説明

超音波センサ装置

【課題】送受信兼用の超音波センサを備えた超音波センサ装置において、被検体が相対的に移動していても、精度良く検出すること。
【解決手段】メンブレン構造体(34)を有する圧電型の超音波センサ(30)の基板(31にカバー(50)が固定されている。このカバー(50)は、メンブレン構造体(34)と離間しつつ対向して配置された対向部(51)を有しており、基板(31)との間に気体が封入された密閉空間(90)を形成する。また、通電により静電引力を生じる一対の調整用電極(70,71)の一方(70)が超音波センサ(30)に、他方がカバー(50)に形成されている。そして、静電引力により対向部(51)がメンブレン構造体(34)に近づき、少なくとも圧電振動子(33)の受信状態で調整用電極(70,71)間に電圧が印加され、受信状態のほうが送信状態よりも対向部(51)とメンブレン構造体(34)との対向間隔が狭くされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の薄肉部に圧電振動子が形成された超音波センサを備え、同一の圧電振動子によって、超音波を送信するととともにその反射波を受信する超音波センサ装置に関するものである。特に、相対的に移動する被検体の検出に適した超音波センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電型の超音波センサとして、例えば特許文献1に示されるように、MEMS(Micro ElectroMechanical System)技術を用いて作製されたものが知られている。
【0003】
特許文献1では、基板の厚さ方向において対向配置された一対の電極間に強誘電体が介在されて圧電振動子が構成され、この圧電振動子が、半導体基板の一面上であって薄肉部の部分に形成されて、超音波センサ素子が構成されている。
【0004】
また、特許文献1では、圧電振動子を構成する一対の電極間に所定のバイアス電圧を印加することで、超音波センサの共振周波数を所定の共振周波数に調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−284132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超音波センサが取付けられた物体に対し、被検体が相対的に移動している場合、音波のドップラー効果により、反射波(受信した超音波)の周波数が、発信周波数に対してずれることがある。この場合、周波数のずれ量及びずれの方向は、相対的な速度、方向の影響を受けるため、一定ではない。
【0007】
したがって、超音波センサを送受信兼用とすると、特許文献1に示されるように、電極間に所定のバイアス電圧を印加して共振周波数を所定値に調整し、超音波を発信したとしても、反射波の周波数が発信周波数とは異なるため、相対的に移動する被検体を精度良く検出することができない。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み、送受信兼用の超音波センサを備えた超音波センサ装置において、被検体が相対的に移動していても、精度良く検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の超音波センサ装置は、
薄肉部(32)を有する基板(31)と、
基板(31)の厚さ方向において対向配置された一対の検出用電極(35,36)間に圧電体(37)が介在されてなり、基板(31)の一面(31a)であって薄肉部(32)上に形成されて、薄肉部(32)とともに基板(31)の他の部分よりも剛性の低いメンブレン構造体(34)を構成する圧電振動子(33)と、を有し、
圧電振動子(33)により超音波を送信するととともに、同一の圧電振動子(33)によりその反射波を受信する超音波センサ(30)を備える。
【0010】
そして、基板(31)の厚さ方向において、メンブレン構造体(34)と離間しつつ対向して配置された対向部(51)を有し、基板(31)に固定されて、基板(31)との間に気体が封入された密閉空間(90)を形成するカバー(50)と、
一方が超音波センサ(30)に形成され、他方がカバー(50)に形成されて基板(31)の厚さ方向において対向配置され、通電により静電引力を生じる一対の調整用電極(70,71)と、
調整用電極(70,71)への通電を制御する制御部(110)と、を備え、
静電引力により、カバー(50)の対向部(51)がメンブレン構造体(34)に近づくように構成されており、
制御部(110)は、少なくとも圧電振動子(33)の受信状態で調整用電極(70,71)間に電圧を印加するとともに、圧電振動子(33)の受信状態におけるカバー(50)の対向部(51)とメンブレン構造体(34)との対向間隔(D2)のほうが、圧電振動子(33)の送信状態におけるカバー(50)の対向部(51)とメンブレン構造体(34)との対向間隔(D1)よりも狭くなるように、調整用電極(70,71)への通電を制御する電圧印加手段(S11,S25)を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明では、圧電型の超音波センサ(30)にカバー(50)が固定され、基板(31)とカバー(50)との間に、気体が封入された密閉空間(90)が形成されている。また、密閉空間(90)は、メンブレン構造体(34)と隣接している。このように、メンブレン構造体(34)の振動が、密閉空間(90)のダンピングの影響を受けるようになっている。
【0012】
ここで、メンブレン構造体(34)の振動の状態を示すQ値は、メンブレン構造体(34)に隣接する密閉空間(90)のダンピング係数に反比例し、ダンピング係数は、カバー(50)の対向部(51)とメンブレン構造体(34)との対向間隔に反比例する。このため、対向間隔が狭いほどダンピング係数が大きくなり、Q値は低くなる。本発明では、制御部(110)の電圧印加手段(S11,S25)により、少なくとも圧電振動子(33)の受信状態で調整用電極(70,71)間に電圧が印加され、対向部(51)とメンブレン構造体(34)との対向間隔は、受信状態の対向間隔(D2)のほうが送信状態の対向間隔(D1)よりも狭くされる。すなわち、受信状態のQ値が、送信状態のQ値より低くなる。
【0013】
また、対をなす調整用電極(70,71)は、基板(31)の厚さ方向において互いに対向するように、一方が超音波センサ(30)に形成され、他方がカバー(50)に形成されている。そして、調整用電極(70,71)間に電圧を印加し、静電引力を生じさせると、対向部(51)がメンブレン構造体(34)に近づくようになっている。このように、静電引力によりカバー(50)を変位させるため、調整用電極(70,71)に電圧を印加する構成でありながら、メンブレン構造体(34)の共振周波数を、発信状態と受信状態とでほぼ一致させることができる。すなわち共振ピークのずれが生じるのを抑制することができる。
【0014】
以上から、本発明によれば、共振周波数(共振ピーク)を同じとし、送信状態では周波数帯域が狭く、受信状態では周波数帯域が広くなる。したがって、被検体が相対的に移動し、ドップラーシフトが生じても、反射波、ひいては被検出体を精度良く検出することができる。
【0015】
請求項2に記載のように、カバー(50)は基板(31)の一面(31a)に固定され、カバー(50)と基板(31)との間に形成される密閉空間(90)に、圧電振動子(33)が収容される構成とすると良い。これによれば、カバー(50)によって圧電振動子(33)を保護することができる。
【0016】
請求項3に記載のように、超音波センサ側の調整用電極(70)は、基板(31)において薄肉部(32)とは異なる厚肉部(43)に形成されることが好ましい。これによれば、静電引力によるメンブレン構造体(34)の変形をより効果的に抑制することができる。すなわち、送信状態の共振周波数と受信状態の共振周波数のピークがずれるのを効果的に抑制することができる。例えば請求項4に記載のように、基板(31)の厚さ方向に垂直な方向において、厚肉部(43)は環状とされて薄肉部(32)を取り囲んだ構成を採用することができる。
【0017】
請求項5に記載のように、超音波センサ側の調整用電極(70)は、基板(31)の一面(31a)上に形成されると良い。このように、圧電振動子(33)と同一面に形成すると、検出用電極(35)と工程を共通化し、製造工程を簡素化することができる。
【0018】
請求項6に記載のように、カバー(50)において、対向部(51)と調整用電極(71)の形成部分とを含む中央部分(52)が、該中央部分(52)に隣接する周辺部分(53)よりも薄い構成とすると良い。これによれば、静電引力が生じたときに、カバー(50)の対向部(51)が変形し、メンブレン構造体(34)に近づきやすくなる。
【0019】
請求項7に記載のように、カバー側の調整用電極(71)を含むカバー(50)の中央部分(52)の剛性が、メンブレン構造体(34)の剛性よりも低いと尚良い。これによれば、メンブレン構造体(34)よりもカバー(50)の中央部分(52)のほうが変形しやすい。したがって、メンブレン構造体(34)の変形を抑制しつつ、静電引力によりカバー(50)を変形させて、対向間隔を狭めることができる。
【0020】
請求項8に記載のように、圧電振動子(33)の検出用電極(35,36)の一方が、超音波センサ側の調整用電極(70)を兼ねており、カバー側の調整用電極(71)は、基板(31)の厚さ方向に垂直な方向において、基板(31)における薄肉部(32)とは異なる厚肉部(43)に対応して形成されても良い。これによれば、超音波センサ装置の構成を簡素化することができる。
【0021】
一方、請求項9に記載のように、カバー(50)は、基板(31)における一面(31a)と反対の面(31b)に固定され、対向部(51)は、薄肉部(32)における圧電振動子(33)が形成された面と反対の面(32a)に対向しており、
カバー側の調整用電極(71)は、対向部(51)に形成され、
超音波センサ側の調整用電極(70)は、メンブレン構造体(34)に形成され、
カバー側の調整用電極(70)を含むカバー(50)の対向部(51)の剛性が、メンブレン構造体(34)の剛性よりも低い構成を採用することもできる。
【0022】
この場合、請求項10に記載のように、圧電振動子(33)の検出用電極(35,36)の一方が、超音波センサ側の調整用電極(70)を兼ねると良い。これによれば、超音波センサ装置の構成を簡素化することができる。
【0023】
請求項11に記載のように、密閉空間(90)に空気が封入されても良い。この場合、格別な装置を必要としない。また、請求項12に記載のように、密閉空間(90)に、空気よりも粘性係数の大きい気体が封入されても良い。ダンピング係数は、粘性係数に比例する。このため、空気より粘性係数が大きい気体(例えばヘリウム)を封入すると、調整用電極(70,71)に印加する電圧を低減することができる。また、同じ電圧なら、送信状態のQ値と受信状態のQ値との差を、空気に較べて大きくすることができる。したがって、ドップラーシフト量が大きくても、被検体を検出することが可能となる。
【0024】
請求項13に記載のように、電圧印加手段(S11,S25)は、圧電振動子(33)の受信状態のみ、調整用電極(70,71)に電圧を印加するようにしても良い。これによれば、メンブレン構造体(34)において、送信状態よりも受信状態のQ値を低くすることができる。したがって、被検体が相対的に移動し、ドップラーシフトが生じても、反射波、ひいては被検出体を精度良く検出することができる。
【0025】
請求項15に記載のように、制御部(110)は、
調整用電極(70,71)に電圧を印加しない状態の、圧電振動子(33)が送信する超音波の周波数と送信した超音波の反射波の周波数との差を算出する周波数差算出手段(S22)と、
周波数差算出手段により算出された周波数差により、調整用電極(70,71)に印加する電圧値を決定する電圧値決定手段(S23)と、を備え、
電圧印加手段(S25)は、電圧値決定手段(S23)にて決定された電圧値を調整用電極(70,71)に印加する構成としても良い。
【0026】
これによれば、送信周波数と受信した反射波の周波数の差に基づいて、調整用電極(70,71)に印加される電圧値が決定される。すなわち、相対的に移動する被検体の移動状態(例えば速度)に応じて受信状態のQ値が設定される。このため、被検体の相対的な移動状態によらず、被検体を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る超音波センサ装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】超音波センサ装置のうち、センサユニットの概略構成を示す平面図である。便宜上、カバーの図示を省略している。
【図3】図2のIII−III線に沿う、センサユニットの断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う、センサユニットの断面図である。
【図5】超音波センサ装置の回路構成の概略を示すブロック図である。
【図6】送受信処理を示すフローチャートである。
【図7】調整用電圧の印加タイミングを示すタイミングチャートである。
【図8】センサユニットの送信状態を示す断面図である。
【図9】センサユニットの受信状態を示す断面図である。
【図10】送信帯域と受信帯域を示す図である。
【図11】調整用電極の変形例を示す断面図である。
【図12】カバー側の調整用電極の配置の変形例を示す平面図であり、便宜上、カバー側の調整用電極を基板の一面に重ねて図示している。
【図13】第2実施形態に係る超音波センサ装置において、センサユニットの概略構成を示す断面図である。
【図14】第3実施形態に係る超音波センサ装置において、送受信処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。また、基板の厚さ方向、換言すればメンブレン構造体の振動方向を単に厚さ方向とし、該厚さ方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。
【0029】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態に係る超音波センサ装置10は、超音波センサ30及びカバー50を有するセンサユニット11と、処理回路110が構成された回路チップ12が、同一の配線基板13に実装されてなる。配線基板13には、超音波センサ30が送受信可能なように、貫通孔13aが形成されている。
【0030】
先ず、センサユニット11について説明する。
【0031】
図2〜図4に示すように、センサユニット11は、MEMS技術を用いて作製された圧電式の超音波センサ30(センサチップ)と、該超音波センサ30を構成する基板31に固定され、基板31との間に密閉空間90を形成するカバー50を備える。さらに、互いに対向するように超音波センサ30とカバー50のそれぞれに形成された調整用電極70,71を備える。
【0032】
超音波センサ30は、薄肉部32を有する基板31と、基板31の薄肉部32上に形成された圧電振動子33を有している。そして、薄肉部32と圧電振動子33とにより、基板31の他の部位(厚肉部43)よりも剛性の低いメンブレン構造体34が構成されている。このメンブレン構造体34が厚さ方向に振動することで、超音波の送信、受信がなされる。
【0033】
本実施形態では、シリコンからなる支持基板38とシリコンからなる半導体層40の間に、二酸化シリコンからなる絶縁層39が介在されたSOI構造の基板と、半導体層40における絶縁層39と反対の面上に形成された絶縁膜41とにより、基板31が構成されている。絶縁膜41としては、二酸化シリコン、窒化シリコンなどを構成材料とする単層膜や多層膜を採用することができる。
【0034】
このような基板31において、絶縁膜41における半導体層40と反対の面が、圧電振動子33の形成される一面31aをなし、支持基板38における絶縁層39と反対の面が一面31aの裏面31bをなしている。基板31には、半導体層40における絶縁膜41と反対の面を底面とし、裏面31bに開口する開口部42が形成されている。この開口部42は、支持基板38及び絶縁層39をエッチングにより部分的に除去してなる。本実施形態では、基板31の裏面31bが(100)面、支持基板38の開口部壁面が(111)面となっている。
【0035】
そして、基板31のうち、開口部42を架橋する部分、具体的には開口部42を架橋する半導体層40及び絶縁膜41の部分が、基板31のうちの薄肉部32をなしている。なお、図3に示す符号32aは、薄肉部32のうち、圧電振動子33と反対の一面であり、この一面32aは、上記した半導体層40における開口部42の底をなす面と一致している。一方、基板31のうち、薄肉部32を除く部分が、基板31のうちの厚肉部43をなしている。薄肉部32は、図2に示すように平面矩形状の外形輪郭を有しており、厚肉部43は、この薄肉部32を取り囲むように矩形環状を有している。
【0036】
圧電振動子33は、基板31の一面31a上であって、薄肉部32の部分に形成されている。より詳しくは、図2に示すように、薄肉部32の全域を覆うように、薄肉部よりも若干大きい平面矩形状をなすように形成されている。この圧電振動子33は、圧電体薄膜37を一対の検出用電極35,36間に配置してなるものである。なお、圧電体薄膜37が特許請求の範囲に記載の圧電体に相当する。
【0037】
また、厚さ方向において検出用電極35,36が対向している。すなわち厚さ方向において、基板31の一面31a上に、検出用電極35、圧電体薄膜37、検出用電極36の順で積層配置されている。検出用電極35,36の構成材料しては、白金(Pt),金(Au),アルミニウム(Al)等を採用することができる。また、圧電体薄膜37の構成材料としては、強誘電体であるPZTや、窒化アルミニウム(AlN),酸化亜鉛(ZnO)等を採用することができる。本実施形態では、検出用電極35,36の構成材料としてPtを採用し、圧電体薄膜37の構成材料としてPZTを採用している。なお、図2及び図4に示す符号44は、カバー50の図示しないパッドと検出用電極35とを電気的に接続するための配線である。また、図2に示す符号45は、カバー50の図示しないパッドと検出用電極36とを電気的に接続するための配線である。本実施形態では、これら配線44,45が、検出用電極35,36と同じ材料を用いて一体的に形成されている。
【0038】
また、基板31の一面31aであって、厚肉部43には、基板31にカバー50を固定するための金属層46が形成されている。この金属層46は、図2に示すように、メンブレン構造体34、配線44,45、調整用電極70,71を取り囲むように、基板31の一面31aの外周端付近に形成されている。
【0039】
カバー50は、超音波センサ30の基板31に固定されて、基板31との間に、メンブレン構造体34に隣接する密閉空間90を形成するものである。カバー50の構成材料としては、合成樹脂、やシリコンなどの半導体、セラミックを採用することができる。本実施形態では、合成樹脂からなるカバー50を採用している。
【0040】
このカバー50は、厚さ方向においてメンブレン構造体34と対向しつつ離間して配置された対向部51を少なくとも含む部分が、後述する静電引力により、メンブレン構造体34に向けて変位するようになっている。具体的には、対向部51を含む中央部分が、該中央部分を取り囲む周辺部分よりも薄肉となっている。本実施形態では、この薄肉の部分を薄肉部52、周辺の厚肉の部分を厚肉部53と示す。薄肉部52は、薄肉部32、ひいてはメンブレン構造体34よりも大きく、対向部51を除く部分が、基板31の厚肉部43に対向している。このように、合成樹脂からなり、薄肉部52と厚肉部53とで厚さが異なるカバー50は、所定厚さの熱可塑性樹脂フィルムを部分的に複数枚積層し、接着することで、薄肉部52と厚肉部53の厚さを異ならせている。
【0041】
また、カバー50は、薄肉部52を底部とする凹部54が、密閉空間90側となるように、基板31の一面31a側に配置されている。厚肉部53における基板31との対向面には、上記した金属層46に対向して金属層55が形成されている。すなわち、メンブレン構造体34、配線44,45、調整用電極70,71を取り囲むように形成されている。そして、金属層46,55同士が接合されて、環状の接合部が形成されている。この接合部により、カバー50と基板31との間に密閉空間90が形成されている。本実施形態では、この密閉空間90に空気が大気圧状態で封入されている。
【0042】
また、カバー50には、圧電振動子33を構成する検出用電極35,36、後述する調整用電極70,71を、密閉空間90の外部と電気的に接続するための貫通電極が形成されている。図3に示す符号56は、薄肉部52における対向部51とは異なる部分に形成され、カバー50側の調整用電極71と電気的に接続された貫通電極である。また、図4に示す符号57は、厚肉部53に形成され、超音波センサ30側の調整用電極70と電気的に接続された貫通電極である。また、符号58は、厚肉部53に形成され、圧電振動子33の検出用電極35(配線44)と電気的に接続された貫通電極である。図示しないが、カバー50の厚肉部53には、検出用電極36(配線45)と電気的に接続された貫通電極も形成されている。このような貫通電極56〜58は、樹脂フィルムに貫通孔を形成した後、貫通孔内に導電性ペーストの充填や金属メッキを施すことで形成することができる。
【0043】
また、カバー50の外面には、一端が貫通電極56に接続され、他端が厚肉部53まで延設された配線60が形成されている。そして、配線60の厚肉部53側の端部が図示しないパッドとされ、このパッドに例えばボンディングワイヤが接続されるようになっている。
【0044】
なお、図4に示す符号59は、厚肉部53における基板31との対向面に形成されたランドである。このランドは、例えば銅箔をパターニングしてなる。調整用電極70は、配線72及びランド59を介して貫通電極57と電気的に接続(はんだ接合)されている。また、検出用電極35は、配線44及びランド59を介して貫通電極58と電気的に接続(はんだ接合)されている。検出用電極36についても同様である。このように、複数枚の樹脂フィルムを積層してなるカバー50は、貫通電極56〜58,ランド59、配線60などを有している。すなわち、カバー50は配線基板として構成されている。なお、配線72は、調整用電極70と貫通電極57(ランド59)とを繋ぐ配線である。
【0045】
一対の調整用電極70,71は、通電により静電引力を生じて、カバー50の薄肉部52(対向部51)を、超音波センサ30のメンブレン構造体34に近づける機能を果たすものである。調整用電極70は、超音波センサ30側に形成され、調整用電極71は、カバー50において調整用電極70と対向する位置に形成される。
【0046】
超音波センサ30側の調整用電極70は、圧電振動子33を構成する検出用電極35,36と別の電極として構成されており、基板31の一面31a上であって厚肉部43に、メンブレン構造体34を取り囲むように形成されている。より詳しくは、メンブレン構造体34との間に垂直方向において所定のクリアランスを有しつつメンブレン構造体34の外形輪郭に沿って形成されており、配線44,45を引き出すべく略C字状を有している。本実施形態では、検出用電極35,36、配線44,45と同じ金属材料からなる。
【0047】
カバー50側の調整用電極71は、カバー50における薄肉部52の内面(凹部54側の面)に形成されている。より詳しくは、薄肉部52のうち、垂直方向においてメンブレン構造体34よりも外側の部分に形成されている。この調整用電極71は、配線44,45を引き出す必要がないため、矩形環状を有している。本実施形態では、ランド59同様、銅箔をパターニングしてなる。
【0048】
このようにセンサユニット11では、基板31の薄肉部32と圧電振動子33とにより、他の部位よりも薄肉のメンブレン構造体34が構成され、このメンブレン構造体34が厚さ方向に振動可能となっている。また、基板31の一面31aに固定されたカバー50により、基板31とカバー50との間に密閉空間90が形成されている。このため、カバー50が配置された基板31の一面31a側で超音波の送受信がなされるのではなく、基板31の裏面31b側で超音波の送受信がなされる。
【0049】
次に、回路チップ12に構成された処理回路110を含め、超音波センサ装置10の回路構成について、図5を用いて説明する。
【0050】
処理回路110は、制御回路111、駆動信号生成回路112、駆動回路113、増幅回路114、フィルタ回路115、TAD116、DSP117、及び調整用電圧生成回路118を備えている。この処理回路110が、特許請求の範囲に記載の制御部に相当する。
【0051】
制御回路111は、図示しない中央演算装置(CPU)、CPUが実行する各種プログラムが格納されたリードオンメモリ(ROM)、CPUがROMに格納された各プログラムにしたがって実行する各種演算のための作業領域として用いられるランダムアクセスメモリ(RAM)等を備えている。そして、駆動信号生成回路112に対し、駆動信号生成のタイミングを制御する機能、被検体の有無や被検体の位置(距離及び方位)を検出する機能、検出結果を外部装置に出力する機能、調整用電圧生成回路118に、調整用電圧生成のタイミングを制御する機能などを有している。
【0052】
駆動信号生成回路112は、制御回路111からの指示信号を受けると、基準周波数のパルス信号を一定期間だけ生成し、このパルス信号に基づいて、所定周波数f1の駆動信号を生成する。具体的には、メンブレン構造体34の共振周波数とほぼ一致する所定周波数f1の駆動信号を生成する。
【0053】
駆動回路113(ドライバ)は、駆動信号生成回路112から出力された駆動信号により、圧電振動子33を駆動する駆動回路であり、これにより、超音波センサ30(センサユニット11)から所定周波数f1の超音波が送信される。なお、本実施形態では、駆動回路113が、トランスなどの電力増幅回路を含んでいる。
【0054】
増幅回路114は、圧電振動子33が受信した信号を増幅し、増幅後の受信信号をフィルタ回路115へ出力する。フィルタ回路115は、増幅回路114にて増幅された圧電振動子33の受信信号に対してフィルタ処理を行う。本実施形態では、メンブレン構造体34の受信帯域から外れた周波数成分を除去する。
【0055】
TAD116は、周知の時間A/D変換回路であり、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)117は、TAD116にてA/D変換された圧電振動子33の受信信号に基づいて、受信信号の振幅や位相などを算出する。そして、これら算出結果は、制御回路111に出力される。なお、DSP117はメモリを有している。
【0056】
調整用電圧生成回路118は、制御回路111からの指示信号を受けると、所定の電圧を調整用電極70,71間に印加する。また、制御回路111からの指示信号を受けると、調整用電極70,71間に印加する電圧をオフとする。
【0057】
次に、送受信処理の一例を、図6を用いて説明する。
【0058】
例えば車両のイグニッションキーがオンされ、処理回路110の電源がオンされると、制御回路111は、駆動信号生成回路112に対し、駆動信号生成を指示する。これを受け、駆動信号生成回路112は、所定周波数f1の駆動信号を生成し、駆動回路113に出力する。
【0059】
出力された駆動信号(電圧信号)は、駆動回路113を介して圧電振動子33の検出用電極35,36に伝達される。これにより、圧電振動子33は垂直方向(PZTのd31方向)に振動し、これによりメンブレン構造体34が厚さ方向に振動する。超音波センサ30に対して、基板31の一面31a側にはカバー50が配置されているため、この振動により主として基板31の裏面31b側から超音波が送信される。この超音波の周波数は駆動信号の周波数f1と一致している。以上がステップ10である。
【0060】
次に、送信処理の終了後、制御回路111は、調整用電圧生成回路118に対し、調整用電圧の生成を指示する。これを受け、調整用電圧生成回路118は、所定電圧を調整用電極70,71間に印加する(ステップ11)。このステップ11が、特許請求の範囲に記載の電圧印加手段に相当する。本実施形態では、駆動信号生成回路112からの駆動信号の出力停止をもって送信処理の終了とし、図7に示すように、駆動信号の出力を停止させるとともに調整用電圧をオンとする。なお、駆動信号の出力停止後、メンブレン構造体34の残響期間の終了をもって、送信処理の終了とするとともに、調整用電圧のオンとしても良い。
【0061】
そして、ステップ11にて、調整用電極70,71に調整用電圧が印加されると、制御回路111は、DSP117が算出した圧電振動子33の受信信号の振幅が、DSP117のメモリに予め記憶された所定の閾値より大きいか否かを比較する。すなわち、超音波センサ30(圧電振動子33)が反射波を受信したか否かを判定する(ステップ12)。
【0062】
ステップ12にて、圧電振動子33の受信信号の振幅が閾値よりも大きい場合、制御回路111は、被検体が存在するもの(被検体あり)と判定し、振幅が閾値を超えたタイミングから、被検体までの距離を算出する(ステップ13)。
【0063】
そして、調整用電圧を印加してから所定時間経過後、制御回路111は、調整用電圧生成回路118に対し、調整用電圧のオフを指示する。これを受け、調整用電圧生成回路118は、調整用電極70,71間への電圧印加をオフとする(ステップ14)。なお、調整用電圧の印加は、少なくとも圧電振動子33が反射波の受信が可能な期間においてなされ、次の駆動信号の生成指示までに調整用電圧はオフ状態とされる。
【0064】
次に、本実施形態に係る超音波センサ装置10の特徴部分の効果について説明する。
【0065】
本実施形態では、圧電型の超音波センサ30にカバー50が固定され、基板31とカバー50との間に、空気が封入された密閉空間90が形成されている。また、密閉空間90は、メンブレン構造体34と隣接している。このように、メンブレン構造体34の振動が、密閉空間90のダンピングの影響を受けるようになっている。
【0066】
ここで、メンブレン構造体34の振動の状態を示すQ値は、メンブレン構造体34に隣接する密閉空間90のダンピング係数Cに反比例し、ダンピング係数Cは、カバー50の対向部51とメンブレン構造体34との対向間隔Dに反比例する。このため、対向間隔Dが狭いほどダンピング係数Cが大きくなり、Q値は低くなる。
【0067】
本実施形態では、圧電振動子33の送信状態、すなわち駆動信号の出力開始から、出力停止までの期間又は残響停止までの期間において、調整用電極70,71に調整用電圧を印加しない。このため、調整用電極70,71間に静電引力が生じず、図8に示すように、カバー50の対向部51(薄肉部52)は、超音波センサ30のメンブレン構造体34に近づかない。したがって、対向部51とメンブレン構造体34との対向間隔は、メンブレン構造体34が振動の中心位置にあるとすると、超音波を送受信せず、且つ、調整用電圧を印加しないときの初期間隔D1と等しくなる。
【0068】
一方、圧電振動子33の受信状態、すなわち反射波を受信可能な期間において、調整用電極70,71間に調整用電圧を印加する。このため、調整用電極70,71間に静電引力が生じ、図9に示すように、カバー50の対向部51(薄肉部52)は、変形しつつ超音波センサ30のメンブレン構造体34に引き寄せられる。したがって、対向部51とメンブレン構造体34との対向間隔は、メンブレン構造体34が振動の中心位置にあるとすると、上記初期間隔D1よりも狭いD2となる。
【0069】
このように、本実施形態では、受信状態の対向間隔D2を、送信状態の対向間隔D1よりも狭くする。すなわち、受信状態のQ値を、送信状態のQ値よりも低くする。このため、図10に示すように、送信状態のメンブレン構造体34の周波数帯域と、受信状態のメンブレン構造体34の周波数帯域とでは、受信状態のほうが振幅のピークは下がるものの周波数帯域が広くなる。
【0070】
また、調整用電極70,71間に電圧を印加し、静電引力を生じさせると、対向部51がメンブレン構造体34に近づくようになっている。したがって、調整用電極70,71に電圧を印加する構成でありながら、図10に示すように、メンブレン構造体34の共振周波数を、発信状態と受信状態とでほぼ一致(所定の共振周波数f1で一致)させることができる。すなわち共振ピークのずれが生じるのを抑制することができる。
【0071】
以上から、本実施形態によれば、共振周波数(共振ピーク)をf1で同じとしつつ、送信状態では周波数帯域が狭く、受信状態では周波数帯域が広くなる。したがって、被検体が相対的に移動し、ドップラーシフトが生じても、反射波、ひいては被検出体を精度良く検出することができる。
【0072】
なお、60kHzの超音波の場合、被検体の相対速度が10m/sだと、被検体が静止している場合と較べて2kHz程度のシフトが生じる。例えば、ドップラーシフトにより、受信信号の周波数がf1よりも高周波のf2に変化した場合、送受信で周波数帯域が同じ場合、受信信号が閾値を下回り、被検体を検出することができない。これに対し、本実施形態では、図10に示すように受信状態の周波数帯域を広くするため、周波数f2において受信信号が閾値を上回り、これにより被検体を検出することができる。
【0073】
また、本実施形態では、カバー50が基板31の一面31aに固定され、カバー50と基板31との間に形成される密閉空間90に、圧電振動子33が収容される。このため、カバー50によって圧電振動子33を保護することができる。
【0074】
また、本実施形態では、超音波センサ30側の調整用電極70が、基板31の厚肉部43に形成される。このため、静電引力が生じても、メンブレン構造体34に変形が生じ難い。したがって、送信状態の共振周波数と受信状態の共振周波数のピークがずれるのを効果的に抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態では、超音波センサ30側の調整用電極70が、基板31の一面31a上に形成される。このように、圧電振動子33と同一面に形成すると、検出用電極35や配線44,45などと工程を共通化し、製造工程を簡素化することができる。
【0076】
また、本実施形態では、カバー50の薄肉部52の厚さを、薄肉部52を取り囲む厚肉部53よりも薄くしている。このため、静電引力が生じたときに、カバー50の対向部51が変形し、メンブレン構造体34に近づきやすい。したがって、送信状態の共振周波数と受信状態の共振周波数のピークがずれるのをより効果的に抑制することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、カバー50の薄肉部52の剛性が、メンブレン構造体34の剛性よりも低くなっている。このため、静電引力が生じたときに、メンブレン構造体34よりもカバー50の薄肉部52のほうが変形しやすい。したがって、メンブレン構造体34の変形を抑制しつつ、静電引力によりカバー50を変形させて、対向間隔Dを狭めることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、基板31の一面31aに形成した金属層46と、カバー50の厚肉部53の表面に形成した金属層55とをはんだ等を介して接合する例を示したが、基板31へのカバー50の固定は上記例に特に限定されるものではない。例えば接着固定しても良い。また、カバー50の構成材料としてシリコンを採用した場合、基板31を構成する半導体層40のシリコンに対して、直接接合によりカバー50を固定しても良い。
【0079】
(変形例)
本実施形態では、超音波センサ装置10が、センサユニット11とは別に回路チップ12及び配線基板13を有する例を示した。しかしながら、回路チップ12に構成される処理回路110がセンサユニット11に形成された構成(集積された構成)を採用することもできる。
【0080】
また、本実施形態では、メンブレン構造体34の受信時のみ、調整用電圧を印加して静電引力を生じさせる例を示した。しかしながら、受信時だけでなく送信時においても、調整用電圧を印加し、静電引力を生じさせても良い。静電引力は、印加電圧の2乗に比例するため、送信時よりも受信時を高電圧とすることで、受信状態の対向間隔D2を、送信状態の対向間隔D1よりも狭くする、すなわち、受信状態のQ値を、送信状態のQ値よりも低くすることができる。しかしながら、本実施形態に示したように、メンブレン構造体34の受信時のみ調整用電圧を印加するほうが、調整用電圧を低くすることができる。
【0081】
本実施形態では、垂直方向において、厚肉部43は環状とされて薄肉部32を取り囲む例を示した。しかしながら、薄肉部32が2つの厚肉部43を架橋する構成としても良い。この場合、カバー50の少なくとも一部は薄肉部32に固定されることとなる。
【0082】
本実施形態では、圧電振動子33の検出用電極35,36とは別に、超音波センサ30側の調整用電極70が形成される例を示した。しかしながら、圧電振動子33の検出用電極35,36の一方が、超音波センサ30側の調整用電極70を兼ねた構成とすることもできる。図11に示す例では、厚さ方向において対向部51に近い検出用電極36を、調整用電極70と兼用としている。これによれば、調整用電極70を兼用とするため、センサユニット11、ひいては超音波センサ装置10の構成を簡素化することができる。
【0083】
ただし、検出用電極35,36は、基板31の薄肉部32上に位置するため、厚肉部43に調整用電極70が形成される構成に較べて、メンブレン構造体34が静電引力により変形しやすくなる。このため、カバー50側の調整用電極71を、垂直方向において基板31の厚肉部(43)に対応する位置に形成すると良い。これによれば、調整用電極70を兼用としつつ、メンブレン構造体34の静電引力による変形を抑制することができる。なお、カバー50側の調整用電極70を、調整用電極70を兼ねる検出用電極36に対向して設ける場合には、調整用電極70を含むカバー50の対向部51(薄肉部52)の剛性を、メンブレン構造体34の剛性よりも低くすれば良い。
【0084】
本実施形態では、超音波センサ30側の調整用電極70を矩形環状の一部を除去してなる略C字状とし、カバー50側の調整用電極71を矩形環状とする例を示した。しかしながら、超音波センサ30側の調整用電極70を円形環状の一部を除去してなる略C字状とし、カバー50側の調整用電極71を円形環状としても良い。この場合、調整用電極71の中心と、薄肉部52の中心を一致させることで、矩形環状に較べて、薄肉部52をきれいに変形させることができる。なお、図12では、位置関係を示すために、カバー50側の調整用電極71を示している。
【0085】
本実施形態では、圧電振動子33を構成する検出用電極35,36の配線44,45を引き出すために、超音波センサ30側の調整用電極70をC字状とし、開放端(自由端)間から配線44,45を引き出す例を示した。しかしながら、配線44,45を調整用電極70に対して下層配線とすることで、調整用電極70を環状とすることもできる。また、配線72、又は、調整用電極70及び配線72を、配線44,45に対して下層配線とすることで、調整用電極70を環状とすることもできる。
【0086】
本実施形態では、密閉空間90に空気が封入される例を示した。しかしながら、封入される気体は、特に空気に限定されるものではない。例えば空気よりも粘性係数μの大きい気体が封入されても良い。ダンピング係数Cは、封入される気体の粘性係数μに比例する。このため、空気より粘性係数μが大きい気体(例えばヘリウム)を封入すると、調整用電圧を低減することができる。また、同じ電圧なら、送信状態のQ値と受信状態のQ値との差を、空気に較べて大きくすることができる。したがって、ドップラーシフト量が大きくても、被検体を検出することが可能となる。
【0087】
本実施形態では、カバー50側の調整用電極71を、カバー50の薄肉部52における内面(基板31との対向面)に設ける例を示した。しかしながら、薄肉部52の外面に調整用電極71を設けても良い。この場合、構成を簡素化することができる。
【0088】
(第2実施形態)
第1実施形態では、基板31の一面31aにカバー50が固定され、圧電振動子33が密閉空間90に収容される例を示した。これに対し、本実施形態では、図13に示すように、基板31の裏面31bにカバー50が固定される点を特徴とする。このため、第1実施形態に示すように、基板31の裏面31b側で超音波の送受信がなされるのではなく、基板31の一面31a側で超音波の送受信がなされる。
【0089】
図13に示す例において、超音波センサ30は、第1実施形態に示すものとほぼ同じ構成となっている。図13では、接合用の金属層46が、基板31の裏面31bであって厚肉部43の部分に形成されている。また、圧電振動子33の検出用電極35が、超音波センサ30側の調整用電極70を兼ねている。
【0090】
カバー50は、半導体基板61と、半導体基板61の一面に形成された絶縁膜62からなる。このカバー50には、絶縁膜62を底部とし、半導体基板61における少なくとも対向部51の部分を除去してなる開口部63が形成されている。本実施形態では、半導体基板61がシリコンからなり、半導体基板61の開口部壁面が(111)面となっている。
【0091】
そして、カバー50のうち、開口部63を架橋する絶縁膜62の部分が、薄肉部52をなしている。図13に示す例では、対向部51の部分のみを薄肉部52としている。絶縁膜62における半導体基板61と反対の面であってカバー50の厚肉部53には、接合用の金属層55が形成されている。金属層55は、上記した超音波センサ30の金属層46と接合されており、この接合により、基板31の開口部42を含んで密閉空間90が形成されている。
【0092】
また、金属層55が形成された絶縁膜62の表面であって、対向部51にはカバー50側の調整用電極71が形成されている。この調整用電極71は、垂直方向において平面矩形状の対向部51(薄肉部52)全域を覆うように、対向部51よりも若干大きく形成されている。また、半導体基板61及び絶縁膜62を貫通する貫通電極64に、配線73を介して電気的に接続されている。
【0093】
このように、本実施形態では、カバー50の対向部51が、絶縁膜62と調整用電極71からなる。一方、超音波センサ30のメンブレン構造体34は、第1実施形態同様、基板31の薄肉部32(半導体層40及び絶縁膜41)と圧電振動子33からなる。このため、調整用電極70を含むカバー50の対向部51の剛性が、メンブレン構造体34の剛性よりも低くなっている。
【0094】
このような構成を採用しても、第1実施形態に記載の超音波センサ装置10と同等の効果を奏することができる。
【0095】
また、検出用電極35が調整用電極70を兼ねるため、センサユニット11、ひいては超音波センサ装置10の構成を簡素化することができる。なお、検出用電極36が調整用電極70を兼ねても良い。さらには、検出用電極35,36とは別の電極として調整用電極70を設けることもできる。例えば、半導体層40と絶縁膜41との間や薄肉部32の一面32aに調整用電極70を設けることができる。すなわち、メンブレン構造体34の形成範囲内であれば特に限定されるものではない。
【0096】
なお、本実施形態では、半導体基板61及び絶縁膜62からなるカバー50の例を示したが、カバー50の構成は上記例に特に限定されるものではない。第1実施形態同様、樹脂製のカバー50を採用しても良い。
【0097】
(第3実施形態)
第1実施形態では、受信時において、予め設定された所定電圧を調整用電圧として調整用電極70,71間に印加する例を示した。これに対し、本実施形態では、受信信号の周波数をDSP117が算出する。そして、制御回路111は、算出された受信信号の周波数と、駆動信号の周波数、すなわち送信信号の周波数との差を算出し、この周波数差に基づく所定電圧を生成するように、調整用電圧生成回路118に指示する点を特徴とする。
【0098】
次に、本実施形態に係る送受信処理の一例を、図14を用いて説明する。
【0099】
ステップ20の送信処理は、第1実施形態に示したステップ10と同じである(図7参照)。なお、本実施形態では、上記したように基板31の一面31a側から超音波が送信される。この超音波の周波数は駆動信号の周波数f1と一致している。
【0100】
超音波が送信されると、次いで、制御回路111は、DSP117が算出した圧電振動子33の受信信号の振幅が、DSP117のメモリに予め記憶された所定の閾値より大きいか否かを比較する。すなわち、超音波センサ30(圧電振動子33)が反射波を受信したか否かを判定する(ステップ21)。
【0101】
ステップ21にて、駆動信号を生成してから反射波を受信可能な所定期間において、圧電振動子33の受信信号の振幅が閾値よりも小さい場合、再度ステップ20,21を実行する。一方、圧電振動子33の受信信号の振幅が閾値よりも大きい場合、制御回路111は、DSP117が算出した受信信号の周波数と、制御回路111のメモリに記憶された駆動信号の周波数f1とから、周波数差を算出する(ステップ22)。このステップ22が、特許請求の範囲に記載の周波数差算出手段に相当する。
【0102】
そして、制御回路111は、算出した周波数差から、調整用電圧生成回路118が生成すべき電圧値を決定する(ステップ23)。このステップ23が、特許請求の範囲に記載の電圧値決定主段に相当する。例えば周波数差が大きい、すなわちドップラーシフト量が大きいほど、メンブレン構造体34のQ値が低くなるように、調整用電圧として大きい値が設定される。
【0103】
次いで、調整用電圧値が決定されると、S20同様、超音波の送信処理が実行される(ステップ24)。制御回路111から調整用電圧生成回路118には、調整用電圧生成の指示信号は出力されない。
【0104】
次に、送信処理(ステップ23)の終了後、制御回路111は、調整用電圧生成回路118に対し、調整用電圧の生成を指示する。このとき、ステップ20〜23の処理で決定された所定の電圧値を生成すべく指示する。これを受け、調整用電圧生成回路118は、所定電圧を調整用電極70,71間に印加する(ステップ25)。このステップ25が、特許請求の範囲に記載の電圧印加手段に相当する。以後のステップ26〜28は、第1実施形態に示したステップ12〜14と同じである。
【0105】
このように本実施形態によれば、送信周波数と受信した反射波の周波数の差に基づいて、調整用電極70,71に印加される調整用電圧の電圧値が決定される。すなわち、相対的に移動する被検体の移動状態(例えば速度)に応じて受信状態のQ値が設定される。このため、被検体の相対的な移動状態によらず、被検体を精度良く検出することができる。
【0106】
なお、図14に示すフローでは、ステップ24〜28の処理を1回実行するごとに、ステップ20〜23の処理を実行する例を示した。しかしながら、所定の期間においてステップ24〜28の処理を繰り返し実行しても良い。すなわち、決定された調整用電圧値を用いて、複数回送受信処理を実行するようにしても良い。
【0107】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
10・・・超音波センサ装置
11・・・センサユニット
30・・・超音波センサ
31・・・基板
31a・・・一面
32・・・薄肉部
33・・・圧電振動子
34・・・メンブレン構造体
35,36・・・調整用電極
37・・・圧電体
50・・・カバー
51・・・対向部
52・・・薄肉部(中央部分)
53・・・厚肉部(周辺部分)
70,71・・・調整用電極
90・・・密閉空間
110・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉部(32)を有する基板(31)と、
前記基板(31)の厚さ方向において対向配置された一対の検出用電極(35,36)間に圧電体(37)が介在されてなり、前記基板(31)の一面(31a)であって薄肉部(32)上に形成されて、前記薄肉部(32)とともに前記基板(31)の他の部分よりも剛性の低いメンブレン構造体(34)を構成する圧電振動子(33)と、を有し、
前記圧電振動子(33)により超音波を送信するととともに、同一の前記圧電振動子(33)によりその反射波を受信する超音波センサ(30)を備えた超音波センサ装置であって、
前記基板(31)の厚さ方向において、前記メンブレン構造体(34)と離間しつつ対向して配置された対向部(51)を有し、前記基板(31)に固定されて、前記基板(31)との間に気体が封入された密閉空間(90)を形成するカバー(50)と、
一方が前記超音波センサ(30)に形成され、他方が前記カバー(50)に形成されて前記基板(31)の厚さ方向において対向配置され、通電により静電引力を生じる一対の調整用電極(70,71)と、
前記調整用電極(70,71)への通電を制御する制御部(110)と、を備え、
前記静電引力により、前記カバー(50)の対向部(51)が前記メンブレン構造体(34)に近づくように構成され、
前記制御部(110)は、少なくとも前記圧電振動子(33)の受信状態で前記調整用電極(70,71)間に電圧を印加するとともに、前記圧電振動子(33)の受信状態における前記カバー(50)の対向部(51)と前記メンブレン構造体(34)との対向間隔(D2)のほうが、前記圧電振動子(33)の送信状態における前記カバー(50)の対向部(51)と前記メンブレン構造体(34)との対向間隔(D1)よりも狭くなるように前記調整用電極(70,71)への通電を制御する電圧印加手段(S11,S25)を有することを特徴とする超音波センサ装置。
【請求項2】
前記カバー(50)は、前記基板(31)の一面(31a)に固定され、
前記カバー(50)と前記基板(31)との間に形成される密閉空間(90)に、前記圧電振動子(33)が収容されることを特徴とする請求項1に記載の超音波センサ装置。
【請求項3】
前記超音波センサ側の調整用電極(70)は、前記基板(31)において前記薄肉部(32)とは異なる厚肉部(43)に形成されることを特徴とする請求項2に記載の超音波センサ装置。
【請求項4】
前記基板(31)の厚さ方向に垂直な方向において、前記厚肉部(43)は環状とされて前記薄肉部(32)を取り囲んでいることを特徴とする請求項3に記載の超音波センサ装置。
【請求項5】
前記超音波センサ側の調整用電極(70)は、前記基板(31)の一面(31a)上に形成されることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の超音波センサ装置。
【請求項6】
前記カバー(50)において、前記対向部(51)と前記調整用電極(71)の形成部分とを含む中央部分(52)が、該中央部分(52)に隣接する周辺部分(53)よりも薄いことを特徴とする請求項3〜5いずれか1項に記載の超音波センサ装置。
【請求項7】
前記カバー側の調整用電極(70)を含むカバー(50)の中央部分(52)の剛性が、前記メンブレン構造体(34)の剛性よりも低いことを特徴とする請求項6に記載の超音波センサ装置。
【請求項8】
前記圧電振動子(33)の検出用電極(35,36)の一方が、前記超音波センサ側の調整用電極(70)を兼ねており、
前記カバー側の調整用電極(71)は、前記基板(31)の厚さ方向に垂直な方向において、前記基板(31)における薄肉部(32)とは異なる厚肉部(43)に対応して形成されることを特徴とする請求項2に記載の超音波センサ装置。
【請求項9】
前記カバー(50)は、前記基板(31)における一面(31a)と反対の面(31b)に固定され、前記対向部(51)は、前記薄肉部(32)における圧電振動子(33)が形成された面と反対の面(32a)に対向しており、
前記カバー側の調整用電極(71)は、前記対向部(51)に形成され、
前記超音波センサ側の調整用電極(70)は、前記メンブレン構造体(34)に形成され、
前記カバー側の調整用電極(71)を含むカバー(50)の対向部(51)の剛性が、前記メンブレン構造体(34)の剛性よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の超音波センサ装置。
【請求項10】
前記圧電振動子(33)の検出用電極(35,36)の一方が、前記超音波センサ側の調整用電極(70)を兼ねることを特徴とする請求項9に記載の超音波センサ装置。
【請求項11】
前記密閉空間(90)に空気が封入されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項に記載の超音波センサ装置。
【請求項12】
前記密閉空間(90)に、空気よりも粘性係数の大きい気体が封入されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項に記載の超音波センサ装置。
【請求項13】
前記電圧印加手段(S11,S25)は、前記圧電振動子(33)の受信状態のみ、前記調整用電極(70,71)に電圧を印加することを特徴とする請求項1〜12いずれか1項に記載の超音波センサ装置。
【請求項14】
前記制御部(110)は、
前記調整用電極(70,71)に電圧を印加しない状態で、前記圧電振動子(33)が送信する超音波の周波数と、送信した超音波の反射波の周波数との差を算出する周波数差算出手段(S22)と、
前記周波数差算出手段により算出された周波数差により、前記調整用電極(70,71)に印加する電圧値を決定する電圧値決定手段(S23)と、を有し、
前記電圧印加手段(S25)は、前記電圧値決定手段(S23)にて決定された電圧値を前記調整用電極(70,71)に印加することを特徴とする請求項13に記載の超音波センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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