説明

超微粒子粉末の製造方法

【課題】コンタミネーションを減らして高純度化可能な超微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】酸に対して化学的溶解性を有するビーズで被粉砕物を粉砕して粉砕物を得る第1のステップと、第1のステップにおける粉砕により生じたビーズの摩耗粉を酸で溶解する第2のステップと、第2のステップで摩耗粉が溶解した溶液と第1のステップで生じた粉砕物とを透析処理により分離する第3のステップと、を含む。高純度の金属、金属間化合物又はセラミックの粒径1μm以下程度の超微粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの炭素系材料や電子機器に使用されるコンデンサー材料などの各種材料として用いられる超微粒子粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビーズミルは粉体の微粉砕化、高分散化が行えるため、容易にnmオーダーの微粉末を得ることができるため、得られた微粉末は顔料、電子材料などの様々な分野で応用されている。しかしながら、このビーズミルでは、そのメカニズム上、ミルマシン部材の摩耗によるコンタミネーションを避けることができない。また、粉砕メディアであるビーズからのコンタミネーションは重要な課題となっている。対策としては、例えば特許文献1乃至3に記載の技術が開示されている。特許文献1の方法では、ビーズの素材として一般に耐摩耗性の高い材料を使用することで、コンタミネーションを最小限に抑えている。また、特許文献2の方法では、原料粉末と同一組成のビーズを使用することで高純度な超微粒子粉末を得ている。特許文献3にはビーズミル後の精製方法として、遠心分離による摩耗粉の除去を行うことで高純度な超微粒子粉末を得ている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−160596号公報
【特許文献2】特開2003−299977号公報
【特許文献3】特開2007−331990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ビーズの硬さより被粉砕物が硬い材料の場合、ビーズの摩耗が大きくなり、コンタミネーションが増大する。また、ミルマシン部材より硬いビーズを使用するとミルマシン部材の摩耗が大きくなり、コンタミネーションが増大する。また、遠心分離による精製では、分散装置、遠心分離装置等の設備が必要となり、分離条件の設定は詳細に決定する必要があり煩雑である。
【0005】
そこで、本発明では、コンタミネーションを減らした高純度超微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鉱酸に対して化学的溶解性を有する材料のビーズを使用すれば、酸溶解処理により摩耗粉の分離が可能であることに着目し、上記従来の欠点のない高純度超微粒子の製造方法について種々を研究した結果、本発明に至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明の超微粒子粉末の製造方法は、酸に対して化学的溶解性を有する材料のビーズを分散メディアとして使用し、湿式媒体を用いて、酸に不溶な金属、金属間化合物又はセラミックの原料粉末をビーズミルにより粉砕するステップと、粉砕により分散メディアから発生する摩耗粉末を酸溶解処理により分離するステップと、を含む。
ここで、酸としては鉱酸を用いるのが好ましい。ビーズにはY粒子やSiO粒子を用いるとよい。ビーズは5〜300μmの粒径を有する球状粒子であるとよい。
【0008】
本発明に従って、酸に対する化学的溶解性を有する材料でなるビーズを用いることにより、ビーズから混入する不純物を酸溶解により分離して高純度の超微粒子を得ることができる。
【0009】
ビーズミルで使用するビーズは、酸に対する化学的溶解性を有し、分散メディアとしての機械的特性を有する材料のうち、プラズマ溶融法により製造されたYやSiOの球状粉末であることが望ましい。ビーズがプラズマ溶融法を用いて作製されていればビーズそのものに不純物が混入せず、被粉砕物をビーズで粉砕して生じたビーズの磨耗粉は酸で溶解処理することで磨耗粉は除去できるため、不純物の混入のない高純度の球状粉末が得られる。その際、ビーズがプラズマ溶融法で球状化されていれば、溶融前の原料粉末の製法は問わない。酸に対して化学的溶解性を有する材料はガラス、金属等いろいろ存在する。その中でも塩酸などの鉱酸に対して容易に溶解するYであれば、より安価に処理を行うことができるので好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超微粒子の製造方法によれば、高純度の金属、金属間化合物又はセラミックの粒径1μm以下程度の超微粒子が安価に得られる。よって、例えば本製造方法により得られた高純度の超微粒子を積層コンデンサーなどの構成材として用いると、性能が向上しコストが低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の着想について説明する。本発明者らは、ビーズミルを用いて超微粒子を製造するため、ビーズと超微粒子とのコンタミネーションの影響を減らすことを検討した。第1の対策として、高い耐摩耗性を有するビーズを使用して、摩耗によるコンタミネーションの量を減らす。第2の対策として、被粉砕粉と同一材質や生産物に配合する材料のビーズを使用して、摩耗によるコンタミネーションの影響を減らす。第3の対策として、ビーズミル後に除去が可能な材料のビーズを使用して、ビーズミル後にビーズの摩耗粉を除去しコンタミネーションの量を減らす。この第3の対策を具体的に説明すると、摩耗粉が混入した粉砕物に酸性溶液を加えて摩耗粉のみを溶解して粉砕物から分離する溶解分離法を併用するという方法である。本発明では、特に第3の対策を採ることで、高純度の超微粒子粉末を製造することを可能とした。なお、第1及び第2の対策との兼用を否定するものではなく、例えば耐摩耗性を有するビーズを用いれば生じる磨耗粉は相対的に少ないので、第1の対策と第3の対策を併せて講じることになる。
【0012】
図1は、本発明の実施形態としての粉砕物の製造方法を示すフローチャートである。
ビーズミルで使用するビーズは、例えばY球状粒子であり、例えば5〜300μmの粒径を有することが好ましい。
第1ステップとして、ナノ粒子の原料である被粉砕粉、すなわち原料粉末をビーズミルを用いて粉砕する。その際、ビーズの摩耗により摩耗粉が混入する。なお、原料粉末は、ダイヤモンド等の炭素材料、BaTiO(チタン酸バリウム)、Al(アルミニウム)、WC(炭化タングステン)など、酸に不溶な金属、金属間化合物又はセラミックスからなっていればよい。
第2ステップとして、所定範囲にある粒径を有するビーズをスクリーニングにより取り出して分離したのち、分離した被粉砕粉に酸性溶液を入れる。これにより、ビーズの摩耗粉のみが溶解する。酸性溶液としては、HCl、HNO、HSOなどの鉱酸が挙げられる。
第3ステップとして、粉砕物と溶解した摩耗粉とを分離する。分離手法には、透析法や濾過法を用いることができる。その際、例えば分離手法を繰り返し用いて精製することで純度を高めることができる。
以上のステップを経ることにより、高純度超微粒子を製造することができる。
【0013】
以上の実施形態では、ビーズとしてYの球状粒子を用いたが、石英、ガラスでなる球状粒子であってもよい。その場合には、第2ステップで被粉砕粉にHF(フッ化水素)の溶液を入れることで、摩耗したビーズ粉を溶解することができる。また、ビーズは球状以外の形状の粒子であってもよい。
【0014】
本発明の実施形態によれば、所定の粒径以下、例えば粒径200nm以下を有し、酸に不溶な金属、金属間化合物又はセラミックでなる高純度の超微粒子が得られる。
以下、幾つかの実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1では、容積約50mlのバッチミルを用いて粉砕を行った。
図2は、実施例1で用いるビーズミル10の構成を模式的に示す図である。水冷ジャケット11には冷却水導入口12と冷却水排出口13とが設けられ、容器14が形成されている。容器14内にはシャフト15が上から挿入され、シャフト15はモータ16により回転する。シャフト15の先端にはアジテータ17が取り付けられており、モータ16の回転により容器14内に投入したビーズ18に動きを与える。なお、容器14内には湿式媒体としての分散媒19と被粉砕物20が入れられる。
ビーズにはプラズマ溶融法により球状化して製造した粒径40〜60μm、即ち平均粒径50μmのYを体積換算で15ml(ミリリットル、以下同じ。)用いた。被粉砕粉として、ナノダイヤを0.1g用いた。分散媒には純水を用いた。
【0016】
被粉砕粉を投入して直径25mmの撹拌羽根を周速10m/s、即ち8000rpmで回転させて、10時間粉砕を行った。次に粒径10μmのメッシュでスクリーニングを行い、ビーズのみを分離し、200mlにメスアップした後塩酸を入れ、80℃の恒温槽で12時間攪拌させた。塩酸投入時にはスラリの凝集沈降が生じたがそのまま透析処理を行った。最後に口径24Åの透析用セロハンチューブを用いて水中で静置して透析を行った。
【0017】
摩耗粉の混入量の測定には、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を用いた。摩耗粉の混入量は透析前では2.74%であったが、透析処理を行うことで、摩耗粉の混入量は0.05%に減少した。即ち、透析処理により摩耗粉の混入量を98.2%減少させることができた。
【実施例2】
【0018】
ビーズにはプラズマ溶融法により球状化して製造した粒径20〜40μm、即ち平均粒径30μmのYを用いた。被粉砕粉としてBaTiOとAlとをそれぞれを0.5g用いた。分散媒には純水を用いた。
【0019】
被粉砕粉を投入して直径25mmの撹拌羽根を周速10m/s、即ち8000rpmで回転させて、24時間ビーズミル粉砕を行った。次に粒径10μmのメッシュでスクリーニングを行い、ビーズのみを分離し、残った分散媒に塩酸を入れ、最後に口径24Åの透析用セロハンチューブを用いて透析を行った。
【0020】
被粉砕粉がBaTiOの場合、被粉砕粉の粒径は粉砕前388.0nmであったが粉砕後49.6nmとなった。摩耗粉の混入量は溶解分離前では0.7%であったが、溶解分離法を行うことで、摩耗粉の混入量は0.03%に減少した。即ち、溶解分離法により摩耗粉の混入量を95.7%減少させることができた。
被粉砕粉がAlの場合、被粉砕粉の粒径は粉砕前501.8nmであったが粉砕後121.6nmであった。摩耗粉の混入量は溶解分離前では11.02%であったが、溶解分離法を行うことで、摩耗粉の混入量は0.33%に減少した。即ち、溶解分離法により摩耗粉の混入量をを97.0%減少させることができた。
【実施例3】
【0021】
ビーズにはプラズマ溶融法により球状化して製造した粒径200〜300μm、即ち平均粒径250μmの石英を用いた。被粉砕粉としてWCを5g用いた。分散媒には純水を用いた。
【0022】
被粉砕粉を投入して直径25mmの撹拌羽根を周速10m/s、即ち8000rpmで回転させて、24時間ビーズミル粉砕を行った。次に10μmのメッシュでスクリーニングを行い、ビーズを分離し、残った分散媒にフッ酸を入れ加熱し、石英の摩耗粉を溶解した後、濾過により被粉砕粉のみを採取した。
【0023】
この結果、被粉砕粉の粒径は粉砕前5μmであったが、粉砕後153nmとなった。摩耗粉の混入量は溶解分離前では13.6%であったが、溶解分離法を行うことで、摩耗粉の混入量は0.01%以下に減少した。即ち、溶解分離法により摩耗粉の混入量を99.9%以上減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態である超微粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】ビーズミルの構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10:ビーズミル
11:水冷ジャケット
12:冷却水導入口
13:冷却水排出口
14:容器
15:シャフト
16:モータ
17:アジテータ
18:ビーズ
19:分散媒
20:被粉砕物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸に対して化学的溶解性を有するビーズと湿式媒体とを用いて、酸に不溶な金属、金属間化合物又はセラミックの原料粉末をビーズミルにより粉砕するステップと、
粉砕により上記ビーズから発生する摩耗粉末を酸溶解処理により分離するステップと、
を含む、超微粒子粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸は鉱酸である、請求項1に記載の超微粒子粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ビーズはY粒子である、請求項1に記載の超微粒子粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ビーズはSiO粒子である、請求項1に記載の超微粒子粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ビーズは5〜300μmの粒径を有する球状粒子である、請求項1に記載の超微粒子粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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