説明

超伝導ホウ素化合物MgB2薄膜の作成方法

【課題】真空ポンプを用いないプロセスでMgB2薄膜合成を行う手法を提供する。
【解決手段】超伝導ホウ素化合物MgB薄膜の作成方法であって、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、ホウ酸マグネシウム(MgB)、及び必要に応じホウ素(B)を混合した粉状出発材が収納された反応容器を加熱炉内に配置し、反応容器の周囲をアルゴンガス雰囲気としながら、加熱炉によって粉状出発材を加熱して溶融し、反応容器に設置した電極間に直流電流を印可して、溶融体に電流が流れることを確認後、静置して室温に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
その高い転移温度や安価な原料費用などから、デバイスなどへの応用が期待されている、超伝導転移温度39Kを示すホウ素化合物MgBの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MgBを素子化するのに必要な薄膜作成技術に関しては、合成済みのMgBを真空中で酸化物基板などの上に1000度近辺の温度で蒸着・反応させる方法、MgとBを同様の基板温度で同時蒸着する方法、また、Bを蒸着させた酸化物基板などをMg雰囲気下1000度近辺の温度で加熱する方法が知られている。
【0003】
これらを行う装置には、蒸着法では高真空を実現する真空ポンプ系および高温加熱系が必要である。また、MgとBの同時蒸着法以外の手法では、薄膜作成までに2段階のプロセスを行う手間が掛かる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術における真空ポンプ系・高温加熱系には一般に数十万円程度以上の費用が掛かる。そこで、本発明では、真空ポンプを用いないプロセスでMgB薄膜合成を行う手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、超伝導ホウ素化合物MgB薄膜の作成方法であって、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、ホウ酸マグネシウム(MgB)、及び必要に応じホウ素(B)を混合した粉状出発材が収納された反応容器を加熱炉内に配置し、前記反応容器の周囲をアルゴンガス雰囲気としながら、前記加熱炉によって前記粉状出発材を加熱して溶融し、前記反応容器に設置した電極間に直流電流を印可して、前記溶融体に電流が流れることを確認後、静置して室温に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
アルゴン雰囲気中での反応により、真空ポンプ系を使用する必要が無くなり、合成に必要な費用が低減される。また、原材料から薄膜作成まで一段階での合成が行えるなったことも費用低減の要因となる。
さらに、出発材の加熱に要する温度は最大でも800℃以下であり、従来のような1000℃を越える加熱を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
粉状出発材である粉体試料は、以下のように構成してある。
市販の粉末試薬である、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、ホウ酸マグネシウム(MgB)、及びホウ素(B)をモル比10:(10−x):x:2:2で総量2g秤量し混合する。塩化カリウムの量(x)は3から7の間である。
なお、ホウ素(B)は下記実施例のように、超伝導ホウ素化合物MgB薄膜を作成するのみの目的では、必ずしも必要としないものである。
【0008】
図1に示されるように、長さ100mm、幅10mm、高さ10mm、厚み1mm程度の酸化アルミニウム(アルミナ)製の箱型反応容器に粉体試料を入れ、長手方向の両端に直径1mm程度のカーボン棒を設置する。それぞれの棒に直径0.3mm程度の金線を圧着する。
前記粉体試料および前記反応容器を直径40mm程度の石英管内に入れ、アルゴンガス雰囲気下になるようにする。この石英管を電気炉に挿入する。直流電源を用意し、2本の金線のうち、片方をマイナス極に、もう片方をプラス極に接続する。なお、マイナス極に接続されるカーボン棒は直径1mm程度のプラチナ線或いは数mm角厚さ1mm程度のカーボン(グラフアイト)板でも良い。アルゴンガスを1リットル毎分程度流しながら、粉体試料を400℃以下に加熱し、1時間放置して粉体試料を乾燥させる。その後、粉体試料を400℃以上まで加熱すると粉体試料は融けて融体となる。本反応温度は好ましくは400−800℃、より好ましくは400−700℃、もっとも好ましくは400−600℃である。
【0009】
2本の金線に5V直流電圧を印加し、ミリアンペアから数十ミリアンペア程度の電流が流れることが確認できたら、そのまま30分以下程度の時間静置する。この後、粉体試料を室温に戻し、大気中に取り出す。マイナス極側のカーボン棒に付着した黒色のMgBが得られる。カーボン棒が、上記カーボン板であると図3に示されるように薄膜状のMgBが得られる。
【0010】
なお、本反応は次のとおりである。プラス極:Mg2++2B3++8e→MgB(eは電子)マイナス極:4O2−→2O+8eこれら2式を足して:MgB→MgB+2Oその他の物質である塩化マグネシウム・塩化ナトリウム・塩化カリウム・ホウ素については融点を下げて反応を促進させる触媒作用があると考えられる。
【実施例】
【0011】
塩化マグネシウム(MgCl)・塩化ナトリウム(NaCl)・塩化カリウム(KC1)・ホウ酸マグネシウム(MgB)およびホウ素(B)をモル比10:5:5:2:2で総量2g秤量し、上記に従って得られた試料(A)の磁化率の温度依存性を図2に示す。縦軸が磁化率、横軸が温度である。測定磁場は20エルステッドである。低温約39K付近でMgBの超伝導に起因する磁化率の屈曲点が見られる。さらに低温では磁化率の符号が負となり、これはMgBの超伝導に伴うマイスナー効果である。
【0012】
ホウ素を加えず、他の試薬のモル比は上述の通りで合成した試料(B)においてもマイスナー効果は見られるが、磁化率の絶対値は小さい。これは、ホウ素添加によって、試料中の超伝導MgBの体積分率が上昇したことを意味する。
【0013】
即ち、図中Aは、塩化マグネシウム(MgCl)・塩化ナトリウム(NaCl)・塩化カリウム(KCl)・ホウ酸マグネシウム(MgB)およびホウ素(B)をモル比10:5:5:2:2で総量2g秤量し、上記に従って得られた試料の磁化率(電磁単位/1グラム)の温度依存性である。縦軸が磁化率、横軸が温度である。
【0014】
図中Bは塩化マグネシウム(MgCl)・塩化ナトリウム(NaCl)・塩化カリウム(KCl)及びホウ酸マグネシウム(MgB)をモル比10:5:5:2で総量2g秤量して同様に合成した試料の帯磁率である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方法により塊状のMgBが電極上に形成されることを示す図である。
【図2】本発明で得られた生成試料とホウ素を含まない生成試料の磁化率を示す図である。
【図3】本発明の方法により薄膜状のMgBがカーボン電極板上に形成されることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導ホウ素化合物MgB薄膜の作成方法であって、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、ホウ酸マグネシウム(MgB)、及び必要に応じホウ素(B)を混合した粉状出発材が収納された反応容器を加熱炉内に配置し、前記反応容器の周囲をアルゴンガス雰囲気としながら、前記加熱炉によって前記粉状出発材を加熱して溶融し、前記反応容器に設置した電極間に直流電流を印可して、前記溶融体に電流が流れることを確認後、静置して室温に戻すことを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143780(P2008−143780A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4075(P2008−4075)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【分割の表示】特願2002−163737(P2002−163737)の分割
【原出願日】平成14年6月5日(2002.6.5)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】