説明

超伝導コイルの保護方法、および超伝導磁石装置

【課題】超伝導コイルに発生する電圧(電圧の変化)を用いない新たな方法で、クエンチなどによる超伝導コイルの損傷を防止することができる超伝導コイルの保護方法を提供すること。
【解決手段】超伝導層を有するテープ状の超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルの保護方法である。所定の位置における超伝導線材の厚み方向の測定磁場Bと、遮蔽電流を無視して算出した超伝導線材の厚み方向の磁場Bcalと、の差である遮蔽磁場の大きさに基づいて、励磁電源の出力を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイド型、パンケーキ型、くら(鞍)型などの形に超伝導線が巻かれてなる超伝導コイルの保護方法、および超伝導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導コイルの保護(クエンチなどによる損傷を防ぐ)方法としては、例えば、特許文献1〜3に記載されたような方法がある。特許文献1には、超伝導コイルの両端にブリッジ回路を並列に接続し、このブリッジ回路からの出力に含まれる誘導電圧ノイズなどを除去することでクエンチ検出精度を高めようとする方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、超伝導コイルの電圧上昇状態からクエンチを検出するクエンチ検出回路の検知信号に基づいて、超伝導コイルがクエンチに至らないように超伝導コイルの電流を調整するという方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、超伝導コイルの近傍にピックアップコイルを設け、超伝導コイルに発生する電圧と、ピックアップコイルに誘導される電圧との差の電圧に基づいてクエンチを検出するという方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−274014号公報
【特許文献2】特開2006−319139号公報
【特許文献3】国際公開2006/115126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されている方法では、いずれの方法においても、超伝導コイルに発生する電圧(電圧の変化)をクエンチ検出に用いている。
【0007】
一方で、Y系に代表されるReBCO系超伝導線材は、超伝導層が非常に薄いために、超伝導状態から常伝導状態へ転移した後も抵抗の値が小さい。すなわち、発生電圧が小さく、特許文献1〜3に記載されているような電圧(電圧の変化)を用いる方法では常伝導状態への転移の検出が遅れてしまう。その結果、常伝導状態に転移した箇所の温度上昇が異常に大きくなり、線材の超伝導特性が劣化したり、場合によっては、焼損にいたったりすることがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、超伝導コイルに発生する電圧(電圧の変化)を用いない新たな方法で、クエンチなどによる超伝導コイルの損傷を防止することができる超伝導コイルの保護方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、超伝導コイルの両端電圧が突然上昇する(クエンチによる)直前の遮蔽磁場の変化が、超伝導コイルの両端電圧の変化よりもゆっくりであることを見出した。この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルの保護方法であって、超伝導状態の前記超伝導線材に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさを測定し、測定した前記遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させることを特徴とする、超伝導コイルの保護方法である。
【0011】
また本発明は、その第2の態様によれば、超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルと、前記超伝導コイルを超伝導状態で収容するための容器と、前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、を備える、超伝導磁石装置であって、超伝導状態の前記超伝導線材に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさを測定し、測定した当該遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させる制御装置を備えることを特徴とする、超伝導磁石装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超伝導線材に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさに基づいて通電電流を減少させることで、超伝導コイルに発生する電圧(電圧の変化)を用いることなく、クエンチなどによる超伝導コイルの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Y系超伝導線材の構造を示す斜視図である。
【図2】ReBCO超伝導線材のクエンチの様子および金属系超伝導線材のクエンチの様子を示す図である。
【図3】ReBCO超伝導線材のクエンチの様子および金属系超伝導線材のクエンチの様子を示すグラフである。
【図4】試験で用いた超伝導コイルの各部寸法を説明するための断面図である。
【図5】液体ヘリウム中で超伝導コイルを励磁したときの結果を示すグラフである。
【図6】液体ヘリウム中で超伝導コイルを励磁したときの結果を示すグラフである。
【図7】磁場の測定位置を示す図である。
【図8】複数の超伝導コイルが配置されている場合の磁場分布を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る超伝導磁石装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示した実施例では、超伝導線材として、Y系に代表されるReBCO線材(ReBCO超伝導線材)を用いているが、本発明は、ReBCO線材とは素材、製造方法が異なっていても、遮蔽電流が大きくなる特性を有する超伝導線材に適用することができる。
【0015】
(Y系線材の構造)
図1は、代表的なY系線材(Y系超伝導線材)の構造を示す斜視図である。図1に示すように、Y系線材1は、基板2の上に、緩衝層3、超伝導層4、安定化層5がこの順で形成され、全体が電気絶縁用部材6で覆われた構造のテープ状の酸化物系超伝導線材である。図示されていないが、安定化層が線材の両側に存在する場合や、線材全体を取り囲む場合もある。基板2は、ハステロイ(Hastelloy)、Ni−Alloyなどからなり、緩衝層3は、YSZ、MgO、CeOなどからなる。また、超伝導層4は、ReBCO、YBCO、NdBCO、SmBCOなどからなり、安定化層5は、Ag、Ag−Cu、Cuなどからなる。電気絶縁用部材6は、例えば電気絶縁用テープ(ポリイミドやポリエステル)である。基板2の厚みは200μm以下であり、緩衝層3、超伝導層4、および安定化層5の厚みは、それぞれ、3μm未満、1〜10μm、および50〜100μmである。Y系線材1の幅は、2mm〜15mm程度である。
【0016】
(ReBCO線材(Y系)のクエンチの特徴)
図2、図3は、ReBCO超伝導線材のクエンチの様子および金属系超伝導線材のクエンチの様子を示す図、グラフである。
【0017】
超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルを超伝導状態で通電しているときに、その線材の一部で超伝導状態が破れ常伝導状態、すなわちクエンチ状態となると、その箇所では線材に流している電流と発生した電気抵抗とのジュール熱が発生し温度が上昇する。これによりさらに抵抗が増加してさらに温度が上昇する。温度の上昇は急激であり、常伝導状態である箇所が溶断に至ることもある。
【0018】
このため、速やかに常伝導状態の発生(クエンチ発生)を検知して通電電流を下げる必要がある。一般的には、例えば、超伝導コイル全体、またはその一部の電圧を測定し、励磁または消磁によるインダクティブな電圧に含まれる急激な変化を検出して、電源を遮断する方法が採用されている。
【0019】
しかしながら、ReBCO線材は、超伝導層が非常に薄いために、超伝導状態から常伝導状態へ転移した後も抵抗の値が小さい。すなわち、発生電圧が小さく、電圧の変化を用いる上記方法では常伝導状態への転移の検出が遅れてしまう。その結果、常伝導状態に転移した箇所の温度上昇が異常に大きくなり、ReBCO線材の超伝導特性が劣化したり、場合によっては、焼損にいたったりすることがある。
【0020】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、超伝導コイルの両端電圧が突然上昇する前の遮蔽磁場の変化が、超伝導コイルの両端電圧の変化よりもゆっくりであることを見出した。
【0021】
(実施例1)
ReBCO線材を用いて図4および表1に示す2種類のソレノイド型の超伝導コイル11、12(密巻きコイル)を製作し、そのクエンチ検出性能を評価した。実施例1は、超伝導コイル11を用いたものである。
【0022】
【表1】

【0023】
試験に使用したReBCO線材は、SuperPower社製のSCS4050(Kapton(登録商標)絶縁有り)である。このテープ状の超伝導線材を、フランジ部7aと筒状の胴部7bとを有する巻枠7の胴部7bの周囲に巻いて超伝導コイル11とし、ワックス含浸を行った。超伝導コイル11を構成するReBCO線材のテープ面に垂直な方向と、超伝導コイル11の径方向とは一致する。なお、巻線内の超伝導線材同士の接続箇所は4つであり、その接続長は100mmである。
【0024】
超伝導コイル11を液体ヘリウム中で磁場がない状態で励磁した。超伝導コイル11に通電する電流のパターンは、0A⇒40A⇒200A⇒300A⇒310A⇒320A⇒330A⇒340A⇒350A⇒360A⇒367Aである。その結果、超伝導コイル11は367Aで焼損した。励磁用電源に関して、超伝導コイル11の両端電圧が0.1V(100mV)を超えたら出力を急激に0Aとするように設定していた。なお、金属系超伝導線材からなる超伝導コイルでは、このような電流パターンでの励磁でも焼損することはなく、特性の劣化もない。ことときの超伝導コイル11の巻線部の電流密度は257A/mmである。
【0025】
超伝導コイル11の励磁結果を図5に示す。なお、縦軸にとった遮蔽磁場は、超伝導コイル11のコイル中心での遮蔽磁場である。このコイル中心での遮蔽磁場は、コイル中心でのコイルの軸方向磁場の測定値(測定磁場B)から、遮蔽電流の寄与を無視して算出した軸方向磁場Bcalを引いたものである。
【0026】
図5に示したように、励磁当初は遮蔽電流の寄与が大きいため、遮蔽磁場の値は大きく負側にずれる。ここで、超伝導コイル11の両端電圧は0.5mVぐらいまでは徐々に増加し、その後、突然上昇して超伝導コイル11は焼損した。両端電圧が突然上昇する直前の電圧レベルは、励磁時の電圧変動レベルと同程度であり、両端電圧を検知して電源を遮断することは困難であることがわかる。
【0027】
一方、遮蔽磁場の変化は、両端電圧の変化よりもゆっくりであり、遮蔽磁場が0(ゼロ)に近づいていく間のある設定レベルに到達したときに電源を遮断することで、超伝導コイル11の焼損を防止できることがわかる。すなわち、遮蔽磁場の大きさを測定し、測定した遮蔽磁場の大きさに基づいて、超伝導コイル11(超伝導線材)に流れる通電電流を減少させる(例えば、遮断する(急激に0(ゼロ)まで減少させる))ことで、クエンチなどによる超伝導コイル11の損傷を防止することができる。電源遮断の推奨点を図5に例示した。
【0028】
(実施例2)
実施例2は、前記した超伝導コイル12を用いたものである。試験に使用したReBCO線材は、SuperPower社製のSCS4050(Kapton絶縁無し)である。超伝導コイル12は、巻線部の電流密度を増加するために、SuperPower社製のSCS4050(Kapton絶縁無し)の線材に、エナメル絶縁(厚みは約0.18mm)を行った線材を巻線したコイルとし、ワックス含浸を行ったものである。超伝導コイル12の巻線部の電流密度は、0Tで1193A/mm、12Tで795A/mmと極めて高い。
【0029】
実施例1と同様に、超伝導コイル12を液体ヘリウム中で磁場がない状態で励磁した。その励磁結果を図6に示す。図7に磁場の測定位置を示したように、本試験では、コイル中心P1の磁場だけでなく、コイルの軸方向端部におけるコイル側面側P2の磁場も測定した。測定磁場Bは、遮蔽電流を無視して算出した磁場Bcalに遮蔽電流により生じる遮蔽磁場Bsを加えたものとなる。
【0030】
図6において、縦軸にとったコイル中心P1の遮蔽磁場Bs(点線で示す)は、コイル中心P1でのコイル軸方向の測定磁場Bから、遮蔽電流の寄与を無視して算出したコイル中心P1でのコイル軸方向の磁場Bcalを引いたものである。また、コイル側面側P2の遮蔽磁場Bs(実線で示す)は、コイル側面側P2でのコイル径方向(超伝導コイル12を構成するReBCO線材(超伝導線材)の厚み方向)の測定磁場Bから、遮蔽電流の寄与を無視して算出したコイル側面側P2でのコイル径方向の磁場Bcalを引いたものである。
【0031】
図6に示したように、コイル側面側P2の遮蔽磁場Bsはクエンチ直前にほぼ0(ゼロ)になった。超伝導コイル12の両端電圧はクエンチ直前に急激に上昇するが、コイル側面側P2での遮蔽磁場Bsは徐々に0(ゼロ)に近づいており、遮蔽磁場Bsに基づけばクエンチ発生以前に電源を遮断することが可能であることがわかる。また、図6から、コイル径方向(超伝導線材の厚み方向)の磁場の測定が、超伝導コイルのクエンチ発生電流の予測に極めて有効であることがわかる。
【0032】
なお、コイルの外側面は、通常、利用しない箇所であり、ここに磁気センサー(磁場測定用センサー(ホール素子、ピックアップコイルなど))を設けても実用上の障害にならない。
【0033】
(磁場測定位置(遮蔽磁場を求める位置)に関して)
図8は、複数の超伝導コイル21、22が配置されている場合の磁場分布を示す図である。図中の多数の矢印は、各位置における磁場の大きさ・方向を示す。ここで、テープ状の超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルの径方向と、超伝導線材の厚み方向(さらにはテープ面に垂直な方向)とは一致する。
【0034】
遮蔽磁場の大きさに基づいてクエンチなどによる超伝導コイルの損傷を防止するには、超伝導コイルを構成する超伝導線材の厚み方向(さらにはテープ面に垂直な方向)の磁場成分の大きな位置の磁場成分を測定することが好ましい。図8に示した例では、位置P3、P4、P5、P6の順に、超伝導線材の厚み方向の磁場成分が大きい。このように、超伝導コイルは、その軸方向端部のコイル側面側において、超伝導コイルを構成する超伝導線材の厚み方向(さらにはテープ面に垂直な方向)の磁場成分が大きくなる。したがい、超伝導コイルの軸方向端部のコイル側面側の磁場を測定し、この位置における超伝導線材の厚み方向の遮蔽磁場の大きさを求め、この値がある設定レベルに到達したときに、通電電流を減少させる(例えば、遮断する)ことで、クエンチ未然防止(またはクエンチ検出)精度が向上する。
【0035】
(超伝導磁石装置)
図9は、本発明の一実施形態に係る超伝導磁石装置100を示すブロック図である。図9に一例を示したように、超伝導磁石装置100は、超伝導層を有するテープ状の超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイル31と、超伝導コイル31を超伝導状態で収容するための容器32と、超伝導コイル31を励磁するための励磁電源33と、クエンチから超伝導コイル31を保護するための保護装置40とを備える。超伝導コイル31を構成する超伝導線材は、例えば、Y系に代表されるReBCO線材である。容器32は、真空容器または低温容器である。また、保護装置40は、保護抵抗などを具備してなる装置である。励磁電源33からの電流は、電流リード41を介して超伝導コイル31に流れる。
【0036】
ここで、超伝導磁石装置100は、超伝導状態の超伝導コイル31(超伝導線材)に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさに基づいて、励磁電源33の出力を遮断する制御装置34をさらに備えている。
【0037】
制御装置34は、所定の位置における超伝導線材の厚み方向の磁場Bを測定する磁気センサー35、および磁気センサー35からの信号に基づいて超伝導コイル31への励磁電源33の出力を遮断する出力遮断装置を具備してなる。この出力遮断装置は、基準電圧発生器37、電圧比較器36、および出力遮断器38を具備してなり、磁気センサー35により測定された磁場Bと、遮蔽電流を無視して算出した超伝導線材の厚み方向の磁場Bcalと、の差である遮蔽磁場Bsの大きさに基づいて超伝導コイル31への励磁電源33の出力を遮断する。磁気センサー35は、磁気センサー駆動装置39により駆動される。
【0038】
本実施形態では、磁気センサー35は、超伝導コイル31の軸方向上端部におけるコイル外側面近傍に配置されている。なお、磁気センサー35を設ける位置は、これに限られることはない。また、制御装置34の構成も本実施形態のものに限られることはない。
【0039】
ここで、基準電圧発生器37は、励磁電源33の出力を遮断するある設定レベル(所定の閾値)の遮蔽磁場Bsの値(超伝導コイル31の軸方向上端部におけるコイル外側面近傍での値)を基準電圧信号として電圧比較器36に出力する。電圧比較器36には、電圧比較器36からの基準電圧信号と、磁気センサー35からの信号(測定磁場信号)とが入力される。なお、この基準電圧信号(基準電圧)は、超伝導コイル31のクエンチ試験などにより予め決めておくが、運転状況によって変更可能にされている。
【0040】
電圧比較器36においては、磁気センサー35からの信号(測定磁場信号)に基づいて、磁気センサー35により測定された磁場Bと、遮蔽電流を無視して算出した超伝導線材の厚み方向の磁場Bcalと、の差である遮蔽磁場Bsの大きさが算出される。そして、電圧比較器36は、算出した遮蔽磁場Bs(電圧信号)と電圧比較器36からの基準電圧信号とを比較し、遮蔽磁場Bs(電圧信号)が一旦大きくなった後に減少に転じ、その後、基準電圧(所定の閾値)に達したら(まで減少したら)、励磁電源33の出力を遮断するための電気信号を出力遮断器38に出力する。出力遮断器38により接点が開かれ、励磁電源33の出力は遮断される。
【0041】
なお、本実施形態では、遮蔽磁場Bsの大きさ(絶対値)に基づいて出力遮断器38により励磁電源33の出力を遮断しているが、本発明は、出力遮断器38により励磁電源33の出力を遮断する形態に限られるものではない。例えば、遮蔽磁場Bsの大きさ(絶対値)が一旦大きくなった後に減少してゆき、その後、所定の閾値に達したら、励磁電源自体の機能などにより、電流を0(ゼロ)にしたり、電流を下げたりしてもよい。すなわち、遮蔽磁場Bsの大きさに基づいて、超伝導線材に流れる通電電流を減少させるのであり、通電電流を減少させる方法には多くのバリエーションがある。
【0042】
また、本実施形態では、超伝導コイル31の軸方向上端部におけるコイル外側面近傍でコイル径方向の磁場を測定しているが、これに限られることはなく、コイル側面近傍であって、テープ状の超伝導線材のテープ面に垂直な方向の磁場(磁場成分)の大きな位置において、テープ面に垂直な方向から±40度以内、さらには±36.9度以内の方向を向く磁場(磁場成分)を測定し、遮蔽磁場の大きさを用いて通電電流の上限値を決定することにより、クエンチ未然防止(またはクエンチ検出)を達成することができる。±36.9度以内とすることで、磁場測定値の分解能の減少を2割以下とすることができる。
【0043】
なお、本実施形態の説明で用いている超伝導線材の「厚み方向」とは、超伝導線材のテープ面に完全に垂直な方向のみをいうものではなく、超伝導線材のテープ面に完全に垂直な方向に対して、少し傾いている方向も含む方向をいう。
【0044】
また、超伝導コイルのクエンチ試験により、クエンチ直前の遮蔽磁場Bsの変化・大きさに基づいて予め通電電流の上限値を決定し、この上限値を基準電圧信号(基準電圧)として基準電圧発生器37に入力しておいて、この基準電圧信号(基準電圧)と超伝導コイルの通電電流とを電圧比較器36で比較し、超伝導コイルの通電電流信号が基準電圧に達したら、出力遮断器38により接点を開いて励磁電源33の出力を遮断するようにしてもよい(通電電流を減少させてもよい)。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0046】
実施形態では、ソレノイド型の超伝導コイルを例示したが、パンケーキ型、くら(鞍)型などの形に超伝導線が巻かれてなる超伝導コイルについても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1:Y系超伝導線材
2:基板
3:緩衝層
4:超伝導層
5:安定化層
6:電気絶縁用部材
11、12、21、22、31:超伝導コイル
100:超伝導磁石装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルの保護方法であって、
超伝導状態の前記超伝導線材に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさを測定し、
測定した前記遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させることを特徴とする、超伝導コイルの保護方法。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導コイルの保護方法において、
所定の位置における前記超伝導線材の厚み方向の測定磁場Bと、遮蔽電流を無視して算出した前記厚み方向の磁場Bcalと、の差である前記遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させることを特徴とする、超伝導コイルの保護方法。
【請求項3】
請求項2に記載の超伝導コイルの保護方法において、
前記超伝導コイルの軸方向端部におけるコイル側面側の前記遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させることを特徴とする、超伝導コイルの保護方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の超伝導コイルの保護方法において、
前記遮蔽磁場の大きさが一旦大きくなった後に減少してゆき所定の閾値に達したら、前記超伝導コイルへの励磁電源の出力を遮断することを特徴とする、超伝導コイルの保護方法。
【請求項5】
超伝導線材が巻かれてなる超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを超伝導状態で収容するための容器と、
前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、
を備える、超伝導磁石装置であって、
超伝導状態の前記超伝導線材に流れる遮蔽電流による遮蔽磁場の大きさを測定し、測定した当該遮蔽磁場の大きさに基づいて、前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させる制御装置を備えることを特徴とする、超伝導磁石装置。
【請求項6】
請求項5に記載の超伝導磁石装置において、
前記制御装置は、
所定の位置における前記超伝導線材の厚み方向の磁場Bを測定する磁気センサーと、
前記磁気センサーにより測定された前記磁場Bと、遮蔽電流を無視して算出した前記厚み方向の磁場Bcalと、の差である前記遮蔽磁場の大きさに基づいて前記超伝導線材に流れる通電電流を減少させることを特徴とする、超伝導磁石装置。
【請求項7】
請求項6に記載の超伝導磁石装置において、
前記磁気センサーは、前記超伝導コイルの軸方向端部におけるコイル側面側に配置されていることを特徴とする、超伝導磁石装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の超伝導磁石装置において、
前記制御装置は、
前記遮蔽磁場の大きさが一旦大きくなった後に減少してゆき所定の閾値に達したら、前記超伝導コイルへの前記励磁電源の出力を遮断する出力遮断装置を備えることを特徴とする、超伝導磁石装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−58588(P2013−58588A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195756(P2011−195756)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業[戦略的イノベーション創出推進]「高温超伝導材料を利用した次世代NMR技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(502147465)ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社 (56)
【Fターム(参考)】