説明

起泡済フィリング及びその製造方法

【課題】 製菓製パンメーカーに安定した品質で供給できる風味、状態、及び保存性の良好な起泡済フィリング及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 モノグリセリン脂肪酸エステルを0.03〜0.2重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを1.0〜2.0重量%、およびキサンタンガムを0.02〜0.15重量%を必須的に配合してなる原料を、連続的またはバッチ的に、エージングやテンパリングなしで、ホイップする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、菓子やパンなどに使用される起泡済フィリング及びその製造方法に関し、より詳しくは、風味が良好であり、状態が安定しており、且つ風味のバラエティ化が可能であると共に食感が軽いなどの特性を有する、菓子やパン用の起泡済フィリングを高い生産性で製造するための製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、製菓製パン分野においては、食感の軽いトッピング材やフィリング材として、天然の生クリームを用いて起泡させるホイップクリームが用いられてきた。このホイップクリームは、その乳製品独特の風味が好まれており、長い間製菓製パンの素材として使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この生クリームを用いたホイップクリームは、フィリングの機能や風味の点で、菓子やパンの多様化していく需要に満足のいくように合わせることが出来ないという問題がある。例えば菓子やパンを大量生産している製菓製パンメーカーでは、高値の生クリームを用いた場合、これを用いた商品の価格が必然と高値になってしまう。また、この生クリームを用いたホイップクリームは、水分含量が高いため、細菌の増殖がはやく、また必然的に商品の賞味期限も短くなり、保存性が乏しい。さらに、最近の健康志向により、低脂訪、低カロリーの商品が望まれてきているが、生クリームそのものは牛乳由来の乳脂肪が約半量含有されているため、これらのニーズに対応出来ないのが現状である。
【0004】また、このホイップクリームは、起泡後の経時安定性すなわちホイップした後の保形性が徐々に失われていく。よって、フィリングメーカーがホイップしたクリームを製菓製パンメ一力一に供給することはその商業的流通期間を考慮すると経時安定性を満足させることは難しい、必然的に使用する菓子製パンメーカーでホイップしなければならなかった。ところが、このホイップクリームの起泡作業は、その泡立ての終点の見極めが難しく、職人的な作業を必要となることから、ホイップ済みのフィリングが求められてきていた。
【0005】一方、ホイップ済みのフィリングとして、バタークリームが広く使用されてきている。ところが、このバタークリームは油中水型乳化素材であり、外相が油脂であることから、水相に呈味成分が存在する場合に風味が弱かったり、濃度耐性を保つために油脂の融点を上げると口融けが悪くなり、油っぽさを感じるなどの欠点を有している。
【0006】また、上記の欠点を補うために、起泡性の水中油型乳化素材が商品化されている。この起泡性の水中油型乳化素材としては、生クリームを似させてつくる、いわゆる疑似生クリームやコンパウンドクリームと呼称されるクリームを起泡してできるホイップクリームなどが挙げられる。しかしながら、このホイップクリームを工業的に大量に製造する際には、溶解された油脂の結晶を均一化、安定型にするために、静置しておくエージング、もしくは温度調整をしながら冷却・加温するテンパリングを行わなければならない。つまり従来の起泡性の水中油型乳化素材の製造工程ではこのようなエージングやテンパリング装置が必須であり、必然的に、マーガリンやショートニング製造工程のような大掛かりな装置となってしまうのが現状である。
【0007】つまり、製菓製パン用としての食感の軽いフィリングを製菓製パンメーカーに供給する場合には次のような問題点がある。まず、フィリングとして生クリームを用いたホイップクリームを供給する場合には、コスト、作業性、生産性、保存性の点で上記のような問題がある。また、フィルングとしてバタークリームを供給する場合、そのフィリングは風味や口融けの点で問題がある。さらに、フィリングとして水中油型乳化素材を供給する場合、特殊な設備での生産となり、最終的には商品のコストに影響する。すなわち、低脂肪、低カロリーの食感の軽いフィリングを、安定した品質で且つ高い生産性、安価で製菓製パンメーカーに供給することは難しいのが現状である。
【0008】そこで本発明は、製菓製パンメーカーに安定した品質で供給できる風味、状態、及び保存性の良好な起泡済フィリング及びその製造方法を提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来のホイップタイプのフィリングの問題点である、食感及び状態、風味が良好である配合、特に乳化剤と安定剤及び製法に重点をおき、研究を重ねた結果、特定の乳化剤を含んでなる水中油型乳化フィリングを用い、これを従来からのフィリングの工業的な製法を用いることに着目して本発明を完成した。
【0010】すなわち、本発明に係る起泡済フィリング及びその製造方法は、モノグリセリン脂肪酸エステルを0.03〜0.2重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを1.0〜2.0重量%、およびキサンタンガムを0.02〜0.15重量%を必須的に配合してなる原料を、連続的またはバッチ的に、エージングやテンパリングなしで、ホイップすることを特徴とする。
【0011】すなわち、本発明で使用される乳化剤として、モノグリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの特定量の組み合わせとキサンタンガムを用いることで、均一に油層と水層が乳化され、且つホイップしたときの気泡を取り込む網目構造が完成する。つまり、ポリグリセリン脂肪酸エスチルを乳化剤として用い、均一な乳化がなされる。
【0012】また、モノグリセリン脂肪酸エステルを解乳化剤として用い、乳化を多少解離させ、その脂肪球の凝集によって起こる網目構造で、気泡を取り込む。また、このとき、キサンタンガムを用いることで、この網目構造をより強固にして、気泡の安定性が付与できる。
【0013】つまり、本発明の製造方法によれば、従来から行われているエージングやテンパリングなどを行って油脂を均一な結晶にして安定性を高める必要がなくなり、この工程を省略できる。これにより、従来からフィリングの製造工程を用いた製法で、連続的もしくはバッチ式でホイップをすることができる。この結果、生産性が向上するとともに、ホイップフィリングとして品質の安定した安価の商品が製パン製菓メーカに供給できる。
【0014】
【発明の実施の形態】次に、本発明の起泡済フィリング及びその製造方法について具体的に説明する。まず、水、油脂類、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、糖煩、乳製品、その他呈味成分などを均―になる様に予備混合する。このときの油脂類は、動植物性油脂、これらの硬化油脂の単独または二種類以上の混合物、あるいはこれらに種々の化学的または物理的な処理をしたものなどが挙げられ特に限定せず使用できる。本発明の必須原料であるモノグリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルやキサンタンガムは、充分に溶解分散することが必要である。
【0015】また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量は1.0〜2.0重量%が好ましい。これにより少ないと脂肪球径が大きく、乳化が安定しない。また。これより多いと、気泡を安定させるための胆肪球の凝集が不十分になり、ホイップの安定性がなくなる。
【0016】さらに、モノグリセリン脂肪酸エステルの添加量は0.03〜0.2重量%が好ましい。これより少ないと、脂肪球の凝集が不十分となり、ホイップの安定性がなくなる。またこれより多いと乳化した脂肪球が凝集しすぎて、脂肪球径が大きくなり、乳化が安定しない。
【0017】また、キサンタンガムの添加量は0.02〜0.15重量%が好ましい。これより少ないと脂肪球の凝集による網目構造の補強にはならず、ホイップの安定性がなくなる。また、これより多いと、フィリングの粘度が高くなり、口溶けがわるくなったり、ホイップがしずらくなり、ソフトな食感が得られない。
【0018】一方、糖類は、特に限定されない。また、呈味成分は、イチゴ、オレンジ、プルーベリー、白桃等の果実類、マロン、ピーナッツ、アーモンド等の種子類、ミルク、コーヒー、紅茶、チョコ、バニラ等が挙げられ、特には限定せずに使用出来る。
【0019】この糖類や呈味成分は、上記工程で投入せず、この後の加熱、冷却工程後に投入することも出来る。
【0020】次いで、上記原料を予備混合した調合液を高圧型均質機を使用して、均質化圧50〜200Kg/cm 程度の圧力をかけ、油脂球径l0ミクロン以下に細かく均質化する。その後殺菌加熱処理を行う。
【0021】上記の殺菌加熱処理として、具体的には、掻き取り式熱交換器による間接加熱方法や、直接蒸気を噴射するスチームインジェクション式による直接加熱方法などが挙げられる。なお、掻き取り式熱交換器として、具体的には、コンサーム掻き取り式熱交換器(テトララバルフード社製)、サーモシリンダ(岩井機械社製)、掻き取り式熱交換器(イズミフードマシナリ社製)、CP−ロータプロ掻き取り式熱交換器(APV社製)、ターロサム掻き取り式熱交換器(Terlet社製)などが使用される。
【0022】また、スチームインジェクション式加熱器として、具体的には、スチームノズル(岩井機械社製)、ノリタケクッカー(ノリタケカンパニー社製)、スチームインジェクション(テトララバルフード社製)などが使用される。
【0023】その後に冷却を行うが、この時の冷却装置として、通常のフィリング製造工程に用いられる装置、例えば掻き取り式熱交換器が挙げられる。
【0024】また、この後、油脂の乳化状態を更に安定させる目的で、加熱前に行った均質化処理を行うことも出来る。均質化処理は、特に限定しないが、加熱前、加熱後もしくは加熱前と後の2工程で行うことも出来る。
【0025】加熱、冷却された調合液を次に、連続式もしくはパッチ式でホイップを行う。ここで、連続式でホイップを行う場含、ホイップ装置は連続ホイツプマシン(モンド社製)、ピンマシン(シュレーダー社製)、フォ―ムミキサー(エアロマッティック社製)などが挙げられる。
【0026】また、パッチ式でホイップを行う場合、高速型ミキサー、加圧ミキサー、横形ミキサー、縦形ミキサーなどが挙げられる。また、バッチ式でホイップを行う場合、糖類や呈味成分なども加熱、冷却された調合液と混合、ホイップすることも出来る。これにより従来のフィリング製造工程や起泡性の水中油型乳化素材の製造工程などの均質化処理を施す場合には製造できなかった、例えば果実の固形が残ったフィリングも製造が出来る。この時の呈味成分としては、イチゴ、オレンジ、ブルーベリー、白桃等の果実類や、マロン、ピーナッツ、アーモンド等の種子類などが挙げられ、固形の入った起泡フィリングが製造出来る。
【0027】この後ホイップしたフィリングは、定法により、充填、包装される。
【0028】以下に、本発明に係る起泡済フィリング及びその製造方法の実施例と比較例を挙げて、保存性、状態安定性、風味に優れていることを明らかにする。
【0029】(実施例1〜3、比較例1〜6)表1に示した原料組成を用いて、次の工程で起泡済フィリングを製造した。また、得られた起泡済フィリングの起泡性、状態、食感の評価を表2に示す。すなわち、原料を原料投入タンクに入れ、分散、溶解、混合を行う。この調合液を均質化処理として、高圧型均質機を便用して均質化圧力150Kg/cm で処理する。その後、掻き取り式熱交換器により90℃まで加熱、殺菌する。加熱後、掻き取り式熱交換器で10℃まで冷却を行い、その後エージングやテンパリングの工程を施さずに、連続ホイップマシンで、起泡させて、起泡済フィリングを得た。
【0030】表2に示す通りに、本発明の起泡済フィリングは、起泡性、状態、食感の点で優れていることは明らかである。
【0031】
【表1】
実施 実施 実施 比較 比較 比較 比較 比較 比較 例1 例2 例3 例1 例2 例3 例4 例5 例6原料組成(重量%)
水 27.8 27.1 26.8 27.5 27.2 28.4 26.4 27.6 27.4 糖 類 32.0 32.0 32.0 32.0 32.0 32.0 32.0 32.0 32.0 粉 乳 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 油 脂 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 24.0 バター 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 4.0 モノグリセリン 0.1 0.1 0.1 0.01 0.3 0.1 0.1 0.1 0.1 脂肪酸エステル ポリグリセリン 1.0 1.5 2.0 1.5 1.5 0.5 2.5 1.5 1.8 脂肪酸エステル キサンタンガム 0.3 0.5 0.3 0.2 0.2 0.2 0.2 0 0.2 香料 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 その他 2.7 2.7 2.7 2.7 2.7 2.7 2.7 2.7 2.7
【0032】
【表2】
実施 実施 実施 比較 比較 比較 比較 比較 比較 例1 例2 例3 例1 例2 例3 例4 例5 例6 起泡性 注1 ○ ○ ○ × ○ ○ × × ○ 状 態 注2 ○ ○ ○ △ × × △ × × 食 感 注3 ○ ○ ○ △ ○ ○ △ ○ × (注1) 起泡性については、製造直後のフィリングが、 起泡性が良く、比重が0.4〜0.6になるものを○、 起泡性が悪く、比重が0.7以上しかならないものを×とした。
(注2) 状態については、フィリングの状態を観察し、 油の分離や、保型性が良好なものを○、 油の分離や流れ出す状態が多少見られたものを△、 全く保型性がなく、流れ出す状態を×とした。
(注3) 食感については、熟練したパネラー10名の評価を集約し、 口溶け、なめらかさが良好なものを○、 若干なめらかさに欠けるものを△、 口溶けが悪く、なめらかさに欠けるものを×とした。
【0033】また、本発明が商業的流通に耐え得る保存性や状態安定性を兼ね備えていることは表3、表4の保存試験より明らかである。なお、表3は、実施例1の起泡済フィリングを5℃、10℃、20℃で保管した場合における保存日数に対する一般生菌数(個/g)の変化を表わしたものである。表4は、同じく実施例1の起泡済フィリングを5℃、10℃、15℃で保管した場合における保存日数に対する状態の変化を表わしたものである。
【0034】
【表3】
一般生菌数(個/g)
保存日数 実施例1 実施例2 実施例3 5℃ 10℃ 20℃ 0日 1.0×10 1.0×10 1.0×10 10日 10個以下 1.0×10 10個以下 20日 10個以下 1.0×10 10個以下 30日 10個以下 10個以下 1.0×10
【0035】
【表4】
状態変化(g/cm ) 注4 保存日数 実施例1 実施例2 実施例3 5℃ 10℃ 15℃ 0日 25 25 25 10日 26 27 30 20日 25 29 35 30日 30 33 35 (注4) 状態の変化は起泡済フィリングの硬さを測定 測定方法 (株)レオッテク社製 FUDOH RHEO METER MODEL RT2002J 試料上昇方式で測定
【0036】表3、表4の結巣より、本発明の起泡済フィリングは、30日の保存後も一般生菌数の増殖や、状態の変化つまり硬さの変化がなく経時的に安定していることは明らかである。
【0037】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、従来用いられてきた生クリームを使ったホイップクリームよりも保存性や状態安定に優れており、またパタークリームに代表される油中水型乳化素材より風味に優れており、さらに特殊な工程を経なくとも従来のフィリングの製造工程で起泡済フィリングを製造できる、起泡済フィリング及びその製造方法を提供できる。そして、本発明によれば、特殊な製造工程を経らずにホイップできることで、今までに無い巣実の果肉等の固形入りフィリングも製造出来て、風味のバラエティ化が出来る。このため、フィリングの大量生産分野や製菓製パンヘの新しいフィリング分野において画期的な意義を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 モノグリセリン脂肪酸エステルを0.03〜0.2重量%、ポリグリセリン脂肪酸エステルを1.0〜2.0重量%、およびキサンタンガムを0.02〜0.15重量%を必須的に配合してなる原料を、連続的またはバッチ的に、エージングやテンパリングなしで、ホイップする、ことを特徴とする起泡済フィリング及びその製造方法。

【公開番号】特開2001−161299(P2001−161299A)
【公開日】平成13年6月19日(2001.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−354752
【出願日】平成11年12月14日(1999.12.14)
【出願人】(596049762)ソントン食品工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】