超音波探傷装置および超音波探傷方法
【課題】溶接部及びその近傍に存在する様々な欠陥を確実、かつ、効率的に探傷する。
【解決手段】2つの部材が相互に交差して、一方の部材の端縁が他方の部材の一面に突き合わされて溶接された部位を探傷するに当たり、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷を同時に実行する。この際、探触子11,12を各部材に接触させて、第1探触子11から超音波を入射させ、戻された超音波を第1探触子11で受信せしめてクリーピング探傷し、一方の探触子11から超音波を入射し他方の探触子12でこれを受信してTOFD探傷する。さらに、第2探触子12から超音波を入射させ、再度第2探触子12で受信せしめて端部エコー探傷する。この際に使用する超音波をすべて疎密波とする。
【解決手段】2つの部材が相互に交差して、一方の部材の端縁が他方の部材の一面に突き合わされて溶接された部位を探傷するに当たり、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷を同時に実行する。この際、探触子11,12を各部材に接触させて、第1探触子11から超音波を入射させ、戻された超音波を第1探触子11で受信せしめてクリーピング探傷し、一方の探触子11から超音波を入射し他方の探触子12でこれを受信してTOFD探傷する。さらに、第2探触子12から超音波を入射させ、再度第2探触子12で受信せしめて端部エコー探傷する。この際に使用する超音波をすべて疎密波とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部材が相互に交わるようにして溶接された接合部を超音波探傷により探傷して欠陥の有無を確認する超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件特許出願人は、2部材を交差させて溶接した溶接部を超音波探傷によって欠陥の有無を確認する様々な検査装置及び検査方法についてこれまでにも発明を開示してきた。特許文献1に開示の発明は、本件特許出願が既に開示した発明の一例である。
【0003】
この特許文献1に開示した発明は、構造物における二つの部材がほぼ直角をなす接合部を検査の対象とする場合に極めて効果的なものである。即ち、この特許文献1に開示の発明では、両部材に探触子を配置し、クリーピング探傷の他に、適宜、端部エコー探傷やTOFD探傷を組み合わせることで、溶接部の欠陥等を高い精度で探傷しようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−164386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一方の部材の一面側からのみ他方の部材に溶接した接合部では、溶接部とは逆側の面には、開口したスリットが一般に形成される。このスリットから亀裂が成長した場合、特許文献1に開示の発明にかかるTOFD探傷であると、亀裂が相当程度成長した段階でないと、スリットと亀裂との判別が困難である。一方、特許文献1における端部エコー探傷では、専用の探触子を用いる必要があり、作業効率を向上させることが困難である。
【0006】
本願発明は、特許文献1にかかる発明をさらに発展させ、溶接した接合部及びその近傍に存在する様々な欠陥を確実、かつ、効率的に探傷することができる超音波探傷装置及び超音波探傷方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、第1に、上記の課題を解決するために、第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、第1部材の前記一面に接触される第1探触子と、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に接触される第2探触子と、第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子に対して超音波を発信せしめる信号を送信する発信部と、第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子が受信した超音波を受信信号に変換する受信部と、前記発信部及び前記受信部の作動を制御する制御部とを備え、前記制御部には、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するクリーピング探傷制御手段と、前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射せさせ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するTOFD探傷制御手段と、前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御する端部エコー探傷制御手段と、前記制御部に対して、クリーピング探傷制御手段、TOFD探傷制御手段、又は端部エコー探傷制御手段の中から少なくとも一つを作動させるよう制御の選択をさせる制御選択手段とを備え、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用する超音波探傷装置を採用した。
【0008】
そして、当該超音波探傷装置において、前記第1探触子及び前記第2探触子を、1つのホルダに保持せしめて1つの探触子ユニットとして構成し、前記ホルダに、前記第1部材又は前記第2部材の少なくとも一方に支持させて、前記探触子ユニットを前記溶接部に沿って移動させる走行ローラを取り付けた。
【0009】
第2に、本発明では、第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、第1部材の前記一面に第1探触子を配置すると共に、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に第2探触子を配置し、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷する工程と、前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷する工程と、前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷する工程と、を備え、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用する超音波探傷方法を採用した。
【0010】
かかる超音波探傷方法において、前記被検査部の同一部位においてクリーピング探傷工程、TOFD探傷工程及び端部エコー探傷工程を同時に実行しつつ、前記第1探触子及び前記第2探触子を被検査部に沿って同時に移動することとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷を行うことで、溶接部が存在する表面側の亀裂だけでなく、溶接部とは逆側の面に存在するスリットから延びる亀裂をも確実に探傷する。しかも、これらクリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷を同時に行えるため、探傷作業を極めて効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の超音波探傷装置10の概略構成図を示し、この超音波探傷装置10によって、橋梁におけるコンクリート100を支持する鋼床版101の裏面にU字状のUリブ102を溶接した接合部について超音波探傷する場合を示すものである。この超音波探傷装置10は、溶接して接合された接合部及びその近傍である非検査部の欠陥を超音波探傷するものであり、本体部1と、本体部1に接続される二つの探触子11,12と、探傷結果を映し出すモニタ15とを備えている。
【0014】
本体部1は、この超音波探傷装置10の超音波の受発信や受信した超音波の信号処理等を制御する制御部2と、探触子に対して超音波を発生させるための発信部3と、探触子が受信した超音波を電気的な信号に変換する受信部4とを備えている。また、受信部4側には受信した超音波の電気信号に対して所望の処理を行う信号処理部5が設けられている。さらに、この本体部1には、信号処理部5により処理のなされたデータを記憶する記憶部6が設けられている。
【0015】
また、本体部1には二つの探触子11,12をそれぞれ接続させるためのコネクタ8が2つ設けられ、これら2つのコネクタ8は、発信部3と受信部4とにそれぞれ接続されている。接続された二つの探触子11,12のうち、第1探触子11はその先端が接合部に向けられて、Uリブ102の外表面に接触される。一方、第2探触子12は、その先端が接合部に向けられて、鋼床版101の裏面において、Uリブ102を境にして第1探触子11の配置された側に接触される。
【0016】
この超音波探傷装置10では、接続された二つの探触子11,12から疎密波を被検査部に対して入射させて一つの超音波探傷装置10でクリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を行う。これら3種類の超音波探傷は、すべてを同時に実行することも、いずれかを選択して順次実行することも可能であり、いずれの探傷を行うかは、本体部1に設けられた切り換えスイッチ7により行うことができるように構成されている。
【0017】
まず、この超音波探傷装置10について、各超音波探傷の原理について図2〜図7を参照して説明する。
【0018】
図2はクリーピング探傷を実行した場合を示している。接合部において、鋼床版101の裏面から内方に向けて亀裂が進展していた場合、この亀裂はクリーピング探傷を行うと亀裂の有無を高い精度で探傷できる。
【0019】
このクリーピング探傷は、第2探触子12から鋼床版101の裏面の近傍を伝播する疎密波を入射させる。そして、亀裂で反射したものを再度第2探触子12で受信するものである。図2に示すように、接合部から鋼床版101の内方に向けて延びる亀裂A及び亀裂Bが鋼床版101に存在していたとする。この場合、第2探触子12から疎密波を鋼床版101に入射すると、疎密波が鋼床版101の裏面近傍を伝播する。伝播した疎密波は、亀裂A及び亀裂Bで反射され、再び鋼床版101の裏面近傍を伝播して第2探触子12に戻される。第2探触子12は、亀裂A及び亀裂Bで反射された疎密波を受信する。
【0020】
受信された疎密波は、受信部4及び信号処理部5を介して信号処理されて、受信した疎密波に対応する波形がモニタ15に映し出される。モニタ15に映し出しものが、図3に示すグラフである。このグラフにおいて左端で突起するピーク部31は、第2探触子12が疎密波を入射させた際の送信パルスである。グラフの中央部分で突起する2つのピーク部32,33のうち、左側のピーク部32が亀裂Bの反射波で、右側のピーク部33が亀裂Aの反射波である。
【0021】
この超音波探傷装置10では、このように、鋼床版101に存在する亀裂をこのクリーピング探傷により主として探傷する。
【0022】
図4は、TOFD探傷を実行した場合の概要を示している。TOFD探傷は、発信探触子と受信探触子とを、被検査部を間に挟むようにして対向させて配置し、発信探触子から疎密波を入射させ、被検査部の内部に存在する欠陥の一端と他端とで発生した回折波を受信探触子で受信する探傷である。
【0023】
例えば、第1探触子11から疎密波を入射させ、接合部の内部に存在する欠陥Cの両端で回折した回折波を第2探触子12で受信する。この場合の信号を図したものが図5に示すグラフである。このグラフに現れた各波形は、左から、送信パルス51、ラテラル波52、上端回折波53、下端回折波54、底面反射波55である。なお、ラテラル波52とは、Uリブ102外表面、溶接部の外表面及び鋼床版101の裏面を伝播する波である。また、上端回折波53とは、図4に示された欠陥Cの端部のうち、探触子の配された側に近い右端を回折した波で、下端回折波54とは、欠陥Cの端部のうち、探触子11,12の配された面から遠い左端を回折した波をいう。また、底面反射波55とは、探触子11,12の接触された面とは逆側の面で反射した波である。
【0024】
このTOFD探傷は、主として溶接部の内部に存在する欠陥を探傷する。なお、第2探触子12を発信探触子とし、第1探触子を受信探触子としても構わない。
【0025】
このTOFD探傷によれば、欠陥のサイジングを探傷結果から行うことができる。サイジングを行うには、受信探触子として機能させている第1探触子11がラテラル波52を受信してから、上端回折波53を受信するまでの時間Tdと下端回折波54を受信するまでの時間Tdhの差に基づいて算出する。
【0026】
そして、図6は、端部エコー探傷を実行した場合の概要を示すものである。この実施形態にかかる端部エコー探傷では、被検査部に探触子から疎密波を入射せしめ、亀裂の先端部と、亀裂の基点部で反射したものを再び同一の探触子で受信して、亀裂の有無、亀裂のサイジングを行うものである。この図6に示す例では、Uリブ102に接触された第1探触子11から疎密波を入射し、接合部の裏側に存在するスリットSの外端部、内端部及びスリットSの内端部から延びる亀裂Dの先端部から反射されたものを第1探触子11で受信して欠陥の有無を探傷する。なお、これらのビーム路程を同時測定することで、亀裂Dのサイジングを行うこともできる。
【0027】
図7は、第1探触子11が受信した疎密波をグラフとして表したものである。図7に示された波形のうち、横軸の中央部分にて大きく突出するピーク部73は、スリットSの内端部で反射したものであり、このピーク部73の前部にて小さく突出するピーク部72が、亀裂Dの先端で反射したものである。また、図7の最も右側にて突出するピーク部74はスリットSの外端部で反射したものである。
【0028】
本実施形態にかかる超音波探傷装置10では、これら3種類の探傷を同時に実行することにより、Uリブ102と鋼床版101の溶接部である被検査部に存在する様々な欠陥を探傷する。
【0029】
なお、Uリブ102と鋼床版101とは、Uリブ102の延びる方向に沿って溶接され、そのすべての部位で探傷を行う必要がある。この溶接部である被検査部に沿ってこれらの超音波探傷を効率よく行うために、第1探触子11と第2探触子12とを被検査部に沿って同時に移動させるためのものが、図8に示す探触子ユニット80である。この探触子ユニット80は、第1探触子11と第2探触子12を保持するホルダ板81と、鋼床版101の裏面及びUリブ102の外面に接地させてこの探触子ユニット80を被検査部に沿って走行させる走行ローラ82とを備えている。さらに、探触子ユニット80がどれだけ移動したのかを測定するためのロータリエンコーダ90がホルダ板81には取り付けられている。
【0030】
走行ローラ82は、ホルダ板81の両サイドに取り付けられていて、その一方が鋼床版101に接地され他方がUリブ102に接地される。これにより、ホルダ板81は、被検査部を左右に跨ぐ状態となる。そして、これら走行ローラ82の内側には各探触子11,12を保持する保持アーム83が取り付けられている。これら保持アーム83はホルダ板81に対して回転可能にその根元が支持され、かつ、その先端に各探触子11,12を保持する保持部84が設けられている。保持部84は、保持アーム83に対して回転可能に構成されている。このように保持アーム83を構成することで、ホルダ板81を鋼床版101及びUリブ102に対して確実に接地させつつ、探触子11,12自体の位置を自在に調整させている。
【0031】
ロータリエンコーダ90はその軸方向が当該探触子ユニット80の走行方向に対して直交する向きに配されて、本体から突出する回転軸には、円盤状のプーリ91が取り付けられている。このプーリ91は外周面が鋼床版101またはUリブ102に接触される。探触子ユニット80が被検査部に沿って走行されると、これ伴いプーリ91が回転される。ロータリエンコーダ90は、このプーリ91の回転から探触子ユニット80がどの程度移動したかを測定する。
【0032】
かかるロータリエンコーダ90を設けることで、上記超音波探傷により得られた探傷結果がどの位置のデータであるのかを判断することが可能となる。
【0033】
また、実際の作業現場では、橋梁の周囲に足場を組んでこの足場の上で作業を行うことが多いため、装置をコンパクトにする必要がある。このため、本体部1にモニタ15を組み込んで両者を一体化させておくとよい。さらに、モニタ15の表示が、前述の切り換えスイッチ7により切り換えられたモードに対応するように適宜切り換えられるように構成する。すなわち、クリーピング探傷、TOFD探傷、又は端部エコー探傷を単独で実行する場合には、各探傷に対応するモードに切り換えスイッチ7を切り換えれば、これに応じ、図3、図5、図7に示したモニタ15の表示が切り換えられるように構成されている。また、同時探傷モードで探傷した場合、図9に示すように、モニタ15には、3種類の超音波探傷の結果を一度に表示可能に構成されている。この図9に示す例では、上段15Aがクリーピング探傷の結果を、中段15BがTOFD探傷の結果を、下段15Cが端部エコー探傷の結果をそれぞれ表示している。
【0034】
以上の構成を備えた超音波探傷装置10によれば、次の手順により鋼床版101とUリブ102の接合部である被検査部の欠陥の有無を探傷する。
【0035】
まず、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を同時に行う場合について説明する。
【0036】
3種類の超音波探傷を同時に行うには、予め、本体部1に設けられた切り換えスイッチ7により、同時探傷モードを選択しておく。これにより、この超音波探傷装置10では、制御部2が第1探触子11及び第2探触子12の双方から疎密波を発信するように発信部3を作動させる。また、第1探触子11及び第2探触子12の双方が疎密波を受信した場合に、これらを対応する電気信号に変換するように受信部4を作動するように制御する。
【0037】
即ち、第2探触子12から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第2探触子12で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させてクリーピング探傷を行う。また、第1探触子11から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第2探触子12で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させてTOFD探傷を行う。さらに、第1探触子11から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第1探触子11で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させて端部エコー探傷を行う。
【0038】
モードの選択を行った後に次いで、探傷しようとする鋼床版101とUリブ102の接合部である被検査部の端部に探触子ユニット80を接地させる。この際、第1探触子11と第2探触子12との間に被検査部が位置するように接地させる。また、保持アーム83を調節して第1探触子11及び第2探触子12がそれぞれUリブ102の外表面と鋼床版101の裏面に確実に接触させる。
【0039】
かかる段取りが終了した後に、超音波探傷装置10のモニタ15で波形を確認しながら、探触子ユニット80を被検査部に沿って移動させる。モニタ15には、3種類の超音波探傷の波形がそれぞれ区分けされて映し出されるため、被検査部のどの部分に欠陥が存在するのかを、およそ認識することができる。例えば、モニタ15に図10に示すような波形が現れたとする。
【0040】
前述のように、上段15Aはクリーピング探傷の結果、中段15BはTOFD探傷の結果、下段15Cは端部エコー探傷の結果をそれぞれ表している。この図10の上段15Aに現れた波形によれば、ピーク部33が表示されている。このことから、クリーピング探傷により、鋼床版101に生じた亀裂を認定することができる。図11に示した例で言えば、接合部における、Uリブ102の裏面に対応する位置において鋼床版101の裏面から内方に向けて延びる亀裂Aが探傷されたことになる。これに対し、中段15Bに示されたTOFD探傷の結果では、発信パルス51、ラテラル波52底面反射波55のみが表示され、欠陥を示す波形は出現していない。従って、溶接部の内部には欠陥が存在しないことが分かる。そして、下段15Cの端部エコー探傷の結果によれば、スリットSの先端からUリブ102の内方に延びる亀裂が存在することが分かる。このグラフにおいて、発信パルス71の次に現れた突出部分に着目すると、スリットSの内端部のピーク部73の他にピーク部72が存在する。このピーク部72は、スリットSの先端付近にスリットSとは別の欠陥が存在することを意味するものである。例えば、図11に示した例では、スリットSの先端から内方に向けて延びる亀裂Dが溶接部乃至Uリブ102に存在することになる。
【0041】
かかる探傷の結果、被検査部の当該部分では、Uリブ102の裏側部位に鋼床版101に亀裂Aが存在すると共に、溶接部乃至Uリブ102に亀裂Dが存在することが判明する。
【0042】
そして、当該部分における探傷の後、探傷結果を超音波探傷装置10内に設けられた記憶部6に記憶させておく。この超音波探傷装置10では、探触子ユニット80にロータリエンコーダ90が設けられているため、このロータリエンコーダ90の信号に基づいて、探傷開始の始点と、探傷した当該部分との間の距離が測定される。この距離を探傷結果と共に記憶部6に記憶させておくことで、記憶させたデータを再現した際に、その再現データがどの部分の探傷結果であるのを容易に確認できる。
【0043】
このような作業を被検査部の全域について行うことで、被検査部のどの地点にはどのような欠陥が存在するかを容易に把握することが可能となる。このため、後に欠陥を除去して修繕する場合に、これらの探傷結果を参照することで、どの地点を修繕すれば良いのかを正確に把握できる。
【0044】
もっとも、3種類の超音波探傷を同時に行うと、各超音波探傷を個別に行う場合に比べてそれぞれの探傷の精度が低下することもあり得る。この不都合を防止するために、この超音波探傷装置10では個々の超音波探傷を順次に行うこともできる。例えば、クリーピング探傷、TOFD探傷、端部エコー探傷の順番で行う場合、まず、探触子ユニット80を被検査部に接地する等の段取り作業を行うと共に、切り換えスイッチ7をクリーピング探傷モードに切り換える。
【0045】
次いで、探触子ユニット80を被検査部に沿って移動させる。モニタ15に、発信パルスと、逆端面からの反射波との間に特にピークが表示されなければ、鋼床版101の探傷した当該部位には欠陥が存在しないことになる。一方、例えば、図3に示した場合のように発信パルス31の後にピーク部32,33が発生した場合、鋼床版101にはその探傷地点において2ヶ所に何らかの欠陥が存在することになる。図2及び図3の例で言えば、接合部におけるUリブ102の外表面の部位と裏面に対応する位置に亀裂Aと亀裂Bとがそれぞれ発生していることになる。このような探傷結果は、ロータリエンコーダ90の信号に基づいて測定された、始点からの距離と共に記憶部6に記憶させる。この作業を被検査部の全域について行う。
【0046】
TOFD探傷及び端部エコー探傷についても、同様に、それぞれの探傷に対応するモードに切り換えスイッチ7を切り換え、被検査部の全域について各探傷を行う。そして、欠陥を探傷することができた地点の探傷結果を、始点からの距離と共に記憶部6に記憶させる。
【0047】
これらの作業により得られた探傷結果のデータを再現することで、どの地点にどのような欠陥が存在するのかを確認することができ、このデータに基づいて容易に修繕部を認定することができる。
【0048】
以上に説明したように、この超音波探傷装置10では、第1探触子11及び第2探触子12の双方から疎密波を入射させるため、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を同時に行うことができる。なお、探傷の対象となるのは、橋梁に限定されるものではなく、第1部材の一面に第2部材の端縁を突き合わせ、両者を溶接して接合したものに適用するのであれば、他の構造物につていも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の超音波探傷装置の概略構成図。
【図2】クリーピング探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図3】図2の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図4】TOFD探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図5】図4の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図6】端部エコー探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図7】図6の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図8】探触子ユニットの1例を示す正面図。
【図9】3種類の探傷結果を同時に表示させたモニタの表示内容の一例を示す図。
【図10】3種類の探傷により被検査部を探傷した結果を同時に表示させたモニタ表示を示す図。
【図11】欠陥が存在する鋼床版とUリブの接合部に関する断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 本体部
2 制御部
3 発信部
4 受信部
5 信号処理部
6 記憶部
7 切り換えスイッチ
8 コネクタ
10 超音波探傷装置
11 第1探触子
12 第2探触子
15 モニタ
80 探触子ユニット
90 ロータリエンコーダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、2部材が相互に交わるようにして溶接された接合部を超音波探傷により探傷して欠陥の有無を確認する超音波探傷装置および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件特許出願人は、2部材を交差させて溶接した溶接部を超音波探傷によって欠陥の有無を確認する様々な検査装置及び検査方法についてこれまでにも発明を開示してきた。特許文献1に開示の発明は、本件特許出願が既に開示した発明の一例である。
【0003】
この特許文献1に開示した発明は、構造物における二つの部材がほぼ直角をなす接合部を検査の対象とする場合に極めて効果的なものである。即ち、この特許文献1に開示の発明では、両部材に探触子を配置し、クリーピング探傷の他に、適宜、端部エコー探傷やTOFD探傷を組み合わせることで、溶接部の欠陥等を高い精度で探傷しようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−164386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一方の部材の一面側からのみ他方の部材に溶接した接合部では、溶接部とは逆側の面には、開口したスリットが一般に形成される。このスリットから亀裂が成長した場合、特許文献1に開示の発明にかかるTOFD探傷であると、亀裂が相当程度成長した段階でないと、スリットと亀裂との判別が困難である。一方、特許文献1における端部エコー探傷では、専用の探触子を用いる必要があり、作業効率を向上させることが困難である。
【0006】
本願発明は、特許文献1にかかる発明をさらに発展させ、溶接した接合部及びその近傍に存在する様々な欠陥を確実、かつ、効率的に探傷することができる超音波探傷装置及び超音波探傷方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、第1に、上記の課題を解決するために、第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、第1部材の前記一面に接触される第1探触子と、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に接触される第2探触子と、第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子に対して超音波を発信せしめる信号を送信する発信部と、第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子が受信した超音波を受信信号に変換する受信部と、前記発信部及び前記受信部の作動を制御する制御部とを備え、前記制御部には、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するクリーピング探傷制御手段と、前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射せさせ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するTOFD探傷制御手段と、前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御する端部エコー探傷制御手段と、前記制御部に対して、クリーピング探傷制御手段、TOFD探傷制御手段、又は端部エコー探傷制御手段の中から少なくとも一つを作動させるよう制御の選択をさせる制御選択手段とを備え、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用する超音波探傷装置を採用した。
【0008】
そして、当該超音波探傷装置において、前記第1探触子及び前記第2探触子を、1つのホルダに保持せしめて1つの探触子ユニットとして構成し、前記ホルダに、前記第1部材又は前記第2部材の少なくとも一方に支持させて、前記探触子ユニットを前記溶接部に沿って移動させる走行ローラを取り付けた。
【0009】
第2に、本発明では、第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、第1部材の前記一面に第1探触子を配置すると共に、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に第2探触子を配置し、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷する工程と、前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷する工程と、前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷する工程と、を備え、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用する超音波探傷方法を採用した。
【0010】
かかる超音波探傷方法において、前記被検査部の同一部位においてクリーピング探傷工程、TOFD探傷工程及び端部エコー探傷工程を同時に実行しつつ、前記第1探触子及び前記第2探触子を被検査部に沿って同時に移動することとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷を行うことで、溶接部が存在する表面側の亀裂だけでなく、溶接部とは逆側の面に存在するスリットから延びる亀裂をも確実に探傷する。しかも、これらクリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷を同時に行えるため、探傷作業を極めて効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の超音波探傷装置10の概略構成図を示し、この超音波探傷装置10によって、橋梁におけるコンクリート100を支持する鋼床版101の裏面にU字状のUリブ102を溶接した接合部について超音波探傷する場合を示すものである。この超音波探傷装置10は、溶接して接合された接合部及びその近傍である非検査部の欠陥を超音波探傷するものであり、本体部1と、本体部1に接続される二つの探触子11,12と、探傷結果を映し出すモニタ15とを備えている。
【0014】
本体部1は、この超音波探傷装置10の超音波の受発信や受信した超音波の信号処理等を制御する制御部2と、探触子に対して超音波を発生させるための発信部3と、探触子が受信した超音波を電気的な信号に変換する受信部4とを備えている。また、受信部4側には受信した超音波の電気信号に対して所望の処理を行う信号処理部5が設けられている。さらに、この本体部1には、信号処理部5により処理のなされたデータを記憶する記憶部6が設けられている。
【0015】
また、本体部1には二つの探触子11,12をそれぞれ接続させるためのコネクタ8が2つ設けられ、これら2つのコネクタ8は、発信部3と受信部4とにそれぞれ接続されている。接続された二つの探触子11,12のうち、第1探触子11はその先端が接合部に向けられて、Uリブ102の外表面に接触される。一方、第2探触子12は、その先端が接合部に向けられて、鋼床版101の裏面において、Uリブ102を境にして第1探触子11の配置された側に接触される。
【0016】
この超音波探傷装置10では、接続された二つの探触子11,12から疎密波を被検査部に対して入射させて一つの超音波探傷装置10でクリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を行う。これら3種類の超音波探傷は、すべてを同時に実行することも、いずれかを選択して順次実行することも可能であり、いずれの探傷を行うかは、本体部1に設けられた切り換えスイッチ7により行うことができるように構成されている。
【0017】
まず、この超音波探傷装置10について、各超音波探傷の原理について図2〜図7を参照して説明する。
【0018】
図2はクリーピング探傷を実行した場合を示している。接合部において、鋼床版101の裏面から内方に向けて亀裂が進展していた場合、この亀裂はクリーピング探傷を行うと亀裂の有無を高い精度で探傷できる。
【0019】
このクリーピング探傷は、第2探触子12から鋼床版101の裏面の近傍を伝播する疎密波を入射させる。そして、亀裂で反射したものを再度第2探触子12で受信するものである。図2に示すように、接合部から鋼床版101の内方に向けて延びる亀裂A及び亀裂Bが鋼床版101に存在していたとする。この場合、第2探触子12から疎密波を鋼床版101に入射すると、疎密波が鋼床版101の裏面近傍を伝播する。伝播した疎密波は、亀裂A及び亀裂Bで反射され、再び鋼床版101の裏面近傍を伝播して第2探触子12に戻される。第2探触子12は、亀裂A及び亀裂Bで反射された疎密波を受信する。
【0020】
受信された疎密波は、受信部4及び信号処理部5を介して信号処理されて、受信した疎密波に対応する波形がモニタ15に映し出される。モニタ15に映し出しものが、図3に示すグラフである。このグラフにおいて左端で突起するピーク部31は、第2探触子12が疎密波を入射させた際の送信パルスである。グラフの中央部分で突起する2つのピーク部32,33のうち、左側のピーク部32が亀裂Bの反射波で、右側のピーク部33が亀裂Aの反射波である。
【0021】
この超音波探傷装置10では、このように、鋼床版101に存在する亀裂をこのクリーピング探傷により主として探傷する。
【0022】
図4は、TOFD探傷を実行した場合の概要を示している。TOFD探傷は、発信探触子と受信探触子とを、被検査部を間に挟むようにして対向させて配置し、発信探触子から疎密波を入射させ、被検査部の内部に存在する欠陥の一端と他端とで発生した回折波を受信探触子で受信する探傷である。
【0023】
例えば、第1探触子11から疎密波を入射させ、接合部の内部に存在する欠陥Cの両端で回折した回折波を第2探触子12で受信する。この場合の信号を図したものが図5に示すグラフである。このグラフに現れた各波形は、左から、送信パルス51、ラテラル波52、上端回折波53、下端回折波54、底面反射波55である。なお、ラテラル波52とは、Uリブ102外表面、溶接部の外表面及び鋼床版101の裏面を伝播する波である。また、上端回折波53とは、図4に示された欠陥Cの端部のうち、探触子の配された側に近い右端を回折した波で、下端回折波54とは、欠陥Cの端部のうち、探触子11,12の配された面から遠い左端を回折した波をいう。また、底面反射波55とは、探触子11,12の接触された面とは逆側の面で反射した波である。
【0024】
このTOFD探傷は、主として溶接部の内部に存在する欠陥を探傷する。なお、第2探触子12を発信探触子とし、第1探触子を受信探触子としても構わない。
【0025】
このTOFD探傷によれば、欠陥のサイジングを探傷結果から行うことができる。サイジングを行うには、受信探触子として機能させている第1探触子11がラテラル波52を受信してから、上端回折波53を受信するまでの時間Tdと下端回折波54を受信するまでの時間Tdhの差に基づいて算出する。
【0026】
そして、図6は、端部エコー探傷を実行した場合の概要を示すものである。この実施形態にかかる端部エコー探傷では、被検査部に探触子から疎密波を入射せしめ、亀裂の先端部と、亀裂の基点部で反射したものを再び同一の探触子で受信して、亀裂の有無、亀裂のサイジングを行うものである。この図6に示す例では、Uリブ102に接触された第1探触子11から疎密波を入射し、接合部の裏側に存在するスリットSの外端部、内端部及びスリットSの内端部から延びる亀裂Dの先端部から反射されたものを第1探触子11で受信して欠陥の有無を探傷する。なお、これらのビーム路程を同時測定することで、亀裂Dのサイジングを行うこともできる。
【0027】
図7は、第1探触子11が受信した疎密波をグラフとして表したものである。図7に示された波形のうち、横軸の中央部分にて大きく突出するピーク部73は、スリットSの内端部で反射したものであり、このピーク部73の前部にて小さく突出するピーク部72が、亀裂Dの先端で反射したものである。また、図7の最も右側にて突出するピーク部74はスリットSの外端部で反射したものである。
【0028】
本実施形態にかかる超音波探傷装置10では、これら3種類の探傷を同時に実行することにより、Uリブ102と鋼床版101の溶接部である被検査部に存在する様々な欠陥を探傷する。
【0029】
なお、Uリブ102と鋼床版101とは、Uリブ102の延びる方向に沿って溶接され、そのすべての部位で探傷を行う必要がある。この溶接部である被検査部に沿ってこれらの超音波探傷を効率よく行うために、第1探触子11と第2探触子12とを被検査部に沿って同時に移動させるためのものが、図8に示す探触子ユニット80である。この探触子ユニット80は、第1探触子11と第2探触子12を保持するホルダ板81と、鋼床版101の裏面及びUリブ102の外面に接地させてこの探触子ユニット80を被検査部に沿って走行させる走行ローラ82とを備えている。さらに、探触子ユニット80がどれだけ移動したのかを測定するためのロータリエンコーダ90がホルダ板81には取り付けられている。
【0030】
走行ローラ82は、ホルダ板81の両サイドに取り付けられていて、その一方が鋼床版101に接地され他方がUリブ102に接地される。これにより、ホルダ板81は、被検査部を左右に跨ぐ状態となる。そして、これら走行ローラ82の内側には各探触子11,12を保持する保持アーム83が取り付けられている。これら保持アーム83はホルダ板81に対して回転可能にその根元が支持され、かつ、その先端に各探触子11,12を保持する保持部84が設けられている。保持部84は、保持アーム83に対して回転可能に構成されている。このように保持アーム83を構成することで、ホルダ板81を鋼床版101及びUリブ102に対して確実に接地させつつ、探触子11,12自体の位置を自在に調整させている。
【0031】
ロータリエンコーダ90はその軸方向が当該探触子ユニット80の走行方向に対して直交する向きに配されて、本体から突出する回転軸には、円盤状のプーリ91が取り付けられている。このプーリ91は外周面が鋼床版101またはUリブ102に接触される。探触子ユニット80が被検査部に沿って走行されると、これ伴いプーリ91が回転される。ロータリエンコーダ90は、このプーリ91の回転から探触子ユニット80がどの程度移動したかを測定する。
【0032】
かかるロータリエンコーダ90を設けることで、上記超音波探傷により得られた探傷結果がどの位置のデータであるのかを判断することが可能となる。
【0033】
また、実際の作業現場では、橋梁の周囲に足場を組んでこの足場の上で作業を行うことが多いため、装置をコンパクトにする必要がある。このため、本体部1にモニタ15を組み込んで両者を一体化させておくとよい。さらに、モニタ15の表示が、前述の切り換えスイッチ7により切り換えられたモードに対応するように適宜切り換えられるように構成する。すなわち、クリーピング探傷、TOFD探傷、又は端部エコー探傷を単独で実行する場合には、各探傷に対応するモードに切り換えスイッチ7を切り換えれば、これに応じ、図3、図5、図7に示したモニタ15の表示が切り換えられるように構成されている。また、同時探傷モードで探傷した場合、図9に示すように、モニタ15には、3種類の超音波探傷の結果を一度に表示可能に構成されている。この図9に示す例では、上段15Aがクリーピング探傷の結果を、中段15BがTOFD探傷の結果を、下段15Cが端部エコー探傷の結果をそれぞれ表示している。
【0034】
以上の構成を備えた超音波探傷装置10によれば、次の手順により鋼床版101とUリブ102の接合部である被検査部の欠陥の有無を探傷する。
【0035】
まず、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を同時に行う場合について説明する。
【0036】
3種類の超音波探傷を同時に行うには、予め、本体部1に設けられた切り換えスイッチ7により、同時探傷モードを選択しておく。これにより、この超音波探傷装置10では、制御部2が第1探触子11及び第2探触子12の双方から疎密波を発信するように発信部3を作動させる。また、第1探触子11及び第2探触子12の双方が疎密波を受信した場合に、これらを対応する電気信号に変換するように受信部4を作動するように制御する。
【0037】
即ち、第2探触子12から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第2探触子12で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させてクリーピング探傷を行う。また、第1探触子11から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第2探触子12で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させてTOFD探傷を行う。さらに、第1探触子11から疎密波を入射するよう発信部3を作動させると共に、第1探触子11で伝播した疎密波を受信して電気信号に変換するように受信部4を作動させて端部エコー探傷を行う。
【0038】
モードの選択を行った後に次いで、探傷しようとする鋼床版101とUリブ102の接合部である被検査部の端部に探触子ユニット80を接地させる。この際、第1探触子11と第2探触子12との間に被検査部が位置するように接地させる。また、保持アーム83を調節して第1探触子11及び第2探触子12がそれぞれUリブ102の外表面と鋼床版101の裏面に確実に接触させる。
【0039】
かかる段取りが終了した後に、超音波探傷装置10のモニタ15で波形を確認しながら、探触子ユニット80を被検査部に沿って移動させる。モニタ15には、3種類の超音波探傷の波形がそれぞれ区分けされて映し出されるため、被検査部のどの部分に欠陥が存在するのかを、およそ認識することができる。例えば、モニタ15に図10に示すような波形が現れたとする。
【0040】
前述のように、上段15Aはクリーピング探傷の結果、中段15BはTOFD探傷の結果、下段15Cは端部エコー探傷の結果をそれぞれ表している。この図10の上段15Aに現れた波形によれば、ピーク部33が表示されている。このことから、クリーピング探傷により、鋼床版101に生じた亀裂を認定することができる。図11に示した例で言えば、接合部における、Uリブ102の裏面に対応する位置において鋼床版101の裏面から内方に向けて延びる亀裂Aが探傷されたことになる。これに対し、中段15Bに示されたTOFD探傷の結果では、発信パルス51、ラテラル波52底面反射波55のみが表示され、欠陥を示す波形は出現していない。従って、溶接部の内部には欠陥が存在しないことが分かる。そして、下段15Cの端部エコー探傷の結果によれば、スリットSの先端からUリブ102の内方に延びる亀裂が存在することが分かる。このグラフにおいて、発信パルス71の次に現れた突出部分に着目すると、スリットSの内端部のピーク部73の他にピーク部72が存在する。このピーク部72は、スリットSの先端付近にスリットSとは別の欠陥が存在することを意味するものである。例えば、図11に示した例では、スリットSの先端から内方に向けて延びる亀裂Dが溶接部乃至Uリブ102に存在することになる。
【0041】
かかる探傷の結果、被検査部の当該部分では、Uリブ102の裏側部位に鋼床版101に亀裂Aが存在すると共に、溶接部乃至Uリブ102に亀裂Dが存在することが判明する。
【0042】
そして、当該部分における探傷の後、探傷結果を超音波探傷装置10内に設けられた記憶部6に記憶させておく。この超音波探傷装置10では、探触子ユニット80にロータリエンコーダ90が設けられているため、このロータリエンコーダ90の信号に基づいて、探傷開始の始点と、探傷した当該部分との間の距離が測定される。この距離を探傷結果と共に記憶部6に記憶させておくことで、記憶させたデータを再現した際に、その再現データがどの部分の探傷結果であるのを容易に確認できる。
【0043】
このような作業を被検査部の全域について行うことで、被検査部のどの地点にはどのような欠陥が存在するかを容易に把握することが可能となる。このため、後に欠陥を除去して修繕する場合に、これらの探傷結果を参照することで、どの地点を修繕すれば良いのかを正確に把握できる。
【0044】
もっとも、3種類の超音波探傷を同時に行うと、各超音波探傷を個別に行う場合に比べてそれぞれの探傷の精度が低下することもあり得る。この不都合を防止するために、この超音波探傷装置10では個々の超音波探傷を順次に行うこともできる。例えば、クリーピング探傷、TOFD探傷、端部エコー探傷の順番で行う場合、まず、探触子ユニット80を被検査部に接地する等の段取り作業を行うと共に、切り換えスイッチ7をクリーピング探傷モードに切り換える。
【0045】
次いで、探触子ユニット80を被検査部に沿って移動させる。モニタ15に、発信パルスと、逆端面からの反射波との間に特にピークが表示されなければ、鋼床版101の探傷した当該部位には欠陥が存在しないことになる。一方、例えば、図3に示した場合のように発信パルス31の後にピーク部32,33が発生した場合、鋼床版101にはその探傷地点において2ヶ所に何らかの欠陥が存在することになる。図2及び図3の例で言えば、接合部におけるUリブ102の外表面の部位と裏面に対応する位置に亀裂Aと亀裂Bとがそれぞれ発生していることになる。このような探傷結果は、ロータリエンコーダ90の信号に基づいて測定された、始点からの距離と共に記憶部6に記憶させる。この作業を被検査部の全域について行う。
【0046】
TOFD探傷及び端部エコー探傷についても、同様に、それぞれの探傷に対応するモードに切り換えスイッチ7を切り換え、被検査部の全域について各探傷を行う。そして、欠陥を探傷することができた地点の探傷結果を、始点からの距離と共に記憶部6に記憶させる。
【0047】
これらの作業により得られた探傷結果のデータを再現することで、どの地点にどのような欠陥が存在するのかを確認することができ、このデータに基づいて容易に修繕部を認定することができる。
【0048】
以上に説明したように、この超音波探傷装置10では、第1探触子11及び第2探触子12の双方から疎密波を入射させるため、クリーピング探傷、TOFD探傷及び端部エコー探傷の3種類の超音波探傷を同時に行うことができる。なお、探傷の対象となるのは、橋梁に限定されるものではなく、第1部材の一面に第2部材の端縁を突き合わせ、両者を溶接して接合したものに適用するのであれば、他の構造物につていも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の超音波探傷装置の概略構成図。
【図2】クリーピング探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図3】図2の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図4】TOFD探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図5】図4の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図6】端部エコー探傷を実行した場合の概要を示す説明図。
【図7】図6の探傷を実行した場合に表示されるモニタの表示を示すグラフ。
【図8】探触子ユニットの1例を示す正面図。
【図9】3種類の探傷結果を同時に表示させたモニタの表示内容の一例を示す図。
【図10】3種類の探傷により被検査部を探傷した結果を同時に表示させたモニタ表示を示す図。
【図11】欠陥が存在する鋼床版とUリブの接合部に関する断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 本体部
2 制御部
3 発信部
4 受信部
5 信号処理部
6 記憶部
7 切り換えスイッチ
8 コネクタ
10 超音波探傷装置
11 第1探触子
12 第2探触子
15 モニタ
80 探触子ユニット
90 ロータリエンコーダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、
第1部材の前記一面に接触される第1探触子と、
第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に接触される第2探触子と、
第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子に対して超音波を発信せしめる信号を送信する発信部と、
第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子が受信した超音波を受信信号に変換する受信部と、
前記発信部及び前記受信部の作動を制御する制御部とを備え、
前記制御部には、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するクリーピング探傷制御手段と、
前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射せさせ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するTOFD探傷制御手段と、
前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御する端部エコー探傷制御手段と、
前記制御部に対して、クリーピング探傷制御手段、TOFD探傷制御手段、又は端部エコー探傷制御手段の中から少なくとも一つを作動させるよう制御の選択をさせる制御選択手段と、を備え、
クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記第1探触子及び前記第2探触子は、1つのホルダに保持されて1つの探触子ユニットとして構成され、
前記ホルダには、前記第1部材又は前記第2部材の少なくとも一方に支持させて、前記探触子ユニットを前記溶接部に沿って移動させる走行ローラが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、
第1部材の前記一面に第1探触子を配置すると共に、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に第2探触子を配置し、
前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷する工程と、
前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷する工程と、
前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷する工程と、を備え、
クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項4】
前記被検査部の同一部位においてクリーピング探傷工程、TOFD探傷工程及び端部エコー探傷工程を同時に実行しつつ、前記第1探触子及び前記第2探触子を被検査部に沿って同時に移動することを特徴とする請求項3に記載の超音波探傷方法。
【請求項1】
第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷装置であって、
第1部材の前記一面に接触される第1探触子と、
第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に接触される第2探触子と、
第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子に対して超音波を発信せしめる信号を送信する発信部と、
第1探触子及び第2探触子の双方に接続されて、第1探触子及び第2探触子が受信した超音波を受信信号に変換する受信部と、
前記発信部及び前記受信部の作動を制御する制御部とを備え、
前記制御部には、前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するクリーピング探傷制御手段と、
前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射せさせ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御するTOFD探傷制御手段と、
前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷するよう前記発信部及び前記受信部を制御する端部エコー探傷制御手段と、
前記制御部に対して、クリーピング探傷制御手段、TOFD探傷制御手段、又は端部エコー探傷制御手段の中から少なくとも一つを作動させるよう制御の選択をさせる制御選択手段と、を備え、
クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用することを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記第1探触子及び前記第2探触子は、1つのホルダに保持されて1つの探触子ユニットとして構成され、
前記ホルダには、前記第1部材又は前記第2部材の少なくとも一方に支持させて、前記探触子ユニットを前記溶接部に沿って移動させる走行ローラが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
第1部材の一面に第2部材の端縁が突き合わされて両者が溶接された接合部である被検査部に超音波を入射せしめて欠陥を探傷する超音波探傷方法であって、
第1部材の前記一面に第1探触子を配置すると共に、第2部材における前記第1探触子の配置された側の面に第2探触子を配置し、
前記第1探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播して前記第1探触子に戻された超音波をこの第1探触子で受信せしめてクリーピング探傷する工程と、
前記第1探触子又は前記第2探触子の一方の探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播した超音波を他方の探触子で受信せしめてTOFD探傷する工程と、
前記第2探触子から超音波を入射させ、前記被検査部を伝播してから戻された超音波をこの第2探触子で受信せしめて端部エコー探傷する工程と、を備え、
クリーピング探傷、TOFD探傷、及び端部エコー探傷のいずれについても、前記超音波として疎密波を使用することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項4】
前記被検査部の同一部位においてクリーピング探傷工程、TOFD探傷工程及び端部エコー探傷工程を同時に実行しつつ、前記第1探触子及び前記第2探触子を被検査部に沿って同時に移動することを特徴とする請求項3に記載の超音波探傷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−285813(P2007−285813A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112290(P2006−112290)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】
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