第1の円筒型の圧電素子の内側に、前記可動部を構成する第2の円筒型の圧電素子が同心円状に配置されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動素子は第1の方向に伸縮する第1の電気機械変換体を備え、
前記第1の電気機械変換体の一方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記試料保持台を有する第2の電気機械変換体が支持され、
前記第1の電気機械変換体の他方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記可動部を構成する第3の電気機械変換体が支持されていることを特徴としている。
また、本発明の走査型プローブ装置は、
探針保持台を移動させるための駆動素子と、該探針保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備えた探針の駆動ステージと、
試料を保持する走査ステージと、
を有し、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置であって、
前記探針の駆動ステージは、該探針の駆動ステージを駆動する駆動回路を備え、前記走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されていることを特徴としている。
また、本発明の前記探針の駆動ステージは、前記探針保持台を含む前記駆動素子と前記可動部とが、前記走査型プローブ装置本体に対して一体的に着脱交換可能に構成されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動回路は、増幅率が変更可能な可変増幅器を有することを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動素子及び前記可動部は、それぞれ電気機械変換体で構成されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記電気機械変換体は円筒型の圧電素子からなり、前記駆動素子を構成する第1の円筒型の圧電素子の内側に、前記可動部を構成する第2の円筒型の圧電素子が同心円状に配置されていることを特徴としている。
また、本発明において、前記駆動素子は第1の方向に伸縮する第1の電気機械変換体を備え、
前記第1の電気機械変換体の一方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記試料保持台を有する第2の電気機械変換体が支持され、
前記第1の電気機械変換体の他方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記可動部を構成する第3の電気機械変換体が支持されていることを特徴としている。
また、本発明の走査型プローブ装置は、
探針を駆動する探針の駆動ステージと、試料を保持する走査ステージと、を有し、
前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置であって、
前記走査ステージが、上記したいずれかに記載の走査型プローブ装置における走査ステージによって構成され、
前記探針を駆動する探針の駆動ステージが、上記したいずれかに記載の走査型プローブ装置における探針の駆動ステージによって構成されていることを特徴としている。
また、本発明は、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、
または前記試料を加工する走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されている、前記探針又は前記試料を移動させるためのステージであって、
前記探針又は前記試料を移動させるための駆動素子と、該探針又は該試料の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備え、
前記ステージに、該ステージを駆動する駆動回路が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、走査ステージあるいは探針の駆動ステージを交換するたびに操作者による校正の手間を大幅に削減しつつ、これらのステージに発生する慣性力を適正に相殺することができる走査型プローブ装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の構成によれば、従来例の課題で説明したような走査圧電素子のみを交換した場合のような不都合が生じることなく、操作者による校正の手間を要せず、走査ステージあるいは探針の駆動ステージに発生する慣性力を適正に相殺することができる。
これにより、走査型プローブ装置の使用を繰り返し行っても、常に良好に慣性力を相殺し、振動を抑制することが可能となる。特に、つぎに説明するように、XYZ各方向のなかでも最も高い周波数による動きとなるZ方向の走査に求められる要求に対しても、有効に応えることが可能となる。
【0011】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、機械的探針と試料とを相対的にXY方向にラスター走査し所望の試料領域の表面情報を機械的探針を介して得て、モニターTV上にマッピング表示することができる。
また、SNOMなどは機械的探針先端から発せられる光を被加工物に作用して微細加工を行ったり、光による情報記録を行ったりすることができる。
さらには、試料表面に凹凸を形成し、やはり微細加工を行ったり、情報記録を行ったりすることができる。
【0012】
このような走査型プローブ顕微鏡(SPM)においては、XY走査の間、Z方向についても試料と探針との相互作用が一定になるようフィードバック制御してZ方向の移動を担う走査機構を動かしている。
このZ方向の動きは、規則的な動きをするXY方向の動きとは異なり、試料の表面形状や表面状態を反映するため不規則な動きとなる。
そして、このZ方向の走査はXYZ各方向のなかでは最も高い周波数での動きとなる。
走査型プローブ顕微鏡のX方向の走査周波数は0.05から200Hz程度であり、Y方向の走査周波数は、X方向走査周波数のY方向走査ライン数分の1程度であって、Y方向走査ライン数は10から1000ラインである。
またZ方向の走査周波数はX走査方向周波数に対し、X方向走査1ラインあたりの画素数倍からその100倍程度である。
例えば、X方向100画素、Y方向100画素の画像を1秒で取り込むとき、X方向の走査周波数は100Hz、Y方向の走査周波数は1Hz、Z方向の走査周波数は10kHz以上となる。
なお、この例に示す走査周波数は走査型プローブ顕微鏡としては、今のところ最も高い水準の走査周波数に当たるものであり、通常はX方向走査周波数は数Hz程度に留まっている。
この例に示すような高い水準の走査周波数を実現するには、その走査機構は、外部からの振動に対し安定であるのはもちろん、内部の走査動作にともない自分白身で発生する振動が小さく抑えられていることが求められる。
本発明によれば、これらの要求に対しても、有効に応えることが可能となる。
【実施例】
【0013】
以下に、本発明の実施例1について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用して、走査型プローブ装置に用いられる交換可能な走査ステージを構成した。
図1に、本実施例における走査型プローブ装置に用いられる本体に対して交換可能とした走査ステージの断面図を示す。
図2に、本実施例における走査型プローブ装置に用いられる走査ステージの構成を説明するための模式図を示す。
図1及び図2において、1は走査型プローブ装置本体側に設けられた凹部、2は底部基台、3は底部基台2に設けられた電気接続コネクタ、4は走査型プローブ装置本体の凹部に設けられた電気接続コネクタ3と接続される電気接続コネクタである。
5は走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路、6はこれらの圧電素子を駆動するための信号を供給する制御回路である。
500は第1の円筒形圧電素子、505は移動台、510は第2の円筒形圧電素子、515は重りである。
【0014】
本実施例においては、走査ステージは、底部基台2と、この底部基台2に固定されている移動台505を備えた第1の円筒形圧電素子500及び重り515を備えた第2の円筒形圧電素子510により構成されている。
この走査ステージは、走査型プローブ装置本体側に設けられた凹部1に篏合するように着脱交換可能に取り付けられる。
この凹部1の底面には、電気接続コネクタ4が設けられており、上記凹部1に篏合させた時に、底部基台2に設けられた電気接続コネクタ3と互いに接続される。
これにより、外部の制御回路6から試料台の駆動素子である走査用圧電素子を構成する第1の円筒形圧電素子500と、カウンター圧電素子である第2の円筒形圧電素子510とを駆動するための信号が供給される。
上記走査ステージを構成している底部基台2の外殻には、上記駆動回路5を有するICチップが設けられており、上記走査ステージと一体的に走査型プローブ装置本体の凹部1から取り外して交換可能となっている。
【0015】
本実施例においては、前述したように、スキャナ圧電素子は第1の円筒形圧電素子500で構成され、その上部に試料台としての円盤状の移動台505を有している。
一方、カウンター圧電素子は直径がスキャナ圧電素子より小さい円筒形の圧電素子で構成され、その上部にカウンター質量としての重り515を有している。
そして、それぞれの圧電素子は、上記特許文献2に記載されているように駆動される。
【0016】
つぎに、図2を用いて、上記走査ステージの具体的構成について、さらに詳細に説明する。
本実施例の走査ステージは、図2に示すように円筒形の圧電素子からなる駆動ステージが2つ同心円状に重なった構造をしている。
すなわち、第1の円筒形圧電素子500の内側に、第2の円筒形圧電素子510が同心円状に配置されている(図2では分解して表示)。
第1の円筒形圧電素子500の周囲には、4分割された電極501〜504が配置されており(但し、504は図2では裏側にあたるため不図示)、その上部には移動台505が接合されている(図2では分解して表示)。
また、第2の円筒形圧電素子510の周囲には、4分割された電極511〜514が配置されており(ただし、514は図2では裏側にあたるため不図示)、上部には重り515が接合されている(図2では分解して表示)。
第1、第2の円筒形圧電素子500、510は、相対する電極(501と503、502と504、511と513、512と514)の電圧を制御して、一方が伸び他方が縮むようにすることにより、屈曲させることができる。
また、4つの電極に同じように電圧を印加することで長軸方向に伸縮させることができる。
つまり、この圧電素子500、510の屈曲、伸縮を電圧で制御できる。したがって、これらによって圧電素子の上部に配置した移動台505と重り515をそれぞれ3次元方向に駆動することができる。
【0017】
図3は、本実施例における走査ステージの結線図を示す図である。本結線図に示すように結線することで、外側の円筒形圧電素子500と内側の円筒形圧電素子510は、常に逆方向に駆動されることになる。
駆動時の変形の様子は、前述した特許文献2と同じであり、図8(c)と同様に、円筒形圧電素子500は、左向きに曲がって上方向に伸びており、円筒形圧電素子510は、右向きに曲がって下方向に縮んでいる。
増幅器520〜522の増幅率−AX、−Ay、−Azはそれぞれ、円筒形圧電素子500と510の発生する慣性力がキャンセルするように設定されており、走査ステージ固有の値が設定されている。
また、これらの増幅率は、移動台に載せるものの質量が変化した時には、最適な値に調整されるべく、増幅器は可変ゲインアンプとなっていてもよい。
本実施例では、増幅器520、521、522とインバータ530、531、532、533と、加算器540、541、542、543、544、545、546、547が1チップICとして集積化されて、走査ステージに搭載されている。
そして、走査ステージの交換時に一体的に装置本体に対して取り外しできるようになっている。
したがって、装置本体からは、X駆動信号、Y駆動信号、Z駆動信号が供給され、走査ステージが装置本体に装着された時に装置本体の駆動制御回路と走査ステージの駆動回路とが接続される。
走査ステージの駆動回路は、固有の増幅率が設定されているので、装置本体は複雑な校正を行わなくても、X駆動信号、Y駆動信号、Z駆動信号を供給するだけで、所望の走査を行うことができる。
【0018】
以上の本実施例の構成によれば、常に外側の第1の円筒形圧電素子500と内側の第2の円筒形圧電素子510の発生する慣性力がキャンセルするように駆動されるので、高速に駆動しても振動の少ないステージを提供することができる。すなわち、本実施例では走査用圧電素子である第1の円筒形圧電素子500のみを交換可能にするのではなく、走査用圧電素子と慣性力相殺用のカウンター圧電素子とが固定されている底部基台2を、装置本体に対して着脱可能に構成されている。これにより、両圧電素子が一体的に交換可能となる。
したがって、従来例の課題で説明したような慣性力相殺用のカウンター圧電素子をそのまま用い、走査用圧電素子のみを交換した場合のような不都合が生じることがない。
これにより、走査ステージを交換しながら走査型プローブ装置の使用を繰り返し行っても、常に良好に慣性力を相殺し、振動を抑制することが可能となる。
【0019】
[実施例2]
実施例2においては、実施例1とは異なる形態の走査型プローブ装置に用いられる交換可能な走査機構について説明する。
図4及び図5に、本実施例の走査機構の構成を示す。
図4及び図5において、400は走査機構、401は走査機構保持台、402は駆動素子台座、403〜405は駆動素子、406、407は駆動素子保持部材、408は試料保持部材、409は重り部材である。
410は走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路である。
【0020】
本実施例では、図4及び図5に示されるように駆動素子台座402の外殻には、上記駆動回路410を有するICチップが設けられており、これらが一体的に走査型プローブ装置本体側の走査機構保持台401から取り外して交換可能となっている。
つまり、この駆動素子台座402には、駆動素子保持部材406、407と、駆動素子保持部材406、407によって保持された駆動素子403と、駆動素子403の一端に固定された駆動素子404が設けられている。
さらに、駆動素子404の一端に固定された駆動素子405と、駆動素子404の一端に固定された釣り合い重り部材409と、駆動素子405の一端に設けられた試料保持部材408が設けられている。
【0021】
ここで、駆動素子403、404、405は、実施例1と同様に、積層圧電体で構成され、さらに、釣り合い重り部材409も同等の積層圧電体で構成されている。
駆動素子405はZ方向(第1の方向)に伸縮可能であり、その中央付近が駆動素子404の一方の端部に接合されている。
一方、釣り合い重り部材409は駆動素子405とほぼ同じ重量を有しており、その中央付近が駆動素子404の他方の端部に接合されている。
このように、本実施例では走査用圧電素子である駆動素子405に対して、慣性力相殺用の圧電素子である釣り合い重り部材409を構成することで、振動が抑制するようにされている。
駆動素子404はX方向(第2の方向)に伸縮可能であり、その中央付近が駆動素子403の端部に接合されている。
駆動素子403はY方向(第3の方向)に伸縮可能であり、その中央付近が駆動素子保持部材406、407によって保持されている。
【0022】
以上のように、本実施例では駆動素子台座402に設けられた釣り合い重り部材409を含む各駆動素子及び試料保持部材408が、駆動素子台座402と共に一体的に走査機構保持台401に対して交換可能に構成されている。
すなわち、走査機構400を構成するこれらの釣り合い重り部材409を含む各駆動素子及び試料保持部材408が、駆動素子台座402と共に一体的に走査機構保持台401に対して交換可能に構成されている。
その際、相互に設けられた電気接続コネクタ(不図示)を介して、互いに電気接続されるように構成されている。これらについては、基本的には実施例1と同様の構成が採られる。
【0023】
このように、本実施例では走査用圧電素子である駆動素子405のみを交換可能にするのではなく、この走査用圧電素子と慣性力相殺用のカウンター圧電素子である釣り合い重り部材409を含む駆動素子台座402が、一体的に交換可能に構成されている。
したがって、従来例の課題で説明したような慣性力相殺用のカウンター圧電素子をそのまま用い、走査用圧電素子のみを交換した場合のような不都合が生じることがない。
これにより、走査機構を交換しながら走査型プローブ装置の使用を繰り返し行っても、常に良好に慣性力を相殺し、振動を抑制することが可能となる。
【0024】
[実施例3]
本発明の実施例3においては、探針の駆動ステージ及び試料ステージの両方に駆動回路が設けられた走査型プローブ装置の構成例について説明する。
なお、本実施例では、試料ステージとして実施例1の走査ステージと同様の構成のものが用いられる。
また、探針の駆動ステージにも実施例1の走査ステージの基本構成を適用して、探針保持台を移動させるための駆動素子と、該探針保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備えた探針の駆動ステージが構成される。そして、この探針の駆動ステージは、前記探針保持台を含む前記駆動素子と前記可動部とが、前記走査型プローブ装置本体に対して一体的に着脱交換可能に構成される。
【0025】
図6に本実施例の走査型プローブ装置の構成例を説明する図を示す。
図6において、610は走査型プローブ装置本体、611は走査型プローブ装置本体における篏合凹部を有する試料ステージ支持部、612は試料ステージの底部基台、613は試料ステージに載置された試料である。
614は走査型プローブ装置本体における篏合凹部を有する探針の駆動ステージ支持部、615は探針の駆動ステージの底部基台、616は走査プローブ、617は探針である。
618は、走査型プローブ装置全体の制御を司る制御コンピュータである。
619は試料ステージの底部基台612の外殻に設けられている走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路である。
620は探針の駆動ステージの底部基台615の外殻に設けられている探針保持台を移動させるための駆動素子と、該探針保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを駆動する駆動回路である。
これら駆動回路は、実施例1と同様にICチップに搭載されている。
【0026】
本実施例の構成例では、それぞれに慣性力相殺用のカウンター圧電素子を含む両ステージは、上記慣性力相殺用のカウンター圧電素子を含んで一体的に交換可能に構成されている。この交換可能とした構成は、基本的には実施例1と同様の構成が採られる。
その際、相互に設けられた電気接続コネクタ(不図示)を介して、互いに電気接続されるように構成されている。これらにおいても、基本的には実施例1と同様の構成が採られる。
【0027】
本実施例の構成によれば、探針の駆動ステージあるいは試料ステージの交換に際し、探針保持台を移動させるための駆動素子あるいは走査用圧電素子のみを交換可能にするのではなく、慣性力相殺用のカウンター圧電素子が、一体的に交換可能に構成されている。
したがって、従来例の課題で説明したような慣性力相殺用のカウンター圧電素子をそのまま用い、走査用圧電素子のみを交換した場合のような不都合が生じることない。
これにより、探針の駆動ステージあるいは試料ステージを交換しながら走査型プローブ装置の使用を繰り返し行っても、常に良好に慣性力を相殺し、振動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1における走査型プローブ装置に用いられる本体に対して交換可能とした走査ステージの断面図を示す図。
【図2】本発明の実施例1における走査型プローブ装置に用いられる走査ステージの構成を説明するための模式図。
【図3】本発明の実施例1における走査ステージの結線を示す図。
【図4】本発明の実施例2における走査型プローブ装置に用いられる本体に対して交換可能とした走査機構の構成を説明するための模式図。
【図5】本発明の実施例2における走査型プローブ装置に用いられる本体に対して交換可能とした走査機構の構成を説明するための模式図。
【図6】本発明の実施例3における探針の駆動ステージ及び試料ステージの両方に駆動回路が設けられた走査型プローブ装置の構成例を説明する図。
【図7】従来例である特許文献1の走査型プローブ顕微鏡用走査機構を説明する図。
【図8】従来例である特許文献2の走査型プローブ顕微鏡の駆動ステージを説明する図。
【符号の説明】
【0029】
1:走査型プローブ装置本体側に設けられた凹部
2:底部基台
3:底部基台2に設けられた電気接続コネクタ
4:走査型プローブ装置本体の凹部に設けられた電気接続コネクタ
5:走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路
6:圧電素子を駆動するための信号を供給する制御回路
400:走査機構
401:走査機構保持台
402:駆動素子台座
403〜405:駆動素子
406,407:駆動素子保持部材
408:試料保持部材
409:重り部材
410:走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路
500:第1の円筒形圧電素子
501〜504:電極
505:移動台
510:第2の円筒形圧電素子
511〜514:電極
515:重り
610:走査型プローブ装置本体
611:試料ステージ支持部
612:試料ステージの底部基台
613:試料ステージに載置された試料
614:駆動ステージ支持部
615:探針の駆動ステージの底部基台
616:走査プローブ
617:探針
618:走査型プローブ装置全体の制御を司る制御コンピュータ
619:走査圧電素子とカウンター圧電素子とを駆動する駆動回路
620:探針保持台を移動させるための駆動素子と慣性力を相殺する方向に動く可動部とを駆動する駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探針と、
試料を保持する試料保持台を移動させるための駆動素子と、該試料保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備えた走査ステージと、
を有し、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置であって、
前記走査ステージは、該走査ステージを駆動する駆動回路を備え、前記走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されていることを特徴とする走査型プローブ装置。
【請求項2】
前記走査ステージは、前記試料保持台を含む前記駆動素子と前記可動部とが、前記走査型プローブ装置本体に対して一体的に着脱交換可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、増幅率が変更可能な可変増幅器を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型プローブ装置。
【請求項4】
前記駆動素子及び前記可動部は、それぞれ電気機械変換体で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走査型プローブ装置。
【請求項5】
前記電気機械変換体は円筒型の圧電素子からなり、前記駆動素子を構成する第1の円筒型の圧電素子の内側に、前記可動部を構成する第2の円筒型の圧電素子が同心円状に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の走査型プローブ装置。
【請求項6】
前記駆動素子は第1の方向に伸縮する第1の電気機械変換体を備え、
前記第1の電気機械変換体の一方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記試料保持台を有する第2の電気機械変換体が支持され、
前記第1の電気機械変換体の他方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記可動部を構成する第3の電気機械変換体が支持されていることを特徴とする請求項4に記載の走査型プローブ装置。
【請求項7】
探針保持台を移動させるための駆動素子と、該探針保持台の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備えた探針の駆動ステージと、
試料を保持する走査ステージと、
を有し、前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置であって、
前記探針の駆動ステージは、該探針の駆動ステージを駆動する駆動回路を備え、前記走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されていることを特徴とする走査型プローブ装置。
【請求項8】
前記探針の駆動ステージは、前記探針保持台を含む前記駆動素子と前記可動部とが、前記走査型プローブ装置本体に対して一体的に着脱交換可能に構成されていることを特徴とする請求項7に記載の走査型プローブ装置。
【請求項9】
前記駆動回路は、増幅率が変更可能な可変増幅器を有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の走査型プローブ装置。
【請求項10】
前記駆動素子及び前記可動部は、それぞれ電気機械変換体で構成されていることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の走査型プローブ装置。
【請求項11】
前記電気機械変換体は円筒型の圧電素子からなり、前記駆動素子を構成する第1の円筒型の圧電素子の内側に、前記可動部を構成する第2の円筒型の圧電素子が同心円状に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の走査型プローブ装置。
【請求項12】
前記駆動素子は第1の方向に伸縮する第1の電気機械変換体を備え、
前記第1の電気機械変換体の一方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記試料保持台を有する第2の電気機械変換体が支持され、
前記第1の電気機械変換体の他方の端部に、該第1の方向と直交する方向に伸縮する前記可動部を構成する第3の電気機械変換体が支持されていることを特徴とする請求項10に記載の走査型プローブ装置。
【請求項13】
前記探針と前記試料とを相対的に移動させ、前記試料の情報を取得し、または前記試料に情報を記録し、または前記試料を加工する走査型プローブ装置本体に対して着脱交換可能に構成されている、前記探針又は前記試料を移動させるためのステージであって、
前記探針又は前記試料を移動させるための駆動素子と、該探針又は該試料の移動の際に生じる慣性力を相殺する方向に動く可動部とを備え、
前記ステージに、該ステージを駆動する駆動回路が設けられていることを特徴とするステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−205856(P2007−205856A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24686(P2006−24686)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】