説明

超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法

超微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物を工業的規模で製造する製造方法を提供する。金属含有有機化合物と熱可塑性樹脂とを混合した後、該金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度に加熱することにより、数平均粒径が0.1〜80nmの金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子が、熱可塑性樹脂中に分散した組成物を製造することを特徴とする、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法により達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微粒子が熱可塑性樹脂中に分散した樹脂組成物を容易に工業的規模で製造する、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が数十nm以下の超微粒子は、その特性が一般の粒子とは大きく異なる。例えば、金(Au)の場合、粒子径が10nm以下になると融点が大きく低下する等の特性が見られる。また、これらの超微粒子は、高い触媒作用をもつなど今後いろいろな分野で新しい可能性を持つ材料である。特に、金属超微粒子は、電子材料用の配線形成材料として、低温焼結ペースト等への応用が考えられている。また金属酸化物超微粒子は、蛍光体材料や半導体材料などとして光学用途を初めとする各種工業材料への応用が期待されている。
【0003】
その製造方法としては、例えば、原料となる金属を真空中、若干のガスの存在下で蒸発させることによって気相中から金属の超微粒子を得る方法や、液相中から超微粒子を調製する方法も提案されている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。 しかしながら、液相法により得られる超微粒子は凝集性が強いため、安定した状態で長期間保存するのは困難である。また液相中で調整する方法では超微粒子の製造時に高温での処理が困難であるため、得られた超微粒子は一般的に有機残渣などの不純物を比較的多く含んでおり、電子材料用途などに用いるには純度が十分とは言い難い。
【0004】
またこれらの製法の場合、粒子同士の凝集を防止するためにはほぼ例外なく、安定に分散させるために界面活性剤等の表面修飾剤を加えて保護コロイド化する必要があるが、それでも分散安定性という面ではなお改善の余地がある。
【0005】
また、分散安定性に優れた超微粒子を工業的規模で生産する方法として、金属含有有機化合物を一定雰囲気下にて加熱分解処理する超微粒子の製造方法が示されている(例えば特許文献2参照)。この方法は安価かつ容易に金属超微粒子を製造する方法として有益である。しかしながら、この方法にて製造された超微粒子を熱可塑性樹脂中に分散させ、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物を製造しようとすると、一般的に知られているような溶融混練法などによる製造法では、樹脂の溶融状態において超微粒子同士が凝集してしまうため、超微粒子を凝集することなく樹脂中に分散させるのは困難である。
【0006】
熱可塑性樹脂中に超微粒子を分散させる方法として、表面を有機化した金属酸化物超微粒子と、官能基を含有する熱可塑性樹脂との組み合わせにおいて、超微粒子を樹脂中に分散させる方法が示されている(例えば特許文献3、非特許文献2参照)。
【0007】
またその他の方法として、樹脂存在下に粒子を合成する方法、粒子存在下で粒子表面から重合体を重合する方法、超微粒子表面にポリマーを配位結合させる方法等、特殊な製造方法が知られている(例えば非特許文献3〜7参照)。
【特許文献1】特開昭60−78635
【特許文献2】特開平10−183207
【特許文献3】特開2003−313379
【非特許文献1】S.Huang et al., J. Vac. Sci. Technol., B 19, 2045 (2001)
【非特許文献2】K.Matsumoto et al., J. Soc. Powder Technol. Jpn., 41(7), 489 (2003)
【非特許文献3】S.Ogawa et al., Jpn. J. Appl. Phys., 33, L331 (1994)
【非特許文献4】Q.Song et al., J. Nanoparticle. Res., 2, 381 (2000)
【非特許文献5】T.K.Mandal et al., Nano Lett., 2, 3 (2002)
【非特許文献6】S.Hirano et al., J. Eur. Ceram. Soc., 21, 1479 (2001)
【非特許文献7】K.Matsumoto et al., Chem. Lett., 33, 1256 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の狙いは、樹脂中で金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子が良好に分散した樹脂組成物を、工業的規模で容易に生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の従来技術の問題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、樹脂中で超微粒子を合成し、さらに合成と同時に超微粒子の表面修飾及び樹脂中への分散を実現させるという、工業化や大量連続生産が非常に容易な画期的製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本願発明は、金属含有有機化合物と熱可塑性樹脂とを混合した後、該金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度に加熱することにより、数平均粒径が0.1〜80nmの金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子が、熱可塑性樹脂中に分散した組成物を製造することを特徴とする、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、熱可塑性樹脂中に分散している数平均粒径が0.1〜80nmの金属および/または金属酸化物超微粒子が、金属および/または金属酸化物成分からなり、かつ粒子の表面に有機成分が結合しているものである、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、熱可塑性樹脂中に分散した数平均粒径が0.1〜80nmの超微粒子が、熱可塑性樹脂中で合成されたものである、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、加熱温度を、金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満で、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度以上とすることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
好ましい実施態様としては、金属成分が、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Pd、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Ca、Sr、Ba、Sb及びBiの少なくとも1種である、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
好ましい実施態様としては、金属含有有機化合物を、その金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度で、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱した後、溶融熱可塑性樹脂組成物を大気圧以下に減圧することを特徴とする、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0016】
好ましい実施態様としては、溶融状態の熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物を混練することにより、中心部が金属あるいは金属酸化物成分からなり、かつ粒子表面に有機成分が結合している金属および/または金属酸化物超粒子を、分散数平均粒径が1〜60nmで熱可塑性樹脂中で分散させる事を特徴とする、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、超微粒子が樹脂中に良好に分散した熱可塑性樹脂組成物を容易に連続的に大量に製造することができるので、超微粒子含有樹脂組成物の工業化への道を新たに切り開くものである。
【0018】
このようにして得られた樹脂組成物は、樹脂フィルムとして電子材料(プリント配線、導電性材料等)、磁性材料(磁気記録媒体、電磁波吸収体、電磁波共鳴体等)、触媒材料(高速反応触媒、センサー等)、構造材料(遠赤外材料、複合皮膜形成材等)、光学材料(特定波長光遮蔽フィルター、熱線吸収材料、紫外線遮蔽材料、波長変換材料、偏光材料、高屈折率材料、防眩材料、発光素子等)、セラミックス・金属材料(焼結助剤、コーティング材料等)、医療材料(抗菌材料、浸透膜等)等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。
【0019】
また、樹脂中に超微粒子を分散させることにより、超微粒子を半永久的に分散状態で安定して保管することができ、必要な時に樹脂を溶解あるいは焼却するなどして超微粒子を容易に取り出すことができるので、超微粒子の製造、販売、保管、輸送、などの取り扱いが非常に容易となるという効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例1にて得られた樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明をその実施の形態とともに説明する。
【0022】
本発明において金属含有有機化合物は、金属元素を含有する有機化合物であり、有機金属化合物、金属アルコキシド、カルボアニオンの金属塩、等を挙げることができる。金属含有有機化合物としては特に制限されず、またいずれの市販品や合成品も使用できる。例えば、炭素数2(以下C2の様に略す)以上C100以下の飽和あるいは不飽和の直鎖あるいは分岐状脂肪族カルボン酸金属塩、C3以上C100以下の飽和あるいは不飽和の脂環式カルボン酸金属塩、C6以上C100以下の芳香族カルボン酸金属塩、C2以上C100以下の飽和あるいは不飽和の直鎖あるいは分岐状脂肪族スルホン酸金属塩、C3以上C100以下の飽和あるいは不飽和の脂環式スルホン酸金属塩、C6以上C100以下の芳香族スルホン酸金属塩、C1以上C50以下の金属アルコキシド、C1以上C100以下の金属錯体、などが挙げられる。具体的には、ナフテン酸塩、オクタン酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、パラトルイル酸塩、等のカルボン酸金属塩、n―ブトキシド、t―ブトキシド、n−プロポキシド、i−プロポキシド、エトキシド、メトキシド、等の金属アルコキシド、金属のアセチルアセトン錯塩、等が挙げられる。これらの中でも、特にラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、パラトルイル酸塩、金属エトキシド、金属プロポキシド、金属アセチルアセトネート、等が好ましい。脂肪酸金属塩としては反応が進みやすいことから直鎖脂肪酸が好ましく、炭素数は好ましくは6〜30、より好ましくは8〜20である。
【0023】
但し好ましい金属含有有機化合物は、一般的には樹脂との組み合わせによって決まるものであるから、樹脂の種類が変わると好ましい金属含有有機化合物を適宜選択する必要がある。すなわち樹脂組成物中での超粒子の分散性を高めるためには、樹脂と極性が近い、あるいは樹脂との相溶性に優れた有機基を有する金属含有有機化合物を用いることが好ましい。また金属含有有機化合物の分解開始温度以上かつ完全分解温度未満の温度にて、樹脂が溶融しておりかつ樹脂が熱分解しないような組み合わせとすることが好ましい。
【0024】
金属含有有機化合物は、用いる樹脂との相溶性や熱分解温度をコントロールする目的で、有機基部分に適宜官能基や変性化合物を用いることができる。好ましい官能基としては、水酸基、カルボニル基、アミン基、等が挙げられる。好ましい変性化合物としてはパーフルオロ化合物が挙げられる。
【0025】
また金属含有有機化合物は、単独で又は2種以上併用することができる。金属含有有機化合物の金属も特に制限されず、最終製品の用途等に応じて適宜選択することができる。また本発明方法では、例えば2種以上の金属を含む金属含有有機化合物を予め混合することによって、合金型の超微粒子を調製することも可能である。原料としての金属含有有機化合物の形態は特に制限されず、粉末状、液状、フレーク状、ペレット状、等のいずれのものであっても良い。
【0026】
金属成分は、上記金属含有有機化合物に由来するものであれば特に制限されないが、好ましくはCu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Pd、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Ca、Sr、Ba、Sb及びBiの少なくとも1種、さらに好ましくはCu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Pd、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、V、Cr、Mn、Y、Nb及びMoの少なくとも1種である。本発明の金属成分としては、これらの金属単独、これらの金属の混合物、或いはこれらの金属の合金等のあらゆる状態を包含する。
【0027】
本発明の超微粒子における金属成分の比率は、最終製品の用途等に応じて適宜設定できる。通常は40〜90重量%程度とすれば良い。
【0028】
本発明で製造される超微粒子は、数平均粒径が0.1〜80nmの金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子であり、金属超微粒子と金属酸化物超微粒子との混合物であってもよく、あるいは金属部分と金属酸化物部分とを併せ持ったような超微粒子であっても良い。さらには超微粒子の中心に近い領域が金属主体で、超微粒子の表面に近い領域が金属酸化物主体の構造をとっているような場合もある。
【0029】
また超微粒子は金属および/または金属酸化物成分からなり、かつ粒子の表面に金属含有有機化合物由来の成分、さらには有機成分が結合しているものが好ましい。超微粒子の表面に有機成分が結合していることにより、樹脂中での超微粒子の分散性が優れた樹脂組成物が得られる。ここで、有機成分と金属成分とは、その一部又は全部が化学的あるいはイオン的に結合した状態で存在している。また、超微粒子の金属あるいは金属酸化物からなる部分にも、金属含有有機化合物、それに由来する有機質成分等が含まれる場合があるが、これらも本発明に包含される。
【0030】
超微粒子の表面に有機化合物が結合しているかどうかを確認する方法としては、超微粒子含有樹脂組成物を樹脂が溶解しかつ水と任意の割合で混合することの無いような有機溶媒中に溶解し、その後有機溶媒に純水を加えて攪拌した際、超微粒子が有機溶媒層に存在するか水層に存在するかで、判断することが可能である。すなわち、超微粒子表面に有機化合物が結合している場合、超微粒子は有機溶媒層に抽出され、超微粒子表面に有機化合物が結合していない場合、超微粒子は水層に抽出されることとなる。
【0031】
本願発明の超微粒子の分散数平均粒径は0.1〜80nmである。さらに溶融状態の樹脂とともに混練するなど好ましい製造方法により製造したときの数平均粒径は、一般的には1〜60nm、好ましくは1.2〜50nm、さらに好ましくは1.5〜45nmである。
【0032】
なお本発明における数平均粒径とは、透過型電子顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡にて撮影された写真を用いて、少なくとも100個以上の粒子の粒子径を定規により測定し、数平均により算出した数平均粒径をいう。但し、電子顕微鏡で撮影された粒子の写真が円形でない場合には、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた時の円直径を用いることが出来る。また、透過性のフィルムや成形体である場合には、金や銀等のように金属種によっては透過率の波長依存性を測定することにより分散度合いを推定することが可能である。
【0033】
本発明で使用できる超微粒子の形状は、特に限定はなく、任意の形状をとることが出来る。具体的には、球状、ラグビーボール状やサッカーボール状や20面体状等の球に近い立体形状、6面体状、ロッド状、針状、板状、鱗片状、破砕状、不定形状等の形状が挙げられる。さらには粒子の表面または内部に空洞部分や欠陥部分を有していても良く、表面や内部に多数の穴を有するような多孔質の粒子であっても良い。しかしながら、本発明の製造方法を用いて製造した場合には、通常は球またはそれに近い形状の超微粒子が合成されることが多い。
【0034】
本発明の超微粒子は、熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物を混合して合成することを特徴とする。超微粒子の合成を熱可塑性樹脂の存在下で行うことにより、超微粒子の生成時に超微粒子同士が凝集したり融着したりするのを防止できるので、粒径の制御された超微粒子を容易に合成することが可能であるうえ、超微粒子の合成と同時に樹脂中への分散が可能となるため、非常に簡単に樹脂組成物を製造することができる。
【0035】
熱可塑性樹脂と混合して超微粒子を合成する方法としては、溶媒存在下で金属含有有機化合物と樹脂とを溶媒中に分散あるいは溶解させ、加熱した後溶媒を除去する方法、熱可塑性樹脂をその樹脂の溶融温度以上に加熱した状態で金属含有有機化合物と混合し、溶融樹脂中で超微粒子を合成する方法、熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物とを予め混合し、混合物をその樹脂の溶融温度以上に加熱して溶融樹脂中で超微粒子を合成する方法、などを挙げることができる。
【0036】
さらに熱可塑性樹脂中に分散した超微粒子は、熱可塑性樹脂中で合成されたものであることが好ましい。熱可塑性樹脂中で合成されることにより、熱可塑性樹脂が超微粒子の凝集を防ぐ役割を果たすことが期待できるためである。
【0037】
これら熱可塑性樹脂に混合して超微粒子を合成する方法の中でも、金属含有有機化合物を、熱可塑性樹脂の存在下において、その金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度で加熱することにより、製造する製造方法が好ましい。このような製造方法を用いることにより、熱可塑性樹脂中に超微粒子を適切に分散させた、熱可塑性樹脂組成物を容易に製造することができる。
【0038】
なお例えば、昇華性がある、急激に分解する、等の特性を有する金属含有有機化合物を原料として用いる場合には、昇華性や反応性を制御するために、予め溶融状態にしておいた樹脂中に金属含有有機化合物を混合することで、有効に使用することができる。
【0039】
加熱温度は、金属含有有機化合物が完全に分解しない限り特に制限されないが、用いる金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度範囲内とすることにより、粒径や組成が制御された超微粒子を合成することができる。分解開始温度とは、その金属含有有機化合物の有機部分が金属部分から脱離あるいは有機質成分が分解しはじめる温度をいい、また完全分解温度とはその金属含有有機化合物の有機部分が金属部分から実質的のほとんどが脱離あるいは有機質成分が完全に分解してしまう温度をいう。この温度は、揮発性や昇華性を有する化合物の場合以外の一般の化合物の場合は、少量の金属含有有機化合物を容器内に計量し、熱重量分析装置を用いて不活性ガス雰囲気下一定速度で昇温しながら重量変化を測定する方法などにより測定することが可能である。
【0040】
例えば、本発明の金属含有有機化合物を窒素雰囲気下で昇温しながら熱減少率を測定し、分解開始温度は重量減少が開始する温度、及び完全分解温度とはそれ以上重量減少が進まない温度、にて定義することができる。より好ましい加熱温度は、不活性ガス雰囲気下で10℃/分の一定速度で昇温しながら同様の測定方法にて測定した際、重量減少率が金属含有有機化合物の有機成分中のうち5%に達する温度以上、金属含有有機化合物の有機成分のうち95%に達する温度以下、さらに好ましい加熱温度は、同様の測定方法にて測定した際、重量減少率が金属含有有機化合物の有機成分中のうち10%に達する温度以上、金属含有有機化合物の有機成分のうち90%に達する温度以下、最も好ましい加熱温度は、同様の測定方法にて測定した際、重量減少率が金属含有有機化合物の有機成分中のうち15%に達する温度以上、金属含有有機化合物の有機成分のうち85%に達する温度以下がそれぞれ分解開始温度、完全分解温度の判定に用いられる条件として例示できる。
本発明では、この温度範囲内において、金属含有有機化合物の種類、用いる熱可塑性樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、分解開始温度が約200℃であり、完全分解温度が約400℃である金属含有有機化合物の場合、200℃〜400℃の温度範囲内に加熱温度を保持する方法が好ましい。なお、保持時間は、加熱温度等に応じて適宜変更することができる。
【0041】
さらに熱可塑性樹脂の存在下で超微粒子同士の凝集などを防ぎながら粒子の分散性を確保するためには、熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱して製造することが好ましい。例えば、分解開始温度が約200℃、完全分解温度が約400℃である金属含有有機化合物と、溶融温度が約250℃である熱可塑性樹脂とを用いて、熱可塑性樹脂組成物を製造する際には、250℃〜400℃の温度範囲内に加熱温度を保持する方法が好ましい。
熱可塑性樹脂の溶融温度は、樹脂をA法フロー測定装置に入れ、9.8MPaの荷重をかけて定速昇温させ、1mmφ×1cmのノズルから樹脂が流出し始める温度にて、測定することができる。
【0042】
加熱雰囲気は特に限定されず、熱可塑性樹脂存在下であればよい。しかしながら金属超微粒子の合成時に粒子の酸化を防止したい場合や、熱可塑性樹脂が影響を受ける場合などには必要に応じて、減圧条件で加熱するか、周囲の雰囲気を不活性ガスに置換することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等を使用することができる。これらは気流として用いてもよく、高温高圧下で超臨界流体として用いてもよい。
【0043】
また、金属酸化物超微粒子を合成する際には、通常の大気など酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されず、超微粒子を混合することが可能な各種熱可塑性高分子化合物を用いることができる。熱可塑性樹脂は合成樹脂であっても自然界に存在する樹脂であっても良く、これらの混合物であってもよい。
【0045】
本発明に好適に用いるためには、用いる金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度範囲内の反応温度で、以下のような熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。1)反応温度にて溶融状態である。2)反応温度にて著しい熱分解や熱劣化を生じにくい。3)反応温度にて、金属含有有機化合物による著しい分解反応を生じにくい。
【0046】
たとえば熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用い、金属含有有機化合物としてカルボン酸金属塩を用いると、ポリエステル系樹脂の溶融温度においてカルボン酸金属塩がエステル交換反応を促進させるため、樹脂の熱分解などの副反応を生じやすいので好ましい組み合わせとは言いがたい。しかしながら、周囲の雰囲気を不活性ガスに置換する、減圧状態に維持して空気との接触を遮断しかつ分解物を適宜減圧除去する、加熱温度や加熱時間を最適化する、などの条件を適宜組み合わせて製造することにより、このような好ましいと言い難い組み合わせであっても本発明の製造方法を適用することが可能である。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られるポリマー、マレイミド系化合物を重合して得られるポリマー、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示されたポリマーのランダム・ブロック・グラフト共重合体、などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の複数を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加して用いることもできる。これらの熱可塑性樹脂は、目的に応じて適宜使い分ければよい。
【0048】
本発明の樹脂組成物の製造に用いる装置は特に制限されるものではなく、例えば熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物とを、種々の一般的な混練装置を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練装置の例としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、特に、剪断効率の高い混練装置が好ましい。熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物とは、上記の混練装置に一括投入して溶融混練しても良い。あるいは予め溶融状態にした熱可塑性樹脂中に、液体の金属含有有機化合物単体あるいは溶媒等の分散媒に溶解させた金属含有有機化合物を添加し、その後溶媒等の分散媒を除去する方法により、溶融混練しても良い。
【0049】
また、溶媒に溶解した樹脂に本願発明に用いる金属含有有機化合物を加えるあるいは、樹脂と有機金属化号物のブレンド物を溶媒に分散あるいは溶解する事により該有機金属と樹脂を混合しても良い。
【0050】
しかしながら、本発明に記されたような超微粒子が高度に分散した組成物を得るためには、熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物とを溶融混練装置で剪断力を与えながら溶融混練する方法にて製造するのが好ましい。上記のような組成物を得るための組成物の製造方法は特に限定されるものではない。例えば上記成分、及び他の添加剤、樹脂、等を、単軸、2軸等の押出機のような溶融混練装置にて、溶融混練する方法等により製造することができる。また、配合剤が液体である場合は、液体供給ポンプなどを用いて溶融混練装置に途中添加して製造することもできる。
【0051】
上記のような組成物を得るためのさらに好ましい製造方法としては、金属含有有機化合物を、その金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度で、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱した後、溶融熱可塑性樹脂組成物を大気圧以下に減圧する方法である。減圧状態にすることによって、金属含有有機化合物の熱分解により生じる副生成物を、適宜減圧除去することができるので、熱可塑性樹脂組成物中に副生成物が混入するのを防止できるほか、副生成物の除去により反応を促進させることができる場合もある。
【0052】
このような製造方法を用いるための製造装置としては特に限定されないが、減圧機構を有する溶融混練装置を用いるのが好ましい。また生成した超微粒子が樹脂中で凝集するのを防止するため、溶融混練装置は二軸以上の噛み合い型押出機を用いるのが好ましい。二軸以上の噛み合い型押出機を用いる場合には、スクリューの原料供給口と減圧口との間に、ニーディングディスク又は逆ネジ構造等の樹脂を滞留させる構造を有していることが好ましい。これにより、減圧口周辺を減圧状態に保ちながら樹脂組成物を連続的に製造することができる。
【0053】
本発明の樹脂組成物において、樹脂100重量部に対する、超微粒子の含有量の下限値は、好ましくは0.0001重量部であり、より好ましくは0.001重量部であり、さらに好ましくは0.01重量部であり、最も好ましくは0.03重量部である。配合量の上限値は、好ましくは200重量部であり、より好ましくは150重量部であり、さらに好ましくは100重量部であり、最も好ましくは50重量部である。超微粒子の含有量が0.0001重量部より少ないと、超微粒子を添加したことによる特異な電子的、光学的、電気的、磁気的、化学的、機械的特性が充分に得られないことがあり、含有量が200重量部より多いと、樹脂中での超微粒子の分散が困難となる傾向がある。
【0054】
更に本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で強化充填剤を組み合わせることにより、強化材料としてもよい。すなわち、強化充填剤を添加することで、更に耐熱性や機械的強度等の向上を図ることができる。このような強化充填剤としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク;タルク、マイカ、カオリン、ワラストナイト、スメクタイト、珪藻土等のケイ酸塩化合物;炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。なかでも、ケイ酸塩化合物及び繊維状充填剤が好ましい。
【0055】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤;リン系安定剤等の熱安定剤;等を1種のみで又は2種類以上併せて使用することが好ましい。更に必要に応じて、通常良く知られた、滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、ドリッピング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等の添加剤を1種のみで又は2種類以上併せて使用することもできる。
【0056】
本発明で製造された熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、一般に用いられている成形法、例えば、フィルム成形、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、発泡成形等を利用することができる。また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、種々の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0058】
樹脂組成物中の超微粒子の数平均粒径測定:得られた樹脂組成物から、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)を用いてTEM観察用超薄切片を作成した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM−1200EX)を用いて、倍率1万倍〜40万倍程度で超微粒子の分散状態を複数箇所で写真撮影した。得られたTEM写真を複数用いて少なくとも100個以上の粒子で粒径を測定することにより、粒子の数平均粒径を算出した。
【0059】
吸収波長ピークの測定:島津製作所製UV可視分光光度計UV−3150を用い、厚さ約80μmのフィルムにて800nm−300nmの波長で光透過率を測定することにより、ピーク吸収波長を測定した。
【0060】
(製造例1)金属含有有機化合物であるステアリン酸銀の製造
市販のステアリン酸ナトリウムを純水に60℃に加熱溶解した。別に当量の硝酸銀を純水に溶解し、先のステアリン酸ナトリウム水溶液に加え、析出したステアリン酸銀を吸引濾過した。エタノール、トルエン、イオン交換水、で順次繰り返し洗浄することにより未反応物及び副反応物を洗浄除去した後、真空乾燥機で乾燥することにより、目的の化合物を得た。
得られた化合物をセイコー電子製熱重量分析装置TG/DTA6200を用いて、窒素ガス雰囲気下昇温速度10℃/分にて熱重量分析を行った結果、分解開始温度は180℃、分解ピーク温度は243℃、完全分解温度は340℃であった。
【0061】
(製造例2)金属含有有機化合物であるオレイン酸銀の製造
市販のオレイン酸ナトリウムを純水に60℃に加熱溶解した。別に当量の硝酸銀を純水に溶解し、先のオレイン酸ナトリウム水溶液に加え、析出したオレイン酸銀を吸引濾過した。エタノール、トルエン、イオン交換水、で順次繰り返し洗浄することにより未反応物及び副反応物を洗浄除去した後、真空乾燥機で乾燥することにより、目的の化合物を得た。
【0062】
(製造例3)金属含有有機化合物であるラウリン酸銀の製造
市販のラウリン酸と水酸化ナトリウムを純水に入れ、60℃に加熱溶解してラウリン酸ナトリウムを得た。別に当量の硝酸銀を純水に溶解し、先のラウリン酸ナトリウム水溶液に加え、析出したラウリン酸銀を吸引濾過した。エタノール、トルエン、イオン交換水、で順次繰り返し洗浄することにより未反応物及び副反応物を洗浄除去した後、真空乾燥機で乾燥することにより、目的の化合物を得た。
【0063】
(製造例4)金属含有有機化合物であるオレイン酸銅の製造
市販のオレイン酸ナトリウムを純水に60℃に加熱溶解した。別に当量の硝酸銅を純水に溶解し、先のオレイン酸ナトリウム水溶液に加えた。析出した油状のオレイン酸銅を分液ロートで分離し、イオン交換水で数回洗浄を繰り返すことにより、目的の化合物を得た。
【0064】
(製造例5)金属含有有機化合物であるパラトルイル酸ニッケルの製造
市販のパラトルイル酸を純水に入れて60℃に加熱溶解した。別に当量の塩化ニッケルを純水に溶解し、先のパラトルイル酸水溶液に加え、析出したパラトルイル酸ニッケルを吸引濾過した。イオン交換水で洗浄後乾燥機を用いて減圧乾燥することにより、目的の化合物を得た。
【0065】
(製造例6)金属含有有機化合物であるパーフルオロドデカン酸銀の製造
市販のパーフルオロドデカン酸をヘキサフルオロベンゼンに60℃に加熱溶解した。別に当量の硝酸銀をメタノールに溶解し、パーフルオロドデカン酸のヘキサフルオロベンゼン溶液に加え、3時間撹拌を続け、析出したパーフルオロドデカン酸銀を吸引濾過した。ヘキサフルオロベンゼン、熱クロロホルム、で順次繰り返し洗浄することにより未反応物及び副反応物を洗浄除去し、真空乾燥機で乾燥することにより、目的の化合物を得た。
【0066】
(実施例1)
汎用ポリスチレン樹脂であるG9305(PSジャパン(株)製)500g、金属含有有機化合物として製造例1により得られたステアリン酸銀1.81g、フェノール系安定剤であるアデカスタブAO−60(旭電化(株)製)1.0g、を秤量し、ドライブレンドした後、スクリュー途中に2箇所の減圧ベント口を設けた15mm噛み合い型同方向二軸押出機KZW15−45(テクノベル(株)製、L/D=45)にて、先端設定温度220℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量600g/hrの溶融混練条件にて溶融混練した。さらに溶融混練装置先端に150mm幅のT型ダイスを取り付け、ダイスから押し出されたフィルム状サンプルを85℃に温調したロールにて100m/hrの速度で巻き取ることにより、銀超微粒子がポリスチレン樹脂中に分散した黄色透明樹脂フィルムのサンプルを得た。得られた樹脂フィルムを光学顕微鏡で観察したところ、粒子状物質は観察されなかった。このフィルムの吸収波長ピークは418nmであり、未凝集状態で観察される銀ナノ粒子の表面プラズモン吸収波長とほぼ一致した。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約6nmであった。TEM観察により得られた超微粒子の画像を(図1)に示す。さらに、この超微粒子含有樹脂フィルムをトルエンに溶解したところ沈殿は認められず、黄色を帯びた透明状態となった。すなわち、得られた超微粒子は有機溶媒中で凝集せず安定して分散する状態となっていることが認められた。さらにこのトルエン溶液に純水を添加し攪拌・静置したところ、黄色を帯びた銀ナノ粒子はトルエン溶媒中に存在していたことから、銀ナノ粒子の表面には有機成分が結合していることが確認できた。
【0067】
(実施例2)
ステアリン酸銀の量を18.1gとした以外は実施例1と同様にして、銀超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約15nmであり、同様に粒子表面には有機成分が結合していた。
【0068】
(実施例3)
汎用ポリスチレン樹脂のかわりに、ポリメチルメタクリレート樹脂であるアクリペットVH5−000(三菱レイヨン(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして、銀超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約7nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0069】
(実施例4)
ステアリン酸銀1.81gのかわりに製造例2で得られたオレイン酸銀1.80gを用いた以外は実施例1と同様にして、銀超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約8nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0070】
(実施例5)
ステアリン酸銀1.81gのかわりに製造例3で得られたラウリン酸銀1.42gを用い、二軸押出機の先端設定温度を200℃とした以外は実施例1と同様にして、銀超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約6nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0071】
(実施例6)
ステアリン酸銀1.81gのかわりに2−エチルヘキサン酸銅(シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製試薬)5.51gを用い、二軸押出機の先端設定温度を230℃とした以外は実施例1と同様にして、銅超微粒子および酸化銅超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約10nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0072】
(実施例7)
ステアリン酸銀1.81gのかわりにステアリン酸亜鉛(和光純薬工業(株)製試薬)4.85gを用い、二軸押出機の先端設定温度を230℃とし、吐出量を300g/hrに変更した以外は実施例1と同様にして、酸化亜鉛超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約6nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0073】
(実施例8)
シンジオタクチックポリスチレン樹脂であるザレックS100(出光石油化学(株)製)を500g、金属含有有機化合物として製造例4で得られたオレイン酸銅4.93g、フェノール系安定剤であるアデカスタブAO−60(旭電化(株)製)1.0g、を秤量しブレンドした後、スクリュー途中に2箇所の減圧ベント口を設けた15mm噛み合い型同方向二軸押出機KZW15−45(テクノベル(株)製、L/D=45)にて、先端設定温度300℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量500g/hrの溶融混練条件にて溶融混練した。さらに溶融混練装置先端に150mm幅のT型ダイスを取り付け、ダイスから押し出されたフィルム状サンプルを110℃に温調したロールにて、100m/hrの速度で巻き取ることにより、銅超微粒子がシンジオタクチックポリスチレン樹脂中に分散した樹脂フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約10nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0074】
(実施例9)
オレイン酸銅4.93gのかわりに製造例5で得られたパラトルイル酸ニッケル1.13gを用いた以外は実施例8と同様にして、酸化ニッケル超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約11nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0075】
(実施例10)
オレイン酸銅4.93gのかわりに製造例6で得られたパーフルオロドデカン酸銀3.34gを用いた以外は実施例8と同様にして、銀超微粒子含有樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約12nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0076】
(実施例11)
酸変性ポリエチレン樹脂であるニュクレルN−1035(三井デュポンポリケミカル(株)製)を500g、金属含有有機化合物として市販のニオブエトキシドを1.71g、フェノール系安定剤であるアデカスタブAO−60(旭電化(株)製)1.0g、を秤量しブレンドした後、スクリュー途中に2箇所の減圧ベント口を設けた15mm噛み合い型同方向二軸押出機KZW15−45(テクノベル(株)製、L/D=45)にて、先端設定温度150℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量500g/hrの溶融混練条件にて溶融混練した。さらに溶融混練装置先端に150mm幅のT型ダイスを取り付け、ダイスから押し出されたフィルム状サンプルを10℃に温調したロールにて、100m/hrの速度で巻き取ることにより、酸化ニオブ超微粒子とニオブ超微粒子とがポリエチレン樹脂中に分散した樹脂フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約20nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0077】
(実施例12)
金属含有有機化合物として市販のビス(アセチルアセトナト)銅(II)2.06gを用いた以外は実施例11と同様にして、銅超微粒子と酸化銅超微粒子とを含有する樹脂組成物フィルムを得た。樹脂組成物中超微粒子の数平均粒径は約45nmであり、粒子表面には有機成分が結合していた。
【0078】
(比較例1)
製造例1により得られたステアリン酸銀100gを秤量し、これを容量500mlのナス型フラスコに投入し窒素気流下(流量100ml/min.)で加熱した。加熱温度は220℃とし、この温度で4時間保持した後溶媒抽出で精製する方法により、粒径が約5nmの銀超微粒子粉末を得た。これを銀成分が0.5gとなるよう計量し、汎用ポリスチレン樹脂であるG9305(PSジャパン(株)製)500gと混合した。フェノール系安定剤であるアデカスタブAO−60(旭電化(株)製)1.0gをドライブレンドした後、スクリュー途中に2箇所の減圧ベント口を設けた15mm噛み合い型同方向二軸押出機KZW15−45(テクノベル(株)製、L/D=45)にて、先端設定温度250℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量600g/hrの溶融混練条件にて溶融混練した。さらに溶融混練装置先端に150mm幅のT型ダイスを取り付け、ダイスから押し出されたフィルム状サンプルを85℃に温調したロールにて100m/hrの速度で巻き取ることにより、銀粒子がポリスチレン樹脂中に分散した樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを光学顕微鏡で観察したところ、粒子状物質が多数観察された。このフィルムは可視光の全波長領域に渡ってほぼ一定の吸収ピークを示し、銀ナノ粒子の表面プラズモン吸収波長に相当する吸収ピークは見られなかった。樹脂組成物中の銀粒子の数平均粒径は、不定形に凝集しておりかつTEMで観察できる粒子数が少なかったが、おおよそ120nmと測定できた。
【0079】
(比較例2)
市販の銀ナノ粒子テトラデカン分散ペーストである、NPS−J(ハリマ化成(株)製、数平均粒径3〜7nm)を銀成分が0.5gとなるよう計量し、汎用ポリスチレン樹脂であるG9305(PSジャパン(株)製)500gと混合した。フェノール系安定剤であるアデカスタブAO−60(旭電化(株)製)1.0gをドライブレンドした後、スクリュー途中に2箇所の減圧ベント口を設けた15mm噛み合い型同方向二軸押出機KZW15−45(テクノベル(株)製、L/D=45)にて、先端設定温度220℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量600g/hrの溶融混練条件にて溶融混練した。さらに溶融混練装置先端に150mm幅のT型ダイスを取り付け、ダイスから押し出されたフィルム状サンプルを85℃に温調したロールにて100m/hrの速度で巻き取ることにより、銀粒子がポリスチレン樹脂中に分散した樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを光学顕微鏡で観察したところ、粒子状物質が多数観察された。このフィルムは可視光の全波長領域に渡ってほぼ一定の吸収ピークを示し、銀ナノ粒子の表面プラズモン吸収波長に相当する吸収ピークは見られなかった。樹脂組成物中の銀粒子の数平均粒径は、不定形に凝集しておりかつTEMで観察できる粒子数が少なかったが、おおよそ100nmと測定できた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれは、超微粒子を凝集することなく均一に樹脂中に分散させることにより、超微粒子が本来有するさまざまな優れた特性を維持したまま、樹脂組成物中に保持させる事ができる。このため、超微粒子の保護目的にも有用であるほか、本樹脂組成物の製造と同時に成形体やフィルム等を成形することにより、超微粒子の分散性をそのまま維持した樹脂成形品が自由に大量生産可能である。このためこれまで取り扱いが困難であった超微粒子がさまざまな分野で一気に活用可能となる。これによりナノテクノロジー分野における製品の実用化に大いに貢献する事が期待でき、工業的にも非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有有機化合物と熱可塑性樹脂とを混合した後、該金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度に加熱することにより、数平均粒径が0.1〜80nmの金属超微粒子および/または金属酸化物超微粒子が、熱可塑性樹脂中に分散した組成物を製造することを特徴とする、超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂中に分散している数平均粒径が0.1〜80nmの金属および/または金属酸化物超微粒子が、金属あるいは金属酸化物成分からなり、かつ粒子の表面に有機成分が結合しているものである、請求項1記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂中に分散した数平均粒径が0.1〜80nmの超微粒子が、熱可塑性樹脂中で合成されたものである、請求項1または2記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
加熱温度を、金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満で、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度以上とすることを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法
【請求項5】
金属成分が、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Ti、Sn、Pd、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、V、Cr、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Ca、Sr、Ba、Sb及びBiの少なくとも1種である、請求項1〜4いずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
金属含有有機化合物を、その金属含有有機化合物の分解開始温度以上、完全分解温度未満の温度で、かつ熱可塑性樹脂の溶融温度以上に加熱した後、溶融熱可塑性樹脂組成物を大気圧以下に減圧することを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
溶融状態の熱可塑性樹脂と金属含有有機化合物を混練することにより、中心部が金属あるいは金属酸化物成分からなり、かつ粒子表面に有機成分が結合している金属および/または金属酸化物超粒子を、分散数平均粒径が1〜60nmで熱可塑性樹脂中で分散させる事を特徴とする、請求項1〜6いずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/085358
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510640(P2006−510640)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002850
【国際出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノ粒子の合成と機能化技術プロジェクト」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】