説明

超原子価臭素体、及びシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法

【課題】安全、かつ容易に、工業的スケールで効率良くシリル芳香族スルホナート化合物を得られるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法を提供する。
【解決の手段】三価臭素化合物をシリル芳香族化合物及びシリルスルホナート化合物と反応させて、一般式(1)で表される新規な超原子価臭素体を得て、次いでこの臭素体を中間体として、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な超原子価臭素体、及び該臭素体を中間体に用いたシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法に関するもので、有機合成や医薬分野、及び他の分野において要求されているシリル芳香族スルホナート化合物の合成に供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般式(2)
【0003】
【化1】

【0004】
(式中、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、前記アルキル基にはパーフルオロアルキル基も含まれる。)
で示されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法としては、次に示す方法が挙げられる。
【0005】
例えば、
(1)2−トリメチルシリルフェニル−トリメチルシリルエーテルをジエチルエーテル中、ブチルリチウムでリチオ化した後に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物でトリフラート化して2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートを製造する方法(非特許文献1)、
(2)フェノールを出発物質として、フェニル−N−イソプロピルカルバメートを合成し、次いでジエチルエーテル中、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、tert−ブチルジメチルシリルトリフラート(TBSOTf)を加えて、−78℃においてブチルリチウム及びトリメチルシリルクロリドを用いてトリメチルシリル化してオルト−2−トリメチルシリルフェニル N−イソプロピルカルバメートを合成した後、アセトニトリル中で1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)及びジエチルアミンを加えて反応させ、次いでN,N−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アニリンを用いてトリフラート化して2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートを製造する方法(非特許文献2)、が挙げられる。
【0006】
しかしながら、前記(1)の方法では、原料の2−トリメチルシリルフェニル−トリメチルシリルエーテルに対して1.2〜2倍モルのブチルリチウム、さらに2倍モルのトリフルオロメタンスルホン酸無水物を加える必要があり、いずれも原料に対して大過剰量を加える必要があった。
また、前記(2)の方法では、オルト−2−トリメチルシリルフェニル N−イソプロピルカルバメートを合成する工程において、原料のフェニル−N−イソプロピルカルバメートに対して2倍モルのブチルリチウム、トリメチルシリルクロリドに至っては3.5倍モルを加える必要があり、大過剰量を要した。
(1)及び(2)の方法は、いずれもリチオ化する工程を含んでおり、ジエチルエーテル中でブチルリチウムを使用している。ブチルリチウム及びその溶液は発火性を有しており、さらに引火性が高く爆発性ガスを形成しやすいジエチルエーテルを溶媒量で使用する必要があり、工業スケールでの製造において有意ではない。さらに、大過剰量のブチルリチウムの使用は滴下に要する時間が必要以上に長くかかることから効率が悪く、また反応後の処理を煩雑にさせることからも望ましくない。
一方、一般式(1)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、前記アルキル基にはパーフルオロアルキル基も含まれる。)で表される超原子価臭素体は、従来報告例がなかった。
【0009】
一般式(1)で表される超原子価臭素体以外として、例えば超原子価ヨウ素体であるフェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル]ヨードニウムトリフラートは公知であり、2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼンを(ジアセトキシヨード)ベンゼン及びトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH)と反応させて合成している(非特許文献3)。しかしながら、通常、ヨウ素から臭素に変わると格段に酸化され難くなり顕著に性質が異なるために、超原子価ヨウ素体に対し超原子価臭素体の合成は、従来容易ではなかった。
【0010】
また、一般式(1)で表される超原子価臭素体以外に、例えばジフェニル(テトラフルオロボラート)−λ−ブロマン (非特許文献4)、{[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ブロミノ}{ビス[(トリフルオロメチル)スルホニル]}メタニド (非特許文献5)、またはジフルオロ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマン(非特許文献6,7)等は公知である。しかしながら、一般式(1)で表される超原子価臭素体の合成例は、これまでになかった。また、当該超原子価臭素体を用いた一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造例も報告されておらず、依然として困難であった。
以上の理由から、従来は一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物が製造できるよい方法がなかった。そのような背景の下で、安全、容易でかつ工業的スケールで効率良く製造し得る一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chem. Lett., 12巻, 1211〜1214頁 (1983)
【非特許文献2】J. Org. Chem., 74巻, 8842〜8843頁 (2009)
【非特許文献3】J. Chem. Soc., Chem. Commun., 9号, 983〜984頁 (1995)
【非特許文献4】Izv. Akad. Nauk, Ser. Khim., 1号, 228〜229頁(1976)
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc., 128巻, 9608〜9609頁 (2006)
【非特許文献6】J. Fluorine Chem., 89巻, 59〜63頁 (1998)
【非特許文献7】J. Am. Chem. Soc., 125巻,15304〜15305頁 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、三価臭素化合物をシリル芳香族化合物及びシリルスルホナート化合物と反応させて得られる新規な前記一般式(1)で表される超原子価臭素体、及びこの臭素体を中間体に用いて前記一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、三価臭素化合物をシリル芳香族化合物及びシリルスルホナート化合物と反応させて前記一般式(1)で表される超原子価臭素体が製造でき、さらに超原子価臭素体を加溶媒分解させて前記一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(5)に関するものである。
(1) 一般式(1)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、置換基若しくはアルキル基にはパーフルオロアルキル基も含まれる。)
で表される超原子価臭素体。
(2) 一般式(3)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Arは一般式(1)記載と同じである。)
で表される三価臭素化合物を、一般式(4)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Ar及びA〜Aは前記定義に同じ。A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。)で表されるシリル芳香族化合物及び一般式(5)
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、Rは一般式(1)記載と同じであり、A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。)で表されるシリルスルホナート化合物と反応させる、一般式(1)で表される超原子価臭素体の製造方法。
(3) ジフルオロ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマンを、1,2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン及びトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナートと反応させて、一般式(1)で表される超原子価臭素体が[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンである(2)に記載の製造方法。
(4) 一般式(1)で表される超原子価臭素体を加溶媒分解させる、一般式(2)
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、Ar、R、及びA〜Aは一般式(1)記載と同じである。)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法。
(5) 一般式(1)で表される超原子価臭素体が[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンであり、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物が2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートである(4)に記載のシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明における製造方法は、三価臭素化合物をシリル芳香族化合物及びシリルスルホナート化合物と反応させて一般式(1)で表される超原子価臭素体を得た後に、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を製造することが可能であり、また安全、容易かつ工業的スケールで効率良く製造できることから、工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法に関するものであり、三価臭素化合物をシリル芳香族化合物及びシリルスルホナート化合物と反応させて得られる前記一般式(1)で表される超原子価臭素体を加溶媒分解させることを特徴とする一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法である。
前記一般式(1)で示される超原子価臭素体は、新規化合物であり、前記一般式(2)で示されるシリル芳香族スルホナート化合物製造の中間体として有用である。
【0026】
前記一般式(1)、または(3)において、Arで表される芳香族基は、置換基を有する若しくは未置換の芳香族基である。芳香族基は、非反応性の任意の置換基で置換されていてもよいが、置換基は炭素数が1〜30の枝分かれがあってもよいアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜8のアルキル基または炭素数が5〜8のシクロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基はフッ素原子で置換されていてもよく、パーフルオロアルキル基でもよい。アルキル基は特に制限するわけではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、等が挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)、(2)、または(4)において、Arで表される芳香族基は、置換基を有する若しくは未置換の芳香族基である。芳香族基は、非反応性の任意の置換基で置換されていてもよいが、置換基は炭素数が1〜30の枝分かれがあってもよいアルキル基または炭素数が3〜20のシクロアルキル基が好ましく、炭素数が1〜8のアルキル基または炭素数が5〜8のシクロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基はフッ素原子で置換されていてもよく、パーフルオロアルキル基でもよい。アルキル基は特に制限するわけではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、等が挙げられる。
【0028】
前記一般式(1)、(2)、または(5)において、Rで表されるアルキル基、または芳香族基は、炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基である。アルキル基は直鎖若しくは枝分かれがあってもよく、アルキル基または芳香族基は非反応性の任意の置換基で置換されていてもよい。アルキル基はフッ素原子で置換されていてもよく、パーフルオロアルキル基でもよい。アルキル基は特に制限するわけではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、等が挙げられる。
【0029】
前記一般式(1)、(2)、(4)または(5)において、A1〜Aで表されるアルキル基または芳香族基は、各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基である。アルキル基は直鎖若しくは枝分かれがあってもよく、アルキル基若しくは芳香族基は非反応性の任意の置換基で置換されていてもよい。アルキル基はフッ素原子で置換されていてもよく、パーフルオロアルキル基でもよい。アルキル基は特に制限するわけではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、等が挙げられる。
なお、前記の芳香族基には単環式芳香族基若しくは多環式芳香族基が含まれる。多環式芳香族基は、2個以上の芳香族環を有し、個々に縮合または共有結合で直結してもよい。
【0030】
前記一般式(1)で表される超原子価臭素体の具体例としては、[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリエチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[3−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[4−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリエチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、[3−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、[4−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、[2−(トリエチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、[3−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、[4−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[2−(トリエチルシリル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[3−(トリメチルシリル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[4−(トリメチルシリル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンフェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[2−(トリエチルシリル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[3−(トリメチルシリル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[4−(トリメチルシリル)フェニル](4−メチルベンゼンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[2−(トリメチルシリル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[2−(トリエチルシリル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[3−(トリメチルシリル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマン、フェニル[4−(トリメチルシリル)フェニル](メタンスルホナート)−λ−ブロマンなどが挙げられる。
【0031】
また、前記一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の具体例としては、2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、2−(トリエチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、2−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、2−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、3−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、3−(トリエチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、3−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、3−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、4−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、4−(トリエチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、4−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、4−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート、2−(トリメチルシリル)フェニル 4−メチルベンゼンスルホナート、2−(トリエチルシリル)フェニル 4−メチルベンゼンスルホナート、2−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル 4−メチルベンゼンスルホナート、2−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル 4−メチルベンゼンスルホナート、2−(トリメチルシリル)フェニル メタンスルホナート、2−(トリエチルシリル)フェニル メタンスルホナート、2−(トリ−n−プロピルシリル)フェニル メタンスルホナート、2−(トリ−n−ブチルシリル)フェニル メタンスルホナートなどが挙げられる。
【0032】
さらに、前記一般式(3)で表される三価臭素化合物の具体例としては、ジフルオロ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマン、ジフルオロ[3−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマン、ジフルオロ[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマン、ジフルオロ(フェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(4−メチルフェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(3−メチルフェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(2−メチルフェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(4−エチルフェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(4−n−プロピルフェニル)−λ−ブロマン、ジフルオロ(4−tert−ブチルフェニル)−λ−ブロマンなどが挙げられる。
【0033】
さらに、前記一般式(4)で表されるシリル芳香族化合物の具体例としては、1,2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン、1,3−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリエチルシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリ−n−プロピルシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリ−n−ブチルシリル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0034】
さらに、前記一般式(5)で表されるシリルスルホナート化合物としては、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリエチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリ−n−プロピルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリ−n−ブチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、トリメチルシリル 4−メチルベンゼンスルホナート、トリエチルシリル 4−メチルベンゼンスルホナート、トリ−n−プロピルシリル 4−メチルベンゼンスルホナート、トリ−n−ブチルシリル 4−メチルベンゼンスルホナート、トリメチルシリルメタンスルホナート、トリエチルシリルメタンスルホナート、トリ−n−プロピルシリルメタンスルホナート、トリ−n−ブチルシリルメタンスルホナートなどが挙げられる。
【0035】
本発明の超原子価臭素体の製造における反応は、特に限定するわけではないが、通常、不活性溶媒存在下で行う。使用する溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、特に限定するものではないが、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系有機溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒を挙げることができる。これらのうち、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒が好ましい。
ここで、溶媒の使用量は、仕込み化合物の全量を100重量部とすると、通常、10〜100,000重量部、好ましくは500〜10,000重量部程度である。
また、本発明は、特に限定するわけではないが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、常圧または加圧下で行うことができる。反応器は大気開放型の反応器、または密閉型の反応器のいずれも可能である。
【0036】
本発明の超原子価臭素体の製造において、一般式(3)で表される三価臭素化合物または一般式(5)で表されるシリルスルホナート化合物は、一般式(4)で表されるシリル芳香族化合物1molに対して、0.1〜30mol用いればよいが、三価臭素化合物またはシリルスルホナート化合物が少ない場合は収率が低く、一方、過剰の場合は反応後の処理や未反応物の回収が煩雑になることから、0.5〜2molの範囲で反応に用いるのが好ましく、0.9〜1.2molの範囲で反応に用いるのがさらに好ましい。
【0037】
反応温度は、−150〜0℃の範囲が用いられるが、−100〜−30℃
が好ましく、−80〜−50℃がさらに好ましい。0℃を超えると、超原子価臭素体の分解が徐々に進行して収率が低下するために望ましくない。
また、反応時間は、通常、0.1〜72時間、好ましくは0.5〜24時間である。
【0038】
このようにして得られる一般式(1)で表される本発明の新規な超原子価臭素体は、H−NMR、13C−NMR、質量分析、ガスクロマトグラフィーなどによって、その構造を特定することができる。
【0039】
前記の反応終了後、反応液を、直接、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造に使用することもできるし、反応液を後処理して超原子価臭素体を得た後に加溶媒分解させてシリル芳香族スルホナート化合物を製造することもできる。加溶媒分解反応により得られた反応液は、常法によって処理することにより、目的とする化合物を得ることができる。
【0040】
ここで、本発明における加溶媒分解反応とは、一般式(1)で表される超原子価臭素体を、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒を用いて、三価臭素基を脱離、スルホナート化させることにより、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を得る反応である。
ここで、溶媒の使用量は、超原子価臭素体100重量部に対し、通常、10〜500,000重量部、好ましくは500〜50,000重量部程度である。
また、前記加溶媒分解の反応温度は、−100〜50℃の範囲が用いられるが、−800〜30℃が好ましい。−100℃未満ではエネルギー効率の観点から経済的に好ましくなく、反応の進行も遅くなる。一方、50℃を超えるとエネルギー効率の観点から経済的に好ましくない。
さらに、加溶媒分解における反応時間は、通常、0.1〜72時間、好ましくは0.5〜24時間である。
反応終了後は、常法に従い目的物である一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を精製する。精製方法としては、カラムクロマトグラフィー、蒸留等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートは、ガスクロマトグラフ法(GC)で以下の条件を用いて定量分析した。
カラム;FFS ULBON HR−1 キャピラリーカラム(0.25mm×50m)
カラム温度;120℃
キャリアガス;He(50mL/min)
内部標準物質;n−ドデカン
【0042】
実施例1(超原子価臭素体の製造)
アルゴン気流下、ジフルオロ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマン (42mg,0.16mmol)の塩化メチレン溶液(1.5mL)に、−78℃で1,2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン(35mg,0.16mmol)の塩化メチレン溶液(0.75mL)を加えた。その後、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート(29μL,0.16mmol)の塩化メチレン溶液(0.75mL)をゆっくりと加え、−78℃で2時間撹拌させた。溶媒を減圧下留去して黄色オイルを得た。これをn−ペンタン(3mL)で三回洗浄し、−78℃で塩化メチレン:n−ペンタン(1:10)より再結晶して、白色固体の[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンを収率98%で得た。収率は−50℃で測定したH−NMRスペクトルから算出した(内部標準物質:CHClCHCl)。
[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン
分析値:
IR(CDCl,−50℃)2,958、1,597、1,406、1,381、1,277、1,257、1,178、1,144、1,030cm−1
H−NMR(300 MHz,CDCl,−50℃) δ8.17−7.94(m,3H),7.84(d,J=8.5Hz,2H),7.80−7.61(m,3H),0.47(s,9H)
13C−NMR(75MHz,CDCl,−50℃) δ143.1,140.1,139.1,135.6,134.8,134.3(q,CF=33.6Hz),133.3,133.1,129.6(q,CF=3.8Hz),129.3,122.5(q,CF=271.0Hz),120.0(q,CF=316.0Hz)
ESI−MS m/z 373[(M−OTf)];
HRMS(ESI,positive)calcd for C1617BrFSi[(M−OTf)]373.0235,found 373.0247。
【0043】
実施例2(シリル芳香族スルホナート化合物の製造)
アルゴン気流下、−78℃で[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン (19 mg,0.036 mmol)に1,2−ジクロロエタン(3.0mL)をゆっくりと加え、撹拌した。その後、室温まで6時間かけて徐々に昇温した。反応溶液に内部標準物質(n−ノナン,n−ドデカン)を加え、GCにより定量したところ、2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートを収率60%で得た。
2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナート
分析値:
H−NMR(400MHz,CDCl) 7.54(dd,J=7.3,1.9Hz,1H),7.48−7.41(m,1H),7.38−7.31(m,2H),0.37(s,9H)
MS m/z(relative intensity)298(<1%,M),283(85),166(21),150(86),135(47),125(28),91(100),77(27),73(13),69(16)
【0044】
実施例3(シリル芳香族スルホナート化合物の製造)
アルゴン気流下、−78℃で[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン(19mg,0.036mmol)に塩化メチレン(3.0mL)をゆっくりと加え、撹拌した。その後、室温まで6時間かけて徐々に昇温した。反応溶液に内部標準物質(n−ノナン,n−ドデカン)を加え、GCにより定量したところ、2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートを収率80%で得た。
【0045】
実施例4(シリル芳香族スルホナート化合物の製造)
アルゴン気流下、−78℃で[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマン (31mg, 0.061mmol)にクロロホルム(1.0mL)をゆっくりと加え、撹拌した。その後、室温まで6時間かけて徐々に昇温した。反応溶液に内部標準物質(n−ノナン,n−ドデカン)を加え、GCにより定量したところ、2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートを収率95%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明における製造方法は、一般式(3)で表される三価臭素化合物を一般式(4)で表されるシリル芳香族化合物及び一般式(5)で表されるシリルスルホナート化合物と反応させて、一般式(1)で表される超原子価臭素体を得た後に、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物を製造することが可能であり、また安全、容易かつ工業的スケールで効率良く製造できることから、工業的に利用価値は高い。
このようにして得られるシリル芳香族スルホナート化合物は、有機合成や医薬分野、及び他の分野において、例えばカップリング反応用原料、ベンザイン発生剤等として活用され、簡便に所望する芳香族基を導入させる際の原料、反応剤、若しくはその他の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Arは置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表し、置換基若しくはアルキル基にはパーフルオロアルキル基も含まれる。)で表される超原子価臭素体。
【請求項2】
一般式(3)
【化2】

(式中、Arは一般式(1)記載と同じである。)
で表される三価臭素化合物を、一般式(4)
【化3】

(式中、Ar及びA〜Aは一般式(1)記載と同じであり、A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。)で表されるシリル芳香族化合物及び一般式(5)
【化4】

(式中、Rは一般式(1)記載と同じであり、A〜Aは各々独立して、置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、または置換基を有する若しくは未置換の芳香族基を表す。)で表されるシリルスルホナート化合物と反応させることを特徴とする請求項1記載の超原子価臭素体の製造方法。
【請求項3】
ジフルオロ[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−λ−ブロマンを、1,2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン及びトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナートと反応させて、一般式(1)で表される超原子価臭素体が[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンである請求項2に記載の超原子価臭素体の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の一般式(1)で表される超原子価臭素体を加溶媒分解させることを特徴とする一般式(2)
【化5】

(式中、Ar、R、及びA〜Aは一般式(1)記載と同じである。)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)で表される超原子価臭素体が[2−(トリメチルシリル)フェニル][4−(トリフルオロメチル)フェニル](トリフルオロメタンスルホナート)−λ−ブロマンであり、一般式(2)で表されるシリル芳香族スルホナート化合物が2−(トリメチルシリル)フェニル トリフルオロメタンスルホナートである請求項4に記載のシリル芳香族スルホナート化合物の製造方法。


【公開番号】特開2011−173804(P2011−173804A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37112(P2010−37112)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(507119250)東ソー有機化学株式会社 (14)
【Fターム(参考)】