走査電子顕微鏡
【課題】任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】試料からの電子を検出することによって像を得る走査電子顕微鏡において、試料19からの二次電子と反射電子とを弁別する制御電極18と、反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極13とその二次電子を引き上げる電極12と、引き上げられた二次電子と試料19からの反射電子を弁別するエネルギーフィルタ11と、二次電子変換電極13と引き上げ電極12とエネルギーフィルタ11への印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段36とを有する。
【解決手段】試料からの電子を検出することによって像を得る走査電子顕微鏡において、試料19からの二次電子と反射電子とを弁別する制御電極18と、反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極13とその二次電子を引き上げる電極12と、引き上げられた二次電子と試料19からの反射電子を弁別するエネルギーフィルタ11と、二次電子変換電極13と引き上げ電極12とエネルギーフィルタ11への印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段36とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料表面に電子ビームを照射し、試料から発生する二次信号を検出することで試料表面の形状あるいは組成等を表す二次元の走査像を得る走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、加速型または電界放出型の電子源から放出された電子を加速し、静電レンズ、または磁界レンズを用いて細い電子ビーム(一次電子線)とし、該一次電子線を観察する試料上に二次元走査し、該一次電子線照射で試料から二次的に発生する二次電子または反射電子等の二次信号を検出し、検出信号強度を一次電子ビームの走査と同期して走査されるブラウン管等の表示装置の輝度変調入力とすることで二次元の走査像を得る装置である。
【0003】
一次電子線の照射によって試料から発生する二次信号は広いエネルギー分布を有する。例えば、試料に入射した一次電子は固体表面の原子により弾性散乱され、試料表面を飛び出す電子がある。これは反射電子と呼ばれ、一次電子線と同等、あるいはある程度高いエネルギーを有する。また、試料に入射した一次電子が試料内の原子と相互作用し、試料内の電子が励起されて運動エネルギーを得て外部に放出される電子がある。これは二次電子と呼ばれ、0eVから50eV程度までの範囲のエネルギーを有する。
【0004】
二次電子と反射電子は発生原因の違いゆえに個々に固有の情報を有している。低いエネルギーの二次電子は試料内から脱出できる深さが小さいため、試料表面の微細構造を高い分解能で得られる。高いエネルギーの反射電子は種々の方向の仰角成分を持ち、仰角ごとに得られる試料の情報が異なる。なお、ここでは反射電子の仰角を、照射された一次電子線の光軸と、反射電子が試料表面から放出される方向との成す角度と定義する。大きな仰角を持つ反射電子(高角成分)は、内部情報や組成情報に加えて表面情報も比較的多く含まれている。二次電子では強いエッジコントラストが得られる特徴を持つが、大きな仰角の反射電子を観察することでエッジコントラストを抑えて表面情報を得ることができる利点がある。また、小さな仰角を持つ反射電子(低角成分)は、試料の表面情報が乏しい反面、組成情報に敏感である。試料から出射する二次電子と反射電子は以上のような試料情報を持つため、従来は観察する試料に応じて二次電子信号や反射電子信号を選択することで試料の所望の情報を得、この情報を強調した画像を得てきた。
【0005】
走査電子顕微鏡で観察する対象は半導体素子から生体試料まで多岐にわたる。半導体素子の観察や計測では、これまでは主に二次電子像が用いられてきたが、試料形状の複雑化により目的に即した試料情報を得るために反射電子信号を用いる必要性が増している。しかし、試料から出射される反射電子の数は二次電子に較べて5分の1以下と少ない上に高い運動エネルギーを持つために電極により軌道を制御することが困難である。従来の走査電子顕微鏡の構成では反射電子の多くは検出器に到達する前に電極や装置の壁面に衝突するために検出できず、上記の理由により二次電子像に較べて反射電子像は観察や計測に充分なS/Nが得られなかった。この問題を解決するために、特許文献1では反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と二次電子変換電極で発生した二次電子を引き上げるための引き上げ電極を設置して試料から低い角度で発生した反射電子を効率良く検出することで反射電子の検出率を従来よりも向上する手法を開示している。また、特許文献2では特許文献1と同様の装置構成を用いて反射電子の検出率を向上し、さらに、含まれる試料情報の異なる3種類の二次信号(二次電子、低角度の反射電子、高角度の反射電子)をそれぞれ任意の比率で加算することで観察目的に応じた最適な試料信号を生成する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO00/19482号パンフレット
【特許文献2】特開2002−110079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術により走査電子顕微鏡において反射電子の検出率が向上できるようになった。また、二次電子信号と反射電子信号を加算する比率を観察試料に応じて変えることで観察目的に即した画像を得ることができるようになった。
【0008】
そこで発明者らは、一例として図5Aに示す断面構造の穴を有する試料において、反射電子や二次電子を用いることにより、具体的にどのような情報が得られるかについて検討を行った。
図5に取得する信号電子の選択によるプロファイルの違いの一例を示す。ここでは、深い穴あるいは溝が作成された試料を例として示す。試料に電子線を照射すると様々な仰角で二次電子と反射電子が出射する。二次電子はエネルギーが低いため、図5Aに示すように外部の電界の影響を大きく受け、特に分解能を向上するために用いられるリターディング法の電圧条件では、リターディング電界により試料から引き上げられて検出される。ラインプロファイルは図5Bに示すように、パターンのエッジ部分で二次電子が多く放出されるエッジ効果により、穴の端の部分にピークが観察される。このピークはホワイトバンドと呼ばれ、ホワイトバンドを用いて穴の寸法が計測される。パターンのトップ部とボトム部のコントラストは、それぞれの部分の材料の二次電子放出効率に依存したコントラストが観察される。反射電子に関してはエネルギーが充分高いため、ボトム部で発生した反射電子のうち高角成分はリターディング電界により穴から引き上げられる前に側面に衝突して穴から脱出することができない(図5C)。一方、トップ部から出射した反射電子は全ての仰角成分が試料外へ出射することが可能である。この状態で得られた反射電子信号をもとに画像を取得すると、トップ部とボトム部の反射電子放出効率の差と検出率の差に従ったコントラストが観察される(図5D実線)。ここで、ボトム部で検出されない角度成分を除いて反射電子を選択して検出すると、試料構造に起因した検出率の差の影響を取り除くことができ、トップ部とボトム部の純粋な材料コントラストを得ることができる。または、ボトム部で検出されない仰角成分のみを取得して画像を作成すると、トップ部とボトム部のコントラストを強調した画像を得ることができる(図5D破線)。さらに、ボトム部に構造がありそのパターン形状を調べたい場合には、少し角度を持つ成分のみを検出することでボトム部のパターン形状を強調して観察することが可能となる。このように、特定の角度の反射電子を選択して検出することで材料コントラストの強調やパターン形状の鮮明化が可能となる。すなわち、観察対象の試料構造や観察目的の多様化により反射電子の放出角度を任意に選択して検出することが有効であることが分かった。
【0009】
しかしながら、上記従来技術では検出する反射電子の放出角度を高角度と低角度の二種類でのみしか分類しておらず、任意の放出角度の反射電子を選択して検出する手法は開示されていない。また、特許文献1では低角度の反射電子と高角度の反射電子により発生した二次電子を分けて検出するために二次電子偏向器を用いているが、後者の二次電子は引き上げ電極により加速されているために前者とのエネルギー差は小さく、二次電子のみを偏向しようとしても低角度の反射電子も変更されて検出率が低下することが予想される。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためのものであり、本発明の目的は、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、走査電子顕微鏡の対物レンズと試料の間に制御電極と、前記対物レンズの上側磁極と検出器の間に反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、前記二次電子を引き上げる引き上げ電極と、エネルギーフィルタとを設置し、二次電子変換電極と引き上げ電極、エネルギーフィルタの電圧の組み合わせを選択して反射電子の検出角度範囲を制御する。また、オペレータが検出する角度範囲を選択することにより、二次電子変換電極と引き上げ電極に決められた電圧値と、対応した撮像条件の制御パラメータが制御テーブルを参照して自動的に選択される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、試料の形状や材料に応じて検出する反射電子の角度範囲を任意に選択して画像を得ることが可能な走査電子顕微鏡を提供することがでる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。
【図2A】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極と試料の電位差が0あるいは制御電極が試料よりも正の電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2B】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極が試料よりも負の電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2C】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極が試料よりも充分負に大きい電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2D】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極と試料の電位差を変化させたときの制御電極を通過する電子数をプロットした図を示す。
【図3A】図1の装置構成において反射電子を検出する概略図であり、エネルギーフィルタに負電圧を印加しないときの反射電子の軌道を示す。
【図3B】図1の装置構成において反射電子を検出する概略図であり、エネルギーフィルタに負電圧を印加したときの反射電子の軌道を示す。
【図4】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、エネルギーフィルタにより反射電子の高角成分と低角成分を分けて画像を取得するフローチャートである。
【図5A】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、トップ部とボトム部で発生する二次電子の軌道を示す。
【図5B】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、二次電子信号を検出して得られるラインプロファイルを示す。
【図5C】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、トップ部とボトム部で発生する反射電子の軌道を示す。
【図5D】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、反射電子信号を検出して得られるラインプロファイルで、実線は検出角度を広く取った場合のラインプロファイル、破線は検出角度を選択して絞った場合のラインプロファイルを示す。
【図6】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、引き上げ電極の電圧を変えたときの検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図7】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、二次電子変換電極の電圧を変えたときの検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図8】図6と同じ条件で一次電子線の入射エネルギーを下げた場合の検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図9】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて検出する反射電子の角度を設定するGUIの一例を示す図である。
【図10】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて検出する反射電子の角度を設定して画像を取得するフローチャートである。
【図11】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて異なる二つの電圧条件で得られる反射電子の角度分布とこれらの差分で得られる反射電子の角度分布の一例を示す図である。
【図12】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて異なる二つの電圧条件で得られる二枚の画像の差分画像を作成するフローチャートである。
【図13】第二の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。
【図14】第三の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて試料構造と観察目的を設定するGUIの一例を示す図である。
【図15】第三の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて試料構造と観察目的を設定して画像を取得するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の第一の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。本実施例では、半導体ウエハなどの大型試料に対してウエハ上の配線などの測長や検査を行うことを目的とし、一次電子線のエネルギーを数100eVから数keVの低入射エネルギーとした場合の構成を用いている。ただし、同様の構成を用いる電子顕微鏡であれば対象としている試料や目的、入射エネルギーが大きくても適用が可能である。
【0016】
装置内の電圧や電流の設定は制御テーブル39に保存された条件を装置全体の制御演算装置36が読み出し、符号27から35の各制御部を用いて行う。オペレータが測定条件を変更するように指示した場合には自動で制御テーブルを読み出し、制御パラメータの変更を行う。なお、符号27は電子銃制御部、符号28はコンデンサレンズ制御部、符号29は走査偏向器制御部、符号30はエネルギーフィルタ制御部、符号31は引き上げ電極制御部、符号32は二次電子変換電極制御部、符号33は対物レンズ制御部、符号34は制御電極制御部、符号35は試料電圧制御部を示す。また、同一符号は同一構成要素を示す。
【0017】
電界放出陰極1と引出電極2の間に引出電圧を印加すると、放出電子3が放出される。放出電子3は引出電極2と接地電位にある陽極4の間でさらに加速される。陽極4を通過した電子ビームのエネルギーは電子銃(電界放出陰極1と引出電極2とを含む)の加速電圧と一致する。陽極4を通過した一次電子ビームはコンデンサレンズ5、上走査偏向器8、下走査偏向器9で走査偏向を受けた後、対物レンズ17で試料上に細く絞られる。対物レンズ17は対物レンズコイル14と上側磁極15と下側磁極16から構成され、対物レンズコイル14で発生した磁界を上下磁極のギャップから漏洩させて光軸上に集中させ、電子ビームを収束させる。磁界レンズの強度は対物レンズコイル14の電流量を変化させることで調整する。対物レンズ17を通過した一次電子ビームは対物レンズ17と試料19の間に作られた減速電界で減速され、試料19に到達する。この構成では、対物レンズ17を通過するときの一次電子のエネルギーは試料19に入射するエネルギーよりも高くなっている。この結果、最終的なエネルギーの一次電子ビームを対物レンズ17に通す場合に比較すると、対物レンズ17での色収差が減少し、より細い電子ビームが得られて高分解能を達成する。対物レンズ17の一次電子ビームの開き角はコンデンサレンズ5の下方に置かれた絞り6で決められる。絞り6のセンタリングは調整つまみ7で行う。図では機械的な調節を行っているが、絞り6の前後に静電偏向器または磁界偏向器を設け、電子ビームを偏向させて調整してもよい。対物レンズ17で細く絞られた電子ビームは上走査偏向器8と下走査偏向器9で試料上を走査されるが、このとき上走査偏向器8と下走査偏向器9の偏向方向と強度は走査した電子ビームが常に対物レンズ17の中央を通るように調整されている。試料19は試料ホルダ20の上に固定されている。
【0018】
一次電子ビームが試料19を照射することで二次電子と反射電子21が発生する。対物レンズ17と試料19の間に作られた減速電界は試料19で発生した二次電子や反射電子21に対しては加速電界として働くため、対物レンズ17の通路内に吸引され、対物レンズ17の磁界でレンズ作用を受けながら昇っていく。加速された二次電子や反射電子21は電極(変換電極)10に衝突してさらに二次電子22を発生させる。発生した二次電子22は対物レンズ17と下走査偏向器9の間に置かれた吸引電極23の横方向電界で吸引され、吸引電極23のメッシュを通した後、正の電圧、例えば10kVの高電圧が印加されたシンチレータ24で加速され、シンチレータ24を光らせる。発光した光はライトガイド25で光電子増倍管26に導かれ電気信号に変換される。光電子増倍管26の出力はさらに増幅され、輝度変調入力信号となり画像として構成され、モニタ38に表示されて記録装置37に保存される。本実施例に係る走査電子顕微鏡の特徴は試料19と対物レンズ17の間に設置した制御電極18と、対物レンズ17と下走査偏向器9の間に設置した二次電子変換電極13と引き上げ電極12、エネルギーフィルタ11である。これらの機能について図2A〜図2Dと図3A、図3Bを用いて説明する。
【0019】
図2A〜図2Dは制御電極18による二次電子と反射電子を弁別する機能を説明する模式図である。一次電子ビームが試料19を照射すると二次電子40や反射電子41が発生する。制御電極18と試料19の電位差が0あるいは制御電極18が試料19よりも正の電位の場合には、図2Aに示すように二次電子40と反射電子41はともに制御電極18の中心の穴を通過する。一方、制御電極18が試料19よりもわずかに負の電位の場合には、図2Bに示すように高エネルギーの反射電子41は制御電極18の中心の穴を通過するが低エネルギーの二次電子40の一部42は試料直上に形成された電位障壁によって試料に引き戻される。制御電極18が試料19よりも充分負の電位の場合には、図2Cに示すように、高エネルギーの反射電子41は制御電極18の中心の穴を通過するが低エネルギーの二次電子42は全て試料19に引き戻される。制御電極18と試料19の電位差を変化させたときに制御電極18を通過する電子数をプロットした例を図2Dに示す。制御電極18と試料19の電位差を負に大きくするにしたがって急激に電子数が減少している。この減少した成分は試料直上に形成された電位障壁によって試料19に引き戻された低エネルギーの二次電子成分に相当し、残りのオフセット成分は高エネルギーの反射電子成分となる。したがって、制御電極18と試料19の電位差を変化させて電子数をプロットして図2Dのグラフを作成し、このグラフをもとに電位差を設定することで二次電子と反射電子を両方取得するか、二次電子の一部と反射電子を取得するか、あるいは反射電子のみを取得するか選択することが可能となる。ここで、図2Dに示す電位差と電子数の関係は制御電極18の形状に依存する。例えば、制御電極の中心の穴径を拡大すると二次電子を試料に引き戻すための光軸上の電位障壁を作成するのに必要な電位差が大きくなるため、グラフはマイナス側にシフトする。したがって、制御電極18の形状を変更した場合には図2Dのグラフを取得し、二次電子と反射電子の弁別に必要な電圧条件を確認することが必要である。
【0020】
制御電極を用いて試料から出射した二次電子を引き戻し、反射電子のみを検出することで画像のS/Nが向上する試料としてハードディスクの磁気ヘッドがあげられる。磁気ヘッド試料は表面が平坦化されたパターンの上に数ナノメートル程度のDLC(Diamond−Like Carbon)の薄膜が塗布された構造を持つ。二次電子像で観察すると、CMP(Chemical Mechanical Polishing)による表面の平坦化の際に形成された凹凸の傷がエッジ効果により強調されてしまい、パターン部のコントラストが低下する。さらに、電子線の照射により表面が帯電することで二次電子の軌道が曲げられ、像が歪んで観察される。一方、反射電子を検出して画像を作成すると、反射電子は二次電子に較べて高エネルギーであるため、試料の帯電には影響を受けないために画像の歪はなく、また、二次電子像で見られるエッジ効果も小さいためパターンのコントラストが観察しやすくなる。本構成では制御電極は試料直上に設置されているために二次電子と反射電子の分離を厳密に行うことができるため、反射電子像への二次電子の寄与を取り除くことができる。二次電子が少しでも含まれると上記の作用による画質の低下が生じる。したがって、制御電極を備えた本構成の走査電子顕微鏡はハードディスクの磁気ヘッドを観察するのに好適な装置である。
【0021】
図3A、図3Bを用いて反射電子の検出方法について説明する。反射電子は高いエネルギーを持つために電極による軌道の偏向作用を大きく受けないため、多くは検出器(本実施例では電極(変換電極)10)に到達する前に装置内の電極や内壁に衝突する。試料19から小さな仰角で出射した反射電子43(低角成分)は電極(変換電極)10に衝突して二次電子44を発生する。発生した二次電子44は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。一方、大きな仰角で出射した反射電子45(高角成分)は二次電子変換電極13に衝突して二次電子46を発生する。発生した二次電子46は二次電子変換電極13と引き上げ電極12の電位差によって引き上げられて加速されて電極(変換電極)10に衝突し、さらに二次電子47を発生する。発生した二次電子47は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。したがって、二次電子変換電極13に衝突する高角の反射電子45を検出するためには、二次電子変換電極13を負に設定して二次電子を電極から離れさせ、なおかつ引き上げ電極12の電圧を二次電子変換電極13よりも正側にして引き上げることが必要である。
【0022】
図3Aの構成では小さな仰角で放出された反射電子(低角成分)と大きな仰角で放出された反射電子(高角成分)が同時に検出される。本実施例では同時に検出される低角成分と高角成分を分けるためにエネルギーフィルタを用いる。低角成分は入射電子ビームと同等、あるいはある程度高いエネルギーを有する。一方、高角成分は反射電子ではなく二次電子変換電極13で発生した二次電子を検出する。この二次電子は二次電子変換電極13と接地電位の電位差に相当するエネルギーを持ち、これは試料19で発生した反射電子のエネルギーよりも小さい。これらの電子を分離するために電子の進行軸上にエネルギーフィルタ11を設ける。エネルギーフィルタ11はメッシュを設けて負の電圧を印加することで、形成される電位より高いエネルギーの電子を透過させ、低いエネルギーの電子は透過させないことでエネルギーの異なる電子を分離する効果を持つ。なお、エネルギーフィルタ11は前記のメッシュを持つ構造に限らず、エネルギーの異なる電子を分離できる構造を持てば適用しても良い。本実施例ではエネルギーフィルタ11の電圧を二次電子変換電極13の電圧より低く設定することで、二次電子変換電極13で発生した二次電子45はエネルギーフィルタ11を透過することができずに検出されなくなる(図3B)。したがって、エネルギーフィルタ11を用いることで反射電子の高角成分と低角成分を分離できる。さらに、エネルギーフィルタを二次電子変換電極13で発生する二次電子46と反射電子43の進行軸上に設置しているため、電圧印加による透過する電子の軌道は変化せず検出率の低下は起こらない。
【0023】
エネルギーフィルタ11を用いて反射電子の高角成分と低角成分を分離するフローチャートを図4に示す。まず、取得する画像が高角成分か低角成分か判定する(S401)。低角成分の画像を取得する場合には、エネルギーフィルタ11に電圧を印加して高角成分の寄与を取り除き(S402)、画像を取得する(S403)。一方、高角成分の画像を取得する場合には、エネルギーフィルタ11の電圧を印加しない状態で画像を取得し(S404、S405)、次にエネルギーフィルタ11に電圧を印加して画像を取得する(S406、S407)。最後にS405とS407で得られた二枚の画像の差分画像を作成することで高角成分の画像を取得する(S408)。これら二枚の画像取得に要する時間は短いため試料から出射される反射電子の変動は無視することができる。本実施例ではエネルギーフィルタ11の電圧を印加と非印加の二つの条件で用いたが、印加電圧の異なる二枚の画像を取得してその差分画像を作成してもよい。
【0024】
次に、低角成分と高角成分の反射電子の出射角度分布について説明する。図6に二次電子変換電極13を負の一定の電圧に固定した状態で引き上げ電極12の電圧を正に変化させたときの検出される反射電子の角度成分を示す。左斜線部が低角成分、右斜線部が高角成分の検出角度となる。低角成分に関しては引き上げ電極12の電圧を正に大きくする、すなわち二次電子変換電極13と引き上げ電極12の電位差を大きくするにしたがって検出角度の範囲は広くなる。これは、二次電子変換電極13と引き上げ電極12が静電レンズとして作用して反射電子の軌道を収束させる作用を持つことに起因する。一方、高角成分は引き上げ電極12の電圧に依存せずに一定の角度範囲の反射電子のみを検出する。これは、二次電子変換電極13に衝突する反射電子の角度分布は引き上げ電極12の電圧に依存しないためである。
【0025】
図7は引き上げ電極12を正の一定の電圧で固定した状態で二次電子変換電極13の電圧を負に大きくしたときの検出角度の分布である。図6とは異なり、低角成分とともに高角成分についても電圧を変化させることで検出される角度範囲が変化する。低角成分は負に大きくするにしたがって大きな角度まで検出できるようになり、一方、高角成分は角度範囲が一定のまま小さな角度の反射電子を検出できるようになる。したがって、引き上げ電極12の電圧を変化させることで低角成分の角度分布を、二次電子変換電極13の電圧を変化することで低角成分と高角成分の角度分布を変化させることが可能となる。検出される反射電子の角度分布は引き上げ電極12と二次電子変換電極13の電圧のみに依存するのではなく、これらの電極の形状や位置に依存する。また、この角度分布は一次電子線の試料19への入射エネルギーにも依存する。入射エネルギーを半分にして引き上げ電極12の電圧を変化させたときの検出される反射電子の角度分布を図8に示す。低角成分は引き上げ電極12に同じ正の電圧を印加しても入射エネルギーが高い場合に較べて広い角度まで検出することが可能となる。一方、高角成分は入射エネルギーが高い場合と検出できる角度の幅は同じであるが、高角度側にシフトする。
【0026】
装置を立ち上げるときには図6から図8に示すような検出角度のマップを各電極の電圧条件ごとに作成して検出できる角度範囲と電圧の関係を制御テーブル39に保存しておく。入射エネルギーや各電極の電圧を変化させたときの検出角度のマップは電磁界計算と電子の軌道計算を用いたシミュレーション結果をもとに作成しても良いし、実験結果をもとに作成しても良い。オペレータが反射電子の検出角度の指定を行うGUI(Graphical User Interface)の一例を図9に、このGUIを用いて検出角度を選択したときに画像取得するフローチャートを図10に示す。GUIはモニタ38に表示され、オペレータがモニタ上で走査を行う。角度範囲の指定は領域を直接指定することも可能だし、あらかじめ指定された角度範囲の組み合わせからオペレータが最適な角度範囲を選択することも可能である。まず、オペレータが図9のGUI上で所望の検出角度の範囲を選択する(S1001)。次に、装置が自動でこの検出角度範囲を満たす各電極の電圧を制御テーブル39から読み出し、装置側であらかじめ決められた電圧値を自動で選択し、二次電子変換電極13と引き上げ電極12、エネルギーフィルタ11に設定する(S1002)。各電極の電圧を変更すると一次電子線の光学条件や反射電子の検出率が変化する。画像の観察が目的であれば各電極の電圧を変更後にそのまま画像を取得すれば良いが、半導体素子向けのパターン測長用の走査電子顕微鏡の場合には光学条件の変化が測定精度に影響を与えてしまう。特に問題となるのは、一次電子線の偏向量が異なるために倍率が変化してしまい、パターンの本来の測長値とは異なる値が算出されることである。したがって、各電極の電圧を変更した後に偏向量などの撮像条件の制御パラメータを制御テーブル39から読み出して装置が自動的に設定する(S1003)。その後、画像取得を行い記録装置37に画像を保存する(S1004)。最後に、得られた画像をモニタ38に表示する(S1005)。
【0027】
任意の角度成分の反射電子像を取得するには、図6から図8に示したように引き上げ電極や二次電子変換電極の電圧、入射エネルギーを変更する手法が適用できる。高角成分に関してはこの手法を用いることで任意の角度成分の反射電子像を取得することができるが、低角成分に関しては装置の構造上、0°から特定の角度までの範囲の反射電子を検出することになる。低角成分が検出可能な角度のうち、特定の角度範囲のみを取得するには複数の異なる電圧条件で画像を取得し、その差分画像を得ることで可能となる。図11に二つの電圧条件における検出角度範囲とこれらの差分、図12に差分画像を得るフローチャートを示す。図11の電圧条件1と電圧条件2は二次電子変換電極に負の電圧を印加した状態で引き上げ電極に正に電圧を印加したときの検出角度である。図6と同様に左斜線部が低角成分、右斜線部が高角成分の検出角度である。電圧条件1に較べて電圧条件2は引き上げ電極12に高い電圧を印加しているため広い角度範囲の画像が得られる。高角成分は電圧条件1と電圧条件2で同じ角度分布を持つ。一方、低角成分は検出角度の分布が異なる。電圧条件1では0°からα°までの角度範囲の反射電子を検出でき、電圧条件2では0°からβ°までの角度範囲の反射電子を検出できる。ここで、α°からβ°の角度範囲の反射電子を検出したい場合には電圧条件2の画像から電圧条件1の画像を引いて差分画像を作成することで得られる。オペレータが選択した検出角度の範囲が差分画像を取得することが必要な場合は、まずオペレータが検出角度範囲を設定し(S1201)、電圧条件1の電極の電圧と制御パラメータを装置が自動で設定し(S1202、S1203)、画像を取得して記録装置37に保存する(S1204)。次に、電圧条件2の電極の電圧と制御パラメータに変更し(S1205、S1206)、画像を取得して記録装置37に保存する(S1207)。その後、装置全体の制御演算装置36が記録装置37から電圧条件1と電圧条件2で得られた画像を読み出して二枚の画像の差分画像を作成し(S1208)、モニタ38に表示する(S1209)。ここでは低角成分と高角成分の両方を含む画像を用いて差分を算出しているが、この方法では両方の画像に含まれる高角成分がオフセットとして含まれているため、差分画像を作成する際に画像の精度を下げる要因となってしまう。この問題を避けるために、エネルギーフィルタに負の電圧を印加して高角成分を除くことで低角成分のみの画像を取得し、差分画像を作成することが好ましい。
【0028】
図1に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す断面構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。
【実施例2】
【0029】
第2の実施例について図13を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り、本実施例にも適用できる。
【0030】
図13は図1と全体の構成は同じであるが専用の二次電子変換電極13がない構造である。この構造では対物レンズ17の上側磁極15が二次電子変換電極13を兼ねている。なお、上側磁極15のみに電圧を印加するため、空間を空けるか絶縁体を間に挟むことで下側磁極16と絶縁する。図では反射電子の高角成分と低角成分の軌道を示している。低角成分43は図3と同様に電極(変換電極)10に衝突して二次電子44を発生する。発生した二次電子44は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。一方、高角成分45は二次電子変換電極の代わりに対物レンズ17の上側磁極15に衝突して二次電子48を発生させる。発生した二次電子48は対物レンズ17の上側磁極15と引き上げ電極12の電位差によって引き上げられて加速されて電極(変換電極)10に衝突し、さらに二次電子49を発生する。発生した二次電子49は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。対物レンズ17の上側磁極15に衝突する高角の反射電子45を検出するためには、上側磁極15の電圧を負にして二次電子を磁極から離れさせ、なおかつ引き上げ電極12の電位を上側磁極15の電位よりも正側にして引き上げることが必要である。したがって、専用の二次電子変換電極を設けなくても対物レンズ17の上側磁極15が二次電子変換電極の役割を果たし、上側磁極15に負の電圧を印加すれば実施例1と同じ効果が期待できる。本構成では図1に較べて光軸上の電極枚数を一枚減らすことができ、電極の中心の位置ずれによる分解能の低下や反射電子の検出率の低下の影響を抑えることができる。また、専用の二次電子変換電極を設置しないことで装置内に空間の余裕ができ、引き上げ電極の形状や設置位置の変更が容易になる。
【0031】
図13に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す段差構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。また、対物レンズの上側磁極を二次電子変換電極として用いることにより、装置内に空間の余裕ができ、引き上げ電極の形状や設置位置の変更が容易になる。
【実施例3】
【0032】
実施例1では検出する反射電子の角度範囲を直接指定したが、試料構造と観察目的を選択して画像を得ることも可能である。オペレータは所望の画像に対してどのような角度範囲の画像を取得すれば観察に適した画像が得られるか必ずしも分かるとは限らないため、試料の構造と観察目的を指定するだけで適した画像を得る観察モードがあることが好ましい。このモードでは、試料構造を観察するのに適した角度範囲が装置側で制御テーブル39に保存されており、このテーブルを用いて試料構造と観察目的に適した電極の電圧や撮像条件の制御パラメータが自動で導き出される。図14はGUIの一例であり、このGUIを用いて試料構造と観察目的を選択したときのフローチャートを図15に示す。まず、オペレータが図14のGUIを用いて試料構造と観察目的を設定する(S1501)。次に、装置側で制御テーブル39をもとに観察に適した検出角度範囲を自動的に選択して設定され(S1502)、目的となる検出角度範囲を満たす電極の電圧と制御パラメータが設定される(S1503、S1504)。その後、画像取得を行い記録装置37に画像を保存する(S1505)。最後に、得られた画像をモニタ38に表示する(S1506)。なお、取得された画像の保存と表示の順番は入れ替えることができる。図14ではホールとコントラストが選択されており、これを選択すると高角成分のみが検出され、ホールのトップ部とボトム部のコントラストが最も顕著に観察される画像が取得される。ホールとコントラストの組み合わせだけではなく、ボトム部の構造を観察するのに適したモードや、ナノインプリントやハードディスクの磁気ヘッドなどの異なる構造を持つ試料を観察するのに適したモードも選択することができる。
【0033】
図13に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す段差構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。また、試料構造を観察するのに適した角度範囲が保存された制御テーブルを用いることにより、試料構造を観察するのに適した角度範囲での観察、画像取得を容易に行うことができる。
【0034】
以上、本願発明を詳細に説明したが、以下に主な発明の形態を列挙する。
(1)一次電子線を試料に照射することにより試料から出射される電子を検出器で検出することによって像を得る電子顕微鏡であって、
電子源と、
前記電子源から放出された前記一次電子線を前記試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置される制御電極と、
前記対物レンズと前記検出器との間に配置され、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、
前記二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
エネルギーフィルタと、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極と前記エネルギーフィルタへの印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
(2)電子源と、
前記電子源から放出された一次電子線を試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置され、前記一次電子線の照射により前記試料から出射された二次電子と反射電子とを弁別するための制御電極と、
前記対物レンズの一部を構成し、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる上側磁極兼二次電子変換電極と、
前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
前記引き上げ電極の上方に配置され、前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子と前記試料から出射された反射電子とを弁別するためのエネルギーフィルタと、
前記上側磁極兼二次電子変換電極、前記引き上げ電極、前記エネルギーフィルタへの印加電圧を制御する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【0035】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…電界放出陰極、2…引出電極、3…放出電子、4…陽極、5…コンデンサレンズ、6…絞り、7…調整つまみ、8…上走査偏向器、9…下走査偏向器、10…電極(変換電極)、11…エネルギーフィルタ、12…引き上げ電極、13…二次電子変換電極、14…対物レンズコイル、15…上側磁極、16…下側磁極、17…対物レンズ、18…制御電極、19…試料、20…試料ホルダ、21…二次電子と反射電子、22…二次電子、23…吸引電極、24…シンチレータ、25…ライトガイド、26…光電子増倍管、27…電子銃制御部、28…コンデンサレンズ制御部、29…走査偏向器制御部、30…エネルギーフィルタ制御部、31…引き上げ電極制御部、32…二次電子変換電極制御部、33…対物レンズ制御部、34…制御電極制御部、35…試料電圧制御部、36…装置全体の制御演算装置、37…記録装置、38…モニタ、39…制御テーブル、40…二次電子、41…反射電子、42…試料に引き戻される二次電子、43…低角の反射電子、44…低角の反射電子が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子、45…高角の反射電子、46…高角の反射電子が二次電子変換電極13に衝突して発生する二次電子、47…二次電子46が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子、48…高角の反射電子が対物レンズの上側磁極に衝突して発生する二次電子、49…二次電子48が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子。
【技術分野】
【0001】
本発明は試料表面に電子ビームを照射し、試料から発生する二次信号を検出することで試料表面の形状あるいは組成等を表す二次元の走査像を得る走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡は、加速型または電界放出型の電子源から放出された電子を加速し、静電レンズ、または磁界レンズを用いて細い電子ビーム(一次電子線)とし、該一次電子線を観察する試料上に二次元走査し、該一次電子線照射で試料から二次的に発生する二次電子または反射電子等の二次信号を検出し、検出信号強度を一次電子ビームの走査と同期して走査されるブラウン管等の表示装置の輝度変調入力とすることで二次元の走査像を得る装置である。
【0003】
一次電子線の照射によって試料から発生する二次信号は広いエネルギー分布を有する。例えば、試料に入射した一次電子は固体表面の原子により弾性散乱され、試料表面を飛び出す電子がある。これは反射電子と呼ばれ、一次電子線と同等、あるいはある程度高いエネルギーを有する。また、試料に入射した一次電子が試料内の原子と相互作用し、試料内の電子が励起されて運動エネルギーを得て外部に放出される電子がある。これは二次電子と呼ばれ、0eVから50eV程度までの範囲のエネルギーを有する。
【0004】
二次電子と反射電子は発生原因の違いゆえに個々に固有の情報を有している。低いエネルギーの二次電子は試料内から脱出できる深さが小さいため、試料表面の微細構造を高い分解能で得られる。高いエネルギーの反射電子は種々の方向の仰角成分を持ち、仰角ごとに得られる試料の情報が異なる。なお、ここでは反射電子の仰角を、照射された一次電子線の光軸と、反射電子が試料表面から放出される方向との成す角度と定義する。大きな仰角を持つ反射電子(高角成分)は、内部情報や組成情報に加えて表面情報も比較的多く含まれている。二次電子では強いエッジコントラストが得られる特徴を持つが、大きな仰角の反射電子を観察することでエッジコントラストを抑えて表面情報を得ることができる利点がある。また、小さな仰角を持つ反射電子(低角成分)は、試料の表面情報が乏しい反面、組成情報に敏感である。試料から出射する二次電子と反射電子は以上のような試料情報を持つため、従来は観察する試料に応じて二次電子信号や反射電子信号を選択することで試料の所望の情報を得、この情報を強調した画像を得てきた。
【0005】
走査電子顕微鏡で観察する対象は半導体素子から生体試料まで多岐にわたる。半導体素子の観察や計測では、これまでは主に二次電子像が用いられてきたが、試料形状の複雑化により目的に即した試料情報を得るために反射電子信号を用いる必要性が増している。しかし、試料から出射される反射電子の数は二次電子に較べて5分の1以下と少ない上に高い運動エネルギーを持つために電極により軌道を制御することが困難である。従来の走査電子顕微鏡の構成では反射電子の多くは検出器に到達する前に電極や装置の壁面に衝突するために検出できず、上記の理由により二次電子像に較べて反射電子像は観察や計測に充分なS/Nが得られなかった。この問題を解決するために、特許文献1では反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と二次電子変換電極で発生した二次電子を引き上げるための引き上げ電極を設置して試料から低い角度で発生した反射電子を効率良く検出することで反射電子の検出率を従来よりも向上する手法を開示している。また、特許文献2では特許文献1と同様の装置構成を用いて反射電子の検出率を向上し、さらに、含まれる試料情報の異なる3種類の二次信号(二次電子、低角度の反射電子、高角度の反射電子)をそれぞれ任意の比率で加算することで観察目的に応じた最適な試料信号を生成する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO00/19482号パンフレット
【特許文献2】特開2002−110079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術により走査電子顕微鏡において反射電子の検出率が向上できるようになった。また、二次電子信号と反射電子信号を加算する比率を観察試料に応じて変えることで観察目的に即した画像を得ることができるようになった。
【0008】
そこで発明者らは、一例として図5Aに示す断面構造の穴を有する試料において、反射電子や二次電子を用いることにより、具体的にどのような情報が得られるかについて検討を行った。
図5に取得する信号電子の選択によるプロファイルの違いの一例を示す。ここでは、深い穴あるいは溝が作成された試料を例として示す。試料に電子線を照射すると様々な仰角で二次電子と反射電子が出射する。二次電子はエネルギーが低いため、図5Aに示すように外部の電界の影響を大きく受け、特に分解能を向上するために用いられるリターディング法の電圧条件では、リターディング電界により試料から引き上げられて検出される。ラインプロファイルは図5Bに示すように、パターンのエッジ部分で二次電子が多く放出されるエッジ効果により、穴の端の部分にピークが観察される。このピークはホワイトバンドと呼ばれ、ホワイトバンドを用いて穴の寸法が計測される。パターンのトップ部とボトム部のコントラストは、それぞれの部分の材料の二次電子放出効率に依存したコントラストが観察される。反射電子に関してはエネルギーが充分高いため、ボトム部で発生した反射電子のうち高角成分はリターディング電界により穴から引き上げられる前に側面に衝突して穴から脱出することができない(図5C)。一方、トップ部から出射した反射電子は全ての仰角成分が試料外へ出射することが可能である。この状態で得られた反射電子信号をもとに画像を取得すると、トップ部とボトム部の反射電子放出効率の差と検出率の差に従ったコントラストが観察される(図5D実線)。ここで、ボトム部で検出されない角度成分を除いて反射電子を選択して検出すると、試料構造に起因した検出率の差の影響を取り除くことができ、トップ部とボトム部の純粋な材料コントラストを得ることができる。または、ボトム部で検出されない仰角成分のみを取得して画像を作成すると、トップ部とボトム部のコントラストを強調した画像を得ることができる(図5D破線)。さらに、ボトム部に構造がありそのパターン形状を調べたい場合には、少し角度を持つ成分のみを検出することでボトム部のパターン形状を強調して観察することが可能となる。このように、特定の角度の反射電子を選択して検出することで材料コントラストの強調やパターン形状の鮮明化が可能となる。すなわち、観察対象の試料構造や観察目的の多様化により反射電子の放出角度を任意に選択して検出することが有効であることが分かった。
【0009】
しかしながら、上記従来技術では検出する反射電子の放出角度を高角度と低角度の二種類でのみしか分類しておらず、任意の放出角度の反射電子を選択して検出する手法は開示されていない。また、特許文献1では低角度の反射電子と高角度の反射電子により発生した二次電子を分けて検出するために二次電子偏向器を用いているが、後者の二次電子は引き上げ電極により加速されているために前者とのエネルギー差は小さく、二次電子のみを偏向しようとしても低角度の反射電子も変更されて検出率が低下することが予想される。
【0010】
本発明は以上のような課題を解決するためのものであり、本発明の目的は、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、走査電子顕微鏡の対物レンズと試料の間に制御電極と、前記対物レンズの上側磁極と検出器の間に反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、前記二次電子を引き上げる引き上げ電極と、エネルギーフィルタとを設置し、二次電子変換電極と引き上げ電極、エネルギーフィルタの電圧の組み合わせを選択して反射電子の検出角度範囲を制御する。また、オペレータが検出する角度範囲を選択することにより、二次電子変換電極と引き上げ電極に決められた電圧値と、対応した撮像条件の制御パラメータが制御テーブルを参照して自動的に選択される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、試料の形状や材料に応じて検出する反射電子の角度範囲を任意に選択して画像を得ることが可能な走査電子顕微鏡を提供することがでる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。
【図2A】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極と試料の電位差が0あるいは制御電極が試料よりも正の電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2B】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極が試料よりも負の電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2C】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極が試料よりも充分負に大きい電位における二次電子と反射電子の軌道を示す。
【図2D】制御電極の電圧制御による二次電子と反射電子を弁別する模式図であり、制御電極と試料の電位差を変化させたときの制御電極を通過する電子数をプロットした図を示す。
【図3A】図1の装置構成において反射電子を検出する概略図であり、エネルギーフィルタに負電圧を印加しないときの反射電子の軌道を示す。
【図3B】図1の装置構成において反射電子を検出する概略図であり、エネルギーフィルタに負電圧を印加したときの反射電子の軌道を示す。
【図4】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、エネルギーフィルタにより反射電子の高角成分と低角成分を分けて画像を取得するフローチャートである。
【図5A】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、トップ部とボトム部で発生する二次電子の軌道を示す。
【図5B】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、二次電子信号を検出して得られるラインプロファイルを示す。
【図5C】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、トップ部とボトム部で発生する反射電子の軌道を示す。
【図5D】取得する信号の変更により変化するプロファイルを示す図であり、反射電子信号を検出して得られるラインプロファイルで、実線は検出角度を広く取った場合のラインプロファイル、破線は検出角度を選択して絞った場合のラインプロファイルを示す。
【図6】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、引き上げ電極の電圧を変えたときの検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図7】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡において、二次電子変換電極の電圧を変えたときの検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図8】図6と同じ条件で一次電子線の入射エネルギーを下げた場合の検出可能な反射電子の角度分布を示す図である。
【図9】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて検出する反射電子の角度を設定するGUIの一例を示す図である。
【図10】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて検出する反射電子の角度を設定して画像を取得するフローチャートである。
【図11】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて異なる二つの電圧条件で得られる反射電子の角度分布とこれらの差分で得られる反射電子の角度分布の一例を示す図である。
【図12】第一の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて異なる二つの電圧条件で得られる二枚の画像の差分画像を作成するフローチャートである。
【図13】第二の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。
【図14】第三の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて試料構造と観察目的を設定するGUIの一例を示す図である。
【図15】第三の実施例に係る走査電子顕微鏡を用いて試料構造と観察目的を設定して画像を取得するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の第一の実施例に係る走査電子顕微鏡の概略図である。本実施例では、半導体ウエハなどの大型試料に対してウエハ上の配線などの測長や検査を行うことを目的とし、一次電子線のエネルギーを数100eVから数keVの低入射エネルギーとした場合の構成を用いている。ただし、同様の構成を用いる電子顕微鏡であれば対象としている試料や目的、入射エネルギーが大きくても適用が可能である。
【0016】
装置内の電圧や電流の設定は制御テーブル39に保存された条件を装置全体の制御演算装置36が読み出し、符号27から35の各制御部を用いて行う。オペレータが測定条件を変更するように指示した場合には自動で制御テーブルを読み出し、制御パラメータの変更を行う。なお、符号27は電子銃制御部、符号28はコンデンサレンズ制御部、符号29は走査偏向器制御部、符号30はエネルギーフィルタ制御部、符号31は引き上げ電極制御部、符号32は二次電子変換電極制御部、符号33は対物レンズ制御部、符号34は制御電極制御部、符号35は試料電圧制御部を示す。また、同一符号は同一構成要素を示す。
【0017】
電界放出陰極1と引出電極2の間に引出電圧を印加すると、放出電子3が放出される。放出電子3は引出電極2と接地電位にある陽極4の間でさらに加速される。陽極4を通過した電子ビームのエネルギーは電子銃(電界放出陰極1と引出電極2とを含む)の加速電圧と一致する。陽極4を通過した一次電子ビームはコンデンサレンズ5、上走査偏向器8、下走査偏向器9で走査偏向を受けた後、対物レンズ17で試料上に細く絞られる。対物レンズ17は対物レンズコイル14と上側磁極15と下側磁極16から構成され、対物レンズコイル14で発生した磁界を上下磁極のギャップから漏洩させて光軸上に集中させ、電子ビームを収束させる。磁界レンズの強度は対物レンズコイル14の電流量を変化させることで調整する。対物レンズ17を通過した一次電子ビームは対物レンズ17と試料19の間に作られた減速電界で減速され、試料19に到達する。この構成では、対物レンズ17を通過するときの一次電子のエネルギーは試料19に入射するエネルギーよりも高くなっている。この結果、最終的なエネルギーの一次電子ビームを対物レンズ17に通す場合に比較すると、対物レンズ17での色収差が減少し、より細い電子ビームが得られて高分解能を達成する。対物レンズ17の一次電子ビームの開き角はコンデンサレンズ5の下方に置かれた絞り6で決められる。絞り6のセンタリングは調整つまみ7で行う。図では機械的な調節を行っているが、絞り6の前後に静電偏向器または磁界偏向器を設け、電子ビームを偏向させて調整してもよい。対物レンズ17で細く絞られた電子ビームは上走査偏向器8と下走査偏向器9で試料上を走査されるが、このとき上走査偏向器8と下走査偏向器9の偏向方向と強度は走査した電子ビームが常に対物レンズ17の中央を通るように調整されている。試料19は試料ホルダ20の上に固定されている。
【0018】
一次電子ビームが試料19を照射することで二次電子と反射電子21が発生する。対物レンズ17と試料19の間に作られた減速電界は試料19で発生した二次電子や反射電子21に対しては加速電界として働くため、対物レンズ17の通路内に吸引され、対物レンズ17の磁界でレンズ作用を受けながら昇っていく。加速された二次電子や反射電子21は電極(変換電極)10に衝突してさらに二次電子22を発生させる。発生した二次電子22は対物レンズ17と下走査偏向器9の間に置かれた吸引電極23の横方向電界で吸引され、吸引電極23のメッシュを通した後、正の電圧、例えば10kVの高電圧が印加されたシンチレータ24で加速され、シンチレータ24を光らせる。発光した光はライトガイド25で光電子増倍管26に導かれ電気信号に変換される。光電子増倍管26の出力はさらに増幅され、輝度変調入力信号となり画像として構成され、モニタ38に表示されて記録装置37に保存される。本実施例に係る走査電子顕微鏡の特徴は試料19と対物レンズ17の間に設置した制御電極18と、対物レンズ17と下走査偏向器9の間に設置した二次電子変換電極13と引き上げ電極12、エネルギーフィルタ11である。これらの機能について図2A〜図2Dと図3A、図3Bを用いて説明する。
【0019】
図2A〜図2Dは制御電極18による二次電子と反射電子を弁別する機能を説明する模式図である。一次電子ビームが試料19を照射すると二次電子40や反射電子41が発生する。制御電極18と試料19の電位差が0あるいは制御電極18が試料19よりも正の電位の場合には、図2Aに示すように二次電子40と反射電子41はともに制御電極18の中心の穴を通過する。一方、制御電極18が試料19よりもわずかに負の電位の場合には、図2Bに示すように高エネルギーの反射電子41は制御電極18の中心の穴を通過するが低エネルギーの二次電子40の一部42は試料直上に形成された電位障壁によって試料に引き戻される。制御電極18が試料19よりも充分負の電位の場合には、図2Cに示すように、高エネルギーの反射電子41は制御電極18の中心の穴を通過するが低エネルギーの二次電子42は全て試料19に引き戻される。制御電極18と試料19の電位差を変化させたときに制御電極18を通過する電子数をプロットした例を図2Dに示す。制御電極18と試料19の電位差を負に大きくするにしたがって急激に電子数が減少している。この減少した成分は試料直上に形成された電位障壁によって試料19に引き戻された低エネルギーの二次電子成分に相当し、残りのオフセット成分は高エネルギーの反射電子成分となる。したがって、制御電極18と試料19の電位差を変化させて電子数をプロットして図2Dのグラフを作成し、このグラフをもとに電位差を設定することで二次電子と反射電子を両方取得するか、二次電子の一部と反射電子を取得するか、あるいは反射電子のみを取得するか選択することが可能となる。ここで、図2Dに示す電位差と電子数の関係は制御電極18の形状に依存する。例えば、制御電極の中心の穴径を拡大すると二次電子を試料に引き戻すための光軸上の電位障壁を作成するのに必要な電位差が大きくなるため、グラフはマイナス側にシフトする。したがって、制御電極18の形状を変更した場合には図2Dのグラフを取得し、二次電子と反射電子の弁別に必要な電圧条件を確認することが必要である。
【0020】
制御電極を用いて試料から出射した二次電子を引き戻し、反射電子のみを検出することで画像のS/Nが向上する試料としてハードディスクの磁気ヘッドがあげられる。磁気ヘッド試料は表面が平坦化されたパターンの上に数ナノメートル程度のDLC(Diamond−Like Carbon)の薄膜が塗布された構造を持つ。二次電子像で観察すると、CMP(Chemical Mechanical Polishing)による表面の平坦化の際に形成された凹凸の傷がエッジ効果により強調されてしまい、パターン部のコントラストが低下する。さらに、電子線の照射により表面が帯電することで二次電子の軌道が曲げられ、像が歪んで観察される。一方、反射電子を検出して画像を作成すると、反射電子は二次電子に較べて高エネルギーであるため、試料の帯電には影響を受けないために画像の歪はなく、また、二次電子像で見られるエッジ効果も小さいためパターンのコントラストが観察しやすくなる。本構成では制御電極は試料直上に設置されているために二次電子と反射電子の分離を厳密に行うことができるため、反射電子像への二次電子の寄与を取り除くことができる。二次電子が少しでも含まれると上記の作用による画質の低下が生じる。したがって、制御電極を備えた本構成の走査電子顕微鏡はハードディスクの磁気ヘッドを観察するのに好適な装置である。
【0021】
図3A、図3Bを用いて反射電子の検出方法について説明する。反射電子は高いエネルギーを持つために電極による軌道の偏向作用を大きく受けないため、多くは検出器(本実施例では電極(変換電極)10)に到達する前に装置内の電極や内壁に衝突する。試料19から小さな仰角で出射した反射電子43(低角成分)は電極(変換電極)10に衝突して二次電子44を発生する。発生した二次電子44は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。一方、大きな仰角で出射した反射電子45(高角成分)は二次電子変換電極13に衝突して二次電子46を発生する。発生した二次電子46は二次電子変換電極13と引き上げ電極12の電位差によって引き上げられて加速されて電極(変換電極)10に衝突し、さらに二次電子47を発生する。発生した二次電子47は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。したがって、二次電子変換電極13に衝突する高角の反射電子45を検出するためには、二次電子変換電極13を負に設定して二次電子を電極から離れさせ、なおかつ引き上げ電極12の電圧を二次電子変換電極13よりも正側にして引き上げることが必要である。
【0022】
図3Aの構成では小さな仰角で放出された反射電子(低角成分)と大きな仰角で放出された反射電子(高角成分)が同時に検出される。本実施例では同時に検出される低角成分と高角成分を分けるためにエネルギーフィルタを用いる。低角成分は入射電子ビームと同等、あるいはある程度高いエネルギーを有する。一方、高角成分は反射電子ではなく二次電子変換電極13で発生した二次電子を検出する。この二次電子は二次電子変換電極13と接地電位の電位差に相当するエネルギーを持ち、これは試料19で発生した反射電子のエネルギーよりも小さい。これらの電子を分離するために電子の進行軸上にエネルギーフィルタ11を設ける。エネルギーフィルタ11はメッシュを設けて負の電圧を印加することで、形成される電位より高いエネルギーの電子を透過させ、低いエネルギーの電子は透過させないことでエネルギーの異なる電子を分離する効果を持つ。なお、エネルギーフィルタ11は前記のメッシュを持つ構造に限らず、エネルギーの異なる電子を分離できる構造を持てば適用しても良い。本実施例ではエネルギーフィルタ11の電圧を二次電子変換電極13の電圧より低く設定することで、二次電子変換電極13で発生した二次電子45はエネルギーフィルタ11を透過することができずに検出されなくなる(図3B)。したがって、エネルギーフィルタ11を用いることで反射電子の高角成分と低角成分を分離できる。さらに、エネルギーフィルタを二次電子変換電極13で発生する二次電子46と反射電子43の進行軸上に設置しているため、電圧印加による透過する電子の軌道は変化せず検出率の低下は起こらない。
【0023】
エネルギーフィルタ11を用いて反射電子の高角成分と低角成分を分離するフローチャートを図4に示す。まず、取得する画像が高角成分か低角成分か判定する(S401)。低角成分の画像を取得する場合には、エネルギーフィルタ11に電圧を印加して高角成分の寄与を取り除き(S402)、画像を取得する(S403)。一方、高角成分の画像を取得する場合には、エネルギーフィルタ11の電圧を印加しない状態で画像を取得し(S404、S405)、次にエネルギーフィルタ11に電圧を印加して画像を取得する(S406、S407)。最後にS405とS407で得られた二枚の画像の差分画像を作成することで高角成分の画像を取得する(S408)。これら二枚の画像取得に要する時間は短いため試料から出射される反射電子の変動は無視することができる。本実施例ではエネルギーフィルタ11の電圧を印加と非印加の二つの条件で用いたが、印加電圧の異なる二枚の画像を取得してその差分画像を作成してもよい。
【0024】
次に、低角成分と高角成分の反射電子の出射角度分布について説明する。図6に二次電子変換電極13を負の一定の電圧に固定した状態で引き上げ電極12の電圧を正に変化させたときの検出される反射電子の角度成分を示す。左斜線部が低角成分、右斜線部が高角成分の検出角度となる。低角成分に関しては引き上げ電極12の電圧を正に大きくする、すなわち二次電子変換電極13と引き上げ電極12の電位差を大きくするにしたがって検出角度の範囲は広くなる。これは、二次電子変換電極13と引き上げ電極12が静電レンズとして作用して反射電子の軌道を収束させる作用を持つことに起因する。一方、高角成分は引き上げ電極12の電圧に依存せずに一定の角度範囲の反射電子のみを検出する。これは、二次電子変換電極13に衝突する反射電子の角度分布は引き上げ電極12の電圧に依存しないためである。
【0025】
図7は引き上げ電極12を正の一定の電圧で固定した状態で二次電子変換電極13の電圧を負に大きくしたときの検出角度の分布である。図6とは異なり、低角成分とともに高角成分についても電圧を変化させることで検出される角度範囲が変化する。低角成分は負に大きくするにしたがって大きな角度まで検出できるようになり、一方、高角成分は角度範囲が一定のまま小さな角度の反射電子を検出できるようになる。したがって、引き上げ電極12の電圧を変化させることで低角成分の角度分布を、二次電子変換電極13の電圧を変化することで低角成分と高角成分の角度分布を変化させることが可能となる。検出される反射電子の角度分布は引き上げ電極12と二次電子変換電極13の電圧のみに依存するのではなく、これらの電極の形状や位置に依存する。また、この角度分布は一次電子線の試料19への入射エネルギーにも依存する。入射エネルギーを半分にして引き上げ電極12の電圧を変化させたときの検出される反射電子の角度分布を図8に示す。低角成分は引き上げ電極12に同じ正の電圧を印加しても入射エネルギーが高い場合に較べて広い角度まで検出することが可能となる。一方、高角成分は入射エネルギーが高い場合と検出できる角度の幅は同じであるが、高角度側にシフトする。
【0026】
装置を立ち上げるときには図6から図8に示すような検出角度のマップを各電極の電圧条件ごとに作成して検出できる角度範囲と電圧の関係を制御テーブル39に保存しておく。入射エネルギーや各電極の電圧を変化させたときの検出角度のマップは電磁界計算と電子の軌道計算を用いたシミュレーション結果をもとに作成しても良いし、実験結果をもとに作成しても良い。オペレータが反射電子の検出角度の指定を行うGUI(Graphical User Interface)の一例を図9に、このGUIを用いて検出角度を選択したときに画像取得するフローチャートを図10に示す。GUIはモニタ38に表示され、オペレータがモニタ上で走査を行う。角度範囲の指定は領域を直接指定することも可能だし、あらかじめ指定された角度範囲の組み合わせからオペレータが最適な角度範囲を選択することも可能である。まず、オペレータが図9のGUI上で所望の検出角度の範囲を選択する(S1001)。次に、装置が自動でこの検出角度範囲を満たす各電極の電圧を制御テーブル39から読み出し、装置側であらかじめ決められた電圧値を自動で選択し、二次電子変換電極13と引き上げ電極12、エネルギーフィルタ11に設定する(S1002)。各電極の電圧を変更すると一次電子線の光学条件や反射電子の検出率が変化する。画像の観察が目的であれば各電極の電圧を変更後にそのまま画像を取得すれば良いが、半導体素子向けのパターン測長用の走査電子顕微鏡の場合には光学条件の変化が測定精度に影響を与えてしまう。特に問題となるのは、一次電子線の偏向量が異なるために倍率が変化してしまい、パターンの本来の測長値とは異なる値が算出されることである。したがって、各電極の電圧を変更した後に偏向量などの撮像条件の制御パラメータを制御テーブル39から読み出して装置が自動的に設定する(S1003)。その後、画像取得を行い記録装置37に画像を保存する(S1004)。最後に、得られた画像をモニタ38に表示する(S1005)。
【0027】
任意の角度成分の反射電子像を取得するには、図6から図8に示したように引き上げ電極や二次電子変換電極の電圧、入射エネルギーを変更する手法が適用できる。高角成分に関してはこの手法を用いることで任意の角度成分の反射電子像を取得することができるが、低角成分に関しては装置の構造上、0°から特定の角度までの範囲の反射電子を検出することになる。低角成分が検出可能な角度のうち、特定の角度範囲のみを取得するには複数の異なる電圧条件で画像を取得し、その差分画像を得ることで可能となる。図11に二つの電圧条件における検出角度範囲とこれらの差分、図12に差分画像を得るフローチャートを示す。図11の電圧条件1と電圧条件2は二次電子変換電極に負の電圧を印加した状態で引き上げ電極に正に電圧を印加したときの検出角度である。図6と同様に左斜線部が低角成分、右斜線部が高角成分の検出角度である。電圧条件1に較べて電圧条件2は引き上げ電極12に高い電圧を印加しているため広い角度範囲の画像が得られる。高角成分は電圧条件1と電圧条件2で同じ角度分布を持つ。一方、低角成分は検出角度の分布が異なる。電圧条件1では0°からα°までの角度範囲の反射電子を検出でき、電圧条件2では0°からβ°までの角度範囲の反射電子を検出できる。ここで、α°からβ°の角度範囲の反射電子を検出したい場合には電圧条件2の画像から電圧条件1の画像を引いて差分画像を作成することで得られる。オペレータが選択した検出角度の範囲が差分画像を取得することが必要な場合は、まずオペレータが検出角度範囲を設定し(S1201)、電圧条件1の電極の電圧と制御パラメータを装置が自動で設定し(S1202、S1203)、画像を取得して記録装置37に保存する(S1204)。次に、電圧条件2の電極の電圧と制御パラメータに変更し(S1205、S1206)、画像を取得して記録装置37に保存する(S1207)。その後、装置全体の制御演算装置36が記録装置37から電圧条件1と電圧条件2で得られた画像を読み出して二枚の画像の差分画像を作成し(S1208)、モニタ38に表示する(S1209)。ここでは低角成分と高角成分の両方を含む画像を用いて差分を算出しているが、この方法では両方の画像に含まれる高角成分がオフセットとして含まれているため、差分画像を作成する際に画像の精度を下げる要因となってしまう。この問題を避けるために、エネルギーフィルタに負の電圧を印加して高角成分を除くことで低角成分のみの画像を取得し、差分画像を作成することが好ましい。
【0028】
図1に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す断面構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。
【実施例2】
【0029】
第2の実施例について図13を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り、本実施例にも適用できる。
【0030】
図13は図1と全体の構成は同じであるが専用の二次電子変換電極13がない構造である。この構造では対物レンズ17の上側磁極15が二次電子変換電極13を兼ねている。なお、上側磁極15のみに電圧を印加するため、空間を空けるか絶縁体を間に挟むことで下側磁極16と絶縁する。図では反射電子の高角成分と低角成分の軌道を示している。低角成分43は図3と同様に電極(変換電極)10に衝突して二次電子44を発生する。発生した二次電子44は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。一方、高角成分45は二次電子変換電極の代わりに対物レンズ17の上側磁極15に衝突して二次電子48を発生させる。発生した二次電子48は対物レンズ17の上側磁極15と引き上げ電極12の電位差によって引き上げられて加速されて電極(変換電極)10に衝突し、さらに二次電子49を発生する。発生した二次電子49は吸引電極23の横方向電界で吸引されて検出される。対物レンズ17の上側磁極15に衝突する高角の反射電子45を検出するためには、上側磁極15の電圧を負にして二次電子を磁極から離れさせ、なおかつ引き上げ電極12の電位を上側磁極15の電位よりも正側にして引き上げることが必要である。したがって、専用の二次電子変換電極を設けなくても対物レンズ17の上側磁極15が二次電子変換電極の役割を果たし、上側磁極15に負の電圧を印加すれば実施例1と同じ効果が期待できる。本構成では図1に較べて光軸上の電極枚数を一枚減らすことができ、電極の中心の位置ずれによる分解能の低下や反射電子の検出率の低下の影響を抑えることができる。また、専用の二次電子変換電極を設置しないことで装置内に空間の余裕ができ、引き上げ電極の形状や設置位置の変更が容易になる。
【0031】
図13に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す段差構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。また、対物レンズの上側磁極を二次電子変換電極として用いることにより、装置内に空間の余裕ができ、引き上げ電極の形状や設置位置の変更が容易になる。
【実施例3】
【0032】
実施例1では検出する反射電子の角度範囲を直接指定したが、試料構造と観察目的を選択して画像を得ることも可能である。オペレータは所望の画像に対してどのような角度範囲の画像を取得すれば観察に適した画像が得られるか必ずしも分かるとは限らないため、試料の構造と観察目的を指定するだけで適した画像を得る観察モードがあることが好ましい。このモードでは、試料構造を観察するのに適した角度範囲が装置側で制御テーブル39に保存されており、このテーブルを用いて試料構造と観察目的に適した電極の電圧や撮像条件の制御パラメータが自動で導き出される。図14はGUIの一例であり、このGUIを用いて試料構造と観察目的を選択したときのフローチャートを図15に示す。まず、オペレータが図14のGUIを用いて試料構造と観察目的を設定する(S1501)。次に、装置側で制御テーブル39をもとに観察に適した検出角度範囲を自動的に選択して設定され(S1502)、目的となる検出角度範囲を満たす電極の電圧と制御パラメータが設定される(S1503、S1504)。その後、画像取得を行い記録装置37に画像を保存する(S1505)。最後に、得られた画像をモニタ38に表示する(S1506)。なお、取得された画像の保存と表示の順番は入れ替えることができる。図14ではホールとコントラストが選択されており、これを選択すると高角成分のみが検出され、ホールのトップ部とボトム部のコントラストが最も顕著に観察される画像が取得される。ホールとコントラストの組み合わせだけではなく、ボトム部の構造を観察するのに適したモードや、ナノインプリントやハードディスクの磁気ヘッドなどの異なる構造を持つ試料を観察するのに適したモードも選択することができる。
【0033】
図13に示す走査電子顕微鏡を用いて図5Cに示す段差構造の穴を有する試料を反射電子の仰角を変えて観察した結果、良好な画像を得ることができた。
以上、本実施例によれば、試料の形状や材料に応じて任意の放出角度の反射電子を検出することのできる走査電子顕微鏡を提供することができる。また、試料構造を観察するのに適した角度範囲が保存された制御テーブルを用いることにより、試料構造を観察するのに適した角度範囲での観察、画像取得を容易に行うことができる。
【0034】
以上、本願発明を詳細に説明したが、以下に主な発明の形態を列挙する。
(1)一次電子線を試料に照射することにより試料から出射される電子を検出器で検出することによって像を得る電子顕微鏡であって、
電子源と、
前記電子源から放出された前記一次電子線を前記試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置される制御電極と、
前記対物レンズと前記検出器との間に配置され、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、
前記二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
エネルギーフィルタと、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極と前記エネルギーフィルタへの印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
(2)電子源と、
前記電子源から放出された一次電子線を試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置され、前記一次電子線の照射により前記試料から出射された二次電子と反射電子とを弁別するための制御電極と、
前記対物レンズの一部を構成し、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる上側磁極兼二次電子変換電極と、
前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
前記引き上げ電極の上方に配置され、前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子と前記試料から出射された反射電子とを弁別するためのエネルギーフィルタと、
前記上側磁極兼二次電子変換電極、前記引き上げ電極、前記エネルギーフィルタへの印加電圧を制御する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【0035】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1…電界放出陰極、2…引出電極、3…放出電子、4…陽極、5…コンデンサレンズ、6…絞り、7…調整つまみ、8…上走査偏向器、9…下走査偏向器、10…電極(変換電極)、11…エネルギーフィルタ、12…引き上げ電極、13…二次電子変換電極、14…対物レンズコイル、15…上側磁極、16…下側磁極、17…対物レンズ、18…制御電極、19…試料、20…試料ホルダ、21…二次電子と反射電子、22…二次電子、23…吸引電極、24…シンチレータ、25…ライトガイド、26…光電子増倍管、27…電子銃制御部、28…コンデンサレンズ制御部、29…走査偏向器制御部、30…エネルギーフィルタ制御部、31…引き上げ電極制御部、32…二次電子変換電極制御部、33…対物レンズ制御部、34…制御電極制御部、35…試料電圧制御部、36…装置全体の制御演算装置、37…記録装置、38…モニタ、39…制御テーブル、40…二次電子、41…反射電子、42…試料に引き戻される二次電子、43…低角の反射電子、44…低角の反射電子が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子、45…高角の反射電子、46…高角の反射電子が二次電子変換電極13に衝突して発生する二次電子、47…二次電子46が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子、48…高角の反射電子が対物レンズの上側磁極に衝突して発生する二次電子、49…二次電子48が電極(変換電極)10に衝突して発生する二次電子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電子線を試料に照射することにより試料から出射される電子を検出器で検出することによって像を得る電子顕微鏡であって、
電子源と、
前記電子源から放出された前記一次電子線を前記試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置される制御電極と、
前記対物レンズと前記検出器との間に配置され、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、
前記二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
エネルギーフィルタと、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極と前記エネルギーフィルタへの印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、あらかじめ決められた電圧値を自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載の走査電子顕微鏡において、
前記情報は、予め決められた複数の検出角度範囲の中から選択されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の予め決められた複数の検出角度範囲の中から選択される情報に基づき、対応した撮像条件の制御パラメータを自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査電子顕微鏡において、
前記演算制御手段は、観察する試料の情報に基づき、観察に適した前記検出角度範囲を自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記対物レンズの上側磁極が前記二次電子変換電極を兼ねることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、前記エネルギーフィルタへの印加電圧の異なる二枚の画像を自動的に取得し、その差分画像を作成するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二枚の画像のうちの一方の画像取得の際、前記エネルギーフィルタの電圧が前記二次電子変換電極の電圧より低く設定されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、複数の電圧の組み合わせで自動的に画像を取得し、その差分画像を作成するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極の電位差を大きくすることで検出可能な反射電子の角度範囲を広げることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記一次電子線の前記試料への入射エネルギーを下げることで前記試料からの高角度の反射電子を取得することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記試料は磁気ヘッド試料であり、
前記制御電極の電圧は、前記試料より負に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二次電子変換電極の電位は、負に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記引き上げ電極の電位は、前記二次電子変換電極の電位よりも相対的に正に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項15】
電子源と、
前記電子源から放出された一次電子線を試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置され、前記一次電子線の照射により前記試料から出射された二次電子と反射電子とを弁別するための制御電極と、
前記対物レンズの一部を構成し、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる上側磁極兼二次電子変換電極と、
前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
前記引き上げ電極の上方に配置され、前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子と前記試料から出射された反射電子とを弁別するためのエネルギーフィルタと、
前記上側磁極兼二次電子変換電極、前記引き上げ電極、前記エネルギーフィルタへの印加電圧を制御する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項1】
一次電子線を試料に照射することにより試料から出射される電子を検出器で検出することによって像を得る電子顕微鏡であって、
電子源と、
前記電子源から放出された前記一次電子線を前記試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置される制御電極と、
前記対物レンズと前記検出器との間に配置され、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる二次電子変換電極と、
前記二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
エネルギーフィルタと、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極と前記エネルギーフィルタへの印加電圧の組み合わせを選択する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、あらかじめ決められた電圧値を自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載の走査電子顕微鏡において、
前記情報は、予め決められた複数の検出角度範囲の中から選択されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の予め決められた複数の検出角度範囲の中から選択される情報に基づき、対応した撮像条件の制御パラメータを自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査電子顕微鏡において、
前記演算制御手段は、観察する試料の情報に基づき、観察に適した前記検出角度範囲を自動的に選択するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記対物レンズの上側磁極が前記二次電子変換電極を兼ねることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、前記エネルギーフィルタへの印加電圧の異なる二枚の画像を自動的に取得し、その差分画像を作成するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二枚の画像のうちの一方の画像取得の際、前記エネルギーフィルタの電圧が前記二次電子変換電極の電圧より低く設定されることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記制御演算手段は、前記試料から出射される反射電子の検出角度範囲の情報に基づき、複数の電圧の組み合わせで自動的に画像を取得し、その差分画像を作成するものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項10】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二次電子変換電極と前記引き上げ電極の電位差を大きくすることで検出可能な反射電子の角度範囲を広げることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項11】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記一次電子線の前記試料への入射エネルギーを下げることで前記試料からの高角度の反射電子を取得することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項12】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記試料は磁気ヘッド試料であり、
前記制御電極の電圧は、前記試料より負に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項13】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記二次電子変換電極の電位は、負に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項14】
請求項1に記載の走査電子顕微鏡において、
前記引き上げ電極の電位は、前記二次電子変換電極の電位よりも相対的に正に設定されるものであることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項15】
電子源と、
前記電子源から放出された一次電子線を試料上に収束する対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料の間となるように配置され、前記一次電子線の照射により前記試料から出射された二次電子と反射電子とを弁別するための制御電極と、
前記対物レンズの一部を構成し、前記反射電子の衝突によって二次電子を発生させる上側磁極兼二次電子変換電極と、
前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子を上方に引き上げる引き上げ電極と、
前記引き上げ電極の上方に配置され、前記上側磁極兼二次電子変換電極から発生した二次電子と前記試料から出射された反射電子とを弁別するためのエネルギーフィルタと、
前記上側磁極兼二次電子変換電極、前記引き上げ電極、前記エネルギーフィルタへの印加電圧を制御する制御演算手段と、を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−89514(P2013−89514A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230221(P2011−230221)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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