説明

走行玩具

【課題】操舵装置の構造を簡素化し、かつ操舵装置単体でシャーシに旋回力を付与できるようにして、製造コストの低減と旋回性能の向上を図ることのできる走行玩具を提供する。
【解決手段】後輪側の車軸11に駆動モータ18を接続する。シャーシ12の前部側中央に操舵モータ19を設置し、車体前後方向に沿う操舵モータ19の回転軸19aに偏心ウェイト24を取り付ける。操舵モータ19の回転方向は制御装置21によって制御する。操舵モータ19の動力によって偏心ウェイト24が一方に回転すると、前輪Wfが車幅方向の一方に動き、それによってシャーシ12にヨー回転が生じる。偏心ウェイト24が逆向きに回転すると、シャーシ12には逆向きのヨー回転が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行用の駆動装置と、進行方向を操作するための操舵装置を備えた走行玩具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線操作によって走行する走行玩具として、走行用の駆動モータ(駆動装置)と操舵装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この走行玩具は、後輪車軸に走行用の駆動モータがギヤ接続されるとともに、左右の前輪が操舵装置によって転舵されるようになっている。操舵装置は、左右の前輪を回転可能に支持するナックルがシャーシに揺動可能に保持され、各ナックルが複数のリンクとラックアンドピニオン機構を介して操舵用モータに連係されている。この走行玩具では、操舵用モータの回転を制御することにより、左右の前輪の舵角が任意に操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−136704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この従来の走行玩具は、左右の前輪を転舵するための操舵装置の構造が複雑であるため、このことが製造コストの高騰の原因となっている。
また、この従来の走行玩具は、後輪の駆動と前輪の転舵との協働によってシャーシを旋回させるものであることから、ある程度以上の旋回半径が必要となり、狭いスペースでの旋回が難しい。
【0005】
そこでこの発明は、操舵装置の構造を簡素化し、かつ操舵装置単体でシャーシに旋回力を付与できるようにして、製造コストの低減と旋回性能の向上を図ることのできる走行玩具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る走行玩具では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、シャーシの前後の左右には、回転可能に軸支された車輪が配置され、少なくとも前後一方の左右車輪が駆動装置によって回転駆動されるとともに、前記シャーシの進行方向が操舵装置によって操作される走行玩具において、前記操舵装置は、前記シャーシの車幅方向の中央に、回転軸が車体前後方向に沿うように配置された回転モータと、この回転モータの回転軸に偏心して取り付けられた偏心ウェイトと、前記回転モータの回転方向を制御する制御装置と、を備え、前記偏心ウェイトは、前記シャーシの前部側と後部側のいずれか一方に配置されていることを特徴とするものである。
これにより、回転モータが制御装置によって回転を制御されて、偏心ウェイトが一方に回転すると、偏心ウェイトが下降する領域と上昇する領域とで偏心ウェイトに作用する力が変動する。すなわち、偏心ウェイトには回転モータの駆動力と重力が作用するが、偏心ウェイトが下降する領域では、回転モータの駆動力が偏心ウェイトに鉛直下方に向かう分力として作用し、偏心ウェイトが上昇する領域では、回転モータの駆動力が偏心ウェイトに鉛直上方に向かう分力として作用する。したがって、偏心ウェイトが下降行程にあるときには、車輪等の接地部での接地荷重が増大して接地部の車幅方向の動きが抑制され、偏心ウェイトが上昇行程にあるときには、車輪等の接地部での接地荷重が減少して、偏心ウェイトに作用する遠心力によって車幅方向の動きが生じ、その結果、シャーシに一方向のヨー回転が発生する。また、制御装置による制御によって回転モータが他方向に回転すると、偏心ウェイトの回転に伴うシャーシの車幅方向の動きが左右逆になり、シャーシには他方向のヨー回転が発生する。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係るの走行玩具において、前記偏心ウェイトは、前記シャーシのヨー中心の前方側と後方側のいずれか一方に配置されていることを特徴とするものである。
これにより、偏心ウェイトの回転に伴うシャーシの車幅方向の動きは、シャーシのヨー中心から前後方向にずれた位置で生じるようになる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る走行玩具において、前記偏心ウェイトは、前記シャーシの前後一方の左右車輪を結ぶ軸線の上部近傍に配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る走行玩具において、前記シャーシの左側の前後の車輪と右側の前後の車輪にそれぞれ覆帯が掛け渡されて装着されていることを特徴とするものである。
これにより、駆動装置によって車輪が回転駆動されると、車輪を通して左右の覆帯が回転し、覆帯による走行が可能になる。また、前記回転モータと偏心ウェイトによってシャーシに同シャーシを車幅方向に押し動かす荷重が間欠的に付与されると、シャーシに一方のヨー回転が発生し、それによって覆帯が路面上を側方に動きシャーシが旋回するようになる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、操舵装置が、シャーシの車幅方向の中央に回転軸が車体前後方向に沿うように配置された回転モータと、回転モータの回転軸に偏心して取り付けられた偏心ウェイトと、モータの回転方向を制御する制御装置を備えた構成とされ、偏心ウェイトがシャーシの前部側と後部側のいずれか一方に配置されているため、簡単な構造でありながら、回転モータの回転に応じてシャーシに任意の方向のヨー回転を確実に生じさせることができる。したがって、この発明によれば、構造の簡素化によって製造コストの低減を図ることができ、しかも、操舵装置単体でシャーシにヨー回転を生じさせることができることから、狭いスペースでもシャーシを容易に旋回させることが可能になる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、偏心ウェイトの回転に伴うシャーシの車幅方向の動きが、シャーシのヨー中心から前後方向にずれた位置で生じるため、シャーシに確実に旋回力を作用させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、偏心ウェイトが前後一方の左右車輪を結ぶ軸線の上部近傍で回転し、その回転に伴う荷重の変動が前後一方の左右車輪に効率良く伝達されるため、車輪等の接地部が路面に対して側方に動き易くなる。したがって、シャーシの旋回性能をより高めることができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、覆帯によって走行する走行玩具にあっても、操舵装置が回転モータによって偏心回転する偏心ウェイトと、回転モータの回転方向を制御する制御装置を備えた構成とされているため、左右の覆帯の回転速度を変えることなくシャーシを旋回させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1の実施形態のリモコン玩具の外観図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の走行玩具のボディパネルを取り去った上面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の走行玩具の図2のA矢視図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の走行玩具の右旋回時の偏心ウェイトの作動(下降行程)とシャーシの挙動を示す図3に対応する図である。
【図5】この発明の第1の実施形態の走行玩具の右旋回時の偏心ウェイトの作動(上昇行程)とシャーシの挙動を示す図3に対応する図である。
【図6】この発明の第2の実施形態の走行玩具のボディパネルを取り去った上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態については、同一部分に同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。また、図面において、矢印FRは、走行玩具の正面前方を指し、UPは、走行玩具の上方を、Lは、走行玩具の前進方向に向かって左方をそれぞれ指すものとする。以下では、特別に断らない限り、前後、上下、左右の呼び方は、図中の矢印の向きに従うものとする。
【0016】
最初に、図1〜図5に示す第1の実施形態について説明する。
図1は、4輪車両タイプの走行玩具1と、走行玩具1の走行を遠隔操作するための無線タイプのリモートコントローラ2(以下、「リモコン2」と呼ぶ。)とから成るリモート玩具100の外観図である。
走行玩具1は、前後の車軸10,11を支持するシャーシ12の上部にボディパネル13が被着され、前後の車軸10,11のそれぞれに前輪Wf,Wfと後輪Wr,Wrが取り付けられている。リモコン2は、赤外線や電波を用いて走行玩具1に操作信号を出力する図示しない発信装置を内蔵し、その外面には前後進操作用の操作スイッチ14と左右操舵用の操作スイッチ15とが設けられている。なお、図1中16は、無線チャンネルの切り換えスイッチであり、17は、走行玩具1をリモコン2に接続して電力をチャージするときに用いるチャージボタンである。
【0017】
図2は、ボディパネル13を取り去った走行玩具1を上方から見た図であり、図3は、ボディパネル13を取り去った走行玩具1を正面から見た図である。
これらの図にも示すようにシャーシ12の後部領域には、後輪Wr側の車軸11を駆動するための駆動モータ18(駆動装置)が設置され、シャーシ12の前部領域には、後に詳述する操舵モータ19が設置されている。また、シャーシ12の前後方向の中央領域には、リモコン2から発信された信号を受信する受信器20と、受信器20で受けた信号に基づいて駆動モータ18と操舵モータ19を制御する制御装置21とが設置されている。なお、図2中22は、駆動モータ18の動力を減速して後輪Wr側の車軸11に伝達する減速ギヤであり、23は、駆動モータ18で発された熱を放熱するための金属製の放熱板である。
【0018】
操舵モータ19は、駆動モータ18と同様の回転モータによって構成されており、その回転軸19aには、大きな質量を持つ厚肉円盤状の偏心ウェイト24が偏心状態で取り付けられている。
操舵モータ19は、シャーシ12上の車幅方向の中央に、回転軸19aが車体前後方向に沿うように設置され、偏心ウェイト24は、回転軸19aを中心として、車幅方向と鉛直方向を含む平面内を旋回回転するようになっている。操舵モータ19と偏心ウェイト24は前輪Wf側の車軸10の上部近傍に配置され、かつ、シャーシ12のヨー中心Yに対して所定量前方側にオフセットしている。
また、操舵モータ19は、制御装置21による電流制御によって回転方向が切り換え可能となっている。この実施形態の場合、制御装置21は、操舵モータ19と偏心ウェイト24とともに操舵装置を構成している。
【0019】
図4,図5は、右旋回時における偏心ウェイト24の作動とシャーシ12(走行玩具1)の挙動を示す図である。
以下、この走行玩具1で用いる操舵装置の操舵原理について説明するが、操舵モータ19の回転軸19aと偏心ウェイト24の回転方向については、図4,図5中の矢印Rで示す方向を正転方向、矢印Rで示す方向と逆方向を逆転方向と呼ぶものとする。
【0020】
操舵モータ19の回転軸19aが正転方向に回転し、図4に示すように、偏心ウェイト24が最上昇位置(以下、「上死点位置」と呼ぶ。)から最下降位置(以下、「下死点位置」と呼ぶ。)に向かって旋回移動すると、このとき、偏心ウェイト24には、重力と操舵モータ19の駆動力の分力とがともに鉛直下方に向かう力として作用する。一方、図5に示すように、偏心ウェイト24が下死点位置から上死点位置に向かって旋回移動すると、このとき、偏心ウェイト24には、重力が鉛直下方に向かって作用するとともに、操舵モータ19の駆動力の分力が鉛直上方に向かう力として作用する。
したがって、図4に示すように、偏心ウェイト24が上死点位置から下死点位置に向かって旋回移動する間は、前輪Wfが重力と操舵モータ19の駆動力(分力)による大きな荷重で路面に押し付けられ、前輪Wfの車幅方向の動きが押さえ込まれている。このため、この間に偏心ウェイト24に作用する遠心力によってシャーシ12が車幅方向左側に押圧されても、前輪Wfは左方向に動くことはない。
一方、図5に示すように、偏心ウェイト24が下死点位置から上死点位置に向かって旋回移動する間は、鉛直上方に向かう操舵モータ19の分力によってシャーシ12が上方に押し上げられ、前輪Wfの接地荷重が一時的に減少する。このため、この間に偏心ウェイト24に作用する遠心力によってシャーシ12が車幅方向右側に押圧されると、前輪Wfは右方向に動かされることになる。
この前輪Wfの右方向への動きは、図2に示すシャーシ12のヨー中心Yの回りで生じ、その結果、シャーシ12は右方向に旋回するようになる。
【0021】
一方、操舵モータ19の回転軸19aと偏心ウェイト24が、逆転方向に回転する場合には、上述した正転方向の回転時の右と左が入れ代わるだけで、正転方向の回転時と同様の原理によってシャーシ12が左方向に旋回するようになる。
【0022】
以上のように、この実施形態の走行玩具1は、シャーシ12の前方に配置された操舵モータ19と偏心ウェイト24によってシャーシ12にヨー回転を生じさせるとともに、制御装置21によるモータ19の回転方向の切り換えによってシャーシ12に生じるヨー回転方向を任意に操作することができるため、リンク機構やラックアンドピニオン機構等の複雑な機構を用いない簡単な構造でありながら、シャーシ12の走行方向を容易に、かつ確実に操作することができる。
【0023】
このため、この走行玩具1においては、低コストでの製造が可能であるとともに、操舵装置の単体で、例えば、駆動モータ18が非駆動の場合にもシャーシ12にヨー回転を生じさせることができることから、狭いスペースでもシャーシ12の向きを容易に変更操作することができる。
【0024】
また、この走行玩具1では、偏心ウェイト24がシャーシ12のヨー中心Yから前方にずれた位置に配置されているため、シャーシ12に効率良く確実に旋回力を作用させることができる。
【0025】
さらに、この走行玩具1においては、偏心ウェイト24が前輪Wf側の車軸10の上部近傍に設置されているため、偏心ウェイト24による振動を前輪Wf側の車軸10に効率良く伝達し、車軸10の端部に取り付けられた前輪Wfを路面に対して側方に動き易くすることができる。したがって、この構造により、シャーシ12の旋回性能をより高めることができる。
【0026】
図6は、第2の実施形態を示すものであり、第1の実施形態の図2に対応する図である。
この第2の実施形態は、走行玩具の基本的な構成は第1の実施形態のほぼ同様であるが、左側と右側の各前輪Wfと後輪Wrとに、それぞれ覆帯(無限軌道)30L,30Rが掛け渡されて装着されている点が異なっている。
【0027】
この実施形態の走行玩具では、駆動モータ18から伝達される後輪Wrの駆動力が左右の覆帯30L,30Rに同様に伝達され、覆帯30L,30Rの接地面が前後に連続的に移動することでシャーシ12を前後に走行させるようになっている。このような覆帯30L,30Lの回転によって走行する走行玩具においては、通常、左右の覆帯30L,30Lの回転速度を変えなければシャーシ12の向きを変えることができない。しかし、この実施形態の走行玩具においては、操舵モータ19と偏心ウェイト24によってシャーシ12を車幅方向に動かすすべく間欠的な荷重を付与し、それによってシャーシ12にヨー回転を生じさせる構造とされているため、左右の覆帯30L,30Lの回転速度を変えることなく、シャーシ12の向きを容易に、かつ確実に変更することができる。
【0028】
したがって、この実施形態の走行玩具は、操舵のために左右の覆帯30L,30Lの回転速度を変える機構が不要になることから、構造の簡素化によって製造コストの低減を図ることができる。
【0029】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の各実施形態は、後部側の車軸に駆動モータが接続され、シャーシの前部側に操舵モータと偏心ウェイトが設置された構造とされているが、逆に前部側の車軸に駆動モータを接続し、操舵モータと偏心ウェイトをシャーシの後部側に設置することも可能である。また、操舵モータと偏心ウェイトを駆動モータとともにシャーシの前部側と後部側の一方に配置することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…走行玩具
10,11…車軸
12…シャーシ
18…駆動モータ(駆動装置)
19…操舵モータ(回転モータ)
19a…回転軸
21…制御装置
24…偏心ウェイト
30R,30L…覆帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシの前後の左右には、回転可能に軸支された車輪が配置され、少なくとも前後一方の左右車輪が駆動装置によって回転駆動されるとともに、前記シャーシの進行方向が操舵装置によって操作される走行玩具において、
前記操舵装置は、前記シャーシの車幅方向の中央に、回転軸が車体前後方向に沿うように配置された回転モータと、この回転モータの回転軸に偏心して取り付けられた偏心ウェイトと、前記回転モータの回転方向を制御する制御装置と、を備え、
前記偏心ウェイトは、前記シャーシの前部側と後部側のいずれか一方に配置されていることを特徴とする走行玩具。
【請求項2】
前記偏心ウェイトは、前記シャーシのヨー中心の前方側と後方側のいずれか一方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の走行玩具。
【請求項3】
前記偏心ウェイトは、前記シャーシの前後一方の左右車輪を結ぶ軸線の上部近傍に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の走行玩具。
【請求項4】
前記シャーシの左側の前後の車輪と右側の前後の車輪にそれぞれ覆帯が掛け渡されて装着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行玩具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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