説明

超音波データ処理装置

【課題】対象組織のトレースを行う場合に、状況に応じて自動トレースまたはマニュアルトレースを選択できるようにする。
【解決手段】断層画像上において対象組織の外側に外側ROIが設定され、その内側に内側ROIが設定される。外側ROIの表面上に存在する複数のボクセルの値に基づき外側ヒストグラム100が形成される。同様に、内側ROIの表面上に存在する複数のボクセルの値に基づいて内側ヒストグラム102が形成される。それらの重複関係を評価するため、外側ヒストグラム100のうちで区間Aに属する部分の面積ΔS1が求められ、それと内側ヒストグラム102の面積S2との比が演算される。その比の大小によって自動トレースまたはマニュアルトレースが判定される。区間Aの決定に当たって、内側ヒストグラムにおける高輝度側の低レベル裾野部分が除外されるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波データ処理装置に関し、特に対象組織の輪郭のトレース技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置等の超音波データ処理装置は、超音波データに基づいて対象組織の面積や体積を計測する機能を有する。対象組織は、例えば、左室、胎盤、腫瘍、等である。面積演算は二次元超音波データ(断層データ)に基づいて実行され、体積演算は通常、三次元超音波データ(ボリュームデータ)に基づいて実行される。対象組織の面積や体積を計測するためには、対象組織の輪郭をトレースする必要がある。面積演算に当たっては対象組織の外形が特定され、体積演算に当たっては対象組織の表面が特定される。
【0003】
トレース方式としては手動トレース及び自動トレースが知られている。手動トレースによれば、経験則に基づく目視判断に基づいて輝度差があまりないような構造部分についても比較的正確にトレースを行えるが、面倒であり、負担が大きいという面を指摘できる。また、対象組織表面の全体をトレースすることはかなり困難である。自動トレースによれば、ユーザー負担が生じないが、輝度差が乏しい構造部分については精度良くトレースを行えない場合が多い。なお、特許文献1、2には組織トレースあるいは組織抽出について記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−291750号公報
【特許文献2】特開平7−184892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手動トレース及び自動トレースは上記のようにトレードオフの関係にあるが、その場合に、いずれの方式を選択するのかについての判断をユーザーに委ねると、直感的な判断にならざるを得ず、結果として、各方式の利点を旨く活用できない場合が生じる。そこで、客観的な判断指標が求められている。
【0006】
本発明の目的は、手動トレース及び自動トレースを選択する際の客観的な指標を得られるようにすることにある。本発明の他の目的は、その客観的な指標の信頼性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二次元又は三次元の生体内空間から取得された超音波データを処理する超音波データ処理装置において、前記生体内空間に対応するデータ空間において、対象組織の外側に外側参照部を設定し、前記対象領域の内側に内側参照部を設定するための設定手段と、前記外側参照部についての外側輝度分布及び前記内側参照部についての内側輝度分布の相互関係に基づいて、前記超音波データに対するトレース方式として、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する判定手段と、を含むことを特徴とする超音波データ処理装置に関する。
【0008】
上記構成によれば、対象組織の専ら外側に、二次元又は三次元の形状をもった外側参照部が設定され、同様に、対象組織の専ら内側に、二次元又は三次元の形状をもった内側参照部が設定される。外側参照部は対象組織の完全に外側に設定されるのが望ましいが、部分的なはみ出しが生じていてもよい。同様に、内側参照部は対象組織の完全に内側に設定されるのが望ましいが、部分的なはみ出しが生じていてもよい。要求するトレース方式判定精度との兼ね合いにおいて、はみ出し量の許容度が決まる。外側輝度分布及び内側輝度分布の相互関係は、輝度軸上において、それらがどの程度近い状況にあるのか、あるいは、互いにどの程度分離されている状況にあるのか、を指標するものである。2つの輝度分布が相互に十分に離れているならば、精度良く自動トレースを行える筈であるので、その場合には自動トレースが推奨される。一方、2つの輝度分布が相互に近い関係にあるならば、自動トレースが困難であると推認することができるので、その場合にはマニュアルトレースが推奨される。このように本発明においては、対象部位の内外における輝度分布の比較から、輝度差の傾向を捉え、それをトレース方式の判定で利用するものである。対象部位の周囲全体にわたってトレース方式が一律に決定されるのが望ましいが、部分的な領域ごとにトレース方式を決定することもできる。フレーム単位あるいはボリューム単位でトレース方式を判定することもできる。超音波診断(検査)単位でトレース方式を判定することもできる。あるいは、複数のスライス面の中で、どの面を代表スライス面にするのかの判定に当たって上記手法を利用するようにしてもよい。超音波データ処理装置は超音波診断装置であってもよいし、超音波データを処理する情報処理装置であってもよい。
【0009】
望ましくは、前記相互関係は、前記外側輝度分布及び前記内側輝度分布の重複度である。重複度の具体的な判定方法としては各種の手法をあげることができる。いずれにしても内外の輝度の違いが大きいのか小さいのかの指標が得られる方法を採用するのが望ましい。望ましくは、前記外側参照部の参照により前記外側輝度分布を作成する外側輝度分布手段と、前記内側参照部の参照により前記内側輝度分布を作成する内側輝度分布手段と、前記外側輝度分布及び前記内側輝度分布の一方又は双方を規格化処理する規格化処理手段と、を含み、前記判定手段は、前記規格化処理後の外側輝度分布及び内側輝度分布の重複度に基づいて、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する。外側参照部と内側参照部のそれぞれを構成するピクセル数(あるいはボクセル数)が相違する場合、この規格化処理を適用するのが望ましい。但し、重複部分の絶対量に基づいてトレース方式の選択を行うことも可能である。その場合には規格化処理は不要となる。通常、自動トレース処理では、超音波データの二値化処理が適用される。つまり、各ピクセルの値又は各ボクセルの値(つまりエコー強度に相当する輝度)が所定の閾値と比較されることになるから、トレース方式の判別に当たって輝度情報を利用するのは合理的である。
【0010】
望ましくは、前記判定手段は、輝度軸上における前記規格化処理後の外側輝度分布及び内側輝度分布の重複区間を特定する手段と、前記外側輝度分布の内で前記重複区間に属する部分を演算する手段と、前記内側輝度分布の全体に対する前記重複区間の部分の割合に基づいて前記重複度を演算する手段と、前記重複度と所定の基準値との比較結果に基づいて前記自動トレース処理又は前記手動トレース処理を判定する手段と、を含む。
【0011】
望ましくは、前記設定手段は、前記超音波データに基づいて前記対象組織の代表断面を表す断層画像を生成する手段と、前記断層画像上において、前記外側参照部としての二次元閉ループのユーザー指定を受け付ける手段と、前記断層画像上において、前記内側参照部としての二次元閉ループのユーザー指定を受け付ける手段と、を含む。望ましくは、前記設定手段は、前記超音波データに基づいて前記対象組織についての複数の断面を表す複数の断層画像を生成する手段と、前記複数の断層画像上において、前記外側参照部としての三次元球状面のユーザー指定を受け付ける手段と、前記複数の断層画像上において、前記内側参照部としての三次元球状面のユーザー指定を受け付ける手段と、を含む。
【0012】
また、本発明は、二次元又は三次元の生体内空間から取得された超音波データを処理する超音波データ処理装置において、前記生体内空間に対応するデータ空間において、対象組織の外側に外部参照部を設定し、前記対象組織の内側に内側参照部を設定するための設定手段と、前記外側参照部についての外側輝度分布及び前記内側参照部についての内側輝度分布に基づいて、前記超音波データに対するトレース方式として、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する判定手段と、を含み、前記判定手段は、前記外部参照部の参照により前記外側輝度分布を作成する外側輝度分布作成手段と、前記内側参照部の参照により前記内側輝度分布を作成する内側輝度分布作成手段と、輝度軸上における前記外側輝度分布と前記内側輝度分布の有効重複範囲を用いて求められる重複度に基づいて、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する処理方式判定手段と、を含み、前記処理方式判定手段は、前記外側輝度分布と前記内側輝度分布の内の少なくとも一方について裾野部分を除外することにより前記有効重複範囲を決定する、ことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、トレース方式の判定に当たって、外側輝度分布と内側輝度分布における少なくとも一方の裾野部分を演算対象から除外して重複区間(有効重複区間)を決定できるので、輝度分布における低レベルの部分が長く伸びてそれによって判定される重複区間が過大に見積られてしまう問題に対処することができる。一般に、裾野部分のカットは、外側輝度部分における両側、内側輝度部分における両側に適用することが可能である。但し、2つの輝度分布の重なり区間に着目するならば、外側輝度分布の低輝度側及び内側輝度分布の高輝度側において除外処理が適用されるのが望ましく、特に、後者について除外処理が適用されるのが望ましい。
【0014】
望ましくは、前記裾野部分は、前記内側輝度分布における高輝度側の部分であって所定レベル以下の部分である。望ましくは、前記裾野部分は、前記内側輝度分布における高輝度側の部分であって前記内側輝度分布のばらつき度合いを示す統計的指標に基づいて決定される部分である。結果として、裾野部分が除外される処理であれば上記以外の方法を採用することも可能である。
【0015】
望ましくは、前記処理方式判定手段は、前記内側輝度部分の裾野部分を除外することにより前記有効重複区間を決定する手段と、前記内側輝度分布における前記裾野部分を除外した後の主要部と、前記外側輝度分布における前記有効重複区間に属する部分と、の比率を前記重複度として演算する手段と、前記比率を一定値を比較することにより、前記自動トレース処理又は前記手動トレース処理を判定する手段と、を含む。内側輝度分布には対象組織内の様々な構造が反映され、それが広がることも多いので、また高輝度ノイズの影響により高輝度側にノイズ波形が生じ易いので、内側輝度分布に対して裾野部分を演算上除外するのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、手動トレース及び自動トレースの両者の利点を旨く発揮させることができる。特に、それらを選択する際の客観的な指標を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明に係る超音波データ処理装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波データ処理装置は、本実施形態において超音波診断装置により構成されている。ただし、その図1に示される構成の全部または一部が情報処理装置(コンピュータ)によって構成されてもよい。
【0019】
3Dプローブ10は、生体内における三次元空間に対して超音波の送受波を行う送受波器である。3Dプローブ10は本実施形態において2Dアレイ振動子を有している。2Dアレイ振動子は二次元配列された複数の振動素子により構成される。それによって超音波ビームが形成され、超音波ビームは電子的に二次元走査される。これによって三次元データ取り込み空間が形成される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査等が知られている。2Dアレイ振動子に代えて、1Dアレイ振動子とそれを機械的に走査する機構とを設けてもよい。
【0020】
送受信部12は、送信ビームフォーマ及び受信ビームフォーマとして機能する。すなわち、送信時においては、送受信部12から2Dアレイ振動子に対して複数の送信信号が供給される。これによって送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波は2Dアレイ振動子にて受波され、これによって2Dアレイ振動子から複数の受信信号が送受信部12へ出力される。送受信部12は複数の受信信号に対する整相加算処理を実行し、これによって整相加算後の受信信号(ビームデータ)を出力する。そのビームデータは3Dメモリ14に格納される。
【0021】
3Dメモリ14は、生体内の三次元空間に対応したデータ空間を有し、入力される複数のビームデータは3Dメモリ14内に格納される。その格納の際に、あるいはデータの読み出しの際に、送受波座標系からデータ座標系への座標変換が実行される。ビームデータは超音波ビーム上に沿って並んだ複数のボクセルデータにより構成される。各ボクセルデータは、本実施形態において、3Dメモリ14への書き込み時点でそれに対応するアドレスにマッピングされる。3Dメモリ14への各ボクセルデータへの書き込みに先立って、必要に応じて信号処理が実行される。その信号処理には例えば二値化処理等が含まれてもよい。
【0022】
データ処理部16は、3Dメモリ14に格納された複数のビームデータ(ボリュームデータ)に基づいて、各種のデータ処理を実行するモジュールである。データ処理部16は、本実施形態において、画像形成部40、自動トレース部42、及び、体積/面積演算部44を備えている。画像形成部40は、ボリュームデータに基づいてボリュームレンダリング法等の処理を適用し、これによって三次元超音波画像を形成するユニットである。また、この画像形成部40は、三次元空間に設定された3つの切断面に対応する3つの断層画像をいわゆるトリプレーン画像として形成する機能も有している。さらに、この画像形成部40はユーザーにより任意に設定された切断面に対応する任意断層画像を形成する機能も有している。それらの画像データは、表示処理部18を介して表示部20へ出力される。
【0023】
自動トレース部42は、三次元空間に設定された複数のスライス面上においてトレース処理を行う場合において、自動トレースが判定されたスライス面についてオートトレース処理を実行するユニットである。そのトレース処理に先立って、ボリュームデータに対するあるいはスライスデータに対する二値化処理が実行される。オートトレース処理はいわゆるエッジ検出法などに基づいて実現することが可能である。オートトレース法としては従来から各種の手法が提案されている。一方、本実施形態においては各スライス面上においてマニュアルトレース処理を行うことも可能である。マニュアルトレース処理は、後に説明する操作パネル38上のポインティングデバイスを利用して断層画像上において対象組織の輪郭を手動でトレースするものである。その座標データはデータ処理部16に与えられ、データ処理部16はその座標データを利用して以下に説明する計測処理を実行する。三次元的に存在する対象組織について自動トレース処理、あるいはマニュアルトレース処理が一律に設定されるようにしてもよいし、各スライス面あるいは断層面ごとに自動トレース処理またはマニュアルトレース処理が切り替え適用されてもよい。さらに、それらのトレース方法の選択が超音波診断すなわち検査を単位として行われるようにしてもよい。
【0024】
体積/面積演算部44は、自動トレース処理の結果及び/又はマニュアルトレース処理の結果に基づいて対象組織についての面積を演算し、また体積を演算する機能を有している。例えば、対象組織が左室であれば、その左室を横切る複数のスライス面上においてループ形状のトレースラインが形成され、各スライス面上の面積が演算された上で、それらに一定の厚みを与えつつ加算することにより左室の体積が演算される。また、胎児や胎盤などを計測対象とすることも可能である。体積/面積演算部44の演算結果は表示処理部18を経由して表示部20に送られ、その演算結果は数値として、あるいはグラフとして画面上に表示される。表示部20における画面上にトレース結果が表示されるようにしてもよい。また、表示部20の画面上には後に説明する外側ROI(関心領域)及び内側ROIの設定の際に必要に応じて断層画像や各ROIを表すグラフィックが表示される。
【0025】
次に、トレース方式判定ユニット22について説明する。このトレース方式判定ユニット22は、本実施形態においてヒストグラム作成部24,26、規格化部28,30、重複計測部32及び判定部34を備えている。
【0026】
ヒストグラム作成部24は、対象組織の外側にユーザーにより外側ROIが設定された場合に、その外側ROIの表面に相当する複数のボクセルデータに基づきヒストグラムを作成するユニットである。同様に、ヒストグラム作成部26は、対象組織の内側にユーザーにより内側ROIが設定された場合に、その表面に相当する複数のボクセルデータに基づいてヒストグラムを作成するユニットである。外側ROIは専ら対象組織の外側に設定されればよく、同様に、内側ROIは専ら対象組織の内側に設定されればよい。すなわち部分的にはみ出しが発生していても、最終的なトレース方式の判定にあたって一定の精度が得られるのであれば、そのような部分的なはみ出しは問題とはならない。したがって、各ROIを自動的に設定するようにしてもよい。各ROIは二次元形状あるいは三次元形状として設定することが可能である。その場合においては、例えば楕円あるいは楕円球のような形状を利用して各ROIが設定されるようにしてもよい。その設定にあたっては、注目しているスライス面に相当する断層画像を表示部20上に表示するようにしてもよいし、いわゆるトリプレーン画像を利用して各ROIの設定を行うようにしてもよい。さらに、三次元超音波画像上において立体的にROIを設定するようにしてもよい。ただし、三次元超音波画像上に三次元のROIを直ちに設定するのは困難であるため、トリプレーン画像の内の2つの画像を使って例えば楕円球の長軸及び短軸を指定することによりROIを設定する各ROIの表示上のボクセル群ではなく、各ROIの表層部内のボクセル群に基づいてヒストグラムを作成してもよい。
【0027】
本実施形態においては、ROIの表面あるいは輪郭が利用される。すなわち三次元的な表面あるいは二次元的な輪郭上に存在する複数のボクセルデータが参照され、各ボクセルデータの値に基づいて外側ヒストグラム及び内側ヒストグラムが作成される。具体例については後に説明する。規格化ユニット27は、2つの規格化部28,30により構成される。規格化ユニット27は、作成された2つのヒストグラムのうちで少なくとも一方について規格化処理を適用することにより、2つのヒストグラムの互いの関係を計測するための前処理を実行する。本実施形態においては、それぞれのヒストグラムが規格化されており、すなわち互いのヒストグラム上の面積が同一とされている。
【0028】
重複計測部32は、上記のように作成された外側ヒストグラム及び内側ヒストグラムにおいて相互間のオーバーラップ部分である重複部分を特定し、それを判定基準として演算するユニットである。2つのヒストグラムの重複部分が少ない場合には、対象組織の内外の分離が良好であることが推認でき、その一方において、2つのヒストグラムの重複部分が大きい場合には対象組織の内外が互いに近い輝度状態になっていることが推認できる。したがって、本実施形態においてはそのような物理的な状況あるいは経験則に基づいて、重複部分を指標として利用し、それを基準としてトレース方式の判定を行っている。その判定は具体的には判定部34において実行されている。重複度の演算方法及び具体的な判定方法については後に詳述する。いずれにしても、判定部34は、2つのヒストグラムの重複関係に基づいて適切なトレース方式を選択する。具体的にはマニュアルトレースが適当であるか、あるいは自動トレースが適当であるかを状況に応じて判定している。その判定結果はデータ処理部16に送られている。
【0029】
データ処理部16では、判定部の判定結果に応じて対象となるスライス面について自動トレースを実行するのか、あるいはマニュアルトレースの入力を受け付けるのかを判断している。データ処理部16は、上記判定部34の判定結果がマニュアルトレースを示す場合に、表示画面上にマニュアルトレースを促す旨を表示する。その表示を契機として、ユーザーは、表示されている対象画像上においてマニュアルトレースを実行する。その際に入力される座標データがデータ処理部16において認識される。もっとも、この段階においてユーザーの意志を尊重し、ユーザーが選択した方式に応じて実際のトレースが実行されてもよい。その場合においては、ユーザーに推奨されるべき判定方式の情報を提供するだけでよい。
【0030】
制御部36は、CPU及び動作プログラムによって構成され、図1に示される各構成の動作制御を行っている。制御部36には操作パネル38が接続されている。操作パネル38はキーボードやトラックボール等により構成される。操作パネル38を利用して、ユーザーは外側ROI及び内側ROIの設定を行うことができ、またマニュアルトレースを行うことができ、さらに必要に応じて判定部34に入力する閾値αの入力指定を行える。
【0031】
次に、図2乃至図7を用いて、本実施形態に係るトレース方式の判別方法について詳述する。
【0032】
図2には、断層画像50が示されている。断層画像50には対象組織(正確には対象組織の断面)52が含まれている。符号52Aは対象組織52の輪郭を表している。その輪郭52Aの外側にユーザーによって外側ROI54が設定される。同様に、輪郭52Aの内側にユーザーにより内側ROI56が設定される。それらのROI54,56は二次元平面状の形状であってもよいし、三次元空間内の立体であってもよい。例えば楕円の長軸、短軸及び中心座標を指定することにより、各ROI54,56が設定されるようにしてもよい。また、さらにもう1つの長軸を指定することにより、それぞれのROIを楕円球として定義することも可能である。本実施形態においては楕円あるいは楕円球が用いられていたが、ROIの形状としてはそれ以外にも各種の形状を採用しうる。
【0033】
図3には、外側ROIの表面上に存在する複数のボクセルの値によって構成されるヒストグラム100が示されている。横軸は輝度すなわちボクセルの値を表しており、縦軸は規格化後の度数を表している。すなわち、ヒストグラム100は規格化後のヒストグラムである。このヒストグラム100は符号108で示される輝度から符号109で示される範囲内に分布している。一方、図4には、内側ROIの表面上に存在する複数のボクセルの値により構成されるヒストグラム102が示されている。このヒストグラム102も規格化後のヒストグラムであり、それは符号104で示される輝度から符号106で示される輝度の間に分布している。
【0034】
図5には、2つのヒストグラム100,102の相互関係が示されている。すなわちそれらのヒストグラム100,102が同一の輝度軸上に表されている。ここでAはヒストグラム102が分布している範囲を示すものである。S1はヒストグラム100の面積を表しており、S2はヒストグラム102の面積を表している。ヒストグラム100において区間Aに属する部分の面積がΔS1で表されている。
【0035】
本実施形態においては、2つのヒストグラム100,102の重複関係を評価するため、重複度を表す指標εとしてΔS1/S2が用いられている。すなわち内側ヒストグラムに対応する面積S2に対する、外側ヒストグラムにおける重複部分の面積ΔS1の比εが用いられている。その比εが大きければ2つのヒストグラム100,102が大きくオーバーラップしていることを推認でき、その一方、その比εが小さければ2つのヒストグラムがほどよく分離していることを推認できる。したがって、その比εを上述した所定の閾値αと比較することにより、指標εがαよりも大きければ自動トレースが困難であることが予想されるためにマニュアルトレースが判定され、逆に、その比εがαよりも小さければ対象部位の内外において輝度差が明瞭であることを推認できるために自動トレースが判定される。上述した判定方法は一例であり、いずれにしても2つのヒストグラムの相互関係が定量化されるように判定方法を定めればよい。
【0036】
図6及び図7には、別の例が示されている。判定方法としては同一のものが利用されている。断層画像60上には組織62が存在し、その組織62は対象組織62Aとそれに連なる組織62Bとにより構成されている。例えばこのような状況は胎盤と胎児との関係において認められる。このような場合、対象組織62Aの輪郭63の外側に外側ROI64が設定され、その内側に内側ROI66が設定される。ただし、この例では外側ROI64は本来計測の対象とはならない組織62Bまでくい込んでいる。このような場合において、2つのヒストグラムを作成すると、図7に示すようなものとなる。すなわち、外側ヒストグラム110と内側ヒストグラム112とが形成され、両者はかなりオーバーラップしている。外側ヒストグラム110においては2つのピークが認められ、低い方のピークは内側ヒストグラム112内に位置している。
【0037】
この場合において、上記同様の判定手法を適用すると、内側ヒストグラム112が存在している輝度114から輝度116の間が区間Aとして特定される。一方、外側ヒストグラム110における輝度118から輝度119の範囲において、Aに属する部分の面積がΔS10として特定される。内側ヒストグラム112の面積はS12である。このような前提のもと、比εとしてΔS10/S12が求められ、その比εが所定の閾値αと比較されることになる。この場合においては、かなりオーバーラップが生じているために、αよりもεの方が大きくなり、その結果自動トレースよりもマニュアルトレースの方がふさわしいと判定されることになる。αは予めユーザーにより設定することもできるし、画像の状況に応じて適応的にすなわち自動的に設定することも可能である。
【0038】
2つのヒストグラムの関係を分析する手法としては各種の方法を採用することができる。例えば、図8に示すように2つのヒストグラム120,122が形成されている状況において、各ヒストグラム120,122のピークの輝度P1,P2と各ヒストグラム120,122のヒストグラム幅σ1,σ2を利用して2つのヒストグラムの重複関係を評価するようにしてもよい。ただし、それらのパラメーターによると必ずしもオーバーラップ部分の大小を直接的に求められない可能性があるため、2つのヒストグラム120,122における重複部分をより直接的に評価するのが望ましい。例えば、2つのヒストグラム120,122において重複している面積ΔS’を求め、それを絶対的に利用してトレース方式の判別に利用するようにしてもよい。あるいは重複部分が生じている区間ΔB’と一方のヒストグラムの幅Bとの比を使って重複関係を評価するようにしてもよい。この場合において、ΔB’を単独で利用して重複関係の大小を評価するようにしてもよい。いずれにしても、2つのヒストグラムの交わりの大きさを定量的に評価することにより、その評価結果からトレース方式を客観的に判断することが可能となる。
【0039】
図9には、図5を用いて説明した方法の変形例が示されている。図9を用いて説明する手法は区間の決定において図5を用いて説明した方法と相違する。なお、図9において、図5に示した構成と同様の構成には同一符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図9において、規格化後の外側ヒストグラム100は、輝度108から輝度109の間に存在し、同じく規格化後の内側ヒストグラム102は、輝度104から輝度106の間に存在している。内側ヒストグラム102においては、対象組織の構造や高輝度ノイズ等に起因して、その高輝度側に低レベルの裾野部分102Aが生じており、それがかなり外側ヒストグラム100内にくい込んでいる。このような場合において、図5を用いて説明した手法をそのまま適用すると、重複部分が過大に見積られてしまうという問題が生じる。そこで、裾野部分102Aの全部又は一部を除外して有効な重複区間を定めるのが望ましい。
【0041】
具体的には、所定値(度数)C1が固定的にあるいは適応的に定められ、それよりも低いレベルをもった部分が区間判定対象から除外される。図9に示す例では、内側ヒストグラム102における、高輝度側におけるC1以下の部分(点102Bよりも右側の部分であって輝度107と輝度106との間の部分)が低レベル裾野部分とみなされ、内側ヒストグラムの全体区間A1から、区間A3を除いた区間A2が有効な区間とされ、内側ヒストグラム102における区間A2に属する主要部について面積S2が演算される。一方、外側ヒストグラム100についても、有効重複区間は輝度108から輝度107までの区間であり、外側ヒストグラム100における同区間内の面積ΔS1が演算される。そして、面積S2と面積ΔS1との比率をもって、上記同様に妥当なトレース方針が判定される。
【0042】
上記の所定値C1は固定値として定めることが可能である。それに代えて、内側ヒストグラム102に対する統計処理の演算結果(例えば分散、標準偏差、半値幅)に基づいて所定値C1を適用的に定めるようにしてもよい。例えば、ピークレベルCから一定割合だけ下がった地点として所定値C1を定めるようにしてもよい。これが図9においてDで示されている。なお、統計処理の演算結果から閾値レベルを定めるのではなく、面積割合等を基準として除外部分を定めることも可能である。つまり、一定割合の面積をもった部分を面積演算対象となる主要部として認定し、同時に、それ以外の面積をもった部分から外側ヒストグラム100についての有効重複区間を認定するようにしてもよい。
【0043】
上記の説明では、内側ヒストグラム102の高域側における裾野部分について除外処理が適用されていたが、更に、内側ヒストグラムの低域側についても同様の除外処理を適用してもよい。また、外側ヒストグラム100における高輝度側の裾野部分に対して上記同様の除外処理を適用してもよい。更に、一方又は両方のヒストグラムについて一定レベル以下の部分を全部除外する処理を適用するようにしてもよい。その場合においても、裾野部分を除外する結果が得られるので、上記で指摘した裾野部分が輝度軸上に広がっていることに起因する問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る超音波データ処理装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】2つのROI(関心領域)の設定方法を説明するための図である。
【図3】外側ヒストグラムを示す図である。
【図4】内側ヒストグラムを示す図である。
【図5】2つのヒストグラムの重複関係を示す図である。
【図6】他の例に係る2つのROIの設定を説明するための図である。
【図7】図6に示した例における2つのヒストグラムの重複関係を示す図である。
【図8】重複関係の他の判定方法を説明するための図である。
【図9】図5に示した方法の変形例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
10 3Dプローブ、12 送受信部、14 3Dメモリ、16 データ処理部、22 トレース方式判定ユニット、24,26 ヒストグラム作成部、28,30 規格化部、32 重複計測部、34 判定部、40 画像形成部、42 自動トレース部、44 体積/面積演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元又は三次元の生体内空間から取得された超音波データを処理する超音波データ処理装置において、
前記生体内空間に対応するデータ空間において、対象組織の外側に外側参照部を設定し、前記対象領域の内側に内側参照部を設定するための設定手段と、
前記外側参照部についての外側輝度分布及び前記内側参照部についての内側輝度分布の相互関係に基づいて、前記超音波データに対するトレース方式として、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する判定手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記相互関係は、前記外側輝度分布及び前記内側輝度分布の重複度である、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記外側参照部の参照により前記外側輝度分布を作成する外側輝度分布手段と、
前記内側参照部の参照により前記内側輝度分布を作成する内側輝度分布手段と、
前記外側輝度分布及び前記内側輝度分布の一方又は双方を規格化処理する規格化処理手段と、
を含み、
前記判定手段は、前記規格化処理後の外側輝度分布及び内側輝度分布の重複度に基づいて、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する、
ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記判定手段は、
輝度軸上における前記規格化処理後の外側輝度分布及び内側輝度分布の重複区間を特定する手段と、
前記外側輝度分布の内で前記重複区間に属する部分を演算する手段と、
前記内側輝度分布の全体に対する前記重複区間に属する部分の割合に基づいて前記重複度を演算する手段と、
前記重複度と所定の基準値との比較結果に基づいて前記自動トレース処理又は前記手動トレース処理を判定する手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記設定手段は、
前記超音波データに基づいて前記対象組織の代表断面を表す断層画像を生成する手段と、
前記断層画像上において、前記外側参照部としての二次元閉ループのユーザー指定を受け付ける手段と、
前記断層画像上において、前記内側参照部としての二次元閉ループのユーザー指定を受け付ける手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、
前記設定手段は、
前記超音波データに基づいて前記対象組織についての複数の断面を表す複数の断層画像を生成する手段と、
前記複数の断層画像上において、前記外側参照部としての三次元球状面のユーザー指定を受け付ける手段と、
前記複数の断層画像上において、前記内側参照部としての三次元球状面のユーザー指定を受け付ける手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項7】
二次元又は三次元の生体内空間から取得された超音波データを処理する超音波データ処理装置において、
前記生体内空間に対応するデータ空間において、対象組織の外側に外部参照部を設定し、前記対象組織の内側に内側参照部を設定するための設定手段と、
前記外側参照部についての外側輝度分布及び前記内側参照部についての内側輝度分布に基づいて、前記超音波データに対するトレース方式として、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する判定手段と、
を含み、
前記判定手段は、
前記外部参照部の参照により前記外側輝度分布を作成する外側輝度分布作成手段と、
前記内側参照部の参照により前記内側輝度分布を作成する内側輝度分布作成手段と、
輝度軸上における前記外側輝度分布と前記内側輝度分布の有効重複範囲を用いて求められる重複度に基づいて、自動トレース処理又は手動トレース処理を判定する処理方式判定手段と、
を含み、
前記処理方式判定手段は、前記外側輝度分布と前記内側輝度分布の内の少なくとも一方について裾野部分を除外することにより前記有効重複範囲を決定する、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記裾野部分は、前記内側輝度分布における高輝度側の部分であって所定レベル以下の部分である、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項9】
請求項7記載の装置において、
前記裾野部分は、前記内側輝度分布における高輝度側の部分であって前記内側輝度分布のばらつき度合いを示す統計的指標に基づいて決定される部分である、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の装置において、
前記処理方式判定手段は、
前記内側輝度部分の裾野部分を除外することにより前記有効重複区間を決定する手段と、
前記内側輝度分布における前記裾野部分を除外した後の主要部と、前記外側輝度分布における前記有効重複区間に属する部分と、の比率を前記重複度として演算する手段と、
前記比率を一定値と比較することにより、前記自動トレース処理又は前記手動トレース処理を判定する手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−273862(P2009−273862A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230162(P2008−230162)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】