説明

超音波探傷検査方法、及び、超音波探傷装置用探触子ユニット

【課題】従来の一般的な斜角探傷法では対応できないような条件であっても、問題なく実施することができ、簡単な手順で未溶着量等の評価を高い精度で実現できる超音波探傷検査方法、及び、そのための探触子ユニットを提供する。
【解決手段】SV波を発信し、屈折角が78〜88°の範囲内に設定された探触子4を、主板1のビード3側の表面上に配置し、探触子4の先端を、ビード3の始端3aの位置(或いは始端3aから3mm以内の位置)に合わせた状態で超音波を送信し、回折現象によってビード3内を拡がりながら進行する回折波の反射エコーを含む受信信号を取得して、未溶着部5の寸法を推測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SV波の回折現象を利用して超音波探傷検査を行う方法であって、特に、すみ肉溶接や部分溶け込み溶接を実施した場合における「溶け込み量」或いは「未溶着量」を推測すべく、溶接部に対して実施される超音波探傷検査方法、及び、当該方法を実施する際に好適に用いることができる超音波探傷装置用探触子ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
デッキプレートに対してトラフリブを溶接する場合のように、主板の一方の面に対して、立板の端部を当接し、立板の端部と主板とによって形成される一方の隅部に対してすみ肉溶接等を行って主板と立板を一体化する場合、溶接部における溶け込み量、或いは、反対側の隅部の近傍において生じ得る未溶着部の大きさを評価する必要があり、そのための手法として、従来より、横波の超音波(SV波、Shear Vertical Wave)を用いた斜角探傷法が実施されている。
【0003】
SV波による一般的な斜角探傷法は、探傷面に対して斜め方向に超音波ビームを入射して被検査体内部へ伝搬させるというもので、定めた探傷位置から得られる反射エコーの高さから、未溶着部の大きさと、溶け込み量を推測するというものである。この方法に用いられる斜角探触子は、振動子によって生成された縦波の超音波パルスが、探傷面において屈折し、臨界角以上で全反射され、横波に変換されて、その変換された横波の超音波パルスのみが探傷面を通過して、被検査体の内部に伝搬するように設計されている。
【0004】
尚、横波の超音波パルスが伝わる屈折角は、適用される材料によって異なり、鋼の場合には約35〜80°である。そして、屈折角80°あたりから極端に音圧往復通過率が低下してしまうため、鋼を対象とする斜角探触子としては、45〜70°の屈折角のものが一般的で、音圧往復通過率が低くなる80°以上の屈折角のものは、これまで殆ど用いられていない。
【0005】
また、SV波による一般的な斜角探傷法では、未知の位置にある反射源を幾何学的に算出する必要性から、便宜上、超音波ビームは広がりがなく直線的に伝搬するものと解釈したうえで、探触子をある位置にセットしたときに最大ピークのエコーが得られた場合、その位置にある探触子から発信された超音波ビームの中心軸(音軸)が反射源に当たったものと解釈している。このため、一般的な斜角探傷法では、最大ピークのエコーが得られる探触子の位置(最適入射点位置)の検出が必須となる。
【特許文献1】特開2004−333387号公報
【特許文献2】特開2007−178197号公報
【特許文献3】特開2007−205959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被検査体における立板の板厚やビードとの関係で(例えば、立板の板厚が6mm以下である場合など)、探触子の最適入射点位置を確保できない場合があり、この場合、SV波による一般的な斜角探傷法では、良好な探傷を行うことが難しくなってしまう。そこで、探触子の最適入射点位置を確保できないような場合には、例えば、80°以上の高屈折角の斜角探触子を用いた斜角探傷法を利用することが考えられる。
【0007】
高屈折角の斜角探傷法には、横波の超音波(SH波、Shear Horizontal Wave)や、クリーピング波などを用いることが知られているが、反射源からの反射エコーを安定的に得ることが難しく、また、評価すべきエコーをはっきりと識別することが難しいという問題がある。更に、高屈折角の斜角探傷法にSV波を適用する場合、前述の通り、音圧往復通過率が低くなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決すべくなされたものであって、従来の一般的な斜角探傷法では対応できないような条件であっても、問題なく実施することができ、簡単な手順で未溶着量等の評価を高い精度で実現できる超音波探傷検査方法、及び、そのための探触子ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波探傷検査方法は、SV波を発信し、屈折角が78〜88°の範囲内に設定された探触子を探傷面に配置し、探触子の先端を、探傷面と、当該探傷面よりも上方へ延在する厚肉部との境界部分の始端の位置或いは始端から3mm以内の位置に合わせた状態で超音波を送信し、回折現象によって厚肉部内を拡がりながら進行する回折波を利用して、探傷面よりも上方に位置する反射源からの反射エコーを含む受信信号を取得することを特徴としている。
【0010】
この超音波探傷検査方法は、主板の一方の面に立板の端部を当接し、当該立板の端部の一方の隅部に対して溶接を行って一体化してなる被検査体に対し、超音波探傷装置を用いて探傷検査を行い、得られた受信信号から、被検査体の溶接部における未溶着部の有無を判定し、或いは、被検査体の溶接部において未溶着部が存在している場合に、必要な計算を行って未溶着量或いは溶け込み量を推測しようとする際等に、好適に利用することができる。具体的には、探触子を主板のビード側の表面上に配置し、探触子の先端を、ビードの始端の位置或いは始端から3mm以内の位置に合わせた状態で超音波を送信し、回折現象によってビード内を拡がりながら進行する回折波の反射エコーを含む受信信号を取得して、判定、推測を行う。
【0011】
尚、それらの反射エコーを含む受信信号を画面表示する際には、予め標準試験片(探傷面よりも上方へ延在し、内部に横穴が形成された厚肉部を有するもの)に対して超音波を送信し、横穴を反射源とする反射エコーの音圧を基準として、縦軸についての画面表示倍率を調整しておくことが好ましい。
【0012】
また、この超音波探傷検査方法においては、送信用探触子、及び、受信用探触子からなる探触子ユニットであって、音軸の開き角が10〜30°の範囲内のいずれかの角度に設定され、屋根角が1〜10°の範囲内のいずれかの角度に設定されているものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る超音波探傷検査方法によれば、従来のSV波による一般的な斜角探傷法によっては、うまく探傷検査を行うことができなかったような場合であっても、好適に探傷検査を行うことができる。特に、溶接部の未溶着量、溶け込み量の評価を目的とする探傷検査等に適用した場合、簡単な手順によって、未溶着量等を高い精度で推測することができる。
【0014】
また、本発明に係る超音波探傷装置用探触子ユニットは、上記のような超音波探傷検査方法に使用した場合、非常に効率良く、有効な反射エコーを得ることができ、評価しようとする反射源の曲率半径が非常に小さいような場合であっても、反射エコーとノイズとを、目視によって簡単、かつ、明確に識別できるような受信信号を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面に沿って本発明に係る「溶接部の超音波探傷検査方法」の実施形態について説明する。この超音波探傷検査方法は、超音波探傷装置を用いて被検査体に対して探傷検査を行い、得られた受信信号から、被検査体の溶接部における未溶着部の有無を判定し、また、未溶着部が存在している場合には、必要な計算を行って未溶着量或いは溶け込み量を推測する、というものである。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る溶接部の超音波探傷検査方法の説明図である。この図において、1は主板、2は立板、3はビード、4は超音波探傷装置の探触子である。本実施形態においては、図示されているように、被検査体として、主板1の一方の面(図1において上面)に対して、立板2の端部を当接し、主板1との関係で立板2の端部の両側に形成される二つの隅部のうち、一方の隅部(図1において左側の隅部)に対してすみ肉溶接を行って主板1と立板2を一体化したものが用いられている。尚、ここで用いる被検査体が、例えば、デッキプレートにトラフリブを溶接したものである場合、図1の主板1はデッキプレートに相当し、立板2はトラフリブに相当する。
【0017】
また、本実施形態においては、探触子4として、SV波を発信し、屈折角(入射角)が80°に設定された高屈折角の斜角探触子が用いられている。
【0018】
ここで、本発明に係る溶接部の超音波探傷検査方法の手順について説明する。まず、図1に示すように、探触子4を、主板1の一方の表面(ビード3側の表面)上に配置し、探触子4の先端を、ビード3の始端3aの位置(或いは始端3aから3mm以内の位置)に合わせる。この状態で、探触子4から前方(主板1の内部方向であって、溶接部近傍の方向)へ向けて超音波を送信する。そうすると、超音波の音軸8の方向(本実施形態においては、入射点Pから屈折角80°の方向)が、探傷しようとする反射源(未溶着部等)の位置と一致していなくても、回折現象によって、ビード3内を拡がりながら進行する波(回折波)を利用することができ、この回折波の反射エコーを得ることによって、探傷面(本実施形態においては主板1の表面)よりも上方に位置する反射源からも情報を取得することができる。具体的には、図1に示すような状態で探触子4から超音波を送信すると、溶接部の状態に応じて、例えば、図2(1)或いは(2)に示すような波形の受信信号が得られる。
【0019】
より詳細には、主板1と立板2の溶接部に未溶着部が形成されていない場合、図2(1)に示すように、一つの反射エコーAのみを含む信号が受信されることになる。一方、主板1と立板2の溶接部に、図1に示すような未溶着部5が存在している場合、図2(2)に示すように、二つの反射エコーA,Bを含む信号が受信されることになる。尚、図2において横軸は時間(伝搬距離)、縦軸は音圧を表している。
【0020】
従って、図2(1)に示すように、一つの反射エコーAのみを含む信号が受信された場合、被検査体の溶接部において、未溶着部は形成されていない、と判定することができる。また、図2(2)に示すように、二つの反射エコーA,Bを含む信号が受信された場合には、被検査体の溶接部において未溶着部5が存在している、と判定することができる。
【0021】
溶接部に未溶着部5が存在していると判定すべき場合(二つの反射エコーA,Bを含む信号が受信された場合)、上記のような手順を実行することによって得られた受信信号(図2(2)に示すような波形の信号)から、未溶着部5の大きさ(立板2の裏面端部2aから未溶着部5の最奥部5aまでの寸法)、及び、溶け込み量を推測する。
【0022】
図1に示すような被検査体において、未溶着部5が存在している場合、受信信号には、立板2の裏面端部2aを反射源とする反射エコーと、未溶着部5の最奥部5aを反射源とする反射エコーが含まれているはずである。そして、図2のグラフにおいて、横軸は時間(超音波を送信した時点から受信するまでの時間)を表しており、超音波の伝搬速度が与えられるならば、超音波の伝搬距離(入射点Pからの距離)を表すことになるため、超音波の入射点Pを基準として、より遠い位置に存在する反射源からの信号は、図2(2)のグラフにおいて、基点からより遠い位置に現れることになり、超音波の入射点Pに近い位置に存在する反射源からの信号は、図2(2)のグラフにおいて、より基点に近い位置に現れることになる。
【0023】
従って、図2(2)のグラフにおいて、基点から遠い位置に表示されている反射エコーAは、超音波の入射点Pから遠い位置に存在する立板2の裏面端部2aを反射源とする信号であると特定することができ、また、基点に近い位置に表示されている反射エコーBは、入射点Pに近い位置に存在する未溶着部5の最奥部5aを反射源とする信号であると特定することができる。
【0024】
探触子4の超音波の入射点Pから立板2の裏面端部2aまでの距離Y1(図1参照)は、スケール等を用いて測定することができる。そして、図2(2)のグラフにおける横軸は、上述の通り、「入射点Pからの距離」とも考えることができるため、図2(2)のグラフに示されている反射エコーA(立板2の裏面端部2aを反射源とする信号)の横軸の読み値W1は、図1に示す距離Y1(入射点Pから立板2の裏面端部2aまでの距離)であると考えることができる。
【0025】
この読み値W1と距離Y1の関係、及び、図2(2)のグラフに示されている反射エコーB(未溶着部5の最奥部5aを反射源とする信号)の横軸の読み値W2から、図1に示す距離Y2(入射点Pから未溶着部5の最奥部5aまでの距離)を求めることができる。そして、距離Y1と距離Y2の差から、立板2の裏面端部2aから未溶着部5の最奥部5aまでの寸法を求めることができる。また、読み値W1と距離Y1の関係、及び、読み値W1と読み値W2の差から、立板2の裏面端部2aから未溶着部5の最奥部5aまでの寸法を求めることもできる。そして、求められた未溶着部5の大きさから、溶け込み量を求めることができる。
【0026】
尚、図2(2)のグラフにおいては、反射エコーA,Bと、それ以外の波形の信号成分(ノイズ)とを、目視によって簡単に、かつ、明確に識別することができるが、これは、受信信号についての縦軸の成分(音圧)の画面表示倍率が適切な値に調整されたうえで、受信信号の波形が画面上に表示されているからである。そのような画面表示倍率の調整が行われない場合には、必ずしも反射エコーA,Bと、それ以外の波形の信号成分とを簡単かつ明確に識別できるとは限らない。
【0027】
本実施形態においては、次のようなルーティンを予め実行することにより、画面表示倍率の調整が行われている。まず、図3に示すような標準試験片6を用意する。この標準試験片6には、探触子4を配置する探傷面6aの部位よりも板厚が大きく、探傷面6aよりも上方へ延在する部分(厚肉部6c)を形成しておき、また、探傷面6aと厚肉部6cとの境界には、図1に示した被検査体におけるビード3の形状を模した傾斜部6bを形成しておく。更に、厚肉部6cの内部には、直径3mm程度の横穴7(空洞)を形成しておく。尚、横穴7は、その中心7aの高さ位置が探傷面6aと一致するように形成する。
【0028】
次に、この標準試験片6の探傷面6aに探触子4を配置する。このとき、探触子4の先端を、図3に示すように傾斜部6bの始端の位置(或いは始端から3mm以内の位置)に合わせる。この状態で探触子4から標準試験片6の内部へ向けて超音波を発信する。そうすると、厚肉部6cの内部に形成されている横穴7を反射源とする反射エコーが得られる。この反射エコーの高さ(音圧)を基準として、縦軸について画面表示倍率の調整を行う。例えば、標準試験片6の横穴7を反射源とする反射エコーの高さを、画面上の縦軸の80%の高さとなるように倍率を調整し、これを基準感度とする。この画面表示倍率の調整を予め実施することにより、図2(2)のグラフのように、反射エコーA,Bと、それ以外の波形の信号成分(ノイズ)とを、目視によって簡単に、かつ、明確に識別することができるようなコンディションで、被検査体から得られた受信信号の画面表示を行うことができる。
【0029】
尚、本実施形態においては、探触子4として、屈折角が80°のものが用いられているが、この角度のものに限定されるものではなく、78〜88°の範囲内に設定された高屈折角の探触子であれば、本実施形態の探触子4と同様に、好適に用いることができる。
【0030】
以上に説明した本実施形態の「溶接部の超音波探傷検査方法」によれば、従来のSV波による一般的な斜角探傷法によっては、うまく探傷検査を行うことができなかったような場合であっても(例えば、立板の板厚が6mm以下である場合や、探触子の最適入射点位置を確保できないような場合などであっても)、好適に探傷検査を行うことができ、簡単かつ正確に未溶着量、及び、溶け込み量を推測することができる。
【0031】
この点についてより詳細に説明すると、従来のSV波による一般的な斜角探傷法は、探触子から出力される超音波ビームの中心軸(音軸)が、反射源(未溶着部の最奥部等)に当たるような位置に探触子を配置して探傷を行い、受信信号に含まれている反射エコーの高さ(音圧の大きさ)に基づいて、未溶着量、傷の寸法等を計算、推測していたため、反射源の位置と、使用される探触子の屈折角(通常は、45〜70°)から、探触子を配置すべき位置は自ずから限定されることになる。
【0032】
具体的には、従来のSV波による一般的な斜角探傷法によって、図1に示すような被検査体の未溶着部5の探傷を行おうとする場合、音軸が未溶着部5の最奥部5aに当たる位置に探触子を配置する必要があるところ、図1に示したように、未溶着部5の最奥部5aは、主板1の表面から屈折角90°の方向に存在しているため、主板1の表面に探触子を配置すると、音軸を未溶着部5の最奥部5aに当てることはできない。このため、従来のSV波による一般的な斜角探傷法による場合、探触子は、立板2の表面に配置せざるを得ない、ということになる。
【0033】
但し、図1の被検査体においては、立板2の板厚が薄いこと、及び、ビード3の形成位置との関係で、立板2の表面に探触子を配置しても、屈折角70°以内の方向に未溶着部5の最奥部5aを位置させることができない。立板2の表面に配置した探触子の音軸を未溶着部5の最奥部5aに当てるためには、屈折角が80°以上の探触子を用いる必要があるが、この場合、未溶着部5の延在方向(立板2の裏面端部2aから最奥部5aへ至る方向、図1においては水平方向)に対して、音軸が、非常に大きな角度(直角に近い角度)で交差することになることになり、また、80°以上の屈折角の探触子を用いて従来の一般的な斜角探傷法を実施すると、音圧往復通過率が著しく低下してしまうため、良好な探傷を行うことができない。
【0034】
本実施形態の超音波探傷検査方法は、探触子からの音軸を反射源に直接当てることは意図しておらず、音軸を反射源の近傍へ向けて超音波を送出し、回折波を反射源に当て、その回折波の反射エコーを取得して未溶着部5の評価を行う、というものであり、未溶着部5等の反射源が、探傷面(本実施形態においては、主板1の表面)よりも上方に位置するような場合でも、好適に探傷を行うことができるという点で、従来の斜角探傷法と大きく異なっている。
【0035】
また、本実施形態の超音波探傷検査方法では、探触子4から送出され、未溶着部5へ至る超音波エコーの伝搬方向(未溶着部5へ到達する回折波の進行方向)と、未溶着部5の延在方向が一致しており(換言すれば、未溶着部5の延在方向と一致する方向の延長線上に探触子4を配置しており)、超音波の伝搬時間の差(超音波が未溶着部5の最奥部5aに到達するまでの時間と、立板2の裏面端部2aに到達するまでの時間の差)から、未溶着部5の寸法を計算、推測しているという点で、未溶着部の延在方向に対して、非常に大きな角度で音軸が交差するように超音波を送出し、反射エコーの高さ(音圧)から未溶着部の寸法を計算、推測する従来の斜角探傷法と大きく異なっている。
【0036】
このように、本実施形態の超音波探傷検査方法は、従来の斜角探傷法と比較すると、超音波の送信方向(音軸の方向の定め方)、受信信号中の反射エコーの取り扱い方法、未溶着量(溶け込み量)の計算方法が全く異なっている。そして、従来の斜角探傷法では良好に探傷を行うことができないような条件の被検査体に対しても、好適に適用することができ、簡単な手順で、正確に未溶着量及び溶け込み量を計算、推測することができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態として、上述の「溶接部の超音波探傷検査方法」を実施する際に好適に用いることができる超音波探傷装置用探触子ユニットについて説明する。本実施形態の探触子ユニットは、図4に示すように、二つの探触子(送信用探触子4a、及び、受信用探触子4b)によって構成されている。
【0038】
この探触子ユニットを構成する送信用探触子4aは、SV波を発信し、屈折角が78〜88°の範囲内のいずれかの角度(例えば、80°)に設定された高屈折角の斜角探触子である。SV波を発信する探触子であって、このように高い屈折角のものを用いる場合、音圧往復通過率が実質的に低くなってしまうという問題があるほか、第1の実施形態として説明した超音波探傷検査方法は、音軸から離れた音圧の低い領域を利用した探傷となるため、反射源から得られるエコーは微弱で、画面上に明瞭な信号(反射エコー)として表示されにくいという問題がある。また、反射源となる未溶着部5の先端は、鋼材の密着度により、0.1〜2mm程度の寸法と考えられるところ、反射源の寸法が極端に小さい場合には、反射率が急激に低下して、エコーが更に微弱となってしまう可能性がある。そこで、本実施形態の探触子ユニットは、そのような微弱なエコーをも効率よく取得することができるように工夫されている。
【0039】
具体的には、本実施形態における探触子ユニットは、音軸の開き角が、10〜30°の範囲内のいずれかの角度(例えば、20°)に設定されている。ここに言う「音軸の開き角」とは、図5に示すように、探触子ユニットを上方から見た場合に、送信用探触子4aの音軸8aと、受信用探触子4bの音軸8bとが、探触子ユニットの前方において交差する角度R1を意味している。探触子ユニットを水平面上に配置した場合において、音軸8aと音軸8bをそれぞれ水平面上に投影したとき、それらの投影線が交わる角度、と定義することもできる。
【0040】
更に、本実施形態の探触子ユニットは、屋根角が、1〜10°の範囲内のいずれかの角度(例えば、5°)に設定されている。ここに言う「屋根角」とは、送信用探触子4aの振動板(超音波振動子)と、受信用探触子4bの振動板とを、通常の状態から、各探触子4a,4bの前後方向の中心軸線C1,C2(図6参照)周りに、相反する方向へ(図6(1)において左側の送信用探触子4aについては反時計回り方向へ、図中右側の受信用探触子4bについては時計回り方向へ)それぞれ回転させた場合における当該回転角度の和を意味している。
【0041】
「屋根角を5°に設定した」という場合、各探触子4a,4bの振動板の向き、及び、音軸8a,8bの向きが、各探触子4a,4bの前後方向の中心軸線C1,C2周りにそれぞれ数度(例えば、2.5°ずつ)回転させられた状態となる。但し、各探触子4a,4bの筐体自体が回転する訳ではない。従って、見かけ上の姿勢や向きは、図6(1)に示すように、通常の探触子(屋根角が変更されていない探触子)と変わらない。
【0042】
図6(2)に示すように、通常の探触子4c,4dを、筐体毎回転させて、その音軸8c,8dを、図6(1)に示す「屋根角を5°に設定した探触子4a,4b」の音軸8a,8bとそれぞれ一致するような状態とする場合、それら通常の探触子4c,4dの隣り合う垂直辺の間に形成される角度R2は、探触子4a,4bについて設定された「屋根角」と等しくなり、この場合は「5°」となる。
【0043】
本実施形態の探触子ユニットは、上述のような構成に係るものであるところ、第1の実施形態として説明した「溶接部の超音波探傷検査方法」に使用した場合、非常に効率良く、有効な反射エコーを得ることができ、未溶着部5の最奥部5a(図1参照)の曲率半径が非常に小さいような場合であっても、反射エコーとノイズとを、目視によって簡単、かつ、明確に識別できるような受信信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る溶接部の超音波探傷検査方法の説明図。
【図2】図1に示す探触子4から被検査体に向けて超音波を発信した場合に得られる受信信号の波形(グラフ)の例を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る溶接部の超音波探傷検査方法において使用される標準試験片6の側面図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る超音波探傷装置用探触子ユニット(送信用探触子4a、受信用探触子4b)の斜視図。
【図5】図4に示した送信用探触子4a、受信用探触子4bの平面図。
【図6】図4に示した送信用探触子4a、受信用探触子4bの後方からの俯瞰図。
【符号の説明】
【0045】
1:主板、
2:立板、
2a:裏面端部、
3:ビード、
3a:始端、
4:探触子、
4a:送信用探触子、
4b:受信用探触子、
4c,4d:通常の探触子、
5:未溶着部、
5a:最奥部、
6:標準試験片、
6a:探傷面、
6b:傾斜部、
6c:厚肉部、
7:横穴、
7a:中心、
8,8a〜8d:音軸、
A,B:反射エコー、
C1,C2:中心軸線、
P:入射点、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SV波を発信し、屈折角が78〜88°の範囲内に設定された探触子を探傷面に配置し、
前記探触子の先端を、前記探傷面と、当該探傷面よりも上方へ延在する厚肉部との境界部分の始端の位置或いは始端から3mm以内の位置に合わせた状態で超音波を送信し、
回折現象によって前記厚肉部内を拡がりながら進行する回折波を利用して、前記探傷面よりも上方に位置する反射源からの反射エコーを含む受信信号を取得することを特徴とする超音波探傷検査方法。
【請求項2】
主板の一方の面に立板の端部を当接し、当該立板の端部の一方の隅部に対して溶接を行って一体化してなる被検査体に対し、超音波探傷装置を用いて探傷検査を行い、得られた受信信号から、前記被検査体の溶接部における未溶着部の有無を判定し、或いは、前記被検査体の溶接部において未溶着部が存在している場合に、必要な計算を行って未溶着量或いは溶け込み量を推測する超音波探傷検査方法において、
SV波を発信し、屈折角が78〜88°の範囲内に設定された探触子を、主板のビード側の表面上に配置し、
前記探触子の先端を、前記ビードの始端の位置或いは始端から3mm以内の位置に合わせた状態で超音波を送信し、
回折現象によって前記ビード内を拡がりながら進行する回折波の反射エコーを含む受信信号を取得することを特徴とする超音波探傷検査方法。
【請求項3】
探傷面よりも上方へ延在し、内部に横穴が形成された厚肉部を有する標準試験片に対して超音波を送信し、前記横穴を反射源とする反射エコーの音圧を基準として、縦軸についての画面表示倍率を調整したうえで、前記受信信号を画面表示して、前記溶接部の未溶着量或いは溶け込み量を推測することを特徴とする、請求項2に記載の超音波探傷検査方法。
【請求項4】
送信用探触子、及び、受信用探触子からなり、音軸の開き角が10〜30°の範囲内のいずれかの角度に設定され、屋根角が1〜10°の範囲内のいずれかの角度に設定されている超音波探傷装置用探触子ユニットを用いて探傷検査を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超音波探傷検査方法。
【請求項5】
送信用探触子、及び、受信用探触子からなり、
音軸の開き角が、10〜30°の範囲内のいずれかの角度に設定され、
屋根角が、1〜10°の範囲内のいずれかの角度に設定されていることを特徴とする超音波探傷装置用探触子ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151501(P2010−151501A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327619(P2008−327619)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【出願人】(508377602)有限会社プレテックエンジニアリング (1)
【Fターム(参考)】