説明

超音波光音響撮像装置およびその作動方法

【課題】超音波イメージングおよび光音響イメージングを用いた超音波光音響撮像装置において、超音波および光音響波を同時に検出しても独立した超音波画像および光音響画像を生成することを可能とする。
【解決手段】超音波光音響撮像装置1において、探触子14を複数の振動子からなるアレイ型振動子50を含むものとし、音響画像生成部30を、超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、光が被検体内に照射されることにより被検体内で発生した光音響波を検出して光音響画像を生成する超音波光音響撮像装置およびその作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(光音響トモグラフィー)と呼ばれる。
【0003】
そして、近年では特許文献1から3に示すようにこれらのイメージング方法を応用して、被検体内の超音波画像および光音響画像を取得し、さらにはこれらの断層画像を色で識別しながら重ね合わせた合成画像等を取得する超音波光音響撮像装置の開発が進められている。
【0004】
超音波イメージングによる超音波画像と光音響イメージングによる光音響画像のそれぞれの断層画像を得ようとする際、一般的には例えば特許文献1から3に記載されているように、断層画像のデータの収集を走査単位(断層画像の1ライン分のデータ単位)あるいはフレーム単位(断層画像1枚分のデータ単位)ごとに交互に実施する方法が採用されている(例えば、特許文献1の0149段落、特許文献2の0042−0043段落および特許文献3の0040−0042段落)。これは、超音波も光音響波も被検体内を伝搬する音響波として同質であるため、音響波を検出器(探触子等)によって検出した場合には超音波を検出したのかあるいは光音響波を検出したのか単純に区別することが難しいという問題や、超音波と光音響波を同一の検出器で同時に検出した場合にはこれらが重ね合わさった1つの音響波として検出されるという問題があるためである。
【0005】
これらの問題に関して、特許文献1には、超音波の周波数と光音響波の周波数が異なるように予め設定し、超音波と光音響波をそれぞれの周波数に対応した別々の検出器で同時に検出し、この周波数の違いに基づいた信号処理によりこれらの音響波を分離する方法が記載されている(特許文献1の0153−0155段落)。特許文献1の上記方法は、従来技術と比べ、別々の検出器で超音波および光音響波を同時に検出しても独立した超音波画像および光音響画像を生成することができること、被検体の動きの影響を低減し、超音波画像および光音響画像のデータの収集タイミングずれを低減することにより、合成画像の歪みや画質の低下を防止することができること、超音波イメージングおよび光音響イメージングにおけるデータ収集を同時に実施することにより、断層画像の画像構築速度を上げることができること等の利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−021380号公報
【特許文献2】特表2010−509977号公報
【特許文献3】特開2010−022816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の上記方法は、超音波と光音響波の周波数が異なる場合で、かつ別々の検出器で検出する場合にしか適用できず、2周波数プローブ等の特殊な検出器が必要になる。これに対して、周波数に依存せずかつ超音波および光音響波を同一の検出器で同時に検出しても超音波画像と光音響画像とを生成することが可能なほうが望ましい。また、同一の検出器を用い、超音波画像の生成および光音響画像の生成を並列して実施することができれば、簡便な構成で画像構築速度の向上を図ることができる。
【0008】
本発明は上記要望に応えてなされたものであり、超音波イメージングおよび光音響イメージングを用いた超音波光音響撮像装置において、超音波および光音響波を同時に検出してもそれらの周波数に依存せず、独立した超音波画像および光音響画像を生成することが可能な超音波光音響撮像装置およびその作動方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る超音波光音響撮像装置は、
被検体内に超音波を照射する超音波照射部と、被検体内に光を照射する光照射部と、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して、この超音波を電気信号に変換可能な探触子であって、光が被検体内に照射されることにより被検体内で発生した光音響波を検出して、この光音響波を電気信号に変換可能な探触子と、探触子により検出した超音波の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、および/または探触子により検出した光音響波の電気信号に基づいて光音響画像を生成する音響画像生成部とを備える超音波光音響撮像装置において、
探触子が、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含むものであり、
音響画像生成部が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、上記超音波を反映する電気信号および上記光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成することが可能なものであることを特徴とするものである。
【0010】
本明細書において「超音波」とは、超音波照射部により照射される音響波(弾性波)およびこの音響波の反射波を意味し、「光音響波」とは、光音響効果により生じる音響波を意味する。また、超音波および光音響波を包含する意味で、被検体内を伝搬する波を単に「音響波」と称する。そして、「超音波画像」とは、超音波イメージングにより生成される断層画像を意味し、「光音響画像」とは、光音響イメージングにより生成される断層画像を意味する。また、超音波画像および光音響画像を包含する意味で、単に「断層画像」と称する。
【0011】
「所定の取込み期間」とは、振動子が検出器として音響波を検出して、これを電気信号として取り込むことが可能な期間を意味する。
【0012】
超音波および光音響波が音響波中に「混合する」とは、ある振動子の一つの上記取込み期間内に検出された音響波中に超音波および光音響波が共に含まれることを意味し、超音波および光音響波が時間的に同一に検出されることにより重ね合わされた音響波が検出される場合、そして当該取込み期間内において超音波および光音響波が区別できる程度に時間的に離れて検出される場合も含む意味である。
【0013】
「混合信号」とは、探触子によって変換された、超音波および光音響波が混合する音響波の電気信号を意味する。
【0014】
「反射源が同一である超音波」とは、反射した超音波について、その反射の原因となった被検体内の組織構造が実質的に同一である超音波を意味し、「発生源が同一である光音響波」とは、光音響波について、その発生の原因となった被検体内の組織構造が実質的に同一である光音響波を意味する。
【0015】
「超音波を反映する電気信号」とは、複数の振動子それぞれによって検出され生成された複数の混合信号に基づいて生成された、反射した超音波の強度(振幅)と時間(例えば、超音波が超音波照射部により照射されてから探触子に到達するまでの時間)との関係を表した電気信号を意味し、「光音響波を反映する電気信号」とは、複数の振動子それぞれによって検出され生成された複数の混合信号に基づいて生成された、光音響波の強度(振幅)と時間(例えば、光が光照射部により照射されてから光音響波が探触子に到達するまでの時間)との関係を表した電気信号を意味する。
【0016】
さらに、本発明に係る超音波光音響撮像装置において、音響画像生成部は、超音波用遅延データを用い超音波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の混合信号を加算する第1の加算処理工程を行なって超音波を反映する電気信号を生成するものであり、光音響波用遅延データを用い光音響波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の混合信号を加算する第2の加算処理工程を行って光音響波を反映する電気信号を生成するものであることが好ましい。
【0017】
「超音波用遅延データ」とは、位相整合処理の際に混合信号に対して付与される遅延量であって、それぞれの混合信号中の反射源が同一である超音波に関する位相ずれを整合するのに適した遅延量を意味し、「光音響用遅延データ」とは、位相整合処理の際に混合信号に対して付与される遅延量であって、それぞれの混合信号中の発生源が同一である光音響波に関する位相ずれを整合するのに適した遅延量を意味する。
【0018】
さらに、音響画像生成部は、第1の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の信号強度を減少せしめる第1の閾値処理工程を行って、超音波を反映する電気信号を生成するものであり、第2の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の信号強度を減少せしめる第2の閾値処理工程を行って、光音響波を反映する電気信号を生成するものであることが好ましい。
【0019】
さらに、超音波照射部は、平行ビーム化された超音波を照射するものであることが好ましく、この場合、平行ビーム化された超音波の照射のタイミングと光の照射のタイミングとを同期するように制御するタイミング制御部を備えることが好ましい。
【0020】
さらに、音響画像生成部は、超音波画像の生成と光音響画像の生成とを並列して行うものであることが好ましい。
【0021】
さらに、音響画像生成部は、超音波画像および光音響画像の合成画像を生成するものであることが好ましく、この場合において、音響画像生成部は、超音波画像および光音響画像のスケールを整合させて合成画像を生成するものであることが好ましい。
【0022】
さらに、探触子は、超音波照射部を兼ねるものであることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係る超音波光音響撮像装置において、超音波画像のみを生成する超音波モードおよび光音響画像を生成する光音響モードの選択が可能なものであることが好ましく、この場合、光音響モードにおいて、超音波照射の有無の切換えが可能なものであることが好ましい。
【0024】
さらに、音響画像生成部は、第1の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第1の加算処理工程を行い、第1の周波数解析工程とは条件が異なる第2の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第2の加算処理工程を行うものであることが好ましい。
【0025】
さらに、音響画像生成部は、第1の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程を行い、第2の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程とは条件が異なる第4の周波数解析工程を行うものであることが好ましい。
【0026】
そして、本発明に係る超音波光音響撮像装置の作動方法は、被検体内に超音波および光を照射し、探触子を用いて、被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を電気信号に変換し、被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、検出した超音波の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、および/または検出した光音響波の電気信号に基づいて光音響画像を生成する超音波光音響撮像装置の作動方法において、
探触子が、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含むものであり、
それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、
超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成することが可能であることを特徴とするものである。
【0027】
さらに、本発明に係る超音波光音響撮像装置の作動方法において、超音波用遅延データを用い超音波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の混合信号を加算する第1の加算処理工程を行なって超音波を反映する電気信号を生成し、
光音響波用遅延データを用い光音響波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の混合信号を加算する第2の加算処理工程を行って光音響波を反映する電気信号を生成することが好ましい。
【0028】
さらに、上記の場合において、第1の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の信号強度を減少せしめる第1の閾値処理工程を行って、超音波を反映する電気信号を生成し、
第2の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の信号強度を減少せしめる第2の閾値処理工程を行って、光音響波を反映する電気信号を生成することが好ましい。
【0029】
さらに、本発明に係る超音波光音響撮像装置の作動方法において、超音波画像の生成と光音響画像の生成とを並列して行うことが好ましい。
【0030】
さらに、平行ビーム化された超音波を照射することが好ましく、この場合、平行ビーム化された超音波の照射のタイミングと光の照射のタイミングとを同期するように制御することが好ましい。
【0031】
さらに、本発明に係る超音波光音響撮像装置の作動方法において、超音波画像および光音響画像の合成画像を生成することが好ましく、この場合において、超音波画像および光音響画像のスケールを整合させて合成画像を生成することが好ましい。
【0032】
さらに、第1の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第1の加算処理工程を行い、第1の周波数解析工程とは条件が異なる第2の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第2の加算処理工程を行うことが好ましい。
【0033】
さらに、第1の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程を行い、第2の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程とは条件が異なる第4の周波数解析工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る超音波光音響撮像装置は、特に音響画像生成部が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成することが可能なものとなるように構成されている。ここで、超音波および光音響波の電気信号の位相ずれの態様の違いは、超音波および光音響波のそれぞれの伝搬経路の長さ(すなわち、超音波については超音波照射部から反射源までおよびこの反射源から探触子までの合計経路の長さ、光音響波については発生源から探触子までの経路の長さ)の違いにより生じるため、超音波および光音響波のそれぞれの周波数に依存しないものである。この結果、超音波イメージングおよび光音響イメージングを用いた超音波光音響撮像装置において、超音波および光音響波を同時に検出してもそれらの周波数に依存せず、独立した超音波画像および光音響画像を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の超音波光音響撮像装置の第1の実施形態を示すブロック図である。
【図2】超音波照射のタイミングと光照射のタイミングとを同期させるタイミング制御を説明する概念図である。
【図3】複数の振動子からなるアレイ型振動子のエリア分割を説明する概略断面図である。
【図4】エリアごとに振動子で混合信号を検出することを説明する概念図である。
【図5】アレイ型振動子で検出したすべての混合信号を用いて、断層画像を生成する工程を説明する概念図である。
【図6】反射源が同一の超音波の位相ずれの態様と発生源が同一の光音響波の位相ずれの態様の違いを説明する概念図である。
【図7】本発明の超音波光音響撮像装置の第2の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0037】
「超音波光音響撮像装置およびその作動方法の第1の実施形態」
まず、超音波光音響撮像装置およびその作動方法の第1の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の超音波光音響撮像装置を示すブロック図である。
【0038】
図1に示すように、本発明の超音波光音響撮像装置1は、システム全体を制御するシステム制御部10と、超音波照射および光照射のタイミング並びに音響波の取込み期間のタイミングを制御するタイミング制御部11と、送信信号に所定の遅延時間を付与する送信回路12と、マルチプレクサ13と、被検体M内に超音波を照射するとともに被検体M内を伝搬する音響波を電気信号に変換可能であって、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含む探触子14と、受信信号に所定の遅延時間を付与する受信回路15と、被検体M内に光を照射する光源16と、光を光源16から被検体Mへ導光する導光部17と、操作者が患者情報や装置の撮像条件を設定するための操作部18と、探触子14によって検出した音響波の受信信号に基づいて超音波画像および光音響画像並びにこれらの合成画像を生成する音響画像生成部30と、音響画像生成部30によって生成された断層画像を表示する画像表示部35とを備えるものであり、特に、音響画像生成部30が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体M内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体M内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するものであることを特徴とするものである。なお、本実施形態では、光源16および導光部17が本発明の光照射部として機能し、探触子14が超音波照射部としての機能も兼ねている。
【0039】
そして、本発明の第1の実施形態の超音波光音響撮像装置の作動方法は、上記装置を用い、被検体内に超音波および光を照射し、探触子14を用いて、被検体M内で反射した超音波を検出してこの超音波を電気信号に変換し、被検体M内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、検出した超音波の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、および/または検出した光音響波の電気信号に基づいて光音響画像を生成する作動方法において、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれのこの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体M内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体M内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するものである。
【0040】
システム制御部10は、例えばCPUや記憶回路等を備え、操作部からのコマンド信号にしたがって、タイミング制御部11、送信回路12、受信回路15および音響画像生成部30等の各ユニットの制御やシステム全体の統括を行うものである。
【0041】
タイミング制御部11は、超音波照射および光照射のタイミング並びに音響波の取込み期間のタイミングを制御するためのものである。超音波画像および光音響画像の合成画像を生成することを考慮すると、超音波画像データの収集と光音響画像データの収集はタイムラグがないように実施することが好ましい。データ収集間にタイムラグがあると、その間の被検体の動きに起因して、これらの断増画像間に歪みが生じて、合成画像の画質が低下するためである。そこで、タイミング制御部11は、超音波照射のタイミングと光照射のタイミングが同期するように制御する。具体的には次のような制御を行う。図2は、超音波照射のタイミングと光照射のタイミングとを同期させるタイミング制御を説明する概念図である。1フレーム分の超音波画像および光音響画像を生成するために必要なデータの収集は、フレーム同期信号S1に同期して開始される。まず、タイミング制御部11は、パルス幅がtdとなるトリガ信号S3を生成し、このトリガ信号S3を送信回路12、受信回路15および光源16に出力する。ここで、tdは、光源16がトリガ信号S3を受信してから実際に発光するまでの時間(実際に発光するまでの遅延時間)に相当するものである。そして、光源がトリガ信号S3の立ちあがり時に同期して駆動するよう設定されることにより、実際の光照射のタイミングS4は遅延時間td後となる。一方、送信回路はトリガ信号S3に対して遅延時間がほとんどないため、送信回路が、トリガ信号S3の立ちさがり時に同期して振動子帯域に応じたパルス幅のパルスを生成し、当該パルスを超音波照射部(探触子)に出力するよう設定されることにより、超音波照射のタイミングS2はトリガ信号S3の立ちさがり時とほぼ同時期となる。これにより、超音波照射のタイミングS2および光照射のタイミングS4を同期させることが可能となる。そして、受信回路がトリガ信号S3の立ちさがり時に同期してデータの取り込みを実施するよう設定されることにより、データ収集間のタイムラグを低減したタイミング制御が可能となる。
【0042】
送信回路12は、送信遅延回路と駆動回路で構成される。送信遅延回路により送信超音波のフォーカス位置を制御することができる。また、駆動回路は、振動子を駆動するための高圧パルス(例えば、波高値が数百Vのインパルス)を生成し、これを振動子に出力して超音波を発生させることができる。
【0043】
マルチプレクサ13は、超音波の送受信時或いは光音響波の受信時に、アレイ型振動子を構成するN個の振動子の中から隣接するn(n<N)個の振動子を選択するものである。
【0044】
探触子14は、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含むものであり、被検体M内を伝搬する音響波(超音波および/または光音響波)を検出するためのものである。また、本実施形態では、この探触子は超音波照射部としての機能も有するものであるが、必ずしもそうである必要はない。振動子は、例えば、圧電セラミクス、またはフッ化ポリビニルピロリドンのような高分子フィルムのような圧電素子である。
【0045】
例えば図3は、アレイ型振動子50が192個の振動子CH1〜CH192から構成される場合を示しており、アレイ型振動子50がエリア0(CH1〜CH64までの振動子の領域)、エリア1(CH65〜CH128までの振動子の領域)およびエリア2(CH129〜CH192までの振動子の領域)の3つの領域に分割されて取り扱われる様子を示すものである。このようにN個の振動子から構成されるアレイ型振動子50をn(n<N)個の隣接する振動子のまとまり(エリア)として取り扱い、このエリアごとにイメージング作業を実施することにより、すべてのチャンネルの振動子にプリアンプやA/D変換ボードを接続する必要がなくなり、探触子の構造を簡素化できコストの増大を防ぐことができる。また、それぞれのエリアを個別に光照射することができるように、複数の光ファイバを配置した場合には、1回あたりの光出力が大きくならずに済むので、大出力の高価な光源を用いる必要がないといった利点もある。
【0046】
また、超音波の照射は、それぞれのエリア内における音響場に強度差が生じないようにするため、平行ビーム化された超音波を用いて行うことが好ましい。なお、光音響撮像範囲は一般的に40mm程度であるため、超音波の照射はフォーカス位置が100mm以上となるように設定すれば照射する超音波はほぼ平行ビームであると考えることができる。
【0047】
受信回路15は、プリアンプとA/D変換器を含むものである。プリアンプはマルチプレクサによって選択される振動子によって受信される微小な電気信号を増幅し、十分なS/Nを確保することを可能にする。そして、プリアンプにより十分なS/Nが確保された電気信号はA/D変換器によりデジタル信号に変換され、メモリに格納される。
【0048】
光源16としては、例えば、半導体レーザ、発光ダイオードおよび固体レーザ等を使用することが可能である。光源16は、光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を射出するものであることが好ましい。光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定され、例えば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合には、一般的には600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被検体Mの深部まで届くという観点から、上記光の波長は700〜1000nmであることが好ましい。そして、上記光の出力は、光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光照射の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、測定光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。
【0049】
導光部17は、光源16から射出された光を被検体Mまで導光するためのものであり、効率のよい導光を実施するために、光ファイバを用いることが好ましい。導光部17は、被検体Mへの均一な照射を実施すべく複数設けてもよい。なお、図1では、明確に示してはいないが、光学フィルタやレンズ等の光学系と合わせて使用することができる。
【0050】
操作部18は、操作画面、キーボードおよびマウス等を備え、操作者が患者情報や撮像条件等必要な情報を装置1に設定するために用いられる。
【0051】
音響画像生成部30は、探触子によって検出された超音波および光音響波の電気信号に基づいて、超音波画像および/または光音響画像並びにこれらの合成画像を生成する部分であり、探触子によって検出された混合信号を記憶するためのメモリ31と、超音波画像生成部32と、光音響画像生成部33と、生成された超音波画像および光音響画像を用いて合成画像を生成する合成画像生成部34とから構成されている。
【0052】
メモリ31は、アレイ型振動子の各振動子で検出された混合信号を記憶する領域である。例えば、図4は、エリアごとの撮像作業によって192チャンネルのアレイ型振動子の各振動子CH1〜CH192でそれぞれ検出された混合信号MS1〜MS192がエリアごとにまとめられて(AS0〜AS2)格納されている様子を示す概念図である。
【0053】
超音波画像生成部32および光音響画像生成部33では、上記メモリに格納された混合信号MS1〜MS192に基づいて超音波画像および光音響画像がそれぞれ生成される。混合信号から例えば光音響画像を生成する方法としては次の通りである。まず、エリアごとにまとめられて格納されている混合信号AS0〜AS2の情報の全体を1つのまとまりとして結合し、この結合された信号の集合に対して所定の開口幅(ライン幅)で1つずつずらしながら位相整合を行い、当該開口幅に対する1ライン分の光音響画像を取得する。例えば、図5は、192個の振動子のアレイ型振動子を用いた場合に実施する位相整合の処理を示す概念図である。具体的には、CH1〜64の振動子によってそれぞれ検出された混合信号MS1〜64を所定の開口幅として設定し、当該開口幅に対する1ライン分の光音響画像PL1を取得するという作業を行った後に、チャンネルを1つずらし、次はCH2〜65の振動子によってそれぞれ検出された混合信号MS2〜65を所定の開口幅として設定し、当該開口幅に対する1ライン分の光音響画像PL2を取得するという作業を行う。そして、このような作業を最終的にCH128〜192の振動子によってそれぞれ検出された混合信号MS128〜192を所定の開口幅として設定して同様に1ライン分の光音響画像PL129を取得するまで実施することにより、光音響画像の生成に必要なラインデータの生成が行われる。このようにして得られた複数の1ライン分の光音響画像PL1〜129は、光音響画像生成部中の音線メモリ70に格納され、例えば後述する閾値処理71等の必要な信号処理が施される。そして、複数の1ライン分の光音響画像PL1〜129が結合されることで1フレームの光音響画像が生成され、当該画像は画像表示部35或いは合成画像生成部34へ出力される。
【0054】
上記では、混合信号から光音響画像を生成する場合について述べたが、同じこれらの混合信号から超音波画像を生成する場合についても、位相整合処理の条件が異なる点を除いては、同様の作業により複数の1ライン分の超音波画像が得られて、複数の1ライン分の超音波画像が結合されることで1フレームの超音波画像が生成され、当該画像は画像表示部35或いは合成画像生成部34へ出力される。また、超音波画像生成部32および光音響画像生成部33における画像の生成は、画像構築速度向上の観点から、並列して実施することが好ましい。これは、本発明の「超音波および光音響波を同時に検出してもそれらの周波数に依存せず、独立した超音波画像および光音響画像を生成することが可能となる」という効果によって、もたらされる更なる利点である。
【0055】
なお、超音波画像生成部32および光音響画像生成部33それぞれの入力側または出力側、もしくは両側に周波数フィルタを設けても良い。つまり、超音波画像生成部32の入力側に周波数フィルタを設け、第1の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第1の加算処理工程を行い、一方光音響画像生成部33の入力側に周波数フィルタを設け、第1の周波数解析工程とは条件が異なる第2の周波数解析工程が行われた複数の混合信号に対して、第2の加算処理工程を行う。この場合、第1の周波数解析工程および第2の周波数解析工程は、超音波と光音響波の周波数の違いに対応して、異なる周波数に対してフィルタリングを実施できるように設定されている。例えば、波長が5〜8MHzの超音波が検出され、波長が3MHz程度の光音響波が検出されるように光のパルス長を調整することができる。また、超音波画像生成部32の出力側に周波数フィルタを設け、第1の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程を行い、一方光音響画像生成部33の出力側に周波数フィルタを設け、第2の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程とは条件が異なる第4の周波数解析工程を行ってもよい。この場合、第3の周波数解析工程および第4の周波数解析工程は、超音波と光音響波の周波数の違いに対応して、異なる周波数に対してフィルタリングを実施できるように設定されている。これらにより、超音波と光音響波の干渉をより防ぐことができる。さらに、上記第1から4までの周波数解析工程すべてを組み合わせることも可能である。
【0056】
次に、位相整合処理の条件について述べる。本発明の超音波光音響撮像装置1は特に、音響画像生成部30が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するように構成されることを特徴とするものである。
【0057】
図6は、例としてエリア0に関する計測で超音波および光が同時に照射された場合で、被検体内における反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、被検体内における発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを説明するための概念図である。
【0058】
まず、光が照射された場合(t=0)、光は超音波に比べ伝搬速度が十分に速いため、光の照射と同時に被検体内の計測の対象となる領域に光が行き渡っているとみなすことができる。この光の照射によって光音響効果が誘起され光音響波が発生する。発生した光音響波は、発生源を中心に球面波として伝搬しアレイ型振動子(探触子)に到達する。この際、アレイ型振動子中のそれぞれの振動子と光音響波の発生源との位置関係により、光音響波の伝搬距離が異なるため、それぞれの振動子で検出される発生源が同一である光音響波の間には、この伝搬距離の差に相当する位相のずれが生じることになる。
【0059】
一方、超音波が照射された場合(t=0)、アレイ型振動子中のそれぞれの振動子から照射された超音波は被検体内の反射源に関して、当該振動子と反射源との間の往復分の経路を伝搬する。この際、光音響波の場合と同様に、アレイ型振動子中のそれぞれの振動子と超音波の反射源との位置関係により、超音波の伝搬距離が異なるため、それぞれの振動子で検出される反射源が同一である超音波の間には、この伝搬距離の差に相当する位相のずれが生じることになる。そして、上記超音波に関する位相ずれの態様は、超音波が光音響波と異なり往復経路を伝搬するということに起因して、上記光音響波に関する位相ずれの態様とは異なるものとなる。
【0060】
ここで、「位相ずれの態様」とは、それぞれの振動子によって検出された反射源が同一である超音波(或いは発生源が同一である光音響波)において、基準となる振動子(例えば、図6ではCH32およびCH33の振動子)で当該超音波(或いは当該光音響波)が検出された時間に対する、他のそれぞれの振動子で当該超音波(或いは当該光音響波)が検出された時間のずれ具合を意味するものであり、言い換えれば、反射源が同一である超音波(或いは発生源が同一である光音響波)がアレイ型振動子に検出される際の、当該超音波(或いは光音響波)の波面の曲がり具合と表現することもできる。そして、「位相ずれの態様の違い」とは、上記のような時間のずれ具合(或いは、上記のような波面の曲がり具合)が全体として一致しないことを意味する。
【0061】
上記のように、超音波と光音響波とで位相ずれの態様に違いが存在するということは、位相整合処理を実施する際に使用する遅延量として、超音波および光音響波それぞれに適した遅延量が存在するということである。そこで、この位相ずれの態様の違いを利用することにより、超音波および光音響波が混合された音響波を同一の検出器(探触子)で同時に検出しても、それらの周波数に依存せず、独立した超音波画像および光音響画像を生成することが可能となる。
【0062】
例えば、図6において、振動子CH1〜CH64に検出された発生源が同一である光音響波P1〜P64に関して、基準となる光音響波P32およびP33に対する他の光音響波P1〜P31およびP34〜P64の遅延量は、それぞれtdp1〜tdp31およびtdp34〜tdp64である。これらの遅延量tdp1〜tdp31およびtdp34〜tdp64は、アレイ型振動子(今の場合には特にエリア0中の振動子)と発生源との幾何学的な位置関係、つまり発生源の表面からの深さで決定される値であり、この深さは基準となる光音響波P32およびP33が光照射後検出されるまでの時間、つまり図6中のtから導出することができる。したがって、ある時間tにおける位相整合後の光音響波の信号強度は下記式(1)より求めることができる(第2の加算処理工程)。
ΣCHi(t+tdpi)・・・(1)
ここで、Σはiについての総和であり、iは1〜64までの整数であり、CHi(t)はi番目の振動子CHiの時刻tにおける信号強度である。
【0063】
上記式(1)について、時刻t=0からt=Tまで同様に求め、それらの信号強度を縦軸に取り、横軸をtとして並べたものが図6中の光音響波を反映する電気信号PL1である。電気信号PL1において、t=tの位置の信号強度は光音響波の位相が整合されて加算された結果増幅されるが、当該位相整合条件が超音波の位相整合条件として適切ではないため、t=tの位置の信号強度は増幅されない。つまり、超音波および光音響波の位相ずれの態様の違いを利用し、複数の混合信号に基づいて光音響波を反映する電気信号PL1を取得することができることがわかる。なお、図6の電気信号PL1のように、超音波の信号強度の影響を完全に排除することができない場合もあり得る。そのような場合には、所定の閾値Y以下の信号強度を減少せしめるような閾値処理(第2の閾値処理工程)を行うことにより、より光音響波のコントラストを向上させることができる。閾値Yの値は適宜設定できるが、光音響波のコントラストを最大にする観点から、ゼロとすることが好ましい。
【0064】
そして、光音響画像は、上記同様の処理を行って得られた光音響波を反映する電気信号PL1〜PL129を結合することにより生成することができる。
【0065】
超音波画像についても上記同様の処理を行うことにより生成することができる。すなわち、図6において、振動子CH1〜CH64に検出された反射源が同一である超音波U1〜U64に関して、基準となる超音波U32およびU33に対する他の超音波U1〜U31およびU34〜U64の遅延量は、それぞれtdu1〜tdu31およびtdu34〜tdu64である。これらの遅延量tdu1〜tdu31およびtdu34〜tdu64は、アレイ型振動子(今の場合には特にエリア0中の振動子)と反射源との幾何学的な位置関係、つまり反射源の表面からの深さで決定される値であり、この深さは基準となる超音波U32およびU33が超音波照射後検出されるまでの時間、つまり図6中のtから導出することができる。したがって、ある時間tにおける位相整合後の超音波の信号強度は下記式(2)より求めることができる(第1の加算処理工程)。
ΣCHi(t+tdui)・・・(2)
ここで、Σ、iおよびCHi(t)については上記式(1)と同様である。
【0066】
上記式(2)について、時刻t=0からt=Tまで同様に求め、それらの信号強度を縦軸に取り、横軸をtとして並べたものが図6中の超音波を反映する電気信号UL1である。電気信号UL1において、t=tの位置の信号強度は超音波の位相が整合されて加算された結果増幅されるが、当該位相整合条件が光音響波の位相整合条件として適切ではないため、t=tの位置の信号強度は増幅されない。つまり、超音波および光音響波の位相ずれの態様の違いを利用し、複数の混合信号に基づいて超音波を反映する電気信号UL1を取得することができることがわかる。なお、図6の電気信号UL1のように、光音響波の信号強度の影響を完全に排除することができない場合もあり得る。そのような場合には、所定の閾値Y以下の信号強度を減少せしめるような閾値処理(第1の閾値処理工程)を行うことにより、より超音波のコントラストを向上させることができる。閾値Yの値は適宜設定できるが、超音波のコントラストを最大にする観点から、ゼロとすることが好ましい。また、第1および第2の閾値処理工程の閾値の値は、必ずしも同じ値である必要はない。
【0067】
そして、超音波画像は、上記同様の処理を行って得られた超音波を反映する電気信号UL1〜UL129を結合することにより生成することができる。
【0068】
合成画像生成部34は、上記のようにして得られた超音波画像および光音響画像を重畳して合成画像を生成する。この際、例えば超音波画像を白黒、光音響画像を赤色とするような方法で識別性を付与して重畳することも可能である。また、図6の超音波を反映する電気信号UL1および光音響を反映する電気信号PL1から分かるように、超音波が光音響波に比べて伝搬距離が長いことにより、実際は反射源および発生源として同じ領域を計測していても、電気信号UL1およびPL1をそのまま重畳した場合には独立した2つの領域から音響信号が計測されているような合成画像が生成されてしまう。したがって、超音波画像と光音響画像とを重畳して合成画像を生成する場合には、一方の画像もしくは両方の画像のスケールを整合させることが好ましい。
【0069】
以上より、本発明の超音波光音響撮像装置は、特に音響画像生成部が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するように構成されている。ここで、超音波および光音響波の電気信号の位相ずれの態様の違いは、超音波および光音響波のそれぞれの伝搬経路の長さの違いにより生じるため、超音波および光音響波のそれぞれの周波数に依存しないものである。この結果、超音波イメージングおよび光音響イメージングを用いた超音波光音響撮像装置において、超音波および光音響波を同時に検出してもそれらの周波数に依存せず、独立した超音波画像および光音響画像を生成することが可能となる。
【0070】
「超音波光音響撮像装置およびその作動方法の第2の実施形態」
次に、超音波光音響撮像装置およびその作動方法の第2の実施形態について詳細に説明する。図7は、本発明の第2の実施形態の超音波光音響撮像装置2を示すブロック図である。第2の超音波光音響撮像装置2およびその作動方法は、前述した第1の実施形態のものとほぼ同様の構成であるが、第2の超音波光音響撮像装置2の操作部18がモード選択部19を有する点で第1の実施形態と異なる。したがって、その他の同様の構成についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0071】
モード選択部19は、超音波画像のみを生成する超音波モードおよび光音響画像を生成する光音響モードの選択を可能とするものであり、さらに光音響モードにおいて、超音波照射の有無の切換えを可能とするものである。このモード選択部19を介して操作者は、必要に応じて、従来の超音波画像のみを確認することが可能となり、また光音響モードにおいて超音波の有無の切換えることにより、その場で超音波と光音響波との干渉の影響を対比させて確認することが可能となる。
【0072】
以上より、本実施形態の超音波光音響撮像装置においても、特に音響画像生成部が、それぞれの振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの混合信号中の超音波の電気信号であって被検体内の反射源が同一である超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの混合信号中の光音響波の電気信号であって被検体内の発生源が同一である光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、超音波を反映する電気信号および光音響波を反映する電気信号を生成し、超音波を反映する電気信号に基づいて超音波画像を生成し、光音響波を反映する電気信号に基づいて光音響画像を生成するように構成されている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0073】
1 超音波光音響撮像装置
10 システム制御部
11 タイミング制御部
12 送信回路
13 マルチプレクサ
14 探触子
15 受信回路
16 光源
17 導光部
18 操作部
19 モード選択部
30 音響画像生成部
31 メモリ
32 超音波画像生成部
33 光音響画像生成部
34 合成画像生成部
35 画像表示部
50 アレイ型振動子
70 音線メモリ
71 閾値処理
M 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に超音波を照射する超音波照射部と、前記被検体内に光を照射する光照射部と、前記超音波が前記被検体内に照射されることにより該被検体内で反射した前記超音波を検出して、該超音波を電気信号に変換可能な探触子であって、前記光が前記被検体内に照射されることにより該被検体内で発生した光音響波を検出して、該光音響波を電気信号に変換可能な前記探触子と、該探触子により検出した前記超音波の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、および/または前記探触子により検出した前記光音響波の電気信号に基づいて光音響画像を生成する音響画像生成部とを備える超音波光音響撮像装置において、
前記探触子が、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含むものであり、
前記音響画像生成部が、それぞれの前記振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する前記音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの該混合信号中の前記超音波の電気信号であって前記被検体内の反射源が同一である前記超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの前記混合信号中の前記光音響波の電気信号であって前記被検体内の発生源が同一である前記光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、前記超音波を反映する電気信号および前記光音響波を反映する電気信号を生成し、前記超音波を反映する電気信号に基づいて前記超音波画像を生成し、前記光音響波を反映する電気信号に基づいて前記光音響画像を生成することが可能なものであることを特徴とする超音波光音響撮像装置。
【請求項2】
前記音響画像生成部が、超音波用遅延データを用い前記超音波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の前記混合信号を加算する第1の加算処理工程を行なって前記超音波を反映する電気信号を生成するものであり、光音響波用遅延データを用い前記光音響波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の前記混合信号を加算する第2の加算処理工程を行って前記光音響波を反映する電気信号を生成するものであることを特徴とする請求項1に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項3】
前記音響画像生成部が、前記第1の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の該信号強度を減少せしめる第1の閾値処理工程を行って、前記超音波を反映する電気信号を生成するものであり、前記第2の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の該信号強度を減少せしめる第2の閾値処理工程を行って、前記光音響波を反映する電気信号を生成するものであることを特徴とする請求項2に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項4】
前記超音波照射部が、平行ビーム化された超音波を照射するものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項5】
前記平行ビーム化された超音波の照射のタイミングと前記光の照射のタイミングとを同期するように制御するタイミング制御部を備えることを特徴とする請求項4に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項6】
前記音響画像生成部が、前記超音波画像の生成と前記光音響画像の生成とを並列して行うものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項7】
前記音響画像生成部が、前記超音波画像および前記光音響画像の合成画像を生成するものであることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項8】
前記音響画像生成部が、前記超音波画像および前記光音響画像のスケールを整合させて前記合成画像を生成するものであることを特徴とする請求項7に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項9】
前記探触子が、前記超音波照射部を兼ねるものであることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項10】
前記超音波画像のみを生成する超音波モードおよび前記光音響画像を生成する光音響モードの選択が可能なものであることを特徴とする請求項1から9いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項11】
前記光音響モードにおいて、超音波照射の有無の切換えが可能なものであることを特徴とする請求項10に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項12】
前記音響画像生成部が、第1の周波数解析工程が行われた複数の前記混合信号に対して、前記第1の加算処理工程を行い、前記第1の周波数解析工程とは条件が異なる第2の周波数解析工程が行われた複数の前記混合信号に対して、前記第2の加算処理工程を行うものであることを特徴とする請求項2または3に記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項13】
前記音響画像生成部が、前記第1の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程を行い、前記第2の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、前記第3の周波数解析工程とは条件が異なる第4の周波数解析工程を行うものであることを特徴とする請求項2、3および12いずれかに記載の超音波光音響撮像装置。
【請求項14】
被検体内に超音波および光を照射し、探触子を用いて、前記被検体内で反射した前記超音波を検出して該超音波を電気信号に変換し、前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を電気信号に変換し、検出した前記超音波の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、および/または検出した前記光音響波の電気信号に基づいて光音響画像を生成する超音波光音響撮像装置の作動方法において、
前記探触子が、複数の振動子からなるアレイ型振動子を含むものであり、
それぞれの前記振動子により所定の取込み期間内に検出された音響波であって超音波および光音響波が混合する前記音響波が電気信号に変換された混合信号に基づいて、それぞれの該混合信号中の前記超音波の電気信号であって前記被検体内の反射源が同一である前記超音波の電気信号の位相ずれの態様と、それぞれの前記混合信号中の前記光音響波の電気信号であって前記被検体内の発生源が同一である前記光音響波の電気信号の位相ずれの態様との違いを利用して、前記超音波を反映する電気信号および前記光音響波を反映する電気信号を生成し、
前記超音波を反映する電気信号に基づいて前記超音波画像を生成し、前記光音響波を反映する電気信号に基づいて前記光音響画像を生成することが可能であることを特徴とする超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項15】
超音波用遅延データを用い前記超音波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の前記混合信号を加算する第1の加算処理工程を行なって前記超音波を反映する電気信号を生成し、
光音響波用遅延データを用い前記光音響波の電気信号の位相ずれを整合する条件で、複数の前記混合信号を加算する第2の加算処理工程を行って前記光音響波を反映する電気信号を生成することを特徴とする請求項14に記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項16】
前記第1の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の該信号強度を減少せしめる第1の閾値処理工程を行って、前記超音波を反映する電気信号を生成し、
前記第2の加算処理工程後の電気信号に対し、信号強度が所定の閾値以下の領域の該信号強度を減少せしめる第2の閾値処理工程を行って、前記光音響波を反映する電気信号を生成することを特徴とする請求項15記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項17】
平行ビーム化された超音波を照射することを特徴とする請求項14から16いずれかに記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項18】
前記平行ビーム化された超音波の照射のタイミングと前記光の照射のタイミングとを同期するように制御することを特徴とする請求項17に記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項19】
前記超音波画像の生成と前記光音響画像の生成とを並列して行うことを特徴とする請求項14から18いずれかに記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項20】
前記超音波画像および前記光音響画像の合成画像を生成することを特徴とする請求項14から19いずれかに記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項21】
前記超音波画像および前記光音響画像のスケールを整合させて前記合成画像を生成することを特徴とする請求項20に記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項22】
第1の周波数解析工程が行われた複数の前記混合信号に対して、前記第1の加算処理工程を行い、
前記第1の周波数解析工程とは条件が異なる第2の周波数解析工程が行われた複数の前記混合信号に対して、前記第2の加算処理工程を行うことを特徴とする請求項15または16に記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。
【請求項23】
前記第1の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、第3の周波数解析工程を行い、
前記第2の加算処理工程によって生成された電気信号に対して、前記第3の周波数解析工程とは条件が異なる第4の周波数解析工程を行うことを特徴とする請求項15、16および22いずれかに記載の超音波光音響撮像装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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