説明

超音波センサーユニット、検出装置及び電子機器

【課題】比較的近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができ、測定対象の検出結果に対応した入力を行うことができる入力装置と、その入力装置を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】基準周波数の超音波を発信する発信素子1aと、検出対象により反射された超音波を受信する受信素子1bと、を有する超音波センサーユニット1Aを備え、発信素子1aにより発信された超音波と、受信素子1bにより受信された超音波と、に基づいて検出対象の位置、形状及び速度を算出する制御演算部41を備え、受信素子1bは、基準周波数の超音波を検出する基準周波数検出素子1b0と、基準周波数と異なる周波数の超音波を検出するシフト周波数検出素子1b1,…,1bnと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波センサーを備えた入力装置及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を発信して障害物により反射された超音波を受信する超音波センサーが知られている。このような超音波センサーとして、自動車に搭載された障害物センサーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の超音波センサーは、超音波の送受信が可能な素子から超音波を送信して、被検出体に当って反射された超音波をこの素子によって受信する。これにより、自動車の周囲にある物体の位置測定又は距離測定や、その物体の2次元形状または3次元形状の測定などを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−99103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の超音波センサーを例えばPDA(Personal Data Assistance)や、PC(Personal Computer)等の電子機器の入力装置に用いる場合には、以下のような課題がある。
【0005】
特許文献1の超音波センサーは車載用として用いられ、比較的遠距離に存在する大きな障害物の位置、距離、形状等を検出するためのものである。超音波センサーによって遠距離の障害物を測定するためには、超音波の減衰を避けるため周波数を低下させ波長を長くする必要がある。超音波の波長が長くなると、検出対象の3次元的な位置の測定や動作を検出する分解能が低下する。したがって、このような超音波センサーでは、例えば人の手の動きや入力用のペン等の動作等、比較的近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができないという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、比較的近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができ、測定対象の検出結果に対応した入力を行うことができる入力装置と、その入力装置を備えた電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の入力装置は、基準周波数の超音波を発信する発信素子と、検出対象により反射された前記超音波を受信する受信素子と、を有する超音波センサーユニットを備え、前記発信素子により発信された前記超音波と、前記受信素子により受信された前記超音波と、に基づいて前記検出対象の位置、形状及び速度を算出する制御演算部を備え、前記受信素子は、前記基準周波数の前記超音波を検出する基準周波数検出素子と、前記基準周波数と異なる周波数の超音波を検出するシフト周波数検出素子と、を有することを特徴とする。
【0008】
このように構成することで、制御演算部は、発信素子から発信された超音波の波形、受信素子によって受信された超音波の波形、及び超音波が発信されてから受信されるまでの時間等に基づいて、検出対象の位置、形状及び速度を算出することができる。
検出対象が超音波の発信方向の速度成分を有している場合には、検出対象により反射された超音波の周波数は、発信時の基準周波数からドップラー効果によって周波数が変化してシフト周波数になる。また、検出対象が超音波の発信方向の速度成分を有していない場合には、反射した超音波の周波数は、発信時と同じ基準周波数になる。
このシフト周波数の超音波をシフト周波数検出素子によって検出し、基準周波数の超音波を基準周波数検出素子によって検出することができる。したがって、本発明の入力装置によれば、超音波センサーユニットにより比較的近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができる。また、電子機器等に超音波センサーユニットの検出結果に対応した入力を行うことができる。
【0009】
また、本発明の入力装置は、前記超音波センサーユニットは、複数の開口部が形成された基部と、前記基部に設けられ前記開口部を閉塞する振動板と、前記開口部の各々に対応して前記振動板に設けられた圧電体と、を有し、前記開口部の各々に前記発信素子又は前記受信素子が設けられていることを特徴とする。
【0010】
このように構成することで、圧電体に所定の周波数の超音波を発生するための電圧波形を印加して、圧電体により基部の開口部を閉塞する振動板を振動させることができる。そして、超音波センサーユニットの基部の開口部から所定の周波数の超音波を発信することができる。
超音波センサーユニットから発信された超音波は、超音波が到達する領域内に検出対象が存在する場合には、その検出対象により反射される。検出対象によって反射されて超音波センサーユニットの振動板に到達した超音波は、振動板を振動させる。振動板の振動は、圧電体により電気信号に変換される。
また、開口部の寸法及び振動板の厚さを調整することで、開口部における振動板の固有振動数を調整することができる。これにより、超音波センサーユニットによって波長の短い高周波数の超音波を発信及び受信し、比較的近距離に存在する検出対象の分解能を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の入力装置は、前記基準周波数検出素子の前記開口部の寸法は、前記シフト周波数検出素子の前記開口部の寸法と異なることを特徴とする。
また、本発明の入力装置は、前記基準周波数検出素子における前記振動板の厚さは、前記シフト周波数検出素子における前記振動板の厚さと異なることを特徴とする。
また、本発明の入力装置は、前記シフト周波数検出素子は、前記振動板上に固有振動数調整部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
このように構成することで、基準周波数検出素子とシフト周波数検出素子のそれぞれの開口部における振動板の固有振動数を異ならせることができる。
【0013】
また、本発明の入力装置は、前記センサーユニットは、中央部に前記発信素子が配置され、周辺部に複数の前記受信素子が配置されていることを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、発信素子により発信した超音波を受信素子によってより効率よく受信することができる。
【0015】
また、本発明の電子機器は、上記のいずれかの入力装置を備えたことを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、比較的近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができ、測定対象の検出結果に対応した入力を行うことができる入力装置を備えた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態におけるPDAの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における超音波センサーユニットの斜視図である。
【図3】図2に示す入力装置の制御回路部のシステム構成図である。
【図4】図2のA−A’線に沿う超音波センサーの拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態における超音波センサーの配置例を示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態における超音波センサーの変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図面では、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や部材毎に縮尺を適宜変更している。
図1は本実施形態のPDA(Personal Data Assistance)100の構成を模式的に表す斜視図である。図2は本実施形態のPDA100が備える入力装置10の構成を模式的に表す分解斜視図である。図3は本実施形態の入力装置10の制御回路部40のシステム構成を模式的に表すシステム構成図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のPDA(電子機器)100は本体30に表示部20を備えている。表示部20は例えば液晶パネルや有機ELパネル等からなり、本体30内部に収容された制御・演算部に接続され、種々の操作画像やその他の情報を表示するように構成されている。また、本体30の外周には、超音波センサーユニット1A(図2参照)を備えた入力装置10が設置されている。入力装置10は、例えば人間の手、指、入力用のペン等の位置、形状、速度を超音波センサーユニット1Aにより検出して、それらに対応する信号を出力してPDA100へ入力する。
【0020】
図2に示すように、超音波センサーユニット1Aは複数の開口部11aがアレイ状に形成された基部11を備えている。基部11は例えば単結晶シリコン基板等により形成されている。開口部11aの各々には、超音波センサー1が設けられている。すなわち、超音波センサーユニット1Aは基部11の一面に複数の超音波センサー1がアレイ状に配置された構成となっている。
【0021】
各々の超音波センサー1にはそれぞれ配線(図示略)が接続され、各配線は基部11に接続されたフレキシブルプリント基板12を介して制御基板13の端子部13aに接続されている。制御基板13には制御演算部、記憶部等からなる制御回路部40が設けられている。制御回路部40は、超音波センサー1に入力する入力信号を制御すると共に、超音波センサー1から出力された出力信号を処理するように構成されている。尚、超音波発生波形はサイン波に拘らず、たとえば回路簡略化のため矩形波や三角波を適宜組み合わせて用いたものでもよい。
【0022】
図3に示すように、制御回路部40は超音波センサーユニット1Aに接続され、主に制御演算部41と、記憶部42と、超音波発生部43と、超音波検出部44とを備えている。
超音波発生部43は、超音波センサーユニット1Aの超音波センサー1のうち、基準周波数の超音波を発信する発信素子1aに接続されている。また、超音波発生部43は、サイン波を発生させるサイン波発生部43aと、個々の発信素子1aに対して設けられサイン波の位相を変化させる位相部43bと、ドライバー43cとにより構成されている。
超音波検出部44は、主に増幅部44aと、A/D変換部44bとにより構成されている。また、超音波検出部44は、基準周波数およびその他の周波数を受信する複数の受信素子1bに接続されている。
【0023】
制御演算部41は、発信素子1aによる基準周波数の超音波の発信時には、サイン波発生部43aが発生させたサイン波を、位相部43bにより基準周波数に対応する位相に変化させる。また、制御演算部41は、受信素子1bによる超音波の受信時には、受信素子1bから出力され増幅部44aにより増幅され、A/D変換部44bによりデジタル化された出力信号を記憶部42に記録する。また、制御演算部41は、記憶部42に記憶された情報をPDA100の制御・演算部(図示略)に出力可能に構成されている。
【0024】
また、制御演算部41は、超音波センサーユニット1Aの発信素子1aから発信された超音波と、検出対象により反射され超音波センサーユニット1Aの受信素子1bにより受信された超音波と、に基づいて検出対象の位置、形状、速度を算出する。
具体的には、制御演算部41は、発信素子1aによって超音波を発信する際に、発信した時刻、発信した超音波の周波数(基準周波数)、音圧等を記憶部42に記録する。また、制御演算部41は、検出対象によって反射された超音波を複数の受信素子1bによって受信する際に、受信した時刻、受信した超音波の周波数、音圧等を記憶部42に記録する。そして、記憶部42に記録されたこれらの情報に基づいて、検出対象の形状、位置、速度等を算出する。
【0025】
ここで、複数の受信素子1bの各々は、発信素子1aから発信した基準周波数と同じ周波数の超音波を受信する基準周波数検出素子1b0か、又は基準周波数と異なるシフト周波数の超音波を検出するシフト周波数検出素子1b1,…,1bnのいずれかである。なお、基準周波数検出素子1b0及びシフト周波数検出素子1b1,…,1bnは、それぞれ単数であっても複数であってもよい。また、シフト周波数検出素子1b1,…,1bnは、それぞれ異なるシフト周波数を検出するようになっている。
【0026】
すなわち、制御演算部41は、発信素子1aによって発信された超音波が、検出対象によって反射され、受信素子1bの各々によって受信されるまでの時間から、検出対象と超音波センサーユニット1Aとの間の距離を算出する。これにより、検出対象の3次元形状及び位置を算出する。また、制御演算部41は、発信素子1aによる超音波の発信と受信素子1bによる受信を所定の周期で繰り返すことで、検出対象の速度、動作を算出する。さらに、移動する検出対象によって反射され、ドップラー効果により周波数が変化した超音波をシフト周波数検出素子1b1,…,1bnにより検出する。
【0027】
また、制御演算部41は、記憶部42に記録されたシフト周波数、基準周波数、空気中の音速、及び下記の式(1)に基づいて、検出対象の速度を算出する。ここで、式(1)において、f’はシフト周波数、fは基準周波数、Vは空気中の音速、vsは超音波の発信側から超音波センサーユニット1Aに近づく方向を正とする検出対象の速度である。
【0028】
f’/f=V/(V−vs) …(1)
【0029】
図4は、図2に示す超音波センサーユニット1AをA−A’線で切断し、超音波センサー1を拡大して表した拡大断面図である。
ここで、図2では基部11に設けられた開口部11aの形状を平面視で矩形状に表したが、以下では開口部11aの形状が平面視で円形状である場合について説明する。
【0030】
図2に示す複数の超音波センサー1の各々は、超音波を発信する発信素子1aか、又は超音波を受信する受信素子1bのいずれかである。超音波センサー1の各々は、開口部11aが形成された基部11と、基部11の開口部11aを閉塞するように設けられた振動板2と、振動板2の基部11と反対側に設けられた圧電体3と、圧電体3に接続された下部電極4及び上部電極5とを備えている。
基部11に形成された開口部11aの深さdは、例えば約100μm程度である。
【0031】
振動板2は、基部11側に設けられ例えばSiO2により形成された第1酸化膜2aと、第1酸化膜2aの基部11とは反対側に積層され例えばZrO2により形成された第2酸化膜2bとの二層構造となっている。第1酸化膜2aは例えば単結晶シリコン基板の表面を熱酸化させることにより約3μm程度の厚さに形成されている。第2酸化膜2bは例えばCVD(化学気相成長)法等により約400nm程度の厚さに形成されている。
【0032】
振動板2が開口部11aの各々と平面的に重なって開口部11aに露出された領域は、振動板2の振動領域VAとなっている。
本実施形態の超音波センサーユニット1Aは、複数の超音波センサー1のうち、発信素子1aにおける開口部11aの径Daと、受信素子1bのうち基準周波数検出素子1b0を除くシフト周波数検出素子1b1,…,1bnにおける開口部11aの径Db1,…,Dbnとは、それぞれの振動領域VAの振動板2の固有振動数に応じて適宜異ならせてある。基準周波数検出素子1b0における開口部11aの径Db0は、発信素子1aにおける開口部11aの径Daと略等しくなっている。
【0033】
超音波センサー1の各々の開口部11aの径Da,Db0,Db1,…,Dbnは、各々の振動領域VAの振動板2の固有振動数に応じて例えば約100μm〜数百μm程度の範囲で適宜設定されている。なお、本実施形態では、発信素子1aの各振動領域VAにおける振動板2の固有振動数は、100kHz以上に設定されている。
各素子の振動板2の振動領域VAで基部11と反対側の面には下部電極4が設けられている。
【0034】
超音波センサー1の各々の下部電極4は、超音波センサーユニット1Aの制御回路部40に接続された配線(図示略)に接続されている。下部電極4は例えばIr等の導電性金属材料により約200nm程度の厚さに形成されている。下部電極4上には振動領域VAに圧電体3が設けられている。
【0035】
圧電体3は振動板2の基部11とは反対側で開口部11aと平面的に重なる振動領域VAに島状に設けられている。圧電体3は例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、BaTiO3(チタン酸バリウム)等により約1.4μm程度の厚さに形成されている。圧電体3の上には上部電極5が形成されている。
【0036】
上部電極5は例えばIr等の導電性金属材料により形成され、圧電体3に接触して電気的に接続されている。上部電極5の厚さは例えば約50nm程度となっている。また、上部電極5は配線(図示略)を介して入力装置10の制御回路部40に接続されている。
【0037】
図5は、本実施形態における超音波センサー1の配置例を示す平面図である。なお、図5では図示の便宜上すべての素子の開口部11aの径Da,Db0,Db1,…,Dbnを等しく表している。また、発信素子1aと受信素子1bの基準周波数検出素子1b0及びシフト周波数検出素子1b1,…,1bnとを区別するために、発信素子1aの開口部11aを黒色、基準周波数検出素子1b0の開口部11aを斜線ハッチングでそれぞれ表している。
【0038】
図5に示すように、超音波センサーユニット1Aの平面視で矩形状の基部11の四隅と中央部には、それぞれ発信素子1aが配置されている。そして、四隅の発信素子1aと中央部の発信素子1aのそれぞれを取り囲むように、基準周波数検出素子1b0が配置されている。そして、中央部に配置された発信素子1a及び基準周波数検出素子1b0の周囲で基部11の周辺部には、四隅に配置された発信素子1a及び基準周波数検出素子1b0の間のスペースを埋めるようにシフト周波数検出素子1b1,…,1bnが配置されている。
【0039】
本実施形態では、超音波センサーユニット1Aの超音波センサー1は8×8の正方形状配置とされている。基部11の中央部には4つの発信素子1aが正方形状に配置され、その周囲を取り囲むように12個の基準周波数検出素子1b0が正方形枠状に配置されている。そして、基部11の四隅に配置された発信素子1aを囲むように3つの基準周波数検出素子1b0が配置され、これらが基部11の四隅においてそれぞれ正方形状の配置とされている。シフト周波数検出素子1b1,…,1bnは、2×4の長方形状の配置とされ、正方形枠状に配置された中央部の基準周波数検出素子1b0の各辺に長方形の長辺が沿うように、中央部の発信素子1aの周囲に均等に配置されている。
【0040】
次に、本実施形態のPDA100及び入力装置10の作用について説明する。
図1に示すように、PDA100において人間の手や指の位置、形状、速度を検出して入力を行う際には、入力装置10の超音波センサーユニット1A(図2参照)により、所定の検出領域に超音波を発信する。
【0041】
まず、入力装置10の制御回路部40により、複数の超音波センサー1のうち、発信素子1aの上部電極5と下部電極4との間に電圧を印加する。
具体的には、図3に示すようにサイン波発生部43aに対し、発信素子1aにおいて基準周波数の超音波を発信するためのサイン波を発生させる。本実施形態では、発信素子1aの振動領域VAの振動板2の固有振動数を発信素子1aから発信する超音波の基準周波数とする。そして、制御演算部41によって、位相部43bを制御する。これにより、超音波センサーユニット1Aの各々の発信素子1aの下部電極4と上部電極5との間に位相を制御したサイン波電圧を印加する。
【0042】
図4に示すように発信素子1aの振動板2の振動領域VAに形成された圧電体3は、上部電極5と下部電極4との間にサイン波電圧が印加されると、振動板2の面方向に伸長されたり圧縮されたりする。圧電体3が振動板2の面方向に伸長されると、振動板2の圧電体3側が面方向に伸長され、発信素子1aの振動板2の振動領域VAが基部11側に凹(図の上方向に凸)となるように撓む。
【0043】
また、発信素子1aの圧電体3が振動板2の面方向に圧縮されると、振動板2の圧電体3側が面方向に圧縮され、振動板2の振動領域VAが基部11側に凸(図の上方向に凹)となるように撓む。これにより、発信素子1aの振動領域VAの振動板2が法線方向に振動し、各々の発信素子1aの振動領域VAからサイン波電圧の周期に応じた振動数の超音波が発信される。本実施形態において発信される超音波の周波数は100kHz以上であり、解像度を向上させるためは200kHz以上であることが好ましい。また、検出領域を実用的な範囲とするためには、周波数は1MHz以下であることが好ましい。
【0044】
このとき、各々の発信素子1aの下部電極4aに少しずつ位相をずらしたサイン波電圧を印加することで、各々の発信素子1aの振動領域VAの振動板2は、少しずつ位相がずれた状態で振動する。各々の発信素子1aの振動領域VAの振動板2が少しずつ位相のずれた状態で振動することで、各々の発信素子1aから発せられる超音波が干渉する。この超音波の干渉により、超音波の進行方向が振動板2の法線方向に対して傾いた状態となり、超音波に指向性が付与される。
【0045】
この超音波の指向性の変化を利用し、各々の発信素子1aの圧電体3に印加するサイン波電圧の位相のずれを変化させることで、入力装置10の超音波センサーユニット1Aから発信される超音波の方向を変化させ、入力装置10の検出領域を走査する。
検出領域の範囲は、超音波センサーユニット1Aから発信される超音波の周波数に依存する。例えば、発信する超音波の周波数が100kHz以上の場合には、検出領域は超音波が到達する範囲でかつ超音波センサーユニット1Aからの距離が約2000mm以内の領域となる。また、発信する超音波の周波数が200kHz以上の場合には、検出領域は超音波が到達する範囲でかつ超音波センサーユニット1Aからの距離が約500mm以内の領域となる。
【0046】
例えば、隣接する発信素子1aの開口部11aのピッチPを約250μm、開口部11aの径Daを200μm、振動板2の振幅を約3μm以上かつ約10μm以下の範囲とし、超音波センサーユニット1Aの一辺の寸法を約4mmとする。そして、発信する超音波の振動数を340kHz、音圧を約50dB以上かつ約130dB以下の範囲とした場合には、検出領域は超音波センサーユニット1Aからの距離が約500mm以内の範囲となる。このときの入力装置10の解像度(分解能)は約1mmとなる。
【0047】
また、隣接する発信素子1aの開口部11aのピッチPを約220μm、開口部11aの径Daを170μm、振動板2の振幅を約2μm以上かつ約8μm以下の範囲とし、超音波センサーユニット1Aの一辺の寸法を約3.5mmとする。そして、発信する超音波の周波数を500kHz、音圧を約30dB以上かつ約100dB以下の範囲とした場合には、検出領域は超音波センサーユニット1Aからの距離が約200mm以内の範囲となる。このときの入力装置10の解像度(分解能)は約0.7mmとなる。
【0048】
図1に示すように検出領域内に例えば人間の手や指が存在すると、入力装置10の超音波センサーユニット1Aから発信された超音波は人間の手や指によって反射する。人間の手や指によって反射した超音波が超音波センサーユニット1Aの受信素子1bに到達すると、受信素子1bの振動領域VAの振動板2が振動する。振動領域VAの振動板2が振動すると、圧電体3が振動板2の面方向の伸縮に伴って伸縮され、圧電体3に電位差が発生する。
【0049】
ここで、検出対象である人の手や指が所定の動作を行って、超音波センサーユニット1Aの超音波の発信方向に速度成分を有している場合には、人の手や指により反射された超音波の周波数は、発信時の基準周波数からドップラー効果によって周波数が変化してシフト周波数にシフトする。また、人の手や指が超音波の発信方向の速度成分を有していない場合には、反射した超音波の周波数は、発信時と同じ基準周波数になる。
【0050】
本実施形態では、シフト周波数検出素子1b1,…,1bnにおける開口部11aの径Db1,…,Dbnが、発信素子1aにおける開口部11aの径Daと異なっている。
【0051】
そのため、発信素子1aとシフト周波数検出素子1b1,…,1bnの振動領域VAの振動板2の固有振動数が異なっている。
したがって、発信素子1aから発信され、人の手や指によって反射された超音波の周波数が、シフト周波数検出素子1b1,…,1bnの振動領域VAの振動板2の固有振動数と略等しい周波数成分を有する場合には、超音波が超音波センサーユニット1Aに到達すると、シフト周波数検出素子1b1,…,1bnの振動領域VAの振動板2が共振する。よって、シフト周波数の超音波をシフト周波数検出素子1b1,…,1bnの受信電圧によって感度よく検出することができる。
【0052】
また、基準周波数検出素子1b0の振動領域VAの振動板2の厚さtaが、発信素子1aの振動領域VAの振動板2の厚さtaと略等しくなっている。また、基準周波数検出素子1b0における開口部11aの径Db0が、発信素子1aにおける開口部11aの径Daと略等しくなっている。
【0053】
そのため、発信素子1aと基準周波数検出素子1b0の振動領域VAの振動板2の固有振動数が略等しくなっている。
したがって、発信素子1aから発信され、人の手や指によって反射された超音波の周波数が基準周波数である場合には、超音波が超音波センサーユニット1Aに到達すると、基準周波数検出素子1b0の振動領域VAの振動板2が共振する。よって、基準周波数の超音波を基準周波数検出素子1b0によって検出することができる。
【0054】
基準周波数検出素子1b0及びシフト周波数検出素子1b1,…,1bnの圧電体3に発生した電位差は、各々の上部電極5及び下部電極4に接続された配線(図示略)によって各素子の出力信号として入力装置10の制御回路部40に伝送される。入力装置10の制御回路部40に伝送された各々の素子からの出力信号は、増幅部44a、A/D変換部44bを介して記憶部42に記録される。制御演算部41は、発信素子1aから発信された超音波の情報と、検出対象により反射され基準周波数検出素子1b0及びシフト周波数検出素子1b1,…,1bnにより受信された超音波の情報と、に基づいて検出領域の人間の手や指の形状、距離、移動速度を算出して出力する。
【0055】
具体的には、制御演算部41は、発信素子1aによって超音波を発信する際に、発信する超音波の情報を記憶部42に記録する。また、人の手や指によって反射され複数の受信素子1bによって検出された超音波の情報をそれぞれ記憶部42に記録する。そして、発信した超音波が人の手や指によって反射され受信されるまでの時間から、超音波センサーユニット1Aと人の手や指との距離を算出する。これにより、人の手や指の3次元形状及び位置を算出する。
【0056】
また、制御演算部41は、発信素子1aによる超音波の発信と受信素子1bによる超音波の受信を所定の周期で繰り返すことで、人の手や指の移動を検知し、その速度、動作を算出する。さらに、手や指の動作など、動作中の手や指によって反射され、ドップラー効果により周波数が変化したシフト超音波の情報をシフト周波数検出素子1b1,…,1bnにより検出して記憶装置24に記録し、人の手や指の移動方向及び速度を算出する。したがって、本実施形態の入力装置10によれば、超音波センサーユニット1AによりPDA100の近傍の人の手や指等、比較的近距離である比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができる。
【0057】
入力装置10は、これら人の手や指の3次元形状及び位置、移動方向及び速度の情報を人の手や指の状態や動作の情報として出力する。PDA100の制御・演算部(図示略)は、入力装置10によって入力された手や指の状態や動作と、予め登録された手や指の状態や動作とを比較する。比較の結果、入力装置10によって入力された人の手や指の状態や動作が予め登録されたものと一致すれば、人の手や指の形状や動作を所定の入力として認識し、例えば表示部20に画像を表示させる等、予め登録された所定の動作を実行する。
【0058】
人の手や指の動作を検出してPDA100が実行する動作の一例としては、例えば親指と人差し指を擦り合わせる動作を検出して、PDA100おいてページめくり動作を実行させる。また、人差し指と中指の先端を円運動させる動作を検出することで、PDA100おいてオブジェクトの回転動作を実行する。また、人差し指の動作を検出することで、PDA100おいてポインティング動作を実行する。また、親指の先端と人差し指の先端を接触させる動作を検出して、PDA100おいてクリック動作を実行する、等である。
【0059】
本実施形態の入力装置10によれば、従来のタッチパネルに代わる非接触の入力装置を提供することができ、上記したような3次元の豊かな表現による入力が可能となる。したがって、タッチパネルを用いる場合と比較して、表示部20の表示パネルの透過度を向上させることができ表示品質を著しく向上させることができる。また、表示部20に触れる必要がないので、表示部20に指紋等が付着することを防止できる。
【0060】
また、超音波センサーユニット1Aの開口部11aの径D及び振動板2の厚さを調整することで、開口部11aにおける振動板2の固有振動数を調整し、周波数が100KHz以上の波長の短い高周波数の超音波を発信及び受信し、比較的近距離に存在する検出対象の分解能を向上させることができる。
【0061】
また、超音波センサーユニット1Aの基部11の中央部及び四隅に発信素子1aを配置し、その周囲に基準周波数検出素子1b0を配置している。したがって、基準周波数の超音波を効率よく検出して、検出領域内に存在する検出対象の3次元形状及び位置の検出精度を向上できる。また、基部11の周辺部に発信素子1aを取り囲むようにシフト周波数検出素子1b1,…,1bnが配置されている。したがって、シフト周波数の超音波を効率よく検出して、検出対象の速度の検出制度を向上できる。
【0062】
また、超音波センサーユニット1Aから発信される超音波の周波数を100kHz以上とすることで、超音波センサーユニット1Aが発信する超音波の波長が十分に短くなり、比較的近距離に存在する検出対象の分解能が向上する。したがって、超音波センサーユニット1Aによって比較的近距離に存在する比較的小さな人の手や指、あるいはタッチペン等の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができる。
また、超音波センサーユニット1Aから発信される超音波の周波数を200kHz以上とすることで、解像度をさらに向上させることができる。また、発信される周波数を1MHz以下とすることで検出領域を実用的な範囲とすることができる。
【0063】
また、入力装置10の超音波センサーユニット1Aは、単結晶シリコン基板により形成された基部11を備えている。そのため、フォトリソグラフィ法、エッチング法等の微細加工技術を用いて基部11の開口部11aを精密に加工することが可能になる。
【0064】
また、振動板2はSiO2等のシリコン酸化物により形成された第1酸化膜2aと、ZrO2等により形成された第2酸化膜2bとにより形成されている。そのため、基部11の表面を熱酸化させて振動板2の第1酸化膜2aを形成し、CVD法、スパッタリング法等により第2酸化膜2bを形成することができる。これにより、振動板の厚さを精密に制御することが可能となる。したがって、高周波数の超音波を発信及び受信することが可能な超音波センサーユニット1Aを容易に製造することが可能になる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の入力装置10によれば、比較的近距離である検出領域に存在する比較的小さな人の手や指、タッチペン等の3次元的な位置、形状、速度を超音波センサーユニット1Aにより正確に検出することができ、PDA100等の電気機器に超音波センサーユニット1Aの検出結果に対応した入力を行うことができる。
【0066】
次に、本実施形態の変形例について、図6を用いて説明する。本実施形態では、超音波センサーユニットの基部の開口部の径がすべての超音波センサーにおいて等しくなっている点で、本実施形態で説明した入力装置10と異なっている。その他の点は同様であるので、同様の部分には同様の符号を付して説明は省略する。
【0067】
図6は、本実施形態の図4に相当する超音波センサーの変形例を示す拡大図断面図である。
図6に示すように、本実施形態の超音波センサーユニット1Bは受信素子1bにおいて振動板2の厚さt及び基部11の開口部11aの径Dが、発信素子1aにおける開口部11aの径Da(図4参照)と等しくなっている。また、基準周波数検出素子1b0の下部電極4、圧電体3、上部電極5は、発信素子1aと同様に設けられている。これにより、基準周波数検出素子1b0の振動領域VAの振動板2の固有振動数が、発信素子1aの振動領域VAの振動板2の固有振動数と略等しくなっている。
【0068】
また、シフト周波数検出素子1b1,…,1bnの振動領域VAには、固有振動数調整部61,…,6nがそれぞれ設けられている。固有振動数調整部61,…,6nは、各素子における振動領域VAの振動板2の固有振動数を調整するために設けられている。固有振動数調整部61,…,6nは、下部電極4、圧電体3、上部電極5と同一の工程で一括して形成され、電気的に独立した島状に形成されている。また、固有振動数調整部61,…,6nは、各素子の固有振動数に対応して体積が異なっている。
【0069】
本変形例の超音波センサーユニット1Bでは、本実施形態の超音波センサーユニット1Aと同様に、発信素子1aと基準周波数検出素子1b0の振動領域VAの振動板2の固有振動数が略等しくなっている。また、固有振動数調整部61,…,6n設けることで、発信素子1aとシフト周波数検出素子1b1,…,1bnの振動領域VAの振動板2の固有振動数が異なっている。したがって、図4に示す超音波センサーユニット1Aと同様の効果を得ることができる。
【0070】
尚、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、電子機器はPDAに限られない。本発明の入力装置は、例えば人の指の動きを検出することで、パーソナルコンピュータのバーチャルキーボードとして利用することも可能である。また、血流等の液体の速度検出装置として用いてもよい。また、手話の翻訳機等にも応用することができる。
【0071】
また、振動板の材料としては、シリコン酸化物以外にも、ニッケル、クロム、アルミニウムのような金属材料及び、それらの酸化物であるセラミック材料、シリコン、有機樹脂を用いた高分子有機物等を用いることができる。また、酸化膜は基板表面の熱酸化以外に、CVD、スパッタリング、蒸着、塗布等、或いはこれらの金属膜成膜と熱酸化の組み合わせにより形成してもよい。
また、基部に形成する開口部の平面形状は矩形状や円形状に限られない。
また、入力装置は複数の超音波センサーユニットを備えていてもよい。これにより、検出対象の複数の方向の速度をより正確に検出することが可能になる。
また、各素子において振動板の厚さ(図4、ta,tb1,tb0,tbn参照)を適宜異ならせることで、振動領域の固有振動数を異ならせてもよい。
【実施例1】
【0072】
上述の実施形態において説明した入力装置を用い、超音波センサーユニットの発信素子から発信する基本周波数fを340kHzに設定した。振動板を所定の厚さは一定の厚さにし、音波センサーユニットのシフト周波数検出素子の開口部の径を以下の表1に示すように変化させてシフト周波数f’を測定した。このとき、検出対象の速度を変化させて測定を行った。
【0073】
【表1】

【0074】
その結果、表1に示すように、検出対象の速度毎に異なるシフト周波数検出素子によって異なるシフト周波数が検出され、演算部によって検出対象の速度vsがそれぞれ算出された。
【符号の説明】
【0075】
1 超音波センサー、1a 発信素子、1b 受信素子、1b0 基準周波数検出素子、1b1 シフト周波数検出素子、1A,1B 超音波センサーユニット、2 振動板、3 圧電体、10 入力装置、11 基部、11a 開口部、41 制御演算部、61 固有振動数調整部、100 PDA(電子機器)、Da,Db1,Db0,Dbn 径(寸法)、ta,tb1,tb0,tbn 厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準周波数の超音波を発信する発信素子と、検出対象により反射された前記超音波を受信する受信素子と、を有する超音波センサーユニットを備え、
前記発信素子により発信された前記超音波と、前記受信素子により受信された前記超音波と、に基づいて前記検出対象の位置、形状及び速度を算出する制御演算部を備え、
前記受信素子は、前記基準周波数の前記超音波を検出する基準周波数検出素子と、前記基準周波数と異なる周波数の超音波を検出するシフト周波数検出素子と、を有することを特徴とする入力装置。
【請求項2】
前記超音波センサーユニットは、複数の開口部が形成された基部と、前記基部に設けられ前記開口部を閉塞する振動板と、前記開口部の各々に対応して前記振動板に設けられた圧電体と、を有し、
前記開口部の各々に前記発信素子又は前記受信素子が設けられていることを特徴とする請求項1記載の入力装置。
【請求項3】
前記基準周波数検出素子の前記開口部の寸法は、前記シフト周波数検出素子の前記開口部の寸法と異なることを特徴とする請求項2記載の入力装置。
【請求項4】
前記基準周波数検出素子における前記振動板の厚さは、前記シフト周波数検出素子における前記振動板の厚さと異なることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の入力装置。
【請求項5】
前記シフト周波数検出素子は、前記振動板上に固有振動数調整部が設けられていることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の入力装置。
【請求項6】
前記センサーユニットは、中央部に前記発信素子が配置され、周辺部に複数の前記受信素子が配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の入力装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の入力装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93065(P2013−93065A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−30729(P2013−30729)
【出願日】平成25年2月20日(2013.2.20)
【分割の表示】特願2009−4773(P2009−4773)の分割
【原出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】