説明

走間板厚変更方法および装置

【課題】タンデム圧延機内に薄引開始点と終了点が同時に入る場合でも張力変動を抑制することができる走間板厚変更方法および装置を提供する。
【解決手段】板厚変更開始点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを圧延機出側で目標の板厚となるように設定し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度はマスフローを考慮して設定し、それよりさらに上流の圧延スタンドについては、サクセシブ制御を用いて、各圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始状態に設定し、板厚変更終了点においては、板厚変更終了点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを元の状態に戻し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度については板厚変更開始点が通過した際に変更した分だけ戻し、それよりさらに上流の圧延スタンドについてはサクセシブ制御を用いてロール速度を変更することによって、板厚変更終了状態に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間連続圧延により圧延された後、切断されて巻き取られる金属帯の製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間連続圧延では、タンデム圧延機の入側で先行材尾端と後行材先端を溶接して、一つの連続した金属帯としてタンデム圧延機で連続的に圧延する。そして、圧延機の出側にて製品単位の位置で切断し、テンションリールで順次巻き取る。
【0003】
圧延にあたっては、先行材と後行材の硬度、母板厚、仕上厚のいずれかが異なる場合には、先行材と後行材が各々目標の板厚となるように圧延機のロールギャップとロール速度を制御する、所謂、走間板厚変更(以下、走変と略称することもある)の技術が良く知られている。
【0004】
このような先行材と後行材をそれぞれの目標の板厚となるように制御する走間板厚変更方法以外にも、操業上のトラブルを回避するために、コイルの溶接部前後を定常部よりも厚く圧延する板厚制御方法(以降、厚み付け圧延と称する)が、以下に示す特許文献1〜4に開示されている。
【0005】
先行材と後行材の仕上厚目標値が薄い場合には、コイル状にした際に内径にかかる応力によりコイルが潰れてしまうことがあり、これを防止するために、従来はスリーブと呼ばれる鋼板をコイル先端に接合して厚み付けしていた。先ず、特許文献1では、スリーブ接合に伴うコスト削減のため、スリーブの代わりに溶接点前後で厚み付け圧延することが開示されている。
【0006】
また特許文献2には、テンションリールに巻きつく際の過張力状態においても、破断なく安定的に巻き取りを行うことを目的に、極薄材の溶接点前後を厚み付け圧延する方法が開示されている。この方法は、まず先行材の製品厚(極薄部)より厚い中間板厚目標値に厚く圧延し、そこから溶接点前後をさらに厚く圧延する2段階にわたる走間板厚変更方法である。2段階にわたる走間板厚変更をしているのは、板厚変更量が大きい場合に張力変動が大きくなることによる絞りや蛇行といったトラブルを回避するためであり、実施例では厚み付け部は90m程度である。
【0007】
また特許文献3は、前工程で検出された圧延材の耳割れ部の前後を定常部と比べて厚み付け圧延することで、破断を防止している。実施例には、耳割れ部前後30m(全長60m)程度を厚み付け圧延していることが開示されている。
【0008】
さらに特許文献4は、特許文献2と同様の課題を解決するために厚み付け圧延している。ただし、ロールギャップの設定とロール速度の設定は、AGC(自動板厚制御)により行い、厚み付け部の長さは5〜100m程度で行えば良いと記載されている。
【0009】
なお上述した特許文献1〜4は、それぞれ対象にしている仕上厚は多少異なるものの、仕上厚0.4mm以下程度の極薄材を対象としており、厚み付け厚は最大200μmである。コイル溶接部前後は溶接による入熱のため、材質の変化があり、製品とすることはできず、屑として処理される。従って、屑量削減のために、前述した極薄材特有の破断などの操業上トラブルが生じない仕上厚が厚い材料の連続圧延では、厚み付け圧延とは逆に溶接部前後を薄く圧延する(以降、薄引圧延と称する)ことが求められている。
【0010】
以上のように、コイル溶接部前後は定常部の板厚と異なるように圧延することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−169102号公報
【特許文献2】特開2003−260505号公報
【特許文献3】特開2006−224119号公報
【特許文献4】特開平11−33612号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】D.R.Bland and H.Ford:Proc. Inst. Mech. Eng.、163(1948)、144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、連続圧延において溶接部前後の板厚を定常部と異なるように圧延するものであり、必ずしも背景技術に示した極薄材同士の溶接点前後の厚み付け圧延に限られるものではなく、仕上厚が厚い材料同士の溶接点前後を薄くする薄引圧延も含むものである。
【0014】
先に挙げた特許文献に開示されている厚み付け圧延を薄引圧延に転用するためには、以下のような問題がある。
【0015】
特許文献1〜3には、厚み付け部の長さが長い実施例が記載されている。これは、操業トラブルなく安定的に圧延する目的のために、タンデム圧延機の機内(第1スタンドから最終スタンドまで)に走間板厚変更点が2点以上入ることを避け、張力変動を抑制しているためであると推測される。上述したように、溶接点前後の板厚変更部の長さは、極力短い方が好ましいため、機内に走間板厚変更点が2点入る場合(走間板厚変更開始点と走間板厚変更終了点)であっても、溶接点前後の板厚変更部が短く、張力変動を抑制しつつ走間板厚変更できる技術が課題である。
【0016】
また、特許文献4では、厚み付け部が5m程度に短くできると記載されているものの、これは、あくまで厚引き厚さが200μm程度と小さいため、AGCで対処可能であるためと考えられる。しかしながら、この方法を用いて200μm程度以上の板厚変更を伴う場合には、全スタンド間のマスフロー変動が大きいため、フィードバック制御を主体とするAGCの構成では、張力変動は大きくなってしまい、大幅な板厚変更を行うことは困難である。張力は、スタンド間のマスフローの収支により決まるため、その変動を抑制するためには、ロールギャップの設定方法とロール速度を適切に設定することが必要である。
【0017】
また、板厚変更部分は屑として処理されるため、厳密な板厚精度は求めない代わりに、効率的な方法で実現することがコスト等の観点から必要である。
【0018】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、走間板厚変更圧延において、タンデム圧延機内に薄引開始点と終了点が同時に入る場合でも張力変動を抑制するロール速度(ロール周速度、ロール回転速度とも言う)の設定とロールギャップの設定を行ない、薄引圧延を実現することができる走間板厚変更方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の発明によって解決できる。
【0020】
[1] 先行板と後行板を接合してタンデム圧延機で連続圧延する際に、接合部前後の板厚を定常部の板厚と異なる仕上厚に圧延する、走間板厚変更方法であって、
板厚変更開始点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを圧延機出側で目標の板厚となるように設定し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度はマスフローを考慮して設定し、それよりさらに上流の圧延スタンドについては、サクセシブ制御を用いて、各圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始状態に設定し、
板厚変更終了点においては、板厚変更終了点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを元の状態に戻し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度については板厚変更開始点が通過した際に変更した分だけ戻し、それよりさらに上流の圧延スタンドについてはサクセシブ制御を用いてロール速度を変更することによって、板厚変更終了状態に設定することを特徴とする走間板厚変更方法。
【0021】
[2] 先行板と後行板を接合してタンデム圧延機で連続圧延する際に、接合部前後の板厚を定常部の板厚と異なる仕上厚に圧延する、走間板厚変更装置であって、
板厚変更開始点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを圧延機出側で目標の板厚となるように設定するロールギャップ設定手段を有し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度はマスフローを考慮して設定し、それよりさらに上流の圧延スタンドについては、サクセシブ制御を用いて、各圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始状態に設定するロール速度設定手段を有し、
板厚変更終了点においては、前記ロールギャップ設定手段は、板厚変更終了点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを元の状態に戻し、前記ロール速度設定手段は、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始点が通過した際に変更した分だけ戻し、それよりさらに上流の圧延スタンドについてはサクセシブ制御を用いてロール速度を変更することによって、板厚変更終了状態に設定することを特徴とする走間板厚変更装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、タンデム圧延機での連続圧延において、溶接部前後で板厚を変更するにあたって、板厚変更開始点通過直後の圧延スタンドのマスフローが合うように、通過直後の圧延スタンドの1つ上流の圧延スタンドのロール速度を変更し、さらに上流の圧延スタンドのロール速度は、サクセシブ制御により変更することでロール速度を設定し、板厚変更終了点については、板厚変更開始点が変更したロール速度変更分を元に戻すという方法を採用したため、実装することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における薄引圧延の開始点と終了点の位置関係を示す図である。
【図2】本発明におけるロールギャップ、ロール速度の設定変更に関する装置構成例を示す図である。
【図3】薄引圧延を実施する際の従来法の実施形態を示す図である。
【図4】従来法と本発明法の薄引長さについて比較した結果を示す図である。
【図5】本発明におけるロールギャップの動作例を示す図である。
【図6】本発明におけるロール速度(ロール周速度)の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態を、以下に図、表、数式を用いて具体的に説明を行う。図1は、本発明における薄引圧延の開始点と終了点の位置関係を示す図である。ここで、板厚変更開始点から終了点にかけて定常部より薄く圧延する。薄引長さを短くするために板厚変更開始点と終了点は同時にタンデム圧延機内(#1圧延スタンド(#1STD)〜#4圧延スタンド(#4STD)間)に入っているが、同一圧延スタンド間に板厚変更開始点と終了点は入らないこととする(なお、以降、圧延スタンドは、単にスタンドと称することもある)。
【0025】
本発明の説明では、定常部をスケジュールI、板厚変更部をスケジュールIIと記し、記号の添字にI、IIを用いることがある。
【0026】
まず、板厚変更開始点が#1スタンド通過前に定常部から板厚変更部への各ロールギャップ変更量を計算する。ロールギャップは、(1)式に示すゲージメータ式を用いて計算し、板厚変更開始点位置および終了点位置でのロールギャップ変更量を、表1の形式で保存する。
【0027】
【数1】

【0028】
【表1】

【0029】
次に、ロール速度の設定値を求める。板厚変更開始点が#i+1スタンド通過時には、#i+1スタンドのロールギャップを変更することで出側板厚が変更される。このとき#i+1スタンドのマスフローバランスを考慮すると、次式(2)が成り立つ必要がある。
【0030】
【数2】

【0031】
続いて、板厚変更開始点が#i+1スタンド通過前の#i+1スタンドのマスフローバランスは、次の(3)式で表される。
【0032】
【数3】

【0033】
式(2)と式(3)より、#iスタンドのロール速度は、次の(4)式ように設定する必要がある。
【0034】
【数4】

【0035】
なお、先進率は、非特許文献1に記載のBland&Fordの式(5)で計算すれば良い。
【0036】
【数5】

【0037】
次に#iスタンドより上流の圧延スタンドのロール速度は、サクセシブ制御により変更してマスフローバランスが崩れないように設定する必要がある。ここでサクセシブ制御について説明する。一般的に圧延機のロール周速度Vrは、マスター速度設定器であるMRH(Master Speed Rheostat)にスタンド速度基準器であるSSRH(Setting Speed Rheostat)というMRHに対する速度比とサクセシブSUCをかけ合わせた設定値で制御され、その関係は次式(6)となっている。
【0038】
【数6】

【0039】
ある圧延スタンドのサクセシブを変更したときに、その上流の圧延スタンドに対してもサクセシブの項は継承され、同じ割合だけロール周速度を変更する。これにより、上流の圧延スタンドに対してもマスフローの変動を抑制できる仕組みとなっている。
【0040】
本発明では、サクセシブ変更量を以下の(7)式に基づいて設定する。
【0041】
【数7】

【0042】
以上をまとめると、板厚変更開始点と終了点が設定するサクセシブ変更量は、表2に示す通りとなる。
【0043】
【表2】

【0044】
図2は、本発明におけるロールギャップ、ロール速度の設定変更に関する装置構成例を示す図である。図中、101は開始点トラッキング装置、102は終了点トラッキング装置、201は開始点油圧圧下指令装置、202は終了点油圧圧下指令装置、301は開始点ロール速度指令装置、302は終了点ロール速度指令装置をそれぞれ表す。
【0045】
開始点トラッキング装置101および終了点トラッキング装置102は、薄引開始点と終了点の位置が通過したスタンドをトラッキングしている。それらの通過スタンドに応じて、開始点油圧圧下指令装置201及び終了点油圧圧下指令装置202の圧下指令装置が前述した表1に従って圧下指令を出し、双方の出力を足しあわせたものを最終的な圧下指令として圧下装置を動作させる。
【0046】
圧下指令と同様に薄引開始点と終了点の位置により、開始点ロール速度指令装置301及び終了点ロール速度指令装置302で示されるロール速度指令装置が前述した表2に従って、各圧延スタンドのロール速度変更量(サクセシブ変更量)を出力し、それらを重ね合わせたものをサクセシブ変更量として電動機を駆動させる。
【0047】
この時のロールギャップ変更量とロール速度変更量の変更レートは、各スタンドのマスフローを合わすという意味で、変更時間(変更開始時刻から変更終了時刻までの時間)が一致するように指令を出す。
【0048】
以上の構成および処理により、タンデム圧延機内に走変変更点が2点入る場合でも張力変動を抑制しつつ、板厚制御を行うことが可能となり、前述の課題を解決できる。
【実施例】
【0049】
図3は、薄引圧延を実施する際の従来法の実施形態を示す図である。従来法では、薄引開始点と終了点が同時にタンデム圧延機内に存在しないように走間板厚変更を実施していた。一方、本発明では、同時にタンデム圧延機内に存在可能とする構成である。実施例として、従来法と本発明法との比較を、シミュレーション結果の一例として示す。
【0050】
シミュレーション条件は、母板厚:2.2mm、薄引前の仕上厚:1.7mm、薄引中の仕上厚:0.9mm、薄引後の仕上厚:1.7mm、最終スタンドのロール周速度:85mpmであり、全張力の設定として、#1スタンド−#2スタンド:28.56[tonf]、#2スタンド−#3スタンド:20.1 [tonf]、#3スタンド−#4スタンド:16.74 [tonf]をそれぞれ設定している。
【0051】
図4は、従来法と本発明法の薄引長さについて比較した結果を示す図である。本発明を適用することで、板厚変更点が2点同時にタンデム圧延機内に入ることが可能となったため溶接点前後の薄引長さが25m程度から12m程度(板厚不良部含む)に低減可能となった。ただし、薄引圧延中の板厚精度は従来法よりも劣る結果となる。しかしながら、薄引圧延している部分は、屑として処理されるために厳密な板厚精度は求められないため結果としては、十分である。
【0052】
なお、図5および図6からは、このときのロールギャップとロール速度が、板厚変更開始点、終了点の通過スタンドに応じて設定されていることが確認できる。
【符号の説明】
【0053】
101 開始点トラッキング装置
102 終了点トラッキング装置
201 開始点油圧圧下指令装置
202 終了点油圧圧下指令装置
301 開始点ロール速度指令装置
302 終了点ロール速度指令装置
M 電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行板と後行板を接合してタンデム圧延機で連続圧延する際に、接合部前後の板厚を定常部の板厚と異なる仕上厚に圧延する、走間板厚変更方法であって、
板厚変更開始点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを圧延機出側で目標の板厚となるように設定し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度はマスフローを考慮して設定し、それよりさらに上流の圧延スタンドについては、サクセシブ制御を用いて、各圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始状態に設定し、
板厚変更終了点においては、板厚変更終了点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを元の状態に戻し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度については板厚変更開始点が通過した際に変更した分だけ戻し、それよりさらに上流の圧延スタンドについてはサクセシブ制御を用いてロール速度を変更することによって、板厚変更終了状態に設定することを特徴とする走間板厚変更方法。
【請求項2】
先行板と後行板を接合してタンデム圧延機で連続圧延する際に、接合部前後の板厚を定常部の板厚と異なる仕上厚に圧延する、走間板厚変更装置であって、
板厚変更開始点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを圧延機出側で目標の板厚となるように設定するロールギャップ設定手段を有し、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度はマスフローを考慮して設定し、それよりさらに上流の圧延スタンドについては、サクセシブ制御を用いて、各圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始状態に設定するロール速度設定手段を有し、
板厚変更終了点においては、前記ロールギャップ設定手段は、板厚変更終了点が通過した直後の圧延スタンドのロールギャップを元の状態に戻し、前記ロール速度設定手段は、前記圧延スタンドより一つ上流の圧延スタンドのロール速度を板厚変更開始点が通過した際に変更した分だけ戻し、それよりさらに上流の圧延スタンドについてはサクセシブ制御を用いてロール速度を変更することによって、板厚変更終了状態に設定することを特徴とする走間板厚変更装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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