説明

超電導コイル装置、及び超電導コイルの常電導転移の検出方法

【課題】超電導特性を低下させること無く、超電導コイルの常電導転移(クエンチ)を良好な精度で検知可能な超電導コイル装置、及び超電導コイルの常電導転移の検出方法の提供。
【解決手段】本発明の超電導コイル装置20は、高温超電導線材を巻回した複数のコイル11と、導電性の冷却板12と、FBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバとを備え、複数のコイル11が同軸的に積層され、これら複数のコイル11の積層方向に少なくとも1つのコイル11に接するように冷却板12が配置され、冷却板12にコイル11の周方向に沿って形成された収納溝に前記光ファイバが収納されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル装置、及び超電導コイルの常電導転移の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NbTi等の合金系超電導体やNbSn等の化合物系超電導体などの金属系の低温超電導体を使用した低温超電導コイルは、超電導体の臨界温度が10K以下と低いため、運転温度は4K程度と極低温であり、比熱が小さい。そのため、低温超電導コイルにおいて何らかの原因で超電導状態から常電導状態へ遷移する常電導転移が発生すると、ジュール熱が発生して超電導コイルの温度が上昇し、これにより臨界電流が低下して発熱し、さらに温度が上昇する。このような発熱と温度上昇が繰り返されると、急激な常電導転移(クエンチ)が発生して、超電導コイルの常電導領域が拡大してしまい、超電導特性の低下やコイルの損傷につながる可能性がある。そのため、超電導コイルにおける常電導転移の発生を確実かつ速やかに検出して常電導領域の拡大を防ぐことが重要である。金属系の低温超電導体を使用した低温超電導コイルにおける常電導転移の検出手法としては、常電導転移により発生した電圧を検知する方法や、バランス電圧を検知する方法が知られている。
【0003】
しかし、Bi系やY系に代表されるような酸化物超電導体は、臨界温度が100K程度の高温超電導体であるため、運転温度は20K以上が想定される。金属系の低温超電導体と比較すると運転温度での比熱が大きく、常電導転移した際の伝搬速度が遅くなる。そのため、従来の電圧測定による検出法では、常電導転移の発生を感度良く検出できない可能性がある。
電圧測定による検出法ではなく、電磁的にノイズに強い常電導転移検出法として、温度に依存して内部の光学的伝播状態が変化する光ファイバを使用した手法が提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。また、超電導線に沿って光ファイバを配置し、これらの超電導線と光ファイバを共巻きしてコイルとし、光ファイバからのブルリアン散乱光に基づいて超電導線の温度分布を測定する技術も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−190313号公報
【特許文献2】特開2007−141713号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】フジクラ技報80号 1991年4月 第1頁〜第6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1では、2つのコアを有した光ファイバを伝搬するレーザ光で干渉系を組み、レーザ光の位相変化により10K程度の温度上昇を検出する方法が提案されている。しかしながら、この検出方法では、温度上昇の光ファイバ加熱長が2〜6mと長く、大型の超電導コイルには適用可能であるが、数cm程度の微小な区間の温度上昇を検知するのは困難と考えられる。
【0007】
また、特許文献2では、超電導線と光ファイバを共巻きして超電導コイルとしている。そのため、超電導コイルの径方向に隣接する各超電導線間に光ファイバが存在するため、超電導線を巻線する密度が粗くなってしまう。その結果、電流密度が下がるので超電導コイルが発生する磁場が低下し、超電導特性が低下してしまうことが考えられる。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、超電導特性を低下させること無く、超電導コイルの常電導転移(クエンチ)を良好な精度で検知可能な超電導コイル装置、及び超電導コイルの常電導転移の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の超電導コイル装置は、高温超電導線材を巻回した複数のコイルと、導電性の冷却板と、FBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバとを備え、前記複数のコイルが同軸的に積層され、これら複数のコイルの積層方向に少なくとも1つのコイルに接するように前記冷却板が配置され、前記冷却板に前記コイルの周方向に沿って形成された収納溝に前記光ファイバが収納されてなることを特徴とする。
本発明によれば、FBG方式の光ファイバが冷却板の収納溝に収納されていることにより、超電導転移発生時に導電性の冷却板に渦電流が発生することに起因する冷却板の発熱および熱膨張を、FBG方式の光ファイバを用いて歪の発生又は熱の発生として検知し、超電導コイルの常電導転移(クエンチ)の発生を良好な精度および応答性で検出することができる超電導コイル装置を提供できる。
【0010】
また、本発明の超電導コイル装置は、超電導コイルの常電導転移を検知する光ファイバが冷却板の収納溝に収納されている構成である。そのため、特許文献2に記載の技術のように光ファイバと超電導線材を共巻きして形成された超電導コイルとは異なり、高温超電導線材が高密度で巻回された超電導コイルとすることができ、電流密度および中心磁界強さなどの超電導特性を低下させることがない超電導コイル装置を提供できる。
【0011】
本発明の超電導コイル装置において、前記冷却板の熱膨張又は熱収縮により前記光ファイバに歪が負荷されるように、前記光ファイバが前記収納溝に固定されてなることが好ましい。
常電導転移発生時に冷却板に渦電流が流れてジュール発熱し、冷却板の温度が上昇し、熱膨張が発生する。前記構成の場合、冷却板の熱膨張に伴い光ファイバに歪が負荷されるように固定されることにより、冷却板の熱膨張に伴い光ファイバに形成されたグレーティング(格子)間隔が良好な応答性で変化するため、FBG方式の光ファイバからの反射光の波長変化を検出することによって、より良好な精度および応答性で常電導転移を検出することができる。
【0012】
本発明の超電導コイル装置において、前記冷却板に前記コイルの周方向に沿って渦巻状に形成された前記収納溝に、前記光ファイバが収納されてなることもできる。
この場合、冷却板の内周から外周まで様々な場所にFBG方式の光ファイバが配置されるので、常電導転移発生時に導電性の冷却板に発生する渦電流に伴う発熱および熱膨張をより効果的に検出することができ、常電導転移の検出の精度および応答性をより向上させることができる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の超電導コイルの常電導転移の検出方法は、高温超電導線材を巻回した複数のコイルを同軸的に積層させてなる超電導コイルの常電導転移の検出方法であって、前記コイルの周方向に沿う収納溝が形成され、この収納溝にFBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバが収納された導電性の冷却板を前記複数のコイルの積層方向に少なくとも1つのコイルに接するように配置し、前記冷却板の熱膨張又は熱収縮に伴う前記FBG方式の光ファイバからの反射光の波長変化に基づいて、前記超電導コイルにおける常電導転位の発生に伴う前記冷却板の温度変化を検出することを特徴とする。
【0014】
本発明の超電導コイルの常電導転移の検出方法は、FBG方式の光ファイバを収納溝に収納した導電性の冷却板を用い、この光ファイバからの反射光の変化を検出する構成としたことにより、万一超電導コイルで常電導転移が発生した場合に超電導転移の発生に起因する冷却板の発熱および熱膨張を検知し、超電導コイルの常電導転移(クエンチ)の発生を、良好な精度および応答性で検出することができる。
【0015】
本発明の超電導コイルの常電導転移の検出方法において、前記冷却板の熱膨張又は熱収縮により前記光ファイバに歪が負荷されるように、前記光ファイバを前記収納溝に固定してなる冷却板を用いることが好ましい。
この構成の場合、常電導転移発生時の冷却板の熱膨張に伴い光ファイバに形成されたグレーティング(格子)間隔が良好な応答性で変化するため、FBG方式の光ファイバからの反射光の波長変化を検出することによって、より良好な精度および応答性で常電導転移を検出することができる。
本発明の超電導コイルの常電導転移の検出方法において、前記コイルの周方向に沿って渦巻状に形成された前記収納溝に、前記光ファイバを収納してなる冷却板を用いることもできる。
この場合、冷却板の内周から外周まで様々な場所にFBG方式の光ファイバが配置するので、常電導転移発生時に導電性の冷却板に発生する渦電流に伴う発熱および熱膨張をより効果的に検出することができ、常電導転移の検出の精度および応答性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超電導特性を低下させること無く、超電導コイルの常電導転移(クエンチ)を良好な精度で検出可能な超電導コイル装置、及び超電導コイルの常電導転移の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の超電導コイル装置の一例構造を示す概略模式図である。
【図2】図1に示す超電導コイル装置が備える超電導コイルの一例構造を示す概略斜視図である。
【図3】図2に示す超電導コイルの分解斜視図である。
【図4】図2に示す超電導コイルを構成するパンケーキコイルに使用される高温超電導線材の一例構造を示す概略斜視図。
【図5】図2に示す超電導コイルが備える冷却板の一例構造を示す平面模式図である。
【図6】図5に示す冷却板のA−A’線に沿う部分断面模式図である。
【図7】本発明に係る超電導コイル装置が備える超電導コイルの他の例を示す概略斜視図である。
【図8】図8(a)は検討例1で用いた試験装置の概略構成図であり、図8(b)は同試験装置における光ファイバのFBGとヒータとの位置関係を示す概略模式図である。
【図9】検討例1の結果を示すグラフである。
【図10】検討例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る超電導コイル装置および超電導コイルの常電導転移の検出方法について図面に基づいて説明する。
図1は本発明の超電導コイル装置の一例構造を示す概略模式図であり、図2は図1に示す超電導コイル装置が備える超電導コイルの一例構造を示す概略斜視図であり、図3は図2に示す超電導コイルの分解斜視図である。
【0019】
本実施形態の超電導コイル装置20は、真空容器などの収容容器21の内部に配置された超電導コイル10と、収容容器21の内部の超電導コイル10を臨界温度以下に冷却するための冷凍機28と、超電導コイル10の常電導転移を検出するための検出部22を備えて構成されている。本実施形態の収容容器21は、真空ポンプ25に接続されていて、内部を目的の真空度に減圧できるように構成されている。また、超電導コイル10は収容容器21の外部の電源25に接続されており、この電源25から超電導コイル10に通電できるようになっている。
【0020】
超電導コイル10は、同一径のドーナツ状のダブルパンケーキコイル10が3個同軸的に積層され、各ダブルパンケーキコイル11、11間にドーナツ盤状の導電性の冷却板12が配置されて構成されている。超電導コイル10は、銅などの良導電性材料製の2枚の鍔板27により上下方向より挟まれており、超電導コイル10の冷却板12の外周に形成された接続部12aは、鍔板27、27間に配置された良導電性材料よりなる熱伝導バー26に接続されている。冷凍機28と鍔板27と熱伝導バー26と冷却板12の接続部12aは接続されており、これにより、冷凍機28により冷却板12が伝導冷却され、さらに、冷却板12により超電導コイル20全体が冷却される構成となっている。
【0021】
本実施形態の超電導コイル装置20が備える超電導コイル10は、図2および図3に示す如く、高温超電導線材が巻回されたパンケーキコイル11a、11bが同軸的に積層されたダブルパンケーキコイル11を複数個(図2および図3では3個)備え、これらのダブルパンケーキコイル11の間にダブルパンケーキコイル11に接するように、ドーナツ盤状であって、パンケーキコイル11より外径の若干大きな冷却板12が複数個(図2および図3では2個)介在するように配置され構成されている。
【0022】
図4は超電導コイル10を構成する各パンケーキコイル11a、11bに使用される高温超電導線材の一例構造を示す概略斜視図である。
図4に示す高温超電導線材1は、長尺テープ状の基材2上に、中間層3、超電導層4及び安定化層4がこの順に積層されてなる。
【0023】
基材2は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状又はシート状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。なかでも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材2としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層3および超電導層4を形成してもよい。
基材2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることで臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0024】
中間層3は、超電導層4の結晶配向性を制御し、基材2中の金属元素の超電導層4への拡散を防止するものである。さらに、基材2と超電導層4との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材2と超電導層4との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層3の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。
中間層3は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も超電導層4に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0025】
中間層3は、基材2側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0026】
さらに、本発明において、中間層3は、基材2側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材2とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材2の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材2とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層3を構成する他の層や超電導層4等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材2の構成元素の一部がベッド層を介して超電導層4側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材2とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0027】
また中間層3は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、超電導層4の配向性を制御する機能を有するとともに、超電導層4を構成する元素の中間層3への拡散や、超電導層4積層時に使用するガスと中間層3との反応を抑制する機能等を有するものである。そして、前記金属酸化物層により配向性が制御される。
【0028】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。
【0029】
中間層3の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層3が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0030】
中間層3は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシストスパッタ法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、塗布熱分解法(MOD法)、溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、超電導層4やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層3は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0031】
超電導層4は通常知られている組成の高温超電導体からなるものを広く適用することができ、酸化物超電導体からなるものが好ましい。具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものが例示できる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
超電導層4は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
超電導層4の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0032】
安定化層5は、超電導層4の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、超電導層4を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層5は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀、銀合金、銅又は銅合金などからなるものが例示できる。安定化層5は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層5は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層5の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
【0033】
このような構成の高温超電導線材1は、さらにその外周面を絶縁層で被覆することで、各パンケーキコイルを構成する高温超電導線材とすることができる。
絶縁層は、通常使用される各種樹脂等、公知の材質からなるものである。前記樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。絶縁層による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すれば良い。絶縁層は、その材質に応じて公知の方法で形成すれば良く、例えば、原料を塗布して、これを硬化させれば良い。また、シート状のものが入手できる場合には、これを使用して被覆しても良い。
【0034】
この様な構成のテープ状の高温超電導線材1が巻回されて各パンケーキコイル11a、11bを形成し、このパンケーキコイル11a、11bが2個積層されてダブルパンケーキコイル11を成し、このダブルパンケーキコイル11が複数積層されて超電導コイル10を構成する。
【0035】
ダブルパンケーキコイル11は、パンケーキコイル11a上にパンケーキコイル11bが同軸的に積層されてなる。パンケーキコイル11aは、高温超電導線材1が安定化層5側を外側にして同心円状に時計周りに巻回され形成されている。パンケーキコイル11bは、高温超電導線材1が安定化層5を外側にして同心円状に反時計回りに巻回され形成されている。パンケーキコイル11aとパンケーキコイル11bは、巻回始端または巻回終端で銅などの良導電性材料よりなる接続部材(図示略)でその超電導層4同士あるいは安定化層5同士が、電気的および機械的に接続されている。
【0036】
また、超電導コイル10において、各ダブルパンケーキコイル11は隣接するダブルパンケーキコイル11(すなわち、隣接するパンケーキコイル11aとパンケーキコイル11b)の巻回方向が逆とされており、その巻回始端または巻回終端で銅などの良導電性材料よりなる接続部材(図示略)でその超電導層4同士あるいは安定化層5同士が、電気的および機械的に接続されおり、超電導コイル10全体にわたって電流を流すことができるように接続されている。図1に示す如く、本実施形態の超電導コイル装置20は、超電導コイル10を構成する電気的、機械的に接続された複数のパンケーキコイル11の両端部は電力リード24を介して収容容器21の外部に設置された電源25に接続されている。
【0037】
ここで、各パンケーキコイル11a、11bを構成する高温超電導線材は同じ層構成(設けられる層の種類および構成材料が同じ)であってもよく、異なる層構成であってもよいが、同じ層構成とする方が生産プロセスが簡便である。
【0038】
図2および図3に示す如く超電導コイル10において、各ダブルパンケーキコイル11間には略ドーナツ盤状の冷却板12が配置されている。
図5は超電導コイル10が備える冷却板12の一例構造を示す平面模式図であり、図6は図5に示す冷却板12のA−A’線に沿う部分断面模式図である。
【0039】
冷却板12はその外周に設けられた接続部12aを介して超電導コイル装置20の冷凍機28に接続可能とされており、冷凍機28からの伝導冷却により超電導コイル10をその臨界温度以下に冷却することができる。
導電性の冷却板12および接続部12aは良熱伝導性の金属材料より形成されている。冷却板12および接続部12aを構成する金属材料は特に制限されず、適宜変更可能であるが、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、黄銅、リン青銅などの銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金などが挙げられる。
【0040】
冷却板12の形状および寸法はパンケーキコイル11a、11bの形状および寸法に合わせて適宜変更可能である。冷却板12の厚さは、厚くなるほど、超電導コイル10における常電導転移(クエンチ)の発生を検知する感度が高くなる傾向がある。本発明者は冷却板12の厚さが0.1mm程度の場合にもクエンチを検知可能であることを知見している。そのため、冷却板12の厚さは0.1mm以上とすることが好ましいが、後述の如く冷却板12中に光ファイバ15を収納する必要があること、超電導コイル10の冷却効率などを勘案すると、冷却板12の厚さは0.5mm〜1mmの範囲とすることが好ましいが、本発明はこの範囲に限定されず超電導コイル10の寸法により適宜変更可能である。また、冷却板12の接続部12aの形状も特に制限されず、適宜変更可能である。
【0041】
図5および図6に示す如く冷却板12の一方の面には、ドーナツ盤状の冷却板12の内周側から外周側に向かい円周方向に沿って(パンケーキコイル11a、11bの周方向に沿って)渦巻状に収納溝13が形成されている。この収納溝13にはFBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバ15が収納されており、その端部15a、15bは超電導コイル装置20の検出部22に接続されている。光ファイバ15は冷却板12の収納溝13に接着層16により固定されている。
【0042】
光ファイバ15としては、コアとクラッドからなる構成を有し、コアにその長手方向に沿って複数のファイバブラッググレーティング部が形成されたFBG方式の光ファイバであれば特に制限されず、従来公知の材質および構成のFBG方式の光ファイバを使用することができる。
光ファイバ15に形成されたグレーティング(回折格子)の周期(間隔)及び1つのグレーティングの長さは、光ファイバ15の材質や入射光の波長および反射光の波長(ブラッグ波長)などにより適宜調整すればよい。一例として、グレーディング部の間隔は数mm〜数十mmとすることができ、グレーティング部の長さは5〜10mmとすることができる。
【0043】
光ファイバ15の外周部は、ポリイミド等の被覆材により被覆されていても良いし、被覆されていなくても良い。また、光ファイバ15の直径は特に制限されず適宜変更可能であるが、通常、その直径は数十〜125μm程度である。
【0044】
冷却板12へ収納溝13を形成する方法は特に制限されず従来公知の方法を適用でき、例えば、レーザ加工や切削加工等により形成することができ、あるいは冷却板12が鋳造可能な金属の場合には、冷却板12を鋳造によって製造する際に同時に形成してもよい。
収納溝13の深さは、光ファイバ15の径に合わせて適宜調整可能であり、光ファイバ15の径をdとし、収納溝13の深さをLとした場合、d≦Lであることが好ましい。光ファイバ15の一部が、冷却板12の上面よりも突出する構造とすることも可能であるが、前記のようにd≦Lとし、冷却板12の内部に光ファイバ15が配されている構造とする方が、光ファイバ15と冷却板12の接触面積を増加できるので、クエンチ検知の精度を向上できる。また、冷却板12とダブルパンケーキコイル11を隙間無く接触させて超電導コイル10の冷却効率を向上でき、且つ、超電導コイル10を小型化できる。
【0045】
光ファイバ15は、接着層16により冷却板に固定されている。接着層16は、低温でも光ファイバ15を保護できるように、低温での耐久性が優れ、かつヤング率の高い材質が好ましい。接着層16としては、ポリイミド等の樹脂やろう材、接合用金属等が挙げられる。
光ファイバ15はその長さ方向全体が接着層15により固定されていてもよいが、冷却板12の熱膨張又は熱収縮に応じて光ファイバ15に歪が負荷されるのに充分な程度に固定されるならば、光ファイバ15の長さ方向に沿って数箇所、部分的に接着層16により固定されていてもよい。また、光ファイバ15に張力を加えた状態で収納溝13に光ファイバ15を収納してもよい。
収納溝13への光ファイバ15の設置方法は、収納溝13の幅を光ファイバ15の径とほぼ同等、或いは僅かに大きく設定して、光ファイバ15を収納溝13に収納して接着剤により接着層16を形成して固定すればよい。
なお、光ファイバ15は接着層16により固定されている例に限定されず、冷却板12の伸縮(熱膨張又は熱収縮)により光ファイバ15に歪が負荷されるように冷却板12に固定されていればよく、収納溝13にはめ込まれている構成でもよい。
【0046】
FBG方式の光ファイバ15に温度変化が生じると、光ファイバ15の屈折率や、光ファイバ15に形成されたグレーティング(格子)の間隔が変化し、グレーティングからの反射光の波長(ブラッグ波長)が変化する。屈折率の変化は光ファイバ15の材質に依存するものであり、光ファイバ15の被覆材や接着固定される対象物にはほとんど依存しない。一方、格子間隔の変化は、光ファイバ15の長手方向に沿った変形(伸縮)によって起こるため、光ファイバ15の接着固定される対象物の熱膨張又は熱収縮に伴う歪に依存する。
本実施形態の超電導コイル装置20の超電導コイル10において、FBGを形成した光ファイバ15は冷却板12に固定されており、冷却板12を構成する銅などの金属材料の線膨張係数が大きいため、温度上昇により大きな熱膨張(線膨張)が発生する。つまり、冷却板12の温度上昇時には、冷却板12の熱膨張(線膨張)によりFBGの格子間隔が伸び、グレーティング(格子)からの反射波長(ブラッグ波長)が長波長側にシフトする。
【0047】
本実施形態の超電導コイル10において、万が一何らかの理由により常電導転移(クエンチ)が起こった場合、クエンチ発生に伴う超電導コイル10内の磁界の変化を打ち消す方向に磁界を発生させる電磁誘導効果により導電性の冷却板12に渦電流が生じる。例えば、超電導コイル10に電源25より通電することにより超電導コイル10内に上向きの磁界Tが発生している際に、何らかに理由により超電導転移が発生して上向き磁界Tが弱まり磁界T1になったとする。この場合、発生した磁界の変化を打ち消して、弱まった磁界T1を元の磁界Tとするべく、変化分の上向き方向磁界を発生させるために、冷却板12には上から見て反時計回りの渦電流が発生する。
このような渦電流が冷却板12に流れることにより、電流値と抵抗値に応じたジュール熱が発生し、冷却板12が発熱する。そして、この発熱により、冷却板12の熱膨張(線膨張)が起こる。
【0048】
本実施形態の超電導コイル装置20においては、冷却板12に形成された収納溝13にFBG方式の光ファイバ15が固定され配置されているため、上記した超電導コイル10の常電導転移発生に伴い冷却板12において渦電流の発生および発熱が起こると、冷却板12の発熱による熱膨張(線膨張)によりFBGの格子間隔が伸び、グレーティングからの反射波長(ブラッグ波長)が長波長側にシフトする。
【0049】
図1に示す如く超電導コイル10の冷却板12に収納された光ファイバ15は、収容容器21の外部の検出部22に接続されている。この検出部22は、光源と、光部品と、分光素子と、受光素子とで構成されている。検出部22の光部品は、光源からの光を光ファイバ15に入射するとともに、光ファイバ15のファイバフラッググレーティング(FBG)からの反射光を分光素子に入射する。検出部22では、光ファイバ15に測定光を入射するとともに、光ファイバ15からの反射光を分光素子により分光して、分光された光を受光素子において受光して電気信号に変換する。
【0050】
このような構成の検出部22により、光ファイバ15からの反射光の波長(ブラッグ波長)を検出し、この波長の変化により、冷却板の熱膨張(線膨張)、すなわち、冷却板の温度上昇と超電導コイル10の超電導転移(クエンチ)を検出することができる。なお、事前に反射光の波長変化(ブラッグ波長変化)の温度依存性の関係式を求めておくことにより、検出部22で検出された光ファイバ15の反射光の波長変化に基づいて、冷却板12の温度変化を算出することができる。
【0051】
冷却板12の熱膨張(線膨張)は、発熱に対して極めて早い速度で発生する。本実施形態の超電導コイル装置20は、万一超電導コイル10で常電導転移が発生した場合にも、FBG方式の光ファイバ15が冷却板12の収納溝16に収納されていることにより、超電導転移の発生に起因する冷却板12の発熱および熱膨張(線膨張)を検知し、超電導コイル10の常電導転移(クエンチ)の発生を、良好な精度および応答性で検出することができる。なお、BOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)方式の光ファイバを用いた場合は、50K以下の温度での検知感度が低下する傾向にある。そのため、本実施形態の超電導コイル装置20のように、FBG方式の光ファイバ15を用いることが好ましい。ここで、BOCDA方式とは、温度変化に応じたブリルアン散乱光の周波数変化により温度を測定する方式である。
【0052】
本発明の超電導コイル装置は、上記実施形態に限定されず、光ファイバ15は冷却板12の収納溝16に収納され、冷却板12に接触していれば接着層16により固定されていなくても超電導転移に伴う冷却板の温度変化を検知可能である。しかしながら、本実施形態の光ファイバ15はFBG方式であり、冷却板12の熱膨張(線膨張)の変化によりブラッグ波長が変化し、この波長変化により冷却板12の温度変化を検知する方式である。そのため、光ファイバ15は冷却板12に接着固定されていることが好ましい。これにより、より良好な精度および応答性で常電導転移を検出することができる。
【0053】
また、本実施形態の超電導コイル装置20は、超電導コイル10の常電導転移を検知する光ファイバ15が冷却板12の収納溝13に収納されている構成である。そのため、特許文献2に記載の技術のように光ファイバと超電導線材を共巻きして形成された超電導コイルとは異なり、高温超電導線材が高密度で巻回された超電導コイル20とすることができ、電流密度および中心磁界強さなどの超電導特性を低下させることがない超電導コイルおよび超電導コイル装置とすることができる。
さらに、本発明の超電導コイル装置20は、冷却板12にコイルの周方向に沿って渦巻状に形成された収納溝13に、光ファイバ15が収納されている構成とすることにより、冷却板12の内周から外周まで様々な場所にFBG方式の光ファイバ15が配置されるので、常電導転移発生時に導電性の冷却板12に発生する渦電流に伴う発熱および熱膨張をより効果的に検出することができ、常電導転移の検出の精度および応答性をより向上させることができる。また、光ファイバ15が冷却板12に渦巻状に配置されていることにより、冷却板12がどの方向に熱膨張(線膨張)しても光ファイバ15に歪が負荷されるため、冷却板12の熱膨張を良好な精度および応答性で検知でき、常電導転移をより良好な精度および応答性で検出できる。
【0054】
次に、本発明に係る超電導コイルの常電導転移の検出方法について説明する。
本実施形態においては、上記した図1に示す超電導コイル装置20を用いて超電導コイルの常電導転移を検出する。
まず、事前に、超電導コイル10の冷却板12にFBG方式の光ファイバ15を、冷却板の熱膨張又は熱収縮により光ファイバ15に歪が負荷されるように固定(例えば、接着固定)して、温度を変化させて、冷却板12の温度および熱膨張(線膨張)と光ファイバ15からの反射光の波長変化(ブラッグ波長変化)を測定し、反射光の波長変化の温度依存性の関係式を求めておく。
【0055】
次に、真空ポンプ23を作動させて収容容器21内を所望の減圧度とし、冷却機28を作動させて収容容器21内の超電導コイル10を臨界温度以下の目的とするべき温度、例えば77K、50Kあるいは20Kの一定温度に保持する。
続いて、検出器22を作動させて、超電導コイル10の冷却板12に収納された光ファイバ15への測定光の入射および光ファイバからの反射光の受光を開始する。
次いで、超電導コイル10を臨界温度以下の一定温度に保持した状態で、電源25より超電導コイル10に通電し、定常運転を行う。
【0056】
そして、この状態で定常運転および検出部22における光ファイバ15からの反射光のモニタリングを行う。
この状態で、万が一超電導コイル20において常電導転移(クエンチ)が発生すると、上述の如く、常電導転移発生に伴い冷却板12において渦電流の発生および発熱が起こり、、冷却板12の発熱による熱膨張(線膨張)によりFBGの格子間隔が伸び、光ファイバ15のグレーティングからの反射波長(ブラッグ波長)が長波長側にシフトし、この波長変化が検出部22で観測される。
この反射光の波長変化を検出することにより、冷却板12の熱膨張(線膨張)、すなわち、冷却板12の温度上昇と超電導コイル10の超電導転移(クエンチ)を検出することができる。
なお、この際、事前に求めた反射光の波長変化の温度依存性の関係式を用いて、検出部22で検出された光ファイバ15の反射光の波長変化に基づいて、冷却板12の温度変化を算出することもできる。
【0057】
冷却板12の熱膨張(線膨張)は、発熱に対して極めて早い速度で発生する。本実施形態の常電導転移の検出方法は、FBG方式の光ファイバ15を冷却板12の収納溝16に収納したことにより、万一超電導コイル10で常電導転移が発生した場合にも超電導転移の発生に起因する冷却板12の発熱および熱膨張(線膨張)を検知し、超電導コイル10の常電導転移(クエンチ)の発生を、良好な精度および応答性で検出することができる。
【0058】
本発明の超電導コイル装置は上記実施形態の超電導コイル装置20に限定されず、適宜変更可能である。
図6においては、収納溝13の断面形状が四角形の場合を例示しているが、本実施形態はこの例に限定されるものではない。例えば、光ファイバ15の断面形状に合わせて、収納溝13底部の形状を円弧状等に形成することにより、光ファイバ15と冷却板12との接触面積を増やしてクエンチ検知の精度を向上させることができる。
【0059】
また、上記実施形態ではダブルパンケーキコイル11が3個積層された超電導コイル10を示したが本発明はこの例に限定されない。図7に本発明に係る超電導コイル装置が備える超電導コイルの他の例を示す。なお、図2において、図1〜図6に示す上記実施形態の超電導コイル装置20と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
図7に示す超電導コイル10Bは、ダブルパンケーキコイル11が4個積層され、ダブルパンケーキコイル11、11間に冷却板12が配置されている。冷却板12の一方の面には収納溝が形成され、光ファイバが収納されている。
本発明の超電導コイル装置が備える超電導コイルは、この例の如く4個のダブルパンケーキコイルから構成されていてもよく、1〜2個のダブルパンケーキコイルから構成されていてもよく、5個以上のダブルパンケーキコイルから構成されていてもよい。また、ダブルパンケーキコイルから形成されるのではなく、パンケーキコイルが複数個積層され、各パンケーキコイル間に冷却板が配置されていてもよい。
【0060】
図7に示す超電導コイル10Bでは、ドーナツ盤状の冷却板12の径方向の大きさが、ダブルパンケーキコイルの径と略同一とされている。本発明において冷却板の形状および寸法は特に制限されず適宜変更可能であるが、図7に示すように、冷却板12とダブルパンケーキコイル11の径方向の大きさが略同一とされている場合、超電導コイル10が小型化され、好ましい。
また、本発明において、光ファイバは全ての冷却板に収納されていてもよく、されていなくてもよい。少なくとも1つの冷却板に光ファイバが収納されていれば、超電導コイル10の常電導転移を検知することができる。その場合、超電導コイル10の冷却板12のうち、どの冷却板12に光ファイバ15を収納するかは、超電導コイル10の超電導特性に合わせて適宜調整可能である。
【0061】
光ファイバ15(及び冷却板12の収納溝13)の設置位置は、パンケーキコイルを構成する高温超電導線材1の巻回に合わせていてもよく、合わせていなくてもよい。また、光ファイバ15は冷却板12の径方向内側に多く配置(密に配置)されていてもよいし、径方向外側に多く配置(蜜に配置)されていてもよい。光ファイバ15の設置位置は超電導コイル20の超電導特性により適宜調整すればよい。
また、上記実施形態では複数のダブルパンケーキ11の間にのみ冷却板12が配置された例を示したが、本発明はこの例に限定されない。最上段のダブルパンケーキコイル11の上および/または最下段のダブルパンケーキコイル11の下に、冷却板12(及び光ファイバ15)を設置してもよい。
【0062】
光ファイバは1枚の冷却板に1本配置される例に限定されず、複数本配置されていてもよい。その場合、1枚の冷却板における光ファイバの設置本数は特に制限されない。また、コイル周方向に沿う渦巻状に形成された1本の連続した収納溝13に、1本の光ファイバ15が収納された冷却板12の例を示したが、本発明はこの例に限定されない。同心円状に複数の光ファイバが収納されていてもよく、同心円状の各光ファイバを接合器で接続して外部に引き出す構成としてもよい。
さらに、上記実施形態では光ファイバは冷却板の一方の面に形成された収納溝に収納される例を示したが、本発明はこの例に限定されない。冷却板12の両面に収納溝を形成して、この溝に光ファイバを収納し、冷却板の両面に光ファイバを配置しても良い。
さらにまた、冷却板に生じる渦電流が大きくなり過ぎて冷却板の発熱が大きくなりすぎることを防ぐ目的で、冷却板にその円周方向あるいは径方向に沿う冷却用の溝を形成してもよい。
【0063】
以上、本発明の超電導コイル装置および超電導コイルの常電導転移の検出方法について説明したが、上記実施形態において、超電導コイル装置および超電導コイルを構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)により1.2μm厚のGdZr(GZO;中間層)を形成した上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu(超電導層)を形成し、さらに超電導層上にスパッタ法により10μmの銀層(金属安定化基層)を形成した。その後、0.1mm厚の銅層(金属安定化層)を半田により銀層上に積層して高温超電導線材を作製した。得られた高温超電導線材の周囲に、厚さ12.5μmのポリイミドテープを2枚重ねた状態で、巻回テープの幅方向端部同士が重ならずに隙間無く接するように巻きつけた。ポリイミドテープを巻回させた後の高温超電導線材の厚さは約0.25mmであった。
次いで、得られたポリイミドテープ付きの高温超電導線材を、内径70mmとして同心円状に35回巻回させてパンケーキコイルを作製した。次に、同様の手順で5個のパンケーキコイル作製し、2個つづ同軸的に積層させて3個のダブルパンケーキコイルを作製した。
【0066】
次に、ドーナツ盤状の銅製の冷却板(厚さ1mm、外径87mm、中央の開口径70mm)を準備し、この冷却板の一方の面上に切削加工により、冷却板の内側から外側へと渦巻状に連続する収納溝(幅200μm、深さ200μm、周回数5、径方向の溝間隔3mm)を形成し、この収納溝に外径180μmのFBG方式の被覆付き光ファイバを収納し、ポリイミド製接着剤により固定して図5に示す光ファイバ付き冷却板を2枚作製した。
続いて、作製した3個のダブルパンケーキコイルと2枚の光ファイバ付き冷却板を図2に示すように同軸的に積層させて、高さ35mm、総ターン数210ターン(35ターン×6)の超電導コイルを作製した。
【0067】
(比較例1)
実施例1と同様にして高温超電導線材を作製し、この高温超電導線材の金属安定化層の上に外径180μmのFBG方式の被覆付き光ファイバを配置した。そして、光ファイバが一体化された高温超電導線材の周囲に厚さ12.5μmのポリイミドテープを2枚重ねた状態で、巻回テープの幅方向端部同士が重ならずに隙間無く接するように巻きつけた。ポリイミドテープを巻回させた後の高温超電導線材の厚さは約0.3mmであった。
【0068】
次に、上記と同様にして計6本のポリイミドテープ付きの高温超電導線材を作製し、冷却板に光ファイバを収納しないこと以外は、実施例1と同様にして、同軸的に積層された3個のダブルパンケーキコイルの間に2枚冷却板が配置された構造の、高さ35mm、総ターン数210ターン(35ターン×6)の超電導コイルを作製した。
【0069】
実施例1および比較例1の超電導コイルについて、温度20Kにおいて100Aおよび300Aの電流を通電した際の、各超電導コイルの中心磁界を測定した。結果を表1に示す。また、実施例1および比較例1の超電導コイルの外径と使用線材長も表1に併記した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1の結果より、本発明の超電導コイル装置が備える超電導コイルである実施例1では、比較例1に比較して、同じ通電電流に対する中心磁界が強くなっており、電流密度が高いことが確認された。また、実施例の超電導コイルは、光ファイバを冷却板に収納した構成であるため、比較例の超電導コイルよりもコイル外径が小さく、使用線材長も少なくなっていた。
これに対し、比較例1は、高温超電導線材の上面に光ファイバが設けられているため、該超電導線材を巻回させた超電導コイルでは、その径方向に隣接する各高温超電導線材間に光ファイバが存在するので、各高温超電導線材間の距離が大きくなっていた。そのため、比較例の超電導コイル外径は大きくなり、使用線材長も長くなっていた。また、各高温超電導線材間の距離が大きくなるので、コイルの電流密度も低下し、中心磁界が弱くなっていた。
【0072】
(検討例1)
図8に示す試験装置を使用してFBG方式の光ファイバを用いた場合の超電導転移の検知感度について検討を行った。
図8(a)は本検討例で用いた試験装置の概略構成図であり、図8(b)は同試験装置における光ファイバのFBGとヒータとの位置関係を示す概略模式図である。図8(a)および図8(b)において、図1に示す超電導コイル装置20と同一の構成要素には同一の符号を付した。
図8に示す試験装置40は、超電導コイル10の代わりに、冷凍機28に接続された真鍮製巻胴45に高温超電導線材1が巻き付けられ、この高温超電導線材1にヒータ43とFBG方式の光ファイバ41が接着固定されている点で、図1に示す超電導コイル装置20とは異なっている。
【0073】
実施例1と同様の手法および層構成で高温超電導線材1を作製した。得られた高温超電導線材1を、直径110mmの巻胴45に基材(ハステロイ)側を内側にしてコイル状に巻き付け固定し、高温超電導線材1の両端部を電力リード24を介して電源25に接続した。次に、この高温超電導線材1の金属安定化層(銅層)上に、ファイバブラッググレーティング42が形成された光ファイバ41をポリイミド接着剤により固定し、さらに、高温超電導線材1の金属安定化層(銅層)上に、図8(b)に示すように、ヒータ43配置した。なお、ヒータ43と光ファイバ41との距離は10mm、ファイバブラッググレーティングは5mm幅、光ファイバ41への入射光の波長は1.55μmとした。
【0074】
収容容器21に接続された真空ポンプ(図示略)を作動させて真空断熱し、冷凍機28を作動させて巻胴45および高温超電導線材1の温度を72.4Kに保持した。この状態で検出器22を作動させて測定を開始し、測定開始時から3.8秒後から1秒間ヒータ43に通電した。図9に測定結果のグラフを示す。図9に示すように、ヒータ43に通電後直ちにFBG方式の光ファイバ42により高温超電導線材1の金属安定化層(銅層)温度上昇が検知されていた。温度上昇は僅か3〜4Kであったが、このような小さな温度変化でも即座に検知できることが確認された。さらに、冷凍機28による冷却温度を20〜300Kまで変化させて、同様の検討を行ったところ、FBG方式の光ファイバ41により、数Kの温度変化でも良好な精度で検知できることを確認した。
また、銅などの金属の熱膨張(線膨張)をFBG方式の光ファイバにより検知する場合、金属層の厚さが厚いほど検知感度が向上する。そのため、本検討例の結果より厚さ0.1mmの銅層の温度変化も検知できることが明らかであることより、厚さ0.1mm以上の冷却板にFBG方式の光ファイバを埋め込む構成の本発明によれば、冷却板の温度変化、すなわち、常電導転移の検知をより高精度に行うことができると考えられる。
【0075】
(検討例2)
実施例1と同様の手法および層構成で3個のダブルパンケーキコイルを作製した。次に、作製した3個のダブルパンケーキコイルを同軸的に積層させてコイル体とし、このコイル体の積層方向の上下端に、厚さ1mmの無酸素銅製の平板状冷却板を該コイル体を上下方向から挟み込むように設置した。次いで、コイル体上端に設置した冷却板上に、FBGが1箇所書き込まれたFBG方式の光ファイバをポリイミド接着剤により固定して超電導コイルを作製した。
【0076】
次に、作製した超電導コイルを伝導冷却のための冷凍機を配したクライオスタットに取り付け、30Kまで冷凍機により伝導冷却を行った。続いて、30Kで温度一定となった時点で超電導コイルに通電(電流値200A)し、この時のコイル中心磁界が0.605Tであることを確認した。通電状態を10分間保持後、通電電流を遮断したときのFBGの波長変化を温度に換算することにより温度上昇を調査した。図10は、FBG波長変化より算出した超電導コイルの温度変化を示すグラフである。なお、図10において、16秒のところで通電電流の遮断を行った。
図10に示すように、1K程度の温度変化が、良好な応答精度で測定されていた。この結果より、FBG方式の光ファイバは、このような急激な磁場変化により発生する渦電流に起因する温度変化を精度良く検知できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種超電導機器に用いられる超電導コイルに利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1…高温超電導線材、2…基材、3…中間層、4…超電導層、5…安定化層、10、10B…超電導コイル、11…ダブルパンケーキコイル、11a、11b…パンケーキコイル、12…冷却板、12a…接続部、13…収納溝、15…光ファイバ、16…接着層、20…超電導コイル装置、21…収容容器、23…真空ポンプ、24…電力リード、25…電源、26…熱伝導バー、27…鍔板、28…冷凍機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超電導線材を巻回した複数のコイルと、導電性の冷却板と、FBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバとを備え、
前記複数のコイルが同軸的に積層され、これら複数のコイルの積層方向に少なくとも1つのコイルに接するように前記冷却板が配置され、前記冷却板に前記コイルの周方向に沿って形成された収納溝に前記光ファイバが収納されてなることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記冷却板の熱膨張又は熱収縮により前記光ファイバに歪が負荷されるように、前記光ファイバが前記収納溝に固定されてなることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記冷却板に前記コイルの周方向に沿って渦巻状に形成された前記収納溝に、前記光ファイバが収納されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
高温超電導線材を巻回した複数のコイルを同軸的に積層させてなる超電導コイルの常電導転移の検出方法であって、
前記コイルの周方向に沿う収納溝が形成され、この収納溝にFBG(ファイバブラッググレーティング)方式の光ファイバが収納された導電性の冷却板を前記複数のコイルの積層方向に少なくとも1つのコイルに接するように配置し、
前記冷却板の熱膨張又は熱収縮に伴う前記FBG方式の光ファイバからの反射光の波長変化に基づいて、前記超電導コイルにおける常電導転移の発生に伴う前記冷却板の温度変化を検出することを特徴とする超電導コイルの常電導転移の検出方法。
【請求項5】
前記冷却板の熱膨張又は熱収縮により前記光ファイバに歪が負荷されるように、前記光ファイバを前記収納溝に固定してなる冷却板を用いることを特徴とする請求項4に記載の超電導コイルの常電導転移の検出方法。
【請求項6】
前記コイルの周方向に沿って渦巻状に形成された前記収納溝に、前記光ファイバを収納してなる冷却板を用いることを特徴とする請求項4または5に記載の超電導コイルの常電導転移の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−182176(P2012−182176A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42193(P2011−42193)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】