説明

超電導テープおよび超電導テープの製造方法

【課題】耐引張歪み特性を改善するとともに、許容曲げ直径を小さくできる、超電導テープおよび超電導テープの製造方法を提供する。
【解決手段】超電導テープ1aは、本体部7と、補強部9a、9bと、半田層11とを備えている。本体部7は、超電導体3を有するテープ状である。補強部9a、9bは、本体部7の少なくとも一方の主面側に形成されている。半田層11は、本体部7と補強部9a、9bとを接合し、かつ200℃以上の融点を有している。補強部9a、9bは、室温以上半田層11の融点以下での本体部7の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導テープおよび超電導テープの製造方法に関し、たとえば補強部を備えた超電導テープおよび超電導テープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえばBi2223相などを有する酸化物超電導体を銀などのシース部で被覆した多芯線からなるテープ状のセラミックス超電導線は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られること、長尺化が比較的容易であることから、超電導コイルやケーブル等への応用が期待されている。
【0003】
たとえば超電導コイル、ケーブル等を製造する際に超電導線には大きな張力、曲げなどが加わるため、超電導線には歪みが生じる。また超電導コイル、ケーブル等の運転中、または、運転のための冷却時にも、超電導線には歪みが加わる。このため、超電導線には、超電導体の性能を維持できる最大の歪みの向上が要求されている。
【0004】
超電導線においては、シース部が許容される曲げを確保する役割や、外部端子と超電導体との電気的接触を良好にする役割を果たしている。しかし、超電導体をシース部で被覆した後に、超電導体の焼成を高温かつ酸素含有雰囲気で行なうため、シース部に使用できる材料は貴金属とその合金とに限定され、シース部による補強で得られる曲げには限界があった。
【0005】
そこで、超電導線の曲げに対して超電導特性が劣化することを防止するための技術が、たとえば米国特許第5,801,124号明細書(特許文献1)、米国特許第6,649,280号明細書(特許文献2)および特開平4−43510号公報(特許文献3)に開示されている。特許文献1には、超電導線の一方または両方の主面にステンレス鋼、銅、銅合金および銅超合金よりなる薄板を貼り付け、超電導線と薄板とを金属を含む接合剤で接合した超電導テープの構造が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、超電導線の一方または両方の主面にステンレス鋼の薄板を貼り付け、超電導線とステンレス鋼とをSu(錫)−Pb(鉛)よりなる半田で接合した超電導テープの構造が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、ニッケル、ニッケル合金およびステンレス鋼よりなる補強金属材を超電導線の片面に貼り付けた超電導テープの構造が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,801,124号明細書
【特許文献2】米国特許第6,649,280号明細書
【特許文献3】特開平4−43510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1〜3の超電導テープでは、耐引張歪み特性が十分ではないという問題があった。その1つ目の理由として、超電導線に曲げが加えられる場合、セラミックス超電導線は圧縮歪みに強く、引張歪みに弱い性質を有している。このため、超電導線の両方の主面に薄板を貼り付ける超電導テープに曲げが加えられる場合に、超電導テープの引張歪みが弱いという問題を有している。
【0009】
2つ目の理由として、超電導線の一方の主面に金属板を貼り付ける超電導テープでは、薄板または金属補強材の厚みが小さい場合には、セラミックス超電導線に引張歪みが加わることを防ぐために、薄板または金属補強材が外周側になるように曲げを与えたとしても、歪量が零となる中立線が外周側にほとんどずれない。このため、超電導テープに曲げが加えられる場合に、超電導テープの耐引張歪み特性が十分でないという問題を有している。
【0010】
このように、超電導テープの耐引張歪み特性が低いと、超電導体の超電導特性を維持する程度に超電導テープを曲げたときの直径(許容曲げ直径)が大きくなる。このため、この超電導テープを用いてなる超電導機器の小型化を図ることができないという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、耐引張歪み特性を改善するとともに、許容曲げ直径を小さくできる、超電導テープおよび超電導テープの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の超電導テープは、本体部と、補強部と、半田層とを備えている。本体部は、超電導体を有するテープ状である。補強部は、本体部の少なくとも一方の主面側に形成されている。半田層は、本体部と補強部とを接合し、かつ200℃以上の融点を有している。補強部は、室温以上半田層の融点以下において、本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有している。
【0013】
本発明の超電導テープの製造方法は、以下の工程を備えている。まず、超電導体を有するテープ状の本体部が準備される。そして、補強部が準備される。そして、200℃以上の融点を有する半田層を用いて、本体部と補強部とが接合される。本体部と補強部とを接合する工程では、半田層の融点以上に半田層が加熱される。補強部を準備する工程では、室温以上半田層の融点以下において、本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する補強部が準備される。
【0014】
本発明の超電導テープおよび超電導テープの製造方法によれば、補強部の熱膨張率は本体部の熱膨張率よりも大きいので、半田層の融点以上に加熱して補強部と本体部とを接合すると、補強部は本体部よりも長さ方向(延在方向)に伸びた状態で接合される。このため、補強部が形成された本体部が室温まで冷却される過程で、本体部の超電導体には予め圧縮歪みが加えられた状態になり、超電導テープの耐引張歪み特性を向上できる。この効果は、半田層の融点が200℃以上の高温で顕著に現れる。この超電導テープに曲げを加えると、中立軸を境に曲げ中心に近い領域に位置する本体部の超電導体は圧縮歪みを受け、中心から遠い領域に位置する超電導体は引張歪みを受ける。本体部の超電導体は、圧縮側の許容歪みよりも、引張側の許容歪みが小さいため、本体部の許容引張歪みによって超電導テープの許容曲げ直径が決まる。本発明の超電導テープでは、本体部の超電導体に予め圧縮歪みが加えられた状態になっており、曲げに対しても強い特性を有するので、超電導テープの許容曲げ直径は小さくなる。
【0015】
なお、半田層の融点を200℃以上とすることにより、この超電導テープを電極等と接続する際に、融点が180℃程度の一般的な半田を用いても、この超電導テープの構造を維持できる。このため、汎用性の高い超電導テープが得られる。
【0016】
上記超電導テープにおいて好ましくは、上記補強部は、半田層の融点よりも高い軟化温度を有している。
【0017】
上記超電導テープの製造方法において好ましくは、上記補強部を準備する工程では、半田層を加熱する温度よりも高い軟化温度を有する補強部を準備する。
【0018】
これにより、半田層を融点以上に加熱することにより補強部と本体部とを接合する際に、補強部が軟化することを防止できるので、容易に上記超電導テープが得られる。
【0019】
上記超電導テープにおいて好ましくは、上記補強部が本体部の一方の主面側のみに形成されている。
【0020】
上記超電導テープの製造方法において好ましくは、上記本体部と補強部とを接合する工程では、本体部の一方の主面側のみに補強部を形成する。
【0021】
本体部の一方の主面が外側になるように曲げると、超電導テープにおいて歪みが零になる中立線がこの一方の主面側にずれるため、本体部の超電導体に加えられる最大の引張り歪みを低減できる。このため、耐引張歪み特性をより向上できる。その結果、超電導テープを臨界電流の低下を抑制した状態でより小さな直径になるように曲げることができるので、許容曲げ直径をより小さくすることができる。
【0022】
また、超電導テープにおいて補強部の占める体積割合を減少できるので、超電導テープの全断面積当たりの臨界電流密度を向上できる。
【0023】
上記超電導テープの製造方法において好ましくは、本体部と補強部とを接合する工程では、補強部の降伏応力以下の張力を、補強部の延在方向に沿って補強部に加える。
【0024】
補強部の延在方向に沿って補強部に張力を加えながら本体部と接合することにより、本体部に含まれる超電導体に加えられる圧縮残留応力および圧縮残留歪みが大きくなる。このため、補強部が接合された超電導テープは、引張応力および引張歪みに対して強くなる。また、超電導テープに曲げを加えたときも、本体部に含まれる超電導体に加えられる引張り歪みに対して強くなるため、許容曲げ直径を小さくすることができる。
【0025】
上記超電導テープの製造方法において好ましくは、上記本体部と補強部とを接合する工程は、本体部の延在方向に沿って本体部に張力を加える工程と、本体部に加える張力よりも大きな張力を、補強部の延在方向に沿って補強部に加える工程とを含んでいる。
【0026】
これにより、本体部に張力を加える場合であっても、補強部をより収縮させて本体部に接合することができるので、本体部には予めより大きな圧縮歪みが加えられた状態になる。このため、この超電導テープに応力を加えると、超電導テープの耐引張歪み特性を向上できる。その結果、この超電導テープに曲げを加えた場合であっても、本体部の超電導体の超電導特性の低下を抑制できる。したがって、許容曲げ直径を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の超電導テープおよび超電導テープの製造方法によれば、耐引張歪み特性を改善するとともに、許容曲げ直径を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における超電導テープの構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図1に示すように、本実施の形態における超電導テープ1aは、本体部7と、補強部9a、9bと、半田層11とを備えている。補強部9a、9bは本体部7の上面7a側と下面7b側とにそれぞれ配置されており、本体部7の長手方向(延在方向)に沿って配置されている。本体部7と補強部9a、9bの各々とは半田層11によって接合されている。
【0029】
本体部7は、一軸方向に延在する形状であるテープ状であり、長手方向に延びる複数本の超電導体3と、複数の超電導体3の全周を被覆するシース部5とを有している。シース部5は超電導体3に接触している。複数本の超電導体3の各々は、たとえばBi(ビスマス)−Pb−Sr(ストロンチウム)−Ca(カルシウム)−Cu(銅)−O(酸素)系の組成を有するビスマス系超電導体が好ましく、特に、(ビスマスと鉛):ストロンチウム:カルシウム:銅の原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表されるBi2223相を含む材質が最適である。シース部5の材質は、たとえば銀(Ag)や銀合金よりなっている。
【0030】
半田層11は、加熱および冷却により本体部7と補強部9a、9bとを接合するためのものである。半田層11の融点は200℃以上であり、227℃以上であることが好ましい。半田層11の材料は、融点が200℃以上であれば特に限定されないが、たとえば、Sn、Pb、Sn−Ag、Sn−Sb(アンチモン)、Sn−Ag−Au(金)、Sn−Cu−Ni(ニッケル)、Sn−Ag−Ni、Sn−Ag−Cu−Bi、Sn−Ag−In(インジウム)−Biなどが用いられ、作業環境および使用環境への影響が軽減される観点からPbを含んでいないSn、Sn−Ag、Sn−Sb、Sn−Ag−Au、Sn−Cu−Ni、Sn−Ag−Ni、Sn−Ag−Cu−Bi、Sn−Ag−In−Biが好適に用いられる。
【0031】
補強部9a、9bは、超電導テープ1aの機械的強度を向上し、高い許容引張応力を維持する役割を果たしている。超電導テープ1aの機械的強度を向上する観点から、補強部9a、9bは、本体部7よりも高い機械的強度を有していることが好ましい。
【0032】
補強部9a、9bの各々はテープ状であり、室温以上半田層11の融点以下において、本体部7の熱膨張率(つまり、超電導体3とシース部5とを合わせた熱膨張率)よりも大きい熱膨張率を有している。このような補強部9a、9bの材料は、ステンレス鋼、銅合金、ニッケル合金などが用いられ、熱膨張率が大きい観点からステンレス鋼、銅合金などが好適に用いられる。なお、室温とは、たとえば0℃以上40℃以下である。
【0033】
補強部9aは、半田層11の融点よりも高い軟化温度を有しており、半田層11の軟化温度よりも高い軟化温度を有していることが好ましい。補強部9aの軟化温度は、半田層11の融点よりも20℃以上高いことが好ましい。ここで、軟化温度(軟化点)とは、物質が加熱により変形、軟化を起こし始める温度である。
【0034】
なお、上記においては本体部7が複数本の超電導体3を有している構造(多芯線)である場合について説明したが、本体部7は1本の超電導体のみを有している構造(単芯線)であってもよい。
【0035】
ここで、超電導テープ1aの具体的寸法の一例を示すと、補強部9aの厚さ(図中縦方向の長さ)は0.02mmであり、幅(図中横方向の長さ)は4.3mmである。本体部7の厚さは0.22mmであり、幅は4.2mmである。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態1における超電導テープを製造するための装置を示す模式図である。続いて、図2を参照して、本実施の形態における超電導テープ1aを製造するための装置100について説明する。
【0037】
図2に示すように、装置100は、超電導テープ1aを製造する工程順に(図2において左側から右側にかけて)、第1の送り部101と、支持部102、103と、第1の張力印加部104と、支持部105と、第2の送り部106と、支持部107〜109と、第3の送り部110と、支持部111、112と、第3の張力印加部113と、支持部114と、フラックス槽115と、接合部116と、集合部117と、洗浄槽118と、巻取り部119と、受け部120とが設けられている。
【0038】
第1の送り部101は、補強部9aを受け部120へ送り、たとえば補強部9aを巻き付けて保持するためのリールである。
【0039】
第1の送り部101から送られた補強部9aが支持部102、103、105を通る際に、支持部103に取り付けられた第1の張力印加部104は、補強部9aの降伏応力以下の張力を、補強部9aの延在方向に加える。第1の張力印加部104は、補強部109aの降伏歪み以下の歪みを、補強部9aの延在方向に加えることが好ましい。支持部102、105は、たとえば定滑車であり、支持部103はたとえば動滑車であり、第1の張力印加部104は、支持部103に掛けられた重りである。
【0040】
第2の送り部106は、超電導体を有するテープ状の本体部7を受け部120へ送り、たとえば本体部7を巻き付けて保持するためのリールである。第2の送り部106から送られた本体部7は支持部107〜109を通って、支持部109で第1の送り部101から送られた補強部9aと第2の送り部106から送られた本体部7とが積層された状態になる。支持部107、109は、たとえば定滑車であり、支持部108はたとえば動滑車である。支持部108には、本体部7の降伏応力以下で、かつ本体部7に加えられる張力未満の張力を、本体部7の延在方向に加えるための第2の張力印加部(図示せず)が配置されていてもよい。
【0041】
第3の送り部110は、補強部9bを受け部120へ送る。第3の送り部110は、たとえば補強部9bを巻き付けて保持するためのリールである。第3の送り部110から送られた補強部9bが支持部111、112、114を通る際に、支持部112に取り付けられた第3の張力印加部113は、補強部9bの降伏応力以下の張力を、補強部9bの延在方向に加える。第3の送り部110から送られた補強部9bは、支持部111、112、114を通って、支持部114で、第1の送り部101から送られた補強部9aと、第2の送り部106から送られた本体部7と、第3の送り部110から送られた補強部9bとがこの順で積層された状態になる。
【0042】
この積層された状態でフラックス槽115に送られる。このフラックス槽115には、補強部9a、9bの接合面の酸化皮膜を除去するためのフラックスが内部に収容されている。
【0043】
フラックス槽115により補強部9a、9bの接合面の酸化皮膜が除去された状態で、接合部116に送られる。この接合部116の内部には、上述した半田層11となるべき材料が収容されている。この接合部116は、半田層11を介して本体部7の上面7aおよび下面7bと補強部9a、9bとを接合する。
【0044】
半田層11により本体部7と、補強部9a、9bとが接合された状態で、集合部117により一体化する。この集合部117は、接合部116の出口に取り付けられており、たとえば集合ダイスなどである。これにより、超電導テープ1aが得られる。
【0045】
集合部117により一体化された超電導テープ1aは、洗浄槽118に送られる。洗浄槽118は、超電導テープ1aを洗浄するために、たとえば温水などの洗浄液を内部に収容している。
【0046】
洗浄槽118から送られた超電導テープ1aは、巻取り部119を用いて、受け部120で受けられる。
【0047】
続いて、図1および図2を参照して、本実施の形態における超電導テープの製造方法について説明する。
【0048】
まず、超電導体3を有するテープ状の本体部7を準備する。具体的には、Bi、Pb、Sr、CaおよびCuが所定の組成比となるように、酸化物あるいは炭酸化物の原料粉を混合する。この混合粉に熱処理と粉砕とを繰り返すことにより、Bi2223相とBi2212相と非超電導相とから構成される前駆体粉末が作製される。次に、この前駆体粉末を金属管に充填する。その後、前駆体粉末が金属管に充填されたものに対して伸線加工を行なう。この際には伸線加工と中間軟化処理とを繰り返し、前駆体フィラメントを芯材として金属管で被覆されたクラッド線となる。次に、複数のクラッド線を束ねて再び金属管に嵌合する。これにより、たとえば55芯を有する多芯線が作製される。次に多芯線に対して伸線加工を施す。これにより、Bi2223相を含む酸化物超電導体の前駆体粉末をシース部5で被覆した形態を有する線材が作製される。その後、この多芯線に対して複数回の圧延加工と熱処理とを繰り返す。この熱処理は酸素雰囲気中で行なわれ、雰囲気中の酸素分圧はたとえば0.01MPa以下とされる。その結果、前駆体粉末が変化し、超電導体3となる。また、圧延加工により線材がテープ状となる。以上の工程により、超電導体3と、超電導体3の全周を被覆するシース部5とを有するテープ状の本体部7が形成される。このような本体部7は、第2の送り部106に配置する。
【0049】
次に、室温以上半田層11の融点以下において、本体部7の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する補強部9a、9bを準備する。補強部9a、9bを準備する工程では、半田層11の軟化温度よりも高い軟化温度を有する補強部9a、9bを準備する。補強部9a、9bの軟化温度は、後述する半田層11を用いて本体部7と補強部9a、9bとを接合する時に半田層11を加熱する温度よりも高い。また、補強部9a、9bの軟化温度は、半田層11の融点よりも20℃以上高いことが好ましい。具体的には、たとえば、上述した材料よりなる補強部9a、9bを準備して、第1および第3の送り部101、110に配置する。
【0050】
次に、200℃以上の融点を有する半田層11を用いて本体部7と補強部9a、9bとを接合する。具体的には、たとえば以下の工程が実施される。
【0051】
まず、フラックス槽115を通過させて補強部9a、9bの接合面の酸化皮膜を除去して、補強部9a、9bの表面を活性化させる。フラックスは、補強部9a、9bの本体部7への接合性が良好になる材料であることが好ましい。また、シース部5や製造設備に悪影響を及ぼさないことを目的として、非強酸性のフラックスを用いることが好ましい。このようなフラックスとして、たとえば有機酸系フラックス、樹脂系フラックスなどが挙げられる。
【0052】
その後、本体部7と補強部9a、9bとを、内部で半田層11の材料が溶融された接合部116を通過させる。このとき、融点が200℃以上の半田層11の材料が溶融しているので、接合部116の内部を通過する補強部9a、9bおよび本体部7は膨張する。室温以上半田層11の融点以下において、補強部9a、9bの熱膨張率は本体部7の熱膨張率よりも大きい。このため、少なくとも接合部116では、補強部9a、9bは本体部7よりも膨張している。
【0053】
その後、半田層11の融点未満の雰囲気にし、半田層11の材料を冷却し硬化させることによって、この材料を半田層11にする。これにより、半田層11を介して本体部7と補強部9a、9bとが一体化される。このとき、室温以上半田層11の融点以下において、補強部9a、9bの熱膨張率は本体部7の熱膨張率よりも大きい。このため、補強部9a、9bは本体部7よりも収縮するので、補強部9a、9bに引張歪みが生じ、本体部7に圧縮歪みが生じる。
【0054】
本実施の形態では、接合部116の出口部に設けられた集合部117を半田層11の材料の融点未満としているので、接合部116を通過した本体部7、補強部9a、9b、および半田層11を一体化させるために集合部117を通して、半田層11を介して本体部7と補強部9a、9bとを接合している。
【0055】
なお、半田層11を形成する方法は、上述しためっき法に特に限定されず、たとえば蒸着法などで形成される。
【0056】
図2に示す装置100を用いると、本体部7および補強部9a、9bは接合部以外の面も半田層11でめっきされるので、耐蝕性が改善され、端末における半田による接続が容易になる。
【0057】
また、補強部9a、9bの降伏応力以下の張力(引張応力)を、補強部9a、9bの延在方向に沿って補強部9a、9bに加えた状態で、本体部7と補強部9a、9bとを接合することが好ましい。また、補強部9a、9bの降伏歪み以下の引張歪みを、補強部9a、9bの延在方向に沿って補強部9a、9bに加えた状態で、本体部7と補強部9a、9bとを接合することが好ましい。なお、補強部の降伏応力以下で引張応力を補強部に加えることにより、補強部の塑性変形を防止できる。
【0058】
本実施の形態では、第1および第3の張力印加部104、113により補強部9a、9bにそれぞれ張力を加えている。このため、接合部116において、補強部9a、9bに引張歪みが加えられた状態で、本体部7と補強部9a、9bとが接合される。また、第1および第3の張力印加部104、113の重りを変更することにより、補強部9a、9bの延在方向に加える張力を容易に制御できる。
【0059】
また、支持部108に掛けられた重りなどの第2の張力印加部(図示せず)を装置100が備えている場合には、本体部7の延在方向に沿って本体部7に張力を加える工程と、本体部7に加える張力よりも大きな張力を、補強部9a、9bの延在方向に沿って補強部9a、9bに加える工程とを含んでいてもよい。この場合、接合部116において、補強部9a、9bに本体部7よりも大きな引張張力が加えられた状態で、本体部7と補強部9a、9bとが接合される。
【0060】
以上の工程を実施することにより、図1に示す本実施の形態における超電導テープ1aを製造できる。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態における超電導テープ1aにおいて、半田層11の融点は200℃以上であり、補強部9a、9bは、室温以上半田層11の融点以下において、本体部7の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有している。
【0062】
また本実施の形態における超電導テープ1aの製造方法は、200℃以上の融点を有する半田層11を用いて本体部7と補強部9a、9bとを接合する工程を備え、補強部9a、9bを準備する工程では、室温以上半田層11の融点以下において、本体部7の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する補強部9a、9bを準備し、本体部7と補強部9a、9bとを接合する工程では、半田層11の融点以上に半田層11を加熱する。
【0063】
本実施の形態における超電導テープ1aおよび超電導テープ1aの製造方法によれば、補強部9a、9bの熱膨張率は本体部7の熱膨張率よりも大きいので、半田層11(本実施の形態では半田層11の材料)を融点以上に加熱することによって半田層11を溶融し、その後半田層11を硬化させると、冷却によって、補強部9a、9bは本体部7よりも収縮した状態で本体部7に接合される。また、半田層11の融点が200℃以上であるので、補強部9a、9bが十分収縮した状態で本体部7に接合される。言い換えると、室温で張力が加えられていないときの超電導テープ1aにおいて、本体部7には予め圧縮歪みが加えられた状態になる。本体部7は圧縮歪みには強く、引張歪みには弱い性質を有しているので、超電導テープ1aに曲げを加えるときの耐引張歪み特性を向上できる。その結果、この超電導テープ1aに直径を小さくするように曲げを加えた場合であっても、本体部7の超電導特性の低下を抑制できる。したがって、超電導テープ1aの許容曲げ直径を小さくすることができる。
【0064】
また、補強部9a、9bおよび半田層11の材料を選択するという非常に簡便な方法によって、耐引張歪み特性を改善でき、許容曲げ直径を小さくすることができる。
【0065】
さらに、用いる半田層11の融点を200℃以上とすることにより、融点が180℃のSn−37%Pb共晶半田などの一般的な半田を用いても、この半田を190℃程度に溶融することにより超電導テープ1aの構造を維持して、この超電導テープ1aと電極等とを接続できる。このため、汎用性の高い超電導テープが得られる。
【0066】
また、補強部9a、9bを本体部7の上面7a側および下面7b側に配置することにより、超電導テープ1aの耐引張応力を向上することができる。
【0067】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2における超電導テープの構成を概略的に示す部分断面斜視図である。図3に示すように、本実施の形態における超電導テープ1bは、基本的には実施の形態1における超電導テープ1aと同様の構成を備えているが、補強部9aは、本体部7の一方の主面側のみに形成された点においてのみ異なる。本実施の形態では、図3に示すように、補強部9aは、本体部の上面7a側のみに配置されている。
【0068】
本実施の形態における超電導テープ1bの製造方法は、基本的には実施の形態1における超電導テープ1aの製造方法と同様の構成を備えているが、本体部7と補強部9aとを接合する工程では、本体部7の一方の主面(本実施の形態では上面7a)側のみに補強部9aを形成する点においてのみ異なる。
【0069】
なお、これ以外の超電導テープ1bおよびその製造方法は、実施の形態1における超電導テープ1aおよびその製造方法の構成と同様であるので、同一の部材には同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0070】
図4(A)は本発明の実施の形態2における超電導テープ1bに曲げを加えた状態を示す模式図であり、図4(B)は図4(A)における領域IVBの拡大図である。続いて、図4(A)および(B)を参照して、本実施の形態における超電導テープ1bの効果について説明する。
【0071】
図4(A)に示すように、本実施の形態における超電導テープ1bを補強部9aが外周側になるように曲げを加えると、図4(B)に示すように、外周側には引張歪みが加えられ、内周側には圧縮歪みが加えられる。このように、外周側に補強部9aが位置するので、歪量が零となる中立線Bは本体部7から補強部9aへずれた位置になる。言い換えると、中立線Bが半田層11近傍に位置しているので、本体部7には圧縮歪みが加えられ、本体部7に加えられる引張歪みを低減できる。
【0072】
なお、臨界電流密度の低下を抑制するために、補強部9aの厚みを小さくする場合には、中立線Bは本体部7側に位置する場合もある。しかし、上面7aのみに補強部9aが形成されているので、両面に補強部9aが配置されている場合と比較して、中立線Bを補強部9a側に位置することができる。このため、本体部7に加えられる引張歪みを低減できる。
【0073】
また、実施の形態1の本体部7の両側に補強部9a、9bを配置した場合と比較して、超電導テープ1bにおいて補強部9a、9bの占める体積割合を減少できる。このため、本実施の形態における超電導テープ1bは、臨界電流密度を向上できる。
【0074】
このように、超電導テープ1bの引張歪みを低減できるので、図4(A)に示すように、超電導テープ1bの超電導特性を維持して曲げを加えたときの許容曲げ直径R(曲げ中心Aから超電導テープ1bまでの距離の2倍)を小さくすることができる。
【実施例】
【0075】
本実施例では、半田層の融点が200℃以上で、補強部が室温以上半田層の融点以下において、本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有することによる効果について調べた。具体的には、実施例1〜4、および比較例1〜3の各々の超電導テープを製造し、その超電導テープの許容引張歪み、許容引張応力および許容曲げ直径を測定した。
【0076】
(実施例1、2)
実施例1、2は、実施の形態1にしたがって図1に示す超電導テープを製造した。詳細には、まず、Bi2223超電導体3を銀よりなるシース部5で被覆したテープ状の本体部7を準備した。本体部7の厚さは0.22mmであり、幅は4.2mmであった。
【0077】
次に、SUS304よりなる2枚の補強部9a、9bを準備した。補強部9a、9bの厚さは0.02mmであり、幅は4.3mmであった。
【0078】
次に、融点が227℃のSn−0.7%Cuよりなる半田層11の材料を300℃まで加熱することにより溶融した状態で、本体部7と補強部9a、9bとを浸漬し、その後、この材料を硬化することにより、本体部7と補強部9a、9bとを半田層11により接合した。この接合の際に、実施例1では本体部7および補強部9a、9bに張力を加えず、実施例2では補強部9a、9bのみに30Nの張力を加えた。以上の工程により、実施例1、2の超電導テープを製造した。
【0079】
(実施例3、4)
実施例3、4は、実施の形態2にしたがって超電導テープを製造した。詳細には、まず、実施例1、2と同じ超電導テープを準備した。次に、実施例1、2と同じ材料の補強部9aを1枚準備した。
【0080】
次に、実施例1、2と同様に、半田層11を用いて本体部7と補強部9aとを接合した。この接合の際に、実施例3では本体部7および補強部9a、9bに張力を加えず、実施例4では補強部9aのみに30Nの張力を加えた。以上の工程により、実施例3、4の超電導テープを製造した。
【0081】
(比較例1)
比較例1では補強部を形成せず、実施例1、2と同じ本体部を準備し、この本体部を比較例1の超電導テープとした。
【0082】
(比較例2、3)
比較例2、3は、基本的には実施例1、2とそれぞれ同様の製造方法で製造したが、半田層が183℃の融点を有するSn−37%Pbである点において異なっていた。詳細には、実施例1、2と同様の本体部および2枚の補強部を準備した。その後、半田層を190℃まで加熱して溶融し、この半田層の材料に本体部および補強部を浸漬させることにより、本体部と補強部とを接合した。これにより、比較例2、3の超電導テープとした。
【0083】
(測定方法)
実施例1の超電導テープについて、応力を加えない状態で、本体部に生じた圧縮歪みを測定した。また、実施例1〜4および比較例1〜3の超電導テープについて、それぞれ許容引張歪み、許容引張応力および許容曲げ直径を測定した。
【0084】
具体的には、許容引張歪みは、室温にて超電導テープに引張歪みを加えて、初期の超電導テープの臨界電流値の95%を維持できる最大の歪みとした。
【0085】
許容引張応力は、室温にて超電導テープに超電導テープの長手方向に引張応力を加えて、初期の超電導テープの臨界電流値の95%を維持できる最大の応力とした。
【0086】
許容曲げ直径は、室温にて超電導テープに曲げを加えて、初期の超電導テープの臨界電流値の95%を維持できる最小の直径(図4(A)における直径R)とした。これらの結果を下記の表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(測定結果)
実施例1の超電導テープ(本体部)には、0.05%の圧縮歪みが生じていた。このことから、本発明の超電導テープの製造方法によれば、予め本体部に圧縮歪みを形成した超電導テープを製造できることがわかった。
【0089】
また、表1に示すように、実施例1〜4は、補強部を備えなかった比較例1よりも、許容引張応力、許容引張歪みおよび許容曲げ直径のすべてについて向上できた。
【0090】
2枚の補強部を備え、接合した際に補強部に張力を加えなかった実施例1と比較例2とを比較すると、融点が200℃以上の半田層を備えた実施例1の超電導テープは、融点が200℃未満の半田層を備えた比較例2と同様の許容引張応力を維持し、かつ許容引張歪みおよび許容曲げ直径を比較例2よりも向上できた。
【0091】
2枚の補強部を備え、接合した際に補強部に張力を加えた実施例2と比較例3とを比較すると、融点が200℃以上の半田層を備えた実施例2の超電導テープは、融点が200℃未満の半田層を備えた比較例3と同様の許容引張応力を維持し、かつ許容引張歪みおよび許容曲げ直径を向上できた。
【0092】
2枚の補強部を備えた実施例1、2と、1枚の補強部を備えた実施例3、4とをそれぞれ比較すると、超電導テープにおいて補強部の占める体積割合が増加するので、許容引張応力および許容引張歪みを向上できた。
【0093】
補強部を一方の主面のみに形成した実施例3および4は、超電導テープにおいて補強部が占める体積割合が少ないにも関わらず、許容曲げ直径を大きく向上できた。
【0094】
特に、本体部と補強部とを接合する際に張力を加えた実施例2および4は、実施例1および3よりも許容引張応力、許容引張歪みおよび許容曲げ直径をさらに向上することができた。
【0095】
以上より、本実施例によれば、半田層の融点が200℃以上で、補強部が室温以上半田層の融点以下において、本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有することによって、予め本体部に圧縮歪みを加えた状態にできるので、超電導テープの耐引張歪み特性を改善するとともに、許容曲げ直径を小さくすることができることが確認できた。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の超電導テープは、ビスマス系の超電導材料を含む超電導テープに関連する技術として特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の実施の形態1における超電導テープの構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における超電導テープを製造するための装置を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態2における超電導テープの構成を概略的に示す部分断面斜視図である。
【図4】(A)は、本発明の実施の形態2における超電導テープ1bに曲げを加えた状態を示す模式図であり、(B)は、(A)における領域IVBの拡大図である。
【符号の説明】
【0099】
1a,1b 超電導テープ、3 超電導体、5 シース部、7 本体部、7a 上面、7b 下面、9a,9b 補強部、11 半田層、100 装置、101 第1の送り部、102,103,105,107〜109,111,112,114 支持部、104 第1の張力印加部、106 第2の送り部、110 第3の送り部、113 第3の張力印加部、115 フラックス槽、116 接合部、117 集合部、118 洗浄槽、119 巻取り部、120 受け部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導体を有するテープ状の本体部と、
前記本体部の少なくとも一方の主面側に形成された補強部と、
前記本体部と前記補強部とを接合し、かつ200℃以上の融点を有する半田層とを備え、
前記補強部は、室温以上前記半田層の融点以下において、前記本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する、超電導テープ。
【請求項2】
前記補強部は、前記半田層の融点よりも高い軟化温度を有する、請求項1に記載の超電導テープ。
【請求項3】
前記補強部が前記本体部の一方の主面側のみに形成された、請求項1または2に記載の超電導テープ。
【請求項4】
超電導体を有するテープ状の本体部を準備する工程と、
補強部を準備する工程と、
200℃以上の融点を有する半田層を用いて前記本体部と前記補強部とを接合する工程とを備え、
前記本体部と前記補強部とを接合する工程では、前記半田層の融点以上に前記半田層を加熱し、
前記補強部を準備する工程では、室温以上前記半田層の融点以下において、前記本体部の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する前記補強部を準備する、超電導テープの製造方法。
【請求項5】
前記補強部を準備する工程では、前記半田層を加熱する温度よりも高い軟化温度を有する前記補強部を準備する、請求項4に記載の超電導テープの製造方法。
【請求項6】
前記本体部と前記補強部とを接合する工程では、前記本体部の一方の主面側のみに前記補強部を形成する、請求項4または5に記載の超電導テープの製造方法。
【請求項7】
前記本体部と前記補強部とを接合する工程では、前記補強部の降伏応力以下の張力を、前記補強部の延在方向に沿って前記補強部に加える、請求項4〜6のいずれか1つに記載の超電導テープの製造方法。
【請求項8】
前記本体部と前記補強部とを接合する工程は、
前記本体部の延在方向に沿って前記本体部に張力を加える工程と、
前記本体部に加える張力よりも大きな張力を、前記補強部の延在方向に沿って前記補強部に加える工程とを含む、請求項7に記載の超電導テープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−170257(P2009−170257A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6860(P2008−6860)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】