説明

超音波を使って動いている解剖学的構造を認識する方法および装置

超音波データを使って少なくとも一つの動いている解剖学的構造を認識する方法が、超音波データを受領する(100)ことによって動作する。超音波データは、少なくとも一つの解剖学的構造の速度を表すドップラー偏移情報を含む。超音波データはまず一連の時間枠に分割される(102)。次いで、ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類が割り当てられる(104)。次いで、各時間枠の分類を使って前記少なくとも一つの解剖学的構造が認識される。これが可能なのは、異なる解剖学的構造がドップラー偏移情報において異なるパターンを生じるからである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の超音波診断に、特に超音波信号におけるドップラー偏移を生成する解剖学的構造の認識に関する。
【背景技術】
【0002】
胎児モニタは、胎児の心拍数を検出して記録する装置である。しかしながら、胎児の心臓徴候が弱いまたは存在しない場合、あるいはトランスデューサの配置が正しくない場合、胎児モニタは意図せずして母親の心拍数(heart rate)を記録してしまうことがある。こうした母親の心拍数パターンは、そのような記録において、胎児の心拍数パターンを模倣することがある。結果として、健康管理提供者が母親と胎児の心拍数パターンを区別しそこなった事例に関わる訴訟が毎年のように起こされている。心拍数トレースを誤って解釈することは、不必要な行動、不必要な手術、危殆化された胎児の取り上げの遅延、またさらには胎児の死亡につながることがある。
【0003】
米国特許出願公開第2007/0066908A1号は、一つまたは複数の胎児心臓成分が、特異値分解に基づいて妊婦から得られる心臓信号情報から分離される方法および装置を記述している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、超音波データを使って動いている解剖学的構造を認識する方法、コンピュータ・プログラム・プロダクト、制御システムおよび胎児モニタを独立請求項で提供する。本発明の実施形態は従属請求項において記述される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、上述の問題に取り組むため、ドップラー偏移速度情報を含む超音波データのスペクトル分解を実行する。被験体の異なる部分は異なるレートで動く。たとえば、心臓が動くとき、心臓壁と心臓弁は異なる速度で動く。さらに、被験体によるある種の型の内部動きは巡回的である、または特定のパターンをもつ。心臓の例を使うと、心室収縮(心臓壁の動き)および心臓弁の動きのある種のパターンがある。これらの動きの知識またはモデルおよびその逐次順は、イメージング・システムを必要とすることなく、超音波トランスデューサを使って何が検査されているかを認識するために使うことができる。心臓の場合、それは、超音波トランスデューサが胎児の心拍数が検出されるよう正しく配置されているという識別を許容する。
【0006】
本発明のいくつかの実施形態は、異なる生理学的信号源を識別するためにパターン認識を使い、結果として母親と胎児の超音波信号の間の区別をする方法を提供する。よって、トレースの誤解釈のリスクが最小化される。さらに、そのアルゴリズムは、異なる型の胎児の動きを分類するために使うことができ、したがって、胎児の状態および安寧を記述する追加的な情報を提供することができる。本方法は、追加的なケーブルやトランスデューサや他のいかなる努力も必要としない。このことは、本方法がケア担当者および被験者によってよく受け入れられるために決定的である。
【0007】
胎児モニタは、生まれていない人間の二つ以上の生理学的パラメータの測定および視覚化のための装置として定義される。これらのモニタは子宮活動および胎児の心拍(heart beat)を測定する複数のセンサー要素からなる。基本的に、電子的モニタリングのために二つの方法が使われる。
【0008】
・外部法または間接法は、母親の腹部におかれた外部トランスデューサを使う。典型的には、超音波ドップラー(US)トランスデューサがこのカテゴリーにおいて使用される。ここで、高周波数音波が胎児の心臓の機械的な動作を反映する。
【0009】
・内部法または直説法は、生まれていない子の先進部から得られる胎児心電図を導出するために渦巻き型の電極を使う。この方法は、先進部にアクセスでき、先進部が識別可能であるときにのみ使用できる。
【0010】
胎児モニタは、妊娠および陣痛期間中の胎児の心拍数の非侵襲的取得および記録のために超音波ドップラー技術を使う。胎児の心筋の機械的な収縮は、超音波反射における周期的な信号パターンにつながる。パターンの周期は、胎児の現在の心拍数を決定するために胎児モニタによって使用される。この技術の主要な問題点は、超音波反射を生成する生理学的信号源への中立性である。超音波ビームのレンジ内の組織または血流のあらゆる周期的な動きが、胎児モニタ内の心拍数を生成しうる。母親の腹部動脈の脈動は、この問題についてのよく知られた原因である。この場合、胎児モニタは時に、胎児ではなく母親の心拍数を記録してしまい、誤解のもとになる。
【0011】
さらに、超音波ドップラー技術を用いて記録されたトレースは、ダブルカウンティング現象を示すことがある。ダブルカウンティングは、心収縮の際の母親の大動脈壁の動きが心拡張期の際の大動脈壁の動きとほぼ同一である場合に起こりうる。すると、センサー信号から導出された包絡波は同一な形をもち、胎児モニタ・ソフトウェアは両者の差を検出できない。心臓の拍動を一と数える代わりに、二つがカウントされ、そのため心拍数が二倍になりうる。これに関し、心拍数の倍加は時に、たとえば大動脈壁の動きによって引き起こされる、弱い信号を測定するときに起こる。しばしば、倍加した母親の心拍数は誇張された変動性をもつように見え、したがって、胎児の心拍数として解釈されうる。
【0012】
ケア担当者が胎児の心拍数を認識するのを助けるため、現代の胎児モニタは、ECGまたはパルスオキシメトリー〔脈波型酸素飽和度測定〕を介して母親の心拍数を同期して測定することを提供する。母親の心拍数が超音波センサーを介して測定された心拍数に一致したら、モニタはケア担当者に警告を発する。しかしながら、これらの方法は、胎児と母親の心拍数の間の区別はできない。これらの方法は、それら二つの記録された心拍数が同一である場合にケア担当者に、超音波信号の源が実は母親の解剖学的構造である可能性が高いといって警告することができるだけである。これらの方法は、母親の心拍数を導出するために追加的なセンサーまたは少なくとも追加的な電極を必要とする。電極およびセンサーは追加的なケーブルを加え、よって被験者とケア担当者の不便を増す。結果として、追加的なセンサーまたは電極を加えるいかなる方法もよく受け入れられない。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態は、各源についての特徴的な信号パターンをモデル化することによって、生理学的信号源を区別する。したがって、超音波信号シーケンスは既知の源のモデルと比較され、最良当てはめ〔ベスト・フィッティング〕モデルによって分類される。超音波信号の源がわかっているとき、胎児モニタはこの情報を画面上に表示することができ、あるいは単に信号源が胎児の心臓以外の何者かである場合にケア担当者に通知することができる。さらに、動きパターンのモデル化は、胎児の心臓の病理条件を検出する、あるいは胎児の心臓サイクルにおけるいくつかの機械的イベントの継続時間を測定するために使用されることができる。この情報は、受け持ちのケア担当者によるさらに詳細な診断のためのさらなる可能性を提供する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態は、パターン認識アルゴリズムを、胎児モニタの超音波信号処理に統合することによって構築されることができる。このアルゴリズムは、胎児と母親の超音波信号の間の区別をすることができる。このパターン認識アルゴリズムにより、胎児モニタは、超音波信号の生理学的な源を決定できる。この決定が可能なのは、胎児の心臓およびへその緒の脈動、胎児の動きまたは脈動する母親の血管がみな、たとえば隠れマルコフ・モデル(HMM: Hidden Markov Model)によってモデル化できる一意的な超音波パターン「フィンガープリント」をもつからである。HMMは、多数の特性によって超音波信号を分類できる多パラメータ・モデルである。該特性は、心拍(たとえば心臓弁の動きおよび心筋の動き)の際のサブパターンの整列、それらの個々の継続時間、発生および頻度、ならびに信号のエネルギーまたはそのスペクトル組成といったものである。これらすべての特性の組み合わせは、各生理学的源について一意的である。
【0015】
本発明の諸実施形態は、超音波データをより短い時間枠に分割することによって機能する。各時間枠は分類され、次いで分類中の諸パターンが、超音波信号中のドップラー偏移情報を生成している解剖学的構造を識別するために使用される。分類のパターンを見ることは決定的である。それは、短い時間スケールでは、超音波データにおけるノイズおよびアーチファクトのためドップラー偏移の源が何であるかに関して不明確になってしまうことがあるからである。より長い時間期間にわたってパターンが調べられれば、どの解剖学的構造がドップラー偏移を生成しているかについてのより正確な結論が明らかになる。
【0016】
ドップラー偏移スペクトルにおいて見ることのできる単一イベントは、生理学的信号の一部であることができるが、アーチファクトによって引き起こされることもできる。孤立して見ればたとえば心臓弁反射と同様に見える孤立したイベントは、身体またはトランスデューサの動きであることもありうる。時間枠全体が調査されるときにのみ、解剖学的源について信頼できることが言えるということは非常に重要である。胎児心臓識別の場合、これは一つまたは二つの心拍である。単独イベントのシーケンス全体を見ることによって、信号源について何かを言うことが可能になる。ある時間枠内に単独イベントのシーケンス全体があるとき、そのパターン全体がたとえば胎児の心臓サイクルによって生成されるものであるかどうかを言うことができる。HMMは、この型のパターン認識に非常に強い。
【0017】
さらに、本発明の諸実施形態は、さらなる診断情報を提供しうる。
【0018】
単独アクション(たとえば心臓弁の動きおよび心筋の動き)の間の時間およびある種のアクション(たとえば心収縮および心拡張)の継続時間は、測定されることができ、病理学的条件を示すことがありうる。この解剖学的情報は、信頼できる診断およびよりよい治療のためにさらなる可能性を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、胎児モニタリング・デバイスの既存のプロセッサ中に追加的な信号処理アルゴリズムを統合することによって、既存の胎児モニタ中に組み込まれてもよい。それにより、標準的な胎児モニタ(1トコ・センサー、1超音波センサー)のための組み立ては変化する必要がない。これは、臨床環境中への単純な統合を保証する。そのため、ケア担当者および助産師はいかなる追加的なトレーニングも必要ない。
【0020】
本発明の諸実施形態は、以下の利点をもちうる。
・超音波パターン認識アルゴリズムは、異なる超音波パターンの間を区別することができ、従って胎児源と母親源の間の区別をすることができ、そのため胎児ではなく母親の心拍数の意図しない測定が排除されることができ、ケア担当者は確実に胎児の心拍数を記録することができる。
・本方法は、既存の臨床信号を用いて自動的にトレーニングされることができる。長ったらしい手動の調整は必要とされない。追加的なパターンが加えられてもよい。
・ケア担当者は、確実に、たとえば脈動するへその緒ではなく、胎児の心臓を測定することができる。
・胎児モニタによって生成される単純な視覚的または音響的信号がケア担当者に警告を与えることができる。
・諸実施形態は、音響信号において単発のイベントを識別しうる。したがって、追加的な情報(たとえば特定の心臓アクションの継続時間および生起)が信号から導出されることができ、よってより詳細な診断およびよりよい治療および病理的信号パターンの識別が許容される。
・種々の型の胎児動きを識別しうる。
・諸実施形態は追加的な信号品質インジケータを提供しうる。
・本方法の諸実施形態は、簡単に既存のプロセッサに統合でき、よってインストールされたベースをアップグレードすることが簡単にできる。
・追加的な努力および追加的なセンサーやケーブルは必要とされない。結果として、被験者の快適が減じることはない。
・ケア担当者の追加的なトレーニングは必要ない。したがって、クリニックにおける受け入れは高いであろう。
・所有のコスト(cost of ownership)は変化しない。
・胎児モニタリングの信頼性が著しく高まり、分娩中胎児死亡のリスクが低下する。
【0021】
胎児モニタリングのための検出アルゴリズムの堅牢性を高めることおよび胎児心拍数の誤解釈を回避することが、モニタリング装置の成功のためには決定的である。本発明の利点は、ケア担当者がどの生理学的構造が現在の音響信号の源であるかについて通知されることができるということである。これは、ケア担当者が超音波センサーで確実に胎児心臓をモニタリングできるようにする。母親の構造の意図しない測定は胎児モニタによって検出され、結果として合図される。さらに、新たなアルゴリズムは現在の信号源のより多くの情報を与える。病理パターンを示すことができ、より詳細な診断のためのより多くの情報を提供することができる。この新しい機能を使うために、追加的なトレーニングも追加的な設備も必要とされない。これは、分娩室における助産師および他のケア担当者による受け入れが高くなることを保証する。
【0022】
陣痛収縮センサー(labor contraction sensor)は本稿では、陣痛中の収縮を測定するために使われるセンサーとして定義される。陣痛収縮センサーの一例は、トコ・センサー(toco sensor)として知られる。陣痛収縮センサーの例は、陣痛時の収縮を歪みゲージ、マイクロホン、圧電物質、可動コイルを使って、あるいは陣痛時の収縮の際に身体によって生成される電気信号を測定することによって、測定するセンサーである。
【0023】
胎児モニタは、胎児の健康を示す少なくとも一つのパラメータをモニタリングできるモニタである。胎児モニタは典型的には胎児の心拍数をモニタリングできる。心電図記録法(ECG: Electrocardiography)、経皮的酸素飽和度(SpO2: Saturation of Peripheral Oxygen)および/または非侵襲性血圧(NIBP: Non-Invasive Blood Pressure)センサーも、母親の生命徴候〔バイタルサイン〕をモニタリングするために、多くの胎児モニタとともに使用できる。
【0024】
超音波データは本稿では、超音波トランスデューサを使って超音波システムによって得られるデータとして定義される。超音波システムは、トランスデューサを使って超音波のパルスを組織領域中に送り、反射される超音波を測定する。被験体の内部構造が調査できる。超音波信号におけるドップラー変化が、被験体内の血液または内部構造の速度を決定するために使用できる。
【0025】
ドップラー偏移情報は、本稿では、超音波データから導出される速度情報として定義される。
【0026】
胎児の心臓弁の動きデータは、本稿では、胎児の心臓弁の動きを示す超音波データとして定義される。胎児の心臓壁の動きデータは、本稿では、胎児の心臓壁の動きを示す超音波データとして定義される。
【0027】
トレーニングされるソフトウェア・モジュールとは、本稿では、一組のトレーニング・データを使ってトレーニングされることのできるパターン認識モジュールとして定義される。パターン認識モジュールは本稿では、データ中のパターンを認識するよう適応されたソフトウェア・モジュールとして定義される。パターン認識モジュールは、多様な異なる方法を使うことによって実装できる。使用できる異なる方法またはアルゴリズムの例は:主成分解析、ニューラル・ネットワーク、CN2アルゴリズム、C4.5アルゴリズム、逐次反復式二分法器3(ID3: Iterative Dichotomiser 3)、最近接近傍探索(nearest neighbor search)アルゴリズム、素朴なベイズ分類器アルゴリズム、ホログラフィック連想記憶(Holographic Associative Memory)または知覚学習アルゴリズムである。パターン認識アルゴリズムは、本稿では、分類アルゴリズムとも称される。パターン認識モジュールは、特徴ベクトルを入力として使うことによって機能しうる。トレーニング・データは、例示的な特徴ベクトルを使って生成されてもよいし、あるいはシミュレートされたデータまたはモデルを使って構築されてもよい。
【0028】
本発明は、超音波データを使って少なくとも一つの解剖学的構造を認識する方法を提供する。本方法は、超音波データを受信する段階を含む。超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を記述するドップラー偏移情報を含む。本方法は、超音波データを一連の時間枠に分割する段階を含む。本方法は、各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階を含む。本方法は、各時間枠の分類を使って前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階を含む。本方法は、データがノイズおよびアーチファクトを含んでいても、どの解剖学的構造(単数または複数)が超音波データ中のドップラー偏移を生じる原因となっているかを認識できるという利点をもつ。これは、前記分類のパターンを認識することによって達成される。
【0029】
時間枠は、約10ミリ秒のオーダーに分割されると有用である。より長い時間やより短い時間が使用されてもよい。1ミリ秒から15ミリ秒の範囲の時間も有用である。逐次的な枠のそれぞれについて胎児の心臓の動きを分類することが有益である。ある心拍の間に、規則的なイベントのシーケンスがあるからである。たとえば、さまざまな心臓弁および心室が規則的な間隔で開いたり閉じたり、あるいは収縮したり拡張したりする。これは、胎児の心臓の動きを分類するために使用できるモデルが開発できるということを意味する。
【0030】
もう一つの実施形態では、解剖学的構造は起源が胎児または母親であると認識される。これは、母親の心拍数が誤って胎児の心拍数であると識別されることを防止するので、有利である。
【0031】
もう一つの実施形態では、各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階は、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓弁の動きのデータを識別する段階を含む。各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階はさらに、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きのデータを識別する段階を含む。次いで、各時間枠の分類を使って、胎児の心臓が前記少なくとも一つの解剖学的構造の一つであるとして認識される。この実施形態が有利なのは、胎児の心臓が認識可能な周期的なパターンを生成するからである。本方法は、母親の心拍を胎児のものであるとする誤った識別を防止する。胎児の心臓は、速い心臓弁の動きおよびより遅い心臓壁の動きのパターンをもち、これは超音波データにおいて明確に識別できる。
【0032】
もう一つの実施形態では、本発明は、胎児の心拍数を決定する方法を提供する。本方法はさらに、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓弁の動きを識別する段階を含む。本方法はさらに、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きデータを識別する段階を含む。本方法はさらに、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きデータを識別する段階を含む。本方法はさらに、心臓弁の動きデータおよび心臓壁の動きデータを使って胎児の心拍数を決定する段階を含む。この実施形態が有利なのは、胎児の心臓弁は胎児の心臓壁より速く動くからである。胎児の心臓弁の動きおよび胎児の心臓壁の動きを識別することによって、超音波システムが実際に胎児から発する超音波データを受信していることを示す検出可能なパターンを認識することができる。この方法には、胎児の心拍数が測定されているか否かを判定するために単一のセンサーを使うことができるという大きな利点がある。母親の心拍数を独立してモニタリングするための外部センサーは必要とされない。
【0033】
もう一つの実施形態では、胎児の心拍数は、超音波データのフーリエ変換における胎児の心臓弁の動きおよび心臓壁の動きのパターンを、胎児心臓モデルと比較することによって決定される。先述したように、心臓弁の動きは心臓壁の動きより速い。これは、二つの型のデータがフーリエ変換において分離されることを許容する。
【0034】
もう一つの実施形態では、各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階が、ドップラー偏移情報を使って胎児の体の動きを識別する段階を含む。解剖学的構造は、各時間枠の分類を使って胎児の体であると識別される。胎児の体の動きは、本稿では、胎児の体の随意的な動きまたは複数の器官および筋肉に関わる胎児の体の動きとして定義される。例としては、四肢を動かすこと、頭を動かすこと、親指を吸うこと、またはしゃっくりがあろう。胎児の体の動きが識別できるのは、胎児の動きは心拍数より長いからである。胎児の動きは典型的には、0.5秒から数秒のオーダーである。さらに、胎児の体の動きは迅速ではない。胎児の体の動きのドップラー偏移は典型的には10Hz未満であろう。胎児が動くときは、大きな領域が動いている。よって、ドップラー偏移の振幅は心拍や母親の血管の動きの場合より大きい。
【0035】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、各時間枠について特徴ベクトルを構築する段階を含む。分類は、各特徴ベクトルについての分類を認識するパターン認識モジュールを使って割り当てられる。特徴ベクトルは、パターン認識モジュールによって入力として使われるデータの集合である。この用途のため、超音波データが処理される。たとえば、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換、ウィグナー分布またはパワー密度が抽出される。これらの量は、ドップラー偏移を生成している速度または周波数の関数として計算できる。この実施形態が有利なのは、特徴ベクトルを入力として使って各時間枠において何が起こっているかを識別するためにパターン認識モジュールを使うことができるからである。パターン認識モジュールは、トレーニング・データを使ってトレーニングされるトレーニングされたソフトウェア・モジュールであることができる。これは、トレーニングのためにシミュレートされた特徴ベクトルを生成するために使われるシミュレートされた超音波データであることができるし、あるいは超音波システムを使って取得された実際のデータが入力として使用されることもできる。ひとたび各時間枠について分類が決定されたら、これらの分類を使って、ドップラー偏移を引き起こす解剖学的構造が決定できる。胎児の心臓を認識する例については、胎児の心臓のある特定の状態が決定されるとき、他のイベントがその後起こる可能性が高いので、これはうまく機能する。この意味するところは、心臓弁が閉じ、心臓の室が拍動する規則的なシーケンスがあるということである。パターン認識モジュールは、これらのパターンを認識するようトレーニングされることができる。分類を割り当て、該分類を使って解剖学的構造を認識するために使われるパターン認識モジュールは、単一のソフトウェア・モジュールであってもよいし、あるいは複数のソフトウェア・モジュールから構成されていてもよい。換言すれば、分類を割り当て、解剖学的構造を認識するために異なるパターン認識方法を使用してもよい。
【0036】
もう一つの実施形態では、パターン認識モジュールはさらに特徴ベクトルを使って胎児の体の動きの種々の型を認識するよう適応される。胎児の体の動きの種々の型が分類できる。たとえば、胎児の動き、しゃっくりおよびくしゃみが判別されることができる。胎児の体の動きは、心臓弁の動きおよび心臓壁の動きに比べて非常に遅い。結果として、フーリエ変換において、低周波数の動きがより低い周波数のところに現れる。パターン認識モジュールは、これらの胎児の体の動きを識別するために使うこともできる。これが有益なのは、医師が胎児の心拍数を知ることを許容するのみならず、胎児がどのような種類の動き(単数または複数)を行っているかを知ることをも許容するからである。これは、胎児の健康状態や胎児が生きているか否かを確立するために非常に有用である。
【0037】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、陣痛収縮センサーからの測定を受け取る段階を含む。その場合、特徴ベクトルは陣痛収縮センサーからの測定値を含む。陣痛収縮センサーを使った母親の収縮の測定が、胎児の心拍数のモデルに組み込まれることができるので、これはきわめて有益な実施形態である。収縮の間、胎児の心拍数は変化する。陣痛収縮センサーからのデータを特徴ベクトルに含ませ、パターン認識モジュールによって使用されるモデルに含ませることは、胎児の心拍数が測定されているかどうかを迅速に識別すること、また胎児の心拍数を決定することの精度を高める。収縮の際の胎児の心拍数も医師にとっては関心事である。この情報を相関させておくことは、医師が、胎児の分娩についてよりよい診断上の決定をできるようにする。
【0038】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、マイクロホンからの心音図検査法測定を受領する段階を含む。本方法はさらに、マイクロホンからの心音図検査法測定を使って特徴ベクトルを構築する段階を含む。心音図検査法測定は、マイクロホンを使った胎児の心臓の測定である。これは、特徴ベクトルに含められることができ、超音波トランスデューサが胎児の心臓の上に適正に置かれているかどうかを適正に識別することにおいてパターン認識モジュールを支援する補足的な情報を提供する。
【0039】
心音図検査法測定を行うために使われるシステムは、ノイズ打ち消しサブシステムを有していてもよい。
【0040】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに:心電図検査法システムからの測定を受け取り、心電図検査法システムからの測定を使って特徴ベクトルを構築することを含む。
【0041】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに:パルスオキシメトリー・システムからの測定を受け取り、パルスオキシメトリー・システムからの測定を使って特徴ベクトルを構築することを含む。
【0042】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに:経皮的酸素飽和度システムからの測定を受け取り、経皮的酸素飽和度システムからの測定を使って特徴ベクトルを構築することを含む。
【0043】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに:非侵襲的血圧システムからの測定を受け取り、非侵襲的血圧システムからの測定を使って特徴ベクトルを構築することを含む。
【0044】
もう一つの実施形態では、パターン認識モジュールは隠れマルコフ・モデルの実装である。隠れマルコフ・モデルはシーケンシャルなデータの個々のデータ片を見るので、非常に有利な実施形態である。隠れマルコフ・モデルは、他のイベントが次に起こる確率を使う。この方法は、胎児の心拍数を同定できる非常に正確で堅牢なモデルが構築されることを許容する。
【0045】
もう一つの実施形態では、本方法はさらに、超音波データを前処理する段階を含む。超音波データを前処理する段階は、少なくとも次のうちの一つを含む:超音波データのフィルタ処理、超音波データの増幅および超音波データの規格化。これが有用なのは、フィルタ処理プロセスは超音波データから望まれないノイズを除去することができ、超音波データの増幅は弱い信号を大きくでき、超音波データの規格化はダイナミックレンジを小さくしてパターン認識モジュールを使ったより簡単な解析を許容するからである。
【0046】
もう一つの側面では、本発明の諸実施形態は、制御システムによる実行のための機械実行可能命令を有するコンピュータ・プログラム・プロダクトを提供する。機械実行可能な命令は、胎児の心拍数を決定する方法の実施形態を含む。
【0047】
もう一つの側面では、本発明の諸実施形態は、制御システムによる実行のための機械実行可能命令を有するコンピュータ・プログラム・プロダクトを提供する。機械実行可能な命令は、超音波データを受け取る段階を含む。超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を記述するドップラー偏移情報を含む。命令はさらに、超音波データを一連の時間枠に分割する段階を含む。命令はさらに、ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階を含む。命令はさらに、各時間枠の分類を使って、前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階を含む。このことの利点はすでに論じた。
【0048】
もう一つの側面では、本発明は、マイクロプロセッサを有する制御システムを提供する。マイクロプロセッサは、超音波データを受け取る段階を実行するよう適応されている。超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を記述するドップラー偏移情報を含む。命令はさらに、超音波データを一連の時間枠に分割する段階を含む。命令はさらに、ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階を含む。命令はさらに、各時間枠の分類を使って、前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階を含む。このことの利点はすでに論じた。
【0049】
もう一つの実施形態では、ドップラー偏移情報を使って各逐次の時間枠に分類を割り当てる段階は、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓弁の動きデータを同定する段階を含む。ドップラー偏移情報を使って各逐次の時間枠に分類を割り当てる段階は、ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きデータを同定する段階を含む。次いで、各時間枠の分類を使って、胎児の心臓が解剖学的構造として認識される。
【0050】
もう一つの実施形態では、胎児の心臓弁の動きデータは、超音波データに対して高域通過フィルタを使って識別され、胎児の心臓壁の動きデータは低域通過フィルタを使って識別される。これが有利なのは、先述したように、心臓弁の動きは心臓壁の動きより速いからである。フーリエ変換および他の単独処理技法では、心臓壁の動きは、動きの速い心臓弁の動きデータより低周波数として現れる。高域通過フィルタおよび低域通過フィルタは、デジタル的に実装されることができる。他の実施形態では、アナログの高域通過フィルタおよび低域通過フィルタも使用できる。
【0051】
もう一つの実施形態では、高域通過フィルタは200Hzと400Hzの間のカットオフ周波数を使う。好ましくは、高域通過フィルタは、250Hzと350Hzの間のカットオフ周波数を使う。最適なカットオフ周波数は約300Hzである。
【0052】
もう一つの実施形態では、低域通過フィルタは200Hzと400Hzの間のカットオフ周波数を使う。好ましくは、低域通過フィルタは、250Hzと350Hzの間のカットオフ周波数を使う。ここでもまた、低域通過フィルタについての最適なカットオフ周波数は約300Hzである。
【0053】
もう一つの実施形態では、ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階は、ドップラー偏移情報を使って胎児の体の動きデータを識別する段階を含む。すると、解剖学的構造は、各時間枠の分類を使って胎児の体であると識別される。
【0054】
もう一つの実施形態では、胎児の体の動きは、1Hzと15Hzの間のカットオフ周波数をもつ低域通過フィルタを使って識別される。カットオフ周波数は最適には8Hzと12Hzの間である。
【0055】
もう一つの実施形態では、本発明は胎児モニタを提供する。胎児モニタは、超音波トランスデューサを使ってドップラー偏移した超音波信号を測定するよう適応されている。超音波システムは、ドップラー偏移した超音波信号を使って超音波データを生成するよう適応される。胎児モニタはさらに、本発明の実施形態に基づく制御システムを有する。
【0056】
もう一つの実施形態では、胎児モニタはさらに、陣痛収縮センサーを有する。制御システムはさらに、各時間枠および陣痛収縮センサーからの測定についての特徴ベクトルを構築する段階を実行するよう適応されている。制御システムはさらに、各特徴ベクトルについて分類を認識するパターン認識モジュールを使って各時間枠における胎児の心臓の動きを分類する段階を実行するよう適応されている。分類は、各特徴ベクトルについて分類を認識するパターン認識モジュールを使って割り当てられる。解剖学的構造はパターン認識モジュールを使って決定される。先述したように、パターン認識モジュールは、パターン認識ソフトウェア・モジュールを含む複数のサブモジュールからなることができる。この実施形態の利点はすでに論じた。この実施形態における胎児の心拍数は、胎児の心臓の動きの分類を使って決定される。
【0057】
もう一つの実施形態では、胎児モニタは、前記少なくとも一つの解剖学的構造をインジケータ上に示すよう適応されている。インジケータは、胎児モニタ上のディスプレイであってもよいし、あるいはチャート・レコーダー上に書かれてもよい。この実施形態が有益なのは、胎児モニタでどの解剖学的構造が調べられているかを知ることが有利だからである。この特徴は、胎児モニタが胎児を調べていないというエラーを防止する助けとなりうる。
【0058】
もう一つの実施形態では、胎児モニタは、前記少なくとも一つの解剖学的構造が心臓を含まない場合にアラームをもって操作者に警告するよう適応されている。アラームは視覚的なインジケータや可聴アラームであってもよく、あるいはチャート・レコーダー上のマークであってもよい。この実施形態が有益なのは、操作者が超音波トランスデューサの位置を直すべきであることを知るからである。
【0059】
もう一つの実施形態では、胎児モニタは、胎児の心拍数が胎児からである信頼度の指標をインジケータ上に表示するよう適応される。インジケータの例は、胎児モニタ上のディスプレイ、可聴トーンまたはチャート・レコーダー上のマークである。この実施形態が有益なのは、操作者またはケア担当者に、トランスデューサが正しく位置されている可能性がどのくらいかの指標を与えるからである。この実施形態は、パターン認識モジュールが使用されるときは簡単に実装できる。HMMのような多くのパターン認識モジュールは、パターンが正しく認識されている可能性をも生成する。この確率が、信頼度の指標を生成するために使われることができる。胎児の心拍数は、胎児モニタ上の数値インジケータ上に表示されてもよいし、可聴的に示されてもよいし、チャート・レコーダー上に記録されてもよいし、電子記録システムに送られてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
以下では本発明の好ましい実施形態について、単に例として、図面を参照しつつ述べる。
【図1】ドップラー偏移した超音波データを使って解剖学的構造を決定する方法のある実施形態を示す図である。
【図2】本発明のある実施形態に基づく胎児モニタの実施形態を示す図である。
【図3】本発明に基づく方法のさらなる実施形態を示す図である。
【図4】本発明のある実施形態に基づく分類アルゴリズムの例を示す図である。
【図5】高域通過フィルタおよび低域通過フィルタによって処理された幼児の超音波データおよび隠れマルコフ・モデルによる種々の時間枠の分類を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
これらの図面における同様の番号が付けられた要素は、同一の要素であるか、同じ機能を実行する。先に論じた要素は、機能が同一であれば、必ずしも後の図面では論じない。
【0062】
図1は、超音波データにおいてドップラー偏移情報を生成する解剖学的構造を認識する方法を示している。ステップ100では、超音波データが受領される。ステップ102では、超音波が一連の時間枠に分割される。次に、ステップ104では、各時間枠が分類を割り当てられる。ステップ106では、少なくとも一つの解剖学的構造が各時間枠の分類を使って認識される。異なる解剖学的構造の動きは、超音波データにおいて異なる型のドップラー偏移を生じる。たとえば、胎児の心臓の動きはいくつかの異なる成分を含む。動きの速い心臓弁と動きのより遅い心臓壁がある。心臓壁および心臓弁はリズミカルに動き、これが認識され、超音波センサーが胎児の心臓の上に位置されていることを確証するために使われることができる。
【0063】
ひとたび超音波センサーが胎児の心臓の上に位置されていることがわかれば、胎児の心臓弁の動きおよび胎児の心臓壁の動きを使って、胎児の心拍数を直接決定することができる。あるいは胎児の心臓弁の動きおよび胎児の心臓壁の動きを使って、センサーが実際に胎児の心拍数を測定していることを確証することができる。ひとたび胎児の心臓の測定が確証されれば、胎児の心拍数を決定するためには通常の方法を使うことができる。
【0064】
図2は、本発明のある実施形態に基づく胎児モニタ302の実施形態を示している。妊娠している被験者300が示されている。妊娠被験者300は、腹部領域上に、陣痛収縮センサー310および超音波トランスデューサ308を有する。陣痛収縮センサーは陣痛収縮センサー・システム304に取り付けられている。陣痛収縮センサー・システム304は、陣痛収縮センサー310を運用するために必要な電子回路である。陣痛収縮センサー・システム304はマイクロプロセッサ312とのインターフェースをもつ。超音波トランスデューサ308は超音波システム306に取り付けられている。超音波システム306は、超音波トランスデューサ308を駆動し、動作させるために必要な電子回路を有する。超音波システム306はマイクロプロセッサ312に接続されている。マイクロプロセッサ312は、コンピュータ・プログラム・プロダクト314を実行することによって機能する。コンピュータ・プログラム・プロダクト314は、胎児モニタの決定方法を動作させ、実行する。コンピュータ・プログラム・プロダクト314はいくつかの異なるソフトウェア・モジュールを有する。モジュール316は胎児の心臓弁の動きの識別モジュールである。モジュール318は胎児の心臓壁の動きの識別モジュールである。モジュール320は心拍数決定モジュールである。322はデジタル高域通過フィルタ・モジュールの実装である。モジュール324はデジタル低域通過フィルタ・モジュールの実装である。326はパターン認識モジュールである。パターン認識モジュール326は、トレーニングされたソフトウェア・モジュールであってもよく、比較対象として使われるトレーニング・データのライブラリをも含んでいてもよいし、あるいは動作するときに参照して突き合わせる例のデータベースを含んでいてもよい。モジュール328は特徴ベクトル生成モジュールである。モジュール330は、超音波データを一連の時間枠に分割するソフトウェア・モジュールである。マイクロプロセッサ312は超音波システム306から超音波データを受領する。
【0065】
図3は、本発明のある実施形態に基づく方法のブロック図を示す。ステップ400では、超音波信号が受領される。ステップ402では、超音波信号が前処理される。次に、ステップ404では、時間枠が抽出される。超音波信号または超音波データは小さなデータ片に寸断され、一つまたは複数の時間枠が抽出される。ステップ406では、特徴抽出が実行される。このステップでは、抽出された各時間枠について特徴ベクトルが生成される。ステップ408では、各特徴ベクトルが分類アルゴリズムに送られる。分類アルゴリズムはパターン認識モジュールであってもよい。分類またはパターン認識モジュールは、多様な異なる状態のうちの一つのについて、各特徴ベクトルを同定する。たとえば、時間枠は心臓弁が動いていることを同定してもよいし、心臓壁が動いていることを同定してもよいし、あるいは心臓弁も心臓壁も動いていないことを同定してもよい。ステップ410において、分類アルゴリズムは、最も確からしい信号クラスを出力する。
【0066】
新しいパターン認識モジュールについての入力信号は標準的な超音波信号である(図3参照)。まず、データは前処理される:フィルタ処理され、増幅され、規格化されて、さらなる処理のための必要性を満たすようにされる。次いで、心拍一回よりずっと短い時間枠がデータから抽出される。すべての時間枠について、ある基準(たとえばFFTの結果、ウェーブレット変換、ウィグナー分布またはパワー密度)が抽出される。これらの基準は一緒になって、現在の時間枠の有意な属性を含む特徴ベクトルを構築する。すべての特徴ベクトルは、特徴ベクトルをそれらのシーケンスおよび生起の観点であらかじめ定義された胎児または母親の信号源のHMMと比較する信号分類器(詳細は図4参照)に送られる。信号分類の出力は、現在の超音波パターンの、あらかじめ定義された超音波パターン・モデルの一つとの相関についての確率である。現在の超音波パターンについての最高の確率を生じるHMMが現在の生理学的信号源を記述する。さらに、それらの確率は、現在信号品質の指標である。すべての確率が低ければ、信号は弱く、ケア担当者にセンサーを配置し直すよう警告が伝達されることができる。
【0067】
図4は、分類アルゴリズム408の動作を示す図である。分類アルゴリズム408は特徴ベクトル500(単数または複数)を入力として受け取る。すると分類アルゴリズム408は、最も確からしい信号クラス502を出力する。この例では、信号クラスは、胎児の動き、母親の心拍数、胎児の心拍数または他の超音波パターンである確率に関して識別されることができる。特徴ベクトルを多様な超音波モデルと比較するモジュール512がある。この例で比較アルゴリズム512が比較対象とすることのできるモデルは胎児動きモデル504、母親心拍数モデル506、胎児心拍数モデル508および別の超音波パターン・モジュール510である。プロット512におけるアルゴリズムは、隠れマルコフ・アルゴリズムを使って実装できる。
【0068】
図5は、超音波データにおける種々の周波数範囲のパワーのプロット600および胎児の心臓の種々の動きを分類する隠れマルコフ・モデルの例602を示している。図600では、時間は軸604であり、周波数範囲内のエネルギーは軸606上に与えられている。軸606上のエネルギー範囲は任意単位である。曲線608は、高域通過フィルタによって決定される高域のエネルギーを示す。610は低域通過フィルタによって決定される低域のエネルギーを決定する。曲線612は曲線608の曲線610に対する比である。プロット602では、プロット内のマーカー624は、隠れマルコフ・モデルによって決定される心臓の動きを示す。軸614は秒単位の時間であり、プロットには620、622、618とラベル付けされた三つの位置がある。620は心臓壁の動きが識別されることを示し、622は心臓弁の動きも心臓壁の動きも識別されないことを示し、すなわちポーズ時間であり、618は心臓弁の動きが検出されたことを示す。プロット602は、隠れマルコフ・モデルを使ってどのようにデータが識別されることができるかの例である。これは、胎児の心拍数が検出されているか否かを判定するために比較対象とすることのできるモデルとして使われることもできる。
【0069】
図5に示した例について、FM 30胎児モニタ(fetal monitor)が使用された。曲線608を計算するために、ドップラー偏移超音波データの短時間フーリエ変換(STFT: short-time Fourier transform)の高域(300Hzないし600Hz)内のパワーが取られた。曲線608は、高域内の平均エネルギーを引き、次いで高域内のエネルギーの分散の平方根で割ることによって規格化された(normalized)。曲線610を計算するために、やはりSTFTを使って低域(0Hzないし300Hz)内のパワーが取られた。同様に、曲線610は、低域内の平均エネルギーを引き、低域内のエネルギーの分散の平方根で割ることによって規格化された。
【符号の説明】
【0070】
300 妊娠中の被験者
302 胎児モニタ
304 陣痛収縮センサー・システム
306 超音波システム
308 超音波トランスデューサ
310 陣痛収縮センサー
312 マイクロプロセッサ
314 コンピュータ・プログラム・プロダクト
316 胎児の心臓弁の動きの識別モジュール
318 胎児の心臓壁の動きの識別モジュール
320 心拍数決定モジュール
322 高域通過フィルタ・モジュール
324 低域通過フィルタ・モジュール
326 パターン認識モジュール
328 特徴ベクトル生成モジュール
330 時間枠分割モジュール
400 超音波システムの受領
402 超音波データの前処理
404 時間枠を抽出
406 特徴抽出
408 分類アルゴリズム
410 最も確からしい信号クラスを決定
500 特徴ベクトル
502 最も確からしい信号クラス
504 胎児の動きモデル
506 母親の心拍数モデル
508 胎児の心拍数モデル
510 他の超音波パターン・モジュール
512 モデルを特徴ベクトルと比較
600 超音波データにおける種々の周波数範囲のパワー
602 胎児の心臓の隠れマルコフ・モデルの例
604 時間(単位:秒)
606 エネルギー(任意単位)
608 高い帯域のエネルギー
610 低い帯域のエネルギー
612 608と610の比
614 時間(単位:秒)
618 心臓弁
620 心臓壁
622 ポーズ
624 心臓活動の指示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波データを使って少なくとも一つの解剖学的構造を認識する方法であって:
・超音波データを受領する段階であって、前記超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を表すドップラー偏移情報を含む、段階と;
・前記超音波データを一連の時間枠に分割する段階と;
・各時間枠に、前記ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階と;
・各時間枠の分類を使って前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階とを含む、
方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる前記段階は:
・前記ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓弁の動きのデータを識別する段階と;
・前記ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きのデータを識別する段階とを含み、
各時間枠の分類を使って、胎児の心臓が前記少なくとも一つの解剖学的構造として認識される、方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法であって、各時間枠に、ドップラー偏移情報を使って分類を割り当てる段階は、前記ドップラー偏移情報を使って胎児の体の動きを識別する段階を含み、前記解剖学的構造は、各時間枠の分類を使って胎児の体であると識別される、方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか一項記載の方法であって、各時間枠について特徴ベクトルを構築する段階をさらに含み、前記分類は、各特徴ベクトルについての分類を認識するパターン認識モジュールを使って割り当てられ、前記少なくとも一つの解剖学的構造は、前記パターン認識モジュールを使って決定される、方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法であって、前記パターン認識モジュールはさらに、前記特徴ベクトルを使って胎児の体の動きの種々の型を認識するよう適応される、方法。
【請求項6】
請求項4または5記載の方法であって、当該方法は、陣痛収縮センサーからの測定を受け取り、陣痛収縮センサーからの測定を使って前記特徴ベクトルを構築することを含む、および/または、マイクロホンからの心音図検査法測定を受領し、該マイクロホンからの心音図検査法測定を使って前記特徴ベクトルを構築する段階を含む、および/または、心電図検査法システムからの測定を受け取り、該心電図検査法システムからの測定を使って前記特徴ベクトルを構築することを含む、および/または、パルスオキシメトリー・システムからの測定を受け取り、パルスオキシメトリー・システムからの測定を使って前記特徴ベクトルを構築することを含む、および/または、経皮的酸素飽和度システムからの測定を受け取り、経皮的酸素飽和度システムからの測定を使って前記特徴ベクトルを構築することを含む、および/または、非侵襲的血圧システムからの測定を受け取り、非侵襲的血圧システムからの測定を使って前記特徴ベクトルを構築することを含む、方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のうちいずれか一項記載の方法であって、前記パターン認識モジュールは隠れマルコフ・モデルの実装である、方法。
【請求項8】
制御システムによる実行のための機械実行可能命令を有するコンピュータ・プログラムであって、前記機械実行可能な命令は:
・超音波データを受け取る段階であって、前記超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を表すドップラー偏移情報を含む、段階と;
・前記超音波データを一連の時間枠に分割する段階と;
・前記ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階と;
・各時間枠の分類を使って、前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階とを含む、
コンピュータ・プログラム。
【請求項9】
マイクロプロセッサを有する制御システムであって、前記マイクロプロセッサは:
・超音波データを受け取る段階であって、前記超音波データは、前記少なくとも一つの解剖学的構造の速度を表すドップラー偏移情報を含む、段階と;
・前記超音波データを一連の時間枠に分割する段階と;
・前記ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階と;
・各時間枠の分類を使って、前記少なくとも一つの解剖学的構造を認識する段階とを実行するようプログラムされている、
制御システム。
【請求項10】
ドップラー偏移情報を使って各逐次の時間枠に分類を割り当てる前記段階は:
・前記ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓弁の動きデータを同定する段階と;
・前記ドップラー偏移情報を使って胎児の心臓壁の動きデータを同定する段階とを含み、
各時間枠の分類を使って、胎児の心臓が前記解剖学的構造として認識される、
制御システム。
【請求項11】
請求項10または11記載の制御システムであって、胎児の心臓弁の動きデータは、前記超音波データに対して高域通過フィルタを使って識別され、胎児の心臓壁の動きデータは低域通過フィルタを使って識別され、前記高域通過フィルタは200Hzと400Hzの間、好ましくは250Hzと350Hzの間のカットオフ周波数を使い、前記低域通過フィルタは200Hzと400Hzの間の、好ましくは250Hzと350Hzの間のカットオフ周波数を使う、制御システム。
【請求項12】
請求項10または11記載の制御システムであって、ドップラー偏移情報を使って各時間枠に分類を割り当てる段階は、前記ドップラー偏移情報を使って胎児の体の動きデータを識別する段階を含み、前記解剖学的構造は、各時間枠の分類を使って胎児の体であると識別され、前記胎児の体の動データは1Hzと15Hzの間のカットオフ周波数、好ましくは8Hzと12Hzの間のカットオフ周波数をもつ低域通過フィルタを使って識別される、
【請求項13】
胎児モニタであって:
・超音波トンスデューサを使ってドップラー偏移した超音波信号を測定するよう適応されており、ドップラー偏移した超音波信号を使って超音波データを生成するよう適応されている超音波システムと;
・請求項9ないし13のうちいずれか一項記載の制御システムとを有する、
胎児モニタ。
【請求項14】
請求項14記載の胎児モニタであって、当該胎児モニタはさらに、陣痛収縮センサーを有し、前記制御システムはさらに:
・各時間枠および陣痛収縮センサーからの測定についての特徴ベクトルを構築する段階を実行するよう適応されており、
各特徴ベクトルについて分類を認識するパターン認識モジュールを使って前記分類が割り当てられ、前記解剖学的構造は前記パターン認識モジュールを使って決定される、
胎児モニタ。
【請求項15】
請求項15記載の胎児モニタであって、当該胎児モニタは、前記少なくとも一つの解剖学的構造をインジケータ上に示すよう適応されている、および/または当該胎児モニタは、前記少なくとも一つの解剖学的構造が胎児の心臓を含まない場合にアラームをもって操作者に警告するよう適応されている、および/または、当該胎児モニタは、胎児の心拍数および該胎児の心拍数が胎児からである信頼度の指標を表示するよう適応されている、胎児モニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−529329(P2012−529329A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514568(P2012−514568)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052506
【国際公開番号】WO2010/143113
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】