説明

走査型光学装置

【課題】複数の電気光学素子を用いた場合でも、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な走査型光学装置を提供すること。
【解決手段】レーザ光を射出する光源装置11と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、光源装置11から射出されるレーザ光を一方向に走査する第1電気光学素子21及び該第1電気光学素子21から射出されたレーザ光を一方向と異なる方向に走査する第2電気光学素子26を有する光走査部20と、第1電気光学素子21と第2電気光学素子26との間の光路上に設けられ第1電気光学素子21から射出された光の偏光方向を回転させる偏光方向回転手段25とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光などのビーム状の光を被投射面上でラスタースキャンして画像を表示する走査型画像表示装置が提案されている。この装置では、レーザ光の供給を停止することで完全な黒を表現できるため、例えば液晶ライトバルブを用いたプロジェクタ等に比べて高コントラストの表示が可能である。また、レーザ光を使用した画像表示装置は、レーザ光が単一波長であるために色純度が高い、コヒーレンスが高いためにビームを整形しやすい(絞りやすい)等の特性を持つことから、高解像度、高色再現性を実現する高画質ディスプレイとして期待されている。また、走査型画像表示装置は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどと異なり、固定された画素を持たないため、画素数という概念がなく、解像度を変換し易いという利点も持っている。
【0003】
走査型画像表示装置で画像を生成するには、ポリゴンミラー、ガルバノミラーなどのスキャナを用いて光を2次元に走査する必要がある。1個のスキャナを水平方向、垂直方向の2方向に振りつつ光を2次元に走査する方法もあるが、その場合、走査系の構成や制御が複雑になるという問題がある。そこで、光を1次元に走査するスキャナを2組用意し、各々に水平走査と垂直走査を受け持たせるようにした走査型画像表示装置が提案されている。従来は、双方のスキャナともにポリゴンミラーやガルバノミラーを使用するのが普通であり、双方のスキャナに回転多面鏡(ポリゴンミラー)を用いた投写装置が下記の特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平1−245780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1ではポリゴンミラーを用いた装置が紹介されているが画像フォーマットの高解像度化に伴い、スキャン周波数も高くなってきており、ポリゴンミラーやガルバノミラーでは限界を迎えつつある。そこで、近年、高速側のスキャナにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したシステムが発表されている。MEMS技術を利用したスキャナ(以下、単にMEMSスキャナという)とは、シリコン等の半導体材料の微細加工技術を用いて製作するものであり、トーションバネ等で支持したミラーを静電力等により駆動するものである。このスキャナは、静電力とバネの復元力との相互作用でミラーを往復運動させて、光を走査することができる。MEMSスキャナを用いることにより、従来のスキャナに比べて高周波数、大偏角のスキャナを実現することができる。これにより、高解像度の画像を表示することが可能になる。
【0005】
ところで、高速のMEMSスキャナを実現するには、ミラーを共振点で往復運動させなければならないため、光利用効率などを考えると、走査線が視聴者から見て左から右へスキャンした後に、次の走査線は右から左にスキャンする(両側スキャン)システムとなる。
一方、画像信号はCRT(Cathode Ray Tube)をベースに規格が決まっているため、左から右へスキャンした後は短い時間で左に戻り、再度右へスキャンする(片側スキャン)システムに合わせたフォーマットとなっている。したがって、MEMSスキャナの場合、一部のデータは入力された信号の順番を反転して表示しなければならないため、信号の制御が複雑になる。
そこで、MEMSスキャン以外の走査手段としては、電気光学(EO:Electro Optic)スキャナが考えられる。EOスキャナとはEO結晶に電圧を加えることにより、その結晶中を透過する光の進行方向を変える素子である。このようにEOスキャナでは、電圧によりスキャン角を制御できるので、CRTと同様に片側スキャンによる描画が可能となる。
【0006】
EO結晶には、ポッケルス効果、あるいは、カー効果を有するものがあり、この効果は、入射する光の振動方向に対する依存性があり、特定の振動方向の光に対しては大きな偏角を得ることができるが、特定の振動方向と直交する振動方向の光に対してはそれほど大きな偏角を得ることはできない。したがって、複数のEOスキャナを用いて2次元走査を行う場合、後段に配置されたEO素子に入射する光の振動方向(偏光面)を考慮せずに、前段のEO素子から射出された光をそのまま入射させると、大きな偏角が得られないため、所望の形状(照射される領域のアスペクト比が4:3や16:9など)に光をスキャンすることが困難である。このため、大きな偏角を得るために、EO素子に印加する電圧をEO素子の特性以上に高くする必要が生じ、消費電力の増大を招いてしまう。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、複数の電気光学素子を用いた場合でも、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能な走査型光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の走査型光学装置は、レーザ光を射出する光源装置と、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記光源装置から射出されるレーザ光を一方向に走査する第1電気光学素子及び該第1電気光学素子から射出されたレーザ光を前記一方向と異なる方向に走査する第2電気光学素子を有する光走査部と、前記第1電気光学素子と前記第2電気光学素子との間の光路上に設けられ前記第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を回転させる偏光方向回転手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
まず、電気光学素子の性質について説明する。
電気光学素子は、電圧が印加されることにより内部に電界が生じ、屈折率分布が電界方向に向かって連続的に増加あるいは減少する。このため、電気光学素子の内部に生じる電界と垂直な方向に進行する光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ、電気光学素子から射出される。本発明の走査型光学装置では、光源装置から射出され第1電気光学素子に入射した光は、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ一方向に走査される。第1電気光学素子から射出された光は、偏光方向回転手段により、偏光面が回転する。そして、偏光面が回転した光は、第2電気光学素子に入射し、屈折率が低い側から高い側に向かって曲げられ他方向に走査される。
【0010】
ここで、偏光方向を考慮しないで、第1電気光学素子から射出された光をそのまま第2電気光学素子に入射させると、第2電気光学素子は第1電気光学素子とは異なる方向に走査することから、第2電気光学素子の最大偏角を得ることができる偏光方向から偏光面がずれてしまい、所望の偏角を得るために必要以上の電圧を印加させる必要が生じる。しかしながら、本発明では、偏光方向回転手段を備えているため、第2電気光学素子の最大偏角を得ることができる偏光方向の光に近づけて、電気光学素子から射出された光を第2電気光学素子に入射させることができる。したがって、第2電気光学素子に同じ電圧を印加したとき、偏光方向を考慮しない場合に比べて大きな偏角を得ることができるため、第2電気光学素子から射出される光の照明領域を所望の形状となるように走査することが容易となる。すなわち、本発明の走査型光学装置は、従来のように大きな偏角を得ようと高い電圧を印加させる必要がないため、第2電気光学素子の印加電圧に対するスキャン角度(走査角度)の効率を向上させることが可能となる。これにより、装置全体として低消費電力化を実現することが可能となる。
【0011】
また、前記偏光方向回転手段が、前記第1電気光学素子から射出された光に、前記第1電気光学素子から射出されたレーザ光の偏光方向が前記第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な偏光方向になるような偏光方向に回転させることが好ましい。
【0012】
本発明に係る走査型光学装置では、偏光方向回転手段により、第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を、第2電気光学素子の最大偏角を得ることができるような偏光方向に回転される。したがって、所望の偏角を得るために第2電気光学素子に印加する電圧を大きくする必要がない。その結果、第2電気光学素子の性能を最大限に利用することができるため、第2電気光学素子の印加電圧に対するスキャン角度の効率をより向上させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の走査型光学装置は、前記偏光方向回転手段が、1/2波長板であることが好ましい。
本発明に係る走査型光学装置では、偏光方向回転手段が1/2波長板であるため、偏光方向を、例えば90度回転させることにより、第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を、第2電気光学素子の最大偏角を得ることができるような偏光方向に回転させることが可能となる。したがって、偏光方向回転手段が1/2波長板であるため、簡易な構成で、精度良く第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を所望の偏光方向に変換することが可能となる。
【0014】
また、本発明の走査型光学装置は、前記偏光方向回転手段が1/2波長板である代わりに、前記偏光方向回転手段が旋光性を有する物質からなっていても良い。
本発明に係る走査型光学装置では、第1電気光学素子から射出した光は旋光性を有する物質からなる偏光方向回転手段を通過すると、偏光面が回転する。このように、旋光性を有する物質からなる偏光方向回転手段を用いることにより、安価に第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を所望の偏光方向に変換することが可能となる。
【0015】
また、本発明の走査型光学装置は、前記第1電気光学素子と前記第2電気光学素子の走査方向が互いに直交して配置されていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る走査型光学装置では、第1電気光学素子及び第2電気光学素子が直交して配置されているため、第1電気光学素子及び第2電気光学素子のうちいずれか一方を水平走査に用い、他方を垂直走査に用いることができる。したがって、第1,第2電気光学素子から射出されるレーザ光のスキャン範囲をより大きくすることができる。
【0017】
また、本発明の走査型光学装置は、前前記第1電気光学素子及び第2電気光学素子の電気光学効果が結晶方位依存性を有し、前記偏光方向回転手段が、前記第1電気光学素子から射出された光に、前記第1電気光学素子から射出されたレーザ光の偏光方向が前記第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な前記第2電気光学素子の結晶方位に一致するような偏光方向に回転させることが好ましい。
【0018】
本発明に係る走査型光学装置では、偏光方向回転手段により、第1電気光学素子から射出された光に、第1電気光学素子から射出されたレーザ光の偏光方向が第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な第2電気光学素子の結晶方位に一致するような偏光方向に回転される。したがって、第2電気光学素子に入射する光の偏光方向と第2電気光学素子の結晶方位を一致させることで、第2電気光学素子から最大偏角のレーザ光を射出させることが可能となる。
【0019】
また、本発明の走査型光学装置は、前記電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る走査型光学装置では、電気光学素子が、高い誘電率を有する誘電体材料であるKTa1−xNb3(タンタル酸ニオブ酸カリウム)の組成を有する結晶である(以下、KTN結晶と称す)。KTN結晶は、立方晶から正方晶さらに菱面体晶へと温度により結晶系を変える性質を有しており、立方晶においては、大きい2次の電気光学効果を有することが知られている。特に、立方晶から正方晶への相転移温度に近い領域では、比誘電率が発散する現象が起こり、比誘電率の自乗に比例する2次の電気光学効果はきわめて大きい値となる。したがって、KTa1−xNb3の組成を有する結晶は、他の結晶に比べて屈折率を変化させる際に必要になる印加電圧を低く抑えることが可能となる。これにより、省電力化を実現可能な走査型光学装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る走査型光学装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
[第1実施形態]
走査型光学装置1は、図1に示すように、レーザ光を射出する光源装置(LD:レーザダイオード)11と、光源装置11から射出されたレーザ光を走査する光走査部20とを備えている。
【0023】
光走査部20は、光源装置11から射出されたレーザ光の光路上に配置された2つの電気光学素子21,26と電気光学素子21,26の間の光路上に配置された1/2波長板25(偏光方向回転手段)とを備えている。ここで、光源装置11に近い側に配置された電気光学素子21を第1電気光学素子とし、光源装置11から遠い側に配置された電気光学素子26を第2電気光学素子とする。
なお、本実施形態で用いられる第1,第2電気光学素子21,26は、電圧の印加方向と入射光の偏光方向とが同じである場合、電気光学素子から最大偏角の光を射出させることが可能な素子である。
【0024】
第1電気光学素子21は、照明領域Kにおいて2方向(垂直方向v、水平方向h)の走査のうち、光源装置11から射出される光を垂直方向(一方向)vに走査する垂直走査用スキャナであり、第2電気光学素子26は、第1電気光学素子21から射出される光を水平方向(一方向と異なる方向)hに走査する水平走査用スキャナである。
なお、ここで言う「水平走査用スキャナ」は、2方向の走査のうち、高速側の走査を担うスキャナであり、「垂直走査用スキャナ」は、低速側の走査を担うスキャナである。
【0025】
まず、第1電気光学素子について説明する。
第1電気光学素子21は、図1に示すように、内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、光源装置11から射出されるレーザ光を走査するものであり、図1に示すように、第1電極22と、第2電極23と、光学素子24とを備えている。
光学素子24は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1−xNb3)の組成を有する結晶材料で構成されている。また、KTN結晶はカー効果(等方性材料に電場をかけると複屈折性が生じる現象であり、印加電圧により発生した電界の強さの二乗に比例する)を利用した結晶である。
また、光学素子24は、直方体形状であり、光学素子24の上面24aには第1電極22が配置され、下面24bには第2電極23が配置されている。この第1電極22及び第2電極23には、電圧を印加する電源Eが接続されている。また、第1電極22及び第2電極23は、図1に示すように、光学素子24内を進行するレーザ光Lの進行方向の寸法がほぼ同じである。これにより、第1電極22と第2電極23との間の光学素子24に電界が生じるようになっている。例えば、第2電極23より第1電極22に高い電圧が印加されると、第1電極22から第2電極23に向かって(矢印Aに示す方向)電界が生じる。その結果、電気光学結晶の屈折率は第1電極22から第2電極23に向かって高くなる。また、矢印Aは、第1,第2電極22,23の配列方向、すなわち、電圧の印加方向である。
【0026】
また、光学素子24は、図1に示すように、第1電気光学素子21の入射端面21aの第1電極22に近い側からレーザ光を入射させるように配置されている。これにより、本実施形態の第1電気光学素子21は、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査を行う。つまり、第1電気光学素子21の屈折率分布により、光学素子24に入射したレーザ光は第2電極23側のみに曲げられるため、光学素子24の第1電極22側からレーザ光を入射させることにより、スキャン範囲を大きく取ることが可能となっている。
また、光源装置11は、矢印で示すように、垂直方向vと平行な直線偏光(以降v偏光とする)のレーザ光を射出するものである。すなわち、第1電気光学素子21の電圧の印加方向Aと、光源装置11から射出されるレーザ光の偏光方向(v偏光)とを合わせることで、第1電気光学素子21から最大偏角の光を射出させることが可能となる。
さらに、光源装置11は、射出されたレーザ光Lが電気光学素子21の入射端面21aに対して垂直に入射するように配置されている。
【0027】
次に、第1電気光学素子の動作について説明する。
第1電極22には、電源Eにより例えば+100Vの電圧が印加され、第2電極23には、電源Eにより例えば0Vの電圧が印加される。第1,第2電極22,23に電圧を印加することで、光学素子24には第1電極22から第2電極23に向かって電界が生じる。これにより、光学素子24の屈折率は、第1電極22側が低くなり、第2電極23側に向かって屈折率が徐々に高くなる。これにより、光学素子24の内部に生じる電界方向Aと垂直な方向に進行するレーザ光は屈折する。具体的には、第1電気光学素子21の入射端面21aから入射したレーザ光Lは、光学素子24の屈折率が高い第2電極23側に向かって曲げられる。
【0028】
次に、光源装置から射出されるレーザ光の走査について説明する。
第1電極22に印加される電圧の波形は、例えば、図2に示すように、鋸歯状の波形である。この初期値S1(0V)の電圧を第1電極22に印加すると、図1に示すように、光源装置11から射出され光学素子24を進行するレーザ光L1は直進し第1電気光学素子21の射出端面21bから射出される。
【0029】
また、第1電極22に印加する電圧値を、図2の電圧の波形に示すように徐々に上げると、光学素子24の屈折率勾配が大きくなる。これにより、第1電極22に印加する電圧を上げ徐々に最大の電圧値S2(+100V)まで上げると、図1に示すように、光源装置11から射出され光学素子24を進行するレーザ光L2は、光学素子24内において印加電圧の上昇とともに徐々に大きく屈折する。これにより、第1電気光学素子21の射出端面21bから射出される光は、スキャン範囲において電界方向Aと同じ方向に走査される。
【0030】
このように、図2に示す波形の電圧を第1電極22に印加することで、光源装置11から射出されたレーザ光Lは、電気光学素子21によりレーザ光L1からレーザ光L2までのスキャン範囲(走査範囲)内を走査されるようになっている。すなわち、第1電極22に印加する電圧を変化させることで、第1電気光学素子21の射出端面21bから射出されるレーザ光は1次元方向に走査される。
なお、第1電気光学素子21に印加される印加電圧の値である初期値0V,最大電圧値+100Vは一例に過ぎず、第1電気光学素子21から射出される光の偏角の大きさや、光学素子24の厚みによって適宜変更が可能である。
【0031】
1/2波長板25は、図1に示すように、当該1/2波長板25の光学軸(常光と異常光に分かれない方向)Pが、入射するレーザ光の偏光方向(v偏光)と45度の角度をなすように配置されている。このように配置することで、第1電気光学素子21から射出されたレーザ光は、1/2波長板25を通過することで複屈折効果により偏光面が90度回転する。したがって、1/2波長板25を通過した後のレーザ光は、水平方向hと平行な直線偏光(以降h偏光とする)の光となる。
【0032】
次に、第2電気光学素子について説明する。
第2電気光学素子26は第1電気光学素子21と同様の構成であり、配置及び大きさのみ異なる。
すなわち、第2電気光学素子26は、第1電気光学素子21と同様に、第1電極27と、第2電極28と、光学素子29とにより構成されている。なお、第2電気光学素子26も第1電気光学素子21と同様に、入射したレーザ光を基準に片側に走査する片側走査となっている。
また、光学素子29の大きさは、第1電気光学素子21から走査されたレーザ光を入射可能な入射端面26aを有する大きさとなっている。
また、第2電極28より第1電極27に高い電圧が印加されると、第1電極27から第2電極28に向かって(矢印Bに示す方向)電界が生じる。その結果、電気光学結晶の屈折率は第1電極22から第2電極23に向かって高くなる。また、矢印Bは、第1,第2電極27,28の配列方向、すなわち、電圧の印加方向である。
【0033】
KTN結晶は、電圧の印加方向Aとスキャン方向とが略一致するため、第1電気光学素子21が光源装置11から射出されたレーザ光を垂直方向に走査し、第2電気光学素子26が第1電気光学素子21から射出されたレーザ光を水平方向に走査するには、第1電気光学素子21の電圧の印加方向Aと、第2電気光学素子26の電圧の印加方向Bとを略直交させて配置する。具体的には、第2電気光学素子26は、第1電気光学素子21の配置に対して、レーザ光L1の光路を中心に90度回転させた状態で、光源装置11から射出されたレーザ光の光路上に配置されている。これにより、第2電気光学素子26の射出端面26bから射出される光は、スキャン範囲において電界方向Bと同じ方向に走査される。
【0034】
次に、光源装置11から射出されたレーザ光の走査について説明する。
第1電気光学素子21から射出されたレーザ光L1は、第2電気光学素子26によりレーザ光L1aからレーザ光L1bまでのスキャン範囲(走査範囲)内を走査されるようになっている。同様に、第1電気光学素子21から射出されたレーザ光L2も、第2電気光学素子26によりレーザ光L2aからレーザ光L2bまでのスキャン範囲(走査範囲)内を走査されるようになっている。
【0035】
ここで、第1電気光学素子21から射出され第2電気光学素子26に向かうv偏光の光は、1/2波長板25によりh偏光の光に変換される。このとき、第2電気光学素子26は、光源装置11から射出されたレーザ光を水平方向に走査させるため、第1電気光学素子21の配置に対して、レーザ光L1の光路を中心に90度回転させた状態で配置されている。これにより、第2電気光学素子26に入射する光の偏光方向は、第2電気光学素子26の電圧の印加方向Bと一致するため、第2電気光学素子26から最大偏角の光を射出させることが可能である。
なお、第2電気光学素子26から射出されるレーザ光の偏角の大きさは、照明領域Kの大きさに応じて、第1,第2電極27,28に印加する電圧や、光学素子29の厚みを変えることで適宜変更が可能となる。
【0036】
本実施形態に係る走査型光学装置1では、1/2波長板25を備えることにより、第1電気光学素子21から射出される光の、偏光方向を回転させることができる。したがって、第2電気光学素子26に入射する光の偏光方向を第2電気光学素子26の電界方向Bに一致させることができるため、第2電気光学素子26は最大偏角の光を第2電気光学素子26から射出させることが可能である。したがって、第2電気光学素子26に印加する電圧に対するスキャン角度(走査角度)の効率を向上させることが可能となる。すなわち、装置全体として低消費電力化を実現することが可能となる。
さらに、第2電気光学素子26の性能を最大限に利用することができるため、大きな偏角で光を射出させることが可能となる。これにより、第1,第2電気光学素子21,26に印加する電圧等を制御することで、照明領域Kを所望の形状にすることが容易になる。
また、第1電気光学素子21においても、入射するレーザ光の偏光方向と第1電気光学素子21の電圧の印加方向Aとが一致しているため、第1電気光学素子21に印加する電圧に対するスキャン角度(走査角度)の効率を向上させることが可能となる。
つまり、本実施形態の走査型光学装置1は、複数の電気光学素子を用いた場合でも、大きな偏角を得ることができるとともに、省電力化を図ることが可能である。
【0037】
なお、本実施形態では、第1,第2電気光学素子21,26から射出されるレーザ光を片側のみ走査させたが、レーザ光を両側走査させても良い。この構成では、第1電極22に印加する電圧を正の電圧から負の電圧に変化させることで、第1,第2電気光学素子21,26の入射端面21a,26aの中央から入射したレーザ光を、当該レーザ光を中心に両側に走査することが可能となる。また、どちらか一方の電気光学素子から射出される光を片側走査にし、他方の電気光学素子から射出される光を両側走査させても良い。
さらに、1/2波長板25の光学軸Pを第1電気光学素子21から射出されたレーザ光の偏光方向と45度の角度をなすように配置させたが、第2電気光学素子26の電圧の印加方向に応じて、第1電気光学素子21から射出されたレーザ光の偏光方向と光学軸Pとのなす角を設定すれば良い。
また、1/2波長板25が光軸に垂直な面内で回転可能に配置されていても良い。この構成により、第1電気光学素子21から射出されるレーザ光の偏光方向と第2電気光学素子26の電圧印加方向Bとが90度ずれていない場合でも1/2波長板25を回転させることにより調整することが可能となる。
【0038】
[第1実施形態の変形例]
図1に示す第1実施形態では、偏光方向回転手段として1/2波長板を用いたが、旋光性を有する物質からなっていても良い。具体的には、偏光方向回転手段としては、水晶等の旋光性結晶や液晶素子を用いても良い。また、旋光性は光学活性とも呼ばれており、光学活性な化学物質としては、砂糖、アミノ酸、コレステロール等の物質が挙げられる。この光学活性を有する水溶液に、第1電気光学素子21から射出された光を入射させると、偏光面が回転する。したがって、このような水溶液を偏光方向回転手段として用い、第2電気光学素子26に入射する光の偏光面を第2電気光学素子26の最大偏角を得ることが可能な偏光方向の光に変換することも可能である。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明に係る第2実施形態について、図3を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上述した第1実施形態に係る走査型光学装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係る走査型光学装置30では、第1,第2電気光学素子31,36として、LiNbO(ニオブ酸リチウム)を用いる点において第1実施形態と異なる。また、第1,第2電気光学素子31,36の構成及び機能は、第1実施形態の第1,第2電気光学素子21,26と同様である。
【0040】
第1電気光学素子31は、図3に示すように、第1電気光学素子21と同様に、第1電極32と、第2電極33と、光学素子34とにより構成されており、第2電気光学素子36は、第1電極37と、第2電極38と、光学素子39とにより構成されている。
また、光学素子34,39は、電気光学効果を有する誘電体結晶(電気光学結晶)であり、本実施形態ではLiNbO(ニオブ酸リチウム:以下、LNと称す)の組成を有する結晶材料で構成されている。
【0041】
第1電気光学素子31は、LN結晶からなるため、第1電気光学素子31の最大偏角を得ることが可能な結晶方位C1が存在する。同様に、第2電気光学素子36も、LN結晶からなるため、第2電気光学素子36の最大偏角を得ることが可能な結晶方位C2が存在する。
ここで、本実施形態で用いられる第1,第2電気光学素子31,36は、電圧の印加方向と光源装置11から射出された光の偏光方向と第1,第2電気光学素子31,36の結晶方位とが同じである場合、第1,第2電気光学素子31,36から最大偏角の光を射出させることが可能な素子である。
したがって、第1電気光学素子31の第1,第2電極32,33は、結晶方位C1に電圧が印加されるように結晶方位C1に沿って配置されており、第2電気光学素子36の第1,第2電極37,38も同様に、結晶方位C2に電圧が印加されるように結晶方位C2に沿って配置されている。
【0042】
また、LN結晶は、結晶方位C1,C2とスキャン方向とが略一致するため、第1電気光学素子31が光源装置11から射出された光を垂直方向に走査し、第2電気光学素子36が第1電気光学素子31から射出された光を水平方向に走査するには、第1電気光学素子31の結晶方位C1と、第2電気光学素子36の結晶方位C2とを略直交させて配置する。
また、第1電気光学素子31から射出され第2電気光学素子36に向かうv偏光の光は、1/2波長板25によりh偏光の光に変換される。これにより、第2電気光学素子36に入射する光は、第2電気光学素子36の結晶方位C2と一致するため、第2電気光学素子36から最大偏角の光を射出させることが可能となる。
【0043】
以上より、第1実施形態では、光学素子として等方性であるKTN結晶を用いているため、結晶方位を考慮する必要はなかったが、本実施形態で用いたLN結晶のように、電気光学効果が結晶方位依存性を有する場合、結晶方位を考慮する必要が生じる。そこで、本実施形態のように、第1電気光学素子31から射出された光の偏光方向を変換し、第2電気光学素子36に入射する光の偏光方向を第2電気光学素子36の結晶方位C2に一致させる。これにより、第2電気光学素子36の印加電圧に対するスキャン角度(走査角度)の効率を向上させることが可能となる。
【0044】
[第3実施形態]
次に、本発明に係る第3実施形態について、図4を参照して説明する。
第1実施形態では、単色の光源装置を用いた走査型光学装置の例を説明したが、本実施形態に係る走査型光学装置40は、3色の光源装置を用いて、スクリーンに画像を投影させる画像表示装置である。また、本実施形態に用いられる光走査部20は第1,第2実施形態と同様のものである。
【0045】
本実施形態に係る画像表示装置40は、図4に示すように、赤色のレーザ光を射出する赤色光源装置(光源装置)40Rと、緑色のレーザ光を射出する緑色光源装置(光源装置)40Gと、青色のレーザ光を射出する青色光源装置(光源装置)40Bと、クロスダイクロイックプリズム46と、クロスダイクロイックプリズム46から射出されたレーザ光をスクリーン45の垂直方向に走査する第1電気光学素子21と、第1電気光学素子21から射出されたレーザ光をスクリーン45の水平方向に走査する第2電気光学素子26とを備えている。
また、第1電気光学素子21と第2電気光学素子26の間の光路上には1/2波長板25が設けられている。
【0046】
次に、以上の構成からなる本実施形態の画像表示装置40を用いて、画像をスクリーン45に投射する方法について説明する。
各光源装置40R,40G,40Bから射出された複数のレーザ光は、クロスダイクロイックプリズム46で合成され電気光学素子21に入射する。第1電気光学素子21に入射したレーザ光は、スクリーン45の垂直方向に走査され、第2電気光学素子26により水平方向に走査されてスクリーン45に投影される。
【0047】
本実施形態に係る画像表示装置40では、第1実施形態の走査型光学装置1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態の画像表示装置40では、第1,第2電気光学素子21,26から射出されるレーザ光の偏角が大きいため、DCI(Digital Cinema Initiatives)仕様の4k等の解像度に対応可能となる。したがって、画質の劣化を生じさせることなく、画像をより鮮明にスクリーン45に表示させることができる。また、本実施形態の画像表示装置40では、第2電気光学素子26の印加電圧に対するスキャン角度の効率を向上させることができるため、装置全体の低消費電力化を図ることが可能となる。
【0048】
しかも、第1,第2電気光学素子21,26からなる走査手段は、MEMSスキャナより高速に走査することができるため、本実施形態のように、水平走査及び垂直走査ともに電気光学素子からなる走査手段を用いることにより、高性能な画像表示装置の実現が期待できる。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、光源装置としてv偏光のレーザ光を射出するものを用いたが、h偏光のレーザ光を射出するものを用いても良い。この構成の場合、上記第1電気光学素子及び第2電気光学素子の配置をレーザ光の光路を中心に90度回転させた状態で配置すれば良い。
また、第1,第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な偏光方向が、電圧の印加方向と垂直な方向に振動する方向である場合も、上記第1電気光学素子及び第2電気光学素子の配置をレーザ光の光路を中心に90度回転させた状態で配置すれば良い。
さらに、第2電気光学素子に入射する光の偏光方向を第2電気光学素子の電圧の印加方向に一致させたが、電圧の印加方向に近づけるだけでも、第2電気光学素子に入射する光の偏光方向と第2電気光学素子の電圧の印加方向とが90度ずれている場合に比べて大きな偏角を得ることができる。
【0050】
また、垂直走査を行う電気光学素子をレーザ光の光路上の前段に配置したが、水平走査を行う電気光学素子を前段に配置しても良い。
さらに、電気光学素子を2つ用いて説明したが、個数はこれに限るものではない。例えば、第2電気光学素子から射出される光の偏角を大きくしたり、歪みを補正するために、第2電気光学素子の後段側に電気光学素子を設けても良い。
また、第3実施形態では、走査型光学装置として画像表示装置について説明したが、これに限らず、レーザ光を2方向に走査する装置に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1の電気光学素子の電極に印加する電圧の波形を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る走査型光学装置の概略構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
C1,C2…結晶方位、1,30,40…走査型光学装置、11…光源装置、20…光走査部、21,31…第1電気光学素子、26,36…第2電気光学素子、25…1/2波長板(偏光方向回転手段)、40R…赤色光源装置(光源装置)、40G…緑色光源装置(光源装置)、40B…青色光源装置(光源装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を射出する光源装置と、
内部に生じる電界の大きさに応じて屈折率分布が変化することによって、前記光源装置から射出されるレーザ光を一方向に走査する第1電気光学素子及び該第1電気光学素子から射出されたレーザ光を前記一方向と異なる方向に走査する第2電気光学素子を有する光走査部と、
前記第1電気光学素子と前記第2電気光学素子との間の光路上に設けられ前記第1電気光学素子から射出された光の偏光方向を回転させる偏光方向回転手段とを備えることを特徴とする走査型光学装置。
【請求項2】
前記偏光方向回転手段が、前記第1電気光学素子から射出された光に、前記第1電気光学素子から射出されたレーザ光の偏光方向が前記第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な偏光方向になるような偏光方向に回転させることを特徴とする請求項1に記載の走査型光学装置。
【請求項3】
前記偏光方向回転手段が、1/2波長板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型光学装置。
【請求項4】
前記偏光方向回転手段が、旋光性を有する物質からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型光学装置。
【請求項5】
前記第1電気光学素子と前記第2電気光学素子の走査方向が互いに直交して配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の走査型光学装置。
【請求項6】
前記第1電気光学素子及び第2電気光学素子の電気光学効果が結晶方位依存性を有し、
前記偏光方向回転手段が、前記第1電気光学素子から射出された光に、前記第1電気光学素子から射出されたレーザ光の偏光方向が前記第2電気光学素子の最大偏角を得ることが可能な前記第2電気光学素子の結晶方位に一致するような偏光方向に回転させることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の走査型光学装置。
【請求項7】
前記第1電気光学素子及び前記第2電気光学素子がKTa1−xNb3の組成を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の走査型光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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