説明

超電導材前躯体膜の製造装置及び超電導材前躯体膜の製造方法

【課題】線状基板上に超電導材前躯体溶液を、高い均一性、安定性で塗布することができる超電導材前躯体膜の製造装置及び超電導材前躯体膜の製造方法を提供する。
【解決手段】線状基板を走行させる基板走行手段と、走行する線状基板の上方に設置され、超電導材前躯体溶液をその吐出部から吐出して前記線状基板上に超電導材前躯体溶液膜を形成するTダイと、前記Tダイへ超電導材前躯体溶液を供給する溶液供給手段と、前記Tダイの下流側に設置され、超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定する膜厚み検出器と、前記膜厚み検出器の測定値を基に、前記Tダイより吐出される超電導材前躯体溶液の量を制御する塗布量制御部とを有していることを特徴とする超電導材前躯体膜の製造装置、及び前記製造装置により行うことができる超電導材前躯体膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材状基板上に超電導材前躯体溶液を塗布する手段を含む超電導材前躯体膜の製造装置、及び、前記基板上に超電導材前躯体溶液を塗布する工程を含む超電導材前躯体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
YBaCu(YBCO)超電導材料を用いたYBCO超電導材は、Bi系超電導材に比べて、液体窒素中における臨界電流密度Jc(以下、単に、「Jc」とも言う)が高く、磁場特性も優れている。又、Ni系の基材を用いて作製される薄膜上線材であるので低コスト化が期待できる。
【0003】
YBCO超電導材の作製方法としては、YBCO超電導材の前躯体の溶液を線状基板、特にテープ状基板上に塗布した後、熱処理(焼成)を行いYBCO超電導材の薄膜を形成するMOD法(Metal Organic Deposition)が広く知られている。MOD法によれば、成膜の高速化が容易であり、又原理的に非真空プロセスで行うことができるので製造設備の低価格化が可能であり、この点からも低コスト化が期待される。
【0004】
MOD法としては、超電導材前躯体溶液としてトリフルオロ酢酸等のフッ素含有有機酸の金属化合物溶液を用いる方法が例えば特許文献1で提案されている。しかし、この方法では熱処理工程中で危険なフッ化水素ガスが発生する問題がある。そこで、超電導材前躯体としてフッ素を含まない金属有機化合物を用いるフッ素フリーMOD法が考えられており、その例が非特許文献1等に記載されている。
【0005】
フッ素を含まない金属有機化合物としては、アセチルアセトン等のβジケトンの金属錯体を好ましく挙げることができる。例えば、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、銅(Cu)を含む金属のアセチルアセトナートのアルコール溶液を、線状基板上に塗布し熱処理(焼成)することにより線状基板上にYBCO超電導材の膜が形成される。
【0006】
上記のように形成される超電導材の膜には、高いJc値を再現良く得るため、その厚みについての高い均一性が求められる。そのため、基板上への超電導材前躯体溶液を塗布する手段としては、Tダイ(フラットダイ)を用いて塗布する方法(ダイコート法)が、制御が容易なことから好ましく採用され、さらにTダイへの超電導材前躯体溶液の供給には、正確な制御が可能なシリンジポンプが好ましく採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−165153号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】熊谷俊弥、他2名著「塗布熱分解法による超伝導膜の作製」、表面技術、社団法人表面技術協会、1991年、Vol.42、No.5、P500〜507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年の技術の高度化の下で、超電導材の膜の厚みに関してもより高い均一性が求められており、MOD法の過程で製造される超電導材前躯体の膜の厚みに関してもより高い均一性が求められるようになった。その結果、前記のシリンジポンプを用いたダイコート法のみでは、近年の要求への対応が困難となりつつある。
【0010】
特に、フッ素フリーMOD法で好適に使用される金属のアセチルアセトナートのアルコール溶液(超電導材前躯体溶液)では、金属のアセチルアセトナートとアルコールとの相溶性が高くないため、粘度等の溶液状態の経時変化が生じやすい。その結果、超電導材前躯体溶液を、線状基板上へダイコート法により塗布し溶液膜を形成する際に膜の厚みにムラが生じやすく、厚みの均一性、安定性が高い超電導材前躯体膜を得ることは困難であった。
【0011】
本発明は、線状基板上に超電導材前躯体溶液を、均一な厚みで塗布することを可能とする超電導材前躯体膜の製造装置及び超電導材前躯体膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、線状基板上への超電導材前躯体溶液の塗布をダイコート法により行うとともに、Tダイの下流側の超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定し、その測定値を基に、前記Tダイより吐出される超電導材前躯体溶液の量を調整するフィードバック制御をすることにより、線状基板上に超電導材前躯体溶液を、均一な厚みで塗布することができることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
線状基板を走行させる基板走行手段と、
走行する線状基板の上方に設置され、超電導材前躯体溶液をその吐出部から吐出して前記線状基板上に超電導材前躯体溶液膜を形成するTダイと、
前記Tダイへ超電導材前躯体溶液を供給する溶液供給手段と、
前記Tダイの下流側に設置され、超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定する膜厚み検出器と、
前記膜厚み検出器の測定値を基に、前記Tダイより吐出される超電導材前躯体溶液の量を制御する塗布量制御部と、
を有していることを特徴とする超電導材前躯体膜の製造装置である。
【0014】
線状基板とは、形状が線状好ましくはテープ状であり、超電導材の膜がその線材表面又はテープ表面に形成される基板である。YBCO超電導材用の基板としては、例えば、100μm程度の厚みの配向性金属テープの上に60〜70nm程度の厚みのCeO膜と200nm程度の厚みのイットリアを分散固溶させたジルコニア(YSZ)膜をこの順に形成したテープ状基板を挙げることができる。
【0015】
線状基板を走行させる基板走行手段としては、公知のダイコート法と同様な手段を用いることができる。又、Tダイも公知のダイコート法に用いられているフラットダイと同様なものを用いることができ、例えば、ダイ内にマニホールドを持ったT型マニホールドダイ、T型マニホールドダイであってマニホールド部にスクリューを挿入したスクリューダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイも用いることができる。Tダイの材質としては、耐薬品性のためにSUS304、316、312等のステンレスが好ましく挙げられる。
【0016】
前記Tダイへ超電導材前躯体溶液を供給する溶液供給手段は、特に限定されないが、正確な制御が可能なシリンジポンプを用いたポンプ系が好ましく用いられる。
【0017】
Tダイは、走行する線状基板の上方に、その吐出部(超電導材前躯体溶液が吐出される吐出口を含む部分)を線状基板側(即ち下側)に向けて設置され、その吐出部から超電導材前躯体溶液を線状基板表面上に落下させて超電導材前躯体溶液の膜を形成する。
【0018】
本発明の超電導材前躯体膜の製造装置は、前記Tダイの下流側に設置され、超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定する膜厚み検出器を有することを特徴とする。膜厚み検出器は、前記Tダイの下流側、即ち線状基板が走行する方向側に設置されるが、可能な限り前記Tダイに近づけて設置することが好ましい。Tダイに近づけて設置する程、膜厚の制御を正確に行うことができる。
【0019】
膜厚み検出器としては、赤外線吸収厚み計、放射線透過厚み計、光干渉型厚み計等を使用することができる。
【0020】
本発明の超電導材前躯体膜の製造装置は、又、前記膜厚み検出器の測定値を基に、前記Tダイより吐出される超電導材前躯体溶液の量を制御する塗布量制御部を有することを特徴とする。塗布量制御部は、前記膜厚み検出器の測定値が入力される入力部、入力された測定値に基づき最適な超電導材前躯体溶液吐出量及び当該最適な吐出量を得るために必要な制御パラメーターを演算する演算部、及び前記演算結果に基づき、後述の方法で、超電導材前躯体溶液吐出量を変化させる吐出量調整手段を有する。通常、前記演算を正確に行うために必要な初期データが予め入力されるので、この初期データを記憶する記憶部も有する場合が多い。
【0021】
本発明の超電導材前躯体膜の製造装置では、超電導材前躯体溶液吐出量が、溶液膜の厚みが均一かつ安定となるように、前記膜厚み検出器の測定値を基にフィードバック制御されるので、超電導材前躯体溶液の膜の厚み、さらには超電導材前躯体膜の厚み、そして超電導材膜の厚みを極めて高い均一性、安定性で制御することが可能となる。
【0022】
上記のようにして線状基板上に形成された超電導材前躯体溶液の膜から溶媒が除去されて超電導材前躯体膜が形成される。通常の場合、前記膜厚み検出器の下流側に溶液膜仮焼き手段が設置され、この溶液膜仮焼き手段により、溶液中の溶剤が除去され超電導材前躯体膜が形成されるが、仮焼きを別の装置で行ってもよい。超電導材前躯体溶液の膜が極めて高い均一性、安定性の厚みで形成されているので、超電導材前躯体膜の厚みも高い均一性、安定性で形成される。
【0023】
YBCO超電導材を作製する場合には、通常、前躯体膜が最高到達温度450℃程度で仮焼きがされ、その後最高到達温度750℃程度の条件で本焼成が行われる。本焼成によりYBCO超電導材が形成される。溶液膜の乾燥(溶剤除去)は、通常、前記仮焼きにより行われる。仮焼き手段としては、公知のYBCO超電導材の製造で行われている仮焼き手段と同様な手段を用いることができる。
【0024】
なお、YBCO超電導材を作製する場合には、通常、前記仮焼きにより超電導材前躯体膜が形成された後、この超電導材前躯体膜上にさらに超電導材前躯体溶液の膜を形成しその後仮焼きを行う工程を数回繰り返し、その後本焼成が行われる。1回の工程で形成される超電導材前躯体膜溶液の膜の厚みは3〜6μm程度の場合が多く、この膜が仮焼きにより乾燥されて0.1〜0.2μm程度の厚みの超電導材前躯体膜となる。前記工程を数回繰り返し、本焼成を行った後のYBCO超電導材の厚みは0.3〜2μm程度の場合が多い。
【0025】
請求項2に記載の発明は、前記吐出部が、前記基板の幅方向に複数並置され、前記吐出部毎に前記塗布量制御部が設置され、かつ、前記吐出部のそれぞれの下流側に前記膜厚み検出器が、前記基板の幅方向に並置されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。
【0026】
この発明では、基板の長さ方向のみならず幅方向の厚みも均一となるように制御がなされる。線状基板としては、幅が3cm程度の幅広のテープ状の基板が用いられる場合もあり、このような幅広の基板の場合、基板の幅方向にも厚みのムラが生じやすい。そこでこの発明では、前記Tダイの吐出部を前記基板の幅方向に複数並置するとともに、それぞれの吐出部毎に塗布量制御部及び膜厚み検出器を設け、幅方向に並置された吐出部毎に超電導材前躯体溶液の吐出量を調整することにより、幅方向の厚みも均一となるように制御する。
【0027】
前記基板の幅方向に複数並置された吐出部は、1つのTダイが有する複数の吐出部であってもよい。即ち、複数の吐出部を有する1つのTダイを、その吐出部が基板の幅方向に並置されるように設置してもよい。又、後述するように、複数の吐出部は、異なった複数のTダイの吐出部であってもよい。前記膜厚み検出器は、対応する吐出部から吐出されたそれぞれの溶液の膜が通る位置に設けられる。膜厚み検出器としては前記と同様なものを用いることができる。
【0028】
請求項3に記載の発明は、前記基板の幅方向に複数のTダイを並置することを特徴とする請求項2に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。Tダイは、1つではなく複数を幅方向に並置して用いることができる。各Tダイは、それぞれ1つの吐出部を有してもよいし、複数の吐出部を基板の幅方向に並置するように設けるものであってもよい。
【0029】
請求項4に記載の発明は、前記塗布量制御部(吐出量調整手段)が、Tダイ内部に配置された、又はTダイの外部に配置されたダイ加熱手段により、前記超電導材前躯体溶液の温度を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。ダイ加熱手段としては、例えば、電熱線等のヒーターやヒートパイプを挙げることができ、Tダイ内部に配置する場合は、これらをTダイ内に埋込み、又Tダイの外部に配置する場合は、例えばTダイの外周にヒーターを接触させて、Tダイを加熱する。このダイ加熱手段により、Tダイの温度制御を行い、超電導材前躯体溶液の温度を変化させることで溶液粘度を調整する。溶液粘度の変化により塗布量(吐出量)も変化するので、溶液粘度の調整により膜厚みを制御することができる(温度調整方式)。Tダイの温度制御は、通常、10〜40℃程度の範囲で行われる。
【0030】
複数のTダイが、基板の幅方向に並置されている場合は、それぞれのTダイにダイ加熱手段を設け、それぞれの加熱を調整することにより、基板の幅方向の膜厚みが均一になるように制御することができる。
【0031】
請求項5に記載の発明は、前記塗布量制御部が、前記Tダイ内部に配置されたヒートボルトにより、前記の吐出部の開口幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。ヒートボルトは温度変化により伸縮するものであり、この伸縮によりTダイの吐出部の(通常0.5mm程度の)開口幅を変化させることができるものである。公知の装置に用いられているヒートボルト、例えば、特開平08−216226等で開示されているものと同様なものを用いることができる。Tダイの吐出部の開口幅を変化させると、超電導材前躯体溶液の塗布量(吐出量)も変化するので、ヒートボルトの温度を変化させることにより膜厚みを制御することができる。
【0032】
複数の吐出部を有するダイ内部に、各吐出部に対応するようにヒートボルトを複数配置し、又は複数のTダイのそれぞれにヒートボルトを配置し、それぞれのヒートボルトの温度を制御することにより、吐出部の開口幅を部分的に変化させることができ、基板の幅方向の膜厚みを均一になるように制御することができる。
【0033】
請求項6に記載の発明は、前記塗布量制御部が、前記吐出部と前記線状基板との隙間幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。前記吐出部と前記線状基板との間には、通用、50〜200μm程度の隙間があるが、この隙間を変化させると、超電導材前躯体溶液の塗布量も変化する。そこで、Tダイの上下方向の位置を変化させ、その結果吐出部と線状基板との隙間幅を変化させることにより、膜厚みを制御することができる。
【0034】
線材の幅方向に並置された複数のTダイの上下方向の位置をそれぞれ制御することにより、それぞれの吐出口と線材間の距離を部分的に変化させることができ、基板の幅方向の膜厚みを均一になるように制御することができる。
【0035】
請求項7に記載の発明は、前記塗布量制御部が、前記溶液供給手段からTダイへの前記超電導材前躯体溶液の供給量を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。前記溶液供給手段からTダイへの超電導材前躯体溶液の供給量を変化させれば塗布量も変化し、膜厚みを制御することができる。
【0036】
線材の幅方向に複数の吐出口が並置されている場合(複数のTダイが並置されている場合も含む)、吐出口毎に、別個のシリンジポンプを設け、各シリンジポンプのそれぞれの溶液供給量を制御することにより、溶液吐出量を部分的に変化させることができ、基板の幅方向の膜厚みを均一になるように制御することができる。
【0037】
請求項8に記載の発明は、前記塗布量制御部が、ダイ内部に配置された圧電素子へ印加する電圧の調整により前記圧電素子を変形させ、前記の吐出部の開口幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。ヒートボルトに替え、ダイ内部に圧電素子を配置し、圧電素子へ印加する電圧を変化させて変形させることによっても、Tダイの吐出部の(通常0.5mm程度の)開口幅を変化させることができる。Tダイの吐出部の開口幅を変化させると、超電導材前躯体溶液の塗布量(吐出量)も変化するので、圧電素子へ印加する電圧を変化させることにより膜厚みを制御することができる。
【0038】
又、複数の吐出部を有するダイ内部に、各吐出部に対応するように圧電素子を複数配置し、又は複数のTダイのそれぞれに圧電素子を配置し、それぞれの圧電素子へ印加する電圧を制御することにより、吐出部の開口幅を部分的に変化させることができ、基板の幅方向の膜厚みを均一になるように制御することができる。
【0039】
請求項9に記載の発明は、前記超電導材前躯体溶液が、イットリウム、バリウム及び銅を含む金属のアセチルアセトナートのアルコール溶液であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置である。
【0040】
前記のように、YBCO超電導材は優れた超電導材であり、その製造方法としてはフッ素フリーMOD法が注目されているが、YBCO超電導材をフッ素フリーMOD法で製造する場合、超電導材前躯体溶液としては、イットリウム、バリウム及び銅を含む金属のアセチルアセトナートのアルコール溶液が好ましく用いられる。この溶液は、粘度等の溶液状態の変化が大きく(1.5〜6.0mPa・s程度の範囲で変わりやすい。)、従来技術のダイコート法では、膜の厚みにムラが生じやすいが、本発明によりこの問題が抑制されるので、本発明の効果が特に発揮される場合である。ここで、アルコールとしては、メタノールやブタノール等の低級アルコール、特にメタノールとブタノールの混合溶液を挙げることができる。
【0041】
本発明は、前記の超電導材前躯体膜の製造装置に加えて、超電導材前躯体膜の製造方法を提供する。即ち、走行する線状基板の上方に設置されたTダイの吐出部より、超電導材前躯体溶液を吐出して、前記線状基板上に超電導材前躯体溶液膜を形成する工程を有する超電導材前躯体膜の製造方法であって、
前記Tダイの下流側の前記超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定し、この厚みの測定結果を基に、前記超電導材前躯体溶液の吐出量を制御することを特徴とする超電導材前躯体膜の製造方法(請求項10)である。
【0042】
この発明は、請求項1に記載の超電導材前躯体膜の製造装置の発明を、この製造装置を使用して実施することができる製造方法の発明として捉えたものである。従って、各構成要素は、請求項1に記載の超電導材前躯体膜の製造装置の構成要素と実質的に同じであり、又この発明の具体的態様としては、請求項2ないし請求項9に記載の超電導材前躯体膜の製造装置と実質的に同じ構成要素からなる製造方法の発明を挙げることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の超電導材前躯体膜の製造装置、超電導材前躯体膜の製造方法によれば、線状基板上、特にテープ状基板上に超電導材前躯体溶液を、均一かつ安定な厚みで塗布することが可能となる。従って、超電導材前躯体溶液を均一かつ安定な厚みで塗布することが困難なYBCO超電導材をフッ素フリーMOD法で製造する場合等に特に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態の全体構成を概念的に示す図である。
【図2】本発明に使用される塗布量制御部(吐出量調整手段)を示す概念図である。
【図3】本発明に使用される塗布量制御部(吐出量調整手段)を示す概念図である。
【図4】本発明に使用される塗布量制御部(吐出量調整手段)を示す概念図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態の要部を示す概念射視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態のTダイ内部を示す概念断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態のTダイ内部を示す概念断面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態の要部を示す概念射視図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明をその実施の形態を具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0046】
(第1の実施の形態)
この実施の形態は、請求項1の超電導材前躯体膜の製造装置であって、基板の長さ方向の塗布厚みを均一かつ安定に制御するものに関する。図1は、この実施の形態の超電導材前躯体膜の製造装置の全体構成を概念的に示す図である。
【0047】
図1において、10は制御装置であり、30は膜厚み検出器であり、30sはその信号線であり、40はTダイであり、50は溶液(超電導材前躯体溶液)供給手段であり、55は溶液の配管であり、60はTダイの塗布量制御機構(塗布量制御部)であり、60pと60mはその制御線であり、70はテープ状の基板であり、71は塗布された超電導材前躯体溶液の膜であり、90は巻出しローラ(基板走行手段)であり、95は巻取りローラ(基板走行手段)であり、20は溶液膜仮焼き手段である。なお、信号線30sと制御線60p、60mは、図1のみならず後の図でも点線で示す。
【0048】
基板70は、巻出しローラ90から巻出され、走行して行く途中でTダイ40から所定量の溶液を塗布されることにより、所定厚み(例えば5μm程度)の超電導材前躯体溶液の膜71が形成され、さらに溶液膜仮焼き手段20に導かれていく。溶液膜仮焼き手段20では基板70及び超電導材前躯体溶液の膜71は約450℃に加熱されて仮焼きされる。この仮焼きにより、溶液膜は乾燥されて溶液中の溶剤が除去され基板70上に超電導材前躯体膜72が形成される。超電導材前躯体膜72が形成された基板70は、巻取りローラ95に巻き取られる。
【0049】
通常、前記の工程は数回繰り返される。即ち、超電導材前躯体膜72が形成された基板70を巻き取った巻取りローラ95を、前記巻出しローラ90として前記と同様な工程を行い、これを数回繰り返す。繰り返しにより超電導材前躯体膜が積層されて所定の膜厚となった後、超電導材前躯体膜が形成された基板70は本焼成される。本焼成は、約750℃で3〜5時間加熱することにより行われ、本焼成により超電導材前躯体膜は、超電導材膜となる。(なお、本焼成の装置は図示されていない。)
【0050】
膜厚み検出器30はTダイ40の下流側に、Tダイ40に近接して設けられ、形成された超電導材前躯体溶液の膜71の膜厚みを測定する。膜厚み検出器30としては、赤外線吸収厚み計、放射線透過厚み計、光干渉型厚み計等が用いられるが、放射線透過厚み計等の場合は、超電導材前躯体溶液の膜71とともに基板70の合計厚みを検出するので、Tダイ40の上流側にも膜厚み検出器を設け、それらの測定値の差から超電導材前躯体溶液の膜71の厚みを算出する。
【0051】
膜厚み検出器30の測定した値は、信号線30sから制御装置10に入力される。制御装置10では、入力された信号と予め入力されている初期データに基づき、制御装置10中に含まれている演算部(図示されていない)により、最適な超電導材前躯体溶液吐出量及び当該最適な吐出量を得るために必要な制御パラメーターが演算され、演算結果を制御信号化して、その制御信号を制御線60p、60mを介してTダイ40内の流量制御機構60に入力し、超電導材前躯体溶液の塗布量の制御を行なう。
【0052】
溶液供給手段50は、シリンジポンプを含むポンプ系であり、Tダイ40へ超電導材前躯体溶液を供給する。第1の実施の形態では、前記のように、制御信号はTダイ40内の流量制御機構60に入力し、超電導材前躯体溶液の塗布量の制御が行なわれているが、制御信号を、溶液供給手段50内の供給量制御機構に入力し、溶液供給手段からTダイへの超電導材前躯体溶液の供給量を変化させて塗布量を制御することも可能である(請求項7に該当する)。
【0053】
(流量制御機構)
図2から図4は、本発明において採用可能な塗布量制御部(吐出量調整手段)を概念的に示す図である。図2は請求項8に対応する圧電素子方式であり、図3は請求項6に対応するTダイの吐出部と線状基板との隙間幅を変化させて塗布量を制御する間隔調節方式であり、図4は請求項4に対応する温度制御方式である。
【0054】
図2において、47は横穴(マニホールド)であり、48は細孔(スリット)である。又、60pと60mは制御線としての電線であり、61は圧電素子である。圧電素子61は、細孔48の上流側(図上左)と下流側(図上右)の側面かつ細孔48の下端部に取付けられている。そして、制御線60p、60mからの制御信号により図上左右方向に伸縮し、その結果Tダイ40の細孔48の下端の開口の上流側と下流側の側面の距離が変化し、Tダイ40から吐出される溶液の量が調節されることとなる。この結果、超電導薄膜前躯体の膜厚みは、均一に形成されることとなる。なお、横穴47は、基板70の幅方向に渡って細孔48から均一に溶液が吐出される様にするため設けてられている。
【0055】
図3において、62はダイ40の取付部であり、69はTダイ40の支持部である。又、Tダイ40と基板70との距離は50〜200μm程度と極めて小さい。このため、Tダイ40から吐出する溶液には基板70から上方への反力が作用する状態となっている。
【0056】
取付部62は、制御線としての電線60pと60mに加えられる制御信号により、Tダイ40を図上の上下方向に移動させる位置調整手段である。Tダイ40を上下方向に移動させることにより、Tダイ40の下端の吐出口と基板70の上側の表面間との距離(間隔)が変化し、前記反力の変化により液形状が変わるため、Tダイ40から吐出される溶液の量が調節される。
【0057】
図4において、60pと60mは制御線としての電熱線(ヒートコイル)である。これにより、Tダイ40へ溶液を供給する配管55の終端で溶液の温度を調節し、これによりTダイ40から吐出される溶液の量が調節されることとなる。なお、この例では図示されていないが、Tダイ40にも電熱線(ヒートコイル)を巻き、ダイそのものを暖めてもよい。
【0058】
(第2の実施の形態)
この実施の形態は、長さ方向のみならず、幅方向の溶液膜の厚みも制御する形態であり、請求項2に対応するものである。図5は、この実施の形態の超電導材前躯体膜の製造装置の要部(走行する線状基板、Tダイ、及び膜厚み検出器の部分)を概念的に示す射視図である。図5において、30a、30b、30cは基板70の幅方向に並置された膜厚み検出器であり、48a、48b、48cはTダイ41内の3個の細孔であり、これらは基板70の幅方向に並んでいる。図中の矢印は基板70の走行方向を示す。
【0059】
図6は、Tダイ41内を概略的に示す概略断面図であり、図5におけるA−A断面を表す。図6に示されるように、各細孔48a、48b、48cは、基板側で広がっており、基板側の出口(各細孔48a、48b、48cのそれぞれの出口が、請求項2における吐出部に相当する。)において結合して一つの吐出口を形成している。その結果、基板の幅方向の溶液膜厚みが均一となるが、さらに、各細孔48a、48b、48cそれぞれにおいて、吐出液量が調整されるので、基板の幅方向に非常に均一な厚みが達成される。
【0060】
図7は、Tダイ41内を概略的に示す概略断面図であり、図5におけるB−B断面を表す。63は各細孔48a、48b、48c内に設置された電熱線(ヒータ)である。なお、Tダイ41は下部(基板70近く)のみを図示しており、マニホールドがある部分は省略してある。電熱線63は、制御線60a、60からの電流により発熱しこの電流制御することにより、発熱量を調節し、これにより当該細孔を流れる溶液の温度を、ひいては粘度を調節する。これにより、各細孔48a、48b、48cから吐出される溶液の量が調整され、基板70上に形成される超電導材前躯体溶液膜71の幅方向の厚みが均一になるように制御される。
【0061】
幅が広い1個のTダイに換えて、基板の幅方向にTダイを3個並べて用いることもできる(請求項2に相当)。図8は、基板の幅方向に3個のTダイを並べて、幅方向の厚みが均一になる様に制御している形態の要部(走行する線状基板、Tダイ、及び膜厚み検出器の部分)を概念的に示す射視図である。図8において、40a、40b、40cは各々幅方向に並んだTダイであり、それぞれ細孔48a、48b、48cを含んでいる。この場合には、図6に示す様な幅方向に並んだ3個の細孔48a、48b、48cがある1個のTダイを用いる場合と異なり、幅方向に並んだ各Tダイ40a、40b、40cは完全に独立している為、相互の影響が無くなり、より適切な膜厚みの制御が可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10 制御装置
20 溶液膜仮焼き手段
30、30a、30b、30c 膜厚み検出器
40、41、40a、40b、40c Tダイ
47 横穴
48、48a、48b、48c 細孔
50 溶液供給手段
55 配管
60 Tダイの流量制御機構
60p、60m 制御線
61 圧電素子
62 取付部
63 電熱線
69 支持部
70 基板
71 超電導材前躯体溶液の膜
72 超電導材前躯体膜
90 巻出しローラ
95 巻取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状基板を走行させる基板走行手段と、
走行する線状基板の上方に設置され、超電導材前躯体溶液をその吐出部から吐出して前記線状基板上に超電導材前躯体溶液膜を形成するTダイと、
前記Tダイへ超電導材前躯体溶液を供給する溶液供給手段と、
前記Tダイの下流側に設置され、超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定する膜厚み検出器と、
前記膜厚み検出器の測定値を基に、前記Tダイより吐出される超電導材前躯体溶液の量を制御する塗布量制御部と、
を有していることを特徴とする超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項2】
前記吐出部を、前記基板の幅方向に複数並置し、前記吐出部毎に前記塗布量制御部が設置され、かつ、前記吐出部のそれぞれの下流側に前記膜厚み検出器が、前記基板の幅方向に並置されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項3】
前記基板の幅方向に複数のTダイを並置することを特徴とする請求項2に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項4】
前記塗布量制御部が、Tダイ内部に配置された又はTダイの外部に配置されたダイ加熱手段により、前記超電導材前躯体溶液の温度を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項5】
前記塗布量制御部が、前記Tダイ内部に配置されたヒートボルトにより、前記の吐出部の開口幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項6】
前記塗布量制御部が、前記吐出部と前記線状基板との隙間幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項7】
前記塗布量制御部が、前記溶液供給手段からTダイへの前記超電導材前躯体溶液の供給量を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項8】
前記塗布量制御部が、ダイ内部に配置された圧電素子へ印加する電圧の調整により前記圧電素子を変形させ、前記の吐出部の開口幅を変化させて塗布量を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項9】
前記超電導材前躯体溶液が、イットリウム、バリウム及び銅を含む金属のアセチルアセトナートのアルコール溶液であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の超電導材前躯体膜の製造装置。
【請求項10】
走行する線状基板の上方に設置されたTダイの吐出部より、超電導材前躯体溶液を吐出して、前記線状基板上に超電導材前躯体溶液膜を形成する工程を有する超電導材前躯体膜の製造方法であって、
前記Tダイの下流側の前記超電導材前躯体溶液膜の厚みを測定し、この厚みの測定結果を基に、前記超電導材前躯体溶液の吐出量を制御することを特徴とする超電導材前躯体膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−192401(P2010−192401A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38158(P2009−38158)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】