説明

走査型プローブ顕微鏡

【課題】 装置に装着された探針の長さを測定して探針長さを正確に管理し、探針の摩耗状態を正確に推測し、測定中に探針の先端状態を良好に保持し、探針の使用寿命を延長し、測定・検査の精度を良好に保持できる走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】 この走査型プローブ顕微鏡は、試料12に対向する探針20を有する探針部(21,22等)と、探針を移動させる探針移動機構14,15,23,29と、探針と試料の間で生じる物理量を測定する測定部63(24,31,32)と、試料が載置される試料ステージ11を備え、探針で試料の表面を走査して試料の表面を測定する走査型プローブ顕微鏡において、探針20の軸方向の長さを測定する探針長さ測定機構62を備えるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型プローブ顕微鏡に関し、特に、試料の連続的な自動測定において探針の長さ管理を行って測定精度を向上するのに好適な走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡は、従来、原子のオーダまたはサイズの微細な対象物を観察できる測定分解能を有する測定装置として知られている。近年、走査型プローブ顕微鏡は、半導体デバイスが作られた基板やウェハの表面の微細な凹凸形状の測定など各種の分野に適用されている。測定に利用する検出物理量に応じて各種のタイプの走査型プローブ顕微鏡がある。例えばトンネル電流を利用する走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力を利用する原子間力顕微鏡(AFM)、磁気力を利用する磁気力顕微鏡(MFM)等があり、それらの応用範囲も拡大しつつある。
【0003】
上記のうち特に原子間力顕微鏡は、試料表面の微細な凹凸形状を高分解能で検出するのに適し、半導体基板、ディスクなどの分野で実績を上げている。最近ではインライン自動検査工程の用途でも使用されてきている。
【0004】
原子間力顕微鏡等をインライン自動検査工程で使用するときには、半導体製品である多数の試料を連続的に順次に測定し、当該半導体製品の検査を行わなければならない。原子間力顕微鏡の測定精度は、探針の先端の摩耗度合いに大きく依存する。そのため、多数の試料の測定・検査を継続すると、次第に探針の先端が摩耗され、探針の長さが短くなってその尖り状態が劣化する。探針の長さが短くなり、それに比例して探針の先端が鈍り、分解能が低下し、測定精度が低下してきた場合、従来では、通常、探針を交換するようにしていた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−323430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インライン自動検査工程等で使用される原子間力顕微鏡等において探針の先端形状は計測において重要な要素であり、管理されることが必要である。現在の探針先端の摩耗管理では、使用中の探針について走行距離管理、測定試料に対するコンタクト回数の管理が行われている。これらの管理データを利用して探針の先端形状が推測され、探針の寿命が推測される。従って、現状では、探針の摩耗の程度は間接的なデータで推測されているにすぎず、探針の摩耗を直接に監視しているわけでない。また探針の摩耗を直接に監視する装置がないため、実際には測定中のデータの異常から探針の先端摩耗を知ること大部分である。従って測定装置としての信頼性を低いものとしている。さらに探針の先端の摩耗は探針の個体差も存在するが、それ以上に試料に対する依存性が高い。従って、単純に走行距離やコンタクト回数等の間接的な管理データに基づいて探針先端の摩耗状態を正確に推測することは困難である。
【0006】
本発明の目的は、装置に装着された探針の長さを測定することで探針の長さを正確に管理すると共に探針の摩耗状態を正確に推測し、測定中に探針の先端状態を良好に保持し、探針の使用寿命を延長し、測定・検査の精度を良好に保持できる走査型プローブ顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡は、上記目的を達成するために、次のように構成される。
【0008】
第1の走査型プローブ顕微鏡(請求項1に対応)は、試料に対向する探針を有する探針部と、探針を移動させる探針移動機構と、探針と試料の間で生じる物理量を測定する測定部と、試料が載置される試料ステージを備え、探針で試料の表面を走査して試料の表面を測定する走査型プローブ顕微鏡において、探針の軸方向の長さを測定する探針長さ測定機構を備えるように構成される。
【0009】
上記の走査型プローブ顕微鏡は、例えば半導体製造プロセス中のインライン自動検査工程に配備され、多数の半導体基板等の測定・検査を継続的に行う。上記走査型プローブ顕微鏡によれば、この試料の測定・検査において、測定の際に適宜なタイミングで探針長さ測定機構により使用前または使用中の探針の軸方向の長さを測定し、かつ当該探針長さに係るデータをメモリ等に記録し管理することにより、常に良好な先端摩耗状態で探針を使用することが可能となる。
【0010】
第2の走査型プローブ顕微鏡(請求項2に対応)は、上記の走査型プローブ顕微鏡の構成において、好ましくは、探針長さ測定機構は、基準台と、この基準台に探針の先端を位置させる時の第1の位置と基準台に探針の基端を位置させる時の第2の位置を測定する測定部と、第1の位置と第2の位置との差を探針の長さとして算出する長さ算出部とを有することで特徴づけられる。
【0011】
第3の走査型プローブ顕微鏡(請求項3に対応)は、上記の走査型プローブ顕微鏡の構成において、好ましくは、探針部に探針を装着した後に、探針長さ測定機構によって使用前の探針の長さを測定する。
【0012】
第4の走査型プローブ顕微鏡(請求項4に対応)は、上記の走査型プローブ顕微鏡の構成において、好ましくは、探針長さ測定機構で測定された探針の長さを記録する記録部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡によれば、半導体製造プロセス中のインライン自動検査工程等に配備されて当該測定・検査を行う場合において、装着状態の探針の長さを測定して探針の長さを正確に管理するようにしたため、使用中の探針の摩耗状態を正確に推測し、測定中に探針の先端状態を良好に保持し、探針の使用寿命を延長し、測定・検査の精度を向上しかつ良好に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に基づいて、本発明に係る走査型プローブ顕微鏡(SPM)の全体の構成を説明する。この走査型プローブ顕微鏡は代表的な例として原子間力顕微鏡(AFM)を想定している。
【0016】
原子間力顕微鏡装置の下側部分には試料ステージ11が設けられている。試料ステージ11は基準面10上に滑らかに自在に移動できるように配置されている。試料ステージ11は、それ自体がXY移動部であり、かつその内部にZステージ15を有している。XY移動部として試料ステージ11を基準面10上で移動させるのは、基準面10上に固定されたXYステージ機構14である。XYステージ機構14はXステージ機構14aとYステージ機構14bから成る。また、試料ステージ11とXYステージ機構14とは連結部14cで連結されている。
【0017】
上記の試料ステージ11の上に試料12が置かれている。試料ステージ11は、直交するX軸とY軸とZ軸で成る3次元座標系13で試料12の位置を変えるための機構である。試料ステージ11は、上記のごとくXYステージ機構14とZステージ15を備え、さらに試料ホルダ16を備える。試料ステージ11は、通常、試料側で変位(位置変化)を生じさせる粗動機構部として構成される。試料ステージ11の試料ホルダ16の上面には、比較的大きな面積でかつ薄板形状の上記試料12が置かれ、保持されている。試料12は、例えば、表面上に半導体デバイスの集積回路パターンが製作された基板またはウェハである。試料12は試料ホルダ16上に固定されている。試料ホルダ16は、その上面部分に試料固定用チャック機構を備えている。
【0018】
図1において、試料12の上方位置には、駆動機構17を備えた光学顕微鏡18が配置されている。光学顕微鏡18は駆動機構17によって支持されている。駆動機構17は、光学顕微鏡18を、Z軸方向に動かすためのフォーカス用Z方向移動機構部17aと、XYの各軸方向に動かすためのXY方向移動機構部17bとから構成されている。取付け関係として、Z方向移動機構部17aは光学顕微鏡18をZ軸方向に動かし、XY方向移動機構部17bは光学顕微鏡18とZ方向移動機構部17aのユニットをXYの各軸方向に動かす。XY方向移動機構部17bはフレーム部材に固定されるが、図1で当該フレーム部材の図示は省略されている。光学顕微鏡18は、その対物レンズ18aを下方に向けて配置され、試料12の表面を真上から臨む位置に配置されている。光学顕微鏡18の上端部にはTVカメラ(撮像装置)19が付設されている。TVカメラ19は、対物レンズ18aで取り込まれた試料表面の特定領域の像を撮像して取得し、これによって画像データを出力する。
【0019】
試料12の上側には、先端に探針20を備えたカンチレバー21が接近した状態で配置されている。カンチレバー21は取付け部22に固定されている。取付け部22は、例えば、空気吸引部(図示せず)が設けられると共に、この空気吸引部は空気吸引装置(図示せず)に接続されている。カンチレバー21は、その大きな面積を有する基部が取付け部22の空気吸引部で吸着されることにより、固定され、装着される。
【0020】
上記の取付け部22は、Z方向に微動動作を生じさせるZ微動機構23に取り付けられている。さらにZ微動機構23はカンチレバー変位検出部24の下面に取り付けられている。
【0021】
カンチレバー変位検出部24は、支持フレーム25にレーザ光源26と光検出器27が所定の配置関係で取り付けられた構成を有する。カンチレバー変位検出部24とカンチレバー21は一定の位置関係に保持され、レーザ光源26から出射されたレーザ光28はカンチレバー21の背面で反射されて光検出器27に入射されるようになっている。上記カンチレバー変位検出部は光てこ式光学検出装置を構成する。この光てこ式光学検出装置によって、カンチレバー21で捩れや撓み等の変形が生じると、当該変形による変位を検出することができる。
【0022】
カンチレバー変位検出部24はXY微動機構29に取り付けられている。XY微動機構29によってカンチレバー21および探針20等はXYの各軸方向に微小距離で移動される。このとき、カンチレバー変位検出部24は同時に移動されることになり、カンチレバー21とカンチレバー変位検出部24の位置関係は不変である。Z微動機構23とXY微動機構29は、通常、圧電素子で構成されている。Z微動機構23とXY微動機構29によって、探針20の移動について、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各々へ微小距離(例えば数〜10μm、最大100μm)の変位を生じさせる。なおXY微動機構29は、図示しない上記フレーム部材に固定されている。
【0023】
上記の取付け関係において、光学顕微鏡18による観察視野には、試料12の適宜な領域の表面と、カンチレバー21における探針20を含む先端部(背面部)とが含まれることになる。
【0024】
次に原子間力顕微鏡の制御系を説明する。制御系の構成としては、比較器31、制御器32、コントローラ(第1制御装置)33、上位制御装置(第2制御装置)34が設けられる。制御器32は、原子間力顕微鏡(AFM)による測定機構を原理的に実現するための制御器である。またコントローラ33は複数の駆動機構等のそれぞれの駆動制御用の制御装置であり、上位制御装置34はコントローラ33に指令等を出しかつコントローラ33からのデータを処理する制御装置である。
【0025】
比較器31は、光検出器27から出力される電圧信号Vdと予め設定された基準電圧(Vref)とを比較し、その偏差信号s1を出力する。制御器32は、偏差信号s1が0にな るように制御信号s2を生成し、この制御信号s2をZ微動機構23に与える。制御信号s2を受けたZ微動機構23は、カンチレバー21の高さ位置を調整し、探針20と試料12の表面との間の距離を一定の距離に保つ。上記の光検出器27からZ微動機構23に到る制御ループは、探針20で試料表面を走査するとき、光てこ式光学検出装置によってカンチレバー21の変形状態を検出しながら、探針20と試料12との間の距離を上記の基準電圧(Vref)に基づいて決まる所定の一定距離に保持するためのフィードバックサーボ制御のループである。この制御ループによって探針20は試料12の表面から一定の距離に保たれ、この状態で試料12の表面を走査すると、試料表面の凹凸形状を測定することができる。
【0026】
次にコントローラ33は、原子間力顕微鏡の各部を駆動させるための制御装置であり、次のような機能部を備えている。
【0027】
光学顕微鏡18は、フォーカス用Z方向移動機構部17aとXY方向移動機構部17bとから成る駆動機構17によって、その位置が変化させられる。コントローラ33は、上記のZ方向移動機構部17aとXY方向移動機構部17bのそれぞれの動作を制御するための第1駆動制御部41と第2駆動制御部42を備えている。
【0028】
光学顕微鏡18によって得られた試料表面やカンチレバー21の像は、TVカメラ19によって撮像され、画像データとして取り出される。光学顕微鏡18のTVカメラ19で得られた画像データはコントローラ33に入力され、内部の画像処理部43で処理される。
【0029】
制御器32等を含む上記のフィードバックサーボ制御ループにおいて、制御器32から出力される制御信号s2は、原子間力顕微鏡における探針20の高さ信号を意味するものである。探針20の高さ信号すなわち制御信号s2によって探針20の高さ位置の変化に係る情報を得ることができる。探針20の高さ位置情報を含む上記制御信号s2は、前述のごとくZ微動機構23に対して駆動制御用に与えられると共に、コントローラ33内のデータ処理部44に取り込まれる。
【0030】
試料12の表面の測定領域について探針20による試料表面の走査は、XY微動機構29を駆動することにより行われる。XY微動機構29の駆動制御は、XY微動機構29に対してXY走査信号s3を提供するXY走査制御部45によって行われる。
【0031】
また試料ステージ11のXYステージ機構14とZステージ15の駆動は、X方向駆動信号を出力するX駆動制御部46とY方向駆動信号を出力するY駆動制御部47とZ方向駆動信号を出力するZ駆動制御部48とによって制御される。
【0032】
なおコントローラ33は、必要に応じて、設定された制御用データ、入力した光学顕微鏡画像データや探針の高さ位置に係るデータ等を記憶・保存する記憶部(図示せず)を備える。
【0033】
上記コントローラ33に対して上位制御装置34が設けられている。上位制御装置34は、通常の計測プログラムの記憶・実行および通常の計測条件の設定・記憶、自動計測プログラムの記憶・実行およびその計測条件の設定・記憶、計測データの保存、計測結果の画像処理および表示装置(モニタ)35への表示等の処理を行う。特に本発明の場合には、自動計測における探針の長さの測定に係る制御が行われる。自動計測に係る条件は設定ファイルに記憶され、管理される。さらに、通信機能を有するように構成し、外部装置との間で通信を行える機能を持たせることもできる。
【0034】
上位制御装置34は、上記の機能を有することから、処理装置であるCPU51と記憶部52とから構成される。記憶部52には上記のプログラムおよび条件データ等が記憶・保存されている。また上記制御装置34は、画像表示制御部53と通信部等を備える。加えて上位制御装置34にはインタフェース54を介して入力装置36が接続されており、入力装置36によって記憶部52に記憶される測定プログラム、測定条件、データ等を設定・変更することができるようになっている。
【0035】
上位制御装置34のCPU51は、バス55を介して、コントローラ33の各機能部に対して上位の制御指令等を提供し、また画像処理部43やデータ処理部44等から画像データや探針の高さ位置に係るデータを提供される。
【0036】
次に上記の原子間力顕微鏡装置の基本動作を説明する。
【0037】
試料ステージ11上に置かれた半導体基板等の試料12の表面の所定領域に対してカンチレバー21の探針20の先端を臨ませる。通常、探針接近用機構であるZステージ15によって探針20を試料12の表面に近づけ、原子間力を作用させてカンチレバー21に撓み変形を生じさせる。カンチレバー21の撓み変形による撓み量を、前述した光てこ式光学検出装置によって検出する。この状態において、試料表面に対して探針20を移動させることにより試料表面の走査(XY走査)が行われる。探針20による試料12の表面のXY走査は、探針20の側をXY微動機構29で移動(微動)させることによって、または試料12の側をXYステージ機構14で移動(粗動)させることによって、試料12と探針20の間で相対的なXY平面内での移動関係を作り出すことにより行われる。
【0038】
探針20側の移動は、カンチレバー21を備えるXY微動機構29に対してXY微動に係るXY走査信号s3を与えることによって行われる。XY微動に係る走査信号s3はコントローラ33内のXY走査制御部45から与えられる。他方、試料側の移動は、試料ステージ11のXYステージ機構14に対してX駆動制御部46とY駆動制御部47から駆動信号を与えることによって行われる。
【0039】
上記のXY微動機構29は、圧電素子を利用して構成され、高精度および高分解能な走査移動を行うことができる。またXY微動機構29によるXY走査で測定される測定範囲については、圧電素子のストロークによって制約されるので、最大でも約10μm程度の距離で決まる範囲となる。XY微動機構29によるXY走査によれば、微小な狭域範囲の測定となる。他方、上記のXYステージ機構14は、通常、駆動部として電磁気モータを利用して構成するので、そのストロークは数百mmまで大きくすることができる。XYステージ機構によるXY走査によれば、広域範囲の測定を行うことができる。
【0040】
上記のごとくして試料12の表面上の所定の測定領域を探針20で走査しながら、フィードバックサーボ制御ループに基づいてカンチレバー21の撓み量(撓み等による変形量)が一定になるように制御を行う。カンチレバー21の撓み量は、常に、基準となる目標撓み量(基準電圧Vrefで設定される)に一致するように制御される。その結果、探針2 0と試料12の表面との距離は一定の距離に保持される。従って探針20は、例えば、試料12の表面の微細凹凸形状(プロファイル)をなぞりながら移動(走査)することになり、探針の高さ信号を得ることによって試料12の表面の微細凹凸形状を計測することができる。
【0041】
上記構成を有する走査型プローブ顕微鏡において、さらに、試料ステージ11の上に基準台61が設けられる。この基準台61は、好ましくは、その上面に、その「基準高さ」として高さ位置が既知に設定された高さ基準面が形成されている。なお基準台61はその高さが既知である必要は必ずしもない。例えば第1の高さ位置と第2の高さ位置の差が計測できるものであれば任意のものを用いることができる。
【0042】
さらに上位制御装置34の記憶部52には、探針20の長さ(軸方向の長さ)を測定するプログラムと、探針20の長さに係る測定データが記憶されている。探針20の長さに係る測定データは記憶部52の探針記録領域に記録される。
【0043】
次に、図2と図3を参照して探針20の長さを測定して管理する動作を説明する。図2は探針の長さを測定するプログラムのフローチャートであり、図3は探針20と基準台61との位置関係を示す図である。
【0044】
最初のステップS11では、走査型プローブ顕微鏡による測定開始前に、探針20を取付け部22に装着する。次に、Xステージ機構14aとYステージ機構14bによって試料ステージ11を移動させ、探針20を基準台61の上方位置に位置させる(ステップS12)。その後、探針20を下降させ、探針20の先端を基準台61の高さ基準面に接触させる(ステップS13)。図3の(A)はこの状態を示している。その時の探針20を下降させた移動量から探針20のZ方向高さ位置(Z1)を測定する(ステップS14)。測定されたZ方向高さ位置(Z1)に係るデータは記憶部52の探針記録領域に記録される(ステップS15)。
【0045】
次に、探針20を上昇させ(ステップS16)、探針20と基準台61の位置関係を変更する(ステップS17)。
【0046】
再び、探針20を下降させ、探針20の基端の縁の部分(カンチレバー21の付根部分)を基準台61の高さ基準面に接触させる(ステップS18)。図3の(B)はこの状態を示している。その時の探針20を下降させた移動量から探針20のZ方向高さ位置(Z2)を測定する(ステップS19)。測定されたZ方向高さ位置(Z2)に係るデータは記憶部52の探針記録領域に記録される(ステップS20)。
【0047】
次に記憶部52の探針記録領域に記録された高さ位置データZ1,Z2に基づき探針20の長さ(L1=Z1−Z2)を算出する(ステップS21)。算出された探針20の長さデータは記憶部52の探針記録領域に記録される。
【0048】
なお図2のフローチャートでは、ステップS22,S23が存在するが、最初の探針長さの測定プロセスではこれらの処理は実行されない。
【0049】
上記手順によって、探針20の取付け部22に装着し測定を開始する使用前の段階の探針20の長さ(L1)が測定される。その後に走査型プローブ顕微鏡による測定が開始される。測定が開始された後、上記手順に基づく探針20の長さの測定は、所要のタイミングにより定期的に繰り返し実行される。従って、新品の探針20の長さを最初に測定・記録し、その後に定期的に探針の長さの測定を行って記録していく。その後に行われる探針20の長さ測定のプロセスでは、探針20の長さを測定するたびに、使用前の探針20の長さと比較を行い(ステップS22)、探針20の状態を表示装置35に表示する(ステップS23)。この表示によって一定量の長さの差が生じた場合には、探針20の先端の摩耗が大きくなったものとして交換等の警告情報をオペレータ等に知らせる。
【0050】
なお図1に示した走査型プローブ顕微鏡が半導体製造プロセス中のインライン自動検査工程に配備されて使用される場合には、上記の警告情報はホストコンピュータに通知される。
【0051】
上記の探針長さを測定するプログラムによって実現される探針長さ測定機構を図に示すと、図4のごとくなる。探針長さ測定機構72は、基準高さ位置を有する上記基準台61と、この基準台61に探針20の先端を位置させる時の第1の高さ位置(Z1)と基準台61に探針20の基端を位置させる時の第2の高さ位置(Z2)を測定する測定部63と、第1の高さ位置(Z1)と第2の高さ位置(Z2)との差を探針20の長さとして算出する長さ算出部64とから構成されている。また長さ算出部64で算出された探針の長さに係るデータは記録部65に供給され、ここで記録される。
【0052】
なお上記の実施形態による探針の長さの測定プロセスでは長さ測定を実行するたびに探針20の長さを絶対値として正確に求めるようにしたが、上記ステップS12〜S15のみを定期的に実行することにより、図3の(A)の測定状態に基づいて相対的に探針長さの変化を求める簡易型の測定プロセスを行うように構成することもできる。
【0053】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0054】
上記の実施形態の説明では基準台61を用いた例を説明したが、基準台61については特別のものを設ける必要はなく、例えば試料の一部や試料ホルダ16等の特定の場所を用いることができるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡において探針の長さを管理することにより探針先端の摩耗度を管理し、探針を有効利用し測定・検査精度を上げるのに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の実施形態を示す構成図である。
【図2】本実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡で実施される探針長さ測定プロセスを示すフローチャートである。
【図3】探針長さの測定の際の探針と基準台との位置関係を示す図である。
【図4】本実施形態に係る探針長さ測定プロセスを実行する探針長さ測定機構の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0057】
10 基準面
11 試料ステージ
12 試料
14 XYステージ機構
15 Zステージ
16 試料ホルダ
20 探針
21 カンチレバー
23 Z微動機構
29 XY微動機構
61 基準台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対向する探針を有する探針部と、前記探針を移動させる探針移動機構と、前記探針と前記試料の間で生じる物理量を測定する測定部と、前記試料が載置される試料ステージとを備え、前記探針で前記試料の表面を走査して前記試料の表面を測定する走査型プローブ顕微鏡において、前記探針の軸方向の長さを測定する探針長さ測定機構を備えることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記探針長さ測定機構は、基準台と、この基準台に前記探針の先端を位置させる時の第1の位置と前記基準台に前記探針の基端を位置させる時の第2の位置を測定する測定手段と、前記第1の位置と前記第2の位置との差を前記探針の長さとして算出する長さ算出手段とを有することを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記探針部に前記探針を装着した後に、前記探針長さ測定機構によって使用前の前記探針の長さを測定することを特徴とする請求項1または2記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記探針長さ測定機構で測定された前記探針の長さを記録する記録手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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