説明

超音波を用いたコミュニケーション装置

【課題】従来の意思伝達困難な患者が使用するコミュニケーション装置は、生体に直接圧電センサや電極を装着し、その信号を表示機への選択信号とすることで、文章を作成し介護者や看護師とコミュニケーションを行う。しかし、この場合、直接生体に直接装着しなければならないため、長時間使用すると、皮膚が炎症を起こしてしまう。また、ビデオカメラを用いて瞬きを検出し、それを選択信号とするコミュニケーション装置もあるが、大掛かりな装置で高価であるという問題があった。これらの問題を解消した非接触体動検出によるコミュニケーション装置を提供する。
【解決手段】コミュニケーション装置は、音声提示と生体体動を検出するための超音波送信器2及び超音波受信器3と超音波受信器で受信された生体局部反射波から生体体動を検出する生体体動検出回路4で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意思伝達困難な患者のためのコミュニケーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
意思伝達が困難になる病気の一例として筋萎縮性側索硬化症(ALS)が上げられる。ALSとは、次第に全身の筋肉が麻痺し、歩行、発声や呼吸に必要な筋力が低下していく進行性の病気で、日本国内では、1974年に特定疾患に認定された指定難病である。しかし、ALSは、全身の運動神経が麻痺していくのみで、脳は正常に機能しているが、意思伝達能力が低下しているため、患者だけでなく、家族や介護者にも精神的苦痛となっている。そこで、意思伝達コミュニケーション装置が開発されている。
【0003】
例えば、病状が末期の患者でも比較的機能低下が少ない瞼や視線移動を使った装置がある。また、病気に影響のない脳内の血流量や電位を使った装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−100366
【特許文献2】特開2004−252849
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】生体医工学 Vol.43 No.1 P.172-178 (2005年3月)「眼電図によるALSコミュニケーションツールの入力動作の研究」
【非特許文献2】電子情報通信学会:Vol.97 No.262 P.57-64(1997年9月)「事象関連脳電位(ERP)を用いたコミュニケーションエイド」
【非特許文献3】IEICE Trans Inf Syst Vol.E90-D, No.7, P. 1028-1037 (2007年7月)「近赤外光により測定された脳血量変化に基づいた完全Locked-in状態のALS患者のためコミュニケーション手段」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようなカメラを用いた視線入力コミュニケーション装置は、視線を撮るためのビデオカメラ、画像解析のための画像取り込み装置及び演算処理装置、結果表示画面が必要なため、大掛かりなコミュニケーション装置となり、コストが高い。
【0007】
特許文献2のような装置は、超音波送信器、超音波受信器を用いて瞬きを検出しているが、それ以外の情報が無い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3のような直接電極を患者に張り付け信号を検出する装置は、長時間電極を貼ることにより皮膚がかぶれ炎症を起こしてしまい、肉体的精神的負担を与える問題がある。
【0009】
本発明の装置は、意思伝達困難な患者に、超音波送信器により、超音波を音声で変調した変調波を送信することで情報を音声で提示し、さらに超音波受信器により、超音波を受信することで、生体局部体動を検出する生体体動検出手段と、意思伝達困難患者が選択した結果を出力する選択結果出力回路を備え、意思伝達困難な患者に対し、情報の音声提示と生体体動検出を超音波送信器と超音波受信器で行う、コミュニケーション装置である。
【0010】
上記装置は、超音波送信器と超音波受信器により非接触で生体の局部体動を検出すると同時に、患者に対して情報を音声で提示を行うことが出来る。
【0011】
生体体動は、超音波送信器でパラメトリック・アレイを形成することにより、超音波の直進性に指向性を持たせ、生体局部に超音波を絞り込み、超音波の局部反射波を超音波受信器で受信することで、生体の局部体動を検出する。
【0012】
局部体動とは、頭、瞼、口、肩、腕、手、脚、足、手指、足指、腹のことである。
【0013】
コミュニケーション装置は、情報の音声提示と生体の体動検出を超音波送信器と超音波受信器で行えるため小型化でき、さらに安価である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、患者に非接触で生体体動を検出することができるため、電極による皮膚のかぶれ、炎症が起きない。また、超音波送信器と超音波受信器を兼用で情報の音声提示と局部体動検出を行えるため、小型で安価である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】超音波送信器及び超音波受信器を用いたコミュニケーション装置設置図。(実施形態1)
【図2】超音波送信器及び超音波受信器を用いたコミュニケーション装置構成図。(実施形態1)
【図3】2方向からの超音波による局所的な音声提示時のコミュニケーション装置設置図。(実施形態2)
【図4】2方向からの超音波による局所的な音声提示時のコミュニケーション装置構成図。(実施形態2)
【図5】超音波トランスデューサのみを用いたコミュニケーション装置設置図。(実施形態3)
【図6】超音波トランスデューサのみを用いたコミュニケーション装置構成図。(実施形態3)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1に示すように、コミュニケーション装置は、超音波送信器2により生体に情報を音声提示し、兼用の超音波送信器2による超音波の生体局部反射波を超音波受信器による受信波から、生体局部体動を検出することにより、音声提示による情報を選択する。選択された結果は、選択結果出力回路により、介護者や看護師とコミュニケーションを行う装置である。
【0018】
生体局部体動は、超音波送信器2でパラメトリック・アレイを形成することにより、超音波の直進性に指向性を持たせ、生体局部に超音波を絞り込み、超音波の局部反射波を超音波受信器で受信することで、生体の局部体動を検出する。
【0019】
図1に示すように、コミュニケーション装置の超音波送信器2及び超音波受信器3は、例えば、瞬きを検出する場合、顔の横のベッド手すりに取り付け、生体体動検出回路4はベッド脇に設置される。
【0020】
図2に示すように、生体体動検出回路4は、超音波送信器2の出力波として、生体体動を検出するための超音波生成用のBPF(バンドパスフィルタ)5、音声を出力するためのD/A変換器6、超音波と音声波、2つの波を変調して一つの波にする変調器7と、超音波受信器3の入力波を増幅器8と、包絡線検波回路9と、LPF(ローパスフィルタ)10と、超音波生成と体動検出判断を行う制御回路11と音声データを記憶させておく外部メモリ12と、音声提示結果を出力する選択結果出力回路13で構成される。変調器7は、例えばAM変調器、DSB変調器、SSB変調器、FM変調器が利用出来る。制御回路11は、例えばマイクロチップ社のPIC18F452が利用出来る。選択結果出力回路13は、例えば通報機や通信機である。
【0021】
(実施形態2)
本実施形態では、2方向からの超音波により局所的に音声提示を行う場合について説明する。超音波送信器2から超音波、超音波送信器14から超音波を音声で変調した変調波を、それぞれ送信することで、2種の波が交差する点のみに情報を音声で提示することが可能となる。
【0022】
図3に示すように、コミュニケーション装置は、超音波送信器14から超音波を音声で変調した変調波と超音波送信器2による超音波の2種波が交差すつ点にのみ情報を音声で提示する。音声提示に対する選択結果は、超音波送信器2による超音波の生体局部反射波を超音波受信器による受信波から、生体局部体動を検出することにより、選択結果出力回路にて出力され、介護者や看護師とコミュニケーションを行う装置である。
【0023】
生体局部体動は、超音波送信器2を実施形態1と同様に形成することで検出される。
【0024】
図3に示すように、コミュニケーション装置の超音波送信器2、超音波送信器14及び超音波受信器3は、例えば、瞬きを検出する場合、顔の横のベッド手すりに装着される鉄パイプの先に取り付け、生体体動検出回路4はベッド脇に設置される。
【0025】
図4に示すように、生体体動検出回路4の構成は、実施形態1に超音波送信器14とBPF(バンドパスフィルタ)15を追加したものである。
【0026】
(実施形態3)
本実施形態では、超音波トランスデューサ17で、情報の音声提示、超音波の送信、生体局部反射波の受信を一種の超音波トランスデューサを切り替えることで、実施形態1と同様のことが可能となる。
【0027】
図5に示すように、コミュニケーション装置は、超音波トランスデューサ17から超音波を音声で変調した変調波を送信することで情報を音声で提示する。音声提示に対する結果は、超音波トランスデューサ17から超音波を送信後、超音波トランスデューサ17を受信にすることで、生体局部反射波を受信し生体体動検出回路4で生体体動を検出する。そうすることで、音声提示結果を選択結果出力回路により出力することで、介護者や看護師とコミュニケーションを行う装置である。
【0028】
生体局部体動は、超音波トランスデューサ17を実施形態1と同様に形成することで検出される。
【0029】
図5に示すように、コミュニケーション装置の超音波トランスデューサ17は、例えば、瞬きを検出する場合、顔の横のベッド手すりに装着される鉄パイプの先に取り付け、生体体動検出回路4はベッド脇に設置される。
【0030】
図6に示すように、生体体動検出回路4の構成は、実施形態1に超音波トランスデューサ17を送信・受信に切り替えるためのマルチプレクサ16を追加したものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
超音波送信器と超音波受信器を用いることによって、非接触で生体の局所体動を検出出来る。また、生体体動検出用調音は送信器を兼用で、生体へ情報の音声提示することも出来る。これにより、生体への電極貼り付けによる皮膚の炎症が無く、超音波送信器と超音波受信器で生体の体動検出から情報の音声提示まで構成されているため、小型で安価なコミュニケーション装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 生体(患者等)
2、14 超音波送信器
3 超音波受信器
4 生体体動検出回路
5、15 BPF(バンドパスフィルタ)
6 D/A
7 変調器
8 増幅器
9 包絡線検波回路
10 LPF(ローパスフィルタ)
11 制御回路
12 外部メモリ
13 選択結果出力回路
16 マルチプレクサ
17 超音波トランスデューサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コミュニケーション装置は、音声による情報提示とその応答を体動で検出することを特徴とする。
【請求項2】
超音波送信器と超音波受信器と生体体動検出回路と選択結果出力回路で構成されるコミュニケーション装置。
【請求項3】
前記コミュニケーション装置は、超音波送信器と超音波受信器により生体体動を検出することを特徴とする生体体動検出回路を有する。
【請求項4】
前記コミュニケーション装置は、超音波送信器及び超音波受信器を生体の体動を検出したい箇所に絞り込むことにより、頭、瞼、口、肩、腕、手、脚、足、手指、足指、腹の局部体動を検出することを特徴とする生体体動検出回路。
【請求項5】
前記コミュニケーション装置は、超音波送信器にて超音波を音声で変調した変調波を送信することにより生体に情報を音声で提示することが出来る生体体動検出回路を有する。
【請求項6】
前記コミュニケーション装置は、生体体動検出用の超音波送信器で音声提示も実現することが出来る生体体動検出回路を有する。
【請求項7】
前記コミュニケーション装置は、生体体動検出用の超音波送信器と超音波受信器を1種類の超音波トランスデューサのみで実現することが出来る生体体動検出回路を有する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−8835(P2012−8835A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144712(P2010−144712)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(502379756)株式会社TCC (2)
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【Fターム(参考)】